2002年1月31日木曜日

3_21 層状チャート

 ありふれている堆積岩だけれども、その由来が少し変わったものとして、チャートを取り上げましょう。チャートとはいったどんな堆積岩でしょうか。


 チャートという岩石は、あまり聞きなれない言葉かもしれません。しかし、岩石としては、それほど珍しいものではありません。チャートは、多くの場合、薄い地層として産出します。チャートの地層は、薄いのですが、繰り返して出ることが多くあります。層が繰り返しているチャートは、層状チャートと呼ばれています。層となるためには、チャートとチャートとの間に、別種物質が挟まっているわけです。別種物質とは、厚さはまちまちの「普通の堆積物」です。「普通の堆積物」の多くは、粒の細かい堆積物で、粘土や泥が多く、時には火山灰のことがあります。
 層状チャートは、どのようなでき方をしたのでしょうか。
 チャートを詳しく見ると、まれにですが、1mm程度の丸い形のものが見えることがあります。放散虫(ほうさんちゅう)などの小さな生物の化石です。放散虫は、古い時代(カンブリア紀)から現在(地質学では現世(げんせい)といいます)まで生きている海の微生物です。チャートは、海面付近に住んでいる放散虫などの微生物が死んで、その死骸が沈んで、海底に溜まったものです。
 深海底では、このような微生物が今も溜まっているのです。潜水艇が深く潜った時の映像をご覧になった方も多いと思いますが、そのとき潜水艇のライトに照らされて、雪のように降っているものが、微生物の死骸なのです。まるで雪のようなので、マリンスノーと呼ばれています。
 微生物が、いくら降ってきても、例えば1年間で積もる量は、それほどたいしたことはありません。まして、岩石のように固く詰まったものになると、その厚さは微々たるものです。しかし、地球は、生物には考えれないほど、長い時間をかけてものごとを成します。長い年月をかければ、1年1年の厚さが微々たるものでも、それなりの厚さになります。まさに、「チリも積もれば、地層になる」です。
 チャートが薄い層で産出するといった理由が、これで納得いただけるでしょうか。でも、チャートとチャートの間に挟まれた薄い粘土や火山灰の層は、チャートができるような深海底に、どこから、どうしてもたらされたのでしょうか。
 まず、「普通の堆積岩」は、陸から川の流れによって海に運ばれます。それが、礫岩や砂岩などのでき方です。もちろん、泥岩もその一部として形成されます。しかし、遠洋のチャートが溜まるような場所までくる「普通の堆積物」は、普通にはありません。めったにないことなのです。想像を絶する大洪水などの天変地異と呼んでもいいような土石流によって、ものが海に流れ込んだ時、いつもは行かないところまで「普通の堆積物」が運ばれることがあります。火山灰でも同じような事情で、何百年、何千年に一度の大噴火が起こったとき、普段はいかな所まで、火山灰がもたらされることがあります。これもやはり天変地異というべきものです。
 このような度重なる天変地異が、層状チャートをつくったのです。
 層状チャートの存在は、人類の常識の限界を教えてくれます。何百年、数千年に一度の天変地異は、人類にとっては天変地異ですが、地球の時間スケール(地質学的タイムスケール)でみると、繰り返し起こっているサイクルの中の一つであることがわかります。層状チャートが、古くから新しいものまであることから、「天変地異」は、地球では「普通の堆積物」をつくる営みの一つに過ぎないのです。

2002年1月30日水曜日

1_23 火星起源隕石(その2)(2002年1月30日)

 SNCと呼ばれるグループの隕石は、火星が起源とされています。そんなSNCのなかでも、ALH84001は、とびっきり変り種です。そんな変り種から、とんでもないものが発見されました。そんなとんでもないものを、紹介しましょう。

