2020年6月25日木曜日

2_184 清江化石群 2:カンブリアの大爆発

 清江化石群の時代は、カンブリア紀初期でした。生物の進化にとって、カンブリア紀初期は、非常に重要です。カンブリア紀初期の様子を探るためには、清江化石群のような保存いい化石の産地が重要になってきます。

 中国の清江(クィンジャン)化石群は「ラーゲルシュテッテ」であることを、前回紹介しました。ラーゲルシュテッテは、保存状態のよい化石が多数見つかるため、過去の生物を調べるのに重要な産地のことでした。ラーゲルシュテッテは、世界各地にあり、生物の進化や過去の環境などを調べるために重要な役割を持っていました。
 古い時代、特にカンブリア紀のはじまりのラーゲルシュテッテは、生物の進化にとって重要になります。なぜなら、カンブリア紀の初期には、生物の多様性が一気に増えることが知られているからです。それは、「カンブリアの大爆発」と呼ばれています。清江化石群は、その様子を探るための新たなラーゲルシュテッテになると考えられています。
 「カンブリアの大爆発」とは、カンブリア紀直前の時代、原生代のエディアカラ紀(6億3500万から5億4100万年前)の終わりの頃から、化石が多数見つかりだし、カンブリア紀になると一気に多様性が増えだしたことがラーゲルシュテッテからわかりました。カンブリア紀になってすぐに、生物の多様性が増えたこと、つまり一気に進化が起こったことを、「カンブリアの大爆発」と呼んでいます。
 エディアカラ化石群は、オーストラリア、アデレードの北方にあるエディアカラの丘陵から見つかったラーゲルシュテッテです。同時代のラーゲルシュテッテは、中国の山沱累層(ドゥシャンツァオ累層 6億~5億5500万年前)、他にもロシアの白海沿岸、ニューファウンドランド、カナダ北西部、ノースカロライナなどからも見つかっています。現在では20箇所以上の産地が知られています。
 最初に「カンブリアの大爆発」がわかったのは、カナダのブリティシュコロンビア州のバージェス山というところで見つかったラーゲルシュテッテでした。ここの化石は、化石が出る露頭は狭いのですが、多数の保存のいい化石があり、軟体動物の形態が詳細にわかり、130種以上の多様な化石が見つかっています。
 同じ時代のラーゲルシュテッテとしては、中国の澄江(チェンジャン)にもあります。同時代ですが、異なった地域(地理的に離れた海岸)でラーゲルシュテッテがあると、両地域で比較することで、生物の地域的多様性や汎世界性を知ることができます。
 さて、バージェスは5億500万年前(カンブリア紀中期)の化石だったのですが、清江化石群の時代は、約5億1800万年前のカンブリア紀の最初の頃です。カンブリア紀初期は「カンブリアの大爆発」を解明するために重要です。清江化石群の詳細は、次回にしましょう。

・天候不順・
北海道は先週あたりから、
晴天で暑い日、肌寒い日、蒸し暑い日など
変化の激しい天候が続いています。
大学の学生の入構禁止は解けたのですが
授業はリモートのみで前期が進んでいきます。
でも、学生に会う機会はでてきそうです。
パソコンの画面ではなく
実物に会えるのがいいですね。

・レベル1・
全国的に県境を越えた移動が解禁されました。
北海道でも、札幌市や石狩管内を越えた
移動も解禁されたことになります。
かなり多くの人が移動をはじめたようです。
しかし、大学の行動指針も
レベル1へと下げられました。
ですが、学生は用事がない限り大学には来ません。
職員は時差出勤はしますが、
通常勤務にもどっていきました。
講義も教職員の会議もリモートが継続中です。
研究の在宅を勧めています。
前期の期間は、現状で推移しそうです。

2020年6月18日木曜日

2_183 清江化石群 1:ラーゲルシュテッテ

 中国で見つかった新しい化石群を紹介します。ニュースは見ていて、関連情報を記録していたのですが、最近まで放置していましたが、今回から、シリーズで紹介することにしましょう。

