2022年3月31日木曜日

4_157 火星研究への旅 2:地底湖の有無は?

 火星の南極の氷の下から、レーダーの強い反射がありました。その反射は、地底湖ではないかという報告がありました。地底湖の有無については、賛否両論が出ています。

 火星の地底湖の研究に関して、もうひとつ報告がありました。アメリカ合衆国のサウスウエスト研究所(SwR)の研究者らの共同研究です。低温にして氷と塩水の混合物の測定するという実験をしました。
 一般に、塩分濃度が大きいと、低温でも凍らないため、火星の南極域でも、凍らずに水があると考えれていました。氷床の下にある氷の状態を-100℃まで調べたところ、塩分濃度が低い海水でも、-70℃までは凍らないという可能性が示されました。この温度は、従来の想定よりかなり低温でした。また、塩水が堆積物の隙間で存在している可能性も示唆されました。それら塩水が、レーダーの明るい反射ではないかという仮説が報告されました。
 明るいレーダー反射の正体が何か、まだ完全に明らかになっていませんが、もうひとつの反論がありました。
 もう1つはテキサス大学の惑星科学者グリマ(Cyril Grima)さんを筆頭とする研究グループによる2022年の成果です。レーダー反射の関するコンピュータによるシミュレーションです。
 彼らは、火星表層全体が、1.4kmの氷床に覆われていると仮定しました。地質がわかっている火星全域に氷床をかぶせた状態にしました。氷床がある状態でレーダー観測をしたら、どのような反射が戻ってくるかを、シミュレーションてみました。
 すると、南極の地底湖にされたような強い反射が、氷床下のあちこちから見つかってきました。その地域の地質をみていくと、火山岩の分布している平原と一致しました。これは、火山岩の広がった地域の上に氷床があると、そこでは、明るいレーダー反射できる可能性が示されたことになります。
 同じような火山岩が南極地域の氷床の下にあれば、同様の反射が返ってくる可能性が示されました。これが事実なら、火山岩の分布が見えており、地底湖は存在しないことになります。さらにこの研究は、氷床がある天体の地下の地質を、レーダー反射から読み取れる可能性があることも同時に示されたことになります。これも重要な成果となります。
 さて、火星の地底湖の存在は、まだ決着は見ていない問題となっています。謎のまま残されています。地球なら氷床をボーリングで掘っていけば謎は解決できるのですが、火星ですから、まだまだ先のことでしょうね。

・いろいろな探査・
火星は太陽系でも、月に次いで、
多く探査機が送り込まれている天体です。
探査は、地表を移動したり、上空からも、
いろいろな方法でなされます。
地表探査は、精密な探査に適しています。
上空からの探査は同じ精度で
惑星全体を把握するのに適しています。
目的が違っているため、いろいろな探査が必要です。

・移動の季節に・
まん延防止等重点措置も解除されました。
3月はコロナ感染の第6波はややおさまりつつあります。
感染力の強いBA.2株も心配されますが、
3回目のワクチン接種はあまり進んでないようです。
2021年度の終わりに当たり、
卒業、転勤などの移動の季節になってきました。
大人数での宴席などは自粛されているでしょうが、
少人数では催されているのではないでしょうか。
人の気持ちも春に向かって浮かれてきます。
再度の感染爆発がないことを願っています。

2022年3月24日木曜日

4_156 火星研究への旅 1:明るいレーダー反射

 今回から、火星に関する研究をいくつか続けて紹介していきます。地球地学紀行は、昨年末のエッセイを最後にして、しばらく滞っています。火星の旅を地学紀行として紹介していきます。

