2020年12月31日木曜日

6_179 今年はCOVID-19の年


 今年の話題は、なんといっても新型コロナウイルス(COVID-19)が一番でしょう。今年、最後のエッセイとして、少々長くなりますが、COVID-19で考えたことを紹介します。


 今年も、今日で終わります。今年は新型コロナウイルス(COVID-19)ではじまり、COVID-19で終わりました。今年だけでなく、来年もCOVID-19の危機が継続していくことでしょう。この事態が治まるためには、ワクチンの完成と接種、あるいは対処薬の完成などにより、市内感染がなくなることです。一部の国では、先行してワクチン接種がはじまっています。それらの結果から、ワクチンの効果の有効性がわかってくるでしょう。日本の接種はいつごろになるのでしょうか。

 COVID-19の感染拡大への対策と経済の対策は、相反する方向をもっています。また、科学と政治の方針が一致しないことも多々あります。科学は論理や証拠にもどついて判断しますが、政治は国民の利益を「総合的、俯瞰的」に判断することになります。その判断が間違っていると、国民全体が不利益を被ります。ですから、政治家の資質が、国民の生活、財産や生命すらを左右することになります。特に緊急時はその資質が重要になります。

 アメリカ合衆国では、複雑な制度を介しますが直接選挙で大統領を選びます。そのため大統領には強権を与えています。しかし、大統領の認識不足や対策不足でパンデミックが継続中です。現在も多くの感染者と死者を出しています。強権の授与も良し悪しです。中華人民共和国は、実質上共産党の一党独裁で、主席の習近平が強権を発揮した結果、COVID-19の発生地でありながら、いち早くCOVID-19が終息させたようです。しかし、同じ強権が、香港やウイグルで人権を蹂躙しています。

 いずれの国の方法論も手本にしたくないものです。COVID-19で手本にすべき国は、台湾です。専門家の方針にしたがって、いち早く政策を決めて、対策を実施してきました。その結果、水際でCOVID-19の侵入を抑え、いち早く通常の生活や経済活動が戻りました。

 日本では、もはや台湾の手法をとれない状態になっています。感染者数は他国と比べると少ないとはいえ、COVID-19のパンデミックが、繰り返し起こってきました。その度に医療や保健所の専門家の献身的な努力を続けてきましたが、医療崩壊を起こしつつあります。政治家が、医療より経済を優先した判断ミスの結果だといえます。

 そんな政治家の失策を責める世論やメディアが多くあります。しかし、政府発表のみを報道したり、世論調査を繰り返して、欲しい意見のみを切り取った報道が目に付きます。世論を煽っているメディアやコメンテーターが多すぐるように見えます。自社の主張や調査報道にもづいた主義主張が少なすぎます。安倍政権の成立以降、この傾向が少なくなってきたと思います。

 無責任、無能な政治家を直接選挙で選び、そのようなメディアを許している私たち国民にも、大きな責任があると思います。自身の責任を意識することなく、国や政府、メディアの不甲斐なさを批判するだけなのは、いかがなものでしょうか。

 現在の政治の不手際を生み出したのは、メディアのせいではなく、個々の国民に責任があるのではないでしょうか。国民は政治家の振る舞いをしっかりと記憶しておき、次の選挙のとき、それを考慮に入れるべきでしょう。メディアはそんな政治家の公約とその実現、政治行動などを評価して選挙へ情報提供すべきではないでしょうか。

 疫学や医学の科学的判断は、確度のある方針を出せるはずです。その専門家の判断を、政治家が「総合的、俯瞰的」に考えて実行していくことになります。当たり前のことを、当たり前にやればいいだけです。医学的判断に従って政策を実施した時の経済的ダメージと、経済復興の対策を優先した時起こる医学的ダメージとその後の経済的ダメージを、それぞれの予測を比較すれば答えが出せるはずです。予測は、それぞれの専門家が連携してすれば可能なはずです。その結果を、政治家が的確に実施すればいいのです。台湾のように。

 当然、対処がうまくいかずに、パンデミックが起こる事態もあるでしょう。そんな時は、科学的根拠に従って、ロックダウンを速やかに行っていけばいいのです。中国のように。

 ただ日本人の国民性は、公衆衛生の観点(マスクの着用、消毒手洗い、三密の回避など)も、十分行き渡っていきます。そんな国民性があれば、海外のように厳しいロックダウンをしなくても、政府や自治体が強く自粛を呼びかければ、十分ロックダウンの効果ありました。これの我が国の国民がもっている利点でもあります。これを利用すれば、政治の方針さえ的確なら、COVID-19の終息が見えるように思えます。

