2018年8月30日木曜日

5_157 火星の水 2:水の存在

 火星で、恒常的に水が存在する可能性が示されました。かつての調査で、火星には水の痕跡が各地で確認されています。しかし今更なぜ、水の存在が重要になってくるのでしょうか。その発見の意義を考えていきましょう。

 前回、火星探査の歴史の概略を見てきました。そして、現在も継続して使用されている探査機があることも紹介しました。そのうちのひとつ火星探査機マーズエクスプレスの観測データから、火星に地下には、液体の水が存在する可能性があることはわかってきました。
 2018年7月25日の科学雑誌「サイエンス(Science)」にイタリアの天文物理研究所のオロセイ(Roberto Orosei)さんたちの研究グループによる報告が掲載されました。
 Radar evidence of subglacial liquid water on Mars
 (火星の氷河下の液体の水のレーダーによる証拠)
というタイトルの論文でした。
 生命を探そうという探査が以前にもあったことは紹介ました。ですから、水の存在についての探査というと、今更という気がします。しかし、これ論文には、重要な科学的意義があります。前回も述べましたが、生命の存在をまだ確認はされていません。隕石からの化石の報告もありましたが、まだ多くの研究者が認めているものではありません。
 もし、化石が見つかれば、誕生の条件や絶滅の原因が問題になります。もし。現在、生きている生物が発見されれば、その実体や仕組みなどが問題となります。化石でも生物でも、その発見は、非常に重要なものです。
 ところが、現在のところ、SFにでてくるような文明もった生物は地表にはいないことは確実です。さらに、地表を闊歩するような大型の動物、繁茂する植物も地衣類も存在しないようです。微生物や化石は、これまで調べた範囲では、納得できるような証拠は見つかっていません。しかし、見つかっていないことを、議論してもしかたがありません。不在の証明は不可能なのです。
 科学的に考えるのであれば、微生物や小さい化石の存在を発見するには、これまで以上にすぐれた探査機を送り込むか、研究者が火星に長期滞在して探すしかないでしょう。もし生物が、小さくても、地表付近に、ある程度の量が存在しているのなら、精密な探査機での何度かの探査、あるいは人による長期の調査で発見できるはずです。でも、これはすぐには達成できない、難しい探査、調査になります。
 現状では、遠回りかもしれませんが、生物の誕生や生存に必要な条件を探っていくことが、一番の近道かもしれません。現在でも生物が生存しているには、液体の水が恒常的に存在するかどうかが、重要な条件になります。そんな水が発見されたというのが。この論文の意義です。

・地球生物・
水の存在が、生物にとって重要であるとするのは、
地球生物からの類推です。
もし水の存在を必要としない生物がいたとするのなら
この探査の方法は使えません。
しかし、現在の私の科学では、炭素を中心とした生物には
水の存在が不可欠だと考えられます。
他のメタンやエタンなどが液体として存在する条件であったとしたら
どのような生物が存在しうるかはまだ不明です。
炭素以外の元素、例えば珪素などを利用する生物は想像し難いものです。
もしマグマの海が恒常的ある惑星環境なら、
そのよう生物が存在することは可能かもしれませんが。

・想定外・
地球や地球生物、私たちの太陽系が、
ごくありふれた一般的なものだという前提を置くことは
よくなされている仮定です。
「メディオクリティの仮定」などと呼ばれています。
私たちの太陽系は、一般的な惑星系だと考えられていたのですが
太陽系外惑星で、多様な惑星系があることがわかりました。
少なくとも惑星系では、「メディオクリティの仮定」が
成り立たないことは明らかになりました。
自然は人間の想像を遥かに越えるようです。
地球生物も、宇宙に多数、多様に存在する
ひとつ生物タイプに過ぎないかもしれません。
もし、想定外の事実が一つ見つかると、
太陽系の生物自体の見直しも、
必要になってくるかもしれませんね。

2018年8月23日木曜日

5_156 火星の水 1:探査の歴史

 火星は、20世紀から探査がはじまり、21世紀になっても探査が継続されています。それは、研究者が火星に強い興味を抱いているためでしょう。そんな探査から新しいことがわかってきました。

