2024年4月25日木曜日

1_216 月の形成 5:マントル・オーバーターン

 月の内部構造を精密にシミュレーションしていくと、金属鉄の核が存在していることがわかってきました。その他にも、マントル内でオーバーターンが起こっていたことも、明らかになってきました。


 前回、天体の内部を探る方法を考えてきました。地震や慣性モーメントなどから探る方法がありましたが、地震波がもっとも正確に内部を探ることができます。ところが、月では、限られた場所、限られた期間しか地震計が設置されていなかったので、情報も限定されています。そのため、正確な内部構造がわかっていませんでした。月を外からの探査した情報を加えることで、内部のより正確に探る試みがなされました。
 2023年のNature誌に、コート・ダジュール大学のブリアウド(Briaud)らの共同研究で、
The lunar solid inner core and the mantle overturn
(月の固体内核とマントルのオーバーターン)
という報告が出されました。この論文では、これまでの地震波データを再検討をして、精度の高い月の形状データも加えた熱対流のモデルから、月の内部構造を検討していきました。さまざまな条件で大量の(12万回)シミュレーションをした結果、前回紹介したように、月に金属鉄の核がある条件が、もっともえられている情報に合うことわかりました。そこから、金属鉄の核が存在すると考えられました。
 さにら、論文のタイトルの後半にあるマントルのオーバーターンがあったという推定も提示されました。論文では、このマントル・オーバーターンの証拠を重視しています。
 月の地殻は、白っぽい斜長岩と黒っぽい玄武岩からできています。月のすべての地殻が火成岩になっているため、大量にマグマが形成されたことになります。月では、形成初期に、大規模な溶融が起こっていたはずです。
 かつてはその熱源として、放射性元素とマントル・オーバーターンによるエネルギーが考えられていました。ただし今では、月の形成時に物質が短期間に集積しことによる重力エネルギーの開放で、マグマオーシャンができたと考えられています。
 マントル・オーバーターンとは、マントル内やマントルと核などで、層をなしていた物質が大きく入れ替わる(オーバーターン)ことです。一般に、天体形成初期の熱かった状態から、冷えていく時に化学分化が起こり、内部に軽い物質と重い物質の分層がおこります。マグマによる化学分別が起こるのですが、できた岩石には密度差ができます。その結果、重力的に不安定な状態(密度の大きいものが上、小さいものが下)が生じれば、ある時一気に、物質の入れ替わりが起こることがあります。例えば、下に岩石(マントル)で上に鉄(核)があると、オーバーターンが起こります。
 では月では、どのようなオーバーターンが起こったのでしょうか。それは、次回としましょう。

・暑い横浜・
先週、横浜にでかけました。
墓参し、親族に会いました。
以前の職場であった博物館を見学し
その周辺をめぐり、その変貌ぶりを味わいました。
また、中華街ではないですが、
馬車道で中華の食事をとりました。
久々の横浜となりました。
桜も遅くまで残っており、
あちこちで名残の桜を見ることができました。

・涼しい北国・
横浜にいる最中、非常に天気もよく、
全国的に暑くなりました。
北海道も夏日になっていました。
ほとんどの雪が溶けてしまいました。
帰札してすぐに、
自家用車のタイヤを夏タイヤに変えました。
すると、また涼しい日が訪れました。
ストーブをまた数日炊きました。
さすがに雪ではないですが
もうすぐゴールデンウィークだというのに
どうしたのでしょうか。

2024年4月18日木曜日

1_215 月の形成 4:核の存在

 月の形成に関する次の話題になります。月の核についてです。月の内部に核があるかどうかは、長らく議論されてきました。前回まで紹介してきたような月の起源とも直接関わることになります。


 月は、有人のアポロ計画から、無人探査機による周回軌道からや表層での調査など、多数の調査がなされていますが、その内部については、未だによくわかっていません。
 天体の内部を調べるのは、どうするのでしょうか。いくつかの方法がありますが、天文学的観測から、質量、半径、角運度量、角速度を調べて、そこから慣性モーメントを求めます。もし内部まで全体の密度一定の物質からできていると、その値は物理学的は方程式から、0.4になります。中に重いものがあるとこの値は小さくなり、軽いものがあると大きくなります。
 地球の慣性モーメントは0.3307、金星が0.336、火星が0.366 となり、岩石惑星は、0.4より小さく、内部に密度大きいものがあることになります。巨大ガス惑星の木星で0.254、土星で0.210となり、値がさらに小さくなるので、より密度差が大きなものがあることになります。
 月は0.393となり、0.4に近いので、内部に密度の大きいものがあることになりますが、小さいはずです。それが金属鉄の核なのかどうかは、この値からは不明です。核があったとしても、小さいものになります。
 他に、地震波の観測から調べる方法があります。地震波の観測には、地震計を月面に置かなくてはなりません。地球と異なって、その設置は限られています。アポロ計画で、月に計5個の地震計が置かれました。9年ほどの観測がされて、1.2万回以上の地震(月震といいます)が記録されました。月震は揺れの大きなもの(マグニチュード3以上のもの)は28回と少なく、大半が深くで起こる小さいものでした。その発生メカニズムもよくわかっていません。時々隕石の衝突による月震も記録されています。
 月震の解析から、月の内部には、地球と同じように固体のマントルがあることはわかってきました。深部には地震波速度が小さくなるところがあり、そこは一部溶融したマントルと金属核(半径480kmのところ)があると考えられています。さらに深部には、また地震波速度が大きくなり、固体の金属核があると考えられるようになってきました。金属核のサイズは半径約330kmから250kmだと考えられ、非常に小さなものです。
 しかしその精度がよくありません。深部の核を詳しく探るには、そこを通る地震波のデータ必要になります。しかし、地震計は月の表側に置かれているために、内部を通る地震波のデータが少ないためです。
 その後、周回衛星で実施された重力探査と組み合わせて、月の内部がある程度正確に推定されるようになってきました。そして、核の存在が確実になってきました。

・横浜へ・
このマガジンは、10日ほどの前に予約配信しています。
それは、横浜に週末から週の前半にかけて
出かけているためです。
以前から訪れたかった義母の墓参りをします。
COID-19のはじまりでの訃報だったので
葬儀にも参列できませんでした。
もうひとつは、義父との面会です。
昨年春までは、COVID-19の影響で
出かける機会がつくれなかったのと
2023年度前半はサバティカルで四国に滞在していたため
今回の機会になりました。
そのため、今回は予約配信となりました。

・遅めの春・
北海道では、今年は雪が遅くまで降ったので
少々遅れ気味です。
それでも、4月に入り、急に春めいてきました。
桜の季節にはまだ早いですが、
初春のフキノトウや福寿草など
咲きはじめています。
ヒバリの鳴き声も賑やかになってきました。
北海道の春は一気に進んでいきます。

2024年4月11日木曜日

1_214 月の形成 3:シミュレーション

 ジャイアント・インパクトは、過去の事変なので検証不能です。現在の事実を説明できるモデルを、シミュレーションで確かめていくことになります。ただし、シミュレーションには、落とし穴もあるので注意が必要です。