 よく考えて節度をもって行動するという国民性が、政治家を選ぶ時にも働けば、政治と科学との連携もうまくいくのではないでしょうか。

 さて、ここまで読んできた方々、一人では何も変わらないと思っている人、その考えが今の日本の状態を生み出しました。よく考えてください。ここの意見を読み流した人、あなたはよく考えて日々の行動しているでしょうか。よく考えてください。ここの文章に反対や賛成の意見を持った人、よく考えてください。最後に、この文章は鵜呑みにしないでください。よく考えて下さい。


・それでも責務を果たす・

政府主催の専門家会議は何ためにおこなうのでしょうか。

政府の言い逃れにために利用されていると

思えるときも多々ありました。

科学に携わるものとして、忸怩たる思いががありました。

当事者たる科学者はもっと強い無力感をもったことでしょう。

それでも、一部の科学者は投げ出すことなく、

淡々と責務を果たしています。

科学に対して真摯な姿勢と責務に忠実な態度は

素晴らしいものだと思います。

科学者の姿勢を国民はよく覚えておく必要があるでしょう。

科学を蔑ろにした政治家をよく覚えておきましょう。


・よいお年を・

今年はCOVID-19の年でした。

すべての国民が痛みを味わい、

苦渋に満ちた生活を強いられました。

ずるずると方針の定まらない政治のために

いつまで我慢すればいいのかわからない生活。

一方で、人が政府のゆるさに乗じて

自粛せず通常の生活に戻っている人も多くなりました。

長期に及ぶ自粛で多くの人の心に緩みが出てきています。

いろいろな原因があるでしょうが、

パンデミックが起こっています。

その責は自身にあることを心しておきましょう。

2020年12月17日木曜日

5_174 DCO 4:カンラン岩と炭酸塩

 オフィオライトと呼ばれる海洋地殻の断片も、DCOの研究対象になっていました。オフィオライトのカンラン岩や玄武岩は、二酸化炭素の循環とどのような関係があるのでしょうか。


 DCOの成果には、表層の炭素循環として、オフィオライトを用いた研究もありました。オフィオライトは私も研究対象にしていたものです。オフィオライトは、昔の海洋地殻の断片が、プレートテクトニクスの作用で陸地に持ち上げられたものです。いろいろな時代のオフィオライトがあるので、過去の海洋地殻を探るに有効な素材となります。

 海洋地殻は海洋プレートの最上部にあり、大陸の岩石より密度が大きいので、プレートテクトニクスでは、マントルに沈み込んでしまうはずのものです。それが陸地に海洋地殻が、陸側に取り込まれていくメカニズムとして付加作用があります。プレートのぶつかりによる圧縮のために、海洋底堆積物とともに海洋地殻の断片も取り込まれることがあります。また、海嶺が沈み込み時には、海嶺の地形的高まりや高温のマントルなどにより、陸側に激しい付加作用が起こり海洋地殻の上部(マントルのカンラン岩まで)も陸側に取り込まれることにあります。

 オマーンにある「サマイル・オフィオライト」と呼ばれるものがあります。このオフィオライトの岩体は、幅80km、長さ500kmもある世界最大のオフィオライトです。白亜紀末にユーラシア大陸とアフリカ大陸が衝突する前に、間になったテチス海の海洋プレートが持ち上げられたもので、マントルの岩石まで取り込まれています。

 ただし、オフィオライトでは、変成作用や、変質作用、変形作用などを受けているので、もともとの火成岩とはかなり変化していますので注意が必要です。ところが、この変質作用が、二酸化炭素の循環に関係していました。

 サマイル・オフィオライトのカンラン岩で、風化作用と岩石中の微生物によって、空気中の二酸化炭素を取り込んでいることが明らかにされました。また、DCOのプロジェクト「CarbFix」では、玄武岩を用いて、炭素を含んだ流体を注入する実験がなされました。すると、固体の炭酸塩鉱物が短時間で形成されることがわかりました。オフィオライトだけでなく、玄武岩までそのような炭素の固化作用が起こっているとすると、その量はかなりのものになると推定されています。