 人類は、古くから火星に並々ならぬ興味を持っていました。火星は、地球に近い天体であること、惑星なので動きが不思議であること、色が赤いっぽく見えること、などで古くからいろいろな想像を掻き立てられる星でした。色が赤く見える惑星なので、戦争や血をイメージさせるので、ギリシア神話やローマ神話など、各地の神話にも、そのイメージを反映した物語がで登場しています。
 19世紀には、ローウェルやスキアパレッリが望遠鏡で観測したところ、運河のような筋が見えたという報告が出され、火星には発達した文明があるという空想がされてきました。そこから、いくつものSFが生まれました。
 20世紀後半には、アメリカのマリナー、バイキング、マーズ・グローバル・サーベイヤー、マーズ・パスファインダーなど、いくつもの探査が実施されてきました。その中には、火星探査で生命の痕跡の有無を調べる実験なども行われてました。1997年のマーズ・パスファインダーにはソジャーナという探査車が地表を動き回って、詳しい調査がなされました。
 1996年には、火星から飛んできた隕石から生命の痕跡(化石)を発見したという研究報告もあり、大きな話題になりました。しかし、現在では、化石ではなく、無機的につくられたものではないか、と多くの研究者は考えるようになっています。
 21世紀にも、何度も探査がなされています。2004年にはスピリットとオポチュニティの2つの探査車が、2008年にはフェニックスが極地付近のクレータ内を、2012年にキュリオシティは長期にわたって長距離の探査をおこないました。
 このような探査からも、生命の存在はいまだ確認はされていなのですが、否定もされていません。現在では、生命が存在できる環境や条件があったのか、あるいは現在もあるのかということが焦点となっています。
 現在稼働中の探査機として、欧州宇宙機関(ESA)のマーズ・エクスプレスから分離したマーズ・エクスプレス・オービターや、2006年に火星の周回軌道に入ったマーズ・リコネッサンス・オービターがあります。
 マーズ・エクスプレスは15年にわたって探査を続けており、搭載された電波高度計からの情報を解析したところ、重要な発見がありました。それは、次回にしましょう。

・短い夏・
北海道は、先週から涼しくなってきました。
大雪山の黒岳では、初雪が観測されました。
初雪は、例年より早いものだそうです。
本州は、例年にない猛暑で、
北海道でも7月から8月上旬は暑い日が続きました。
しかし、先週末から今週にかけては涼しいです。
朝夕は、半袖では寒いので、上着を来ています。
北海道の短い夏も、終わったのでしょうか。

・私の夏休み・
本州はまだ、学校は夏休み中でしょう。
北海道の、小中高校は、今週から学校がはじまりました。
私は、夏休みとして、来週から帰省します。
私だけで、1週間滞在して、母のことで、
いろいろ折衝や対応してきます。
後半の3日、家内が合流します。
もしかすると、一日だけ長男が
合流できるかもしれませんが。
家族があちこちにいると
旅行も兼ねて、あちこちで会うことが
夏休みになってしまいますね。

2018年8月16日木曜日

1_163 大陸の移動 4:シミュレーション

 大陸移動には、従来の考えでは説明できないことがありました。シミュレーションによって検証したところ、別の運動をすることがわかりました。その結果、今まで不明の現象を説明できました。

 プレートの運動は、海洋プレートの動きだけでなく、大陸の移動をも起こします。つまり、プレート運動では、海洋も大陸の移動も説明できなければなりません。これまで、スラブ(沈み込む海洋プレート)が沈み込むときの「引張力」が、プレートの運動の原動力だとされていました。その考えでは、引張力が働けば、海洋プレートの移動の方向に対して、大陸プレートが抵抗力となり、移動速度が遅くなりように働くと考えられていました。これは、相対的に海嶺方向に向かって大陸プレートが移動することになります。このような運動をするのであれば、インド大陸がユーラシア大陸に高速で移動してぶつかったという現象が説明できませんでした。
 海洋研究開発機構の吉田さんと浜野さんのシミュレーションをしたところ、「スラブ引張力」では、大陸プレートの移動が起こらないという結果が出されました。シミュレーションは、いくつかの条件のもとでおこわなわれています。海洋プレートの海嶺と海溝の間に大陸プレートが位置するような場合です。そして、大陸プレートと海洋プレートの粘性の比が大きい(3桁ほど)場合、つまり大陸のマントルが固く振る舞う場合、大陸プレートの移動のスピードが大きくなることが示されました。
 そのような条件では、大陸プレートは、海溝側に向かって進むことがわかりました。これまでの考えでは、海嶺側に向かって進むことになっていましたが、逆方向に進むことになります。大陸が分裂後の移動や、小さく分裂した大陸の高速の移動などが、従来の考えではうまく説明できませんでした。例えば、大陸の分裂とは超大陸パンゲアの分裂のことで、分裂から西洋の拡大へとつながっていった運動です。大陸の高速移動とは、上で述べたパンゲアから分離したインド大陸が、高速の北上してユーラシア大陸への衝突という事実に相当します。
 これらの運動が、吉田さんと浜野さんのシミュレーションでは、説明可能でした。吉田さんと浜野さんの論文のタイトルになっていた「パンゲアの分裂とインド亜大陸の北方移動」の意味するところです。

