2020年3月26日木曜日

2_178 真核生物の誕生 3:古細菌

 ドメインごとの関係を、古細菌からみていきます。そもそも古細菌とは、どんな生物で、他の生物とどのような関係をもっているのでしょうか。生物の進化における古細菌の位置を、探っていきましょう。

 古細菌の実態がわかってきたことで、ドメインが生まれてきたことは紹介しました。その理由は、古細菌が、他の生物(細菌と真核生物)とは、大きな違いがあったからです。もともと核をもたない原核生物に類似していると考えられていたのですが、分子生物学の発展で、原核生物とも大きく違っていることがわかってきました。
 まず、他の生物とは細胞膜が違っています。細胞膜の成分(脂質)の立体構造が、他の生物のものとは反転(対掌体と呼ばれています)していること、ある成分(脂肪酸残基)が古細菌には欠如していることで違っています。これらの特徴は、古細菌は異なっているのですが、他の生物(細菌と真核生物)では共通して持っているものです。
 古細菌は、細菌とも、細胞壁の成分やDNA複製に関わる成分が異なっています。また、真核生物とも、細胞内に小器官(細胞核やミトコンドリアなど)を持っていることなどで異なっています。
 つまり、原核(DNAが袋に入っていない)であることから、古細菌は細菌とも似ている点はあります。ところが、細菌と真核生物の両者が持っている共通の類似点を持っていないことは、大きな問題です。また、原核なのですが、細菌とは明らかに異なっていることなどがあり、同じ分類にすることができません。そのため、新たな分類体系として、ドメインが導入されたのです。
 分子生物学的な研究から、古細菌は原核ではあるのですが、細菌よりも真核生物に似ていることがわかってきました。となると、進化の順番として、細菌と古細菌がまず生まれたことになります。その後、古細菌から真核生物が生まれたことになります。
 もしこの考えが正しいのなら、真核生物ができるためには、核が真核になる必要があります。その後、各種の細胞内小器官ができることになります。
 核の形成は、現在の真核生物の核が二重の膜になっていることが知られています。そこから、細胞の膜が細胞内に入り込み、DNAを包み込むようになり、細胞膜から離れて核膜になったと考えられます。これは、細胞膜と核膜の共通性と2重構造を持つことから正しそうにみえます。このような真核化が、まずは起こったと考えられます。
 次は、小器官の形成になります。すべての真核生物がもっているミトコンドリアという小器官の誕生が重要になります。このミトコンドリアは、細胞内で酸素を用いてATPというエネルギー源となる物質を作ります。もともとそのような機能をもっていた細菌を、取り込んだと考えられます。このようなことを、共生と呼んでいます。
 その根拠は、ミトコンドリアを包んでいる細胞膜の外側の膜(外膜)は、もとの真核生物の内側の膜(内膜)と同じという特徴を持っていためです。この特徴は、外から細菌が入りこんだとき、真核生物の膜に包まれたまま、細胞内に入ればできるものです。そのまま、その細菌が消化されることなく、細胞内で生きていれば、共存が完成します。
 ミトコンドリアをもった真核生物が、菌類や動物などへと進化していきます。また、光合成をする細菌(シアノバクテリア)を取り込み共生し、やがて葉緑体となっていったもの植物へとなっていきます。
 このような何度かの共生が起こったということが、多様な分類区分を生み出すための、大雑把な進化の道筋だと考えられています。これを確かめるためには、古細菌で真核生物に近いものを探せばいいいのですが、なかなか難しいものでした。今回の論文では、それに成功したという報告でした。
 詳細は次回にしましょう。

・民主主義・
私達が選んだ政治家が決めたことに従うのは、
間接民主主義の基本的ルールです。
内閣という行政府が決めたことに従って
地方自治体がしたがっていくことは、
やはり民主主義に基づき、市民は従うべきでしょう。
たとえペナルティがなくても
皆で決めたことに従うことが民主主義でしょう。
そのため、政治家、それに指針や根拠を与える
専門家集団の答申や会議が重要になります。
専門家の情報をもとに、政治家が判断を下します。
予期しない事態のときには、
今までのルールにない判断も必要でしょう。
それが政治判断となります。
メディアは、その判断が正しいかどうかを見極め
それを批判的に公表していく義務があります。
これも民主主義の機構に組み込まれているはずです。
現在の日本では、政治家とメディアともに、
不安がありますね。

