2023年10月26日木曜日

2_208 生命誕生の条件 3:多様な合成条件

 ハビタブルゾーンからハビタブルトリニティは、生命誕生の条件をより限定していくものでした。しかし、ハビタブルトリニティは、生命誕生のための必要条件にすぎず、もっと多くの条件が必要になります。


 ハビタブルトリニティとして、海の存在だけでは生命は誕生できず、大陸や大気も必要になることを示していました。ハビタブルトリニティとは、生命の材料を供給していく場を考えたとき、必要条件になります。しかし、それだけでは足りません。生命の材料から前駆物質をつくるには、物質が流動、循環していなければなりません。そのためにはエネルギーも必要になります。さらに、いろいろな反応が起こし、進めるには、化学的条件も必要です。そのような各種の条件が整っている必要があります。
 生物の前駆物質がどのような化学反応でできてきたのかを検討するために、実験室でその物質を合成していく研究分野があります。材料となる物質から目的の化合物を、自然界にありそうな条件で合成していきます。その時、個々の化合物を合成のために、多様な条件が必要になることがわかってきました。Kitadai and Maruyama(2018)によると、次の8つの反応のための条件が、必要だとわかってきました。
 還元気相、アルカリ性pH、凍結温度、淡水、乾燥/乾燥-湿性サイクル、高エネルギー反応との結合、水中での加熱-冷却サイクル、そして生命の構成要素と反応性栄養素の地球外から流入、の8つの条件です。反応によって、これらの条件がいくつか組み合わせが必要になることがもあります。
 例えば、ヌクレオチドからオリゴヌクレオチドを合成するには、アルカリ性pH、水中での加熱-冷却サイクル、高エネルギー反応との結合、凍結温度などの条件が必要になります。
 生命誕生の場では、それぞれの反応で、必要な条件を満たさなければなりません。複雑で多様な合成の環境がなければなりません。いずれの環境でも、大きなエネルギーが与えられて有機物ができたとしても、100℃以上の高温になると分解されていきます。そのため、エネルギーを与えながら、できた有機物は高温にされない状態にしなければいけません。
 生命誕生の場として、これまで深海の中央海嶺の熱水噴出孔が有力でしたが、エネルギーが足りなさうです。火山地帯や干潟なども考えられていました。いずれも単独の場所では、生命の前駆物質となる多様な化合物はできそうもありません。材料となる必要な化合物が必要な時に、それぞれの環境に供給されなければなりません。
 必要な多様な条件の場に、必要な材料物質が、次々に供給されていかなければなりません。このような条件を考える、生命の前駆物質を実験室のようにつるくことは非常に難しいものです。そのためは、多様な条件の環境が近接して多数あり、お互いに物質のやり取りが頻繁におこなわれ、試行錯誤が無数に繰り返されている必要があります。そんな場は都合のいい誕生の場とはどんなところでしょうか。

・短い秋・
北海道は10月になってから、
北海道は一気に秋が深まりました。
紅葉も進んでいます。
通勤の道すがら見える山並みでも
冠雪が何度も起こっています。
今週末には峠越えをして、調査でかけます。
来月にも調査を予定しているのですが、
今年は秋が短そうです。

・日常へと・
サバティカルから戻ってきて
すぐは戸惑っていましたが、
大学での日常にもだいぶ慣れてきました。
講義も1月あまり進んだので、
講義のための感覚も体力も
やっと戻ってきたようです。
一日3講ある日は、さすがに疲れます。
そんな疲れる日も
日常へとなってきつつあります。

2023年10月19日木曜日

2_207 生命誕生の条件 2:ハビタブルトリニティ

 ハビタブルゾーンは天体での水の存在だけを考えていました。それに比べて、ハビタブルトリニティは、より条件を加えることで、生命誕生の場や環境を限定していく考え方です。


 前回、生命誕生には、ハビタブルゾーンだけでなく、ハビタブルトリニティの考えが必要だという話をしました。では、ハビタブルトリニティとは、どのようなものを指すのでしょうか。みていきましょう。
 生命誕生には、液体のH2O、水(海洋)は必要不可欠ですが、量も考慮しなければなりません。水の量が多ければ、天体の表層がすべて海洋となります。また、水が少ないと、海が小さく点在したり、満ち引きが激しかったり、時には干上がったりすることもあるでしょう。生命誕生には、安定した海洋がなければなりません。
 生命の材料は、水の中で合成され、育まれていくと考えられます。そのため、安定した海は不可欠です。しかし、水だけが、生命誕生の十分条件ではありません。他にも必要な要素があります。ハビタブルトリニティでは、大気と大陸(大きな陸地)も必要だと考えました。
 生命を構成している元素をみていくと、多い順に、炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)の4元素で96%に達するので、主要成分となります。酸素と水素は、海洋から供給されます。それ以外の炭素と窒素は大気から供給できます。しかし、量は少ないですが、生命に成分として、イオウ(S)、リン(P)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)の順になっています。これらの元素を合わせて99%を占めます。
 リン(P)、カリウム(K)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)などは、大陸の形成している花崗岩がもっている成分で、大気の風化作用や河川の浸食、運搬作用で海へと持ち込まれます。花崗岩は、大陸地殻を構成する岩石です。生命の材料の供給源として、大きな大陸地殻がなければなりません。
 ハビタブルトリニティとして、海洋、大気、大陸が必要となります。これらの三者が共存しながら、常に物質が流動し、循環していなければなりません。循環にはエネルギーが必要です。太陽エネルギーが、地球表層の水の循環をさせています。水の循環だけでなく、物質を合成するエネルギーが必要になりますが、それは太陽光だけでな足りなさそうです。
 それについては、次回としましょう。