・お盆には・
今年のお盆は、どのようにお過ごしでしょうか。
私は、いつものように大学で過ごしていました。
大学は16日まで休みですが、
通常の日と同じように、大学でています。
守衛さんのいるところから入ることができます。
記名が必要ですが、いつもと同じように仕事ができます。
私は、弁当をもっていきますので
研究室にさへ入れれば、いつものように夕方まで仕事ができます。
今年もいつも同じような日々を過ごしています。

・入稿・
お盆休みを早め終わり、
16日には仕事をはじめている会社もあります。
私がお願いする印刷屋さんも早めに仕事をはじめています。
業者の方が、大学が閉まっているので
来てもらうことができません。
私が、本の原稿を会社まで、
朝一番に持参することにしました。
そのあとは、街を少しうろうろすることにしています。
一段落のあとのひとときの息抜きでしょうか。

2018年8月9日木曜日

1_162 大陸の移動 3:スラブ

 地球の内部から表層にかけての運動は、熱の対流が原動力となっています。表層のプレート運動を詳細に見ていくと、どのような力が原動力かは、難しい問題となります。大陸の移動に関する新しい考えが提示されました。

 地表での大陸間の精密な観測事実からプレートの運動がわかり、プレートテクトニクスが実証されました。地震波の観測からマントル内の密度差、温度差から、マントル物質の対流が推定され、現在ではプルームテクトニクスと呼ばれる運動論が提唱されています。
 地表では、プレートとして連続的な運動として認識されていますが、マントル内の物質の分布状況を見ると、断続的な運動に依存しているようです。プルームの運動(マントル対流)の原動力は、地球の内部の冷却と熱の放出という物理的な過程でした。物質の運動は断続的ですが、温度の流れとしては継続的に続いているようです。
 大局的には熱放出に伴う対流運動となりますが、表層のプレート運動としてみると、その詳細は必ずしも解明されているわけではありません。
 かつては、海嶺で海洋プレートができて広がる、と単純に考えられていたのですが、それでは海洋プレートの沈み込みも起こらず、深く沈み込むんでいくこともなさそうでした。
 その後、作用しているさまざまな力から、プレートの運動を定量的に捉えるようになってくると、別の原動力が候補になってきました。すべてのプレート運動の原動力は、冷えた海洋プレートが沈み込むときに働く力だと考えられるようになってきました。海嶺でできた海洋プレートが海底をいどうするうちに冷やされ密度が大きくなります。ある密度以上になると、なんらかのきっかけがあれば、海洋プレートは沈み込むことができます。大陸プレートと海洋プレートがぶつかれば、海洋プレートが沈み込みます。海洋プレート同士であれば、より冷えて密度の大きい、古い海洋プレートが沈み込みます。沈み込む海洋プレートの沈み込みが、表層のすべてのプレートの原動力と考えられました。これも、熱の対流の一部と捉えることができます。沈み込む海洋プレートのことをスラブと呼ぶので、この原動力は「スラブ引張力(ひっぱりりょく)」と呼ばれていました。
 「スラブ引張力」によって、海洋プレートの沈み込みだけでなく、海嶺でも張力が発生して、マグマ形成も促します。また、海洋プレートの運動が解明されれば、大陸プレートの運動も自ずから理解されることになります。
 しかし、「スラブ引張力」では、大陸プレートの移動が起こらないという結果が見出されました。海洋研究開発機構の吉田晶樹さんと浜野洋三さんが、2015年のScientific Reportsに報告されました。論文のタイトルは、
Pangea breakup and northward drift of the Indian subcontinent reproduced by a numerical model of mantle convection
(マントル対流の計算モデルによって再現されたパンゲアの分裂とインド亜大陸の北方移動)
というものでした。
 パンゲアとはパンゲア超大陸のことです。超大陸やインドが、なぜ大陸プレートの運動と関係するのでしょうか。詳しくは、次回としましょう。

・集中・
大学の8月の最初の週の試験期間が終わると共に
涼しくなってきました。
皮肉なことです。
私としては、おこないたい作業があったので、
涼しくなり、集中できて助かっています。
一日、しっかりと集中できています。
細かい作業が必要なのですが、はかどります。
そして、校務も一気に行え効率的です。
このまま涼しくなってくれると助かるのですが。

・編集中・
現在、本の執筆が佳境にはいっています。
初稿が完成し、現在、編集作業をこなっています。
進行状況によっては、お盆明けには、
印刷屋さんに入稿したいと考えています。
私としては、できるだけ初稿の校正が少なくなるように
推敲をしていく必要があります。
ただし、少々文章量が増えたので、
予算内で印刷ができるかどうかが、心配です。
もしだめなら、少部数のデジタル出版に
変更することになるかもしれません。
そうなると、初稿の校正は、不可能となります。
まあ、今できることを、限られた時間で
優先順にできる範囲でやるだけです。

