2019年12月26日木曜日

5_170 系外惑星 5:綿あめ惑星

 年末になって、系外惑星のニュースが、NASAから飛び込んできました。その系外惑星も、これまで知られていない異形なものでした。しかしその特徴には、どこか愛嬌がありました。

 本号が今年最後のエッセイになります。系外惑星のシリーズで終わることになりました。もともとの構想では、前回のエッセイで終わるはずでした。ところが、2019年12月20日にNASAから、系外惑星に関するニュースが配信されました。これを、年末のエッセイの話題にすることにしました。
 ケプラー宇宙望遠鏡が、2012年から2014年にかけて発見した系外惑星を、ハッブル望遠鏡で観測して、詳細がわかったというニュースでした。
 観測された系外惑星は、恒星のKepler-51(太陽系から約2600光年の距離)を回る3つの惑星のKepler-51b、Kepler-51c、Kepler-51dです。
 恒星の前を惑星が通り過ぎるとき、大気を透過したときの光(透過スペクトル)をハッブル望遠鏡で分析しました。すると、主に水素とヘリウムからできていることがわかりました。水は検出できませんでした。大気が厚すぎるので表層の成分しか調べられず、内部の成分はわかりませんでした。ですが、大気の下には、メタンガスがたくさん含まれているのではないか、と推定されています。
 また観測の結果、3つの惑星は木星ほどのサイズがあるのですが、密度が非常に小さいことがわかりました。ガス惑星である木星(1.33 g/cm³)と比べても、いずれも100分の1の0.1 g/cm³ほどしかありませんでした。密度から考えると、内部にも重い物質(鉄や岩石など)はほとんどなく、ガスだけからできた惑星になります。NASAはこのような惑星を"cotton candy"(綿あめ)と呼び、"super-puff"(チョウふわふわ)の表現しました。
 ところが、一番内側にあるKepler-51bは、恒星の熱で大気を大量に飛ばされているようで、10億年ほどで海王星サイズになってしまうと推定されています。まだそうなっていないということは、今の状態がずっと維持されていたのではなく、「最近」このような状態になったと推定できます。もちろん「最近」とはいっても天文学的な表現で、億年単位の話しです。
 どのようにして異形の綿あめ惑星ができたのでしょうか。もともと恒星から遠く離れたところで、メタンや水素化合物が固体になるような距離で(スノーラインと呼ばれる)できた惑星だと考えられます。それが何らかの原因で、恒星の近くに移動したことになります。その結果、水素やメタンが気化して密度の小さい惑星に膨れ上がったということです。
 綿あめ惑星の写真は、
https://www.nasa.gov/feature/goddard/2019/cotton-candy-planet-mysteries-unravel-in-new-hubble-observations
で見ることができます。背景の天体配置などは正確です。ただしこの画像は、科学的に推定して作られたものです。写真はふわふわとして可愛く見えます。

・ホワイト・クリスマス・
北海道は、根雪と思っていた雪が
暖かさで何度から融けてしまいました。
それでも、北国の冬ですので、
雪が降り寒波がくると根雪の戻ります。
クリスマスもホワイトでした。
今年は、変動の多い気候でした。

・時代の流れ・
最近の若者は、年賀状を
あまり書かなくなっているようです。
SNSで連絡することが当たり前なので、
それで済ましているようです。
テレビも持っていない学生も多いです。
テレビは三種の神器のひとつと
言われていた時代もありました。
しかし若者も映像やニュースはみています。
映像や動画は、パソコン、スマホ、タブレットなどで
YouTubeやネット放送を見ているようです。
ニュースもネットで配信されるものです。
これも時代の流れですね。

・よいお年を・
このエッセイを週の初めに書いているのですが、
まだ講義は続いています。
ですから、エッセイが届いたころから
私は冬休み入り、一段落となります。
今年最後のエッセイとなります。
よいお年をお迎えください。

2019年12月19日木曜日

5_169 系外惑星 4:大気組成

 このシリーズで、系外惑星の軌道と質量以外の情報を調べるのは、難しいといいました。しかし、いくつかの惑星で、大気組成が観測されてきました。そこで、今までの太陽系の常識を覆すものが、見つかってきました。

 系外惑星では、軌道や質量は求められますが、それ以外の性質を求めるのは難しいと紹介しました。これは少し考えればわかります。遠くの天体では、恒星は光を発しているので観測できますが、惑星は光を発していません。ですから、惑星の存在を探ること、そこから軌道や質量は恒星の変動を観測することで可能です。ところが、いくつかの系外惑星で、もっと詳しい情報が得られてきました。2つの系外惑星を紹介しましょう。
 かに座方向に97光年のところある恒星(GJ-3470)でみつかった、GJ-3470bという系外惑星です。この惑星は、質量が地球の12.6倍、公転周期が3.3日となっています。短時間の周期で、恒星の非常に近いところを回っていました。サイズは海王星に似ていて、恒星に近いところを回っているので、「ホット・ネプチューン」に分類されていました。海王星型の惑星なら、大気は水蒸気やメタンがになるはずです。
 公転周期が短いので、太陽の前を通るときの観測(12回)と、後ろを通るときの観測(20回)が繰り返しおこなわれました。この惑星からは、太陽に暖められて大気が飛び出していました。惑星から飛び出した大気に、恒星からの光の波長が吸収されて、大気組成を調べることできました。その結果、水素やヘリウムという、まるで木星のようなガス惑星に似た大気でした。「ホット・ジュピター」と呼ばれる惑星の典型でした。海王星と考えられていのですが、その大気組成とは異なっていました。系外惑星、GJ-3470bも今までの太陽系の常識を覆しました。
 もう一つは、しし座方向に124光年のところにある恒星(K2-18)にあるK2-18bです。この系外惑星は、公転周期が30日ほどでした。この惑星は、ハビタブルゾーンの軌道にありました。質量は約8.9倍で、地球と海王星の中間になります。地球より大きな「スーパー・アース」、あるいは海王星より小さい「サブ・ネプチューン」などに分類されています。
 恒星を横切った時に観測(9回)がなされました。その時、惑星大気の分光分析されて、組成が求められました。この惑星は、ハビタブルゾーンにある系外惑星ではじめて大気組成が明らかになったものでした。大気には、水素とヘリウムの他に、水蒸気も見つかりました。
 ただし、この惑星には、特殊な条件がありました。まず恒星が赤色矮星であることです。赤色矮星は、一般的な恒星(主系列星)と比べて低温で、核融合反応はゆっくりと進んでいます。質量は小さいのですが、寿命が長く(1000億年以上)で、周りに惑星系があれば、安定した条件が長期間維持されると考えられます。またこの系外惑星は、公転と自転が一致し、惑星の同じ面が常に恒星を向いています。地球と月の関係(潮汐固定)と同じです。表面温度は、265K(-8℃)と推定されています。
 大気中の水蒸気の発見は、惑星には表面の条件が整っていれば、水、つまり海の存在が期待されます。自転が固定されているので、恒星に暖められた大気が循環することで、場所によっては、水が安定に存在できる場所が生まれるかもしれません。ただし、このような海王星のようなガスの多い惑星で、地表に硬い大地があり、海洋があるかどうはまだ不明です。
 多数の系外惑星からは、特異性、意外性の報告が目に付きます。これいいことなのかもしれません。地球が宇宙の中心であるという天動説から、地動説へと気づく「コペルニクス的転回」が、系外惑星から生まれつつあります。今後も、もっとたくさんの特異性が発見されるでしょう。どこまでが地球、太陽系の理屈が通じるのか、注意深くチェックしていく必要があると思います。

・コペルニクス的転回・
コペルニクス的転回は、
もちろんコペルニクス自身が、言ったものではありません。
これを言ったのは、哲学者のカントでした。
カントが、自己の認識を180度変更する
という意味として用いた言葉でした。
認識(主観)と対象(客観)の関係が
従来は客観→主観(認識は対象に依存)であったのを
主観→客観と、カントは転回しました。
これは、自分の認識がより中心になっているという意味です。
その意味では「天動説」的ですが。

・寒暖の繰り返し・
北海道は、まだ温かい日と寒い日が繰り返しています。
11月には根雪になったか
と思えるほどの雪になっていたのですが、
雨が降ったり、暖かさで雪が融けたりしました。
例年冬になっても温かい日もあるのですが、
さすがに何度も雨というのはあまり経験がありません。
まあ、これも気候の変動幅のひとつなのでしょうね。

2019年12月12日木曜日

5_168 系外惑星 3:ハビタブルゾーン

 TESSが、地球型惑星を探す理由は、私たちのことを、もっと知りたいという、隠れた意図があるのではないでしょうか。その探査には、ハビタブルゾーンという考えを知ることが、重要になります。

 地球型惑星とは、サイズもさることながら、軌道もある程度遠くを回っている必要があります。それがTESSで、地球型惑星を探す理由ともなっています。地球に似た惑星であれば、生命が存在する可能性があります。もちろん、惑星の存在は観測できますが、生命の存在が直接観測できるわけではありません。ですから、あくまでも「可能性」を探すことになります。では、どのようにして、その可能性を探ることができるのでしょうか。
 地球型惑星と呼ぶには、サイズだけではなく、軌道も恒星から一定以上遠くを回っている必要があります。系外惑星としてサイズも公転軌道も観測できます。ただし、生命が存在する可能性があるのは、小さな地球サイズの惑星で、しかも軌道がある一定の領域になければなりません。その領域の範囲は、「ハビタブルゾーン」と呼ばれています。
 小さな惑星と限定するのは、大きな惑星は表面に大量のガスをもつガス惑星になります。太陽系でいえば、木星や土星のような天体で、そこでは水も生命も存在しそうにあります。小さければ、大気も薄く、硬い表面をもつ惑星、岩石惑星が期待できます。
 また、ハビタブルゾーンとは「生存可能領域」と訳されていますが、液体の水が惑星表面に存在できる領域となります。実際に水を観測することは困難ですが、水が惑星表面に存在するには、薄めの大気があり、平均気温が0℃から100℃の範囲に維持されている必要があります。その位置は、恒星の明るさと距離によって計算できます。恒星が明るければ、ハビタブルゾーンの軌道は遠く離れ、暗いと近くなります。
 ハビタブルゾーンにある地球型惑星は、明るい恒星では見つけにくく、暗い星では見つけやすくなります。もしその領域に地球型惑星が見つかれば、生命や水の存在が観測できなくても、間接的に水があり、生命が存在する可能性を示します。
 しかし注意が必要です。ハビタブルゾーンの地球型惑星には水が存在し、水が存在すれば、生命が存在する可能性があるという論理構造は、実は地球や私たちの太陽系が、宇宙に当たり前に素材する恒星、惑星だという前提にしています。地球を典型的なものとして、地球型惑星を探そうという考えです。さらに水が惑星表面に長時間維持されていれば、生命が発生し継続的に存続し、進化していく可能性もあります。この推論も、私たちの地球や生命を典型ということを前提にしています。
 それらの前提に普遍性があるかどうかには、根拠はありません。私たちの太陽、地球、生命が、唯一無二で、特異な例なのかもしれません。もしそうなら、地球を典型とするわけにはいきません。
 これまで発見された系外惑星の多様性をみていると、私たちの太陽系も、非常に多様な惑星の一つに過ぎないことを知らされました。多様性をもっと調べていく必要がありそうです。それは私たちのことをもっと知ることになるはずです。

・暖気・
北海道では火曜日から2日続いて
暖かい日が続きました。
すると今まで積もっていた雪が溶けていました。
根雪と思っていたのですが。
北海道では根雪になると防寒の冬靴をはきます。
この靴は、防寒と滑り止めを特化しています。
防水機能は少々劣っています。
そのため、ぐしょぐしょの道を歩くと
水が靴に染み込んできます。
雨靴ではすべるので、
この時期に氷が溶けるような天気は
非常に困ってしまいます。

・卒業研究・
今年も学科の4年生が
卒業研究のレポートを執筆し提出をしました。
私のゼミの学生も数名書きました。
学科では卒業研究を必修としているので
卒業するためにはレポートを
必ず提出しなければなりません。
分厚いレポートになるので、
2年間かてで準備していきます。
ゼミにでて指示に従っていれば、
文章を書くのが苦手な学生でも
大部のレポートが書けます。
でも、コツコツと積み上げていく努力が必要です。
それが苦手な学生は苦労しますが。

2019年12月5日木曜日

5_167 系外惑星 2:トランジット法

 TESSの観測方法は、トランジット法と呼ばれるものです。系外惑星を探す方法としては、もっとも一般的なものです。ただし、長所も欠点もあります。TESSは、その欠点を他の観測で補っていきます。

 TESSによる初期的な成果は、前回紹介しました。TESSは、近傍の恒星をターゲットにしています。ターゲットになる恒星は、12等級より明るく、太陽に似た恒星(G型とK型主系列星)、約50万個が対象となっています。1000個の赤色矮星も加わっています。
 TESSの惑星探査法が「トランジット法」と呼ばれるものです。トランジット法とは、恒星の周りを惑星が周ることで、恒星の明るさがわずかですが変化します。この明るさの変化を観測する方法が、トランジット法です。この探査で、地球サイズ以上の惑星、公転周期が60日以内のものが見つかると考えられています。
 今後、多数の地球型惑星を発見していくことと思います。TESSが地球近傍で明るい恒星の探査をしていますので、発見されれば、地球からの別の望遠鏡でより詳しい観測をすることができます。その観測で、惑星の質量や軌道や公転周期、状況などの詳細がわかってくことが期待されます。これが近傍の恒星の探査をする重要な意味です。
 例えば、TESSによって観測された53光年のところにあるHD 21749(レチクル座の方向の8等星)の恒星から、2つの系外惑星が発見されています。それを地上から観測して、惑星「HD 21749 b」は、サイズが地球の約2.7倍、質量は約23倍、表面温度は150℃、公転周期は約36日と推定されました。高温で大きい惑星で、地球とはあまり似ていませんでした。トランジット法では、大きな惑星、恒星近傍の惑星、公転周期の短い惑星の発見がされやすくなります。この惑星の特徴は、今まで発見されたTESSの惑星で、もっとも公転周期の長いものとなっていることでした。
 HD 21749の恒星系からは、もうひとつの惑星「HD 21749 c」が発見されています。この惑星は、サイズが地球の約90%、質量は80%で、地球に似ています。表面が岩石からできている惑星だと考えられています。ただし、公転周期は約8日で恒星に非常に近いところを回っていて、表面温度は約430℃になると推定されています。
 発見された恒星系や惑星のより詳しい観測が、地上の望遠鏡や宇宙望遠鏡でなされることになります。そこで新しい情報が付け加わります。全天を網羅的に観測することが、TESSの役割となります。ご近所の系外惑星のカタログづくりとなるわけです。

・師走・
いよいよ師走となりました。
以前は、いろいろとアセリがあったのですが、
最近はアセリなくなりました。
でも、今も変わらず、師走になると、
1年のたつ速さを噛み締めてしまいます。
年齢のせいでその速さは加速されているようです。
年々すべき仕事が終わることなく続き
日々それに追われているせいでしょうか。
仕事で1年というくくりで、
振り返ることも少なくなりました。
仕事が終わった時が区切りとなるだけです。
そして次なる仕事へと気持ちを切り替えていきます。
そんなとき、エッセイのこのメモは
1年の振り返り役に立っています。
今年のエッセイも残すところ、後3回となりました。

・雨・
北海道はまた、週末から今週はじめにかけて
暖かくなり、雨も降りました。
根雪かと思った雪が、かなり溶けました。
しかし、翌日からはまた冷え込み、雪になりました。
北海道だけでなく、日本の各地で
激しい寒暖の繰り返しが起こっているようです。
体調を壊す人もいることでしょう。
私も少々風邪気味になっていきました。
無理しないで、睡眠と栄養をとるように心がけましょう。

2019年11月28日木曜日

5_166 系外惑星 1:TESSへの期待

 太陽系外の惑星の発見は、度々ニュースになり、このエッセイでも何度か取り上げてきました。系外惑星には、多様な惑星、そして異形の惑星、地球に似た惑星などがあることがわかってきました。

 ノーベル物理学賞は、ピーブルズ博士の他に、系外惑星を発見したマイヨール博士とケロー博士に贈られました。その後、太陽系外惑星の探査のためにケプラー衛星が打ち上げられ、大きな成果を上げました。系外惑星の探査の結果は、驚きの連続でした。9年半にもおよぶ観測期間も推進装置のトラブルで、52018年11月15日に終わりました。
 ケプラー衛星は、はくちょう座の方角だけを向くようにして、観測していました。星域は限定されていたのですが、50万個以上の恒星を観測して、2600個以上の太陽系外惑星を発見しています。観測期間が長かったとはいえ、限られた星域でこれだけ多くの系外惑星が発見できたのは、大きな成果となります。多様な惑星、異形の惑星が見つかりました。
 遠くの恒星系まで観測したので、恒星近傍を巡る大きな惑星が見つかりやすく、そのような異形さが目立った結果となったのかもしれません。つまり、少々バイアスのかかった観測結果を見ているかもしれません。多様性は知ることは重要ですが、平均的な姿を知ることも重要です。
 ケプラーの後継機として探査衛星TESSが、2018年7月25日から観測を開始しています。TESSの特徴は、ケプラーとは軌道が違っていることと、観測できる星域が格段に広い点です。期間が限定されているでの、近くて明るい恒星の周りにある太陽系外惑星を探査することになります。最初の1年は南天を、次の1年で北天を観測する予定になっています。
 TESSの観測では、太陽系近傍の恒星で比較的小さな天体、恒星から少し離れた惑星も発見できるはずです。地球に似た惑星がどの程度あるのか、その多様性も調べることができるはずです。そこから、平均的な惑星系を知ることができるのではないでしょうか。
 TESSは、11月18日現在、太陽系外惑星の候補(TESS Object of Interest:TOIと略されています)が1414個あり、その内惑星の半径が地球の4倍以下のもの候補が443個出てきて、270個がすでに惑星でないと分かっています。現在、34個が惑星だと確認されています。4ヶ月あまりで34個の地球に似た惑星を発見しています。大きな成果です。

・バイアス・
最近、論文で系外惑星について調べていました。
多数の惑星の多様な姿をみると、
私たちの太陽系が珍しいもののように感じます。
そこにはバイアスがかかっていることに注意が必要です。
ケプラーでは、恒星近傍の大きな惑星が
発見しやすいというバイアスがありました。
そのバイアスの効果の有無や程度を
今回のTESSは明らかにしてくれるはずです。

・寒暖差・
北海道は、先週末から暖気がおとずれ、
先週初めまでの寒波で降った雪が一気に融けました。
雪が融けるのは助かります。
一度、寒波がくると、体が冬に向けて寒さに備えます。
そこに暖かさが戻ってきました。
気温変化の激しい天気で
体調を壊しそうで心配です。
十分な休息をとれるように心がけたいですね。

2019年11月18日月曜日

6_168 2019年ノーベル物理学賞 3:地球の立ち位置

 ノーベル物理学賞の内容に紹介しています。前回のピーブルズ博士の研究は多岐に渡っていたのですが、マイヨール博士とケロー博士の研究はわかりやすいもので、そのインパクも想像しやすいものです。

 2019年のノーベル物理学賞は、ピーブルズ博士ともう一組、スイスのマイヨール博士とケロー博士が受賞しました。その内容は「太陽と似た恒星の周りを公転する系外惑星の発見」という業績に対して与えられました。この業績は、わかりやすいものです。
 ただし、実際の観測はなかなか困難なものでした。惑星は自ら光を発していません。恒星の光を反射をしているだけです。他の恒星の周りの惑星を、その反射の明かりだけで、遠く地球から、直接、観測するのは不可能です。そこで考案されたのが、恒星の運動が、惑星よってブレるのを観測しようという方法です。
 大きな惑星が回っていれば、恒星も共通の重心を回って動いています。もしその動きが、恒星のブレとして検出でき、周期性がわかれば、惑星の存在が間接的ですが、知ることができます。星のブレは、恒星の発する光の波長の変化を、ドプラー効果として観測するものです。ドプラー効果から、惑星のサイズや公転周期を推定していきます。
 マイヨール博士は、1977年から13年間かけて、291個の恒星を定期的に観測したところ、37個の恒星で周期変化をみつけました。しかし残念ながら、それらすべてが連星でした。連星とは、2つの恒星が共通重心で回っているもので惑星によるブレではありませんでした。
 1995年には、ブリティッシュ・コロンビア大学の研究グループが、21個の恒星を、12年間にわたって定期的に観測したのですが、「15年以下の公転周期を持つ木星の質量(木星質量)の1から3倍の惑星は存在しない」という結果を報告していました。
 ところが、マイヨール博士と当時大学院生であったケローさんが、より高精度の観測機を用い、以前の観測でドプラー効果が検出できなかった142個の恒星を選んで観測しました。すると、約50光年のペガスス座51番星(51Peg)に、太陽系以外ではじめて惑星があることを発見し、1955年に報告しました。この惑星は、51Peg bと命名されました。bとはその恒星系の最初の惑星となり、以降、惑星が見つかったら、c、d、・・・アルファベットがつけられていきます。
 さらに驚くべきことに、この惑星は木星の半分程度(0.47倍)の質量をもったガス惑星なのですが、たった4.2日間で恒星の周りを公転していました。私たちの太陽系では、想像もしていなかった惑星の発見でした。木星のようなガス惑星でありながら、太陽のすぐ近くを、それもものすごい公転速度で巡っていました。このような惑星は、「ホットジュピター(暑い木星)」と呼ばれました。
 その後、次々と系外惑星が見つかり、現在、その数は4000個以上になっています。その中には、異形の惑星も多数見つかってきました。多様な系外惑星の発見で、我々の太陽系が典型的な惑星系とば呼べず、多様な惑星系のひとつにすぎないことがわかってきました。その魁となったのが、マイヨール博士とケロー博士の発見でした。
 その結果、我々の太陽系の形成モデルも変更が迫られ、より普遍性があるモデルが必要になりました。また、その中でなぜホットジュピターの異形の惑星ができるのかも、説明される必要もあります。
 恒星からの距離に応じて水の存在できる領域(ハビタブルゾーン)の惑星、また地球サイズの惑星も見つかりました。もしハビタブルゾーンに地球サイズの惑星があれば、そこには生命が誕生しているのでしょうか。系外惑星の発見は、そのようなことを考えさせるきっかけになりました。

・寒波・
先週末から北海道は寒波に見舞われています。
あちこちで除雪車が動き出したというニュースも流れました。
わが町は、週末に雪が降っていたのですが、
除雪するほどではありませんでした。
ところが、日曜日には嵐となり、すごく冷え込みました。
週の初めには道路が凍ってつるつるになっていました。
転びそうになりながら、早朝の凍てつく道を歩いています。