 新しい化石の産地の発見についての報告が、2019年3月のアメリカの科学雑誌「サイエンス」で掲載されました。論文のタイトルは、
The Qingjiang biota - A Burgess Shale - type fossil Lagerstatte from the early Cambrian of South China
(清江生物群 南中国の初期カンブリア紀のバージェス頁岩型化石のラーゲルシュテッテ)
というものでした。
 論文のタイトルの中には、いくつかわからない言葉があります。清江(Qingjiang クィンジャン)とバージェズ(Burgess)、そしてラーゲルシュテッテ(Lagerstatte)です。前者2つは、いずれも地名で、最後の言葉が地質学用語です。「清江」は中国の、「バージェス」はカナダの地域名です。清江は、今回発見された化石群が見つかった地域の名称です。
 ラーゲルシュテッテはドイツ語由来の言葉ですが、英語でもそのまま用いられていて、日本語では「ラーゲルシュテッテ」と表記されています。地質学でラーゲルシュテッテとは、化石の保存状態が非常によく、過去の生物を調べるのに重要な化石産地のことをいいます。ラーゲンシュタットには、多数の化石が見つかっているものと、化石の保存が非常にいいものとの、2つのタイプがあります。清江は、両方兼ね備えているようです。
 この発見で、「新しい化石の発見」ではなく、「新しい化石の産地の発見」としたのは、産出の状況がラーゲルシュテッテであったからです。化石の発見場所は、中国の湖北省宜昌市長陽トゥチャ族自治県です。武漢市の西に200kmほどに位置し、宜昌(ぎしょう)市という大きな街の郊外になります。巨大なダムがあり、そのダム湖上流で5箇所ほどの産地が示されています。周辺は、人が住んでいる地域で、開拓されて農地になっているようです。重要な化石の産地が新たに、人家の近くで見つかるとは驚きです。乱獲されずに残っていればいいのですが。
 ラーゲルシュテッテは、世界各地にいくつもありますが、中国には、他にも、雲南省の澄江(チェンジャン)、貴州省の凱里累層(カリ)や山沱累層(ドゥシャンツァオ)などがあります。しかし、その時代が重要です。なぜなら、時代が異なっているので、違う時代の生物群を比べることできます。
 時代については、次回にしましょう。

・Googleマップ・
論文では、化石産地の略図が示されていました。
それを頼りに、Googleマップの衛星画像で
正確な位置を確認することできました。
その結果、発見場所周辺の様子も知ることができました。
Googleマップを見ていると、
人家や車まで見ることができます。
マップの道路も投影されているのですが
その道が衛星画像では見えていません。
もしかすると巨大ダムができて
その上流では、村が水没したため、
道路が切り替えられたのだろうか
などと、いろいろ考えてしまいます。
そんことをしているうちに、
ついつい長時間衛星画像を見入ってしまいました。

・ストリートビュー・
中国の清江でも20mスケールでGoogleの衛星画像が見れます。
北京だと10mスケールでみることができます。
日本だと2mスケールの画像を見ることができます。
このスケールだと、人が歩いているのも
見分けることができます。
ストリートビューに入れば、
人の生活まで想像することができます。
ただし、個人情報は消されていますが。
さすがに中国では、ストリートビューを見ることは
できませんでしたが、香港ではどうでしょうか。
それは、各自で確かめてください。

2020年6月11日木曜日

1_179 大陸地殻の新知見 4:地殻下部

 アフリカのクラントン下の地殻について調べられました。キンバーライトの捕獲岩を用いています。捕獲岩は、大陸下部で変成作用を受けた岩石であることがわかり、原岩の化学的特徴から大陸の形成史の証拠もでてきました。