 ジャイアント・インパクト説は、多くの研究者が起こったと認めるようになってきました。ただし、課題もあり、地球と月のある成分(酸素同位体組成)が似ている点も大きなものです。同位体組成は同じ起源物質からできたことを示しています。
 ジャイアント・インパクトで、ぶつかった天体(ティアと呼ばれています)と地球は、別々にできたものなので、異なった成分(同位体組成)を持っていたはずです。地球に衝突後、粒子が大量に飛び散りますが、ティアと地球の成分が混合していきます。その時、地球と飛び散って月を作った粒子の組成はどうなるでしょうか。地球はもともともっていた成分に、ティアの成分が加わることになるはずですが、月は飛び散った粒子なので混合の程度はさまざまで、異なった組成になりそうです。なのに地球と月の同位体組成は似ています。
 この課題に対して、衝突で地球から飛び出した粒子が高速回転することで加熱され、溶けて均質の雲状態(シネスティア Synestiaと呼ばれています)になったと考えます。シネスティアが冷えて固まり、地球にも月にも降り注げば、お互いに似た組成になるというものです。ただし、できた月の公転軌道が、地球の赤道面になる可能性が低いことが問題でした。
 前回紹介したケゲレイスらの論文は、この問題が解決できたという報告でした。その解決方法は、粒子を100万個から1億個まで増やして高解像度のシミュレーションを進めると、それまでうまくいかなかった月の形成がうまくいくようになりました。
 シミュレーションでは、地球に近い側に大きな天体と、遠い方に小さい天体ができたのですが、地球に近い側にある大きいほうの天体は、地球に衝突してすぐになくなります。遠くの小さい天体(月の0.69倍の質量)は、円軌道をもった月となることがわかってきました。そして、月は、数時間もあれば形成できるという結果もでてきました。衝突さえ起これば、月は簡単にできるということになります。
 この論文では、シミュレーションの精度を上げるために、粒子の数を増やしていきました。従来の研究では、せいぜい100万個でのシミュレーションだったのですが、増やしていくと、約320万個を堺に、別の様相を呈する結果がでてきました。
 現実はどれほどの粒子があったのかは不明ですが、粒子の数が億よりもっと大きな数であったはずです。もしかするとシミュレーションで、もっと大きな数になると、別の様相が生じるかもしれません。そう考えていくと、シミュレーションに終わりがなくなります。
 シミュレーションは、求める結果が出たときに、成功したとして、終わります。しかし、その先に別の様相が起こるかもしれません。どれだけおこなえば変化するのか、それともずっと変化しないのか、それは不明です。現状のシミュレーション結果は、確定したものではありません。

・終わりはない・
シミュレーションは高速の大型計算機を用いて進められます。
研究は、ゴールを想定して進めていきます。
今回紹介した論文のように
これまでいい結果がでていなかった原因が
シミュレーションで扱っている
粒子の数だと想定したのでしょう。
数を増やして、変化を調べてきました。
それまで100万個であったものを増やしていくと、
320万個で、突然、様相が変わりました。
その先に様相がどう変化するかを
1億個まで増やして、同じ結果になることを確かめました。
その先にはもう様相の変化はないでしょうか。
それは不明です。
もし、320億個まで増やしていけば、
そこで変化があったかもしれません。
しかし、さらにその先にも変化があるのかもしれません。
様相の変化は、無限に起こる可能性もありそうです。
シミュレーションの終わりは、
実際の衝突で飛び散った粒子の数に達した時でしょう。
それも不明なので、やはり終わりはないですね。

・講義のスタート・
いよいよ今週から講義がスタートしました。
久しぶりの講義再開なので、
慣れるのに時間がかかりそうです。
今週末には、私用で3日間でかけます。
その次の週の講義の準備も
しておかなければならないので
よけいにバタバタしています。
この私用が今年最初の遠出となります。

2024年4月4日木曜日

4_182 駒ケ岳:流山と景観

 今回は、昨年11月に訪れた駒ケ岳と大沼の紹介です。激しい火山活動が、現在のきれいな景観をつくりました。今後の「地球地学紀行」のシリーズについても考えました。


 COVID-19のため、2020年度は野外調査に出かけれられず、2021年度から2022年度にかけても、影響はまだあり北海道中心の野外調査となっていました。北海道は広いのですが、なんとなく似たルートでの野外調査が多くなりました。地質学的興味は尽きませんので、何度でも同じ地域にでかけていきます。それでいいと思っています。
 昨年11月中旬に野外調査にでかけた道南の紹介をします。道南には、毎年のように訪れていますが、今回は駒ケ岳と大沼周辺に出かけました。
 駒ケ岳の山頂部は、馬蹄形に削られたような特徴的な形をしています。もともとは、このような形の山頂ではありませんでした。駒ケ岳は、10万年前から活動しており、4万年前には、きれいな円錐形の成層火山(富士山のような形)をしていました。4万年前にいったん活動を停止したのですが、6800年前に活動を再開しました。何度も噴火を繰り返しながら、やがて活動は収まってきました。
 1640年に、再度、激しい活動をはじめました。この活動で山体崩壊が起こり、もともと1700mの標高があったものが、600mほど低くなって、崩れた山の形になりました。山体崩壊で、大きな岩塊が一緒に崩れました。そのような岩塊が斜面に残った流山地形ができました。1640年の噴火で流れ出た溶岩が、河川をせき止め、大沼ができました。大沼の中にある島々は山体崩壊の岩塊です。
 1929年と1942年に中規模の噴火がありましたが、不規則に小規模な活動を繰り返してきています。駒ケ岳では、時々火山性地震が発生するのですが、火山活動はあまり起こっていませんでした。2000年の小規模な水蒸気爆発があったのですが、その後は穏やかになっています。
 ところが、2023年12月以降、火山性地震が発生しています。3月23日には火山性微動や傾斜変動が起こりましたが、まだ大きな噴火の兆候はなさそうです。噴火警戒レベルは1(活火山であることを留意)のままです。
 激しい噴火で山体崩壊が起こした岩塊や溶岩が、大沼の景観をつくりました。火山活動による地形が駒ケ岳や大沼の観光地となりました。また周辺には温泉もあります。しかし、駒ケ岳は、活火山であることは忘れてはいけません。

【定期的配信】
 月刊メールマガジン「GeoEssay 大地を眺める」というエッセイを、先月で休刊としました。GeoEssayは、露頭写真や地形図、地質図、地形解析図、衛星画像など用いて、その地域の地質を文章で紹介していくものでした。そのため、ホームページで、エッセイ(文章)とともの多くの画像も公開していました。
 GeoEssayを休刊にした代替として、このEarthEssayで、月に一度(月初の号)は、「地球地学紀行」のシリーズを配信していこうと考えています。
 GeoEssayを休刊にしたのは、今年度で定年退職するためです。研究のために大学のコンピュータ室に設置しているサーバで「GeoEssay」を公開しているたのですが、退職で停止しなければなりません。この1年でサーバによる教育活動も、順次停止していく予定をしています。
 このEarthEssayはテキストだけなので、退職後も継続していきます。サーバは使いませんが、メールマガジンとブロクでの公開としていくことになります。

・Last Year・
2024年度がはじまりました。
今年は自分にとってはLast Yearとなるため、
すべての行事、講義が最後となっていきます。
二度とできないものが続いてきます。
実際におこなわれている教育は、
受講する学生にとっては
各出会い、講義が一期一会となります。
ですから、いつであっても、手抜きはできません。
そうはいっても、最後となると・・・

・入学式・
大学の入学式は、街の大きな会場を借りて実施されます。
新入生と保護者が一同に入れるサイズの会場が
大学にはないためです。
多くの大学では、入学式や卒業式は
全員が一度に入れる会場はもっていません。
大きな会場を借りて実施しています。
小中高校では、自前の施設で実施しているのですが、
大学は貸会場となることが多いようです。
全学生が集まるという需要が
ほとんどないためでしょう。
大学の自前のホールで実施しているところもあります。
我が大学も、学位記授与式は学部学科ごとに分けて
学内のホールで実施しています。
十分、セレモニーとして成立しています。