 このエッセイを書くために、地質、地球、惑星、宇宙など興味をもっている話題のニュースや論文を見つけると、データとして記録しておきます。次のエッセイのテーマを決めて、その論文や資料を読みながら、書いていきます。次のテーマを考えている時、火星に関係する研究の話題がいくつかあることに気づきました。まとめてシリーズとして紹介していくことにしました。
 最初の話題は、火星での水の存在です。火星にH2Oの氷があることはわかっています。問題は、安定的に液体の水が存在するかどうかです。表層には一時的に水が存在できるのですが、恒常的に存在するかどうかが重要です。なぜ、重要になるかというと、恒常的に水が存在すれば、生命が発生していれば、現在も生物がそこに暮らしている可能性があるからです。そのような環境があれば、地球外生命がはじめて見つかることになります。
 欧州宇宙機関(ESA)のマーズ・エクスプレスという火星探査機の地下探査レーダー(MARSIS)で観測データが根拠になりました。そのデータには、南極になる氷床の下、地下1.5kmあたりに、強い反射が見つかりました。そのレーダー反射は、地底湖があるためだと2018年に報告されました。さらに2020年には、反射をより詳しく調べて、この湖のまわりには小さな湖がいくつかあるとされました。
 ただし、反論もありました。地下探査レーダーでよく反射するものとして、粘土、水和物、塩水などが考えられます。反射の原因を調べるために実験がされました。候補となる粘土鉱物(スメクタイト)を低温にしていくと、レーダーは水と同じ反射信号を受け取ることを実験で示しました。そのため、南極の氷床の下の反射は、粘土鉱物ではないかという反論がされました。
 それに対して、さらなる反論、つまり水の可能性が示されてました。地球のいろいろな時代(2億年前から現在まで)の粘土質の堆積物(6箇所)をとってきて、実験室でいろいろな温度(-73℃から+24℃まで)にして、いろいろな電波(周波数1MHz~1GHz)で観測されました。その結果、火星の強い反射信号の観測データは、粘土鉱物のいずれとも似ていないということがわかりました。そのため、レーダーの反射波は、水によるものだという反論への反論でした。しかし、水であるという証拠を示したわけではありませんでした。
 他にもこの明るいレーダー反射について、議論が起こっています。その議論は、次回としましょう。

・学位記授与式・
先週、学位記授与式がおこなわれました。
例年になく雪が多いので、
外での集合写真が大学の象徴的な場所での
撮影ができませんでした。
室内での撮影でした。
しかし、記念写真は記念です。
問題は、その時の思い出が大切です。
さらには、4年間の学びや経験の証が
学位記でもあるわけです。
その学びと経験を大切にしていくべきでしょう。

・重点措置解除・
全国的にまん延等防止重点措置が、
21日ままで解除されていきます。
ワクチン接種も遅ればせながら進められてきました。
多くの人は、危機感が薄れそうです。
感染数の減少はゆるいようです。
これまで丸2年間、断続的ですが
自粛を強いられてきました。
社会は3月末の卒業、退職から
4月はじめの入学、入社などがあり
それを祝う宴会なども、解除によって
多くなるのではないでしょうか。
COVID-19の感染力は強力なままなので、
感染爆発がぶり返すのではないかと心配です。

2022年3月17日木曜日

2_205 全球凍結と生物進化 6:生き延びた光合成生物

 今回の論文では、光合成生物が生き延びたという証拠が提示されました。そこで話は終わりません。その原因やメカニズムが次なる課題となります。さいごに、課題を整理しておきましょう。


 従来の全球凍結の考えを示してから、静谷さんたちの論文により新しい成果も紹介しました。光合成生物が氷河期を生きのびた証拠が示されました。その成果から、課題も明らかになってきました。
 まずは、従来から課題であったものです。海が全面凍結していたとき、進化していた生物、特に光合成生物はどうして生き延びたのかという問題でした。さらに、全球凍結の直後には、暴走温暖化による異常な高温期がありました。寒冷期を生き延びた生物にとっては、高温という過酷な条件が急激に出現し、そこでも大絶滅がおこったはずです。この極寒と高温という2つの強烈な環境変化に、生物はどう生き延びてきたのが、そのシナリオを考えなければなりません。
 氷河堆積物のダイアミクタイトの中から光合成生物のバイオマーカーが見つかってきました。光合成生物は、過酷は寒冷期であっても生き延びていた証拠がでてきました。ダイアミクタイトが形成されるということは、氷河が溶けてそこに含まれていた堆積物が海底にたまる場があったことなります。海に氷河が流れ込んで溶け、堆積物が海底まで落ちて堆積するような海があったことになります。つまり、少なくともある地域では海が完全に氷が溶けた状態になっていたことになります。
 ダイアミクタイトができる場が、恒常的にあったのでしょうか、それとも限定された地域だけでしょうか、全球凍結の終末期だけを見ているのでしょうか。
 もし恒常的に存在するのであれば、全球凍結といいっていますが、本当に全海が完全に凍っていないことになります。それとも、全球凍結でも、その地層が溜まったような地域では、凍結を免れていてレフュージアになっていたのでしょうか。氷の中でも休眠で生きており、ほんの短い雪解けの季節だけ水の中で生命活動をしていたのでしょうか。あるいは、温泉水が常に流れ込む海などでほそぼそと生き延びてきたのでしょうか。
 もし、終末期だけに出現したのだとした、光合成生物はどうして生き延びたのでしょうか。やはりどのようなレフュージアであったのかは、まだ課題として残ります。
 寒さは火山などによる暖かな地域があれば、レフュージアとしてやり過ごせます。一方、暑さを回避するには、涼しいところに逃げる必要があります。そのような場は北極や南極周辺の海、高山の河川や池などの局地が比較的低温であったと想像されますが、地球全体が高温になれば、そのようなところでもかなり高温になりそうで、レフュージアには向かないでしょう。課題です。
 今回のバイオマーカーから見ると、温暖化のほうが問題だったようです。生物の全有機体炭素の変化から、高温期に多くの絶滅が起こっていることが示されています。この温暖化は急激であったことが問題だったようです。寒さに対応した生物が、急激な温暖化、あるいは炭素の多い大気からの強烈な酸性雨、海の酸性化なども起こったはずでしょう。生物には過酷で多くの絶滅が起こっていたようです。
 今後、この温暖期の問題を考えていく必要があるようです。幸い、温暖期の堆積物は炭酸塩岩層として大量に残されていますので、証拠が見つかりそうです。

