2020年11月19日木曜日

6_178 ノーベル物理学賞 2:理論と観測

 物理学において、理論は重要なのですが、理論とはいっても、実証、証明されない限りは仮説です。ノーベル物理学賞は、理論の業績は古いものに対して与えられることになります。


 今回のノーベル物理学賞では、ペンローズがブラックホールの形成を理論的に示しました。その成果は、1965年に発表された55年も前の業績に対してでした。特異点定理や事象の地平面など、一般相対性理論による課題を数学的に解いたものです。重要な成果です。理論の業績に関しては、証明、実証されない限り、ノーベル賞が与えられることはありません。なぜなら、将来、実証できないで否定されることもありうるからです。今回、他の2名の受賞者の観測を契機に、ブラックホールの存在が明らかになりました。その結果、ペンローズが受賞することになりました。

 2019年4月10日にブラックホールの姿を撮影した画像が公開され、大きな話題になりました。これがノーベル物理学賞になってもいいくらいなのですが、今回は別の観測が受賞しました。いろいろな観測によって、ブラックホールの存在が確実になってきました。

 その中でも、ゲズ(Ghez)の論文とゲンツェル(Genzel)の業績が評価されました。ゲズとゲンツェルは、可視光では見ることができない銀河の中心部を、赤外線で観測することで見ることができ、撮影することに成功しました。中心部ある「いて座A*」と呼ばれる恒星の軌道をたどることで、ブラックホールの存在を明らかにしました。その質量は、太陽の410万倍もある巨大ブラックホールであることがわかりました。

 似たものが他の銀河の中心部にもあることがわかり、銀河中心には巨大ブラックホールがあることになりました。それが銀河の形成と、ブラックホールの銀河形成過程で果たす役割などを考えるきっかけとなりました。

 ゲズは、女性でノーベル物理学賞では4人目として話題になりました。最初の女性受賞者は1903年のマリー・キュリー、次が1963年のマリア・ゲッパート・メイヤー、そして2018年のドナ・ストリックランドでした。最近は女性が相次いで受賞しているようですが、まだまだ少ないです。女性であることが話題にならないこと日が、本来の姿のはずなのですが。

 ノーベル賞の賞金(100万クローナ、1億2000万円)のうち、半分がペンローズに残りを2人で分配するとのことです。ペンローズの貢献、評価の大きさがわかります。しかし、理論は実証されるまでは仮説にすぎません。ですから、実証により仮説から理論になるまで、長い時間がかかってしまいます。時にはホーキングのように、受賞より前に亡くなってしまう優れら業績もあります。しかし、彼らはノーベル賞のために研究をしているのではないでしょうがね。


・遠隔授業・

北海道の新型コロナウイルスの感染者数は

多いまま推移しています。

大学でも、対面授業を最小限にして

遠隔授業を増やすことで対処をはじめている

ことろも出てきました。

我が大学も、いつそのような状況に入るかは不明です。

対面授業から遠隔授業に、急遽変わると、

対処に困ることが、いろいろでてきそうです。


・旅気分なし・

先日、校務で函館にでかけました。

1泊での出張なので、ホテルに泊まりました。

大きなホテルだったのですが、

やはり宿泊客は少なく、浴場も食堂も、

隙間を開けながら、三密に対処していました。

また、館内もマスク着用を義務付けられていました。

しかたのない対処なのでしょう。

旅気分を味わうことができませんでした。

まあ、校務なのでしかたがないでしょうね。

2020年11月12日木曜日

6_177 ノーベル物理学賞 1:ペンローズ

 イギリスの物理学者のペンローズに、ノーベル物理学賞が決まりました。1931年生まれの89歳での受賞でした。高齢だったのですが、受賞が決まってよかったです。


 毎年10月初旬に、ノーベル賞の受賞者が発表されます。日本のメディアは、受賞候補者を予想して、日本人が受賞するかしないかに、一喜一憂します。日本国籍でなくでも、日本人扱いすることもあります。そして、日本人がいないとなると、ノーベル賞の話題も一気に下火になります。授賞式は、例年、スウェーデンで12月に行われていますが、今年は新型コロナウイルスの蔓延のため、集まることはないので、ますますニュースバリューは下がりそうです。

