2023年11月30日木曜日

2_213 生命誕生の条件 8:天然の原子炉

 冥王代には、天然の原子炉が、たくさん存在していたと考えられるようになってきました。地球の材料や、表層の初期環境から、存在していた可能性が高かったようです。


 生命の材料や前駆物質の合成には、大きなエネルギーが継続的に供給されなければなりませんでした。冥王代の地球に、普通にあったもので、供給されなければなりません。
 従来のモデルでは中央海嶺の熱水噴出孔が生命の誕生の場でしたが、そこではエネルギーは足りませんでした。また、火山のマグマに由来する熱のエネルギーでは、できた化合物を速やかに、高温から低温の場に移動するメカニズムが必要なります。合成の繰り返しが必要ですが、地下水として循環しても、再度、高温になるで有機物は分解されてしまいます。
 そこで提案されたのが、天然の原子炉で合成するモデルでした。天然の原子炉というのは非常に唐突なものに思えます。天然の原子炉とは、どのようなものでしょうか。原子炉とはその名の通り、ウランの核分裂によって、高エネルギーを発するものです。
 天然の原子炉が存在する可能性は、1956年に指摘されていました。アフリカのガボン共和国のオクロにウラン鉱山がありました。産出する鉱石のウラン同位体組成に不思議な値をもったものが見つかりました。それは、核分裂を起こした結果だと、1972年に報告されました。理論と自然界で見つかった証拠から、天然の原子炉があったことが明らかになりました。
 シナリオは、次のようなものでした。20億年前は酸素が急増した時期でした。酸素が多くなると、水にウランが溶けて運ばれ、岩石中に濃集していき、鉱床ができます。ウラン濃集すると、核分裂が起こる条件に達します。地下水があると減速材となり核分裂が進みます。熱で水がなくなると反応が停止します。鉱床が冷えて、再度水が加わってくると、また核分裂が起こります。計算では30分の核分裂、その後2時間30分は休止というサイクルになったようです。
 でも、証拠は20億年前に一箇所だけ見つかっているだけで、冥王代に多数あったかどうかは不明です。本当にあったのでしょうか。
 太陽系の材料になった元素は、一つ前の恒星の超新星爆発で形成されたものです。ウランはその材料にあったものです。放射壊変は時間とともに進むので、放射性元素ウランは、冥王代がもっとも多くあったことになります。
 水のない冥王代に存在したマグマオーシャンや初期地殻の火成作用では、ウランはマグマの残液に濃集しやすく、ウランの多い鉱物として表層にあっていたと考えられます。また後期重爆撃の時に落下した隕鉄にもウラン鉱物が含まれています。後期重爆撃で冥王代の地球表層に水が供給されるとで、ウランの多い堆積物ができ濃集が進み、天然の原子炉が多数できる可能性がありました。
 原子炉であれば、温度より放出される放射線から大きなエネルギーが供給されます。生命合成に必要なエネルギーは、原子炉の周辺では臨界値(10^-2W/cm^2)から数100倍、原子炉の中心部では数1000倍に達します。これれらは放射線ですので、大きなエネルギーを与えたとしても、それほど高温になることはありません。
 地下に天然の原子炉があれば、エネルギー問題は解決できそうです。しかし、それだけでは、多様な合成条件を満たすことはできそうにありません。他にも、別の環境を考えなければなりません。

・黒田さん・
天然の原子炉が存在する可能性は、
研究者たちが理論的に指摘していました。
当時、アーカンソー大学の黒田和夫さんが、
1956年に報告していました。
その後、フランスの物理学者のペランが1972年に
オクロのウラン鉱山で天然の原子炉が
あったことが報告されました。
理論が先で、証拠があとでした。
黒田さんは「17億年前の原子炉―核宇宙化学の最前線」
という一般向けの本を書かれました。
以前読んだですが、手元になく
内容も忘れてしまいましたが。

・小さめのサイズ・
オクロのウラン鉱床では、
数cmから数mほどの天然原子炉でした。
小さな原子炉ですが、
稼働していたようです。
冥王代の原子炉はモデルでは
サイズは不明ですが、
小さめのサイズだと多数あれば、
生命の前駆物質の合成のために
いろいろな試行錯誤ができそうです。