 ALH84001という隕石は、南極のアラン・ヒルズ(Allan Hills)というところから、1984年に発見された隕石です。名前のALHは場所をあらわし、84は1984年をあらわし、それ以下の3桁の数字は、見つかった順番をあらわしています。ALH84001は、ほとんど斜方輝石だけ(90%以上)からできている隕石でした。ですから、その他のSNCとも、まったく違っていました。あまりに変わった隕石だったので、火星から来たと決定されたのは、発見されてから10年近くたった、1993年のことでした。
 このALH84001は、変わっているのは、それだけではありません。1996年にアメリカの科学雑誌「Science」に、NASAのMcKayらが、ALH84001から、化石を発見したと報告したのです。権威ある科学雑誌に載った報告だったので、大騒ぎになりました。
 かつて、地球以外で生物いるとしたら火星に違いないと、火星に無人探査機を2ヶ所におろして、調べられたことがありました。1976年7月20日にヴァイキング1号の探査艇がクリセ平原に着陸し、1976年9月3日にヴァイキング2号の探査艇がユートピア平原に着陸し、生命の有無を調べる実験をしました。
 その結果は、生物はいないというものでした。ですから、火星には生物がいないという先入観を、多くの研究者がもっていました。
 ところが、化石とはいえ、地球以外に生命がいたという報告があったのです。もしこれが本当なら、地球外生命の存在、あるいは地球外知的生命の存在など、今まで眉唾的に扱われていたことが、一気に真実味を帯びてくることになります。さらに、もしかしたら、火星起源に隕石に乗って、地球に生命が来た可能性だってあります。つまり、地球生命の本家は、火星生物で、地球生命は分家だという可能性だってでてくるのです。
 科学雑誌ですから、厳密な審査の上、掲載されています。真実かどうかわかりませんが、ある論拠、論理が成立しているということです。つまり、科学的に根拠、つまり証拠があると認定されたということです。当然、多くの分野の研究者を巻き込んで、論争が起こりました。
 その根拠は、なんと言っても、「化石」の形態です。写真として、新聞雑誌をにぎわしました。見て、記憶されている方もおられるかもしれません。最先端の科学技術をつかって、微細な部分の化学分析をして、それが証拠としてつけられています。その分析の結果、生物から由来したらしき化合物の破片、生物がつくったような粒や鉱物などがみつかっています。
 この論文に対して、多くの反論が出されました。いちばんの根拠である形ですが、その大きさが問題でした。その形は、イモムシのような形をしていて、生物らしく見えました。その大きさは、じつは、地球生命の最小の生物でも、そこにはDNAが入れられないほど、小さいものでした。また、他の根拠も生物が関与しなくても、つまり無機的、化学的形成されることがわかり、生物の根拠となりえないとされました。
 今のところ、反対の研究者の方が多くは、否定的であります。しかし、これは、多数決で決まることではありません。ですから、いるか、いないかを決着をみるには、さらなる火星探査が必要です。この結論は、すべての科学者が認めていることです。

・訳ありの事情・
火星生物の発見の報告には、いろいろ「訳ありの事情」があるようです。
まず、論文は、8月16日の発売の雑誌だったのですが、
その雑誌が発行される前に、NASAの長官がプレス発表しました。
筆頭の著者が、NASAの研究者でもあり、
全部で9名の連名の論文ですが、内3名はNASAの研究者でした。
内容があまにりのセンセーションナルなこともあったのでしょう。
また、その直後の8月7日のアメリカ大統領再選中のクリントンが
この件について発言したので、マスコミはますます大きく取り扱いました。
でも、NASAとして、予算確保の布石という見方が多いようです。
審査自体は、4月5日に投稿され、7月16日掲載が決定されています。
本当かどうかわかりませんが
この論文は、投稿までかなり時間がかかったということです。
慎重をきするためと、発表時期をうかがっていたという、うわさもあります。
それは、大統領の惑星探査などの科学技術への投資を
大統領選のアピールの一つにするために、
公表の時期がこの頃になったという噂です。
その年の秋には、マースパスファインダーが火星に向かって飛び立っています。
そして、生命は発見できませんでしたが、
多くの注目を浴びる中、安上がりで、効果のある調査ができることを
マースパスファインダーは示しました。
もちろん科学的成果も多く出しました。

・火星起源隕石の数・
前回のメールマガジンで、画像のあるサイトを紹介しませんでした。
http://cass.jsc.nasa.gov/lpi/meteorites/s9612609.gif
にありますので、興味ある方は、覗いてみてください。
前回のマガジンを出したあと、火星起源隕石の数を調べたところ、
現在、38個になっています。
火星起源隕石の詳しい情報は、
http://www-curator.jsc.nasa.gov/curator/antmet/mmc/mmc.htm
にあります。
前回、1999年末で14個あるとしていたのですが、
一気に増加しています。
それは、南極から3個、アメリカ合衆国の砂漠から2個、
そのほかは、すべてアフリカのサハラ砂漠から見つかったものです。
新しく加わったSNCは、
20個がシャーゴッタイトで、4個がナクライトでした。

エイコンドライトは、普通の地面に落ちていると、
地球の岩石と似ているため、
見分けにくく、隕石とわかりません。
でも、砂漠の砂しかないところだと
すぐに隕石とわかります。
ですから、エイコンドライトもたくさん見つかるのでしょう。

・ささやかな一言・
前回から、家族の話題が出ています。
先日、久しぶりに通勤の経路を公園沿い道をとりました。
私は、6時過ぎの自宅を出ますので、
少し前はまだ真っ暗でした。
しかし、先日は、だいぶ明るくなってきていました。
日の出が早くなってきているのです。
季節は、確実に移ろうのです。
人の気持ち、出来事、事情などは、時の移ろいに比べれば、
不確実で、それこそ、移ろいやすいものです。
でも、そんな移ろいやすい人の生活で、確実に、心に刻まれるものも、
実は、心や言葉という限りなく、移ろいやすいものだと感じました。

