2021年11月25日木曜日

5_183 酸素と自転 4:自転の変化

 酸素の生産量の変化の次は、自転の速度変化です。どうすれば過去の自転速度がわかるのでしょうか。いろいろな方法で推定されています。変化しているとしたら、その原因の追求も必要です。


 酸素の形成や濃度の変化を調べる方法を見てきました。次は、地球の自転の変化をみていきましょう。自転とは、地球の運動なので、速度の変化は、過去の運動を調べなくてはなりません。過去の運動は、どのようにして調べればいいのでしょうか。

 自転の速度は、1日の時間数(24時間)で示すことができます。1日ごとに時間の変化があったとしても、それは非常に小さいものでしょうから、100年、1000年単位でみていく必要があるでしょう。

 過去の自転速度を調べるには、1日ごとに形成される記録があれば、1年分の日数がわかります。そこから調べることができます。ただし、どこかに1年の区切りがないとだめですが。

 毎日の物質として記録されるものがあれば、1年の日数を数えることができます。そのような記録がいろいろな時代にあれば、時代ごとの1年の日数が比較できます。そのような記録として、生物の化石が考えられます。例えば、貝には1日ごとに形成される成長線があり、1年の日数がわかります。

 化石が利用できるのは、カンブリア紀以降で、それ以前は生物の利用できません。しかし、シアノバクテリアがつくる同心円状の層構造をもったストロマトライトや、日輪のように潮汐の満ち引きによってできる周期性のある地層を用いるなど、いろいろな方法で推定されてきました。現在は1日は24時間ですが、古生代に向かってだんだん1日が短くなっていきます。論文によると、古生代では21時間、太古代後期は16時間と推定されています。30億年前より以前には、6時間という見積もりもあります。

 昔ほど一日が短いということは、昔ほど地球の自転が速かったということになります。これは、天文学的にみると、時間経過にともなって、地球の自転速度にブレーキがかかるような現象が起こっていることになります。その原因は、月によって海洋で潮汐作用が起こり、それが摩擦となり自転を遅らせるということがわかっています。これを「潮汐摩擦」と呼んでいます。

 潮汐摩擦による変化は、天文学的に計算可能となります。計算によると、1日は100年で約0.002秒ほど遅くなってきます。ただし、地球と月のエネルギー(角運動量と呼ばれます)は一定なので、地球の自転が遅くなった分のエネルギーは、月に渡され、その結果月はだんだんと地球から離れていきます。その速度は年間3.8cmです。昔、月は近くにあり、もっと大きく見えたことになります。