・執筆中の論文・
このシーリーズの最初に、
現在執筆中の論文で、系外惑星についてまとめている
と書きました。
ところが、論文を書き進めているうちに、
ページ数がオーバーしてしまいました。
しかたなく、その部分を削除しました。
次回の論文では、系外惑星などの多様性も含めた、
地球や私たちの太陽系のテクトニクスを考えるものとなります。
まあ、論文を書き進めていくと、
このようなことはよく起こることなので、
しかたがないでしょう。
締め切りのぎりぎりまで呻吟していましたが、
今週初めにやっと投稿することができました。

2019年11月14日木曜日

6_167 2019年ノーベル物理学賞 2:宇宙の理論化

 今年のノーベル賞物理学賞についてのシリーズです。まず、ピーブルズ博士の業績に関する話題から紹介していきます。専門ではないので、うまく説明できていない点があるかもしれません。ご容赦いただければと思います。

 今年のノーベル賞物理学賞者のピーブルズ博士の業績をいくつか紹介していきましょう。
 まずは、ビックバンについてです。ジョージ・ガモフの科学普及書を読んでいたとき、ビックバンの記憶が強く残りました。ガモフらが提唱したビックバン(ガモフは火の玉宇宙と呼んだ)で宇宙が始まった経緯が、普及書では詳しく解説されていました。その後、ビックバンの状態から温度も予測し、元素が合成されたことも示されていました。ガモフは、それが現時点ではどのような温度(5K)になっているかも予測していました。
 ビックバンの時の温度が、その後の宇宙の膨張で波長がのびていきます。ピーブルズ博士らは、現在ではマイクロ波の波長にまでのびていることを理論的に示しました。
 マイクロ波を測定する技術は、当時はまだありませんでした。ところが、別の分野、別の目的でマイクロ波が観測されました。人工衛星の電波を補足するためのアンテナが、その波長をノイズとして捉えました。そのノイズが、宇宙マイクロ波背景放射に相当するものであることが、認識され報告されました。その観測をした研究者らは、ノーベル賞を受賞しています。予測と観測が一致したことで、ビックバンの有力な証拠となりました。
 電波技術が進むと、地上付近ではマイクロ波の雑音が多くなり、精度を上げることが困難になります。そこで、人工衛星(COBEと呼ばれる)を打ち上げ、地球外で観測することで精度を上げていきました。結果、マイクロ波から見た温度は、均質ではなく、10万分の1程度の揺らき(温度非等方性)があることがわかりました。現在では、宇宙マイクロ波背景放射の精度は、さらに上がっています。ピーブルズ博士は、そのようなゆらぎを定量的に計算する方法論も示しています。
 他にも、宇宙の形成から3分後に起こったとされる元素の合成(ヘリウムの存在量)、38万年後(電子の捕獲)やその後(密度のゆらぎ)、現状の銀河の分布、ダークマターなどを統計的に説明する方法など、現在の宇宙論の基礎になるような重要な定式化を数々おこなってきました。現在の宇宙論のいたるところにピーブルズ博士は貢献しているともいえます。
 今回の受賞理由として、「高度に観念的な分野を精密な科学へと変化させた」としています。確かに、宇宙のはじまりや温度のゆらぎ、銀河の分布など、概念としてはわかりますが、現実とどう結びつけるかはなかなか難しいものがあります。そこに仮説(理論)を投入して、観測と結びつけということになります。観測の精度が上がれば、仮説の信頼度も上がります。逆に仮説から観測の方向性も決めることができます。
 ピーブルズ博士の業績はいずれも優れたものなので、それらが観測で実証されたとき、あるいは観測が理論で説明できた時などに、受賞すると一番わかりやすかったはずです。そんなタイミングがなかったのでしょう。今回の受賞は、それら数多くの業績に対して与えられました。彼の業績はいずれも重要なものなので、素直に受賞を祝いたいと思います。

・ガモフ全集・
12冊+別巻3冊からなる「ガモフ全集」があります。
いくつかの巻では、トムキンス氏が主人公で
いろいろな不思議がことを体験していきます。
そのような興味を惹く展開で、
先端の科学を紹介していきます。
元素合成や相対性理論、宇宙のはじまりなど、
宇宙に関することが中心でした。
他にも、生命や地球に関する専門でない巻もありました。
高校生の頃に全集を購入して読み始めました。
先端の科学を楽しく紹介されていました。
非常にワクワクとして読みました。
ガモフも数々の宇宙論で業績があったのですが、
ノーベル賞を受賞していません。
研究者の中には無冠ですが、偉大な人も多々います。
まあ、彼らはノーベル賞のために
研究しているのではないでしょうが。

・火の玉宇宙・
ガモフ全集の中で、
「わが世界線」という巻があります。
これは、ガモフ自身の自伝となっています。
もともとソビエト連邦の物理学者でしたが、
アメリカに亡命してきたことも記されていました。
命がけの逃避行があったことも知りました。
そんな経歴にかかわらず、
ガモフは明るくジョーク好きでした。
例えば、自分では「火の玉宇宙」として提唱したのですが、
フレッド・ホイルに「ビックバン」と揶揄されたので
その言葉を自身も使いだしたことで、
現在のビックバンが定着しました。

2019年11月7日木曜日

6_166 2019年ノーベル物理学賞 1:理論と観測

 少し前ですが、今年のノーベル賞が発表されました。化学賞を吉野彰さんが受賞されたので日本はわいていますが、私は物理学賞が気になっていました。それは現在執筆してる論文と深い関わりがあるからです。

 2019年度のノーベル物理学賞は、宇宙の理論(1名)と観測(2名)の2つの業績に対した与えられました。受賞理由はそれぞれにあるのですが、両研究によって、
 Contributions to our understanding of the evolution of the universe and Earth's place in the cosmos
 (宇宙の進化と宇宙におけるこの地球の立ち位置に関する人類の理解への貢献)
とされていました。
 現在執筆している論文では、系外惑星についての項目あり、調べているところであったので、内容と大きな関わりがあるので興味がありました。さらに、違和感があったことでも、興味をひきました。両者の研究内容に関係が少ないのと、理論に関しては「数々の業績」を挙げた研究者に対して与えるという、点でした。
 研究内容に関連がない2つの業績が受賞するということが、かつてもあったのかもしれませんが、今回は上述のようにひとつの受賞理由を提示していることに違和感があります。
 また、ノーベル物理学賞は、物理学において飛躍的成果があった分野の中心となった研究者たち、あるいはきっかけをつくった研究者たちに対して贈られるのが筋かと思います。ですから、理論については少々不思議な感じがしまた。理論(本来は仮説というべき)を提唱しただけではだめで、その仮説が証明されて初めて理論と呼べます。ですから、理論がはじめて検証されたときに、あるいはすでに知られていた現象を理論で説明できたとき、理論と検証した人たちが、同時受賞というのがわかりやすいはずです。
 例えば、アインシュタインのノーベル賞は、相対性理論はすでに公開されていたのですが、まだ検証されていかなったので、受賞対象とはなりませんでした。光電効果という現象があり、それを光量子仮説で理論的に解明したことで受賞しています。それも重要な業績ではありますが、相対性理論が証明されたときに、再度受賞してもよかったはずです。相対性理論も非常に大きな科学への貢献だと思います。
 さて、今回の受賞者であるアメリカのピーブルズ博士は、理論物理の大家です。物理学が専門でもない私でも知っているくらいですから、非常に有名な研究者であることは確かです。ノーベル賞を受賞しても問題はない、業績だとは思うのですが、なぜ今なのか?という疑問があります。
 宇宙マイクロ波背景放射が発見された時、その理論的研究グループの一員でした。その研究史を読んでいた時、ピーブルズ博士の名前の聞いたことがありました。他にも宇宙に関する理論で多くの業績を挙げていることも聞いています。その他の業績については、次回にしましょう。

・冬タイヤ・
今週になって、わが町でもアラレが降りました。
一時的ですが、道路が少し白くなりましたが、
後にまた雨に変わりました。
来週は車で出張になりますので、
冬タイヤにしなければなりません。
自身では交換しないので、
近所のいつもお願いしている車屋さんに
お願いすることになります。
初雪が降るとそこも混みだすので、
大変ですが、山の道や朝の凍った道があると
夏タイヤでは走れませんので
なんとか交換してもらうしかありません。

・腰痛・
月曜日の午後に腰痛になりました。
2、3日前から不調ではあったのですが
少しすわって作業していたら、
ぎっくり腰がでました。
年に数度、不調になるので予兆は感じていたので、
無理はしていなかったのですが、
突然、襲われました。
ここ数年でもっともひどい状態でした。
しかし、1日休みましたが、
2日目からは大学で授業をしました。
来週に出張で休講になるので、
連続休講はできないので、無理して大学にでました。
しかし、動いていると同じ動きの繰り返しであれば、
なんとかこなせました。
しかし、無理はできません。

2019年10月31日木曜日

4_153 2019年残念シリーズ 6:知床

 調査にでると、天候や自然状況、その地特有の事情に左右される思い通り進まないこともあります。対策として優先順をつけていくのですが、優先度が高いものが、次々とだめになることもあります。そんな今年の残念を紹介します。

 今年は、長期の野外調査を山陰地域でおこない、休日を利用した短期の調査を、道東と道北を中心に進めています。昨年は、東北地域の調査を道南に変更し、地震でも山陰調査の予定が中止になりました。今回は、順調に調査に出ることはできています。
 前に訪れたところであっても、研究テーマが違ってくると、同じ岩石、露頭でも違った見え方がします。ですから、ひとシーズンに何度も訪れる場所、露頭もあります。
 長年北海道に住んでいますが、知床だけは一度も訪れていませんでした。その理由は、地質学的に見どころがいっぱいあるので、じっくり時間をかけて見ていきたいと思っていました。今年やっとそれが実現しました。ところが、2度いったのですが、2度とも目的が果たせず駄目になりました。
 6月の道東を調査するとき、はじめて知床を訪れました。まず、広く道東を見て回る予定をしていたので、知床では1泊して2日間の滞在期間をとっていたのですが、ざっと見る程度でしたので、次回にじっくりと調査をする予定を組んでいました。10月に知床を見るために、2泊して見ることにしました。時間があれば、斜里岳周辺も見る予定も立てていました。
 ところが、天気予報ではメインの目的を行く予定の日は、雨となっていました。しかたがないので、移動日の予定を変更し、朝6時頃に自宅をでて、昼過ぎにウトロに着き、その日に知床五湖周辺の流山地形と、さらに半島の先端部の硫黄山からカムイワッカの周辺を見る予定に変更しました。
 知床五湖は国立公園でもあり世界遺産でもあるので、自由に見ることができません。決まったルートを場合によっては、レクチャーを受けて回ることになります。6月に来たときは、レンジャーと共にいくことになるので、撮影や観察で自由に時間を使いたかったので、次回、レクチャーを受けて一人で歩くことにしました。10月、ひとりで歩くつもりでビジターセンターにいったら、5湖すべてを巡るルートは、工事中で通行止めになっていました。2湖を巡るショートカットのルートは大丈夫のはずだったのですが、2日前にクマが人を追跡し突進するという事件があったそうです。私が行った日にも、ハンターがゴム弾をもってルートの確認に入っているとのことで、立入禁止になっていました。仕方なく前回も来た木道のルートを歩くことにしました。小雨が降り、強い風が吹く中を木道ルートを歩きました。
 時間があったので、カムイワッカのルートに入ることにしました。夏はシャトルバスでしか入れないのですが、秋はマイカーで入ることができます。滝のすぐ近くまで車でいくことができましたが、硫黄山へのルートは、9月末で登山禁止となっていました。知りませんでした。ですから、カムイワッカの滝を小雨の中、登りました。
 翌日は、ウトロから羅臼に抜け、東の海岸沿いを相泊まで調査することにしていました。ウトロから羅臼にいくには、知床峠を通ることになります。前回は、霧で全く景色が見ることができませんでした。今回、知床峠を往復したのですが、行きは雲で、帰りは雲だけでなく横殴りの雨で、いずれも景色が全く見えませんでした。道中の紅葉はきれいだったのですが、羅臼岳から硫黄山あたりの山並みには、白く雪景色になっていました。知床峠に、雪でなかったことを幸いとしなければならないのでしょう。
 知床は、再度訪れたいと考えています。できれば次回は、9月の平日に来れればともっています。多分、今回見ることができなかった知床5湖の周回コースも、硫黄山も登れるだろうと思います。

・雪と紅葉・
山では、雪が積もったり、溶けたりしています。
大雪山も白く冠雪でした。
知床連山もいった日に白くなっていました。
知床峠も、10月下旬には、夜間通行止めとなります。
ぎりぎりのタイミングで訪れたことになります。
この時期は、紅葉が進んでいます。
ただし、今年の紅葉はあまりきれいに色づいていません。
それでも全山が紅葉するのを見ることできました。

・紅葉の盛り・
わが町では、先週から今週にかけて
木々の紅葉が盛りとなっています。
今年は、色づきがバラバラの紅葉なのですが、
最後の紅葉は一気にきました。
落葉拾いをする授業があったのですが、
快晴の中、落葉だらけのなかを
学生と歩くことができました。
学生は、楽しげに落葉を拾っていました。
一番いい時期に講義が当たり幸いでした。

2019年10月24日木曜日

4_152 2019年残念シリーズ 5:宗谷の周氷河地形

 周氷河地形は、氷河時代に、氷河に覆われた大地の周辺にできるものです。寒冷によって、大地が凍ったり溶けたりするという、繰り返しによってできます。長い年月のと大地の特性によって形成されたものです。

 前回に続いて道北での残念シリースです。今年は、道北の調査は5月に2度、9月に1度、計3回行っています。これくらい繰り返し調査に出かけると、ある時、天候に恵まれなくても、別の時にはなんとか目的の調査はこなせることになります。
 ところが道北で、果たせなかった目的もあります。それは、周氷河地形の観察です。日本の地形で、周氷河地形の典型としてあるのが、宗谷岬の周辺とされ、北海道遺産にも指定されているものです。典型的な地形があり、なおかつ樹木の植生がなく、見やすい地域でもあります。それが、まだ見れていません。
 周氷河地形とは、氷河期にできた地形のことです。氷河地帯の周辺で生じたものです。形成の条件として、地中の温度が氷点下になり、凍結することで土壌に破砕が生じること、植生が少ないこと、さらに地表面で凍結と融解が繰り返されることなどです。注意が必要なのは、現在ではなく、氷河期のときの条件がそれを備えていたかどうでかです。
 凍結、融解の繰り返しによってできる構造土、地表面が盛り上がったピンゴ(pingo)やパルサ(palsas 泥炭地の丘)などと呼ばれる丸い丘ができます。ピンゴが陥没してたアラス(alas)と呼ばれる凹地もできます。
 北海道の山岳地帯は、氷河に覆われていました。硬い岩石で土壌が少ないところ、急峻な地形では条件を満たさず形成できません。宗谷の丘陵地帯は氷河の周辺にあたっていて、土壌もあり、植生も少なかったようです。そのため上記の条件が揃ってたため、周氷河地形ができました。
 氷河期に終わってからは、宗谷は森林限界は越えていないので、林がありました。ところが、明治に起こった山火事により、樹木がなくなったそうです。その後も、低温と強風のため、樹木が回復していません。現在、草原地帯になっているため、周氷河地形がよく現れて見ることができるようになっています。
 周氷河地形は、ゆるい傾斜の丘が広ろがっているところに、船底状や皿状の谷(デレ dell)が、急な切り込みとして刻まれます。見ようによっては、典型的な北海道の酪農地帯の風景になります。実際に酪農に利用されていますので、周氷河地形が酪農地帯の典型となっているでしょうか。
 この周氷河地形の典型的なものを宗谷周辺で見たい、記録したいと思っているのですが、まだ出会っていません。事前のリサーチで周氷河地形の典型とされている地点があり、そこにいきましたが、どうも満足できません。部分部分では周氷河地形はあるのですが、地上に立って典型なところは、まだ見つけていません。多分、違った場所に行けば、「これぞ周氷河地形」とわかるところがあるはずです。今後も探すことになりそうです。

・ロシアに近い街・
道北の街、稚内は大きな街です。
そして、北には宗谷海峡があり、
樺太が近く見みえます。
樺太はロシア領なので、
ロシアに最も近い街といえます。
道路の表記にはロシア語も併記されています。
夏には稚内からサハリンの連絡船もあり
ロシア人も多く訪れるためでしょう。
今回の調査では通り抜けただけなので
ロシアの人を見かけることはありませんでしたが。

・秋も深まる・
北海道は寒くなってきました。
同じ種類の木であっても、紅葉の進みがどうもなだらで
例年のように一気に紅葉になっていません。
何が紅葉の進み方を左右していのでしょうか。
紅葉はまだらでも、季節はめぐります。
雪虫も一斉にではないですが、
何度か飛んでいます。
近々里でも初雪が降るでしょう。
そうなると秋も終わりになります。

2019年10月17日木曜日

4_151 2019年残念シリーズ 4:歌登のデスモスチルス

 北海道では、化石が多数見つかります。恐竜化石の産地としても有名ですが、他にもいくつかの大型化石が見つかっています。恐竜の時代よりもっと新しい時代にいた、大型哺乳類と、その化石の産地を紹介しましょう。

 9月下旬に道北の調査にいきました。初日は幸い晴れていて、順調に調査をすることができました。最初の目的地に向かう途中に、歌登を通ることにしました。今年、道北を調査するのは3度目だったのですが、毎回ルートを変えるようにしてきましたので、歌登を通るのは初めてでした。
 歌登は、デスモスチルスの化石の産地として有名です。できればその産地を見たいと思っていました。幸い道道(北海道が管理する道のこと)120号を走っている時、カーナビでデスモスチルスの産地の表記がありました。それは、徳志別川の橋を渡ったところでしが、幸い看板があるのが目に入りました。車を止めて見学することにしたました。その看板には「デスモスの里 デスモスチルスの化石発掘跡」と書かれていました。
 デスモスチルス(Desmostylus)という学名なのですが、Desmosとは束(たば)という意味で、tylusは柱(はしら)という意味です。合わせて、柱を束ねたような歯をもつ生物であることから命名されました。体長に2m以上にもなる大型の哺乳類です。新生代の中新世中期から後期にかけて生息しました。
 全身骨格は2体しか見つかっていません。1933年に当時日本領であった樺太(からふと)から最初の化石が見つかり、産地の地名から気屯(けとん)標本と呼ばれています。気屯標本は、現在、北海道大学博物館に保管されています。しかし、その実体は不明で、さまざまな復元図がつくっれました。陸上生活に適したバクのようなものから、陸棲だが水辺にも適応したカバ、トドやアシカのように完全に水棲のものまで、多数の想像図が描かれました。
 1976年、歌登で2つ目の全身骨格の化石が見つかり、「歌登標本」となりました。既知の生物に合わせた復元ではなく、骨格に筋肉をつけて解剖学的復元がなされました。これが現在のデスモスチルスの復元図となっています。
 デスモスチルスの仲間(束柱類)の化石は、日本からカムチャッカ半島、アメリカ太平洋岸まで見つかっていますが、日本で多数の化石が見つかっています。似た仲間のパレオパラドキシアは関東から西で見つかっています。デスモスチルスは、本州でも見つかっていますが、北海道から多数見つかっています。中新世の日本、特に北海道を中心にした海岸では、多数のデスモスチルスが付近で暮らしていたようです。なかなかにぎやかな海岸であったようです。
 このエッセイでデスモスチルスに関する情報を紹介できたのは、枝幸市の南にある「オホーツクミュージアムえさし」という新しい博物館の見学ができたからです。デスモスチルスの化石や発掘の様子などが展示されていたので、詳しく知ることができました。
 ただ、発掘地を示す河原の看板は色あせ、草もかなり生えていて、近づきがたい状態でした。河岸に出てみたのですが、詳しい説明があるかと思ったのですが、どこが産地なのかわかりませんでした。残念でした。でも、その後の発掘調査で、デスモスチルスの産地は一箇所ではなく、歌登周辺で多数の産地があることがわかりました。そして、博物館は充実していたので満足できました。

・北海道と台風・
私が住む北海道の街では、
関東から東北に大きな被害を出した台風19号の影響は
幸いながら受けませんでした。
今年は、本州に被害を与える台風が多いようです。
通常の台風は北海道に上陸する頃には、
温帯低気圧になっていることが多く、
被害はあまり受けません。
しかし、台風の勢力を保ったまま上陸すると
これまで台風の被害を受けることが少ないため、
被害は本州より大きくなります。
特に大木の倒木などが問題になります。
北海道では、昨年9月にひどい被害を受けました。

・今年の紅葉・
北海道は秋も深まり、紅葉が進んでいます。
例年は一気に紅葉が進んでいくことが多いのですが、
今年は、例年に比べて、色づき方がばらばらです。
夏から秋にかけて、暖かい日や寒い日の温度変化が
不規則で、激しかったように思います。
その影響でしょうか、紅葉が綺麗ではありません。
来週末は、道東に再度でかけます。
秋が深まっているので、
そろそろ雪が心配になってきました。

2019年10月10日木曜日

4_150 2019年残念シリーズ 3:津和野のメランジュ

 津和野は、島根県の南西部の山間にあり、山口県と接しています。津和野は古くからある町で、江戸時代には津和野藩でした。日本で最も古い岩石が見つかっていましたので、見に行くことにしていたのですが・・・・。

 津和野は島根県のもっとも南西に位置しています。山間の狭い盆地ある町です。小さな町ですが、古い町並みは整備されていて観光地となっています。この津和野に、8月末に訪れました。もちろん観光名所をめぐるではなく、石をみるためです。
 津和野では、今年、報告された最古の花崗岩類が分布している地でもあります。この最古の花崗岩については、前回までの「日本最古の岩石」のシリーズで紹介しました。その岩石を含む舞鶴帯に属する地質体も分布しています。
 津和野周辺には、他にも古い時代(ペルム紀から三畳紀)の付加体が分布しています。この地域の付加体は、鹿足(かのあし)層群と呼ばれています。鹿足層群は、石灰岩、チャート、玄武岩、タービダイト層などと、そしてそれらが擾乱されたメランジュなどが見ることができます。鹿足層群の付加体は、日本がまだアジア大陸の縁にあったときに、海洋プレートの沈み込みによって付加してできたものです。
 最古の花崗岩類はもちろんのこと、津和野付近の鹿足層群のいくつかの露頭で観察する予定をしていました。深海底で形成された層状チャートを津和野商人(あきんど)で、益田市長沢町の匹見川上流でメランジュの産状(泥岩中に堆積岩の礫を含んだもの)などを観察するつもりでした。ところが、津和野についた日、そして翌日は、記録的な豪雨でした。そのため調査はできませんでした。
 南南西から津和野へ流れ込んでくる津和野川は、まっすぐな流路を持っています。この流れは、断層によって形成された直線的な地形によってできています。断層は、47kmも連続する弥栄(やさか)断層の南西の端にあたります。
 津和野は断層とはもうひとつゆかりがあります。日本の断層研究は、小藤(ことう)文次郎が先駆者でした。文次郎は、1891年に濃尾地震で形成された根尾谷断層を最初に研究し報告しました。その小藤文次郎は、津和野の出身です。
 大雨で津和野川、それが合流して町を流れる高津川は増水していました。恐さを覚えるほどの水位になっていました。津和野には、地質に関する見どころ、人物もいました。でも、雨のため、ほとんど露頭は観察することはできず、残念でしたが、安全を優先しました。