・教育の積み残し・
新型コロナウイルスのため、わが大学では、
再度入構禁止の期間が延長され、
今月一杯までとなりました。
4月からの大学行事も
いろいろな制限がされた上でのスタートとなります。
学校関係者は、一連の処置には
いろいろ戸惑いがあったと思います。
昨年度の卒業生や新年度の新入生は
区切りのイベントがおこなわれず、
非常に残念だったと思います。
また、学校では3学期の授業で
終わっていない部分があるかと思いますが、
それを学ばずに、次の学年や学校に進むことになります。
それが、義務教育なら大きな問題です。
なんとか補う必要があると思うのですが。

2020年3月19日木曜日

2_177 真核生物の誕生 2:分類と進化と

 生物進化に関する論文を紹介しているのですが、いくつか注意すべき点があります。生物を考える時、分類と進化を当たり前、前提として、話を進めていますが、そこには誤解が入り込むことがあります。整理しておきましょう。

 前回、5界分類よりもっと上位の分類体系として、ドメインというものが現在使われていることを紹介しました。ドメインの誕生には、古細菌という生物群が、5界の分類体系には収まらないことからできたことも紹介しました。
 次に、分類群の進化上の関係を考えていきましょう。どの生物がもとになり、次の分類体系がでてきたかという関係です。これを考えるにあたり、注意が必要なことがあります。それは、「分類」と「進化」の概念についてです。まずは、それら2つの概念を考えておきましょう。
 もともと「分類」とは、生物群間の特徴に関する相違点と共通点を考えてつくられてきたものであって、進化の過程を前提にしているわけではありません。
 現在の生物群には、分類上の2つの中間的なものもあります。例えば、いま食材として注目されているミドリムシがあります。ミドリムシは葉緑体を持っているので、現在の分類学的には植物になっています。しかし、「ムシ」と名称がついているように、細胞壁がなく鞭毛を使って動き回るので、動物の性質もっています。進化の過程の研究からから、ミドリムシは、原生動物が緑色藻類と共生してできた分類群だと考えられます。しかし、現在の分類上は植物に区分されています。
 「進化」という概念にも注意が必要です。進化とは、ある生物が他の生物に変化することです。もともとの生物も生き残っていることも多々あります。ですから、進化前の生物と進化後の生物があっても、進化の後先でどちらが「進んでいるか」や、どちらが「優れているか」を規定するものではありません。進んでいるや優れているかと考えると、「霊長類」などという分類名や優勢思想がでてきます。現在生きているすべての生物は、生存戦略的には、すべて成功者といえます。進化には祖先と子孫の関係、生物のメカニズムとしての単純と複雑の違いはありますが、そこに優劣はありません。
 さて、分類体系が厳密な進化を反映していない前提のもとに、5界分類では進化の変遷においてどんな関係になっているのか、ざっとみていきましょう。つまりどの分類体系から他の分類体系がでてきたかを考えてくことになります。
 まずは、核を持たないモネラがもっとも単純な生物の体制をもっていますので、もっとも最初に生まれた生物群だと考えてよさそうです。モネラから核をもつ原生生物が、後に「進化」してきたことになるでしょう。その後、多細胞生物である菌、動物、植物の3界が進化してきたと考えられます。これが5界の進化を大雑把にみた関係となります。
 そこに古細菌という分類群とともに、ドメインという分類体系が生まれました。古細菌とドメインから、どのような「進化」の関係が見えてくるでしょうか。それがこの論文の中心となりますが、次回としましょう。

・学位記授与式・
大学は、入構禁止が継続中です。
3月25日までは入構禁止です。
その後、すこしずつ行事が進行していきます。
かなり自粛しながらですが。
本来なら、今日は学位記授与式の日でした。
大学の卒業祝賀会、学科の卒業を祝う会もある予定ですが
中止となり、何もない日となっていしました。
学位記や資格証明証は、手渡しなので職員から行わます。
入学式もガイダンスなども中止か最低限、短時間になります。
致し方ないことでしょう。