2024年3月28日木曜日

1_213 月の形成 2:ジャイアント・インパクト

 月の形成でジャイアント・インパクト説が、現在では有力となってきたことを、前回、紹介しました。月の起源は二転三転しながら、ジャイアント・インパクト説に再度なってきました。


 かつては、月の起源説には、衝突説があました。それも月形成のアイディアとして、昔の人はその可能性を思いついていました。しかし、太陽系のできかたが、少し明らかになるに従って、大きな天体同士の衝突は、稀な現象だと考えられました。そして、顧みられなくなりました。
 ところが、太陽系形成の現代的なシミュレーションにより、復活しました。初期には多数の微惑星ができ、衝突合体が起こり原始惑星へと成長していきます。ひとつの公転軌道には、いくつかの大きな原始惑星へと成長していきます。そして最終段階には、大きな原始惑星同士の衝突、ジャイアント・インパクトが起こりそうなことが、シミュレーションから明らかになってきました。衝突説は、一旦は消えそうになったのですが、再度復活してきました。
 ジャイアント・インパクト説は有力ですが、課題もまだ残されており、説の詳細は、今でもいろいろと議論されています。議論の中でも、一番の注目は、月ができていく過程でしょうか。その様子はシミュレーションでしか再現できません。
 ケゲレイス(J. A. Kegerreis)らの共同研究で、2022年10月のThe Astrophysical Journal Letters誌で、
 Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite
 (月の衝突後の衛星としての短時間の起源)
という論文が報告されました。
 この論文では、高解像でシミュレーションがなされました。衝突で飛び散る粒子の数が、シミュレーションの精度となります。この論文では、1万個から1億個までの範囲でシミュレーションが実施されました。
 これまでは、10万個~100万個の粒子でおこなわれていたシミュレーションで、月ができたり、できなかったりしていました。ところが、粒子の数を1億個まで増やすと、簡単に月ができることがわかってきました。その期間は、わずか数時間ほどでできました。
 非常に短い時間で月の誕生することがわかってきました。このような短い時間は、衝突時に放出される熱エネルギーが、月に取り込まれることになります。これが、月でマグマオーシャンをつくるための用いられることになります。
 このシミュレーションでは、同時に2つの天体ができました。それについて次回にしましょう。

・送別会・
大学は、年度末を迎えています。
在校生のガイダンスや健康診断、
新入生を迎えるための準備も進んでいます。
そんな中、教職員の送別会が学部や大学で
いくつかおこなわれました。
やっと例年通り飲食ができる状態となりました。
私にとっては、久々の公的な宴席が続きます。
退職される知り合いも
数名おられるので、寂しさもあります。
ただし、職員では再雇用や教員では非常勤として
次年度からも勤務される方もおられます。

・思いつきの連鎖・
現在、本を執筆しています。
ライフワークのまとめとなります。
これまで進めてきた
さまざまな方向の研究成果が
不思議と合体してきました。
最初に別のテーマがつながると
思いついたときから、
思いつき連鎖していき、連環していました。
今は、その思いつきを
整合的につなげていく作業を進めています。

2024年3月21日木曜日

1_212 月の形成 1:起源の仮説

 月に関するいくつかの新しい知見が報告されました。まとめてシリーズにして、紹介していきます。月の起源に関していくつかの説がありました。これまでどのような説があり、それぞれでどこが課題なのかを紹介していきましょう。


 かつて、月の起源には、いくつもの説がありました。起源説としては、分離説(分裂説、親子説)、捕獲説(他人説)、集積説(兄弟説、双子)などに分類され、古くから議論されてきました。現在では、ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説 giant impact)が有力となっています。それぞれ、どのような説かをみていきましょう。
 分離説とは、古くからある説で、地球から月が分離してできたというものです。かつては地球の自転が速かったため、地球のマントル物質が飛び出して月が形成されたとする説です。地球がマントルが分裂するほど高速回転していたとすると、現在の地球と月の運動(角運動量)と合わなくなります。
 捕獲説は、太陽系初期に多数形成された微惑星の一つが、地球に捕らえられたというものです。月が地球に捕獲される時、月の運動エネルギーを減らさなければなりません。その方法は現実的ではないものになります。
 集積説は、地球と月は近くで一緒に形成され、連星の状態になったとするものです。ところが、似たような材料物質からできたはずなのに、天体全体の平均密度や平均化学組成に違いがあり、月では揮発成分が少なくなっています。月でも金属鉄の核を持つはずなの、核がないかあっても小さいと推定されています。ただし、同位体組成が似ています。
 これらの3つの説は、いずれも課題の多いモデルとなります。地球と月の岩石の同位体組成が類似しているのに、いくつかの化学組成の違いや運動(角運動量の類似)が問題となっていました。
 ジャイアント・インパクト説より前には、衝突説があり、地球に天体が衝突して、月が飛び出してできたというものです。衝突は、偶然で稀な出来事だと考えられ、もっと困難な説だと考えられてきました。しかし、太陽系初期のシミュレーションにより、多数の微惑星が形成され、衝突合体しながら成長していくことが明らかになってきました。天体同士の衝突は頻繁に起こり、衝突の終わりころには、大きな原始惑星同士が衝突するすることになったと考えれました。それがジャイアント・インパクト説で、現在では、もっとも有力な説となってきました。
 では、ジャイアント・インパクト説で、月はどのようなプロセスでてきていくのでしょうか。いろいろなシミュレーションがなされてきていますが、非常に短期間でできたという報告がありました。その内容は次回にしましょう。

・祝賀会・
先週、学位記授与式がありました。
コロナ禍も終わり、通常通りに開催されました。
その後の祝賀会も、例年通りに実施されました。
全学での開催なので、
落ち着いて話せないのですが
賑やかな会になります。
例年、祝賀会に出席しているのですが、
今年から出席を控えることにしました。
祝賀会のあとも、
学科やゼミの学生たちと
宴会をしていました。
今年度から、ゼミを持たなくなったので、
学生とゆっくりと宴席を囲む場がなくなりました。
さみしいですが、しかたがありません。

・静かな幕引き・
退職まで、あと1年となりました。
失礼にならない程度に、
静かに幕引きをしたいと考えています。
本来なら、退職1年前は校務分掌も
最低限となるはずです。
諸般の事情で、役職に就くようになりました。
しかたがない事情なので引き受けましたが、
それを最後の奉公と思って、
つつがなく務められればと思っています。
サバティカル以降、少しずつですが、
定活(定年活動)を進めています。

2024年3月14日木曜日

6_209 AIで最初の星 4:銀河考古学

 最初の星に由来する元素を、AIで解析した報告がありました。太陽系近傍の若い星には、複数の星に由来する元素が用いられていました。これは、銀河、宇宙の形成の時空間へ、情報を与えることになりそうです。


