2021年9月30日木曜日

3_193 核の水 1:間接的に

 宇宙は、探査機や望遠鏡などで、直接観測することが可能です。ところが、地球の深部は、直接観測することはできません。まして、検証作業は、なかなか難しいものです。地球内部は、身近なところにある謎なのです。


 地球は層状の構造をしています。外側から大気、海洋、地殻、マントル、核が重なっています。生命の層は示しませんでしたが、海と陸と大気中で暮らしています。層としてみると、それらの層中に混じっていることになり、区別された層とはなっていません。しかし、生命以外の層は、他の層とは、明瞭な境界で区分され、独立したものになります。
 層構造の特徴としては、軽い(密度が小さい)ものが外側、重い(密度が大きい)ものが内側にあります。これは、重力的にバランスが取れている状態になっていることになります。それぞれの層を構成しているものは、大気は気体(窒素と酸素からなる空気)、海洋は液体(H2O)、地殻とマントルは岩石(珪酸の化合物からなる鉱物の集合)、核は外側に液体、内側が固体(いずれも金属鉄)となっています。
 私たち人類は、生命ですので、地球の表層に住んでいます。そのため身近にある地殻、海洋、大気は、試料が手にしやすいため、詳しく調べることができます。しかし、生活の場から離れるにつれて、試料の入手が困難になり、調べにくくなります。
 例えば、大気も地上から離れると、人が直接行けるのは高山くらいで、より上空は気象用バルーンや観測飛行機などで調べていきますが、入手できる試料はまばらになってきます。海洋でも、海面に近ければ試料はすぐに入手できますが、深くなってくると特殊な海水の採取器や潜水艇で調べるしかありません。深海底や海溝のような深海になると、調べるのは非常に困難な場となります。大気や海洋でも、生物の生活圏から離れていくと、試料入手が困難になります。
 地殻の表層部は地質学者が調査すれば、網羅的に試料の採取はできます。しかし、深部やマントルの試料は、造山運動や火山噴火にともなって深部の岩石が上昇しててきたものが例外的に入手できますが、試料の入手は不可能です。まして、マントル深部や核からの試料は入手は不可能です。
 地球深部は、間接的に調べるしかありません。間接的に調べる方法は、地震波や重力などの観測や、シミュレーション(計算機実験)なとがあります。地震波や重力の観測では、地球で起こっている現象に由来するものですから、観測でデータが入手できます。そのデータを解析することで、深部の状態を調べる方法です。
 一方、シミュレーションではコンピュータによって、深部の条件を方程式にして、どのような物質や状態になるかを数値として計算で求める方法です。計算結果を、現実のデータと照らし合わせることで、確かさを検証できますが、可能性を指摘していくことになります。
 シミュレーションの一種に、高温高圧実験があります。計算機を用いるものではありませんが、マントルや核をつくっている物質を、マントや核の条件にして、そこで物質がどのような状態になるかを調べるものです。
 高温高圧実験については、次回以降詳しく紹介しましょう。

・可能性のひとつ・
超高速超巨大なコンピュータ、
例えば、地球シミュレータや京、富嶽など
の利用で非常に精密な
シミュレーション(計算機実験)が
できるようになってきました。
しかし、その結果は、あくまでも、
いくつかの条件である方程式や計算式に基づいて
おこなわれた、可能性のチェックです。
それが唯一の結果と、
勘違いしないようにしないように
注意しなければなりません。

・信頼の失墜・
9月も終わります。
全国的に緊急事態宣言が出されてきましたが、
本当に10月には感染は
落ち着いてくれるのでしょうか。
人流は、緊急事態宣言でも、
あまり減ることがなかったようです。
これは、政府の政策の一貫性のなさで
国民の心が、政府から離れ、
信頼をなくしたたためでしょう。
この事態はいつ落ち着くのでしょうかね。

2021年9月23日木曜日

1_198 地球内の月 4:ティアの残骸

 LLSVPが、海洋プレート由来であるという考えを紹介しました。別の考えがあります。月を形成したティアの残骸が、地球内部に残っているというものです。それはどのようなものでしょうか。


 LLSVP(大規模S波速度低速度領域)は、マントル物質が冷たいか、密度の大きな物質があれば、地震波が遅くなっていくので、説明できます。その条件を満たすものとして、沈み込んだ海洋プレートだとうまく合うので、定説となっていました。実際に、地震波で観測する(地震波トモグラフィ)と、海溝で海洋プレートが沈み込んでいる先の遷移帯には、冷たい物質の塊があることも、重要な根拠でした。前回紹介したように、マントルとコアの境界部にあるLLSVPの特徴が、海洋プレートであることで一致することが指摘されていました。

