2022年7月28日木曜日

5_198 小惑星の有機物 6:形成場

 リュウグウの試料からは、有機物とそこに同位体異常がみつかりました。有機物は高温で分解しますので、同位体異常は保存されないはずです。リュウグウは、高温に曝されることになく、できたままの状態を保持したようです。


 これまで、隕石で同位体異常が発見されていたのは、高温に耐えられた鉱物からでした。リュウグウの粒子には、もっとも熱の影響を受けてない隕石(炭素質コンドライトのCIと呼ばれるタイプ)より、酸素とクロムで高い同位体組成をもっていました。これは、より熱の影響を受けていない環境であったことを意味します。
 隕石には、一部太陽系以前の成分(プレソーラー粒子と呼ばれています)が残っていましたが、高温に曝され均質化した素材からできていました。そのため、原始太陽系星雲は一度高温にさらされてから、隕石として凝縮してきました。その後、隕石ではさまざまな程度の温度に曝されていきます。ところが、リュウグウには一度も高温に曝されることがない成分がありました。それは、今回報告された、有機物の組成からわかります。
 その有機物に、水素、炭素および窒素、ネオンで同位体異常が見つかりました。ネオンの同位体異常は、宇宙線の照射に曝されてできる成分でした。太陽系外縁で宇宙線に曝されてでできた成分を含んでいました。つまり、太陽系外縁でリュウグウの有機物はできたことになります。その後も有機物は高温に曝されることなく、保存されてきたことになります。
 そこから、次のようなリュウグウ形成のシナリオが考えらえました。
 太陽系の材料物質は、初期の高温期には、内側では高温の変成作用、外側では水質変質(炭素質コンドライトが受けたもの)を受けました。太陽系の外縁部は、太陽風より宇宙線に強く曝される環境で、そこで有機物が形成されました。有機物は変質を受けることなく、形成されたままのものも残っていました。
 このような異質な成分を含む天体は、氷を主として珪酸塩と有機物を含む小さな天体(数10km)として「リュウグウ前駆天体」ができました。氷天体が破壊され、彗星核が形成され地球近傍を巡る軌道に入ったと考えれます。氷は昇華していき、リュウグウになったと考えられます。
 少々複雑なシナリオですが、太陽系の外縁では、高温に曝されていない初期のままの素材が残っているかもしれません。その一部が、リュウグウとなりました。有機物とその化学組成がその根拠になっています。隕石では見つかっていない成分を含んだタイプの小惑星が、太陽系の外縁に多数ある可能性も示しています。

・前期終了間近・
今週で講義がすべて終わりました。
祝日などの関係で、15回の講義が
同じ回数をこなせない曜日ができます。
最後の週では、水曜日の講義が2回行われます。
担当している講義が水曜日には3つあるので
それが金曜日に振り替えられます。
今週は少々大変ですが、
その後、定期試験の期間になります。
それでやっと前期が終わります。

・論文投稿・
前期の講義の終わる前に、
論文の締め切りが今週末にあります。
このマガジンが発行されるときには、
投稿しているはずです。
査読を受けるので、その後に修正も生じるのですが、
とりあえずは一段落です。
途中で止まっている大きなプロジェクトを
進めなければなりません。

2022年7月21日木曜日

5_197 小惑星の有機物 5:同位体異常

 太陽系の材料は、初期に元素レベルで均質化され「太陽系ブレンド」になりました。太陽系の材料にあった多様性が、消えずに残っていることがわかりました。隕石の中に見つかる「同位体異常」と呼ばれているものです。

 中村さんたちの論文は、
On the origin and evolution of the asteroid Ryugu: A comprehensive geochemical perspective
(小惑星リュウグウの起源と進化:包括的な地球化学的見通し)
というタイトルで56ページにおよぶ大著です。副題の「包括的地球化学的見通し」に、大局的な地球化学的視点で見ていこうという意気込みを感じます。
 前回、均質化が太陽系成分の同位体組成にまで及んでいると紹介したのですが、そこに重要な意味があります。同位体とは、同一元素の中で中性子の数が異なるもので、質量数の違いとなります。放射性の同位体がなければ、同じ元素内の同位体の比率は決まっています。まったく起源の違う物質では、異なった同位体組成をもつことになります。
 前回紹介したように、さまざまな起源の元素、さまざまな由来の化合物から太陽系はできたと考えられます。しかし、現在の地球や月、火星、隕石などすべての物質の同位体組成は、均質になっています。太陽系の材料に混じっていた化合物も、元素、同位体にまで均質化されたことを意味します。
 しかし、例外が見つかりました。同位体組成から、稀に均質化を免れた物質が見つかっています。そのような太陽系外の固体物質は、ばらばらの同位体組成をもっているはずなので、当然太陽系の均質化した値とは異なっているます。そのような太陽系外の同位体組成が見つかったので、「同位体異常」と呼ばれました。
 同位体異常は、隕石の中にあるいくつかの粒子から見つかっていました。そのような粒子は太陽系形成前のものなので、プレソーラー粒子(presolar grian)と呼ばれています。何種類かの同位体組成が、何種類かの粒子から見つかっています。隕石で見つかっていた同位体異常を示す物質が突き止められていて、いずれも高温でも残るような鉱物でした。
 今回、リュウグウの有機物で、そのような同位体異常が見つかったという報告です。有機物は高温に弱いので、高温状態にはならない場所に由来するものです。これは重要な発見です。その詳細は、次回にしましょう。