・秋の訪れ・
北海道には、もう秋が訪れています。
朝夕の冷え込みが強まってきました。
大雪では、すでに初雪の報告があり、
我が家でも、9月からもう何度かストーブもたきました。
毎日ストーブをたくほどではないですが、
ストーブが必要な時期になってきました。
木々の紅葉もはじまりました。
これから秋が深まっていくことでしょう。

・安全第一・
午前中を見る予定をしていたのですが、
津和野が大雨なので、早々に別の目的地に移動しました。
山口県の県境を越えたとたん、
持っていた携帯電話の警報がなりました。
山口市内の河川で洪水警報が出たとのことです。
ラジオのニュースをつけたら、
津和野でもいくつかの地域で河川の増水のため、
避難警報がでているとのことでした。
場所によっては、足止めをくっていたかもしれません。
それを考えれば、露頭を見ることより
安全に移動できたことに感謝すべきでしょうね。

2019年10月3日木曜日

4_149 2019年残念シリーズ 2:秋吉台

 秋吉台は、以前にも訪れたことがあります。学会のついでできたので、公共の乗り物を使ってきました。秋芳洞内と博物館を見て、周辺の地形を散策で見ただけでした。

 8月の野外調査では、レンタカーを使っていたので、秋吉台周辺の地形、秋芳洞の再訪を考えていました。他にも2つの鍾乳洞もあったので、だいぶ様子が違っているようで、入ろうと思っていました。秋吉台を訪れたのは、大雨が少し小休止になった時期でした。時々晴れ間も見えることもあり、悪天候に時期ではあったのですが、野外の調査が少しはできるほどでした。
 秋吉台で一泊したのですが、初日は鍾乳洞が増水のため入ることができませんでした。2日目は少し水が引いたとのことで、コースの半分ほどは入ることができるので、入洞することにしました。料金は半額になっていましたが、いけるところまでいって、あとは同じコースを戻ることになります。まあ、車があったのでそうするしかなかったのですが。
 秋芳洞には、正面入口(最も下流)、エレベーター口、そして黒谷口(最も上流)の3つの入口があります。今回は、上流側の黒谷口とエレベーター口が空いていました。エレベーター口から先に、橋があるのですが、増水で危険なので進めませんでした。ルートとしては、黒谷口から入り、エレベーター口へ抜けるか、その逆かのコースです。私は車があったので、黒谷口から入り、同じコースを戻ることにしました。本来なら、正面入口に近くにある「千町田」や「百枚皿」は秋芳洞を象徴するものなので見たかったのですが、増水でいくことができませんでした。「傘づくし」まで行けましたが、その先の「千町田」にはいけませんでした。
 「傘づくし」は広い洞になっており、川の流れも大きところで、その川を橋で渡ることになります。洞内は激しい轟音が響き渡っていました。私が訪れた時には、橋は見えるようになっていたのですが、昨日は水没していたようです。通常では見れない、鍾乳洞の増水の状況を見学することができたことになりました。
 鍾乳洞は、石灰岩の侵食と沈殿によりできたものです。鍾乳石は沈殿によるものですが、洞自体は侵食による作用が大きなもので、化学的な侵食は定常時に少しずつ進みます。しかし今回ような大雨で、洞内での物理的、機械的侵食が激しく進むことになるのでしょう。そんな様子を今回垣間見ることができました。稀な状況を見ることができたのです。
 地表でも、いくつか珍しいところを見ることできました。カルスト地形で谷状ところを「ウバーレ」と呼びます。通常は単なる地形的くぼみに過ぎないところですが、雨が降ったときだけ水が貯まる「帰り水」と呼ばれる池があります。また、雨が降ったときしか流れない川で、増水しているとこも見ることができました。通常では見られないものも、大雨のために見ることができました。

・ジオパーク・
秋芳洞を含め、美祢(みね)はジオパークになっています。
そのため、地質や地形の見どころでは
解説パネルができているので見学しやすくなっています。
各地の市町村で、地質学的名所を持っているところは、
町おこしの一貫でジオパークを目指すようになっています。
ジオパークがあるところは、
地質に興味をもって見学する人にとってても、
助かるものになります。
今後も増えることが期待しています。

・道北調査・
9月の中旬から、急激に秋めいてきました。
9月下旬に道北に3度めの調査に出ました。
実はこのエッセイは、出発前に書いて、
予約して配信しています。
道北は、寒そうですが大丈夫でしょうか。
今年の調査は、まだ道北と日高が
予定に入っているのですが、
寒さは大丈夫でしょうか。
この寒さだと雪が心配です。

2019年9月26日木曜日

4_148 2019年残念シリーズ 1:三瓶山

 以前、EarthEssayの「地球地学紀行」を、やめることにしました。今年の夏の調査は、天候に恵まれず、断念した場所が多数ありました。それを「2019年残念シリーズ」として紹介していくことにしましましたので、復活します。

 8月下旬、1週間ほど山陰地方へ調査にでかけました。今年は、校務の都合で1週ほど早くでることになりました。残念ながら、今回の調査では、天候の悪い時期と重なり、予定してたコースを周ることができませせませんでした。
 8月下旬に北九州で大洪水の被害を出した前線は、中国地方西部にも大雨を降らしました。この大雨による河川の増水により、山口県や島根県西部各地で、警報や避難勧告がでました。その頃、調査をしていました。8日間のうち、晴れたのは1日、曇が2日でした。ですから、ほとんど目的を果たせませんでした。
 今回、昨年の4月から中止していた「地球地学紀行」を復活させることにしました。GeoEssayで紹介できるような調査ができなかったところを、本エッセイで紹介していくことにします。このエッセイで残念な結果に終わった調査を救えるのではないかと思っています。
s さて、最初は三瓶山です。事前にリフトが故障によって運休しているのは、ホームページでも知っていました。しかし、小さな山なので、30、40分ほどで登れるはずなので、朝一番に登れば、いくつかの円頂丘を観察できるだろうと考えていました。
 三瓶山は5kmほどの直径のカルデラがあり、その中に6つの峰があります。太平山は噴火によって破砕物と火山砕屑物が積もった山ですが、それ以外はカルデラ内で噴出した火山で、溶岩円頂丘となっているます。
 活火山に指定されていますが、現在は噴火の兆候はないようです。しかし、過去、1万3000~1万2900年前、5600~5500年前、3870年前、1400~1300年に噴火活動があったことがわかっています。これらの火山活動は主にデイサイト質のマグマによるもので、火山灰を放出し、火砕流が発生し、溶岩も噴出、火砕丘を形成、火山泥流も発生しています。火砕流や火山泥流は遠くまで到達しています。
 登山をする予定をしたので、麓に宿泊していたのですが、前夜から明け方にかけて雨が降っていました。翌朝7時前、登山道がぬかるんでいそうだなと心配しながら、リフトがある大きな駐車場にいきました。するとそれまで曇っていたのですが、雨が降り出したので諦めました。
 登山を諦めたのが7時過ぎでした。他の施設を見て周ろうと、麓にあった埋没林を見に行きました。そこも、施設として管理されているところなので、掃除の人がいただけで、開館したおらず、2時間以上の待つことになるので、諦めて次の目的地に向かうことにしました。
 そこは、世界遺産の石見銀山でした。世界遺産センターは開館時間なのに閉まっていました。中から人が関係者が出てきたので聞くと、月に一度の休館日であることを教えてくれました。パンフレットをいただき、駐車場と案内所を教えてくれました。もちろん、石見銀山も雨でした。野外の見る場所がいくつもあったので、早くてもみることができましまた。石見銀山については、GeoEsseyで紹介します。

・夏休み中の調査・
秋の調査は台風に悩まされます。
タイトな予定でいくと、校務などに支障をきたすと困るので
数日の予定をもって出かけるようにしています。
今年は、9月以降に余裕がなかったので、
8月最後の週になりました。
夏休みが終わっていないので、
家族連れが多いかなと思ったのですが、
それほどではありませんでした。
ただし、有名所の観光地はやはり多かったです。
団体が続々とバスを連ねてということはなかったので
落ち着いて石をみることができました。

・秋の訪れ・
9月は次々と調査、帰省、公務出張などが続きました。
気持ちはリフレッシュしていたのですが、
体は無理をしていたようです。
連休の日曜日に胃炎になり、食事を摂ると腹痛に襲われます。
食べることを抑えて無理をしないようにしています。
北海道は涼しくなってきたので、
過ごしやすくなりました。
先週末からストーブを何度から焚きました。
いよいよ北海道は秋です。

2019年9月19日木曜日

3_184 北磁極の移動 5:移動速度と逆転

 磁極の移動速度が大きくなっています。これは何を意味しているのでしょうか。もしかしたら、地磁気逆転の前兆現象かもしれません。文明社会は、逆転現象を経験をしていません。科学技術では、大きな混乱が起こるかもしれません。

 外核の液体の金属鉄が対流することが、地磁気の発生原因でした。地磁気は流体の流れに由来しているため、不安定で、変動が起こり、時には磁気のN極とS極が反転するようなことも起こります。地磁気の逆転は、過去に何度も起こっており、今後も起こると推定されます。
 現在の北磁極はカナダのエルズミーア島の西の北極海にあり、1900年頃にカナダ本土のすぐ北にあったことは、すでに紹介しました。その移動距離は、100年ほどで1100kmになります。平均すると年間10kmほどになります。しかし、長期間、詳しく観測していると、移動速度が変動していることもわかってきました。
 1970年には年間9kmであった移動速度ですが、2001年から2003年までは年間41km、近年では年間55kmほどになってきました。移動速度がだんだん大きくなっていることがわかってきました。
 地磁気の観測は、地理作成や移動、交通など現在の社会では重要な情報になっています。ですから、定期的に観測をしてデータが公開されています。アメリカ海洋大気局(NOAA)は、通常5年毎にデータを更新しているます。しかし、NOAAは、2019年1月に1年前倒して4年でデータを更新しました。それは「北極地方における予期せぬ変化のため」としています。
 上でも紹介しましたが、北磁極の移動は、外核の対流の変動のためだと考えられています。ですから、現状のまま変動し続けると、もっと大きな異変が起こる可能性もあります。その異変とは、磁極の逆転です。
 過去に磁極の逆転は何度も起こっているので、今回の北磁極の移動のその前兆かもしれません。もっとも最近の逆転事件は、これも前に紹介しましたが、258万1000年前から77万年の松山期と呼ばれる、現在とは逆磁極期がありました。詳しくみると松山期にも、短い期間(数万年)での正磁極期になる逆転現象が、5回ほど起こっていますが、全体としては逆磁極期が長いため一括して松山期とされています。他の磁極期でも、同様に短い逆転現象が、多数起こっています。
 77万年前から現在までは、「ブリュンヌ正磁極期」と呼ばれています。不思議なことに、ブリュンヌ正磁極期には、逆転現象が全く起こっていません。この77万年間、地磁気が非常(異常?)に安定している時期となっています。外核の対流を考えると、いつ逆転現象が起こってもおかしくはありません。今回の移動速度の変化が、磁極の逆転につながる前兆かもしれません。
 逆転は少なくとも数百年、数千年の期間かけて起こるでしょう。その間、地磁気が弱まったり、なくなったりすることになるはずです。70万年以上逆転現象がないので、現在起こると、どのようなことが起こるかは、記録もなく不明です。
 その時を推定できる小規模な現象が、時々起こっています。太陽のフレアの激しい活動で、地球に磁気嵐が起こります。磁気嵐では人工衛星の故障や通信障害などが起こりました。現在社会は、ますます電波や電子機器に依存しています。もし逆転現象が起これば、地磁気が長期間なくなることになります。そこで、大きな混乱が起こかもしれません。
 たとえ今回の移動速度が逆転現状の前兆ではなくても、やがて地磁気の逆転現象が起こるはずです。その時の対処も考えていてもいいのではないでしょうか。

・休日への配慮・
月曜日休日が2回、連続します。
大学は夏休み期間の終わりなので、
23日の秋分の日だけが休講になっています。
曜日ごとの週間スケジュールでものごとでは
この月曜日の休日のシステムは、大きな影響があります。
しかし、国には祝日を多くすることのほうが重要なようなので
学校教育などの不都合は顧みられません。
まあ、今の国は、国民、庶民への配慮は少ないようです。

・校務出張・
今週後半は、1泊で校務で出張します。
宿泊の出張は、頭さえ切り替えておけは、
気分転換となります。
早朝の出発なので自家用車ででかけます。
そのため、体力的は疲れそうなので
無理をしないように早目にでて
休み休み行こうと考えています。

2019年9月12日木曜日

3_183 北磁極の移動 4:地磁気の逆転

 内核の対流が不安定であることが、ここ100年ほどの間に徐々にわかってきました。逆転では、日本の科学者の先駆的な業績がありました。逆転は、プレートテクトニクスの重要な証拠ともなりました。

 地球の地磁気は、内核の液体鉄の対流が起こり、磁気が発生する地球ダイナモ説で説明できることを、前回、紹介しました。液体鉄の対流は、内核の熱分布や地球の自転などが原因だと考えられています。内核の熱分布は、核の化学組成のムラやマントルの対流(プルームテクニクス)による影響を受けることになるでしょう。また、地球の自転は、大陸配置や衛星の月の運動、公転や歳差運動などの影響を受けそうです。特に、地殻からマントルまでの大きな対流となるプルームテクトニクスは、内核の対流に大きな影響を与えそうです。
 内核の対流は、液体の運動によるため安定したものではなく、地磁気も不安定になります。そのような証拠が、100年ほどかけて、見つかってきました。
 マグマは地表付近で、液体(マグマ)から固体(結晶)になります。その時、磁気が岩石に記録されます。火成岩の残された磁気を測定する技術が開発されました。岩石に残された磁気は、残留磁気と呼びます。岩石の磁気の記録は、磁性をもった結晶(磁性鉱物)ができるとき、その時点での地磁気の方向に沿って並び、固まっていきます。岩石の残留磁気気を調べると、マグマが固まった時の地磁気を読み取ることができます。このような岩石に残された昔の磁気は、古地磁気と呼んでいます。
 京都大学の松山基範(まつやま もとのり)さんが、玄武岩(兵庫県玄武洞)の古地磁気を調べたところ、地磁気が反転していることがわかり、1929年に報告しました。これは磁気が反転しているということを初めて検証したものです。玄武洞の玄武岩は、約160万年前のマグマが固まったものです。この磁気が反転していた時期は、もっと長く(249万~72万年前)、後に「松山逆磁極期」と呼ばれるようになりました。この研究以降、地球の磁気が何度も反転していることが判明してきました。
 磁気が繰り返し反転していることを利用して、大きな成果も出てきました。
 海嶺ではマグマが貫入し、噴出して、海洋底が拡大しています。これがプレートテクトニクスの重要な原理となっています。海洋底の玄武岩には、古地磁気が記録されているはずです。海洋底の残留磁気を、船から精密に観測する技術が開発されました。その技術によって、海嶺に対称的な古地磁気の正逆の模様があることが観測されました。その観測事実は、海嶺でマグマが形成され、拡大していることの重要な証拠となりました。
 繰り返される地磁気の反転は、地磁気が不安定であることを表しています。地磁気の不安定さは、内核の対流も不安定だと推測させます。この不安定さは、過去だけから、現在そして未来にも続きそうです。

・松山基範・
松山さんの報告は、1929年におこなわれましたが、
世界の学界では、その重要性が
ほとんど理解されていませんでした。
1950年代になると古地磁気学が発展したことで、
松山さんの地磁気の逆転が正しいことが認識されてきました。
先見性があったのでしょう。
この松山さんの功績から「松山逆磁極期」と命名されています。
この逆転は、最新のもの(最後の逆転)となっています。

・家族集合・
現在、京都に帰省しています。
子どもたちはふたりとも関西にいるので、
帰省がバラバラになっています。
今回は夫婦で母の実家に帰るので、
子どもたちも集まって来るようにしています。
彼らの忙しいようで、スケジュールがありません。
さてさて一堂に会することは可能でしょうか。
なかなか難しいようですが、
いってみるまでわかりません。

2019年9月5日木曜日

3_182 北磁極の移動 3:コアの対流

 地球の北磁極の移動について考えています。地磁気の北極と南極の位置が、地球の中心を通る反対側にないことを、前回紹介しました。今回はその理由について説明していきましょう。

 地球の磁場は強力で、表層だけの現象ではなく、大気圏外にもその影響は及び、太陽や銀河の中心付近から高速で飛んでくる、電荷を持った粒子(プラズマと呼ばれます)を弾いてしまいます。このプラズマ粒子は一種の放射線でもあるので、生命体には危険な存在です。地球磁場のおかげで、地球の外からの粒子が表層に降り注ぐことなく、安全に保たれています。
 では、そもそも地球の磁場は、どのようにして発生しているのでしょうか。地球の内部に原因はありそうです。しかし、地球内部は、直接見ることができないので検証は難しく、間接的証拠で、一番もっともらしい仮説で考えていくしかありません。
 まず、地球の地殻やマントルでの発生の可能性はどうでしょうか。地殻もマントルも岩石からできています。岩石には、磁気をもった鉱物(磁鉄鉱など)があります。磁鉄鉱を多く含む岩石(ある種の花崗岩)でも、方位磁針を近づけると、少し揺らすことができるほどの磁力しかありません。ほとんどの地殻の岩石は、地球の磁力の発生源にはなりません。また、マントルのカンラン岩には、磁性をもった鉱物はほとんど含まれていません。
 地殻やマントル以外のところとなると、核しかありません。地震波などの観測、天体物理的推定、隕石の類似性などから、核は金属鉄(少量の金属ニッケルも含む)からできていると考えられています。また、地震波から、内核は固体ですが、外核は液体であることは、間接的ですが検証されています。以上のことから、外核に液体の金属鉄、内核が固体の金属鉄となっていると推定されます。金属鉄は磁力を伝えやすく、またもし電気が流れて、その電流の媒体が動いていれば、磁場を発生することはができます。
 外核が液体の金属鉄で、温度にムラがあれば対流するでしょうし、地球の自転でも動くことが考えられます。このような金属鉄の対流によって電流が生じれば、磁場を発生することにできます。外核は、地球に占める体積でも質量でも非常に大きな割合になっています。外核が磁場を発生するとなれば、内核は磁石として働きます。その磁力は地球全体にも及ぶほどのものになるはずです。このような対流による発電は、「地球ダイナモ説」と呼ばれています。地球ダイナモ説は仮説ではありますが、理論的にかなり究明されているので、地磁気の原因が、外核の対流によるものだとされています。
 対流による磁力なので、永久磁石のように安定したものではありません。外核の温度もムラも均質とは限りませんので、対流も複雑なものと考えられます。そのようなことから、地球の磁場の全体としては、自転軸にそっているようですが、正確に地球中心を通るものではないことも理解できます。これが、地磁気のずれの説明となります。
 地球磁場の不安定さによって、今回のシリーズである北磁極に移動や、もっと不思議な現象が起こったことも知られています。

・大洪水・
山陰地域の調査から、今週はじめに帰ってきました。
今回の調査は、ほとんど目的を達成できませんでした。
九州に災害をもたらした大雨は
中国地方西部でも激しく降りました。
ちょうど、調査予定地の津和野、山口市、萩、美祢などにいる時、
洪水警報、避難勧告などが次々と出ていました。
調査の8日間の内、移動日の2日(曇り)以外、
晴れは1日、曇が1日で、あとはすべて大雨でした。
泊まるところが大丈夫かどうか、不安になるほどでした。
安全第一を考えて行動しました。

・バタバタと・
北海道は帰ってきた日は少々蒸し暑かったですが、
翌日からは秋晴れになりました。
今週は、週末には出張、日曜からは帰省となるので、
バタバタしています。
調査のデータを十分まとめることが
できないうちに、次々とすべきことがあります。
まあ、長期の調査のあとには
付きもののことですが。

2019年8月29日木曜日

3_181 北磁極の移動 2:探査と特徴と

 北とはいっても、地理上の北極点とは違った定義の北磁極もあります。北磁極がどの位置にあるのかは、探検家たちが探査しています。北磁極には、不思議な特徴があります。

 そもそも地図の北(真北)は、どのようにして決められているのでしょうか。地図の北は、地球の自転軸をもとにして決められています。自転軸の北の端は「北極点」となります。経線が集まっている北の点です。北になればなるほど経線が集まっていくため、地図では同じ数値の緯度と経度で囲まれた部分であっても、経度が異なると面積が変わってきます。
 磁石が示す北(磁北)から決まる北極(北磁極)もあります。北極点と北磁極とがずれていることは、前回紹介しました。日本での真北と磁北のずれは、せいぜい数度から10度ほどの違いですが、北磁極に近づくにつれて、その変化は場所により大きくなります。もし、北極点と北磁極の間にいたとすると、磁北は、地図の南側を向いてしまうことになります。
 北磁極がどこにあるかは、コンパスを持って調べればわかりますが、地理的に正確な位置を知る必要があります。磁北の場所を探すのは、探検家たちの仕事でした。最初の探検は、ジェイムズ・ロスたちの探検隊(叔父のジョン・ロスの探検隊の一部)でした。1831年6月1日に、北磁極に到達しました。次は、探検家のロアルド・アムンゼンが、1903年に北磁極に到達しました。南磁極も探検家たちが探査し、1907年、イギリスの南極探検隊のダグラス・モーソンたちのチームが到達しています。
 北磁極は、現在、カナダの北方、クィーンエリザベス諸島のエルズミーア島の西の北極海にあります。現在は北極海にありますが、1900年頃には、カナダ本土のすぐ北のキングウィリアムス島にありました。ということは、北磁極が移動していることになります。南磁極は、南極大陸のウィルクスランド沖インド洋にあり、やはり移動しています。
 北磁極と南磁極を結ぶ線は、地球の中心を通っていません。これは、少々不思議なことに思えます。なぜなら、方位磁針のともとなる磁石には、N極とS極は正反対にあります。地球の磁極も大きな磁石なっているので、地球上の正反対の位置(対蹠地 たいしょち)にあるべきなので、それがないということになります。
 それはなぜでしょうか。次回以降としましょう。