 地震波速度が小さいという事実で、そこには周りのマントル物質とは異質のものが存在することは確かですが、その由来として、温度と密度のどちらの値も変動させることで、地震波速度を説明することができます。

 例えば、温度が高くても、密度が大きければ、その速度を説明することが可能です。つまり2つの変数を恣意的に調整可能であることになります。そうなるとその物質の由来は、いろいろな可能性がでてきます。

 その可能性として、月をつくった原始惑星のティアの残骸に由来するという考えがあります。2021年の月と惑星の関する学会(52nd Lunar and Planetary Science Conference 2021)で、ユアンと共同研究者が発表したもので、

Giant Impact Origin For The Large Low Shear Velocity Provinces

(大規模低速度領域のジャイアント・インパクト起源)

というものがありました。

 これは、原始惑星ティアの原始地球への衝突をシミュレーションをしたものでした。ティアが、鉄に富んだ密度の大きなマントルをもっていれば、衝突後、ティアのマントル物質は地球のマントル下部へ、コアの境界に達することになります。それらティアの破片は、マントルとコアの境界で、長い年月が経過すると、破片が集まってLLSVPとなるという可能性がシミュレーションにて示されました。

 このシミュレーションの難点は、ティアの破片でれあれば、地球内部に長い時間おかれるので、周りのマントル物質より低温ではないという点です。

 物質の温度と密度は、いずれも未知なので、値を変化させられる境界条件となります。ユアンらのシミュレーションでは、ティアのマントルの鉄に富んだという前提をおけば、密度は周りのマントル物質と比べると、1.5%から3.5%大きくなり、温度も高くてもいいということがわかりました。低温であれは「最近」落下した海洋プレートの破片を示唆していますが、密度を大きくすることで温度が高くてもよくなり、「創成期」のティアのマントル物質でも可能性があることになります。

 ここで注意が必要なことは、あくまでもシミュレーションは、可能性を示すもので、それが事実であったことが保証するものではない点です。もちろん、条件をいろいろ変えても、シミュレーションの結果が一致しなければ、その可能性は否定できます。シミュレーションでうまくいったので、正しいと思ってしまいそうになりますが、可能性のひとつと考えておく必要があるでしょうね。


・出張・

先週、校務出張で、道東へでかけてました。

その続きで、野外調査も大学の許可がでましたので

1週間ほどに出張にでました。

幸い最終日以外は、天気にめぐまれ、快適に調査できました。

調査地は観光地でもあったのですが、

人出は、少な目となっていました。

困ったのは、緊急事態宣言のため

多くの公の施設が時間短縮や、休館しているところも多くて

なかなか予定通り進められませんでした。

しかし、野外を歩くことが優先でしたので、

いろいろ見て回ることができました。


・ガタのきた体・

この1年半、野外に出ることがほんとんどなかったのと、

自粛で運動も通勤の行き帰りくらいしか

体を動かしていませんでした。

そのため、体力と筋力の衰えを痛感しました。

少し歩いただけで、足がガクガクしてきて

翌日にはふくらはぎや太ももが筋肉痛になっていました。

高齢でもあるので、あちこちガタがきた体と

折り合いをつけながら、調査するしかないようです。

無理せず、自身の体をいたわりながら、

野外調査に進めていく必要がありそうです。

体に合わせて、頭の切り替えが必要です。

2021年9月16日木曜日

1_197 地球内の月 3:LLSVP

 マントルには、周りより暖かところと、冷たいところがあることは、知られてました。マントル物質が沈んだり上昇したりする、マントルプルームというモデルに直結していました。それをサポートするシミュレーションもあります。


 地球内部のマントルは、カンラン岩からできていますが、内部を詳しく見ると、違いがあることがわかってきました。地球内部を地震波でみる方法があります。地震波にはいろいろな種類があり、その種類の特性に応じて地球内部の物性の違いを調べるのに利用されています。

 同じ種類の地震波では、伝わるときの速度の違いがみられます。

 地震波速度が速くなるところは、温度が低いか硬い部分かです。例えば、海洋プレートが沈み込んでいるところでは、速くなります。冷たい太平洋プレートが、日本列島の下へと沈むこんでいるところでは、速くなります。

 また、地震波速度が遅いところは、暖かい部分か柔らかいところになります。暖かくなっているところでは、岩石が溶けてマグマができるような場になります。火山噴火の予知などに利用されています。

 もっと広く大規模に地震波を観測すると、マントル内部の状況を読み取ることができます。日本列島から沈み込んだ海洋プレートが集まっているところが、ユーラシア大陸の下に見えています。さらにその下部のマントルと核の境界部には、昔沈み込んだ海洋プレートの塊が落ちていったように見える冷たいところがあります。また、巨大な暖かいマントル物質が、マントルの中(遷移層深度650kmのところにある上部マントルと下部マントルの境界部)を上昇してきているようにみえるところが、2箇所ありました。