記憶に刻まれることが、一つ増えたのです。
長男が、寝る前にトイレに行くのに、付き合ったとき、一言いいました。
「お父さん、今日の水族館、面白かったね。」
実は、その日、長男の5歳の誕生日だったので、水族館に家族で行ったのです。
一日の苦労が、そして何ヶ月も苦労が、この一言で、報われた気になりました。
家内も、時々、長男が発する「おかあさんのご飯は、おいしいね」と、
次男の「おいちぃーい」という言葉に、ほろりとしてます。
ささやかな一言に過ぎないのに。

2002年1月24日木曜日

3_20 石灰岩

 堆積岩とは、主には土砂が、陸地から川の作用によって流れ込み、海底に溜まったものです。でも、これがすべての堆積岩のでき方ではありません。今回は、堆積岩でも少し変わったでき方のものを紹介しましょう。


 堆積岩の変り種といってもいろいろありますが、よく見られる岩石にしましょう。それは石灰岩です。誰もが一度は耳にし、目にしたことがあるはずです。そんなありふれた石灰岩ですが、そのでき方は、普通の堆積岩とは少し違っています。
 石灰岩は「産出しない都道府県はない」といわれるほど、ありふれた岩石です。ただし、その規模はさまざまです。四国のカルスト台地や山口の多数の鍾乳洞をもつ秋吉台のような大きなものから、数cm程度の厚さの地層まで、さまざまです。あるいは、海外に目を向けると、中国の石林や桂林など、宇宙から見ても損害が確認できるほどの巨大な石灰岩があります。
 石灰岩は、大部分が方解石という鉱物からできています。方解石は、炭酸カルシウム(CaCO3)という化合物です。小学校の理科の時間に実験をやったと思いますが、方解石に塩酸をかけると二酸化炭素(CO2)がたくさん発生します。かけるものは塩酸でなくても、酸であれば何でもかまいません。台所にある酢(酢酸)でも、ゆっくりとですが、二酸化炭素を発生します。
 石灰岩はよく見ると、化石が見えることがあります。その化石は、サンゴ虫であったり、その他の微生物の破片であったりします。化石は、石灰岩を割った面より、風雨にさらされて風化を受けた面に、よく見えます。それは、雨に含まれる炭酸によって、石灰岩がゆっくりと溶けていくためです。ですから、石材として石灰岩は、建物内部に使うことはあっても、雨の当たる外部に使うことはあまりありません。
 石灰岩の化石の種類を見ていきますと、サンゴ礁をつくっている生物の殻が、その主要なものとなっています。石灰岩によっては、そのような化石の「つくり」が熱や圧力によって方解石に再結晶してしまって、消されていることがよくあります。でも、もともとはサンゴ礁をつくっていた岩石が石灰岩となっているのです。
 サンゴ礁は、今も昔も、暖かい海(熱帯や亜熱帯)でできるものです。それが、現在、温帯にある日本の地層から産します。ではなぜ、暖かい海でできる石灰岩が日本列島にあるのでしょうにあった。その説明として、地球全体が今より暖かかったか、日本列島全体が今より南の暖かい熱帯地方にあったか、日本列島は今の位置にあったが石灰岩だけが南から来たとか、などという可能性が考えられます。日本列島は今の位置にあったが石灰岩だけが南から来た、と考えられています。それは、日本列島はかつてはユーラシア大陸にくっついていた(昔は日本海はなかった)こと、他の地層には寒いところにいた化石がある、石灰岩を含む地層は日本列島にのし上げてられている、などの地質学の多くの証拠から確かめられています。つまり、石灰岩は、南から移動してにて、日本列島にくっついたということになります。
 南の海でできた石灰岩が、日本列島の地層の至るところに含まれてといるということは、日本列島は、常に南の海で溜まった岩石が移動して、のし上げられるような「場」にあったということを物語ります。
 そのような作用を起こしたのが、プレートテクトニクスと呼ばれるものです。日本列島の地層は、南の海から集められた地層が、火山や断層によって乱され、さらに地下深部ではマグマが活動して、変成岩をつくったりされるような「場」なのです。まるで、寄木細工の模様のように、複雑ですが、地質学者から見ればきれいな模様をつくっているのです。

2002年1月23日水曜日

1_22 火星起源隕石(その1)(2002年1月23日)

 隕石には、変り種があります。それは、他の惑星から飛んできたものです。なぜ、他の惑星から飛んで来たなんてわかるのでしょうか。科学者の間でも議論がありました。そんな変り種の隕石を紹介しましょう。