・野外調査・
8月26日から9月2日まで野外調査に出ています。
予約送信しています。
ことしは例年より1、2週間早めの調査です。
少々暑さが気になります。
また腰痛にも注意しなければなりません。
また、9月上旬に京都への帰省と
学生の実習指導も入っていますので
この時期になりました。
いろいろな日程調整もあって、
このまだ残暑の時期になりました。

・アムンゼン・
ロアルド・アムンゼンは、ノルウェーの探検家です。
アメリカの北を回って大西洋から太平洋へ
航海(北西航路横断航海)に、はじめて成功しました。
次に北極点をめざしましたが、
ロバート・ピアリーに先をこされました。
その後、南極点に目標を定め、
ロバート・スコットと南極点への到達を競い
初めて南極点への到達しました。
その後、飛行船で北極点へ到達して、
初めて両極点への到達を果たしことになりました。

2019年8月22日木曜日

3_180 北磁極の移動 1:ノースアップ

 地図は上が北になっていることは、学校で習いました。上が北は地図の基本です。この規則は必ずしも全てに適用されているわけではありません。スマホやカーナビでは、自分の向かう方向が、上になっています。

 学校で習ったように、地図では上が北に描かれています。しかし、街の案内図などでは、上が北でない地図もよく見かけます。紙の地図を持ち歩きながら、野外調査をしてきたものにとっては、北が上ではない地図には、違和感をもってしまいます。最近は、スマートフォーンでの道案内の地図や、カーナビの地図でも、デフォルトでは進行方向が上(ヘッディングアップといいます)になっています。もちろん、設定を変えれば上を北にする(ノースアップ)ことができますが。
 カーナビをノースアップにしても、すぐにヘッディングアップもどってしまいます。目的地をカーナビの地図で探すときにはノースアップにしますが、ナビになると自動でヘッディングアップに戻ります。確かに、南に向かったり、複雑な分かれ道などを進むときには、ヘッディングアップはわかりやすく便利です。
 ヘッディングアップのいい点は、コース取り、ルートがわかりやすい点でしょう。しかし、全体としてどのようなルールをたどってきたのかや、地点の位置関係や土地勘が作りにくくなる、という欠点もあるように思います。ノースアップにこだわっている人は、今でも見かけます。そんな人は多分、昔ながらの地図を用いていた習慣が今でもあったり、土地勘を重視している人ではないでしょうか。
 地質調査をしているとき、地層面の方位を正確に測定しておく必要があります。そのための道具として、方位磁針と目盛り(度数線)の入ったリング(ベゼル)もしくは文字盤があるコンパス(地質調査ではクリノメーターを使用)を用いていました。コンパスがあれば、方位磁針の指す北の方向と度数線から、地層面の方位が数値として読み取れます。
 コンパスから読み取った方位は、磁石の北(磁北)からのズレを数値にしたものです。一方、地図も北極(真北)を北にして作成されています。地図の北極と、磁石が示す磁北が、一致していれば問題はありませんが、少々ずれています。
 地図にコンパスから読み取った値を示すときには、注意が必要になります。国土地理院の2015年のデータでは、北海道では西に9度から10度ずれています(西偏といいます)。本州にいくにしたがって値は小さくなり、沖縄では4度から5度になります。コンパスで読み取った方位データを地図に示すとき、磁北のデータなので、西偏分を考慮して示す必要があります。
 では、そもそも地図の北極は、どのように決められたのでしょう。また、磁石の北極とは、なぜ、ずれているのでしょうか。次回にしましょう。

・クリノメーター・
地質調査ではクリノメーターを使用します。
クリノメーターにはコンパスも内蔵されています。
クリノメーターの度数線は、読み取り数値が
そのまま欲しい数値にするため、
南北で線対象の表記になっています。
そのため、コンパスとして用いるときは注意が必要になります。
クリノとは「傾き」という意味ですから
クリノメーターは傾斜計という意味です。
地層の方位と傾きの両方を調べるためのものです。
コンパスとその軸に自由に動く針がついています。
コンパスを傾斜面に立てると
その針で傾きを読み取ることができました。

・道具の変遷・
クリノメーターも進化しています。
私が地質調査を始めたときは、
木の台の中にコンパスと傾斜計が
内蔵されているシンプルなものでした。
その後、金属製のものが普及しました。
私の恩師は、もっとコンパス部が3軸で自由に動く
複雑な構造で高級なユニバーサルコンパスを使っていました。
ある時、もう自分は調査をしないからと、私に譲ってくれました。
それは、今でも手元に持っています。
デジタルクリノメーターというものがあり、
測定値がGPSでの位置とメモリーに記録できます。
一度利用してそのための調査したのですが、
その成果を報告することなく終わってしまいました。
今では、GeoClinoというスマホ用のソフがあります。

2019年8月15日木曜日

1_175 日本最古の岩石 7:小さな露頭の大きな意義

 今回見つかった最古の岩石は、小さな露頭からだったのですが、その意義は大きいです。原日本が、いつ、どこにあったのかを探る証拠になります。しかし、その解釈は今後も議論を続けていく必要があるでしょう。

 舞鶴帯は、西南日本内帯にありますが、最も大陸側ではありません。前に説明したように、造山帯はナップやクリッペという構造をもっているので、形成時期のより古いものが、海側や上盤側に存在しても、おかしくありません。古い岩石が、もともとどのような造山帯に属していたのかを、慎重に判別する必要があります。
 今回の見つかった岩石が、舞鶴帯に属すると判明したのは、共著者の一人である早坂さんの一連の調査研究に基づいています。岩石が見つかったところは、島根県津和野地域です。早坂さんは、これまで、岡山県北部の津山市久留米地域で4億9000万~3億年前の花崗岩を含む岩体を発見し、それが舞鶴帯(舞鶴帯北帯)に属することを示してきました。似た花崗岩類は、それより西(広島県福山市の北部や吉和地域)でも見つかったのですが、それら夜久野オフィオライトに属すると年代から判断されました。これまで岡山県北部の以西からはら夜久野オフィオライトの岩石だったのですが、津和野の位置は、広島県福山市よりさらに西になります。今回の岩石の年代は、夜久野オフィオライトより古いので、舞鶴帯北帯に属すると判断されました。つまり舞鶴帯北帯はとぎれとぎれですが、もっと西にまで分布していたことになります。
 西南日本の飛騨-隠岐帯の隠岐変成岩の中には、18.5億年前の花崗質の変成岩が見つかっています。今回見つかった岩石は、同じような変成年代でしたが、もっと古い火成年代をもっていました。また、広い大陸に由来する堆積岩もあることもわかっています。その結果、岩石があった場の岩石構成や形成環境がわかるようになりました。
 一般に、原日本の岩石は、南中国地塊と縫合帯(北と南中国地塊の間)にあったものから構成されていたと考えられています。日本最古の岩石(岩体)を発見したという論文では、年代から北中国の地塊に所属していたと報告されています。しかし、北中国地塊や南中国地塊の年代データがまだそろっていないので、今後の研究が必要になります。
 今回見つかった岩石は、小さな露頭だったのですが、実物の証拠をもって古い時代のことが推定できたのは、重要な成果となります。もし、その所属が明らかになれば、断片化していない大陸の地塊を調べることで、より詳しい原日本の様子を知ることができます。もしこれが北中国地塊であれば、大陸の岩石を詳しく調べ比較することで、検証できるかもしれませんね。

・お盆・
お盆の里帰りをされているでしょか。
最近は、分散してお盆休みとして
夏休みをとることにしているところもあるようです。
うちの大学の職員もそのようにして休暇をとっているようです。
大学の建物も、お盆休みには閉鎖されています。
しかし、私はいつものように大学に来います。
名簿に記載すれば入館できます。
ですから、いつものように研究室で仕事をしています。

・北海道の涼しさ・
台風から温帯低気圧に変わったものが
北海道を通って以来、一気に涼しくなりました。
それまで10日ほど暑かったので
ぐったりと弱っていたのですが、
この涼しさでホッと一息つけました。
実家の母は、京都に在住なので、
毎日暑い暑いとぼやいています。
高齢ですから、エアコンや扇風機を使って
なんとから凌いでもらいたいものです。
私は本州の暑さが大変なので北海道に住んでいます。
子どもたちの暑い関西在住なので
暑さにへばっているのでしょうか。

2019年8月8日木曜日

1_174 日本最古の岩石 6:原日本

 古い年代を示した岩石の種類と、その起源をみていきます。日本列島を構成していた、古い時代の様子を推定することができます。原日本の姿を、今回の報告から、垣間見ることができそうです。

 今回見つかった最古の岩石は、25億年前にマグマが固まった花崗岩ができ、18.3億年前に変成作用を受けて花崗片麻岩になりました。花崗片麻岩は、25億年前にできた大陸地殻の存在を示しています。また、石英砂岩中の砕屑性ジルコンは、火成年代が24.8億年前より古いジルコンだけを含んでいました。花崗岩と似た年代を示した石英砂岩のジルコンには、別の地質学的意味もありました。
 石英砂岩とは、大陸内や大陸に由来する河川の河口にできる岩石です。大陸の花崗岩類やその変成岩が、長い時間かけて侵食されることで、石英以外の鉱物がなくなってしまい、最終的に残った石英だけが集まって固まった堆積岩です。このような堆積岩は、現在の広い大陸の内陸部や、大陸を流れる大河の河口などで形成されていることがわかっています。
 花崗片麻岩を含む広い大陸と、それが侵食されてできた石英砂岩が発見されました。25億年前には古い岩石からできた大きな大陸があったことが、明らかになりました。この大陸は、安定地塊(クラトン)と周辺の堆積岩を構成していたと推定できます。堆積岩中のジルコン粒子という一見間接的な情報ですが、そこから複雑な履歴が読み取れました。
 この時代は、日本列島や日本海ができるずっと前で、古い大陸地塊での物語となります。現在の日本列島の岩石になったと考えられるものは、「原日本」と呼ばれています。
 原日本には、大きく分けると、北中国(中朝とも)地塊と南中国地塊がありました。その間には、この2つの大陸が衝突してきた造山帯が形成されました。両大陸は古生代(2億3000万年前頃)に衝突しています。その衝突帯は、秦嶺-大別山ー蘇魯縫合帯と呼ばれています。
 北中国地塊は19億~20億年前の大陸地殻ですが、その構成物として38億年前の年代の岩石も見つかっています。
 南中国地塊は3つの地質体に区分されます。北部は21億~10億年前の揚子江(Yangtze)地塊で、南部は21億~10億年前のカタイシア(契丹)地塊です。間には、10億年前に両大陸が衝突してきた造山帯(シバオ造山帯)が形成されています。
 原日本の岩石は、縫合帯から南中国地塊にあったものだと考えられます。ただし、日本列島で年代測定によって見つかってきた古い岩体の詳しい所属については、まだ決着を見ていないものが多くあります。もっと年代が決まってくると、決着を見るかもしれませんね。

・猛暑・
北海道も非常に暑い日々が続いています。
夜、窓を開けて寝ていますが、
あまりに蒸し暑くて十分に
睡眠が取れない状態が続いています。
朝、研究室に入っても暑くてたまりません。
風さえあれば、涼しい朝に空気が入って
なんと涼しくできるのですが、
風がない日は、暑いまま耐えるしかありません。
研究室は西向きなので午後には耐えられない暑さになります。
立秋には台風が来て涼しくなるという予想なのですが。
予想が当たることを願っています。

・締め切り・
大学は定期試験も終わり
教員採用の二次試験も終わりました。
ゼミの4年生は卒業研究の添削に入りました。
教員は採点や成績評価をすることになります。
今週中に終わらせることになります。
他にも論文の査読の修正の締め切りもあります。
暑さのため集中できない状態と
午後が仕事にならないので
だんだん仕事が遅れてきました。
そろそろ限界が近づいています。
午前中に一気に進めていくしかありません。

2019年8月1日木曜日

1_173 日本最古の岩石 5:構造侵食

 島弧では、大陸地殻を形成する作用があり、その作用の解明に注力されてきました。しかし、沈み込み帯では、火成作用が常に起こっているのですが、付加作用だけでなく構造侵食も起こっていることがわかってきました。

 これまで、島弧は大陸地殻が増えていくだけの作用をすると考えられていました。あるいは、減ることについては配慮されていませんでした。それは、島弧での大陸地殻の形成過程として、島弧火成活動のメカニズム解明や付加体の構造解析や年代決定など、興味深いテーマがあり、そこに多くの力が注がれていたためです。
 ところが、最近では、造山帯は成長するだけでなく、別の時期には構造的に侵食されていくことが、再度注目されるようになってきました。「再度」といったのは、地球の沈み込み帯を広く見ていくと、島弧の火成活動は必ず起こっているのですが、付加体が形成されているところと、されてないろところがあることがわかっていました。しかし付加体が形成されていないところより、形成されているところに注目され、研究が進んでいました。そのため、付加体が形成されていないところには、注目されていませんでした。
 現在の状況をみると、付加体より構造侵食が起こっている沈み込み帯のほうが圧倒的に多いことがわかります。沈み込み帯は、構造侵食作用が起こる場と考えたほうがいいようです。
 2010年前後に、ジルコンを用いた年代測定ができるようになり、その分析システムが整ってきて、造山帯の岩石にも適用されるようになってきました。すると、造山帯は沈み込み帯で形成されたものも多いため、古い造山帯の岩石で過去の沈み込み帯の様子が復元されるようになってきました。その結果、激しい構造作用による侵食、「構造侵食」と呼ばれる作用が起こっている明らかになってきました。ひとつの造山帯がすべてなくなるような構造侵食が受けるようなことがあることもわかってきました。構造侵食作用は、非常に激しく、しかも定常的に起こっていることになります。
 日本列島にように、繰り返し造山作用が起こっているようなところは、古い造山帯の岩石が残っていることは、非常に稀になります。まして、その岩石の所属している造山帯まで明らかになるのは、なかなか難しいことになります。特に古い造山帯のより古い大陸地殻の岩石での所属は難しくなります。
 今回の古い岩石の発見は、単に年代が決まったというだけでなく、その岩石の構造帯での所属までわかったということに大きな意義があります。それについては、次回にしましょう。

・蒸し暑さ・
先週までは、涼しい、冷夏などといっていました。
ところが一転、蒸し暑い日が先週末から続いています。
気温が高いだけでなく、湿度も高いので
夜も寝苦しくて、睡眠不足でバテてしまいます。
我が家はエアコンがありません。
そのため、扇風機を回すか、団扇を使うしかありません。
昼間は大学にいるのですが、
研究室は西向きで、午後には西日が当たるので
耐え難い蒸し暑さになります。
そんなときは、用事がないときには
そうそうに帰ることにしています。
自宅に帰る頃には夕方になっているので、
少しは過ごしやすくなります。
そんな日々を過ごしています。

・教室の冷房・
大学は、定期試験の週に入りましました。
一番暑い時に定期試験とは、
いかがなものかと思ってしまいます。
もう少し工夫はできないのでしょうか。
夏に新学期の始まりにすれば、
このような暑さ対策は考えなくていいのでしょうが。
そんなに単純ではないでしょうが。
遅ればせながら、我が大学も暑さ対策として
教室に冷房が入りました。
研究室にはないのですが。

2019年7月25日木曜日

1_172 日本最古の岩石 4:ナップとクリッペ

 造山帯の構造を詳しく調べると、大きな地質体が激しく移動をしていたことがわかってきました。ゆっくりとした大地の運動ではあるのですが、長い時間をかけると大きな移動が起こるようです。

 西南日本では、大陸側(日本海側)に飛騨-隠岐帯があり、海側(瀬戸内海側)に舞鶴帯が分布しています。古い年代の構成岩石には時代が類似しているものと、異なったものが含まれていました。
 最近まで、古い造山帯が大陸側に、新しい造山帯が、時代順に配列していると考えられていました。つまり、造山帯は陸側から海側に向かって新たに形成されていくもの、あるいは島弧の造山帯が次々と大陸にくっついていくものと考えられていました。ところが、日本列島はかつてはユーラシア大陸にくっついていたのですが、2000万年前ころから大陸から分裂をはじめ、1400万年前には分裂が終わり、日本海ができます。しかし、日本の造山帯のほとんどは、大陸の縁で形成された記録となります。
 これまでの考えであれば、陸側に古い造山帯である飛騨-隠岐帯が、海側に舞鶴帯が分布しているということになりました。ところが、構造や造山帯の構成岩石の年代などが明らかになるしたがって、そんな単純な構造ではないことがわかってきました。
 造山帯では、地質体が薄い板上(造山帯の一部分)になって、新しい時代の地質体(造山帯の一部分)の上に低角度(水平に近い)の逆断層で重なっている構造がよくあることがわかってきました。古い時代の地質体が、押し縮められて、褶曲し、横に倒れて、別の地質体の上に乗っかったためできたと考えれます。このような構造をナップ(英語でnappe、ドイツ語でデッケ Deck)と呼んでいます。このような現象は、プレートが衝突したり、沈み込んだりするようなプレートの収斂境界で起こります。日本列島も昔も、現在のこのような場でした。
 ナップはもとの地質体とつながったものをいうのですが、ナップのどこかで侵食されていくと、本体から切り離されて、先の部分だけが残ることがあります。そのようなものをクリッペ(独語でKlippe)と呼びます。一方、侵食され、下にある地層が顔を出したものを、フェンスター(Fenster 地窓、テクトニックウィンドウ)と呼びます。
 ナップは丹念に調査すればわかるのですが、クリッペであることは、もとの地質体との連続が、なんらかの証拠で推定できなければわかりません。日本列島の造山帯でそのようなクリップの存在が明らかにされてきました。それは、堆積岩中の砕屑性ジルコンを用いて、各地の造山帯の中の地質体の年代も明らかにされることで明らかになってきました。
 一番陸側の造山帯がもっとも古いものではなく、海側にクリッペとして古いものが乗っかる構造が、何度も繰り返されていることがわかってきました。
 さらに、造山帯は大陸地殻が増えていくだけの作用に見えるのですが、構造適し侵食する作用もあることもわかってきました。それは次回としましょう。

・激しい褶曲・
アルプス山脈やヒマヤラ山脈、ロッキー山脈などで
激しい褶曲をした地層を見たことがあるでしょうか。
写真や映像で見たことがあるかもしれませんね。
その規模は、見えているものでも、数100mにサイズです。
地図や地質図でみると
もっと大きな数10kmから数100kmの規模の移動が
起こっていることがわかります。
日本列島はプレートが収斂(しゅうれん)する場なので
これのような規模の褶曲や造山運動が
繰り返し起こっていてもいいはずのところでした。
侵食の激しいところでは、
そのような運動を認定するのが難しいものでした。
しかし、技術の進歩によって
その認定ができるようになりました。

・冷夏・
いよいよ前期の講義が終わりました。
いつもの夏なら暑くて授業なんかできない
と思える日が来る頃ですが、
今年は、涼しくて助かっています。
農業関係者は困っています。
農作物に影響が出はじめているようです。
梅雨明けもかなり遅れているようです。
かなり心配な状況ですね。

2019年7月18日木曜日

1_171 日本最古の岩石 3:原岩年代

 ジルコン年代では、変成を受けた年代と、火成作用で形成されたときの年代が記録されています。それらの年代が持っている意味は、慎重に解釈しなければなりません。

 日本列島で古い石が見つかったという論文の紹介をするシリーズだったのですが、その石の説明をする前に、背景となる造山運動と年代測定の素材であるジルコンについて紹介しました。今回からは、その論文を紹介します。
 2019年2月の地質学雑誌に「島根県津和野地域の舞鶴帯から古原生代18.5億年花崗岩質岩体の発見とその意義」というタイトルで報告されました。著者は、広島大学の木村光佑たちの共同研究です。
 この論文で驚いたのは、舞鶴帯から最古の岩石が見つかったということです。もうひとつは、タイトルの年代の他に、最古の年代をもった岩石が見つかったことが論文では報告されています。プレス発表では「日本最古」という語句が最初にでていますが、なぜそれを論文のタイトルにしなかったのでしょうかね。。
 舞鶴帯は私が以前研究していたところでもあり、親しみを感じていました。この造山帯は、古生代後期以降に形成されたものです。もちろん造山帯ですから、陸を構成していた岩石には、もっと古い時代のものがあってもいのですが、これまで発見されていませんでした。
 舞鶴帯より陸側に、飛騨-隠岐帯があります。飛騨ー隠岐帯は、大陸棚で形成された堆積岩(石灰岩やアルミニュームが多い泥岩など)やリフト帯で活動した火山岩類(アルカリ岩質の火山岩)が見つかっています。また、変成年代として、2.4~2.5億年前が得られています。これは、変成作用のピークの年代、そして造山運動の最盛期の年代を示していると考えられます。変成岩の原岩のジルコン年代として24億年から17億年前がえられています。
 飛騨-隠岐帯は、24億年前以降の岩石が分布している大陸があり、その海側(大陸棚)には3.5億年前以降に形成された堆積物がありました。そこで2.5億年前ころの造山運動でできたものが残されていることになります。
 舞鶴帯は、古生代末から三畳紀の造山帯で年代として飛騨-隠岐帯と似た時期になります。今回の報告は、舞鶴帯の構成岩石の年代に関するものでした。近接した露頭から3種の岩石の分析をしています。片麻岩、トーナル岩から石英閃緑岩の混在した岩石(ここで花崗岩類と呼びます)と花崗閃緑岩です。片麻岩は花崗閃緑岩が変成をうけたものです。
 論文のタイトルでは、「18.5億年前」と書かれていますが、それはジルコンから求めた変成年代です。片麻岩だけでなく、花崗閃緑岩でもそのような変成年代がえられています。一方、もともと原岩の年代(火成作用の年代)として、片麻岩では25億年前が、花崗岩類と花崗閃緑岩では4億年前(デボン紀前期)の年代がえらました。
 舞鶴帯の岩石の年代と飛騨-隠岐帯の年代には類似してものと、異なったものが含まれています。それは何を意味しているのでしょうか。それは、次回としましょう。

・前期の終盤・
前期の講義も残すところ、あと少しとなりました。
教員には、前期が終わってからも
定期試験、採点、評価などの作業や、
入試や保護者に関係した出張も続きます。
とびとびではありますが、校務が続きます。
でも講義が終わるので、精神的にほっとできます。
9月には、長期の野外調査もあります。
私用ですが、数日ですが帰省します。
9月の後期の開始まで、集中して研究できる時期です。
それを励みに、残りの前期の授業と
校務を乗り切れればと思います。