・道内の調査・
先週末から野外調査にでていました。
研究計画に北海道に3回の調査を予定していました。
実施のための費用には問題はありません。
ただ、時期が問題となります。
9月までサバティカルで四国の調査をしてました。
北海道では、すでに初雪のニュースはありました。
雪がありそうな峠越えをするりなら、
冬タイヤに交換しなければなりません。
そのため、雪が降りそうな峠道を
10月に終わらせて、
最後は雪の少ない道南にいくことにしました。

・気持ちも体も・
講義のある日々も2週目となりました。
だいぶ、講義への感覚が戻ってきました。
気持ちの上では、だいぶ慣れてきました。
講義や会議にでてという日常で1週間を過ごすと
週末にはぐったりと疲れてしまいます。
しかし、これも日常だったはずです。
気持ちだけでなく、
体も順応していかなければなりませんね。

2023年10月12日木曜日

2_206 生命誕生の条件 1:ハビタブルゾーンの先へ

 今回のシリーズでは、進展してきた冥王代の研究と、それに伴って生命誕生でも新たな展開が起こってきました。生命誕生に関する話題をいくつか取り上げて、紹介していきます。


 地球での生命誕生のための条件やシナリオについて考えています。ここ20年ほど、地球最初の時代、冥王代(45.6億から38億年前)の研究で、進展がありました。その中には、生命誕生に関する成果も多く含まれていました。その成果は、冥王代や生命誕生に関する画期的なブレークスルーになるような大発見ではなく、新たなアイディアや地道な研究の進展の積み上げによるものでした。
 このシリーズでは、地球生命の誕生についてみてきます。そのきっかけにはいくつかものがありますが、多数の系外惑星の発見があります。系外惑星とは、太陽系ではない、もっと多くの恒星の周りを回っている惑星のことです。系外惑星探査専用の衛星も2機目となり、多数の惑星が発見されてきました。
 系外惑星の多様性は、重要な情報源、そして束縛条件となっています。系外惑星の多様性を説明するには、これまでの太陽系形成の標準モデルへの修正が必要になりました。
 系外惑星における生命誕生への束縛条件も、実際の観測からその頻度もわかってきました。系外惑星で、生命誕生の可能性を探す時、「ハビタブルゾーン」がキーワードになっています。ハビタブルゾーンとは、「生存可能領域」とも呼ばれ、生命が誕生し、生存している可能性がある領域のことです。ハビタブルゾーンとは、その天体に水が恒常的に存在しうるかどうかを、天文学的観測によって推定していきます。
 系外惑星におけるハビタブルゾーンをもっており、地球に似た惑星いまのところ数はかなり少なくなっています。そこには、正確な統計とはなりにくいバイアスがあります。
 遠くの恒星系で、恒星の近くある小さな惑星は、発見しづらいものです。観測している地球から見て、公転面が水平になっているものが、発見されやすくなります。恒星の比較的近の軌道に位置し、小さく、薄い大気と岩石の表層をもった惑星に、ハビタブルゾーンがあります。そのような惑星が発見できる条件を考えると、大きなガス惑星と比べると見つけにくくなっているはずです。それがバイアスとなっている考えられます。
 ハビタブルゾーンでいう水の存在は重要ですが、生命が誕生するには、水だけでは足りません。生命の材料として、水(H2O)だけでなく、各種の成分(例えば、炭素、リン、カリウムなど)が必要で、さらに元素から生命の材料を合成するための場(環境)やメカニズム(エネルギー)も必要になります。ハビタブルゾーンだけにでは生命は誕生できず、重要な条件も加味しなければなりません。それをドームと丸山さん(Dohm and Maruyama, 2015)は、ハビタブルトリニティ(Habitable Trinity)と呼びました。
 生命が誕生できる(ハビタブル)条件として、3つ(トリニティ)が必要だとしました。その詳細は次回としましょう。

・1週間の疲れ・
9月30日にも半年ぶりに帰宅してきて、
早1週間がたちました。
月曜日から金曜日まで、次々と
講義と準備、実施、会議、打ち合わせ、
土曜日にも校務がありました。
10月1日から毎日休みなく大学にきています。
毎日大学に来るのは、いつものことなので
大変さは感じません。
半年間、西予では片道2kmほどは歩いていたのですが
あとは温水プールでの水泳でした。
戻ってすぐに片道4kmを、毎日朝夕、
往復を歩くことになりました。
大学の日常に戻るのに1週間で十分でしたが、
長い距離を歩くのが久しぶりなので、
体力を思った以上に使っているようです。
週末にはぐったりしています。
これは体が慣れるまで、続けることでしょう。
ぐっすり寝て休養することしかありませんね。

・休講と遠隔・
サバティカルの最中の9月下旬からから、
大学では講義がはじまっていたので
1回しか開講しないものは休講として
2回開講するのは遠隔授業としました。
すべて遠隔授業だけなら対処してきたのですが、
一部、それも最初の2回の講義が
遠隔授業での実施はつらいものがあります。
学生の前提もバラバラなので
1、2回目の講義の要約をしなければ進めません。
それに時間を取られます。
まあ、仕方がありませんが、
各講義でできるだけ補うしかありません。

2023年10月5日木曜日

EarthEssay 4_180 西予紀行 7:四国西ジオパーク

 EarthEssay
4_180 西予紀行 7:四国西ジオパーク
を発行しました。

四国西予ジオミュージアムは、
西予市でも奥まった城川にあります。
なぜ、このような奥まった地にあるのでしょうか。
シリーズの最終回として、
ジオパークの精神にもとづいて考えていきましょう。