 隕石の種類には、石からできた隕石、鉄からできた鉄隕石、石と鉄からできた石鉄隕石があるといいました。そして、石質隕石には、コンドリュールと呼ばれる丸いつぶつぶがあるコンドライトと、つぶつぶのないエイコンドライトがありました。そして、エイコンドライトは、今は亡き、微惑星の破片だといました。
 エイコンドライトには、数は少ないのですが、変わったものが含まれています。それは、SNCというグループ名のついたものです。SNCとは、あるグループを構成する隕石の頭文字をとって、エイコンドライトをさらに細分する名称としたものです。
 そのグループのSとは、シャーゴッタイト(shergottite)の頭文字です。シャゴッティ(Shergotty)と呼ばれる隕石がその代表です。ザガミ(Zagami)、南極やリビアで見つかった隕石もあり、今のところ、全部で9つあります。
 Nは、ナクライト(nakhlite)の頭文字で、ナクラ(Nakhla)がその代表的隕石です。このタイプは、ナクラのほかに、ラファイェット(Lafayette)、ゴベルナドール・ヴァラダレス(Governador Valadares)の合計3個しか見つかっていません。
 Cは、シャシナイト(chassignite)とよばれ、シャッシーニ(Chassigny)が、その代表で、なおかつ唯一ものです。
 このSNCをあわせて一つのグループと考えて扱われています。
 シャーゴッタイトにありましたが、20世紀後半には南極から大量の隕石が見つかりました。その中には、珍しい種類ものもたくさん含まれていました。多分、最近も新しい隕石が、見つかっていると思います。
 近年、アフリカやアラビア半島などの砂漠地帯で大量の隕石が見つかっています。その中にもSNC隕石がいくつか見つかっています。私の古い情報(1999年当時)でも、シャーゴッタイトが2個みつかっています。
 SNCとは違ったタイプの隕石なのですが、SNCの仲間だと考えられる隕石が、南極から見つかっています。それは、ALH84001と呼ばれているものです。この種類は、1個しかありません。
 以上、SNCは、合計で14個になっています。多分、その後も、隕石が発見されているので、SNCは増えていると思います。
 さて、SNCが他の隕石と区別して独立したグループとされていたのは、際立った特徴があったからです。そのひとつとして、他の隕石は見られない鉱物として、角閃石や磁鉄鉱を含んでいたことでした。これは、地球の岩石には普通に見られる特徴なのですが、多くの隕石ではみられない特徴でした。ですから、SNCは変わっていると考えられたのです。
 角閃石という鉱物は、水酸基(OHという部分を結晶の中に含む)をもっています。水酸基をもつ鉱物は、水のあるとことでしか形成されません。つまり、SNCは水がある「微惑星」でできたのです。
 ところが、水を持つ微惑星とは、実は小さくてはだめなのです。ある程度大きな惑星でないと、液体の水はできないのです。なぜなら、惑星の形成初期は、微惑星同士の衝突や合体が激しく、惑星の表面はかなり高温になっていました。ですから、H2Oはすべて気体の状態でしか存在しなかったはずなのです。H2Oが液体になるのは、惑星が冷めた状態、つまり微惑星の衝突が落ち着いた頃でないとなりません。その頃まで生き延びた惑星は、現在存在する惑星だけなのです。現在存在する惑星で水が「ある」、あるいは「あった」のは、地球と火星だけです。ということから、SNCは火星から飛び出して来たのではないかと、考えられたのです。
 1970年代末に、研究者はSNCが火星起源ではないかと考えるようになっていました。そして、1980年代に論争が起こり、1984年には火星起源隕石であるということで決着しました。
 火星起源の証拠は、角閃石だけではありません。そのほかにも、いくつもの証拠が挙げられました。
 形成された年代が13億から1.8億年前の若い年代であること、ガスの成分がバイキング1号、2号が調べた火星のものと一致すること、重力の大きい場所でできた岩石のつくり(組織)を持っていること、などなどいろいろな証拠が挙げられています。
 このようなことから、SNCは、火星から来たされたのです。実は、SNCにまつわる話には、もっと面白ことがあるのですが、長くなりました。次回にしましょう。

・隕石探し・
砂漠での隕石探し。
それは、地球上で隕石探しには、効率的な場所に違いありません。
なぜなら、砂しかない中に、石ころがあれば、
それが隕石であると容易に認定できるからです。
また、砂漠は、それまで、隕石など探す人がいませんでした。
大量の隕石が、砂漠地帯から見つかりつつあります。
1999年末現在で、
リビアから853個、
アルジェリアから450個、
サハラ砂漠から207個、
の隕石が発見されています。
そして、それが商品として出回っています。
しかし、なんといっても南極が最大の産地です。
それは、氷の中にあれば隕石であると簡単に認定できることと、
氷の移動に昇華(蒸発して気化すること)によって、
隕石が集積する機構があるからです。
南極から、総数17,508個の隕石が発見されています。
今まで見つかっている隕石22,507個のうち、
78%は南極から見つかっているのです。
これは、商品としては出回っていません。