・ルールには従うが・
新型コロナウイルスのような非常事態になると、
人の弱さ愚かさが、私にはありありと見えます。
科学、あるいは科学的考え方を重視しています。
科学に従事するものであれば、
生き方もそれに則っているべきだと考え
それを実践しています。
今回の新型コロナウイルスの騒動、各国、組織の対応が
科学的でない点が多々あり
気になってしかたがありません。
たとえ根本思想に反対でも、
民主主義の原理も受け入れていますので
組織が決めたルールには従いますが。

2020年3月12日木曜日

2_176 真核生物の誕生 1:古細菌

 前回の「グアダルピアン世末の絶滅」に続いて、「生命の歴史」のシリーズが続きます。今回は1月に報告されたものを紹介しましょう。生物のある分類群のできかたが、実験からわかってきたというものでした。

 2020年1月15日付けのイギリスの一流の科学雑誌「Nature」に海洋研究開発機構の井町寛之さん、Masaru K. Nobuさん、および共同研究者の人たちの論文が、掲載されました。その論文タイトルは、
 Isolation of an archaeon at the prokaryote-eukaryote interface
 (原核生物と真核生物の境界に位置するアーキアの分離)
というものでした。このタイトルだけでは、その意味するところがよくわかりません。今回のシリーズはこの内容を、紹介していきましょう。
 この論文は、生物進化の重要な手がかりを見つたという報告でした。少々複雑な内容なので、順を追って説明してきましょう。
 まずは、生物の大きな分類からはじめましょう。生物の一番大きな分類体系は、5つの界(モネラ界、原生生物界、菌界、動物界、植物界)に分けられていたのですが、現在では3つのドメイン(domain)に分けられています。生物の分類体系の大枠が、5界から3ドメインに変わったことから、紹介してきます。
 5界の分類の特徴を見てきましょう。モネラ界は、細胞内に核(DNAが集められて収まっている組織のこと)を持たない原核生物(DNAが細胞内に分散している)で、細菌類とシアノバクテリア類が入っています。原生生物界は、核を持つ(真核生物)、いろいろな単細胞生物のグループです。アメーバーやゾウリムシなどです。菌界は、真核生物で複数の細胞からできていて(多細胞生物)、光合成をおこなわない生物で植物と似た細胞壁を持っています。キノコ類などで、他の生物などを分解していきます(分解者)。植物界は、細胞壁を持ち、光合成をして自分で栄養がつくれ(独立栄養生物)、生産者となります。動物界は、細胞壁を持たず、光合成もしません。他の生物や栄養を摂取します(従属栄養生物)。
 この5界分類は、古細菌が見つかるまで利用されたものです。古細菌が見つかってからは、3つのドメイン(domain)の分類が使われるようになりました。つまり、古細菌の発見が、新たな分類体系を生み出す契機となりました。古細菌は、「細菌」という名称がついていますが、細菌とは系統的にまったく異なった分類になります。遺伝子的にも生態的にも異なっています。例えば、高塩分濃度や強酸性、強アルカリ性、高温、無酸素など、他の生物があまり住めない環境に住んでいます。遺伝子の系統の解析から、古細菌は、モネラと真核生物の間に位置することもわかってきました。
 このような古細菌の特徴がわかってきたため、分類体系が見直されることになりました。その結果、古細菌があまりに異質なために、モネラ、古細菌、真核生物に分ける方が適切で、それを界より上の「ドメイン」という体系に変更することになりました。
 古細菌は、英語でarchaea(アーキア)です。この論文に使われているアーキアとは、古細菌のことでした。古細菌が、原核生物と真核生物の間に位置しているという当たり前のこと述べていきます。ただし、そこに「アーキアの分離」という言葉がついています。これは、古細菌にかなり重要な特徴を持ったものが見つかったというのが、今回のタイトルの意味となります。詳しくは次回以降にしましょう。

・新型コロナウイルス・
メディアは新型コロナウイルスばかりです。
私はあまりテレビのニュースは見なくなっています。
ワイドショーは新型コロナウイルスの
ニュースばかりのようですね。
北海道では多くの発病者がいます。
新型コロナウイルスの流行により、
大学は、すべての行事がストップし、
3月25日まで部外者の入構禁止になりました。
学位記授与式(卒業式)も集中講義なども
中止延期となりました。
入学式もガイダンスなども中止になりそうです。
教職員は大学に来ています。
どうしても事務的に
処理しなければならないことがいろいろあるので、
会議は通常通り行われています。
本来なら集まらずに処理できればいいのですが。