 観測で調べた若い星の元素組成を、AIで解析した報告がなされました。すると、ひとつの最初の星に由来する元素からだけではなく、複数の星に由来することがわかってきました。この結果は、どのような意味があるのでしょうか。
 星は、形成場の周辺に存在している元素が素材になります。今回の報告では、若い星の形成場には、いくつもの最初の星に由来する元素がありました。形成場は、複数の星の超新星爆発が起こり、元素が混在していたことを示していました。これは、最初の星は、同時期に形成され、同時期に超新星爆発を起こしたことを意味しています。
 複数の最初の星の元素が集まっているということは、近くに最初の星がいくつも形成されていた状態、つまり星団となっていたと考えられます。これは、宇宙創成期に、星の形成場では、星の分布が不均質だった可能性を示していそうです。
 最初の星の様子を、形成時期だけでなく位置関係も推定させることになってきました。これらの内容は、最初の星の誕生のシナリオでも考えられていましたが、今回の報告で、その証拠が示され、定量化もできたことになります。
 さらに、超新星の元素合成であらゆる可能性での元素組成をシミュレーションして、AIに学習させました。その学習結果を、現実の観測値このような過去の星「最初の星」の様子を推定に利用するというアイディアは素晴らしいものでした。そして、太陽系近傍の星に適用してえられた結果は、今後、全宇宙の適用していく時の重要な作業仮説にできます。
 このような研究手法は、過去の銀河や恒星の探査は「銀河考古学」と呼ばれています。銀河考古科学には、星の元素の特徴を用いて調べるほかにも、星の分布、星の運動などを用いても研究が進められています。近年、観測衛星の高精度のデータから、星の固有運動を正確に決定できるようになってきました。星の運動を用いる研究も、進められています。
 太陽系の近くの恒星から、古い銀河、宇宙開闢の様子を探ろうとするアイディアは面白いですね。

・マスク・
集中講義が終わり、3月のバタバタも
これで一段落となります。
今週末には、学位記授与式がおこなわれます。
コロナ禍以来、やっと通常の学位記授与式となります。
まだ教職員にも学生にも
マスクをしている人が、まだ何割かいます。
そのため、素顔を覚えることなく
卒業していく学生もいます。
街で素顔の卒業生とすれ違っても
見分けがつかないかもしれません。

・定活・
今年から、かつての状態に戻り
全学の卒業を祝う会がおこなわれます。
今年からゼミを持たなくなったので、
身近な学生との懇親会がなくなりました。
コロナ禍が終わって、やっと学生との
宴会ができる状態になったのですが
学生との飲み会ができないのが残念です。
まあ、定活(定年退職に向けての準備)と思って
少しずつ、変化に慣れていきましょう。

2024年3月7日木曜日

6_208 AIで最初の星 3:スペクトル分析

 恒星の元素組成は、光のスペクトル分析で調べることができます。最初の星の超新星爆発で形成される元素組成は、理論から推定することができます。両者を、AIを用いて解析することで、新しいことがわかってきました。


 恒星の元素組成は、どうして知ることができるのでしょうか。恒星の光の観測から推定できます。私たちの太陽も同じ方法で調べることができます。
 太陽を例にしましょう。太陽からでている光を、プリズムを通すと波長ごとに分けることができます。その様子を詳しくみていくと、明るい線や暗い線がたくさん見つかりました。
 明るい線(輝線)は、太陽の内側で輝いているところに多くある元素が出している光で、その波長の特徴を示しています。一方、暗い線(暗線)は、太陽が出している光が、外側の大気中にある元素に、吸収された光の波長の特徴を示しています。光の波長ごとの特徴から、恒星(太陽)の元素組成を知ることができます。
 このような方法をスペクトル分析といいます。遠くの星のスペクトル分析ができれば、その元素組成も調べることができます。これは恒星の観測データから、その星の元素組成が決めることを意味しています。
 一方、最初の星の内部の核融合のプロセスが理論的に計算できます。同様に、超新星爆発で合成される元素組成の計算もできます。こちらは理論的に最初の星の元素組成を想定することができます。ただし、最初の星のサイズが異なれば、元素組成も異なってきます。
 二代目の星は、最初の星とその超新星爆発で形成された元素組成と、周辺のビックバンでできた元素からできるはずです。何代目がわからないとして、重い元素の少なければ、若い星とみなせます。若い星の元素組成を観測して調べていきます。
 この論文の工夫された点は、最初の星の超新星爆発で形成される元素組成を、いくつものパターンを理論的に計算して、AIを用いて観測した星が、どのような組成の超新星爆発からできかを区分していったことです。
 AIの解析により、ひとつの超新星爆発の元素でできた星と、複数の超新星爆発でできた星が、区別できようにました。太陽系の近くにある462個の重い元素を含まない星を調べた結果、31.8%がひとつの星から来た元素であることがわかりました。このような星をモノエンリッチ(mono-enriched ひとつに富む)と呼んでいます。それ以外の68%ほどが、複数の超新星爆発による元素からできていることがわかってきました。このような星をマルチプリシティ(multiplicity 多元素性)と呼んでいます。
 これは、どのような意味をもっているのでしょうか。次回としましょう。

・事前指導・
現在、集中講義の最中です。
教育実習のための事前指導のための
授業となります。
ゴールデンウィーク開けから
教育実習がはじまります。
その前の準備となります。
先生として実際の授業を進めてきます。
はじめてのことなので、
なかなかうまくいかないでしょうが
実際の体験すること、
失敗することも重要です。
学ぶことが多いと思います。

・著書の執筆中・
著書の執筆を進めてみます。
当初予定より、1月ほど遅れてスタートしました。
それは、この著書に関係する
論文の草稿を執筆していたためです。
その論文や著書を書きながら
構想を深めてきました。
おかげで、これまで大学で研究してきた
いくつかのテーマがすべてつかって
総括できるような内容に発展してきました。
あとは、その内容をどこまで深めていけるかですが、
これが、なかなか難しく、頭を使う必要があります。
3月中になんとかまとめたいと考えています。

2024年2月29日木曜日

6_207 AIで最初の星 2:超金属欠乏星

 最初の星を見つけるのは難しいのですが、最初の星に近い初期の星なら、見つけられます。初期の星のデータを集めてAIに解析させることで、最初の星の様子を探ろうとしました。


 AI学習による最初の星の探査は、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の客員研究員のハートウィグ(Tilman Hartwig)さんたちの共同研究で、Astrophysical Journalという雑誌に、
論文タイトル:Machine learning detects multiplicity of the first stars in stellar archaeology data
(機械学習が恒星考古学データから最初の星の重複性を検出)
というタイトルで報告されました。
 「最初の星」とタイトルにありますが、直接観測できないので、初期の星から探ろうとするものです。重い元素は、最初の星の中と超新星爆発で合成されていきます。ですから、古い星を探して、その成分に重い元素が少ないほど、初期の星となっていきます。
 重い元素を多く含む星を種族I(population I)と呼んでいます。少ないものが種族II(population II)となります。最初の星は金属をまったく含まないので種族III(population III)と呼ばれています。前回紹介したように、種族IIIの星は見つかっていません。種族IIIに限りなく近い種族にIIの星が研究対象になります。
 そのような星は、「超金属欠乏星」と呼ばれています。これも前回のエッセイの【註】に示したように、リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれます。そのため重い元素(金属)が極端に(超)少ない(欠乏)星となります。
 重い元素の少ない星の特徴が調べられました。初期の星が、最初の星に由来する元素をもとにできていたら、最初の星の個性をもっているはずです。なぜなら、最初の星のサイズや超新星爆発の特徴により、元素組成にも特徴が現れるからです。元素組成の個性に乱れがあれば、複数、あるいは多数の最初の星の影響を受けていたことになります。
 元素組成のパターンを機械学習したAIを使って、調べていったというのが、この論文となります。その結果は、次回としましょう。

・閏年で29日・
今年は閏年で29日もあった
2月も最後となります。
2月は短く感じました。
それは、授業はなくなっていたのですが、
研究での作業が詰まっていたため、
バタバタとしていたためでしょう。
そのバタバタはまだ終わっていないのですが
充実はしています。