2018年8月2日木曜日

1_161 大陸の移動 2:プルーム

 マントル内部の運動は非常に遅いものなので、実測をすることは、不可能です。では、どうして運動を捉えるのでしょうか。それは、動くもののコマ撮り写真をみて、その運動を想像するような方法がとられました。

 プレートの動きは実測されました。しかし、地球内部のマントル物質の運動を捉えることはできるのでしょうか。マントル対流と呼ばれいていますが、その運動の実体が、20世紀末にやっと見えてきました。
 マントル対流の把握は、地震波の観測からはじまりました。精密な地震波の観測網、そしてデータ加工をして地震波トモグラフィという処理によって視覚的に示されました。
 地震波を詳しく調べると、岩石の密度変化を読み取ることができます。マントルが同じような岩石からできるとすると、密度変化は温度変化とみなせます。そのような処理の結果、海溝で沈み込んだ海洋プレートが、上部マントルと下部マントルの間に、冷たいまま大きな塊として溜まっているところが見つかりました。メガリスと呼ばれました。メガリスの下、核とマントルとの境界には、かつてのメガリスが落下したような冷たい固まりも見つかりました。
 一方、温かいマントルの巨大な塊も見つかっています。これはホットプルームと呼ばれました。また、地震波観測で以前から、核とマントル境界に、D"(Dダブルプライムと読みます)というゾーンも知られていました。D"は、周辺の岩石とは、密度や温度の違いがあるところでした。ただし、D"が、核とマントルの境界部に、層として連続して存在するのではなく、部分的にあったり、なかったりするものでした。冷たいところは、メガリスの落下物と判明しました。温かい、あるいは密度の小さいところは、ホットプルームになる予定のものだと考えられました。
 マントル物質の動きはゆっくりとしたもの(年間10cm程度)なので、動きを捉えることは難しいものです。ですが、このような観測事実、状況証拠から、マントル全体におよぶ巨大な対流が想定され、以下のような運動モデルが考えられました。
 新しい海洋プレートが、海嶺で形成されます。できたばかりの温かい海洋プレートは、海底で冷却されていきます。やがて長く海底に置かれて冷えた海洋プレートは、温かいマントル物質より密度が大きくなり、海溝で沈み込みます。冷え切った海洋プレートが、マントルの上部下部の境界に落ち込むのですが、鉱物の物性の妙で、冷たいマントル物質は密度変化は起こるのですが、ある条件では浮力が発生することがあり、留まります。これがメガリスになります。速い速度、温かい海洋プレートでは、メガリスはできず沈み込んでしまうようです。
 メガリスの中にある海洋地殻成分が周辺より高密度になります。長期間溜まって、その成分が増えることで、メガリス全体が周りより重くなり、沈み込みます。海洋プレートから落下するメガリスまでが、冷たい物質の流れとしてコールドプルームとなります。それが、核とマントル境界まで落ち込んで、D"の冷たいところになります。
 巨大な物質が落ち込んくると、質量バランスをとるため、核とマントル境界から物質が出ていくことになります。それがD"の温かい部分です。マントルの中を上昇したものがホットプールと呼ばれるものです。ホットプールは、温かいマントル物質の運動する姿を想定して、名付けられました。ホットプルームの一部が、海嶺を生み出すような火成活動します。他にも海洋底の巨大な海台、長期におよぶハワイの火山なども、ホットプルームが原因だと考えられます。ホットプルームの存在で、海洋域の長期間の火成活動を説明することができるようになりました。
 地球の核と海洋も含めたマントル全体の運動論が、プルームテクトニクスになりました。

・猛暑・
本州は猛暑ですが、いかがお過ごしでしょうか。
極力冷房ある部屋で過ごされているのでしょうか。
北海道では、7月末から8月になって、
気温も上がりました。
ただ、湿度も高くなり、暑さに不慣れで
皆、ぐったりとしてしまいます。
夜は気温が下がるので、寝れるので
なんとか暑い夏を過ごせています。
大学も自宅も、クーラーがないので、つらいです。
今年の夏は、暑くて過ごしにくいようです。
皆様もお体に気をつけてください。

・人に寄り添う・
現在、大学は試験期間で前期が終わろうとしています。
何度か書いたと思いますが、
一番暑い時期に試験は、
学生にとって非常に辛いものです。
本当にこれで学びの集大成、確認が
できるのでしょうか。はなはだ疑問です。
スケジュールをこなすことだけが、優先していますが、
人に寄り添った臨機応変さも欲しいですね。