・ヒグマの続報・
わが町のヒグマの続報です。
森林公園の一部には農場があります。
その農場の作物にヒグマによる食害が発生しました。
その結果、やっと捕獲がおこなわれることになりました。
14日に目撃情報が2箇所からあり、
私は、そのうちの一つを車通っています。
時間帯が違っているのでみることはできそうにはありませんが。
火曜日の段階でまだ捕まったというニュースはありません。
広い森林公園で、ひとつの罠で捉えることができるのでしょうか。
あまりに遅く不十分な対応に。
市民はかなり戸惑っているようです。

2019年7月11日木曜日

1_170 日本最古の岩石 2:ジルコン

 造山帯の深部のマグマだまりは、花崗岩類が主として分布しています。その花崗岩に含まれているジルコンという鉱物で、年代測定ができます。ジルコンの年代測定には、どのような意味があるのでしょうか。

 南北に走るフォッサマグナで、日本列島は東西に区分され、西を西南日本と呼び、東を東北日本と呼んでいます。また西南日本は、東西に走る中央構造線を境にして、南側(海側)を外帯、北側(大陸側)を内帯と呼んで区分します。
 このうち西南日本内帯は、何度も造山活動が起こっていることが知られています。北側(大陸側)ほど古く岩石の地質体があるのですが、それが新しい時代の地質体の上に、断層でずり上がっているという構造になっています。
 実際に露頭でみると古いものほど断片的になっていて、どのグループ(地質体)に属するのかを、判定するのは難しいものです。その時に、手がかりとなるのが、岩石の種類と年代です。
 まず、岩石の種類ですが、前回、造山帯の花崗岩などの深成岩は、昔のマグマだまりだったという話をしました。造山帯は変動が激しいので、上にあった岩石類が侵食でなくなっていき、マグマだまりが見えることになります。もし、その造山帯が、繰り返し火成活動をおこなっているようなところだと、いろいろな時代の深成岩が見つかることになります。また、花崗岩類は、島弧(大陸)に特徴的な岩石ですので、点々と花崗岩が分布する地域は、かつての島弧の造山帯の深部であったことになります。
 年代測定は、ジルコンと呼ばれる鉱物が見つかれば、一粒でも年代が決められるようになってきました。近年の地質学の科学雑誌は、ジルコン年代による成果の報告が、非常に多くなりました。
 ジルコンは、花崗岩質のマグマから結晶する鉱物です。ジルコン(Zr)という元素が多い鉱物なのですが、その他にウラン(U)も多く含んでいます。ウランは放射性元素で崩壊して鉛(Pb)になります。その放射崩壊を利用して、一点の分析で年代を決めることができます。そして、ジルコンはできると頑丈な鉱物なので、風化や侵食でも残ります。堆積岩中にも見つかり、砕屑性ジルコンの年代測定から、かつて存在したはず花崗岩の年代を知ることができます。また、変成作用にも強く、少々の変成作用では変化しません。ただし変成度が高くなると、縁に新たに結晶が成長したり、縁が再結晶することがあります。そのような部分を測定すると、変成作用の年代を知ることができます。
 つまり、ひとつの岩石から、何粒ものジルコンが取り出せれば、火成作用や変成作用などの事件の記録が、読み取ることができます。ですから、少々変わった花崗岩類が見つかり、そこからジルコンを取り出せれば、いろいろな事件の年代をしることが可能になります。
 その技術を西南日本内帯の小さな露頭の片麻岩に適用されました。すると今まで見つからなかった古い年代と、新たな地帯の分布がわかってきました。それは、次回以降にしましょう。

・努力と経験・
ジルコンの年代測定自体は、機械化されているので
今では、なかり簡便に測定できるようになりました。
しかし、試料を見つけるための地質調査や
ジルコンを分離するための手間は、
労力が必要になり、なかなか大変です。
特に地質調査は、古い石を見つけよう思っても
簡単に見るかるものではありません。
長年、調査を続けた結果、
この当たりに分布していそうだとか
この岩石がどうも古そうだとか、という目が必要です。
それなりの経験が必要だということです。
つまりは、科学の成果には、努力と経験が必要だということです。

・ヒグマ・
私が住んでいる街には、隣街にまたがって
大きな道立の森林公園があります。
先日来、その森林公園の中でヒグマが出没しています。
別の森から来た、若い個体です。
現在、この森を縄張りにして、動き回っています。
森の周辺には、いくつもの大学、小・中・高校があります。
学生もクマを目撃しています。
設置したカメラにも何度も写っています。
早く対処して欲しいのですが、
市と道や部署の縄ばりやテタ割行政のためでしょうか。
それとも大きな被害がでないと動かないのでしょうか。
困ったものです。

2019年7月4日木曜日

1_169 日本最古の岩石 1:造山運動

 日本最古の岩石を発見したと、2月に報告されました。その内容を紹介していきましょう。最古の岩石がどのようなところにあったのか。その基礎となるところから、はじめていきましょう。

 現在、日本には各地で火山があり、活動中の活火山も多数あります。日本列島の火山は、でたらめに分布するのではなく、列をなしていることが特徴です。火山列はいくつかありますが、すべて海溝と平行してあります。ただし、海溝から一定の距離が離れたところに並んでいます。
 日本の火山は、海洋プレートの沈み込みに関係していることがわかっています。火山ができる原理は、沈み込むプレートから水分が絞り出されて、それがマントルの融点を下げてマグマができます。水分が出る位置は圧力に依存しているので、ある深さでマグマができ、その上部の位置が、海溝から少し離れた火山列になります。
 日本列島には活火山だけでなく、活動を停止した火山列もあり、いろいろな時代に活動していたことが分かります。つまり、日本は常に火山列が形成されるような位置、常に沈み込み帯があったことになります。
 古い火山は活動を停止したときから、侵食を受けていきます。古くなればなるほど、侵食の程度は進みます。やがて火山全体が侵食を受けていくことになります。では、もっと侵食を受けると、火山活動を起こしたマグマがあった場所、マグマだまりまで侵食が進んでいきます。
 マグマだまりは、マグマの活動、あるいは火山活動が終わると、そのままゆっくりと冷えていきます。マグマがゆっくりと冷えていくと、大きな結晶からなる深成岩になります。日本列島には深成岩が列をなして分布している地帯がいくつもあります。そのような地帯は、過去の火山列のマグマだまりを見ていることになります。
 深成岩の列の中に、新しい時代の火山が活動していることがあります。そのような火成岩類の分布は、古い時代から現在まで、繰り返しマグマの活動があったこと、沈み込み帯が繰り返し形成されていたことを示しています。
 侵食を受けた火山や陸の砕屑物は、川によって運ばれ、海に堆積します。長く侵食され続けると、堆積岩も多く形成されることになります。古い深成岩だけでなく、古い堆積岩からできた地層も日本列島では見つかっています。いろいろな時代の堆積岩があるということは、常に侵食を受けていることになります。
 常に侵食されるためには、高まりをもった陸地がなければなりません。いろいろな時代の地層があるということは、侵食があっても盛り上がる場であったことになります。隆起運動も何度も起これば、その都度、侵食が起こり地層ができます。
 日本列島は、何度もマグマの列ができ、何度も隆起運動をして、削剥されマグマだまりが露出して、砕屑物から地層ができる場となっています。そのような活動を造山運動と呼び、そのような地帯を造山帯といいます。
 日本列島は古い時代から現在まで、何度も造山運動が起こった地帯となっています。古い造山帯は、侵食を受けるので、その痕跡はだんだん少なくなっていきます。よく探せば痕跡は見つかることがあり、最近、古い岩石が見つかりました。

・天候不順・
北海道はここ数日、肌寒い天候が続いています。
先週末に雲の多い天気の中、
前期では、最後の野外調査にでかけていました。
今後は、8月末からの本州の調査まで一段落です。
今年はかなり天候不順で
例年とは異なっているようで、
これもエルニーニョの影響なのでしょう。
調査には天候が影響するので、気になります。

・道内調査・
今年は、道内の調査に力を入れています。
昨年から、少し始めたのですが、
今後も、その方針で続ける予定です。
この大学に赴任してすぐのころは、
道内各地にの調査をしていたのですが、
その後は本州に移しました。
やはり道内の調査は、準備も移動も楽なので
気楽に出かけられるのがいいですね。

2019年6月27日木曜日

6_165 月の探査 6:マグマオーシャン

 地球創成にはマグマオーシャンがあったことは、定説になってきました。それを前提にして、月の形成シナリオはあまり考慮されていませんでした。今回それを考慮したシミュレーションで、課題がひとつ解決されそうです。

 前回、細野さんたちのグループが報告した
Terrestrial magma ocean origin of the Moon
(月の地球のマグマオーシャン起源)
で、「同位体比問題」に対する答えが得られることを紹介しました。
 月は、巨大天体が衝突しできたことは定説なってきました。その仮説によれば、月には、衝突した天体の成分が多く含まれれることになるはずです。「同位体比問題」とは、月(アポロ計画が持ち帰った試料)の成分(同位体組成)は地球のものに近く、衝突した巨大天体の成分が少ないことが問題となっていました。衝突した天体の成分が多く含まれるという考えは、衝突によるシミュレーションでは、衝突天体の成分が多くなるという結果がでていました。
 細野さんたちは、衝突時の条件を変更してシミュレーションをしました。その条件とは、地球にはマグマオーシャンがあったという設定でした。マグマオーシャンとは、原始地球では隕石の衝突が激しく、表層が高温になり岩石が溶けてマグマの海ができていたという仮説です。このマグマオーシャンんの存在も定説となっています。
 マグマオーシャンは、岩石の地殻やマントルとは性質が異なるため、衝突によって飛び散る様子が違ってくると考えられます。しかし、これまでこのような条件でのシミュレーションはなされていませんでした。
 細野さんたちのシミュレーションによると、マグマオーシャンの状態の原始地球に衝突が起こると、マグマがジェットとして吹き出し、それが地球軌道上の円盤になり、やがて月になるというものです。
 もう少し詳しく見ると、衝突があると、衝突天体の物質もかなり地球周辺に飛び散ります。残った衝突天体の物質は、すぐに(40時間ほど)再度地球と衝突して合体します。最初の衝突で飛び散った成分は、両者の成分が混同しているのですが、衝突した天体の成分が地球に落ちてきます。一方、地球のマグマオーシャンの成分は、マグマのジェットのように吹き出し、軌道周辺に飛び出し存在しています。その後、軌道上に残っていた成分(地球のマグマオーシャンの多い成分)から月ができることになります。マグマオーシャンから飛び散った成分が多い素材(70%以上)からできたると、「同位体比問題」が解決できます。
 月は、もっとも身近な天体です。人類が降り立った唯一の天体で、現在も探査が続けられている天体です。その天体の形成過程が、巨大天体の衝突によるものであることが定説になっています。しかし、でき方が分かっていませんでした。そんな未知が、天体観測やシミュレーションでひとつ解かれようとしています。

・京・
シミュレーションの説明では単純化していましたが
実際にはいろいろな条件で複雑な計算が繰り返されています。
その計算はスーパーコンピュータ「京」で行われました。
京は日本が誇るコンピュータで2012年に完成して
世界最速を誇っていました。
そして、数々の成果を上げていました。
2019年8月16日に運用は終了します。
その代り100倍の性能もった次世代のスーパーコンピュータ
「富岳(ふがく)」に置き換えられる予定だそうです。
「富岳」の名称は2019年5月23日に決定されました。

・地球の過去・
今まで月の地殻のデータが主でしたが、
中国の探査で、間接的でありますが、
マントルの情報を手に入れたことになります。
今回のシミュレーションの結果も取り入れると、
月の起源とその化学的性質をかなり束縛する条件となります。
このシミュレーションが正しいとすると
現在わかっている月の岩石から、
地球のマグマオーシャンを推定するこも可能でしょう。
月から地球の過去が探れるかもしれません。

2019年6月20日木曜日

6_164 月の探査 5:起源

 月の探査とは違った内容の報告です。月の形成過程に関する報告です。最近だされた成果で、これまで月の起源で課題となったいたものが、解決できるのではという報告でした。

 中国の月探査機玉兎2号が調べた地域は、月の岩石の中でも特殊な岩石が分布していると考えられる地域でした。隕石の衝突で地殻とマントルが部分溶融して固まったものの可能性がありました。そして、地殻で分析して確認しました。
 実物試料の分析は、1970年代のアポロ計画で持ち帰えった月の表側のデータが主でした。あとは周回軌道からの遠隔からの観測でした。その観測を検証することが玉兎2号の重要な任務でした。今回の探査で、月の裏側でそれも特異な岩石が出ているところを調べ、遠隔観測のデータと一致したことは重要な成果でした。
 これは、月の起源に迫れる情報となると考えられています。月は非常の大きな衛星なので、他の惑星の衛星の起源とは違ったものとだと考えられていました。月の起源には、古くからいろいろな仮説があったのですが、近年では、巨大衝突仮説が有力でした。
 巨大衝突仮説とは、原始地球に火星サイズ(地球の半分ほど)の天体が衝突したというものです。衝突で、地球や天体の岩石が飛び散ったり、蒸発したりして、地球軌道上で集まったものが月になったと考える仮説です。
 巨大衝突仮説は、月の大きさだけでなく、月の化学組成も説明できました。これまでのシミュレーションでは、月は、ぶつかってきた天体に由来する物質が多くなってくることを示していました。
 アポロ計画で持ち帰ってきた試料のデータと比べると、いくつかの成分(同位体組成)が地球のものに近いことがわかっていました。この結果は、シミュレーションと化学組成のデータが合っていませんでした、「同位体比問題」と呼ばれて、重要な課題となっていました。
 今年の4月29日にイギリスの科学雑誌「Nature Geoscience」に、海洋研究開発機構の細野七月たちの研究グループが
Terrestrial magma ocean origin of the Moon
(月の地球のマグマオーシャン起源)
という報告が出されました。この論文は、「同位体比問題」に対する答えを提示しようというものでした。
 詳細は次回にしましょう。

・涼しい・
北海道は、週末から数日寒い日が続いています。
自宅内も朝夕は涼しく、
さすがにストーブをたくほどではないですが、
冬の室内着を出して着ていました。
それでちょうどよかったです。
降雨も気温も少々平年とは違っています。
エルニーニョ現象のせいでしょうか。
農業に被害がでなければいいのですが。

・アポロ・
アポロ計画は、1961年から1972年まで実施されました。
アポロ11号から17号まで、月面に着陸して調査をしました。
ただし、アポロ内13号は、月に向かう途中に事故があり
月を周回して着陸せずに帰還しました。
アポロ計画では全6回に渡った調査になりました。
降り立ったの人類は、12名となります。
アポロ計画以降、月の試料は入手できていません。
月隕石とされるものもありますが、
場所も時期も不明で、月由来という確証もありません。
ですから未だにアポロの試料は
重要な役割をもっています。
ただし、限られた地点、表側だけの試料など
限定された試料なので月の全貌をみているという
保証がなく、それが不確実性となります。

2019年6月13日木曜日

6_163 月の探査 4:活断層

 中国が月に、次々と探査機を送っていることは、これまで紹介してきました。今回は、月について、古くて新しい話題を紹介します。50年も前のデータを解析し直したら、最近の活動が見えてきたというものです。

 月の探査は、なんといってもアポロ計画の成果が大きなものでした。アポロ計画で人類が最初に月に降り立ったのは、今年の7月でちょうど50年になります。4回の有人の月面着陸で、多くの成果をあげたのは紹介するまでもないでしょう。その時に、着陸船の近くに地震計(月震計とよばれます)も置かれていました。それぞれの着陸船でひとつずつ4個の月震計が観測をしていました。これらの月震計は、8年間稼働して、月震を多数記録しました。また、アポロの不要な部品を月に衝突させ、人工月震を起こして、観測もなされました。
 当時に月震は数千回も記録され、データの解析もされてきました。その多くは、母星となる地球の引力による、月への潮汐力によるものだと考えられていました。大気のない月では、昼夜の温度差が260度以上になるため、その変化によって岩石が割れることでも、月震が起こることもあると考えられていました。それらの多くは地殻の浅いところでの地震が大半でした。
 ところが、当時も数kmの地殻内で起こる地震が、28回ほど起こっていたことが知られていました。これらは、非常にエネルギーの大きな地震でした。地球ではマグニチュード5.5に匹敵するエネルギーとなります。これらの地震がなぜ起こっているのか、その原因は不明でした。ただし、月震計は4台しかなく、その観測範囲も160km程度なので、精度があまり良くありませんでした。
 スミソニアン研究所のWatters氏らの研究グループは、昔のデータを再度分析し直し、2019年5月13日の「Nature Geoscience」にその結果を報告しました。最新のシミュレーションで検証もおこなっていました。その結果、月の28回の月震のうち、8回は月の断層崖の30km以内の近所で起こっていること、そのうち6回は、月が地球から一番離れた時に起きていることがわかってきました。2009年から観測していたNASAの月探査機ルナー・リコネサンス・オービターの画像で、多くの断層が見つかっていました。そこには、断層によってできた崖も見つかっていました。それらの断層が、周囲の地質状況から、最近できていると推定していました。最近とは5000万年以内の現象と考えました。
 月の断層が最近の活動の可能性があること、その周辺で月震が起こっていることから、月では、最近でも断層を形成する活動が起こっていると推定しました。手法は問題ないのですが、データがあまり精度が良くないで、今後は検証作業が必要となるでしょう。

・YOSAKOIソーラン・
先週の5日から9日まで、
北海道はYOSAKOIソーラン祭りでした。
私は、週末から月曜日まで調査にでていました。
ですから、YOSAKOIの様子は知りません。
自宅にいても、YOSAKOIは、
いつもテレビで見るだけですが。
でも学科やゼミや学生が大学のチームに参加しているので、
気にはしているます。
今は、野外調査で頭が一杯です。

・調査・
このエッセイも、毎回のことですが、
週末に調査に出るので、事前に予約配信をしています。
本来であれば、調査を終え帰ってきて
送信してもいいのですが、
やるべきことがあると、落ち着かないので、
できることは早めに済ませてしまいます。
そういう性質なので仕方がありません。
YOSAKOIも調査も終わっているのですが
その様子は、まだ知りません。
調査様子は別の機会に紹介します。

2019年6月6日木曜日

6_162 月の探査 3:嫦娥4号

 中国の嫦娥4号は、多くの科学者がぜひ調べたい思えるような地に、着陸しました。探査車も動き出して調査をはじめました。期待通りの成果を挙げつつ、また思わぬ成果も挙げています。

 中国の月探査機、嫦娥4号は、月の裏側、つまり地球から見えない側へ2019年1月3日に着陸しました。また、玉兎(ぎょくと)2号と呼ばれる月面探査車も搭載されており、活動をはじめているようです。
 嫦娥4号は、月の裏側の南半球の南極にあるエイトケン盆地に着陸しました。この盆地は、横幅500km、あるいはそれ以上あるともされる月で最も大きく、そして最も古いもの盆地と考えられているところです。この盆地は、巨大な隕石の衝突によってできたものだと考えられています。その盆地の中にある直径180kmのクレータ(フォン・カルマン・クレーター)に着陸しました。
 嫦娥4号には、植物や種、ハエの卵、イースト菌などをもっていきました。植物の種は、綿花ものですが、発芽に成功したようです。月面での生物の栽培ははじめてのことでした。今後、生物や生態系を維持するためには、環境を整えていく必要があるでしょうが、大きな成果といえます。
 エイトケン盆地は、実は多くの研究者が目を付けていた地点だったのです。激しい隕石の衝突があり、地殻を突き破りマントルまでむき出しになっている可能性がありました。産業技術総合研究所の中村良介さんと石原吉明さんは、日本の月探査衛星「かぐや」の観測したデータを用いて、低カルシウム輝石を多く含む(約20%以上)物質に着目して、月表面上での分布を調べまた結果を、2012年に報告しています。エイトケン盆地に多く分布していることがわかっていました。中国も周回軌道からの事前の観測データでも、この盆地の岩石が、月の高地の岩石とは異なっていることを確認していました。
 月面探査車の玉兎2号は、クレーター内を動き回り、衝突によるエジェクター(放出物)や構成岩石の鉱物を調べることになっていました。カメラで調査にふさわしい地点を探りながら、月中レーダー(深さ100mほど)で地下の構造も調べてました。玉兎2号はクレーター内を走り回りながら、岩石の分析をしました。その結果、低カルシウム輝石とカンラン石が多くあることを確認しました。
 カンラン石は地球でもマントルの主要構成鉱物です。また輝石のマントル構成鉱物ですが、カルシウムの少ない輝石は、鉱物ではピジョナイト、エンスタタイト、フェロシライトなどになります。これらの輝石は、衝突で地殻とマントルが部分溶融して、それが再度固まったときにできた鉱物だと考えれています。アポロ計画で採取された試料の中に、衝突溶融物の放出物もあり、それと一致していました。
 今回の玉兎2号は、低カルシウム輝石とカンラン石の存在を実際に確認したことになります。中国はマントル物質ではなかいと考えていますが、まだ確実ではありません。科学はすべて手順を追っていきます。はじめてのことも重要ですが、検証作業も非常に重要です。

・汚染・
スペースシャトルや国際宇宙ステーションなどの地球軌道上では、
生物を栽培や飼育はおこなってきました。
しかし、月面でははじめてのことになります。
アポロ計画で、人類はさまざまな足跡、痕跡を
月に残してきました。
他天体への検疫や地球生物による汚染などは
当初は考えませんでした。
宇宙飛行士からの地球の汚染は考えていましたが。
今では、天体の環境を考えるようになってきましたが、
月面着陸での探査は、しばらくなされていませんでした。
今後、中国が月面での探査を繰り返していくのであれば
また考えていくことも必要でしょうね。

・道東調査・
6月になりました。
北海道では、おだやかな初夏がスタートしています。
天気続きで降雨量が少ないので少々心配ですが。
今週末にまた道東へ調査にいきます。
そこには知床も含まれています。
北海道は、離島以外はかなりのところは訪れているのですが、
知床だけは私にとって未踏の地でした。
天気がよければいいのですが。
もしだめだったら、再度チャレンジなければなりません。

2019年5月30日木曜日

6_161 月の探査 2:嫦娥計画

 中国は有人宇宙飛行だけでなく、月の探査も進めています。その成果も着々と上がっています。月の着陸船での探査は久しぶりになります。しかし中国はもっと深淵な計画を持っているようです。