 このようにして、マントル物質の温かい部分と冷たい部分とその位置から、マントル物質の上下運動として、プルームテクトニクスという考えで説明されました。プルームテクトニクスは、プレートテクトニクスよりもっと大規模な地球全体の運動となり、全地球の運動像と考えられてきました。

 暖かいマントル物質は、深部にあるのですが、それに由来するマグマが火山として地表に噴出しているます。火山岩を調べることで、間接的ですが、暖かいマントルの状態を知ることが可能です。

 冷たい部分は、大規模S波速度低速度領域(large low-shear-velocity provinces:LLSVP)と呼ばれています。太平洋の下とアフリカの下、3000kmにありました。マントルの底で外核に近いところです。厚さが1000kmで、幅が2000から3000kmほどある巨大のものです。海洋プレートが沈み込んだものだと考えられ、シミュレーションでも確認されました。例えばmジョーンズらの共同研究で2020年で報告されました。

 Subducted oceanic crust as the origin of seismically slow lower-mantle structures

(地震波低速度の下部マントルの構造の起源としての沈み込んだ海洋地殻)

というタイトルでした。

 この報告では、この部分の最下部100から200kmでは、海洋プレートの玄武岩があり、横や上部になるとカンラン岩の成分に変わっていくと考えると、よく説明できることが示されました。

 この報告で、LLSVPが海洋プレートであるという考えを支持していました。しかし、これはシミュレーションであり、可能性のひとつではありますが、検証されたものではありません。

 別の考えが示されました。それは、LLSVPがティアに由来するのではないかというものです。


・他の可能性も・

これまで、冷たいマントルと、暖かいマントルの役割は

プルームテクトニクスにおいて、

きっちりと位置づけられていました。

そのモデルに基づいて研究は進められてきてました。

今回紹介したのは、その一部です。

しかし、検証されていないことに関しては、

他の可能性も探る必要があるでしょう。

それが次回紹介する論文となります。

また今回のシリーズのテーマでもあります。


・校務出張・

9月はじめ、北海道は緊急事態宣言でした。

その時、今週の校務出張が入りました。

道東へいくこといなりました。

その続きに、大学の許可をとって、

道東の調査をすることも許可されました。

今回のエッセイは1周間前に配信予約したものです。

緊急事態宣言が終わっているはずですが、

注意しながら調査してこようと考えています。

2021年9月9日木曜日

1_196 地球内の月 2:ジャイアント・インパクト説

 原始地球に別の原始惑星が衝突してできた、というジャイアント・インパクト説で、月は形成されたと考えられています。月と地球の類似点と相違点の両者を、うまく説明できることが、この説が支持されている理由です。


 前回紹介したように、微惑星が集まり、原始惑星に成長する段階で、大きな衝突が起こります。太陽に近い軌道域では、惑星の成長が早く、材料も少ないため、原始惑星同士の衝突は、早く終わることになります。地球の公転軌道域では、原始地球に最後に衝突した原始惑星が、月の起源となったと考えられます。これが、ジャイアント・インパクト説となります。原始地球に衝突したこの原始惑星は、ティア(Theia)と命名されています。

 月は地球と比べると、核(コア)が小さく、密度も小さく、揮発成分(気体になりやすい元素)が少ないなどの特徴があります。一方、酸素の同位体組成などの化学組成は、同一の材料からできたことを示しています。まるで別のできかたをしたように見えますが、同じ材料からできたようです。似ている点は、地球のマントル物質が月の材料になれば、解決できることがわかりました。

 そこでジャイアント・インパクト説で地球のマントル物質だけを飛び出させて、それが月の材料になればいいわけです。シミュレーションは、このエッセイでも(1_140~143)紹介しましたが、斜めの衝突であったと考えられています。衝突された地球のマントル物質だけを飛び出させるために、ティアの斜めの衝突が、シミュレーションの結果、適切であることがわかりました。

 斜めに衝で地球のマントル物質だけが飛び出して月になります。月は、原始地球やティアとは少々違った成分を持つことになります。このメカニズムで月が地球とは、似た点と違うことが説明できます。

 一方、ティア側の物質は、原始地球と合体したとすれば、衝突したティアの物質は、すべて原始地球に吸収されたとこになります。では、地球は合体して現在のような均質な姿になったのでしょうか。それとも、ティアの衝突の痕跡は、地球に残されていないのでしょうか。