・親として・
前回のマガジンに対して、高校(定時制と全日制)の先生をなされている
Niiさんから、親としての感想を述べられたメールをいただきました。
それに対して、私は以下のメールを書きました。

「定時制は、教員も生徒も大変ですね。
でも、ひとりでも、まじめに、熱心に聞いてくれる生徒がいると、
その講義はやる価値があると思います。
私のメールマガジンも、
まじめな購読者がいるはず
という信念のもとに成り立っています。
そうでなければ、報われません。
実際の講義の強みは、
その教師の熱意が生徒に伝わり、生徒の熱意が教師に伝わるという点です。
インターネットでは、これが、直ではなく、タイムラグがあります。
ですから、お互い信じているしかないのです。

自分の子供の場合、親は、ついつい
子供のためという自己弁護のものとに
親として責任、親の理想、などという荷物を、
こどもに背負わせています。
もっと、親は、子供を、ただ、Niiさんのおっしゃるように
『後ろから応援する』
『子どもは親とは違う人格をもった他者であるんだなー』
という立場に立つのがいちばんなのかもしれません。
でも、親として、ついつい・・・」

2002年1月16日水曜日

1_21 エイコンドライト(2002年1月16日)

 私の引き出しの中には、3種類の隕石が入っています。そのうち一個が、エイコンドライトというタイプで、ユークライトとよばれる種類に分類されるものです。今回は、このエイコンドライトという種類の隕石についてみていきましょう。

 隕石には、石からできた石質隕石、鉄からできた鉄隕石、石と鉄からできた石鉄隕石があります。石質隕石には、丸いつぶつぶのコンドリュールというものがみられるコンドライトと、コンドリュールのみられないエイコンドライトがあります。
 隕石は、種類ごとに、それぞれ複雑な経歴があります。なかでも、エイコンドライトは、複雑な経歴を持っています。
 エイコンドライトは、コンドリュールという太陽系で最初にできた固体物質が、見えないものです。エイコンドライトに、コンドリュールがみえないということは、コンドリュールがもともとなかったか、なにかの原因でコンドリュールが消されたのか、のどちからになります。
 現在の太陽系形成モデルのなかでは、すべての固体物質は、小さな粒からスタートします。小さい粒は、太陽系の成分、つまり宇宙の平均的な素材では、コンドリュールと氷(H2Oの固体)です。太陽に近いところ(小惑星帯より内側)では、H2Oは水蒸気になるので、石の成分だけが、固体物質となります。
 原始的な隕石は、すべて、コンドリュールを、もともともっていたと考えられます。では、エイコンドライトは、どのような作用でコンドリュールが消えたのでしょうか。それは、やはり太陽系形成のモデルと、密接な関係があるのです。
 太陽系の惑星形成の物語は、小さな固体物質からスタートします。小さな固体物質は、コンドリュールが集まったコンドライトとよばれるものばかりでした。コンドライトは、太陽の周りを回っています。あるものは、衝突し、あるものは、弾き飛ばされ、軌道を変えてしまいます。
 偶然大きくなった隕石ができると、その隕石は、回りや同じ軌道付近の小さな隕石たちを集めはじめます。すると、すごい勢いで、その偶然選ばれた隕石は成長していきます。このような成長は、暴走成長と呼ばれています。
 選ばれた隕石は、暴走成長によって、やがて小さな惑星といえるものまでなってきます。このような小さな惑星とよべるものを、微惑星といいます。
 微惑星では、まだまだ衝突が続きます。その衝突の際に発生するエネルギーで、微惑星は溶けていきます。
 このような微惑星では、コンドライトに含まれていた成分は、その物理的、化学的性質によって、分化していきます。その原理は、単純です。温度が上がると溶けやすいものが溶け、ぬけやすいものがぬけるという原理です。さらに、重いものは下、つまり惑星の中側、軽いものは上、惑星では外側と、いう原理です。そのような原理に基づいて、コンドライトに含まれている鉄の成分は、微惑星の中心部に落ち、気体になりやすい成分(二酸化炭素、水、窒素の成分は、微惑星のいちばん外側にぬけていきます。それぞれ、核であり、大気であるわけです。
 微惑星は、コンドライトのたんに集積したものではなく、一つの星というべき別の道を歩みだしたのです。こんな星では、石の成分も、分化したもの、つまり溶けやすいものが溶け、抜けやすいものが抜けたものとなります。もはや、コンドリュールはなくなってしまっているのです。
 さて、いくつかの選ばれた微惑星ですが、まだまだ過酷な運命が待ち受けています。さらに選別が起こるのです。軌道には、選ばれたもの、一つだけしか残れないのです。そして、その選ばれしものが、今の惑星たちです。そして、かろうじて吸収、あるいは衝突・合体を免れた微惑星のいくつかが、惑星の衛星としてかろうじて残っされているにすぎません。
 エイコンドライトは、今は亡き、微惑星の破片なのです。そして、このようなエイコンドライトから、惑星の形成のプロセスを探ることができるのです。