・面談練習・
大学はいよいよ前期最後の講義になってきました。
8月上旬からは定期試験となります。
並行して学科の4年生の教員採用試験のために
面談練習をしています。
8月初旬まではバタバタしています。
昨年は、オリンピックの開催のため
教員採用試験のスケジュールも変更されていました。
それが以前の状態に戻りました。
1次試験の発表から2次試験がすぐなので
準備期間が短くなりました。
集中的にできるのでいいのかもしれません。

・論文の締め切り・
7月下旬に論文の締め切りが迫っています。
現在、まだ完成していません。
空き時間は論文にかかりきりになっています。
毎年、論文の締め切りではバタバタします。
一方、著書の出版には、締め切りがないで
自分のペースで進められます。
精神的には非常に楽なので健全です。

2022年7月7日木曜日

5_195 小惑星の有機物 3:リュウグウの岩石タイプ

 イトカワは、もっとも一般的なタイプの小惑星で、隕石とも対応しました。では、リュウグウはどうなっているのでしょうか。今回から、リュウグウの特徴を紹介していきましょう。


 これまでのエッセイでは、イトカワの岩石の特徴を見てきました。イトカワは、小惑星の反射スペクトルでは最も多いS型タイプで、隕石の中で最も多い普通コンドライトとは異なった特徴もありました。試料で確かめられた結果、イトカワは普通コンドライトと一致しました。惑星表面での宇宙風化によってスペクトルが変化していくことも、明らかにされました。これまで謎であったスペクトル型と隕石の違いが、サンプルリターンで解消されました。
 さて、リュウグウは、望遠鏡での観測ではC型スペクトルをもち、炭素の多い天体と推定されていました。炭素の多い隕石は炭素質コンドライトで、リュウグウはそれに相当すると推定されていました。ただし、炭素質コンドライトは、落下比率が5%程度しかなく、稀なタイプとなります。それが今回の試料分析から炭素質コンドライトであることが確認されました。
 炭素質コンドライトは、水も炭素も多く含むのが特徴となっています。普通コンドライトは高温状態を経験していることが多いのですが、炭素質コンドライトは高温の状態を経験することなく、地球に落下したことになります。炭素質コンドライトをもたらした天体(母天体と呼びます)は、内部が高温になったり、溶融したりすることのない状態で、太陽系初期からある小さな天体であったことになります。
 また、リュウグウの試料は、炭素質コンドライトの中でも水分に富むCIコンドライトであることがわかりました。CIコンドライトは、最大では重量比で20%まで含み、炭素も3wt%も含んでいますが、高温包有物(CaとAlに富む包有物でCAIと略されています)を含みません。ところが、CIコンドライトと比べて、密度が小さいこと、反射率が低いことなど異なる点もあることもわかってきました。
 水による変質を受けているかもしれませんが、太陽系初期の固体物質の特徴を、そのまま残している隕石の可能性があります。
 では、リュウグウの試料から、どのような新しいことがわかったのでしょうか。それは次回としましょう。

・野外調査終了・
前期の調査が先週分ですべて終わりました。
今回は雨が少し降りましたが、
幸いなことに海岸沿いでは
晴れ間が多くて助かりました。
予定地域はほぼ調査することができました。
内陸はフェーン現象で高温になっていたのですが、
海岸沿いは涼しく、調査も順調でした。
しかし、自宅にもどったら暑くでぐったりしました。

・夏・
いよいよ後期の授業も2、3回となりました。
暑くなってきたので、学生も教員も大変です。
定期試験が最も暑い時期にあります。
しかし、北海道にある我が大学の教室にも
エアコンが設置されました。
酷暑の中での試験がなくなりました。
幸いなことですね。
しかし、研究室にはエアコンはないので暑いです。