・集中講義・
3月上旬には、集中講義があります。
そのため、1週間、そこに忙殺されます。
学生もその間だけでなく、
準備にも時間を使います。
その相談のために研究室にもきます。
それも教育、指導になります。
熱心な学生ほど集中して準備に取り組んでいます。
ですから、手を抜くことも、
時間を惜しむことはできません。

2024年2月22日木曜日

6_206 AIによる初代星の探査 1:初代星

 いろいろな分野でAIの導入が進められています。天文学でも導入されていますが、2023年にでた論文では「最初の星」をAIで探したました。その論文を紹介していきましょう。


 「最初の星」をAIで探すという研究が報告されました。まず、「最初の星」とはどんなものがを考えておきましょう。それがわかっていないと、見つけることができません。
 「最初の星」は、「初代星」(first star)とも呼ばれていますが、宇宙ができた直後の星になります。「最初の星」は、宇宙の創成のときに存在した材料だけから作られていきます。ここでいう宇宙の創成とは、「ビックバン」のことです。
 ビックバンで形成された元素は、理論と観測でわかっています。ビッグバンで合成された元素は、水素(H)とヘリウム(He)がほとんどで、あとは少量のリチウム(Li)だけです。つまり、「最初の星」は水素とヘリウムからでできたことになります。
 天文に詳しい人であれば、太陽系の恒星(太陽)も、水素とヘリウムからできていることをご存知だと思います。しかし、太陽の構成元素を詳しくみていくと、水素とヘリウムが多いのですが、リチウムより重い元素がいろいろと見つかっています。重くなるほど量は少ないですが、明らかに太陽には存在してます。この重い元素は、ビックバンのときには存在しなかった元素です。ですから、私たちの太陽は「最初の星」ではありません。
 では、重い元素は、どうしてできるのでしょうか。恒星の中で、水素とヘリウムなどが連鎖的に核融合を起こして、鉄(Fe)までの元素ができていきます。恒星内では鉄までしかできませんが、星が一生を終えるときに起こる超新星爆発で、鉄より重い元素が形成されます。ですから、重い元素は、少なくとひとつの恒星ができて、終焉を迎えていないと形成されません。
 「最初の星」は、重い元素を含まない水素とヘリウムからだけの星だといえます。そのような星を探せばいいのです。しかし、「最初の星」は、現在のところ、どのような観測装置を使っても、まだ見つけることはできていません。小さなものは遠くにある(古い)ので暗くて見えないでしょうし、大きくて明るい星はすでに寿命が尽きているでしょう。
 最初の星がだめなら、第2世代の星を見つけることで、そこから最初の星の特徴を探ろうとしています。その手段にAIを導入したという研究が報告されました。その詳細は、次回以降としましょう。

【註】リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれるのですが、ここでは重い元素と呼ぶことにします。

・外国人観光客・
今年は2月11日まで、
札幌の雪まつりがありました。
中国の日本への旅行も解禁されていて
春節(2/10から2/17)もあったので
海外からの観光客が多くなりました。
寒い中を長時間歩いて見て回ったら
風邪を引いたことがあり懲りました。
今では、雪まつりはテレビで見るだけです。

・祝日の連休・
2月の祝日は、2回あります。
建国記念日と天皇誕生日です。
11日と23日で日程が近くなっています。
それに今年は、曜日の関係で
両方とも連休となります。
実は札幌で訪れたいところがあります。
出かける日程を連休をずらして、
平日にしました。
このエッセイの発行は
木曜日にしているので、
今日、出かけている予定です。

2024年2月15日木曜日

1_211 テクタイト 5:継続する研究

 インドチャイナイトは、非常に広範に分布しています。近年、研究が進み、形成時代や温度などの実体が、徐々に明らかになってきました。このテクタイトを形成した衝突は、生物にどのような影響を与えたのか気になります。


 インドチャイナイトでは、これまでのエッセイで、ラオス南部のボーラウェン高原に落下した隕石によるものだという報告を紹介しました。巨大なクレータができたのですが、その後、火山活動による溶岩で、クレータが埋められたということを、人工衛星からの重力や磁力のデータから示され、やっと位置が特定されました。
 他にも、インドチャイナイトに関する研究がいくつか進められています。2019年にMeteoritics & Planetary Science誌に発表されたジョーダン(Jourdan)らの共同研究による
Ultraprecise age and formation temperature of the Australasian tektites constrained by 40Ar/39Ar analyses
(40Ar/39Ar分析によるオースタラリアンテクタイトの超高精度の年代と形成温度への束縛条件)
という論文があります。
 この論文では、タイ、中国、ベトナム、オーストラリアからそれぞれ一つずつテクタイトを採取して、2つの研究所で3つの測定器を用いて、データが検証されました。加熱しながら測定するという手法でも、精度を上げるようにしました。その結果、40Ar/39Arによる年代は、78.81万年前(78.81 ± 0.28 万年前)となり、これまでより数倍の精度で年代を決めました。また、タイのテクタイトで温度推定がなされました。形成時の最低温度は、2350~3950°Cとわかってきました。
 公表時代は前後しますが、2022年の同誌に発表された論文で、千葉工業大学の多田賢弘らの共同研究による
Identification of the ejecta deposit formed by the Australasian Tektite Event at Huai Om, northeastern Thailand
(北東タイ、フアイオムでのオーストラリアンテクタイト事件による放出物堆積の特定)
という論文があります。
 この論文では、フアイオムの地質調査から、3つの放出物を含むラテライト(鉄やアルミニウムの水酸化物を多く含むサバンナや熱帯雨林に分布する土壌)層から、テクタイトを見つけています。下位には衝突時で再構成された層があり、その上に粗粒の砂とテクタイトの降下物の層ができ、もっとも上には細粒の降下物の堆積層があることを示しました。そして、それらの層には、衝突石英もあることを明らかにしました。
 他にも、テクタイトの分布範囲から、クレータのサイズを33~120kmと推定したり、イリジウム濃度から重量15億tの隕石だったという推定などもされきました。多くの研究者のさまざまな視点での研究によって、インドチャイナイトの実体が少しずつ明らかになってきました。
 隕石のサイズとしては、大絶滅を起こすほどではなかったようですが、このテクタイトの分布域の広さを見ると、その衝突の衝撃は非常に大きなものだったと想像できます。約80万年前は、原人がこの地域にもいたはずです。彼らは絶滅したのでしょうか。アフリカにしか生き残れなかったのでしょうか。ヒトの進化との関係が気になりますが、このシリーズはここまでにしましょう。

・湧き出るアイディア・
現在書いている論文に手こずっています。
来年、出版しようと考えている本の
重要な視座を決める内容なので、
重要な論文になります。
別の論文を書いている時に
新しいアイディアが浮かびました。
そのアイディアが連鎖しながら発展して
この論文の骨子へと繋がりました。
さっさと書けると思っていたのですが、
データを大量に扱い、文献を収集して内容を確認し
なければなりませんでした。
すごく手間がかかっていますが、
近いうちに粗稿ができそうです。
粗稿ができた段階で、この論文は一旦休止します。
本命の著書に執筆を急がなければなりませんので。

・分割した論文・
論文に関しての話題が続きまます。
前回投稿予定の論文は、重要な内容で
長いものになりました。
編集担当の人に相談したら、長編の論文は掲載できない。
しかし、同一著者の別の論文の掲載は可能だ。
ということなので、
いくつかに分けることにしました。
すると3編の内容に分割でき、
そのうち2編を雑誌に投稿しました。
そして残りの1編を、
別の雑誌に投稿するつもりで完成させました。
その時、上記の新たな論文のアイディアが
次々と湧いてきたのです。