・隕石シリーズ・
隕石シリーズが、再開です。
少し間が開いてしまいましたが、こりずに、また続けていきます。
今回は、私の机の中にある、2番目の隕石に焦点をあてました。
隕石を書くときは、注意が必要です。
変換ミスや誤字をよくやらかします。
注意しなければなりません。
今回こそは、ミスがなければいいのですが。

・成人・
巷には、成人式のニュースが流れています。
そのニュースの多くは、
新成人たちが暴れたとか、騒ぎをおこしたというものが多いようです。
その、ニュースを聞いて、ふと、考えました。

報道と実態。
実態として、そのような暴動があったはずです。
でも、普通の新成人がいなかったのでしょうか。
ニュースになりにくいから、普通の新成人のあつかわれることが
少なかったのではないでしょうか。
報道の視点が、そのようにゆがんでは、ないでしょうか。

学生運動と暴走。
報道の姿勢だけでなく、青年たちの行動には、
背景は違いますが、なにか通じるものを感じるのは、私だけでしょうか。
個々の主張ではなく、
成人という世代が、なにかをしたい、何かを訴えたい、
のではないでしょうか。

時代は移ろい、そして人も変化します。
昔のままの、自分たちの成人式と同じような新成人たちを
「大人」たちは、期待しているのでしょうか。
あるいは、みんながみんは、優等生であることを期待しているのでしょうか。
いつの時代にも、優等生も、普通の人も、
そして目立つことを身上として暴れる人もいたはずです。
どう見るか、どう報道するか、どう捉えるか、
そんな時代の本質。
移ろわないものと、移ろうものを、見つめない、
画一化した、似たような視点での報道のほうが
恐ろしいことではないでしょうか。

・子育て・
上の成人式と通じるところがあるのですが、
子育てをしていると、つくづく思います。
子供というのは、思い通りならないものだと。
こんな子供に学ぶべきことは、
親の気持ちとは裏腹に、子供は、
さまざまに変動しているということです。
そして、親は、そんな変動を目の当たりにすると、
自分の理想の子供像、子育て論など、
所詮理想にすぎないことを思い知らされます。
時代、環境、親、そして子供自身の個性など、
すべてが複雑に融合して、子供は成長していきます。
それは、子供だけのせいだけでもないし、親のせいだけでもないし、
環境のせいだけでもないし、時代のせいだけでもありません。
子供のせいでもあり、親のせいでもあり、
環境のせいでもあり、時代のせいでもあるのです。
その全体のせいなのです。
そして、できあがった成人には、多様性が生まれていくのです。
それは、親の理想で、決まるものではないのです。