 今回、地球深部からテイアの痕跡でないかという、新たな説が登場してきました。それは次回、以降としましょう。


・前のところに戻る・

9月の初頭に、いくつか手掛けていた

大きな研究上の仕事で区切りがつきました。

それで新たな研究計画を練り直し、

次の論文の構想を進めています。

その計画は、実は20数年前に、

一度取り組んだテーマと似たものになりました。

予期していなかったのですが、

私の興味は、やはり同じところを巡っているようです。

四半世紀は、科学にとっては長い時間で、

大きな進歩があるはずです。

その違いを感じていきたいと思います。

端緒についたばりですが、

似たところもかなりあるようです。

それは、進歩がないではなく、

普遍性のあるものだったからでしょうか。

そのチェックも、これからですが。


・職域接種・

我が大学でも職域接種がはじまりました。

隣の大学と共同での接種です。

先週末から今週末の4日間に渡って

大学内でワクチン接種がおこなわれます。

学生と教職員に対しての職域接種です。

デルタ変異種の特性をみていると、

これで完全とはいえそうもないですが、

集団免疫がある程度は確立されるはずです。

感染が広がらないとはいえないですが、

おさまればいいのですが。

2021年9月2日木曜日

1_195 地球内の月 1:惑星形成のシナリオ

 月はジャイアント・インパクト(巨大衝突)で形成されたことは、今では多くの人が知るようになってきました。衝突の事件は、太陽系の惑星形成の初期に起こったものです。そのシナリオを見ておきましょう。


 月の起源に関して、かつてはいろいろなモデルがありました。その多くは、科学的根拠の乏しいものでした。20世紀後半になり、アポロ計画による月の探査と、そこから持ち帰られた試料での多様な成分での、精度のよい化学分析が大量になされました。一方、地球の科学的探査、隕石の化学分析なども進んで、月と地球、隕石などの詳細な化学的データの対比などから、その類似と相違が見極められてきました。またコンピュータの発展にともなって計算機シミュレーションも進み、ジャイアント・インパクト説が有力となってきました。

 ジャイアント・インパクトの事件は、太陽系が形成された頃のできごとです。この事件は、太陽系形成の頃のシナリオに基づいています。太陽系形成のシナリオをみておきましょう。

 太陽系ができて間もない頃は、熱いガスの状態だったのですが、温度が冷めるにしたがって、ガスから固体が凝縮してきました。固体は集まりながら粒となり、小さな石となり、石同士が衝突し合体して、やがて大きな天体(微惑星と呼ばれました)へと成長していきました。微惑星同士も衝突合体して、太陽系には火星サイズの惑星(原始惑星)だけになっていきます。最終的には、太陽系の公転軌道に、現在の数ほどの惑星だけになっていきます。

 太陽からの距離によって、惑星になるための材料(固体)は、近ければ金属鉄と岩石で、遠くになるとそこに氷(H2Oの固体)が加わります。氷ができる境界は、火星と木星の間です。火星から地球の間では、H2Oは液体(水)としても存在できる領域でした。

 太陽から遠くでは氷の成分が多かったので、惑星の質量も増え、周囲も大量にあったガスを集めた巨大ガス惑星(木星、土星)ができました。離れるにつれて、惑星の成長速度が遅くなり、遠くでは惑星が成長する頃には、ガスも少なっていて、氷だけがたくさん集まった氷惑星(天王星、海王星)ができました。

 これが太陽系の惑星形成のシナリオで、惑星のおおまかな特徴が説明できます。

 さて、微惑星が集まり、原始惑星になる段階で、大きな衝突が起こります。原始地球になったあと、最後の原始惑星の衝突で、月ができたと考えられます。これが、ジャイアント・インパクト説となります。詳細は、次回としましょう。


・調査予定が組めない・

緊急事態宣言の発令で、

9月予定していた道内の野外調査も

どうなるかは不明なになりました。

12日まで緊急事態宣言の期間の予定ですが、

その直後からなら、調査ができる予定を組めるのですが、

次の週からは、授業がはじまるため、

長めの調査出張はできません。

ぎりぎりのところで調整が進みそうです。


・八方塞がり・

北海道は、3度目の緊急事態となりました。

前回までの違う点は、感染者が都市部に集中するのではなく、

都市周辺地域から地方まで広がっている点です。

そのため、以前は都市部での警戒でよかったのですが、

今回は道内の各地での自粛しなければなりません。

しかし、地方でも感染が広がっているのは、

もう、自粛や警戒が効かなくなってきているためでしょう。

長い期間におよぶ自粛と開放の繰り返しは、

多くの人から緊張感、警戒感を奪っています。

また一部の人はワクチン接種をしているので

それも警戒感の緩みを招いているのでしょう。

八方塞がりの状態ですね。