 ただし、長期に渡る自転速度の変化が実際に起っていたかは、検証しなければなりません。その検証のためのデータが、上で述べた地質学的証拠が重要となります。

 では、酸素の量と自転速度の関係については、どうなるでしょうか。次回としましょう。


・日食・

潮汐とは、一日に2回の潮の満ち引きですが、

それが地球の自転に対して

ブレーキになっていることはあまり想像できません。

かつて月が近くにあったということは

皆既日食や金環食などの

すばらしい日食はなかったことになります。

皆既日食や金環食は、

月と太陽が地球からの見かけ上の

大きさが同じになるという

絶妙なところにあるために起こっているのです。

将来は、残念ながら皆既日食は起こらなくなります。


・冬道・

先週は道東への出張がありました。

この時期、道北では荒れで、

札幌でも積雪があったようですが、

自宅しても積雪の痕跡はありませんでした。

帰りは峠道が一部凍結しており、

別の峠では雪がちらつきましたが、

無事、帰ってくることができました。

2021年11月18日木曜日

5_182 酸素と自転 3:酸素の形成

 今回は、大気中の酸素の形成、形成の仕組、量の変化をどう捉えるかを、みていきましょう。酸素の形成や変化は、過去の地層や化石から探っていくことになります。


 地球の創成時代の大気には酸素がなく、二酸化炭素を中心とした大気であることがわかってきました。現在は、酸素を20%含む大気になっています。その酸素の形成の仕組みと、変化の様子を考えていかなければなりません。
 現在の地球で、酸素は光合成をする植物がつくっています。陸上の森林や草原の植物だけでなく、海の植物性プランクトンが、大量に酸素を作り出しています。現在の酸素は、生物の光合成よって作り出されているもので賄われていることがわかっています。
 植物が地球の大気中のすべての酸素をつくりだしたのでしょうか。もしそうなら、いつ頃はじまり、どのような変化をしてきたのでしょうか。
 昔は、地球の酸素は、太陽の光分解で酸化物からできたのではないかと考えられてきましたが、もしそうなら同じような原始の大気をもっていた金星や火星でも、酸素のある大気をもつことになります。しかし、そのような証拠は見つかりませんでした。
 光合成をした微生物が誕生したときから、酸素がつくられはじめたとされてきました。光合成とは、複雑な組織で複雑な仕組みで起こるものです。地球最初の生物はもっていなかったはずです。ある程度進化した生物で光合成が起こったはずです。
 光合成を最初におこなった生物の化石は、32億年前頃のものに候補があるのですが、まだ決着を見ていない状態です。確実に酸素を、それも大量に生産した証拠は、25億から20億年前頃の地層に見つかっています。丸い同心円状の特徴的な構造をもった岩石が、世界各地に大量に見つかっています。ストロマトライトと呼ばれています。
 現在にもストロマトライトをつくっている生物が、西オーストラリアのハメリンプールの海岸にかろうじて生き残っています。この生物はシアノバクテリアと呼ばれ、光合成をしていることがわかっています。最初の光合成生物は、まだわかっていませんが、25億から20億年前に見つかっている大量のストロマトライトの地層から、その時期から大量の酸素が形成されたと推定されます。
 また、同じ頃に、縞状鉄鉱層と呼ばれる地層も大量に形成されています。縞状鉄鉱層は、海底に堆積した堆積岩ですが、酸化鉄を大量に含んだ地層です。酸素がない原始地球では、海洋に大量の鉄が酸化されることなく溶けていました。シアノバクテリアが酸素を量産すると、海の中では鉄が酸化され沈殿していきます。地球の全海洋で、鉄の酸化作用が起こったと考えらます。この時沈殿したものが、現在の鉄鉱の原料となっています。
 鉄の酸化が終わると、酸素は大気中に放出されるようになります。大気中に酸素が加わっていくと、地表の酸化が起こります。20億年前以降、鉄の酸化物を含んだ赤色砂岩が見つかってきます。この赤色は鉄が酸化した色です。これも大気中に酸素がずっとあった証拠となります。
 他にもイオウ鉱物やウラン鉱物などから、ある時代の酸素濃度が推定されています。このようないくつかの時代で酸素濃度を手がかりに、シミュレーションによって、大気中の酸素の濃度変化が推定されています。
 ここまで酸素の形成、量産、濃度変化を推定する方法を見てきました。次は自転の変化を見ていきましょう。

・見る側の気持ち・
古い時代のストロマトライトの地層は、
カナダ、アメリカ、中国などで見ていますが、
現在生きているストロマトライトを見に、
西オーストラリアのハメリンプールへは2度いきました。
一度目は満潮時で水中にある状態でした。
これが非常に残念だったので、
2度目は干潮に合わせて見学にいきました。
そこまでして見学したものは、強く印象に残ります。
同じものでも、見る側の気持ちが変わると
まったく違って見えてきますね。

・校務出張・
今週は校務出張で数日でかけます。
そのため、このエッセイも
出張の合間をぬって書いて予約配信しています。
月曜日にはミゾレ混じりの雨の中を出張しました。
そろそろ里でも雪になりそうなので、
峠越えが心配になってきました。
しかし、高速道路で越える予定なので
もっとも除雪が早いところとなるはずです。
心配してもしたがありませんが、
積もったら慎重に運転していくだけです。

2021年11月11日木曜日

5_181 酸素と自転 2:原始の大気

  現在の地球は、酸素を含んだ大気になっています。過去から現在までの酸素の濃度の変化がわかるのでしょうか。そもそも地球の創成期の大気は、どのようなものだったのでしょうか。どのように探っていけばいいのでしょうか。


 地球の酸素濃度と自転速度に関連性があるという報告がありました。そのために、まずは地球の酸素の起源を見ていきましょう。
 過去や太古、あるいはできたときの大気の組成は、もはや地球には残されていません。現在の地球の大気には、酸素が20%ほど含まれています。大気は全地球で循環しているので、組成は地球のどこでも均質な値となっています。ですから、地球の過去の大気の組成やその濃度の変化を調べることは、現在の大気からはできません。どうすれば、原始の地球の大気を探ることができるでしょうか。
 地球の原始大気はいくつかのアプローチで探求されています。ひとつは、惑星の材料となった隕石(始原的隕石と呼ばれています)からの探求です。始原的隕石のガスになる成分(揮発性成分と呼ばれます)は、二酸化炭素や窒素、水蒸気が含まれていることがわかってきました。材料からもたらされるガスの成分が、原始の大気になるはずで、その組成は二酸化炭素、窒素、水蒸気が主成分と考えられます。そこには、酸素は含まれていませんでした。
 次は、比較惑星学からのアプローチです。太陽に近い側にある隣の惑星の金星は、地球(100kPa)の100倍近い大気圧(9321.9kPa)になるのですが、その主成分は二酸化炭素です。遠い側の隣にある火星の大気は、100分の1程度(750Pa)ですが、主成分はやはり二酸化炭素です。このような地球両側の惑星は、形成時の大気が今も残されているようです。それらの惑星が大気圧は大きな差があるのですが、似た大気組成をもっています。そのような比較から、地球の創成期も、酸素がなく二酸化炭素が主成分の大気だったと推定されます。
 地球内のアプローチとして、堆積岩が利用されます。堆積岩は、海底で堆積し地層となります。海水は地球表層の環境を記録します。大気とも接しており、大気の痕跡も地層に記録しています。もし大気中や海水中に酸素があれば、酸化された鉱物や物質が地層の中に記録されることになります。古い堆積岩から、地球表層の環境を読み取っていくと、酸化された記録は見つかっていません。
 これらの推定や証拠から、地球初期の大気には酸素がなく、二酸化炭素が主成分であったと考えられています。
 では、いつ、どのように酸素ができ、その濃度はどのように変化してきたのでしょうか。それは次回としましょう。