 今年の1月に中国の探査機が月の裏側に着陸したというニュースが流れました。その探査機は、嫦娥(じょうが)4号という名前でした。4号ということは、1号から3号までが先行してあるはずですし、もしかすると、5号以降もありそうです。そんな中国の月田探査計画を見ていきましょう。
 嫦娥とは、昔の中国の神話に登場する人物で月に関係するものだそうです。嫦娥は、月を目指す探査機で、探査計画、着陸計画、滞在計画に分かれて順次進行しています。
 嫦娥1号と2号は、探査計画に当たり、すでてに成功しています。嫦娥1号では、月の周回軌道を1年かけてめぐり、月の全体の3次元地形(標高データが加わったもの)や表層の元素分析などの科学調査をしています。嫦娥2号では、低高度(100km)で、より高精細の地形(10mメッシュ)で探査しています。これらの調査結果は次の着陸計画に活かされていきます。
 嫦娥3号と4号が着陸計画で、探査機が月に着陸しました。嫦娥3号は、月への着陸船(ランダー)と探査車(ローバー)が搭載されていました。2013年12月には着陸に成功していました。ランダーは、夜にも活動しなければならないので、原子力電池(プルトニウムの崩壊熱を利用)を搭載していました。いくつかの観測装置を搭載していますが、天体望遠鏡がはじめて月に持っていかれてことで注目されました。観測のデータの一部は公開されています。調査は順調に進んでいるようです。一方、ローバーは、太陽電池を動力として移動しながら土壌分析などをする予定でいました。しかし、ほとんど探査することなく不調に陥ったようです。
 嫦娥4号は2018年12月に打ち上げられ、2019年1月に着陸しました。やはり、ランダーとローバーを搭載していました。嫦娥4号の成果は、月の裏側に着陸したことでした。月の裏側の着陸は、人類史上はじめてのことでした。裏面の地形などは、日本も含めていろいろな国の周回衛星で観測はされていましたが、着陸は初めてでした。それは裏側の探査では、探査機とデータのやり取りをすることが不可能です。地球から見ると常に裏側なので通信できないからです。単独の探査機では地球との通信が直接できないため、中継システムが必要になります。中国は、鵲橋(じゃっきょう)という衛星を、地球ー月ラグランジュ点(L2)に中継衛星として置いていました。
 次の嫦娥5号は、まだ計画段階ですが、サンプルリターンを考えているようです。当初の計画からは遅れていますが、やがて次の滞在計画になるのでしょう。中国は、神舟で有人飛行にすでに成功しています。宇宙ステーションも準備しています。中国は月に人を送り込み、滞在することを目指しています。
 嫦娥4号の成果については、次回としましょう。

・論文執筆・
現在、論文を書いています。
当然全体的な、私自身の研究のライフワークと
年次計画を持っています。
そのため、論文ごとに、
研究計画に基づいて書いてくことになります。
私はいろいろな書き方をしているのですが、
当初書いく方針はあったのですが
なかなかまとまらないので
とりあえず書ける前半から書き始めていきました。
それが結構な量になってきたので、
後半の重要となる目標の部分は、
半分くらいにして、
別の論文にしなければならないみたいです。
こんなことはよくあることなので、
まあ、少しずつ進むことが重要だと思っています。

・調査計画・
ゴールデンウィークには私用での旅行をしました。
それ以降は、今年の調査計画に基づいて
野外調査を休日にすすめています。
まずは道北、続いて道東と道央になります。
道央は露出があまりよくないので、
短期を2回ほどを考えています。
道東は時間が必要なので、今回は1回だけの予察です。
道東は行ったことないところも
何箇所か含まれていますので楽しみですが、
でもいい露頭を見つけられるかどうかが重要なのですが。

2019年5月23日木曜日

6_160 月の探査 1:神舟計画

 1月に中国の月探査のニュースが流れてきました。その他にも、月に関する研究報告もいくつかでてきたので、まとめて紹介していきたいと思います。まずは中国の宇宙探査についてです。

 今年1月に中国の嫦娥(じょうが)4号が月の裏側に着陸した、というニュースが流れました。中国の宇宙開発に関するニュースが時々報道されますが、中国は宇宙開発に関しても着実に実力をつけてきているようです。
 中国は、長く宇宙探査に取り組んでいたようです。中国は、米ソの冷戦中、ソビエト連邦の援助を受けながら、独自の宇宙開発を目指していました。しかし、1960年代に中ソの関係悪化にともなって、ソビエト連邦の援助が受けられなくなり、独自で開発していくことになりました。それでも、長征1号というロケットの打ち上げに1970年に成功し、東方紅1号という人工衛星も、その時打ち出していました。ソビエト連邦の崩壊後、ロシアからソユーズの技術提供を再び受けて、有人衛星の技術も取り込みまれました。
 次に大きくニュースに取り上げられたのは、神舟でした。神舟は、中国の有人宇宙飛行計画になります。神舟5号で、はじめて有人宇宙飛行に成功しました。自国のみの力で成功したのは、ソビエト連邦とアメリカ合衆国に次いで3国目となりました。神舟は、技術協力を受け、実績のあるロシアのソユーズの宇宙船を基本として改良を加えています。無人ですが天宮1号と命名された宇宙ステーション実証機も宇宙空間に上げています。天宮1号へ神舟8号は無人でしたが、ドッキング実験をして成功しました。なおこの天宮1号は、2018年に大気圏に突入して燃え尽きています。
 神舟5号では乗員は1名でしたが、7号では3名、9号と10号でも3名、11号では2名が搭乗していました。着実に有人での宇宙飛行の実績を積み重ねています。現在では中国も、宇宙開発で世界のトップクラスの実力をもってきたことになります。
 現在中国は経済力もあるので、多額の費用を宇宙探査にも投資しているので、計画はかなり進んでいるようです。次は嫦娥(じょうが)計画を少し詳しく見ていきましょう。

・早朝の快晴の空・
北海道は桜が終わり、桃とツツジ、チューリップなど
春から初夏の花が一斉に咲き始めています。
ここしばらく快晴の日が多いので、
快適な日々が続ています。
朝型の生活をしているので、
早朝の朝日が登る頃、
快晴の空のもと農場の中の道を歩くのは
非常に心地よいものです。

・道北の露頭・
今週末から再び道北の調査にでます。
前回は、初日から2日目まで天気が悪くて
目的の露頭をあまりじっくり見ることができませんでした。
できれば、今回はじっくりと露頭を見たいと思っています。
調査とは、目的に合う露頭をみつけて、
しっかりと観察していくことです。
いい露頭が見つかるといいのですが。
道北では、景観のきれないところは
いくつもあるのですが、
何度も通いたくなるような露頭は
まだみつかっていません。

2019年5月10日金曜日

1_168 グランドキャニオンの不整合 5:クレーター

 グランドキャニオンの不整合には、クレーターに関する謎を解決するヒントも隠されていました。不整合とクレーターが、どう結びついているのでしょうか。そこには、スノーボールアースが関わっていました。

 カンブリア紀の少し前の時代に、グランドキャニオンなどに見られる大きな時代ギャップをもった不整合は、スノーボールアースの氷河による激しい侵食ためだという報告があることを紹介してきました。陸地の岩石が侵食を受けて、その堆積物が地殻深部に入り込みmマグマをつくる起源物質として再利用されていることになったと考えられています。ジルコンという鉱物の化学組成を用いて検証していました
 論文では不整合の存在の他に、スノーボールアースの氷河の影響を、クレーターの問題についても言及しています。クレーターは、隕石の衝突によってできます。隕石は惑星の材料ですので、惑星形成期には多数の隕石が衝突合体していました。ある程度原始の惑星(地球も含みます)が成長すると、惑星の軌道付近の隕石は、すべて衝突合体してしまいます。
 現在でも、隕石は落下しています。隕石の衝突は偶発的なものですが、大きさを問わなければ、多数の隕石が、今でも地球には落ちてきています。小さな隕石ほど多く、大きな隕石は少なくなっています。しかし、地球創成期は別にすれば、その衝突では大きいものが少なく、小さいものが多いという比率は一定であると考えられます。大気や海洋のない月で、クレーターのサイズと時代ごとの落下頻度の関係が調べれています。
 稀ではあっても、長い時間で考えれば、大きな隕石の衝突も一定の比率で起こったと考えられます。大きなクレーターは、新しいものから古いものまであるはずです。もちろん、クレーターは見つけられるのは、見えるところが主なので、大陸域にものが主となります。海洋地域では、海洋プレートが沈み込んでしまうので、古いものは表面から消えてしまいます。陸地では浸食作用が働くので、古いクレーターは、消されていきます。ですから同じ比率でクレーターが形成されていたとしても、古いものは少なく、新しいものは多くなるはずです。その傾向はカンブリア紀以降のクレーターで検討できます。
 論文では、25億年前まで遡ってクレーターの形成年代を調べています。カンブリア紀以前には、巨大なクレーター(直径100km以上)のものが2個見つかるだけでした。現在からカンブリア紀までの統計的推定からは、カンブリア紀以前にももっと見つかっていていいはずなのですが、見つからないということになります。つまり、約6億年前以前に形成されていたクレーターがなくなっていることになります。この問題も、陸地の巨大氷河がクレーターを削り取ってしまえば、答えとなります。
 しかし、スノーボールアースの考えにも問題があります。それは、スノーボールアースの氷河期の終わり(約6億3500万年前)とカンブリア紀始まり(5億4100万年前)までの間に、1億年近い時間差があることです。カンブリア紀の生物が爆発的増える現象(カンブリアの大爆発)は、生物の進化なので時間が必要でしょうが、堆積物はそれだけの時間があれば、大量に形成されているはずで、その期間の堆積物が少ないのが問題となっています。著者たちもいっているのように、今後の課題でしょう。

・スケーリング則・
隕石の落下の頻度は、小さいものが多く、
大きいものが少ない、といいました。
同じような傾向は、
多くの自然現象で見られるものです。
地震のマグニチュードとその発生頻度、
雪や雨の降雨量とその頻度、
自然災害の規模とその頻度
などがあります。
社会現象にも似たものが見られます。
株価の変動幅の大きさとその頻度、
事故の規模の大きさとその頻度など
いろいろなもので、小さくものは多く
大きものは少ない、という現象が挙げられます。
このような現象で、関係が明らかにされたものは
スケーリング則と呼ばれ、現象の解明のヒントなります。

・5月病・
ゴールデンウィークも終わり、
私は半分の期間で、研究に専念できる時間があり
ありがたかったのですが、
授業がある日常に復帰するのに少々時間がかかりました。
少々5月病になってしまっていたようです。
学生たちも、連休から1周間経って、
やっと平常的な気分になってきたようです。
中には5月病に悩んでいる学生もいるでしょうが、
なんとか立ち直って欲しいものです。

2019年5月9日木曜日

1_167 グランドキャニオンの不整合 4:ジルコン

 花崗岩質のマグマが固まる時、ジルコンという鉱物ができます。ジルコンは丈夫な鉱物なので、風化や侵食を受けても残ります。ジルコンを調べることで、スノーボールアースの様子を復元しています。

 スノーボールアースのような氷河期があると、陸地が激しく侵食されと考えられます。現在の南極大陸は、氷河(氷床といいます)で覆われています。氷床が自重によって移動することによって、大陸地殻は激しく侵食を受けていきます。スノーボールアースの時代には、すべての大陸(赤道付近でも)に、氷床、氷河が形成されていました。そこでは、南極の氷床と同じように、地殻の侵食作用が大規模に起こったと考えられます。
 堆積物の形成年代を調べて、地球史の全時代でみていくと、カンブリア紀の始まり、つまり顕生代のはじまりを境にして、顕生代以降は大量になります。カンブリア紀以前は、堆積物はどの時代のものも少なく、その量は5分の1以下になっています。
 古いものは、侵食などで少なくなるのは、摂理で当然なのですが、それにしてもある時から急にその量に差があるのは、不思議な現象です。何らかの原因で、激しい侵食を受けているのではないかと考えられます。その原因が、スノーボールアースによる侵食だと考えられます。激しい侵食の結果、グランドキャニオンの不整合ができたというシナリオになります。
 スノーボールアースの氷河が、何度かにわたって形成されることで、残された堆積物の量からみると、大陸地殻(堆積物も含めて)の大半が侵食されたことになります。削られた堆積物は、海洋プレートの沈み込みで地殻深部にもたらされたと考えられます。ただし、地殻物質は堆積物になっても密度が小さいのマントルに沈み込むことはできません。
 その検証に、報告ではジルコンという鉱物を用いています。 ジルコンは火成作用の年代を調べることにも用いられているのですが、この報告では、同位体組成のデータを集めて検討しています。ジルコンという鉱物は、花崗岩質のマグマから結晶化してできたものです。そのため花崗岩質マグマの性質を反映していることになります。
 ジルコン中の酸素とハフニウム(Hf)の同位体組成を検討すると、スノーボールアース直後に両者ともに、激しい数値の変化が見られました。酸素同位体は、地表の低温の熱水の影響を受けたことを示していました。その熱水は、堆積物から由来している可能性があります。
 酸素とハフニウムの比をとると、花崗岩のマグマが形成される時に、地殻物質が取り込まれたときに、大きく変化することがわかっています。比が正の値になる時は地殻物質の取り込みが多くなり、負の時は少ないとされています。比は正の大きな値となっていました。
 以上のことから、グランドキャニオンの不整合の時代には、激しい侵食を受けて、その物質が地殻物質として再利用されることになったと考えられています。さらにもうひとつの証拠も見つかっています。それは、次回としましょう。

・人それぞれ・
今回のような長い休暇は人によって過ごし方が
いろいろあると思います。
正規雇用に人は、楽しく長い、休暇となるでしょう。
非正規雇用の人にとっては、
大幅な収入減になりかねません。
サービス業の人にとっては、
かきいれ時でもあり、
休めない人も多いかもしれません。
学生の多くは、アルバイトをしています。
業種も飲食はコンビニのサービス業が多いので
忙しそうに働いています。
生活費を自力にまかなっている学生にとっては、
長い休みにはしっかり稼げるのでいいかもしれません。
同じ非正規雇用の人にとっても、
ゴールデンウィークは、人それぞれで多様ですね。

・桜の花見・
ゴールデンウィークはいかが過ごしだったでしょうか。
私は、前半の5日間は、
家内と二人で北海道の地方に滞在していました。
静かな休日となりました。
桜が咲き始めていて、桜の多い近くの公園に、
満開の桜を毎日に見み通いました。
そんないい場所なのに、人はほんどいませんでした。
後半は、自宅で過ごしました。
毎日、午前中は大学に出て仕事をして、
午後にはのんびりとしました。
大学の桜並木も、ほとんど人のいなところで
満開を迎えたのを見ました。
天気のいい日には、夫婦で有名な公園に
花見にいきました。
幸いまだ桜が満開で、再度、花見ができました。

2019年5月2日木曜日

1_166 グランドキャニオンの不整合 3:スノーボールアース

 グランドキャニオンの大不整合は、どのような原因によるものでしょうか。それに関する新しい報告が出されました。その原因はスノーボールアースと呼ばれるものです。スノーボールアースとは、いったいなんなのでしょうか。

 グランドキャニオンの「大不整合」と似たような大規模な不整合は、世界中の地層で認められています。似たような時期に、大規模な不整合が形成されいます。その空白の期間は、グランドキャニオンでは5億年ほどになります。その間、いったい何があったのでしょうか。
 その間に起こった問題としては、氷河期の期間とその原因ではないでしょうか。期間とは、どれくらいの間、陸化していたのかということです。実は、これは「大不整合」だけでなく、すべての不整合で起こる問題です。不整合とは、古い堆積物を侵食していくので、10億年前の地層が不整合の下にあっても、実はそれが不整合の始まりではありません。不整合はもともとあった地層を侵食しますので、堆積していた時期も不明になってしまいます。侵食の結果、10億年前の地層で不整合面ができていることになります。
 もしかするとその間、何度か海になったり、陸になったりを繰り返して、最終的に10億年前の地層まで侵食されたのかもしれません。空白の期間である5億年は、山ができ海になるには十分すぎるほど長いものだからです。この問題は、なかなか難しいものとなります。
 もうひとつの原因については、不整合ごとの個別の話になります。ただし、グランドキャニオンのように大規模な「大不整合」は、全地球的な原因を考えなければなりません。
 米国科学アカデミー紀要(PNAS)の2019年1月号に、「大不整合」に対して新しい考え方が提示されました。バークレー地質年代学センターのブレンヒン・ケラーさんらは、
 Neoproterozoic glacial origin of the Great Unconformity
(大不整合の新原生代の氷河期起源)
という論文を出しました。このタイトルは、新原生代(10億~5億4100万年前)にあった氷河期によって「大不整合」ができたという意味です。ここでいう氷河期とは、多くの人が習ったことのある、第四紀に繰り返し起こったものではありません。「スノーボールアース」と呼ばれる氷河期は、全地球的な現象で、大規模なものです。
 スノーボールアースについては、エッセイでも何度か取り上げていますが、原生代に、全地球的に起こった大規模なものです。スノーボールアースとは、雪玉のことです。この時期の地球は、雪玉のように、真っ白な玉のようになっていたという意味です。海は氷、陸も氷河が覆い、すべて氷の世界になっているということです。雪ではなく氷なので、「アイスボール」になっていたのでしょうが、スノーボールアースと命名されています。
 スノーボールアースには、大きく2つの時期があったと考えられています。古原生代初期と新原生代末の2度です。古原生代初期のスノーボールアースは、ヒューロニアン氷河期(約24億5000万年前~約22億年前)と呼ばれています。そして、新原生代末のものは、少なくとも2度続けて起こったと考えられており、スターチアン氷河期(約7億3000万年前~約7億年前)と、マリノニアン氷河期(約6億5000万年前~約6億3500万年前)と呼ばれるものです。
 スノーボールアースでは、海は赤道域まで完全に凍ってしまい、陸著も氷床が発達していたと考えられています。海も1000mの深さまで凍ったとされるものです。最近の氷河期とは比べものにならないほどの規模です。
 このスノーボールアースが、新原生代末の「大不整合」に原因ではないかというのが論文の意味するところです。その詳細は次回としましょう。

・リフレッシ・
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか。
私は、昨日まで出かけていました。
北海道の田舎で、同じところに4泊して
夫婦でのんびりとしていました。
ただし、このエッセイは、予約送信をしていますので、
その感想は別の機会になります。
その地は、調査で何度も訪れているのですが、
自宅から4時間ほどでいけます。
4時間は、近くもなく遠くもなく、
北海道では日帰り出張可能なところなのですが、
所要があれば1泊する距離でしょう。
でかけているという気分になるところです。
その地は、都会的な便利さがありませんが、
必要なものはそろっています。
なんといっても、ここは自然がたっぷりと
満喫できるところです。
そんな自然に浸ってリフレッシできます。

・ネットワーク・
ゴールデンウィークの期間、
大学のネットワーク環境の更新するために、
短時間ですが接続ができなくなるとのことです。
メール確認もできないこともあるようです。
そのため、このエッセイは事前の予約送信しています。
大学に来てみないと、状況がどうなっているか
わからないので、予約送信にしました。
2日からは大学に通常通り来る予定をしているのですが
ネット環境がないと、いつもとは少々違ってくるかと思います。
まあ、実際にはそれほど不自由はないと思いますが。

2019年4月25日木曜日

1_165 グランドキャニオンの不整合 2:不整合の形成

 地層には多数の境界があります。不整合も境界です。しかし、地層の境界と不整合の形成は、まったくちがうものです。不整合はどのようなプロセスで形成されていくのでしょうか。

 地層とは、海底に土砂が繰り返し流れ込んで溜まったものです。多くの地層は、一気に短時間にたまります。地層の形成は、陸の近くで常に起こる大地の営みでなされます。不整合は、たまに見つかる珍しいもので、地層に見られる整合とは全く異なったでき方をしています。不整合には、侵食を受けた面があり、その面はでこぼこしたものになります。ここまで前回のエッセイで述べたのですが、今回は不整合の意味を考えていきます。
 不整合にはでこぼこの侵食面があります。それは、その地層が、堆積場から侵食場に変わったことを意味します。侵食が激しいのは陸地ですから、不整合ができるには、海から陸への転換が必要になります。陸地で侵食を受けた後、再び海になって、新たな堆積物が堆積していきます。このような複雑な過程を経た結果、地層の間に不整合ができます。不整合の形成のプロセスは、海と陸と巻き込んだ大地の激しい変動があったことを物語ります。
 通常の整合の地層境界の期間にも、堆積物は一気に形成されますが、それ以外の期間、堆積物はほとんどたまりません。それが地層境界にとなります。地層境界にも多くの時間がかかっているのですが、不整合の形成のための期間は、何桁も違った長い期間に及ぶ変動になるはずです。ただしその期間は詳しく調べなければわかりませんが。
 例えば、造山運動があれば山ができます。長い時間が経過すれば、やがて侵食されていきます。もし、近くで新たな造山運動が起これば、山が海になることもあります。あるいは、海洋プレートの沈み込むようなところでは、海の岩石が陸側に付加したり、陸側の岩石が侵食されたりします。そのような場では、海や山ができたり侵食しされたり、変動の激しい場となります。このような大地の変動場で、山になったり海になったりする作用が起これば、不整合が形成されます。
 では、もし不整合が、安定した大陸中の地層で見つかったら、その地層ができた時代に、非常に大きな変動があったことを意味します。その不整合が、他の同時代の地層でも見つかったとしたら、それは全地球的な地球史上でも大きな変動と結び付けられるのではないでしょうか。
 グランドキャニオンの「大不整合」と呼ばれるものがあります。先カンブリア紀、10億年前より古い時代の地層の上に、不整合でカンブリア紀(約5億4000万年前よりはじまる)の堆積岩が覆っています。その「大不整合」の意味について、新たな考えの報告が、今年の1月にありました。
 それは、次回としましょう。

・春の芽吹き・
今年は3月末から4月当初にも寒い日がありましたが、
暖かくなってきました。
里の雪も排雪場以外ではすべて融けました。
北海道の植物でも、春の進みが感じられます。
春先の草や花が芽吹きはじめています。
フキノトウやツクシなどが一気に咲き出しました。
桜はまだ少し浅いですが、春めいた日が続いています。

・ゴールデンウィーク・
大学では、今週で4月の講義は終わりで、
カレンダー通りに休日を設定していますので、
長いゴールデンウィークになります。
里帰りする学生も多くいるでしょう。
クラブやサークルのある学生は、
帰省することなく、大学で活動してきます。
教員である私は、今週も新しい講義の準備で四苦八苦しています。
ですから、ゴールデンウィークはしばし休憩したいのですが、
どうなることでしょうか。

2019年4月18日木曜日

1_164 グランドキャニオンの不整合 1:地層の境界

 今回のシリーズは、北米大陸の景勝地、グランドキャニオンの地層が話題となります。堆積岩の地層にある境界の意味をまずは考えてみましょう。さらに、不整合には、どんな意味があるかを考えていきましょう。