2024年2月8日木曜日

1_210 テクタイト 4:地下のクレータ地形

 インドチャイナイトは広域に分布しているのに、クレータが見つかっていません。クレータ地形が地表に残されていないためです。砂漠の地下から見つかったクレータの証拠を紹介していきましょう。


 広域に分布しているテクタイト(オーストラライト、インドチャイナイト、チャイナイトなどの名称がありますが、ここではインドチャイナイトと呼びます)のクレータは見つかっていません。しかし、前回紹介したように、衝突クレータの位置が限定できたという論文が報告されました。
 この論文では、人工衛星による重力および地磁気の探査データから、中国北西部のバダイン・ジャラン砂漠に落ちたと考えました。探査データでは、地下にクレータ構造があることがわかってきました。クレータは、テクタイトの飛び散っているもっとも北の外側にあり、位置的にも合うところでした。しかし、そこは砂漠地帯なので、地形的な痕跡は残されておらず、これまで発見されなったのでしょう。
 衛星から探査されるのは、重力や磁気の平均的な値との差です。重力であれば、地下の物質の密度差があるところ、磁気であれば、通常と異なった磁気的性質の岩石の地域が検出できます。その異常の分布が、クレータの形状になっているかを探ります。表層に現れていない地下の様子を、衛星を用いて広域に探る手段にできます。
 重力では、負と正の異常の分布の状況で、位置が特定されました。ここでは、負の重力異常のところを正の異常が環状に取り囲んでいました。負の重力異常が直径50kmほどあり、その周りを正の重力異常が100kmほどで縁を囲んでいました。地形では見えない地下に、存在していたクレータを見つけたことになります。
 このような重力異常が形成された仕組みは、衝突した地点で、クレーターの中央が持ち上がり山地になります。破壊された岩石なので低密度なので、負の重量異常になったと考えられました。一方、破壊されていない元々の岩石があるところは、正の重力異常の部分となります。
 地磁気のデータでも、磁気異常が乱れているのですが、その分布がクレータの縁に沿っていることがわかり、クレータの存在を支持していました。
 今回は、地下に隠れているクレータらしきものを、探し当てたという報告でした。しかし、地形にでていませんし、シャッターコーンの存在やその分布など、直接の証拠は見つかっていません。衝突クレータだろ確定するためには、掘削などして、なんとか直接の証拠を見つけなければなりません。ただし、200mほど掘らないとわかりそうにありませんが。
 インドチャイナイトというテクタイトについては、衝突クレータがみつかっていないことから、いろいろな研究がなされてきました。次回以降は、このテクタイトについて研究を、いくつか紹介していきましょう。

・静かなキャンパス・
大学は定期試験と追試が
そして一般入試も終わりました。
外見上は一段落しているように見えます。
4年生の卒業がかかっていますので
教員には採点評価が早急に求められています。
学内の競争的資金の申請の締め切りもあります。
来年度のシラバスの作成、入力も必要になります。
入試判定、卒業、進級、資格認定の審査
などの会議も続いていきます。
大学からは、学生の姿が少なくなります。
そのため、キャンパスからは慌ただしさが消えて、
落ち着いた日々が流れていきます。

・研究に励む・
現在、論文1編と本2冊の執筆を
並行して取り組んでいます。
静かなキャンパスであることが助かります。
いろいろと校務は続くのですが、
時間的にはもっとも余裕ができる時期になります。
今年が、ライフワークをまとめる
最後のチャンスとなっています。
日々、自身が課したノルマをこなすため
あくせくと研究に励んでいます。

2024年2月1日木曜日

1_209 テクタイト 3:不明のクレータ

 テクタイトとクレータの対応できないものもあります。その中でも、もっとも広く分布しているテクタイトのクレータが見つかっていません。そのクレータ探しが進められています。


 テクタイトが見つかっていても、クレータが見つからないことがあるのを、前回、紹介しました。テクタイトの分布から、落ちた場所は、推定することができるはずです。なのに、なぜ見つからないのかが不明です。
 もし古い衝突であれば、侵食や地質変動などで消えていくこともあるかもしれません。しかし、新しい衝突であれば、その付近を探索すれば、クレータの証拠が見つかるはずです。それでも見つからないクレータがありました。
 インド洋からオーストラリア、インドネシア、東南アジア、南極大陸まで、最も広く分布しているテクタイトがあります。広域に分布しているので、各地で別の名称が付けられていました。オーストラリアではオーストラライト(Australite)、西南アジアではインドチャイナイト(Indochinite)、中国ではチャイナイト(Chinite)などと呼ばれています。しかし、そのクレータは見つかっていませんでした。
 テクタイトから、衝突の年代は79万年前だとわかっています。新しい時代の衝突なのに、クレータが見つかっていませんでした。テクタイトの分布から、アジア大陸の東部だと考えられています。このように広域にテクタイトを飛ばす衝突であれば、直径20kmのクレータができていたと推定されます。
 かなり大きなクレータができたずです。候補として、カンボジアからラオスのボーラウェン高原に分布する玄武岩台地が、その衝突の結果できたのではないかと考えられました。衝突で地殻下でマグマが発生して、溶岩層になったので、クレータが消えているのではないかとも考えられました。
 2023年、サエンスレポート誌にカリミ(Karimi)らの共同研究で、
Formation of Australasian tektites from gravity and magnetic indicators(重力および地磁気の指標によるオーストラライトの形成)
という論文が報告されました。この論文では、人工衛星からの重力と地磁気のデータを用いて、中国北西部のバダイン・ジャラン砂漠に落ちたという提案がされています。
 その詳細は次回としましょう。

・寒波・
先週の大寒波での大雪は大変でした。
交通は運休部分があり、
各地で間引き運転となっていました。
ちょうど定期試験がはじまる日にあたっており
担当の科目の試験があました。
交通障害で多くの学生が来れず、
大人数が追試を受けるのではないかと
心配になりました。
大人数になるのなら
追試も2クラスになるかもしれず、
もしそうなれば、試験問題も作り変えるつもりでした。
ところが、ほとんどの学生が出席しており
追試の受験者も少な目になりそうです。

・2月になりました・
2月になりました。
1月には大学では、いろいろな行事がありました。
後期の講義も定期試験も終わりました。
そして2月には大学入試がはじまります。
教員は監督、採点、合否判定などが続きます。
1月の正月明けから2月までは
慌ただしい日々が続きます。

2024年1月25日木曜日

1_208 テクタイト 2:クレータとの対応

 テクタイトには、いろいろな形、色、透明度などのものが見つかります。隕石ごとに、その種類や落ちた場所の特徴が異なっているためです。テクタイトには、隕石の落下位置がわかっていないものもあります。