・区切り・
大学4年生は、学位記授与式も中止、
卒業祝賀会なども中止となっています。
教員と学生が会う場もなくなりました。
非常に残念ですね。
でも、卒業生は4月から新しい職場に転身します。
学位授与式は4年間の総まとめであり、
社会にでるための最後の区切りとなるものです。
4年生自身が社会にでるための
切り替えの儀式でもあります。
しかし、4月の入社式や入学式も
中止になっていきそうなので
始まりの区切りもなさそうですね。

2020年3月5日木曜日

2_175 グアダルピアン世末の絶滅 5:峨眉山トラップ

 グアダルピアン世末の絶滅は、やはり巨大火山噴火が原因ではないかと、考えられています。別の場所ですが、連続して2つの巨大噴火が起こったことになります。この異変は生物にとっては、大きなダメージになりました。

 ペルム紀末の大量絶滅の事件は、そのわずか710万年前のペルム紀グアダルピアン世の終わりに起きた絶滅事件を見えにくくしていた。ところが、年代測定の技術が進んだことで、区分されて記述できるようになってきました。
 これまでペルム紀末に、海洋生物の96%が絶滅していたとされていたのですが、それはグアダルピアン世末に起こった絶滅分も加わっていました。そのため、多目に絶滅率が算出されていたかもしれないとされています。実際には、80%程度の絶滅であったのではないかと推定されています。
 グアダルピアン世末の大絶滅は、他の大絶滅に匹敵する規模であることがわかってきました。これまで、大絶滅を「ビッグ・ファイブ」と呼んでいたのですが、「ビッグ・シックス」にすべきだと主張する人もいます。
 グアダルピアン世末には、礁を形成していたサンゴやカイメンの仲間が大絶滅し、アンモナイト類(頭足類)も多くが絶滅しています。軟体動物も多種絶滅しました。
 グアダルピアン世末の大絶滅の原因は、ペルム紀末の巨大火山噴火とは別の火山活動ではないかとされています。その火山は、中国南西部に峨眉山(がびさん)トラップ(Emeishan Traps)と呼ばれるものです。峨眉山は中国四川省にある山で、その周辺に玄武岩溶岩が広がっています。2億6200万から2億6100万年前に主に活動し、火山活動は2億5900万年前には終わっています。
 この一連の噴火で、大量の溶岩(100万km2)を流しました。初期は水蒸気噴火も伴っているような海底火山での噴火であったと考えられています。噴火に伴って大量のメタンと二酸化炭素が放出され、気候変動を引き起こしたのではなかいと推定されています。それが絶滅を引き起こしたのではなかいということです。
 ペルム紀末の大絶滅はシベリアン・トラップという巨大噴火で、グアダルピアン世末の大絶滅は峨眉山トラップの噴火でした。両大絶滅には、700万年ほど間隔しかありません。生物が回復するには、必ずしも充分な期間とはいえません。ペルム紀末の大絶滅は、十分回復していない生態系への異変ですから、単独での異変より、ダメージが大きくなったはずです。ですから、グアダルピアン世末の大絶滅を起こした異変、峨眉山トラップの噴火の方が激しく、生態系には過酷な環境が出現したのかもしれません。
 いずれもパンゲア超大陸での巨大噴火です。大陸地殻の分裂のリフトに伴う、巨大な割れ目噴火でしょうか。それともまた別の噴火でしょうか。今後の課題でしょう。

・研究に専念・
3月になりました。
2月、3月は研究に集中できる時期なので、
専念しています。
私にとって研究に専念するとは、
計画通りにプロジェクトを進めることです。
現在ところ、計画は順調に進んでいます。
まだ2020年は始まったばかりです。
来月には、新学期もはじまりますので、
授業や校務にも専念しなければなりません。
でも、今だけは、研究に専念です。

・帰省中止・
このエッセイは一旦は予約送信していました。
それは、帰省のために横浜と京都に滞在する予定でした。
ところが、出かける直前に
北海道で緊急事態宣言が出されました。
大学もそれ受けて、入港禁止が
3/11から3/25まで延長されました。
そのため、急遽帰省を中止しました。