 この炭素の岩石への吸着作用を利用することで、増加する二酸化炭素の吸収には有効ではないかと考えられています。でも、それは少々、夢物語すぎる気がします。


・ロジンジャイト・

オフィオライト中のカンラン岩は、

水があると蛇紋岩になりやすく、

蛇紋岩として分布していることが多くなります。

蛇紋岩には、ロジンジャイト(Rodingite ロジン岩)と呼ばれる

白っぽい岩石に変わっていることがあります。

ロジンジャイトはカルシウムを多く含む岩石ですが、

炭酸塩鉱物も多く含んでいます。

水に溶けたカルシウムが、カンラン岩や蛇紋岩と反応して

ロジンジャイトができ、炭酸塩鉱物もできます。


・オフィオライト・

サマイル・オフィオライトだけでなく、

世界各地の多くのオフィオライトがあります。

もちろん日本にもあります。

日本では、造山帯の中の大きな構造帯には、

カンラン岩や蛇紋岩が各地に分布していました。

私は北海道と中国から近畿地方のものを研究対象にしていました。

蛇紋岩の一部ではロジンジャイトになっているものもありましたが、

その量は多くなりように思えます。

DCOで注目されてきたのなら、

もしかすると研究が進むかもしれませんが、

でも工業的に二酸化炭素の吸収剤にするには

まだ難しく時間がかかると思います。

それより木を植えたほうが手っ取り早と思います。

2020年12月10日木曜日

5_173 DCO 3:マントルの時間スケール

 前回は、プレートテクトニクスとともに起こっている、大気中の二酸化炭素と海洋や岩石との炭素循環を考えました。もっと大きな時間のオーダーで、マントルでの炭素循環をみていきましょう。


 大気と生物の炭素循環は、長寿な樹木の成長を考えても、100年から1000年のオーダー(単位)となります。人間活動による循環の乱れも、やはり100年から1000年のオーダーでの変動となります。このような生物や人間活動の炭素の循環は、1000年のオーダーですが、時間オーダーの異なった循環もあります。

 海洋プレートを構成する岩石中に含まれる炭素の量は、他の成分と比べて、非常に少ないものです。そして、プレート運動も、年間10cmから数cmの非常に小さな移動速度です。プレートテクトニクスにおける炭素の移動量は、部分でみると微々たるものです。しかし、海溝の総延長は長大で、プレート運動も地球史の億年オーダーでの移動を考えていかなければなりません。それらの長い距離や時間で積分していくと、移動する炭素の量は莫大なものになるはずです。

 炭素だけでなく、地球規模の成分のサイクルは、数百万年から数億年のオーダーで考えなければなりません。

 もともと地球は、金星や火星のように、二酸化炭素を主成分とする大気であったと考えられています。現在では、ほとんど二酸化炭素がない状態にまで減少しています。大気から海洋、そして海洋プレートを経由して、少しずつですが、大気中の大気から二酸化炭素が取り除かれていったと考えられます。海洋プレート中に少量しかなく、少しの移動速度しかしなくても、長距離、長時間の蓄積で、大量にマントルに戻っている可能性があります。

 プレートテクトニクスによって、表層の炭素が、マントル深部に持ち込まれている証拠が見つかっています。マントル内の深部の温度圧力条件では、炭素が濃集しているところがあれば、ダイヤモンドに変わります。ダイヤモンドの形成条件は、マントル遷移層付近の410kmから660kmの深度になります。地表にもたらされたダイヤモンドの研究から、中に生物由来の炭素があることがわかりました。その量は微量ですが、表層にあった炭素が、地下深部に入り込んでいた証拠になりました。

 炭素は、数億年のオーダーで、表層からマントル深部まで循環が起こっていることになります。マントル深部の炭素は、マントルのどこに、どのような形態で、どれくらいの量があり、どれくらいの期間とどまっているのでしょうか。これらは、まだ解き明かされていない謎です。DCOが明らかにした地球深部の炭素循環を、もっと探求していく必要があるでしょう。


・師走・

12月は師走なので、本来ならクリスマスは年末や年始の準備で

世間はにぎやかになるはずなのですが、

今年はどうなるでしょうか。

ついついそんなことを考えてしまう時期です。

我が家は、子どもたちが、コロナで移動できません。

そのため、夫婦ふたりだけの年越しになります。

また、義母が今春なくなったので、

喪中でもあり、年始のお祝いはなしです。

淡々とした年末から年始になりそうです。

まあ、これは例年とあまり変わらないのですが。


・自粛期間・

北海道はコロナ感染拡大のため

自粛期間が今週の11日までとされていました。

ところが、12月になってもコロナの感染の拡大は

増加はおさまっているようですが、

今までにない大きな感染ピークが継続しています。

大学では今年一杯は、遠隔授業と決定しています。

来年のことはわかりませんが、

まだまだ予断を許さない状況になっています。

2020年12月3日木曜日

5_172 DCO 2:表層部の循環

 大気や生物には多くの炭素が含まれています。表層部の炭素が、どのように循環しているのでしょうか。いろいろなところがで、いろいろな形で循環しています。複雑な循環ですが、概要を見てきましょう。