2002年1月15日火曜日

5_14 岩石の分類の仕方

 石のいろいろの話を連続的にしようとしています。そこで、今回は、その基礎の部分にあたる石の分類方法について考えていきましょう。

 石には、いろいろなものがあり、分類されて、名前が付けられています。でも、石の名前は、実は人為的な分類名なのです。ですから、生物の名前のつけ方とは、少し違っています。
 動物や植物などの生物では、種の区別がまずあり、それに基づいて分類され、今までに見つかったことがないものなら新種として名前が付けられています。ところが石(石も岩石も似ていますが、専門的には岩石といいます。以下では岩石といいます)では、生物の種のような厳密な分類基準はありません。多くの場合、分類の境界は漸移的で、人がここに線を引いて、「この線よりこちらはこういう名前、あちらはああいう名前」と決めることになります。あるいは、研究者が定義すれば、いくらでも分類名ができます。かつては、岩石の名前だけを記録した、分厚い3冊に及ぶ事典があったほどです。
 分類基準が曖昧だとはいえ、でたらめに名前を付けるわけにいきません。ある基準で線を引いて名前を付けます。その基準として、岩石の起源、組織、化学成分を利用します。
 岩石を分類するために一番重要な情報は、その起源です。起源とは、その岩石がどうしてできたかということです。大きく分けると、堆積岩、火成岩、変成岩の3つに分けることができます。堆積岩は土砂が海底で溜まってできたもの、火成岩はマグマが固まったもの、変成岩は既存の岩石が熱や圧力で別の岩石に変わってしまったものです。この3つの分類はどんなに見かけが似ていても区分できるはずです。
 境界は、実は曖昧です。マグマからできているのですが、火山灰のように堆積岩にもなりうるものがありますし、変成岩でも変性の程度が低ければ、もとの火成岩や堆積岩の性質を色濃く残しています。ですから、どこかでエイヤと境界線を引く場合がでてきます。でも、起源による分類では、あまりに分類数が少なすぎます。
 起源に次いで重要なのは、組織です。組織とは、岩石の中に見られる模様やつくりです。組織は、岩石を構成している、構成物(結晶や砂粒)の種類の違い、構成物の量の違い、構成物の大きさの違い、構成物の形の違いなどによってつくられます。このような違いは、岩石の分類をするときの重要な情報です。しかし、組織を見分けるには経験が必要となります。岩石ごとに一つとして同じものがないし、景色のように似ているところがあっても、どこかに違いがあります。見れば見るほど岩石の個性が見てきます。
 組織の情報が読みとれると、堆積岩の砂粒が、どんなところからもたらされ、どんなところに溜まったのか読み取ることができます。火成岩が、どのようなマグマから、どのいう順番で結晶ができ始め、どのような固まり方をしたのかが読み取ることができます。変成岩が、どのような岩石から、どのような温度圧力条件で形成されたのか読み取れます。
 組織に基づく分類は必要ですが、あまり詳しいものにすると、大量の分類名ができるため、ほどほどにしておく必要があります。それに、経験ではなく、もっと客観的に誰でも付けられる分類法が必要です。
 化学組成に基づく分類は、非常に客観的な分類方法です。化学成分とは、岩石にどのような元素が、どれだけ含まれているかを比率で示したものです。このような化学組成は化学分析で求めます。化学分析で正確な組成を求める方法は、定量分析といいます。定量分析値は、同じ岩石を使えば、誰がおこなっても同じデータを求めることができます。ですから定量値に基づいて岩石の名前を決めておけば、誰でも同じ名前を付けることができますし、万国共通の名前となります。
 以上のような情報を、うまく組み合わせて分類して、名前を付けることができると、より岩石の分類は客観性を増します。でも、詳しく見れば見るほど、岩石ごとの共通性と相違が見つけることができます。それは、自然をよりよく見ることに繋がります。共通化によって個々の個性を消してしまうことはよくありません。その辺の兼ね合いに研究者の個性も出ます。

2002年1月10日木曜日

3_19 堆積岩

 岩石には、堆積岩、火成岩、変成岩の3種類があります。堆積岩は、私たちが一番良く目にする石です。今回は、土砂が海にたまって、固まった堆積岩についてみていきましょう。


 大地はどんな石でできているのか、と聞くと「土」と答える人が、結構多くいます。彼らあるいは彼女らも、学校では、岩石の種類やそのできかたを習っています。なのに「土から大地ができている」と答えるのは、なぜでしょうか。学校で習ったことを忘れているだけでなく、常識的には、目にするものが、土が一番多いからなのです。
 では、少し考えてみましょう。私たち日本人にとっては、土が大地を覆っています。ですから、土が大地をつくっていると答えます。では、砂漠に住んでいる人は砂が大地をつくっていると答え、氷の国に住む人は氷、ツンドラ地帯に住む人はコケ(地衣類)、などと答えるでしょう。地域によって答えは違ってきます。
 では、すべての人が納得する、大地をつくるものとは、何でしょうか。そのような地域によって変わるものを排除していくと残るもの、あるいは出て来るものが、真に大地を作るものです。
 答えは、岩石となります。これは大陸だけでなく、海洋底も同じです。つまり、地球の表層の大部分は、岩石でできています。土砂が固まり、層をなしているものを地層といいます。地層も岩石からできているのですが、地層をつくる石が堆積岩なのです。
 堆積岩は、一般的には陸地が削られて運ばれてきた土砂が、海底にたまり固まったのです。ですから、土砂はもともと大陸を構成していた石が壊れたものです。その石の種類には、堆積岩、火成岩、変成岩の3種類があります。このうち、今回は、堆積岩について、説明しましょう。
 堆積岩には、どのようなものがあるでしょうか。つまり、堆積岩の分類です。堆積岩は、石のカケラが集まったものですから、カケラの大きさが一つの基準となります。大きなものは礫(レキ)岩、小さなものは泥岩、その間が砂岩と呼ばれています。礫岩、砂岩、泥岩は、カケラの大きさによって、さらに細かく分けられています。
 もう一つの分類の基準として、堆積岩の構成物の種類に注目する方法です。堆積岩は詳しく見ると、石のカケラ(岩片(がんぺん)といいます)だけでなく、石を構成する結晶のカケラ(結晶片といいます)になっているものと、岩片や結晶片の間を埋めている地の部分(基質(きしつ)やマトリックスといいます)があります。その岩片、結晶片、基質の量比によって区分できます。
 ここまで述べてきたのは、ごく一般的な堆積岩の分類です。しかし、堆積岩に分類される岩石のすべてを網羅したわけではありません。一般的な堆積岩のでき方でなく、変わったでき方の堆積岩もあります。いくつか見ていきましょう。
 火山が噴出した火山灰やマグマが飛び散ってできた火山砕屑岩があります。関東ロームはこのようにしてできたものです。生物が形成した堆積岩があります。サンゴ礁が固まると石灰岩になります。海の微生物の死骸が、マリンスノウとして降り、深海底にたまり、固まるとチャートになります。また化学的な作用によってできる堆積岩もあります。海が乾上がって水以外の塩などの成分が固まってできた岩塩、熱帯の土壌が固まったボーキサイトなど、があります。
 このように、堆積岩にもさまざまなものがあります。基本的に堆積岩は水が運んできた土砂が海でたまったものですから、その中に生物が遺骸や遺体が入っていることがよくあります。そのうちのいくつかは化石となり、そのうちのごく一部が人に見つけられ、その一部が地質学者の手にわたります。堆積岩は化石を含むことは、非常に重要な特徴かも知れません。化石は、堆積岩の本体ではなくて、含有物で付随物のようなものですが、実は重要な情報をもたらしたのです。