 大陸地殻に関する3つ目の論文は、3月17日に発表された
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
というものでした。この論文もひとつ目に紹介したのと同じく、キンバーライト(深部で形成されたマグマによる火山岩)から見つかった捕獲岩を調べたものです。調べた捕獲岩は、エクロジャイトとざくろ石輝石岩です。この2種の岩石の説明を少々しておきましょう。
 エクロジャイトとは、超高温高圧の条件でできる変成岩の一種です。主にザクロ石と輝石からできた岩石です。玄武岩組成の岩石が変成されてできるもので、造山帯ならば、沈み込んだ海洋地殻がその候補となります。また、ザクロ石輝石岩(輝岩ともいいます)も、超高温高圧の条件でできたことを示しています。アルミニウムの多い岩石では、珪酸アルミニウムの成分が温度圧力条件で変化していきます。浅いところでは、斜長石(この岩石では少ない)や輝石になっているのですが、高圧になるとザクロ石になっていきます。それより深くなるとスピネルになっています。ガーネットはキンバーライトの捕獲岩によく見られるもので、地殻下部からマントルの条件で形成されるものです。
 今回調べられた捕獲岩は、エクロジャイトはザクロ石と輝石(オンファス質輝石)を主として、ザクロ石輝石岩はザクロ石を含む斜方輝岩と輝岩(斜方輝石と単斜輝石を含むウエブステライトと呼ばれるもの)でした。いずれもカンラン石が少ないのが特徴の岩石となります。これはマントルを構成している岩石でないことを意味します。
 捕獲岩を分析した結果、エクロジャイトは、815~1000℃の温度、1.7GPaほどの圧力(50~55kmの深さ)の条件で変成されたもので、この地域の地殻下部の条件に相当するそうです。ザクロ石輝石岩の変成条件は、686~835℃となりやや低い温度ですが、変成圧力(深さ)は似ていました。
 両岩石の同位体組成(Nd、Sr同位体)を調べても、この地域の下部地殻に相当する値でした。いずれも似た原岩から由来したようで、オンファス質輝石が主とすることからナトリウム(Na)が乏しい、つまり斜長石が少ない岩石が起源となっていると推定されています。これらの2種類の捕獲岩の由来は、古い時代の玄武岩組成の岩石が変成を受けて、オンファス質輝石(Na成分が少ない)を主とする輝岩となり、さらに高温高圧条件での変成作用を受けてザクロ石輝岩やエクロジャイトになったと考えられます。
 その形成場としては、大陸が衝突してナマグア-ナトル帯となり、地殻の短縮と厚化とともに変成作用が起こりました。その衝突は、10億~12億年前にカープヴァール・クラトンが形成された時の出来事だと推定されました。その時、地殻下部にあった玄武岩質の岩石が、変成を受けたと考えられます。その後、マントルで形成されたキンバーライト・マグマが地殻を上昇してくる時、地殻下部にあった変成岩を、捕獲岩として取り込んだと考えられます。
 この論文では、地質学の基礎知識がない人にとっては、いろいろな複雑な論理構成をとっているため、非常に難解な内容となっています。ですが筋の通った説明となっていますので、信憑性はありそうです。
 地下の深い場所の様子が、地表に持ってこられた捕獲岩から探ることでできました。そこから、大陸の衝突の歴史、大陸形成史がわかってきました。

・リモート・
北海道は、まだ新規感染者が出ていますが、
徐々に緊急事態からの回復が進んでいます。
大学も、今週からレベルが一つ下がりました。
ただし、現在の状況では、
学生は大学への入構はまだできません。
授業も会議、校務のリモートでやることになっています。
レベルが好転したことは、気分的にいいことです。

・静な夏・
北海道は初夏の陽気になりました。
朝、歩いてく時カッコーの鳴き声、
昼間にはエゾハルゼミのうるさいほどの鳴く声もします。
夏の気配が濃くなってきました。
今年の夏は、いつもの夏にはなりそうもありません。
いつもこの時期には、YOSAKOIの音が
あちこちで聞こえてくるのですが
今年は、聞こえてきません。
静な夏を迎えそうです。