 隕石が衝突した証拠として、隕石の破片やクレータがあれば、すぐにわかります。他にも、シャッターコーンや衝突石英、そして間接的なものとして高温高圧鉱物、特別な元素や津波堆積物や煤の層なども証拠になることを紹介しました。
 前回残していた、テクタイト(tektite)について紹介していきましょう。隕石が衝突した時、高温高圧状態が発生します。隕石と地球の岩石が溶けて、一緒になった液体が飛び散ります。溶けた液体(マグマ)が、飛んでいるうちに、冷え固まりガラス状になったものが、テクタイトになります。
 テクタイトは、成分によって黒色、緑色、黄色、茶色だったり、透明から不透明なものまで、多様なものがあります。また、液体の粘性と飛翔速度によって、形状も、ボタン型や流線型、滴状など、衝突の条件ごとに異なった見かけのものができます。
 テクタイトは、衝突地点の周辺に飛び散ります。特徴のある見かけをしているので、見つかりやすいものです。一つ見つかれば、同じような見かけをしているので、一気に多数見つかっていきます。
 テクタイトは特徴があるので、それぞれ名前がつけられています。モルダバイト、ベディアサイト、ジョージアアイト、アイボライトなどがあります。
 隕石が衝突した方向に応じて、テクタイトの飛び散る方向も決まってきます。ですから、テクタイトの分布からクレータを探すこともできます。テクタイトと対応するクレータが見つかっているものもあります。モルダバイトは1500万年前に衝突でできたドイツのリース・クレータより飛び散ったものです。ベディアサイトとジョージアアイトは、3400万年前のアメリカのチェサピーク湾クレーターから、アイボライトは100万年前のガーナのボスムツイ湖クレータに由来していることがわかっています。
 テクタイトが形成されるような隕石は、かなり大きなサイズだったはずです。衝突でできたクレータも、大きなものだったはずです。クレータが大きくなるほど、衝突の頻度は稀な現象となります。衝突も古い時代のものになります。
 また、地球は3分の2は海で、大陸でできたクレータしか見つかりません。大陸でできた古い時代の衝突のクレータは、大きくても侵食で消えていくこともあります。
 そのため、テクタイトが見つかっていても、クレータがわからないものもあります。実はもっとも広域に分布するテクタイトで、由来したクレータが見つかっていないものあります。次回としましょう。

・後期終了・
大学の今年度の後期の講義が終わり、
現在定期試験の期間に入っています。
担当の講義、2クラスで試験を実施します。
多数の学生が受けるので
採点も、なかなか大変になります。
定期試験のあとには、大学入試が続きます。
その直後には、後期の成績提出となります。
講義が終わってから、
バタバタと忙しい時期がきます。
いつものことですが。

・帰省・
次男が、現在、帰省しています。
長男は3月に帰省するはずです。
子どもたちも、
それぞれの道を進むようになっていくので、
1家4人がそろうのは、
なかなか難しくなっていきます。
これもが家族の時間変遷でしょう。
最後には、夫婦ふたりの生活が基本となってきます。
それに備えて、生活ルーティンや人生設計を
進めていくしかないでしょうね。

2024年1月18日木曜日

1_207 テクタイト 1:衝突の証拠

 隕石の衝突によって、地球表層では、いろいろな現象や変化が起こります。隕石が見つかる場合もありますが、大きな衝突ほど、隕石は見つかりません。それでも、衝突の証拠は残されています。


 隕石の落下は、そのサイズを問わなければ、常時至る所で起こっています。しかし、大きな隕石ほど衝突でなくなっていったり、古い隕石ほど風化な埋没などで分からなくなっていきます。
 隕石本体が見つかっていなくても、落下した証拠が見つかることがあります。一番わかりやすいものとして、クレータがあります。クレーターが見つかれば、隕石がなくても、衝突があったことがわかります。
 他にも衝突の証拠はあります。テクタイトやシャッターコーン、衝突石英などがあります。他にも、間接的ですが、高温高圧鉱物(コーサイト、スティショバイト、ダイヤモンドなど)、特別な元素(イリジウム)や津波堆積物や煤(すす)の層などもあります。
 聞き慣れないものが、いろいろ出てきましたので、説明していきましょう。テクタイトは、今回のテーマなのであとで説明することにして、それ以外のものについて、紹介しておきましょう。
 シャッターコーン(shatter cone)とは、隕石が衝突した時、周辺の岩石を衝撃波が通り抜けて、その模様が残された岩石のことです。溝は、円錐状の細いスジになっています。衝突の中心から放射状にできます。シャッターコーンのスジから、衝突の位置が推定できます。どのような岩石でも衝撃波は通り抜けますが、細粒で緻密な岩石に残されています。大規模な核爆発の際にも、形成されることがわかっています。
 衝突石英とは、もともとあった岩石中の石英が、衝撃による圧力で結晶構造が変形したものです。特殊な顕微鏡(偏光顕微鏡)てみると、特異な縞模様となって現れます。
 高温高圧鉱物とは、衝突時に瞬間的ですが高温高圧条件が生まれ、その時変成作用が起こります。他の変成作用と比べても、異なっているので、衝突変成作用とも呼ばれます。大きなクレータの内部などで、石英の高温高圧鉱物のコーサイト(1960年にアメリカのバリンジャー・クレーターから発見)やスティショバイト(1962年に同じくバリンジャー・クレータから発見)、石墨の高温高圧鉱物のダイヤモンド(1972年にロシアのポピガイ・クレーターから発見)などができています。
 特別な元素として、イリジウム(Ir)が有名です。白亜紀の終わりに恐竜などの大絶滅が隕石によるものだと知られれています。隕石の衝突の証拠になったのが、イリジウムでした。地球表層には稀な元素ですが、隕石には多く含まれていることから、衝突の証拠となった元素です。
 津波堆積物や煤の層は、隕石の衝突によって起こった巨大津波や大規模火災によって形成されたものが、地層となるほどの量あったことになります。だたし、津波も火災も他でも起こる現象なので、他の証拠がないと隕石衝突と結びつけるのは困難です。
 さて、テクタイトですが、少々長くなってきたので、次回としましょう。

・共通テスト・
多くの大学で実施されていた
大学共通テストは無事終わりました。
監督する側としては一安心です。
一般入試を受ける受験生は、
これからが本番となります。
我が大学も、2月に入試があります。
一年で一番寒い時期の入試は
北国では雪や暴風の危険性が常にあります。
公共の乗り物を基準にしていますので
遅延や運休があると、
配慮しなければなりません。
コロナ罹患や今回の能登地震への対応と同じように
代替の試験準備しておかなければなりません。
なかなか大変ですが、配慮すべき事態なので
致し方がありません。
試験時期が、冬場でなければ、
トラブルは少なくなるのでしょうが。
夏の新学期制度は、すべての教育機関で
進まなければならないので
なかなか難しいでしょうね。

・大学入試・
一般入試までの期間に、
大学での後期の講義が終わります。
その後、定期試験も終わっています。
そして、大学も受験生も
いよいよ入試態勢へとなっていきます。
受験生は、合格すると一過性のイベントになりますが、
大学では、毎年の年中行事になります。
大変ですが、重要な行事なので、
かなり前から準備をしていきます。

2024年1月11日木曜日

2_218 生命誕生の条件 13:多数の試行錯誤で

 いよいよ、長かった本シリーズも最後となりました。今回は2つ目の疑問への解決案を考えていきましょう。冥王代だから、ありえる考え方となっています。そんな解決策に納得できるでしょうか。