 ノーベル賞だけでなく多くの賞は、そもそも顕著な功績を残した人物に対して贈られるものであって、国に贈られるものではありません。オリンピックのメダルも、個人や団体の栄誉を讃えたものなのですが、なぜか日本では国がとったメダルの数を気にしています。国の権威を示すことに利用しているようで、どうもいただけませんね。

 さて、今年の物理学賞は、イギリスのロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)、ドイツのラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)、アメリカ合衆国のアンドレア・ゲズ(Andrea Ghez)の3名が、同時受賞しました。

 今回のノーベル物理学賞には、個人的に気になることがありました。それは、ペンローズが生きていて受賞できたことです。ホーキングは、2018年に76歳で亡くなっています。生きていれば、ペンローズとの一緒に受賞ができたかもしれません。

 ペンローズは一般向けの書籍をいくつか書いていたので、「心は量子で語れるか 21世紀物理の進む道をさぐる」と「ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて」は、以前、読んでいました。それで面白いと思いました。ユニークな視点での著書「皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則」や「心の影」1と2、「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」などの一般向け書籍は入手していたのですが、積ん読状態になっています。それは、天才ぶりが遺憾なく発揮された内容で、なかなか手強く、簡単には手が出せないものです。

 ペンローズは、不可能図形や平面充填の問題でも有名です。不可能図形として、ペンローズの三角形やペンローズの階段などを考案し、平面充填問題ではペンローズ・タイルと呼ばれ、2種類のタイルをある規則で並べて平面が埋めつくすものです。タイルの不思議な点は、並びに周期性がないという点です。

 ペンローズ・タイルは、理論上のものだと考えられていました。ところが、化学者のシュヒトマンが、周期性を持たない合金を発見し、それまでの結晶の常識を覆えしました。これが、後に「準結晶」と呼ばれるもので、シュヒトマンは2011年にノーベル化学賞はを受賞しました。その時、ペンローズは、非周期的な構造を持つ結晶も存在すると主張したことで援護しました。

 なんといってもペンローズの本業は物理学です。本業での受賞となります。その内容の紹介は次回にしましょう。


・警戒ステージ3・

全国とともに北海道も、コロナの発症者の数が増えています。

北海道では、10月28日に警戒ステージ2に上がりました。

大学でも対応が考えられました。

対面授業では三密を避ける配慮は施されていますが、

さらに学生の席位置を記録していくことになりました。

もし、感染者が確認されたとき、

濃厚接触者の限定ができるような対処です。

感染者数や感染経路不明者、クラスターの増加など、

道が決めた指標によって、

11月7日には警戒ステージ3に上がりました。

札幌の歓楽街の営業時間の短縮要請がでました。

道民への完全な自粛が求められているわけでありませんが、

コロナ対策を十分とる必要がありそうです。

心配ですが、ルールに従って対処するしかありません。


・アメリカ大統領選挙・

混迷を極めたアメリカ大統領選挙も

民主党のバイデン氏に軍配が上がりました。

アメリカ大統領の決定は、

選挙という基本的な仕組みに基づいています。

複雑な仕組みを組み込んでいることや

州毎に独自性があるため、

単純には決着がつかないようです。

泥仕合のようで見苦しくみえますが、

巨大な力をもっている指導者を選ぶのですから

しかたがないのでしょうかね。

次期大統領の次なる政策や方針がどうなるか、

気になるところでもあります。

2020年11月5日木曜日

3_192 地磁気逆転 4:影響

 今回のシリーズの最後に、もし現在、地磁気の逆転が起こった場合を考えていきましょう。地磁気の変動からその危険はあるようです。地表では、生物には、人類には、大きな影響がでてくるようです。