2020年6月4日木曜日

1_178 大陸地殻の新知見 3:初期は小さな大陸

 地球の創成期には大陸はありませんでした。時代とともに大陸が形成されてきました。これまで、大陸の形成のメカニズムは、大陸の岩石が用いられてきました。今回の報告では、海洋地殻から大陸の様子が探られました。

 2020年3月に報告されたジョンソンとウィング(Johnson, B. W. and Wing, B. A.)の論文は、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18酸素に富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
というものでした。
 この論文での調査は、西オーストラリアのピルバラ・クラトンのパノラマ地域でおこなわれたものです。岩石は約32億4千万年前の海洋地殻を構成したものですが、熱水変質を受けていました。著者らは、100個以上の岩石を採取し、酸素の同位体比の分析をして検討しています。
 一般に、海洋の化学的堆積物では、時代を経るとともに、酸素の同位体比(18O/16O)が増加していくことが知られています。酸素同位体比は、海水と岩石の2つの成分が、どの程度混合するかによって決まってきます。今回分析した岩石の酸素同位体比は、重い(18Oの比率が大きい)ことがわかりました。
 もし、海水成分の酸素同位比が現在ものと同じだとしたら、この時代の海水は非常に高かったことになります。あるいは、岩石と海水との相互作用が、現在のものとは異なっていたことになります。重い酸素同位体比は、いずれかの理由によることになります。
 著者らの仮説は、当時は大陸が非常に少なかったと推定しています。もし、大陸が存在したら、大陸表層に存在したはずの粘土鉱物が、重い酸素を吸収し、同位体比を下げる(軽くする)からです。そのような大陸が少ないという推定から想定される値に、今回のデータが相当していました。
 西オーストラリアのジャック・ヒルでは約44億年前の大陸できた鉱物が、カナダでは約40億年前の、グリーンランドで38億年前の大陸の岩石が見つかっています。ですから、古くから大陸が存在したことは確かです。
 これらの証拠と今回の報告との両者をうまく説明するには、大きな大陸はなくて、小さな陸地が存在した、というモデルになります。現在の伊豆マリアナ列島のような海洋島弧のようなものが、広い海洋のあちこちに多数あればいいものです。ただし、大陸地殻の岩石が形成されていなければなりません。幸い、島弧では大陸地殻の岩石が形成されます。
 今回の研究は、ひとつの地域のものですが、多数のデータからの推定なので、確かなものです。ただし、この地域の一連の岩石からだけなので、他の時代、他の地域との比較が必要になります。その結果、この仮説が支持されるかどうかが、検討できるでしょう。著者らは、より新しい時代の海洋地殻で検証を進めるようです。
 大陸地殻は時代ととともに成長したと考えられます。その成長の様子はまだ確たるモデモはありません。れまで、大陸地殻の形成過程は、大陸の岩石を用いて調べられてきました。今回、海洋の岩石から大陸の様子を調べる手段が見つかったことになります。これは、地球の大陸と海洋の進化を考える上で、重要な方法論を示したことになります。

・買い物・
新型コロナウイルスのため、日用品以外の買い物は、
これまでネット通販を使ってきました。
残念ながら、まだしばらくこの状態が続きそうです。
先週末、必要なものがあってホームセンターにいきました。
実際の店舗で商品を手にとって選ぶことは、
買い物の醍醐味でいいものでした。
私は、実店舗での買い物は2ヶ月以上行っていません。
日用品の買い物は、家内に任せています。
毎日、大学と自宅の往復だけだったので、
ついつい店で長居をしてしまいました。

・集団感染・
北海道では、まだ感染者の発生が継続しています。
北九州では、学校での集団感染もありました。
安心できない状態が続いています。
大学は、前期はまだWEB講義が継続中です。
会議もリモートでの開催す。だいぶ慣れてきました。
ただ、毎回の講義の作成には手間取っています。
今年からはじまる新しい講義もあるのですが
それを最初からリモート用につくると、
来年は再度、対面の講義用に変更が必要になります。
まあ、仕方がありませんね。