 生命誕生の条件における疑問の2つ目です。生命の誕生にかけられる時間が短すぎる点です。これまで述べてきたシリーズの復習にもなります。
 水や大気が形成され、ハビタブルトリニティが整うのは、後期重爆撃が落ち着く42億年前だと考えられます。また、41億年前には生命の痕跡(化学化石)が見つかっています。これらがの年代が正しければ、1、2億年ほどの期間で、生命が誕生することになります。条件が整えば、短期間に生命が誕生していくような時間に思えます。
 これまで述べてきたように、生命に必要な化合物を合成するための条件がわかってきました。その条件は多様で、プロセスも複雑なことがわかってきました。化合物の合成には、非常に多く環境や条件で、多数の試行錯誤が必要だったはずです。その試行錯誤を、長くても2億年ほどの期間で進めていかなければなりません。
 プロセスの複雑さを考えると、短期間に生命合成にたどり着くには、非常に困難に見えます。克服するためには、非常に多くの試行を繰り返す必要があるはずです。生命誕生においては、多数の環境で多様な条件があり、そこに多数の試行がなされなければなりません。多数の環境や条件は、どのようにしてできたのでしょうか。
 天然の原子炉説が、合成場として有効だと紹介していきました。天然の原子炉では、放射性元素の235Uが使われています。235Uは超新星爆発で形成された元素で、太陽系にもともとあった元素で、その後は崩壊していきます。半減期が7億年なので、冥王代には現在よりもっと多く(30倍以上)あったはずです。
 そして、ウランは固相に入りにくい元素なので、マグマオーシャンができて、固化する時に表層の大陸地殻に集まる元素です。また、ウラン鉱物は隕石からも供給されます。そのため、冥王代の表層にはウランが多くあったはずです。
 後期重爆撃で揮発成分が供給され、海ができ、大気、大地で水が循環しだすと、水に溶けやすいウランが移動し、地層中への濃集が起こり、天然の原子炉ができる条件が整います。冥王代には、大陸地殻の地下に多数の原子炉ができたと考えれます。
 原子炉で、多様な化合物が合成されます。地表では、大きな大陸はまだ少なく、多数の列島のサイズの陸地だったと考えられ、火山活動も活発な多様な環境ができていました。そこに間欠泉から吹き出された化学合成された多様な分子を含む溶液が流れ出します。多様な環境に溶液がもたされ、新たに化合物ができ、付け加わっていきます。その一部は、地下水となって、再度、別の原子炉に入ってきます。そんか繰り返しが、陸地周辺で繰り返されます。
 冥王代固有の多数の原子炉と、地表の多様な環境で、化合物の合成と循環が継続され、多数の試行錯誤が、同時並行してなされます。その結果、1、2億年ほどの短期間で、最初の生命が誕生したと考えられます。
 長いシリーズで、生命合成に関する新しい考え方を導入しながら、生命誕の条件を見てきました。天然の原子炉という少々奇異なシステムを想定した仮説を紹介しました。近年の多くの成果が盛り込まれた仮説です。今後も検証、修正作業が続いていくでしょう。

・新しい仮説の評価・
最後にこの仮説の感想を述べておきましょう。
天然の原子炉と間欠泉の仮説をみたときは、
あまりにも荒唐無稽に思えました。
20億年前の天然の原子炉であるオクロの存在は
以前から知っていました。
現在には存在しない天然の原子炉を冥王代に想定して
仮説が組み立てられています。
本当に妥当だろうかという疑問も持ちました。
新しい科学的仮説ですから、
これまでの問題点や課題を克服して
なおかつ利点をもったものになっています。
心理的に受け入れがたくとも
理性的に科学的に判断していくべきでしょう。
この仮説に関する論文を
いくつも精読していくと、
だんだんと納得できるようになってきました。
今後、この仮説の問題点を議論し、
それが仮説内で解決できるかどうかを
繰り返していくことになります。
このような議論を重ねていくことが、
もっとも科学的姿勢でしょう。

・充実した冬休み・
今年の大学の冬期休業の期間は、
月曜日の8日が祝日になっているので、
通常の正月休みより長くなっていました。
9日から講義が再開しました。
正月の三ヶ日は休みましたが、
年末も大晦日まで、正月も4日から、
いつものように大学にでていました。
その間、大学は静かなので、研究がはかどりました。
おかげで、論文の粗稿が、なんとか完成しました。
あとは推敲を重ねていくだけです。

2024年1月4日木曜日

2_217 生命誕生の条件 12:構造侵食

 明けましておめでとうございます。正月早々ですが、昨年まで連載していた、途中であったシリーズ「生命誕生の条件」を続けていきましょう。長くなっているのですが、あと2回で終わる予定です。


 「生命誕生の条件」のシリーズで、生命合成のためには、天然の原子炉と間欠泉というモデルが、現在有力だと紹介してきました。しかし、そこには大きな疑問も2つありました。その1つ目の疑問が、冥王代の年代の砕屑性ジルコンは残っているのに、なぜ岩石が残っていないのか、というものでした。
 鉱物が存在しているということは、冥王代にはマグマができ火成作用が起こって固まり、岩石になった過程があったことになります。間接的ですが、地殻があったことになります。ところが、40億年前より古い岩石は見つかっていません。証拠のない時代「冥王代」との定義通りの時代となります。
 原因のひとつには、古い証拠ほど残りにくくなるという「時間の淘汰」があります。砕屑粒子は残っているのが岩石がないのは、なんらかの作用や原因があったのではないかと考えられます。
 ふたつの要因が考えられています。ひとつは後期重爆撃で、もうひとつが構造侵食です。
 後期重爆撃は、地球に揮発成分をもたらす現象でした。それ以前の地球は、揮発成分がない状態で、硬い地殻が、厚く覆った状態でした(スタグナントリッドテクトニクス stagnant lid tectonics と呼ばれています)。プレートテクトニクスは機能せず、大きな変動はなく、火山が噴出するだけの状態だったと考えられます。
 しかし、43.7~42.0億年前にかけて、大量の隕石の爆撃が起こります。小惑星帯や木星のあたりの軌道から、小天体や隕石が大量に飛んできて、地球に衝突します。厚い地殻が破壊され、揮発成分がマントルへ追加されることで、地球に大きな変化が起こります。
 後期重爆撃で多数のクレータができ、地球の岩石は破壊され飛び散り、時には岩石を溶かしてマグマができます。激しい衝突で、地球の岩石が大半が破壊されたと考えられます。月では、表層はレゴリスと呼ばれる、破砕された礫や砂のようなもので覆われています。レゴリスは、重爆撃で形成されたものがあります。隕石が地球の公転軌道の外側から来ても、地球は自転しているので、表層の岩石が、万遍なく破壊されていきます。表層はレゴリスで覆われ、岩石は破壊され、表面からはなくなっていた状態だと考えらます。ですから、海や大気だできても、堆積作用で移動するのは砕屑性の礫や砂だったのでしょう。
 衝突で揮発成分がマントルにも加わります。するとマントルの流動性が大きくなって、マントル対流が起こります。流動性の増加とともに、対流は大きくなり、やがて破壊された地表付近まで達します。プレートテクトニクスがはじまり、表層でプレート運動が起こります。
 海洋プレートが形成され、沈み込みもはじまります。この時、構造侵食として、地表にあった冥王代の地殻の岩石の大半が、マントルに持ち込まれていきます。その結果、冥王代の岩石の痕跡がなくなったと考えられます。
 残っていたとしても、レゴリスとして砕屑物だったのでしょう。これが、冥王代の岩石が残っておらず、砕屑性ジルコンは残っている理由ではないかと考えられます。

・新鮮な気持ちの正月・
COVID-19の感染対応も消えて
久しぶりに普通の正月を
迎えることができました。
初詣も、正月の買い物も、
マスクなしに、出かけることができます。
4年前には当たり前であったことが
3年間、当たり前ではなくなりました。
そして以前の日常がもってきました。
新鮮な気持ちで正月を迎えられます。

・大学の日常・
大学の1月の講義の再開は、
土日祝日の関係で9日(火)からです。
13、14日は大学入学共通テスト
この日には、行事もあり、飲み会もあり、
忙しい一日になります。
こような忙しさも、大学に日常が
戻ってきた証拠でしょう。
大変ですが、味わっていきましょう。