・学位記授与式・
いよいよ大学は学位記授与式(卒業式)になります。
ホールで合同のセレモニーをして、
教室で学科ごとに学位記を手渡しをします。
今年は、この段階で全セレモニーは終了です。
通常は、この後、大きなホテルのホールで在学生が主催する
卒業式を祝う会が催され、
その後学科での祝賀会をおこなっていました。
午後のセレモニーから夜までお祝いが続いていました。
それも昔のことになっていくのでしょうか。

・引き際の準備・
最近、友人たちの退職の報が続いています。
以前は定年が、60歳でした。
最近では、65歳まで延長されたり、
一旦退職して再度給与や労働条件を変更して、
再就職することもあります。
いろいろな退職状態がでてきました。
私の退職は、まだ少し先ですが、
少しずつ引き際の準備をしています。

2022年3月10日木曜日

2_204 全球凍結と生物進化 5:盛衰のシナリオ

 地層ごとに有機物が分析されました。有機物の炭化水素の値と組合せから、生物種の区別がなされました。地層ごとで、生物の盛衰がわかってきました。全球凍結からその後の時代にかけて、生物変遷史が編まれました。

 全球凍結の時代とその直後の時代に堆積した岩石の有機物が分析されました。生物がいたことだけでなく、どのような生物のタイプであったかも、限定することができました。
 その方法は、前回紹介した有機物の炭化水素の炭素量から考えられていきました。炭化水素は、昔の生物の痕跡を示すバイオマーカーとして利用されています。
 時間経過ととともに、有機物は分解されていきます。特に長い時間がたつと(古い時代のもの)になると、分解は進みます。その時、生物ごとにもっている有機物の違いから、特徴的な数の炭化水素として分解されていきます。炭化水素の値から、生物タイプを探っていくことができます。このような化合物を、生物の痕跡「バイオマーカー」として利用します。
 論文では、岩石中の炭素が、17のヘプタデカン(heptadecane、C17H36)、19のノナデカン(nonadecane、C19H40)とプリスタン(pristane、C19H40)、20のフィタン(phytane、C20H42)、29から31のホパン(hopane)、27から29のステラン(steranes)に注目しています。
 炭化水素の組み合わせから、生物のタイプが特定されていきます。ヘプタデカン+ノナデカンは藻類がもっている組み合わせとなります。プリスタン+フィタンは光合成生物、C29からC31ホパンは真正細菌、C27からC29ステラン真核生物の痕跡を示していると考えられています。
 それらの分析結果の解析から、地層ごとでの生物の特徴とその変化を捉えています。下位の地層のダイアミクタイトから、少ないながらも光合成生物の痕跡が見つかりました。一方、真正細菌も真核生物は見つかりませんでした。次の層の炭酸塩岩の最も下位(全球凍結の終了直後)になると、生物の総量が減っていきます。その後、上位では生物の総量が増えてきます。増え方は、まず真正細菌が急激に増え、その後真核生物が増えていきます。
 地層の位置(層準といいます)ごとで、炭化水素の組み合わせの増減から、生物種の変化が読み取ることができたわけです。そこから、全球凍結からその後の時代までの、生物の盛衰のシナリオがつくられてきました。
 光合成生物は全球凍結中も生き延びていたことになります。全球凍結直後には、生物量は減少していきます。全球凍結の直後は、暴走的な高温期が訪れたとされています。急激な環境変化で大絶滅が起こったと考えました。その後、気温が下がってくると、真正細菌が一気に繁栄し、穏やかな気温になってくると真核生物が増えてきます。
 このようなシナリオが考えられていますが、いくつか気になることがあります。それは次回としましょう。