 地層とは層があるものをいうのですが、その層の境界面は、すべてほぼ平らで水平な面になっています。多くの境界は似たような面となっており、境界は繰り返しています。そのような地層を整合といいます。
 本来地層は、堆積岩だけでなく、いろいろな岩石を含むのですが、今回の話題は、堆積岩からできているものです。よく見かける「いわゆる地層」を想像してみてください。日本列島には、この地層が多いのですが、連続した堆積作用でできたものではありません。なぜなら、境界があるということは、違った岩石が接しているために、違いが見えていることになります。そこには少なくとも、物質的な不連続が生じています。
 ですから整合とはいっても、地層境界には不連続があることになります。先程思い浮かべた「いわゆる地層」は、タービダイト層と呼ばれるもので、日本列島では頻繁に見かけるものです。
 タービダイト層は、海岸や河口付近で溜まった土砂が、海底の土石流によって、より深い海底に流れ込んだものです。土石流が海底に堆積して一枚の地層となります。堆積物は一気に堆積していきますので、堆積物は短い期間の記録にすぎず、地層の境界に長い時間が詰まっていることになります。
 土石流が繰り返し発生すれば、タービダイト層ができていきます。タービダイト層は、土石流の流れた短時間の出来事を記録しているだけで、多くの時間は地層境界になり、ほとんど時間の記録はされていません。しかし、このような地層を整合と呼んで、連続してできたものと考えています。記録としては不連続なものですが、連続として扱っていることになります。これは注意が必要です。
 しかし、それはもっと不連続なものが地層には見つかるため、それと比較していくとそうなります。それは不整合と呼ばれるものです。不整合とは、地層の間に見られる境界の一種です。境界の特徴として、侵食を受けた面があり、その面はでこぼこしたものになります。時にはその面に、礫岩が堆積していることがあります。基底礫と呼ばれています。整合とは明らかに違ったもので、不整合は繰り返すことはあまりありません。
 この不整合は地質学的には大きな意味があります。それは次回としましょう。

・春へ・
北海道もようやく暖かくなってきました。
今年の春は、行ったり来たりで
なかなか深まりませんでした。
しかし、先週の週末前後から暖かくなり
今週の初めには温かい雨となりました。
このような温かい雨が降ると
一気に雪解けが進みます。
そんな繰り返しで春が深まっていました。

・新たな付き合い・
新入生とのはじめての授業がありました。
1年生の前期の授業はひとつしか担当していないので、
週に一度しか会うことがありません。
それでも学科の学生ですから、
親しみを持って接することになります。
学科では担任制度をとっているので
日々重ねると付き合いも深まっていきます。
そんな新しい出会いが、今年もはじまりました。

2019年4月11日木曜日

2_170 単細胞から多細胞へ 4:捕食圧

 ミドリムシの多細胞化は、実験室では簡単に起こるようです。そんなに簡単に起こるという結果があると、そこから新たな疑問も湧いてきます。そんな結果と疑問の連鎖が、新しい科学の芽となるのでしょう。

 自然界でもミドリムシは、世代交代を繰り返しています。でも、多細胞化がそうそう起っているように見えません。同じミドリムシを用いた実験では、なぜ、多細胞化が起こったのでしょうか。それは、多細胞化を促したような条件を設定したからです。
 その条件とは、多数のミドリムシのいる状態に、一匹だけ、ミドリムシを捕食するヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)が入れられていました。5つのグールプで実験したところ、2つのグループで多細胞化が起こったのです。つまり、ミドリムシに捕食という自然界でも当たり前に起こる生存のためのストレスを加えることことによって、多細胞化が簡単に起こったということです。
 この結果は、いくつか重要な内容と、そして疑問点も示しています。
 まず、多細胞化は、少なくとも捕食圧がかかった純粋培養の状態であれば、簡単に起こることは示されました。論文のタイトル
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
となっていますが、「捕食」が重要であることを述べています。そして、多細胞生物の細胞数もサイズも異なっているということでした。多細胞化は、捕食者に対して身を守る手段となりえると主張しています。捕食圧が単細胞から多細胞化には必然性がありそうです。
 論文では、50週(1年程度)の短期間に多細胞化が起こってしまうことも同時に示しています。すると、こんなに簡単に起こる多細胞化が、なぜ、自然界で起こっていないのだろうか、という疑問です。限定された条件とはいえ捕食圧がかかった環境など、広い地球であれば、なかりの頻度で多細胞化がおこっていいはずです。なぜ、自然界では起こらないのでしょうか。人工の環境だから、多細胞化しても保存されていくのでしょうか。もしそうなら、自然界では、何が多細胞化を阻害しているのでしょうか、あるいは捕食者も進化して、多細胞生物をも捕食できるようになり、多細胞生物の進化を阻止するのでしょうか。
 または、自然界でも多細胞化はしょっちゅう起こっているのだが、知られていないだけなのでしょうか。もしそうだとすると、今でも新しい多細胞生物が生まれていることを示しています。それは、単に新種生物として、やがては見つかるのでしょうか。
 多細胞化のような大きな進化でも、条件さえ整えば、短時間で起こってしまうのでしょうか。すると多細胞化に続く、「カンブリアの大爆発」も、それほと進化上、奇異なことにならないのかもしれません。すると、次なる疑問として、なぜカンブリア紀にだけ、爆発的なのでしょうか。
 多細胞化のためのストレスは、ヨツヒメゾウリムシの捕食圧だけでしょうか。他の種類の捕食者ではどうでしょうか。あるいは他のストレス、たとえは、温度、食料、化学成分、水圧、光など生存を脅かすようなストレスにはどう対応するのでしょうか。多細胞化以外の他の進化も生まれないでしょうか。いろいろ想像したくなります。
 ひとつの大きな発見があると、次々と疑問が湧いてきます。まあ、これが科学の面白さでもあるのですが。

・新学期・
大学の新学期が始まりました。
1年生の担任もしています。
今年の1年生のゼミナールは
今までのものとは、全く違ったものになります。
アクティブラーニングを全面的に進めていくゼミになります。
新しい試みをいろいろするつもりですが、
うまくいくかどうか、やってみるしかないでしょうね。
ただ、精一杯努力や準備をしていくしかないのでしょうね。

・知床・
今年の野外調査の地は、昨年に続いて
北海道に半分の労力をかける予定です。
北海道に戻ってきて18年目ですので、各地を巡っているのですが、
実はまだ、いっていないところが、あちこちあります。
いつでも行けると思っていたり、
じっくり時間かけて見て周りたいなどと思っていると
となかなか行けないものです。
その一つが知床です。
雪が深くでなかなか峠道が開通しないのですが、
今年、行く予定を立てています。
まだ、時期は正確には決めていないのですが、
初夏に行く予定です。

2019年4月4日木曜日

2_169 単細胞から多細胞へ 3:ミドリムシ

 ミドリムシは動物と植物の両方の性質もっています。多細胞化のための実験は、ミドリムシを用いておこなわれました。実験の結果、進化は、かなり短い期間で、起こっていることがわかりました。

 多細胞化への進化は、動物ではひとつの系統で、植物ではいくつかの系統で起こっていました。多細胞化は動物では難しい進化だったようですが、植物には比較的起こりやすそうでした。でも、多細胞化は生物の生存競争には有利だったようで、その後は大きく繁栄しています。
 では、体細胞化への期間はどれくらいでしょうか。そんな疑問に対する研究結果がだされました。イギリスのNatureのScience Reportに2019年2月20日で報告されました。
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
というタイトルです。この報告によると、50週で多細胞化が起こったことが、実験で確かめられました。あまりの速さに、かなり驚かされました。
 この研究では、多細胞化の様子を動画として撮影されていて、進化の瞬間をみることができます。実験に使われたのは、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)という鞭毛虫の仲間で、単細胞生物です。ミドリムシは、不思議な生物です。鞭毛で運動する動物の性質をもっていますが、葉緑素をもって光合成もしています。動物と植物の両方の性質をもっています。鞭毛虫は襟鞭毛虫にも近く、多細胞化が起こりやすい性質をもっているようです。
 実験は5つのグループでおこなわれました。そのうち2つのグループで、多細胞化を起こしました。ですから多細胞化は偶然の現象ではなく、ある程度必然性がありそうです。
 多細胞化は、50週で1年に満たない短い間で起こりました。生物の進化の歴史からすると、非常に速いものとなります。このような短期間で進化できたのは、その間に750回ほどの多数の世代交代をしているためでしょう。コナミドリムシのような単細胞生物では、細胞分裂で世代交代が起こり、その期間が短いので、試行錯誤自体は、750回繰り返されていたことになります。
 しかし、考えたらミドリムシの世代交代は、長い歴史の中で、いつでも、どこでも繰り返し起こってきました。いくら実験で条件を整えたとしても、突然、多細胞化が起こるのは、なかなか難しいことに思えます。実はこの実験では、ある工夫がなされていました。それが多細胞化を促したようです。この報告もその原因を探ることが目的でした。詳細は、次回にしましょう。

・De novo・
論文のタイトルのDe novoは、
ラテン語で「新たに」「再び」を意味する言葉です。
英語のラテン語が混在するのは少々違和感があります。
De novoは、生化学においては、
反応名や経路名などに用いられているので
違和感はないようです。

・新年号・
新年度がスタートしました。
大学は授業時間の確保のために、
4月も2週目から講義がスタートします。
最初の1週間で、大学では新入生の対応でバタバタしています。
そこに在学生の行事も加わります。
非常に忙しくなります。
ですから、このエッセイは3月末に発行しています。
4月になれば新年号で大騒ぎとなっていることでしょう。
みんな公文書で年号の変化はわずらしいので
西暦で統一して欲しいと思っているでしょうが、
バタバタが起こっています。
まあ、年号が変わっても、
このエッセイには変化はありませんが。

2019年3月28日木曜日

2_168 単細胞から多細胞へ 2:多細胞化

 生物進化の大きな飛躍には、ある日突然起こるものと、長い時間をかけて試行錯誤の末に起こるもの、とがあるようです。多細胞化は、どうでしょうか。過去に起こった生物種から、その過程を考えていきましょう。

 生物進化の大きな飛躍としては、葉緑体やミトコンドリアの共生によってある日突然起こるものと、脊椎の獲得や陸への進化など長い時間をかけて試行錯誤の後に起こるものもありました。その中で生物の多細胞化は、突然か、それとも長い時間が必要か、どちらでしょうか。これが今回のテーマでした。
 多細胞化へのステップを考えると、なかなか難しく思えます。単細胞で暮らしているときは、ひとつの細胞ですべての生命活動を賄っていました。多細胞化が起こる時には、新たな仕組みを作る必要があります。例えば、多細胞全体で分業化するために、情報伝達が必要になり、そして生きていくための物質循環(栄養供給と不要物排出)などが、新たな仕組みとして作り出す必要があります。これができていないと、多細胞化とはいえません。細胞同士が単純にくっついても、それぞれが単独に生活しているのであれば、群生ということになります。
 多細胞化において必要な情報伝達は、植物ではタンパク質などの分子を通しておこないます。そのため、反応は遅くなってしまいます。動物では長く伸びた神経細胞が専門に担っています。そのため反応は速くなっています。物質循環は、植物では導管と支管という仕組みがあります。動物では、消化系をつくって栄養をとり、その栄養を血液やリンパ液などで全身に送り不要物を回収するという、別の循環系を用意することで、分業化しています。植物も動物も多細胞化のために、特別な仕組みを用意しています。
 単細胞から多細胞への進化は、いくつもの生物で何度も繰り返し起こっていたことがわかっています。ただし、繰り返し起こったのは、植物の仲間だけだったようです。少なくとも、褐藻類や黄緑色藻類、フェオタムニオン藻類、クリソメリス藻類などで多細胞化が起こっていることが知られています。つまり、植物へは、いくつもの系統(多系統)で進化をしてきたことになります。
 ところが動物では、ひとつの系統(単系統)だけで起こった進化のようです。襟鞭毛虫類(えりべんもうちゅうるい)という単細胞類が、動物の直接の祖先だとされています。現在では、襟鞭毛虫類から、多細胞の海綿動物を経て、多くの多細胞動物へと進化してきたと考えられています。つまり動物は、襟鞭毛虫類を祖先とする単系統のみで進化してきたことになります。
 細胞のつくりをみると、植物は細胞壁があり頑丈ですが、動物は細胞膜という柔らかなものからできています。植物の細胞壁と動物の細胞膜と比べると、動物のほうが柔軟性があり、多細胞化が容易にみえます。しかし、植物ではいくつもの系統で多細胞化が起こっています。植物にとっては多細胞化はそれほど困難なことではなかったようです。一方、動物では単系統でしかないので、長い生物の歴史の中で一度しか起こっていない稀な現象だったようです。動物の系統では、多細胞化は難しいものだったようです。
 多細胞化によって、大型化や分業などの効率も手に入れるのですが、他の機能も付加していくという大変さありました。大変そうに見えるのですが、多細胞化した生物が繁栄しているのは、生存戦略上は成功しているのでしょうね。

・また雪景色に・
北海道は、先週末にまた雪景色に戻りました。
再び冬並みにストーブを使っていました。
気の早い人たちは、車を夏タイヤに変えていたようです。
慎重派の我が家は、冬タイヤのままでした。
そのため雪の中でも出かけるのに困りませんでした。
気の早い人は、
道路が溶けてしまえば、すぐに夏タイヤに変えてしまい
初雪のニュースがあると、早々に冬タイヤに変えてしまいます。
夏タイヤから冬タイヤへは問題はないのですが、逆は危険です。
我が家は通勤には使っていないので、
いずれにしても被害はありませんが。

・3月も終わり・
いよいよ3月も終わりです。
大学では今週から在学生へガイダンスがはじまります。
4月は新入生の行事で目白押しですので
3月末に終わらせておきます。。
教員も今週だけ、時間がゆっくりと使えます。
限られた猶予ある時間を大切に使いたいものです。
でも目の前に4月のドタバタがあると
少々落ち着かない気持ちなのですが。

2019年3月21日木曜日

2_167 単細胞から多細胞へ 1:共生

 生物の進化には、いくつか大きな飛躍があります。その飛躍は簡単に起こることなのでしょう。飛躍の中には、短時間で起こったと考えられるものがあります。共生と呼ばれているものです。

 生物の進化には、いくつかの大きな飛躍があるように見えます。飛躍とは、その生物にとって後の進化に重要な役割を果たす機能を獲得することです。しかし、そのような飛躍は、生物が後を進化をしようと意図して得るものではなく、たまたま起こった試行錯誤の結果が成功して、生存競争に勝つことができ子孫を残すことができたのでしょう。
 よく知られている飛躍としては、光合成の獲得、好気性、多細胞化、脊椎の獲得、海から陸への進化、恒温性などがあるでしょうか。いずれの飛躍も、進化に大きな節目となっているものでしょう。しかし、その獲得は、ある日突然身につけることができるのでしょうか。
 例えば光合成ですが、真核生物では藻類と植物だけが持っている仕組みです。光合成は、細胞内にある葉緑体でおこなわれています。光合成の能力は、ある時、突然、獲得できた能力だと考えられています。大型の真核生物が、シアノバクテリアを取り込んだことではじまったことがわかりました。このようなものを「共生」と呼んでいます。本来なら小さな細胞を取り込むということは、「食べる」ことになります。しかし、食べることなく、共生をしたのです。葉緑体には二重の細胞膜があり、外は真核生物のものですが、内側が別の生物ものでした。そのことから、食べることなく、取り込まれたことがわかってきました。たまたま起こったことのようです。
 葉緑素は植物や藻類だけがもっているのですが、ミトコンドリアも二重の細胞膜をもっていることがわかってきました。ミトコンドリアは、すべての真核生物が持っている細胞内の小器官です。ミトコンドリアの役割は、酸素を利用してATP(アデノシン三リン酸)をつくりだし、真核生物に供給することです。ATPは、リン酸の分子が分離したり結合したりして、エネルギーの放出・貯蔵ができる物質で、非常に重要な物質です。ATPをミトコンドリアは、真核生物に供給していることになります。
 細胞にとって酸素は、非常に危険な存在です。酸素は、細胞の内のさまざまな物質を酸化してしまうので、酸素への対処ができないと、その生物は死んでしまいます。だからミトコンドリアのない生物は、酸素のない環境(嫌気性)でしか生きていません。しかし、ミトコンドリアがあれば、酸素の多い環境(好気性)であっても、細胞内の酸素をうまく処理してくれます。処理だけではなく、酸素を用いてエネルギーを供給するATPをもたらしてくれます。こんないいことはありません。ミトコンドリアは、好気性細菌の一種で、葉緑体と同様に共生したことがわかってきました。
 共生があったことは、種類によって、葉緑体やミトコンドリアを取り出しても、生きていけるものがいることからも、確からしいと考えられています。他の生物を取り込む共生という仕組みは、ある時から急にできることになります。
 一方、脊椎の獲得や陸への進化などは、長い時間をかけて試行錯誤が必要だと思われます。では、多細胞化はどうでしょうか。最近、それに関する重要な報告が出ました。詳しくは次回以降にしましょう。

・集中講義・
先週は、集中講義があり終了直後に
学位記授与式(卒業式)もありました。
大きな行事が2つ連続してあったので
先週は非常に忙しい思いをしました。
本エッセイも前の週に予め予約しておきました。
おかげで今週から来週にかけては
落ち着いて仕事ができます。
今週も来週も送別会があるので飲み会があります。
3月いっぱいで、親しい人が去っていきます。
なかなか寂しいものです。
近くに住んでいるのであれば、
近い内に会うこともできます。
親しい人は、こちらを引き払うので
会う機会はなかなかなさそうです。

・祝う会・
先週末、学位記授与式がありました。
そのあと大学祝う会があり
さらにその後に学科の祝う会がありました。
今年は担当している4年生がいなかったので
少々寂しくもありました。
しかし結果的に、多くの4年生と
いろいろな思い出を語ることができよかってす。

2019年3月14日木曜日

5_165 ケプラーからTESSへ 4:ファーストライト

 TESSは夏には、正式な運用がはじまりました。その時の最初の画像も公開されました。なかなか素晴らしいものでした。ケプラーよりずっと広域を観測できます。TESSは今後2年間の運用が予定されています。

 TESSは、2018年4月18日に打ち上げられ、5月17日には最初のテスト画像が送られてきました。テスト画像は、4つあるCCDのうち1台を使って、たった2秒の露出での撮影されたものでした。軌道もまだ定まっていない状態での、CCDのテストでした。そこには12の星座が含まれており、非常に広い範囲の星が写っていました。
 8月7日には、4台のCCDをすべて使って、30分かけて撮影した画像「ファーストライト(first light)」が公開されました。これは、本格的な観測をはじめた、最初の正式な画像になります。非常に広い範囲が撮影されています。その後、観測は順調に進んでいるようです。
 さて、TESSはトランジット法を用いています。恒星の前を横切った惑星による明るさの変化を調べる方法ですから、継続的に観測していくのが、最もはっきりと惑星の存在を検証できます。そのため、同じ恒星を長期間、継続的に観測することが有効な方法となりますが、CCDの範囲の領域しか観測できません。
 一方、広い範囲、できれば星域全体を観測するためには、同じ領域ばかりを観測はできないので、断続的になりますが、定期的に繰り返し観測することになります。
 惑星の探査では、継続観測で検証の精度、「質」をとるか、広域観測で「量」をとるか、の選択となります。系外惑星の観測は、ケプラー宇宙望遠鏡でもまだ星域の一部しかなされていません。そのため、NASAは、「量」を選択しまし、まずは基礎的な記載を進めることにしました。
 研究にはいろいろな段階があります。予察、記載、一般化、より深い探求など、さまざまなレベルがあります。ケプラー宇宙望遠鏡は、予察にあたります。ある星域を定めて、そこだけを精密な観測をおこなったら、どの程度の確実な系外惑星が発見できるかというものでした。その結果、2600個以上の惑星の存在を検証しました。
 TESSでは、2年間でファーストライトの26倍の領域の観測をおこないます。ほぼ全星域で、系外惑星の有無の記載がなされることになります。このプロジェクトが完成すれば、個々の系外惑星で、精密な探査が進めらていきます。その精密探査も、ケプラーの成果からすでに進められていると思います。今後の成果に期待したいものです。

・より深い探求・
ケプラーもTESSも、最も期待される成果は、
地球型惑星の存在を検証することです。
地球型惑星の確実な証拠は、
水が存在するかどうかが重要になります。
遠くの天体、それも恒星の横切るだけで
その存在が確認された惑星で、
水の有無を検証するのは、難しいものでしょう。
まして生命の存在の可能性については
もっと難しい観測になるはずです。
技術や科学は、大きな飛躍がありえますので、
その飛躍に期待したいものですね。

・安全基準・
TESSが2年間の運用予定なので、
装置自体はその間大丈夫なように設計されています。
安全基準は、1.5から2倍程度の余裕をもって
設計されていることになります。
2年の運用を目指していますが、装置が持てば、
もっと長く運用されるはずです。
そして、さらなる成果が挙げられます。
しかし、まあこれはとらぬ狸の皮算用ですね。

2019年2月28日木曜日

5_163 ケプラーからTESSへ 2:トラブル

 どんな装置であっても、トラブルは発生します。そのため、あらゆるトラブルを想定して装置は設計されています。ところが、トラブルはその人智を超えたところで起こります。そんなトラブルにも人智で対処するしかありません。

 ケプラー宇宙望遠鏡は2018年11月15日、NASAはシステムを完全に停止するためのコマンド「goodnight」を送ることで、運用が停止されました。11月15日は奇しくも、天文学者ケプラーの死亡した日でした。
 この最後の日を迎えるまで、ケプラーはさまざまなトラブルに見舞われました。地球外にあるので、人がいって修理や補修をすることができません。プログラム上の不具合であれば、上書きなどである程度は対処できますが、ハード上の破損は補修が不可能となります。しかし、トラブルの度に、努力や工夫で、危機を脱出してきました。
 運用当初の2009年6月、エラーが出てセーフモードになりました。セーフモードとは、コンピュータがトラブルを起こしたとき、その診断用のモードになることです。その原因は電力低下のためでした。なんとか回復して観測できるようになり、6月19日には、はじめての観測データを送ってきました。
 その後、順調に観測を続けていたのですが、2010年3月、42個のCCDセンサーのうち2個が使えなくなるというトラブルが発生しました。これは回復することはできないトラブルでした。視野の75%が観測できなくなる領域が生じましたが、観測は可能でした。その状態で観測は継続されました。2012年7月、姿勢制御装置の8つのリアクションホイールのうちのひとつが故障し、2013年5月には、もうひとつが故障しました。制御不能になっていたのですが、別の姿勢制御機構であるスラスターを使用することで、制御が回復されました。2018年7月には、スラスターのトラブルで休止モードに入りましたが、9月には復旧して、再びデータが送信できました。このようにさまざまなトラブルに見舞われながらも、ケプラーの運用は続けられました。2018年10月30日には、とうとう推進剤がなくなり、NASAはケプラーの運用を終了することにし、2018年11月15日「goodnight」を送信しました。
 さて、ケプラー宇宙望遠鏡は、星の明るさの変化を測定する方法での観測をしてきました。このような方法は、トランジット法といいます。恒星の前を惑星が通り過ぎる(transit)という現象で、明るさが変わる様子を観測する方法です。データを詳しく解析すると、減光の程度から恒星と惑星の半径比、減光の継続時間から惑星の軌道角度と恒星の密度、またたのデータと組み合わせることで、惑星がガスでできているか、岩石のような密度の大きなものできているかなど、いろいろな情報を読み取ることができます。なかなか優れた方法です。
 この方法を引き継ぐ、次なる宇宙望遠鏡がすでに運用が始まっています。それは次回としましょう。