2002年1月1日火曜日

3_18 富士山:成層火山

 日本の象徴として、富士山がよく使われます。そして、それを受け入れさせるほどの、美しさを持ち、感動を与えます。つくづく、日本人は、富士山が好きなのだなあ、と思います。


 冬晴れの青空を背景にした雪化粧をした富士山、新緑に映え巣富士、赤富士、海越しにみる富士、どれも非常にすばらしく、正月番組やカレンダーの写真などにもよく利用されます。かつては、あるいは現在も、崇拝の対象として、宗教的な意味も見出されています。
 富士山の形が美しいのは、その起源によります。富士山の起源は、火山です。現在は活動を休んでいますが、まだ活動する可能性がある火山です。
 火山は、マグマの性質や活動頻度、量によって火山の形が違ってきます。富士山は、一つの火山の噴出口から何度も噴火をした火山です。富士山は、成層(せいそう)火山と呼ばれています。富士山の火山の断面をもし見ることができれば、何層もの溶岩や火山噴出物の層からできていることがわかります。さらに、富士山の下部には、古富士火山、さらに下部には小御岳(こみたけ)火山などが隠されています。つまり、富士山も一日にしてならず、です。
 その火山の歴史の概略は、以下の通りです。
 最初の火山活動は、第四紀中期の小御岳火山が始まりです。溶岩を主体とする火山噴出物から構成されています。続いて約8万年前に、小御岳火山の南側斜面から古富士火山の活動が始まります。玄武岩のマグマによる火山灰(正式には降下テフラといいます)を何度も噴出しました。この火山灰は南関東地方に降り積もり、ローム層の一部(立川ローム層)となっています。古富士火山の終わり頃には、火山灰の噴出、火砕流、山体崩壊、溶岩の流出を繰り返します。約1万年前には、溶岩を中心とする火山活動の現在の富士火山(新富士火山と呼びます)の活動となります。最近の宝永4年(1707年)の噴火では、南東斜面の宝永火口から大量の軽石とスコリアの噴出があり、南関東一円に火山灰を降らせました。そして、去年は富士山の山体下部で、地震が頻発し、一時噴火の危険も指摘されましたが、現在では小康状態となっています。そして、今や、富士山は、3775mの標高を持つ、日本一の山となったのです。
 日本列島には、多くの火山があります。しかし、富士山のようにきれいで大きな成層火山は、それほど多くありません。各地で○○富士とよばれる火山は、小規模な成層火山や、一度の噴火でできた単成火山であることが多いようです。その理由は、大きな成層火山は、火山の成長の1段階に過ぎないからです。
 火山の一生は、短いものは火山噴火が一度起こった後、終了するものから、数十万年の活動期間を持つものまであります。一度の活動で終わった単成火山は、伊豆の大室山など火山です。長い活動期間の火山は、成層火山形成後、火山体が陥没(かんぼつ)して、カルデラをつくり、中央で小さな火山丘をいくつかつくって終わります。
 富士山は成層火山の形成直後の火山です。大島はカルデラ形成中の火山です。箱根は中央火口丘を形成し、火山活動の末期に達した火山です。火山にもそれぞれの履歴があるのです。そして、やがては、その一生を終えていきます。富士山はまだ、壮年時代の火山でした。