・集中講義・
今週は集中講義が実施されています。
新4年生のための授業です。
北海道では、まん延防止等重点措置が
3月21日まで延長されました。
この集中講義は、資格取得のため必要なため、
対面での授業として許可をもらって実施しています。
一日中、集中しなければならないので、
学生だけでなく、教員もヘトヘトになります。
そのため週末にこのエッセイを予約配信にしています。

・排雪作業・
北海道は異常な累積積雪量となっています。
例年地域と行政による排雪作業が
おこなわれているのですが、
すごく時間がかかっています。
我が地区は、例年なら2月に下旬には
終わっているはずなのですが
3月はじめの週末にやっとおわりました。
しかし週明けまで排雪作業は残された地区もあります。
予定としてアナウンスされたのは2月下旬の週でしたが、
3月初旬まで延びています。
排雪が終わった自宅前は、
これまで積み上げられた雪が
きれいに削られています。
道路側に2m以上の直立の雪の崖ができました。
暖かい日に崩れ落ちそうで少々心配です。
でも、広い道路がでてきた通行しやすくなりました。

2022年3月3日木曜日

2_203 全球凍結と生物進化 4:徹底した汚染の排除

 全球凍結は、生物に大きな影響を与えたはずです。多分、大絶滅が起こったはずです。その影響はどこまで及び、影響をどう捕まえればいいのでしょうか。化石がない時代での、生物の絶滅と生存を確認していくことになります。


 静谷さんたちは、全球凍結の6億5千万年前から5億4千万年前の期間に堆積した地層を調べて、その時期の生物全体の様子を探りました。
 地層は、中国の長江地塊(Yangtze Platform)に区分されているところにあります。宜昌(Yichang)市の北東にある三峡ダム付近のJiulongwanという地域に露頭があります。
 下位の地層(古い時代)はNantuo層と呼ばれ、ダイアミクタイト(diamictite)という岩石になります。このダイアミクタイトは、成因が確定していない時に使われます。泥岩の中に、いろいろサイズの岩片を不規則に含んだ堆積岩ですが、成因が判明していなときの名称です。ここでは氷河堆積物だと考えられています。
 上位には各種の炭酸塩岩からできたDoushantuo地層があります。炭酸塩岩としては、石灰岩と苦灰岩(ドロマイト)があり、それぞれ泥の薄層を含むことがあります。
 下位のダイアミクタイトは、全球凍結の時期、もしくは末期で氷河が溶け出した時代にできた地層です。炭酸塩岩は、全球凍結のあとの温暖化した時期の地層です。大気中にあった大量の二酸化炭素があり、それが温暖化を起こし氷河期を終わらせました。氷が溶けて海洋できたとき、海水に二酸化炭素が溶けて、沈殿してできた地層です。
 これらの2種類の地層から試料を採取しています。岩石の表層には現生生物や排気ガスなどに由来する有機物が混入しているという研究があるので、汚染がないように岩石の内部から試料を採取するようにしています。
 さらに、全有機体炭素(TOC:Total Organic Carbon)と有機物から由来する(300℃までで放出される)炭化水素(S1と呼ばれている)を比べていきます。S1/TOCが1.5以下なら、もともとの生物が有機物で、以上だと生物起源ではないと判断されます。非常に慎重に試料の汚染の検証がされています。
 下位のダイアミクタイトから15個、上位の炭酸塩岩から17個と泥岩から6個の試料を採取しています。汚染のない、堆積した時代の有機物だけだと確認された試料だけを用いて、分析しています。
 ダイアミクタイトは全球凍結の最中、もしくは海が開き始めた時の氷河堆積物です。もし生物の痕跡が見つかったら、全球凍結を生き延びた生物がいたことがわかります。
 どんな種類の生物が生き延びたのでしょうか。詳細は次回にします。

・汚染チェック・
有機物の汚染のチェックは、古い時代のものになるほど
非常に慎重にならなければなりません。
なぜなら、明瞭な化石の形態などがみれないからです。
また、形成後のいろいろな時代の
汚染の可能性も排除しなければなりません。
ここで示した汚染のチェックの方法は、
先カンブリア紀の石油探査で用いられるものだそうです。
慎重に汚染をチェックされた試料で
今回の研究は実施されています。

・雪解けの季節へ・
3月に入りました。
北海道は温かい日と雪の日が繰り返しています。
温かい日には雪が溶けていきます。
北国もいよいよ春に向かっていきます。
春は待ち遠しいのですが、
雪解けのぬかるみの時期は大変です。
水たまりや車の水はねなど
いろいろ厄介な状態になります。