・卒業研究のツメ・
卒業研究のツメの時期になっています。
毎日、空き時間に個別の添削をしています。
最初の文章作成の指導は大変でしたが、
全員、長文の書き方を理解してきたので、
自身で書き進めるようになってきました。
毎週、少なくとも一度は添削することにしています。
定期的に添削をしいないと、
気を抜いてストップすると、一気に遅れてしまいます。
そのためにも、毎日、だれかの添削をしています。

・里の冬も近い・
北海道は、木々の紅葉も終わり、
ほとんどの葉も落ちてしまいました。
10月に一度、各地で降雪がありましたが、
その後は、寒波がないので、降雪は少ないようです。
住んでいる街では、今シーズンはまだ降っていません。
いつ降ってもおかしくない時期になりました。
自家用車は冬タイヤにしていますが。

2021年11月4日木曜日

5_180 酸素と自転 1:関連性

 地球の大気には、酸素が20%含まれています。その酸素は、生物がつくりだし、現在も生産をしているものです。酸素の増加が、地球の自転と関連しているという報告がありました。詳しく紹介していきましょう。



 今回のテーマは、地球の酸素と自転についてです。地球の酸素の量と自転の速度が関係するという報告がありました。この報告をみて、かなり奇異な感じがしました。なぜなら、酸素量は生物が関与した現象で量は変化するはずです。一方、地球の自転は天体の運動ですから、天文学的で規則的な変化となります。両者が関係するというのというのは、どうしてだろうかと感じたからです。
 イギリスのNature Geoscienceという権威ある科学雑誌に、2021年8月2日に掲載されたので、科学的根拠や論理は十分吟味されているはずです。この報告は、ドイツのマックス・プランク海洋微生物学研究所のクラット(Klatt)氏らの共同研究で、そのタイトルも、
  Possible link between Earth's rotation rate and oxygenation
  (地球の自転率と酸素供給の間の可能な結びつき)
というものでした。
 地球大気の酸素量の変化、また地球の自転速度の変化も、これまでも研究されてきたのですが、別々のテーマとして別の分野の研究者によって進められてきました。この論文では、このような一見全く異なった両者が、関係している可能性を指摘しました。
 論文の結論としては、地球の自転が遅くなっていくと、一日の時間が長くなっていきます。それと呼応して、酸素が24億から22億年前に急激に増加してきたという主張です。どう呼応していたのかは、なかなか興味深いところです。
 論文の紹介をする前に、まず地球の自転速度と酸素の大気中の濃度変化を、それぞれ理解しておく必要があります。このエッセイでは、大気中の酸素量の変化については、以前何度か紹介をしたことがあります。例えば、「2_26 酸化地獄」(2003年12月18日)、「2_79 酸素の物語5:海洋の酸素」(2009.06.11)、「1_111 23億年前の事件 1:重なる事件」(2013.01.31)などで何度か紹介してます。ところが、地球の自転やその変化については、ほとんど紹介してきませんでした。
 まず、酸素の増加の整理をしてから、次に自転速度の変化について詳しく紹介してから、この論文の説明をしていきましょう。

・道南豪雨・
先日、今シーズン最後の野外調査をしました。
3つの目的地がありましたが、
2つは好天に恵まれて、最後の紅葉の中で調査しました。
ただし、道南では一晩激しい雨に見舞われました。
幸い移動したので、激しい雨にはなりませんでした。
しかし、道南は、翌日から記録的な豪雨と
雹などによる被害に襲われました。
幸い私は被害にあいませんでしたが、
被害地域の方にお見舞い申し上げます。

・入試シーズンへ・
大学は、いよいよ入試のシーズンとなってきました。
AO入試という制度はなくなり、
代替となる制度でおこなわれています。
11月から本格的な入試に入っていきます。
来年度の新入生からは、従来通りで
対面での授業がはじまればと思います。