 私たち生物が身近に接している炭素は、体を構成している有機物としての炭素、そして大気中の二酸化炭素でしょう。植物の体を形成している炭素化合物は、生物の生態系を考えるときには、重要な役割を果たしています。

 これら表層部の炭素の循環は、観測して移動量を測定すれば、循環の詳細は解明できそうです。自然状態なら、生物の炭素は、どのような形態(化合物)、どのような生物に、どの程度の量か、それらが移動や変化があったとしても、炭素の総量は変わりません。このような炭素の循環は、生態系から解明することができます。

 ところが、人間が関与してくると、炭素の循環は乱れます。例えば、森の木を切り、耕作地にすると、その地域にあった炭素量は明らかに減ります。また、化石燃料を燃やせば、生物間を循環していない炭素を大気中に放出することになります。これまでの生態系による炭素の循環のバランスを崩していきます。これが地球温暖化の原因だとも考えられます。

 気づきにくいですが、プレートテクトニクスによる炭素の循環もあります。地球深部から上昇してきたマントルが、海嶺でマグマ活動を起こし、新しい海洋プレートが形成されます。海洋プレートは、海嶺から海底を移動して、海溝で沈み込みます。マントル物質がマグマを経て、火成岩に形態を変えて移動(対流)しているだけのようにみえます。

 しかし、海底では生物由来の深海堆積物や海洋地殻中に炭素を含む鉱物が形成されます。炭素が形を変えて海洋プレートとして海溝から沈み込んでいきます。海洋プレート中の炭素は、大気中の二酸化炭素が海水中に溶けて、沈殿や生物の殻として海洋底堆積物になったもの(石灰岩)です。また、海嶺のマグマの活動に伴って、変質・変成作用によって炭酸塩鉱物ができて加わっていきます。一方、マグマの活動で、マントル中に含まれたいた炭素が、火山ガスとして海水中に出ていくものもあります。

 海洋プレート最上部の堆積物は、沈み込みによって、陸側に削り取られて付け加わる(付加作用といいます)ことがあります。付加作用により、石灰岩が陸に持ち上げられることになります。このような石灰岩は、大気中の二酸化炭素が、海洋とプレートテクトニクスと通じて、固化したものと見なせます。陸地には大量の石灰岩があるので、大気中の二酸化炭素が、取り除かれた結果となります。

 沈み込みによって、絞り出された水分が陸側のマントルに供給されます。その水分が、マントルの岩石を溶かし、マグマを形成します。それが日本列島のような島弧で火山活動が起こします。その時、海洋プレートに由来する炭素が、火山ガスの中に含まれていることがわかっています。島弧の火山活動で、大気から海水、そして深海底にいった炭素が、再び、大気中に戻されことになります。

 炭素はさまざまなメカニズムで、大気や表層部から、地下深部へとを行き来しているようです。大気、海洋、プレートテクトニクスが連動して、炭素循環が起こっているます。見えたり、観測できる場での活動なので、実態を調べて正確に定量化していく必要があり、検討されています。炭素の地球深部と表層の循環も、地球環境の変化を考える上で、重要なテーマとなります。それがDCOの目的もでありました。


・寒さとコロナと・

いよいよ12月です。

大学の研究室は、例年になく冷え込んでいます。

それは、コロナ対策として、廊下の窓を

朝から、何箇所か、開けているためです。

研究室は、窓を締めているのですが、

廊下から暖気が抜けていくようで、

研究室がなかなか温まらないのようです。

しかたがない対処です。

今年の冬はコロナだけでなく、

寒さとの戦いも加わりそうです。


・ケイ素系生物・

炭素は、地球生物を特徴づける元素です。

炭素は、宇宙では普遍的な元素なので、

地球生命と似た炭素系の生物が

他の天体にいてもいいはずです。

他の元素としては、周期律表で炭素の下にある

ケイ素が候補になります。

しかし、ケイ素は、液体として反応するためには

マグマの海のような条件が

維持されていなければなりません。

1000℃前後の高温でなければなりません。

惑星の条件としては、なかなか困難でしょうね。