・愛着の装置・
機械や装置は、トラブルがつきものです。
どんな高性能、あるいはアナログ装置であっても故障します。
装置によっては、高性能な装置には
自動修正機能をもったものもあります。
それでも、対処できないトラブルは起こるります。
そんなときは、装置を熟知した専門家が
トラブルに対処することになります。
専門家も対処不能の装置は、
寿命として諦めるしかありません。
代替のある装置なら取り替えればいいわけです。
ところが代わりがないものは、
本来の性能がでなくても、
なんとか寿命をのばして使うように努力されていきます。
そんな装置は、非常に大切にされ
専門家や、使用者からも愛着をもれるようになります。
ケプラー宇宙望遠鏡もそんな装置になったに違いありません。

・帰省・
先週から今週はじめにかけて、
京都に帰省していました。
半年ぶりに母と近くに住む弟に会いました。
弟とも久しぶり盃を交わしました。
市内に住んでいる長男にも会い、
周辺をいろいろ案内してもらいました。
次男と家内も、それぞれ別の日に京都に出向き、
日曜日に母の実家で家族が集合することができました。
今後は、息子たちが京都にいるので
私たち夫婦が出向いて母のいる京都で
家族が集合することになるでしょうかね。

2019年2月7日木曜日

5_160 西から昇る太陽 1:ユニークな発想

 子どもたちの発想は、ユニークなものが一杯あり、驚かされたり、興味を惹かれたりします。そんなユニークな発想が集まったコンクールがあります。数学に関するものですが、いくつか紹介してきましょう。

 「算数・数学の自由研究作品コンクール」というものをご存知でしょうか。現在第6回目ですから、比較的最近設立されたものです。そのため、あまり知られていなかったのでしょう。しかし、小・中・高校生で、数学好きの人たちは、知っていたようです。コンクールに応募された研究レポートは、1万6485編もあったそうです。海外からも31編が届いているようです。
 夏休みの自由研究や絵画などのコンクールはよく知っていたのですが、数学の自由研究にもコンクールがあるとは知りませんでした。近年できたこともあるのでしょうが、夏休みの自由研究で、算数や数学を題材にする人が、周りにいなかったからでしょう。我が家の子どもたちも、工作や自然観察などはしていましたが、算数をテーマになんて考えもいませんでした。
 このコンクールで受賞したレポートを見ると、なかなかユニークなテーマがあります。小学校3年生の「三年生で習う一番むずかしい漢字は何?」、小学校5年生の「地獄からの復活劇~御釈迦様からの試練~」。小学校6年生の「お掃除ロボットが動くと……。」、高校1年生の「じゃんけんの拡張~大人数でも秒で決着をつけたい~」などです。本当に数学の内容なのか、どんな内容なのか、見てみたい気がしせんか。
 「三年生で習う一番むずかしい漢字」なんて、どうして決めるのでしょうか。その小学生は、漢字の難しさを点数化しました。まずは画数の多さです。これは誰もが思いつくものでしょう。次が、漢字が上下、左右で似ているか、対称性を点数化しています。例えば、「申」は上下でも似ているし、左右で似ているとなり、点数は小さくなります。分解のしやすさというものも点数化してます。5画以下の塊にして分解すると、いくつに分解できるか、ということで点数化します。最後に読み方の多さも、点数化しています。これらの点数を合計していきました。その結果、一番点数の低い(簡単)漢字は、「申」(5点)となりました。なかなかユニークな視点です。では、一番難しいものは・・・・、レポートを見てください。
 5年生「地獄からの復活劇」というレポートは、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」をテーマしています。小説に中では、長い距離を登るとか、蜘蛛の糸に多くの人がぶら下がるという内容があります。そこで作品から条件を導き出し、登るのにかかる時間、糸がどれくらいの重さに耐えられるか、について自身で実験して、それを参考に計算しています。なかなかユニークです。この詳細も、レポートを確かめてください。
 レポートは、
  http://www.rimse.or.jp/research/winner6th.html
で公開されています。興味のある方は覗かれてみてはいかがでしょうか。
 このコンクールを知ったのは、最近その受賞レポートの内容が、ニュースになったためです。それは、「西から登ったお日様」というテレビアニメの「天才バカボン」の歌詞を、計算によって起こりうる現象かどうかを考えたものがあります。この研究が受賞したことでニュースになりました。この詳細は、次回としましょう。

・入試モード・
大学は、いよいよ入試モードにはいっています。
入試は、受験生からすると、
試験当日が本番で重要になりますが、
受け入れ側の大学の内部では、
いろいろな作業や処理、手続きが伴います。
まあ、自身の大学への入学者を選抜するために
重要な手続きですから、
慎重にものごとは進めていく必要があります。

・冬の嵐・
雨のようなベチョベチョ雪が降ったかと思ったら
急激に吹雪や冷え込みがあったり、
変化の激しい天気が続きます。
吹雪ではJRが止まったりしていました。
幸い、我が大学の入試日は
なんとか大荒れの合間をぬって
無事に終了することができました。
ただ、入試で出張している人は、
帰ってこられないチームもいます。
入試日程が違う大学は、
交通のトラブルで困っているかと思います。
冬の北海道は、荒れた時の対処が大変です。

2019年1月31日木曜日

3_179 惑星系の誕生 3:原始星円盤

 原始星の周りはガスに覆われています。ガスの形状と原始星の状態から、星と惑星系の形成過程が探られています。通常の光ではガスの中を覗くことはできません。解像度の高い電波でないと見えてきません。

 アルマ望遠鏡で観測されたのは、原始星でした。星はガスの多いところで形成されます。そのため、原始星の周りには、ガスが取り巻く状態になります。一般に宇宙空間に存在する物質は、回転しています。そのため、原始星もガスも回転しています。星の周りでガスが回転すると、星の重力とガスの遠心力の釣り合いで、平たい円盤状に集まってきます(ケプラー回転といいます)。このようなガスを原始星円盤、あるいは降着円盤ガスなどと呼んでいます。
 アルマ望遠鏡は、電波によって、この円盤構造を観測しました。論文の題名は、
The Co-evolution of Disks and Stars in Embedded Stages:The Case of the Very-low-mass Protostar IRAS 15398-3359
(初期段階で円盤と星の共進化:超低質量原始星 IRAS 15398-3359)
というものです。
 IRAS 15398-3359という星は、できはじめの星として知られています。温度が低く、サイズも小さく、ガスの中に埋もれています。そのため通常の光(可視光)での観測は難しい星です。この星は、以前にも調べられていたのですが、解像度が悪く、実態が詳しくはわかっていませんでした。今回の観測から、惑星系の形成について、新しい事実が見つけられました。
 それは、誕生したばかりの原始星にも円盤構造ができていることでした。この発見が意味することは、原始星の誕生とともに、惑星系も形成されるということです。従来は、原始星が成長してから、その周囲に惑星が形成されると考えられてきました。今回の観測で、原始星の形成とともに惑星系もできるということがわかったのです。
 さらに、原始星円盤の質量と原始星の質量が同程度であることも分かりました。このような状態だと、円盤の構造は非常に不安定であるはずので、今後、ガスは急激に原始星に落ち込んでいく状態がくると推定されます。
 従来のモデルを、新しい観測で変更を迫るということは、科学の世界ではよくあります。このシリーズの最初に、多様な惑星の発見によって起こっていることを述べました。惑星科学はいろいろな点で変更、修正を求められている状況が出現しています。でも、そんなとき、研究者は新しいアイディアを次々と出せるので楽しいだろうと思ってしまいます。古いモデルを提唱した人たちは、そのモデルを捨てるか、修正するかが迫られます。一時は多くの人が採用したモデルとしてもてはやされたでしょうが、ある時それが捨て去られる、これが科学の健全な姿です。

・科学の醍醐味・
自然科学では、確定した法則はありません。
すべてが仮説に過ぎません。
仮説にも多数の証拠、多数の検証がなされたものから
特定の対象、少ない証拠、いくつかの検証だけから
構築されたものまであります。
仮説のもっともらしさの程度は、さまざまです。
仮説でとどまっているのは、
私たちが自然界で法則の対象となったものを
すべて調べ尽くすことができないためです。
それが科学の弱点であります。
しかし、それが科学の醍醐味でもあります。
でも自然科学には仮説しかない、というのは
確定した法則でしょうね。

・淡々と・
大学は定期試験がやっと終わりました。
続いて一般入試がはじまります。
教員はその隙間をぬって成績評価を進めていきます。
その期間もあまり長くないので、
かなり慌ただしいスケジュールになります。
まあ例年のことですから、
淡々と進めるしかありませんね。

2019年1月24日木曜日

3_178 惑星系の誕生 2:アルマ望遠鏡

 惑星ができる時の様子がわかってきました。原始星の観測から明らかになってきました。チリの高原にある巨大な望遠鏡で、日本も設立に参加していました。

 惑星形成に関する新発見は、できたての星の観測によるものでした。その観測は、アルマ望遠鏡によるものでした。アルマ望遠鏡は、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA:Atacama Large Millimeter / submillimeter Array)の略称で、チリの北部、アタカマ砂漠の中にあります。アタカマ砂漠は標高5000mの高地になっています。
 なぜ、このような不便で標高の高い過酷な環境に望遠鏡があるのでしょうか。それは、ミリ波からサブミリ波の波長を観測するために適している地だからです。ミリ波は波長が1~10mm(周波数が30~300 GHz)で、サブミリ波は波長が0.1~1mmの(300 GHz~3THz)の電波です。いずれの波長の電波も、大気中に含まれている水蒸気によって、吸収が激しくて感度が悪くなっているます。日本のような湿潤な気候の地では、いい観測できませんでした。そのため、標高が高く砂漠の高地が観測に適していることになります。もちろん水蒸気を含む空気も薄い方が適しています。
 世界中のそのような条件を満たした「観測最適地」がいろいろ候補が挙げられた中で、最も適した地としてアタカマ砂漠が選ばれました。標高も高いので空気が薄く、また非常に乾燥していて年間降水量が100mm以下しかありません。観測する研究者にとっては過酷ですが、観測条件が優先です。
 日本だけでなく、東アジア、ヨーロッパ、北米の諸国が、チリと協力して建設されました。チリが選ばれたのは、先程の「観測最適地」を満たし、なおかつ、南半球は観測できる拠点が少ないので、今まであまり研究がなされていない星域での観測が期待されたためでした。
 この望遠鏡は巨大です。ひとつの望遠鏡ではなく、複数のアンテナが組み合わられて、ひとつの巨大なアンテナとなっています。直径12mのパラボラアンテナが54台、直径7mのパラボラアンテナが12台、合計66台のアンテナから構成されています。これまでの電波望遠鏡の約100倍の感度と数10倍の解像度を持った性能となっています。
 ただし、弱点もあります。不便な地です。日本から40時間ほどかかり、なおかつ標高も高いので高度障害も起きやすくなります。しかし、観測には理想的な環境なので、天文学者は訪れることになります。
 アルマ望遠鏡は、銀河の形成、星や惑星の誕生、有機分子の合成などの物質進化、ブラックホールの研究に威力が発揮できると期待されています。今回の報告もその一環です。

・センター試験・
先週末、センター試験が終わりました。
北海道はセンター試験の前後は大荒れの天候でしたが、
幸い試験の日は穏やかな日でした。
受験生にとっても実施する側いとっても
ホッとできる天気でした。
全国50万人以上の受験生が
一斉に同じ条件で試験に望むことになります。
日本列島は長いので気候のハンディもあるはずです。
それを克服することは難しいものです。
長年続いてきたセンター試験も来年度で最後になります。
次の試験はどうなるのでしょうか。
受験生が一番心配でしょうね。

・卒業研究発表会・
学科では卒業研究の発表会があります。
このエッセイを送るのは発表の前日です。
皆さんに届く頃には終わっています。
学生にとっては発表会がプレッシャーになるでしょう。
学生生活最後に卒業研究として
レポートをまとめ、発表することは
非常にいい経験になると思います。
社会でも同じような経験をすることがあるはずです。
そのためにも精一杯取り組んでいって欲しいものです。

2019年1月17日木曜日

3_177 惑星系の誕生 1:モデル修正

 惑星系の誕生は、これまで私たちの太陽系をモデルにして考えるしかありませんでした。多くの惑星が発見されるようになったので、これまでの惑星系誕生のモデルも修正を迫られるようになりました。

 近年、多様な惑星が多数発見されています。さまざまな想像もしていなかった惑星系もありました。もちろん、生命が誕生していてもいいような惑星もありそうです。地球に似たものもありそうですが、まだ完全にそっくりなものはなそうです。しかし、多数の惑星の発見は、いろいろなことを考えさせてくれました。
 私たちの太陽系の惑星は、太陽系においては、いくつもの規則性があるように見えます。例えば、惑星の公転軌道が簡単な式で示せるティティウス・ボーデの法則にそっている、太陽から近い順に固体惑星とガス惑星、氷惑星が並ぶ、恒星、惑星や衛星は軌道共鳴により整数比になる尽数関係になる、惑星系はほぼ同一の公転軌道を同一方向に回転している、などさまざまなものがあります。これらの規則性は、力学の法則に反するものではありませんが、力学の法則から直接導き出せるものでもありません。ですから、このような規則性は、太陽系形成時に与えられた条件なのか、それとも偶然や別の要因によるものなのかは、検討が必要になります。
 これまで、雛形にすべき惑星系は私たちの太陽系だけでしたので、太陽系が説明できれば、とりあえずはそのモデルはOKでした。
 現在のモデルは、太陽系を形成したガスやチリからできるというものです。恒星の形成が終わったあと、残ったガスやチリ(降着円盤と呼ばれています)から形成されます。降着円盤は、チリが恒星の周りを回り、衝突・合体して微惑星になり、数百万年間で成長して、原始惑星になります。恒星からの位置で、近いところでは、金属や鉱物など固体になるものだけで微惑星ができ、離れると揮発性物質(主にH2Oの氷)も固化して巨大ガス惑星になり、さらに外側では集積速度が遅くなるため氷惑星となる、というものでした。
 新しい惑星が多数見つかり、それも多様性があることがわかってきました。それは、惑星系の誕生を、私たちの太陽系をモデルにしたものが、そのまますべての惑星系に適用できないことを意味しています。私たちの惑星系の誕生の物語をどう修正するかが重要な課題になります。
 そんな中、惑星誕生に関する新しい発見がありました。それは、誕生間もない原始の星の観測によるものでした。詳細は、次回としましょう。

・活況・
惑星の研究をされているかたは
近年は非常にワクワクしているのではないと思います。
上でも述べたようにいろいろな惑星、次々と見つかっているので、
研究対象がいろいろ出てきたことになります。
大発見、それも多数の発見があるので、
研究者はいろいろなアイディアが出せることになります。
そんなチャンスはそうそうないでしょう。
活気に満ちていることとも思います。

・変化の時期・
大学はいよいよ後期も後少しとなります。
来週ですべての講義が終わり、定期試験となります。
そのあとは、一般入試となります。
在学生でも4年生は卒業式
そして社会へと気持ちが向かうことでしょう。
在学生は、単位習得できているかどうかを心配しながらも
春休みに気持ちは向かうことでしょう。
いずれも変化の時期となります。

2019年1月10日木曜日

6_159 ニュー・ホライズンズ 2:ウルティマ・トゥーレ

 前回、紹介するとしていたニュースが流れました。ニュー・ホライズンズが最接近したウルティマ・トゥーレ画像が公開されました。その異様な姿が明らかになりました。

 ニュー・ホライズンズは、ウルティマ・トゥーレ(Ultima Thule)に約3500kmまで接近しフライバイをしました。時速5万km以上のスピードで通過しました。ウルティマ・トゥーレは、冥王星の軌道から7億kmほど外側にあり、太陽から距離は65億kmほど離れています。人類が観測した太陽系内でもっとも遠くにある天体となりました。冥王星は、エッジワース・カイパーベルトの一員となりましたので、このウルティマ・トゥーレは2番目の観測となります。
 天体の話では、示される数値が、日常とはかけ離れたものばかりです。3500kmを最接近といっていますが、日常感覚からはすごく遠くに感じます。2015年7月に接近して観察した冥王星から16億kmほども離れたところにあるので、sの距離と比べれば3500kmは接近といえるでしょう。
 最接近の間に900枚ほどの画像を撮影するそうです。ただし、遠くなので画像を送信してから受け取るまで、10時間ほどかかります。また、現在衛星は、太陽と同じ方向になったので、画像転送は一時中止され、10日から再開されるそうです。今回の探査の観測データをすべて送信するには、20ヶ月ほどかかるという気の長い話になります。
 ウルティマ・トゥーレの画像をみると、15時間ほどの周期で自転していて、雪だるまのような形をしています。2つの丸い天体がくっついた形になっています。岩石と氷からできていて、表面はが赤っぽく、茶色のまだら模様があるようです。日本の「はやぶさ」が到達した、小惑星の「イトカワ」もラッコのような形をしていましたが、この天体も歪でした。2つの天体がゆっくりと合体してできたようで、小さい玉の直径が14km、大きいほうが19kmほどです。
 赤い色は、冥王星の衛星カロンも似た色をしてました。多分、ソリンという窒素とメタンからできている炭素化合物で、太陽から飛んできたイオン粒子によって形成されたと考えられています。
 ウルティマ・トゥーレの姿は、ひとつひとつの特徴は、既知の天体でもみられたものです。しかし、観測データが届いて解析されいくと、新しいことが次々とわかってくでしょう。期待したいと思います。新年からいいニュースを聞けました。

・短い冬休み・
大学の後期の授業が、今週から再開しました。
学生にとっては、短い冬休みでした。
1月の講義は変則的なスケジュールとなります。
曜日によって講義回数が異なるので
それを調整するために、
別の曜日に割り振られることがあります。
スケジュールを確認しておかないと
間違ってしまうと大変です。

・お蔵入り・
以前にも書いたのですが、
このエッセイでは、最新情報を広く取り入れるために、
自分にも役立てようと考えてもいます。
最新のニュースや論文などをとりあえず入手し読むためです。
後回しになることを防ぐためにもなっています。
でも、ついつい後回しになってしまう
お蔵入りした論文も多数あります。
そんな論文を年末年始にかけて整理していきました。
それらは、今の自分にとっては
重要な論文ではなかったと思うことにしています。

2019年1月3日木曜日

6_158 ニュー・ホライズンズ 1:最果ての地

 あけましておめでとうございます。今年最初のエッセイは、「新しい地平線」で見出された「最果ての地」の話題です。今年が、いい年であるように、最新情報からはじめましょう。

 今年最初のエッセイは、「新しい地平線」(ニュー・ホライズンズ New Horizons)の話しですが、エッセイでも何度か取り上げました。ニュー・ホライズンズは、NASAが2006年に打ち上げた衛星で、冥王星やそれよ遠くにある天体を探査するためのものです。
 ニュー・ホライズンズは、2015年から冥王星の探査をはじめて、2015年7月14日に冥王星をフライバイをするとき、最接近しました。冥王星とその衛星のカロンの鮮明画像と多くの情報をもたらしました。2016年1月まで冥王星を観測を続けました。そして2年後現在、冥王星の次のターゲットとして、小惑星の「2014 MU69」に接近しています。
 2014 MU69は、目標設定の予備探査の際にハッブル宇宙望遠鏡が発見しましたが、まだ軌道などの天体データが不足していたので、仮の名称でした。ハッブル宇宙望遠鏡のチームは、1110113Yと呼びました。ニュー・ホライズンズのチームは、探査の対象になるので、PT1(潜在的目標 1;Potential Target 1)と呼びました。その後、正確データが得られたので、2015年3月に小惑星センターにより2014 MU69が割り当てられました。NASAは、2014 MU69の愛称を公募して、ウルティマ・トゥーレ(Ultima Thure)となりました。意味は、「最果ての地」という意味です。変な名前ですが、遠くにある天体であることを象徴したものです。
 その位置は、エッジワース・カイパーベルト(Edgeworth-Kuiper belt)と呼ばれるところです。太陽系の惑星軌道より外側(太陽から約30天文単位)にある天体です。太陽系の黄道面に多数の小天体が分布しているところです。その領域は冥王星も含まれています。
 ニュー・ホライズンズは、2019年1月1日にウルティマ・トゥーレに最接近します。1月2日にはそのデータが公開される予定だそうです。なお、このエッセイは、2018年12月31日に書いて予約配信をしていますので、その画像はまだ見ていません。もし公開された、次のエッセイで紹介していこうと思います。

・年の終わりに・
2018年の年末は、寒波の襲来で
日本の各地で降雪がありました。
わが町でも降雪あったのですが、
そんなにひどい降雪ではなく、幸いでした。
30日の明け方の地震の方にビクリとしました。
大した揺れはなかったのですが、長く揺れました。
9月6日の北海道胆振東部地震の記憶が蘇り
家族全員が起きたようです。
幸い、大きな揺れになりませんでしたので、
家族は再度寝たようです。
私は、起きる時間まで本を読んでいました。

・トラブルと期待と・
ニュー・ホライズンズは2015年7月4日に通信途絶しました。
その後、回復しましたが、一部の装置のみが動かない状態でした。
3日後、通常の観測を再開できる状態に回復しました。
そんな危機を乗り越えて、冥王星の観測がなされました。
鮮明な冥王星の画像は、エッジワース・カイパーベルトの
天体の実態を明らかにしました。
その画像はハッブル宇宙望遠鏡より鮮明でした。
2016年1月で冥王星の探査が終了しましたが、
そのデータの送信には、2016年10月25日までかかっています。
今回、2つ目の重要なターゲットなので、期待が膨らみます。
2日のデータが楽しみです。