 ここまで、チバニアンに起こったもっと最近の地磁気の逆転を見てきました。数万年に一度の現象なので、「現在を調べる科学」(地球物理学や地球化学など)では、過去のことを調べることができません。また、「人類が残した記録を通じで調べる科学」(考古学や人文歴史学など)でも、78.1万年前の現象は記録されていません。これまで、地磁気の逆転を人類が経験をしたことも、科学で観測されたことももないので、過去の現象を調べるしかありません。そのような学問としては、地質学を活用するしかありません。

 ここまでのエッセイで述べてきたように、チバニアンで起こった松山-ブルン地磁気逆転が、もっとも近い時代に起こった事件となります。その時代の地層を詳しく調べてわかったことは、前回まで紹介したように、2万年間、双極子磁場の強度が弱い状態が続き、非双極子ができては消えるという、不安定な状態になります。このような状態のとき、地球はどのような環境になるのでしょうか。

 地磁気全体が弱まるので、磁気圏のバリアの効果が薄れます。そのため、太陽風や銀河風などの強いプラズマや電磁波が大気圏内に入ってきます。低緯度でも頻繁にオーロラが発生するかもしれません。地表まで達すると、陸上生物、海面付近で暮らす生物に、影響を与える可能性があります。強烈な宇宙線を浴びることになり、DNAの鎖を切れてしまうことで、癌化する細胞が多くなるでしょう。宇宙線や電磁波の強度によりますが。人類にも、少なからぬ影響を与えるはずです。

 現在、人類の科学技術の多くは、電子機器に依存しています。先端の電子技術を用いた、つまりほぼすべての産業や文明は、壊滅的な被害を受けることになります。電磁波からの影響から守るためには、多大なコストがかかるでしょう。

 当面、使用可能なのは、昔ながら電気を用いないアナログな道具や機械になることでしょう。一次産業でも、昔ながらのガソリン・エンジンや蒸気機関、人力や牛馬を用いたものは、影響はないでしょう。そんな状態は、19世紀のような時代に逆戻りすることになります。現在、文明になれた人類に耐えられるのでしょうか。まるで、SFのような話しかと思っている方も多いでしょう。

 「3_180 北磁極の移動 1」(2019.08.22)から「3_184 北磁極の移動 5」(2019.09.19)のエッセイで、最近、磁極の移動速度が、5倍以上も速くなっていることを紹介しました。その時、今後地磁気の逆転が起こる予兆かもしれないという話しをしました。この現象が、もし逆転の予兆なら、どれくらいの猶予があるのでしょうか。今後の課題です。

 チバニアンの地層が、未来の危機に対して、重要な情報をもたらすことでしょう。チバニアンの認定は終わりました。今後は、地質時代としての重要性に着目した研究での貢献が期待されます。


・太陽嵐・

地磁気の逆転による被害は、予想もつきません。

太陽面での爆発であるフレアの巨大なものは太陽風と呼ばれ、

地表でも影響を受けることが知られています。

10年に一度ほどこのような現象がおこっています。

太陽嵐は、2013年には電波障害や停電が起こっており、

2015年には北海道の名寄でオーロラが観測されています。

ハッブル宇宙望遠鏡も太陽にもっと船体の厚い部分を向け

宇宙ステーションでは影響を受けにくい

位置に乗組員は避難する体勢を取ります。

CCDなども、宇宙空間に長く置いていると

宇宙線によって画素がかなりダメージを受けるそうです。


・晩秋から冬へ・

北海道は、各地の峠などで初雪のニュースが聞かれます。

私の町では、まだ初雪はありません。

でもストーブはかなり頻繁にたくようになりました。

厳冬期ほどの一日中、つけることはありませんが、

朝夕には毎日つけるようになりました。

いよいよ秋も終わりに近づいています。