2018年12月20日木曜日

2_165 絶滅からの復活 3:厚いK-Pg境界の層

 これまで見つかっているK-Pg境界は、薄い層しかありません。短期間に一気に堆積しているので、時間経過の記録はほどんどありません。今回の試料は、厚くいろいろな記録が残っていました。

【訂正】前回のエッセイで、「K-Pg境界の衝突の堆積物は、ほんの数mmでした」と書いたのですが、「数10cm」の間違いでした。「数mm」は他地域の層厚でした。この地域ではもっと厚くなっています。訂正してお詫びします。

 メキシコのユカタン半島沖の、Site M0077と呼ばれる海底で、ボーリングされたコアによる研究がなされました。研究対象にされたのは、144cm分のコア(core 40 section 1)でした。以下で示す「長さ」は、コアの上部からの深度を意味しています。
 深度110cmまでは、スエバイト(suevite)と呼ばれる岩石でした。スエバイトとは、一部溶けた物質を含んだ岩石で、衝突によってできたものです。灰色の岩石で、上方に向かって細粒化しています。級化組織とよばれるもので、一度の堆積作用により、粗いものから細かいものまで溜まったようです。で、110cmから34cmまでの76cm分は、「遷移帯」と名付けられ、上方に細粒化した褐色で細粒の石灰岩(微晶質方解石質石灰岩、micritic limestone)になっています。ここにも級化組織が見られます。34cmから0cmまでは、まだら状の模様をもった白色の半遠洋性石灰岩となっています。
 この遷移帯が重要なので、詳しく見ていきましょう。遷移帯の下部(110cmから54cmまで)は、明瞭な層構造(葉理と呼ばれます)があり、化石をほとんど含みません。これは、津波や数日後の余波の波の力による底層流によるものだと考えられています。上部は、隕石の破片、微化石(Planolites)や生痕化石(Palaeophycus)を含んでいます。
 遷移帯から上部の半遠洋性石灰岩は、プランクトンを含んでいるので、時代を決めることができます。この石灰岩の最下部から、衝突後、3万年後くらいたった年代の化石が見つかっています。34cm以浅では、通常のプランクトンが復活しています。3万年後には、生態系が復活しているようです。
 世界各地のK-Pg境界の地層の厚さは、数mm程度ほどしかなく、しかも地層として成層しているわけでもなく、時間変遷を調べることができところがほとんのようです。それに対して、今回、ボーリングがおこなわれたグランド・ゼロでは、スエバイトと76cm分の遷移帯(34cmまで)までが、K-Pg境界時に形成されたと考えられます。スエバイトも遷移帯も級化組織があるので、衝突による直接の擾乱による堆積作用と、その直後に起こった堆積作用という2度の記録を残していると考えられます。短期間に堆積したものですが、時間経過を記録しているとみなせます。この地層を詳しく調べると、衝突その直後の様子がわかりそうです。
 そこからわかったことは、次回としましょう。

・寒暖差・
週の後半から週末にかけて大雪になりました。
ところが、週初めに雨となりました。
雪が残っているところに雨だったので、
道路が非常に滑りやすく、何度がすべってしまい
歩くのが怖いほどでした。
今年は本当に気温の変化が激しいようです。

・年末には・
わが大学の講義は今週で終わりです。
その後は祝日を挟んで補講日が続くのですが、
実質的な講義は、今週までなので一段落です。
私は、年末をあまり気にしないで、
通常通り仕事をしていく予定です。
長男は帰省しないようですので、
一人少ない家族での年越しとなります。

2018年12月13日木曜日

2_164 絶滅からの復活 2:生態系の回復

 K-Pg境界の大絶滅は、絶滅のシナリオについての議論は多くあるのですが、生態系の回復過程については、あまり多くは語られていません。今回の報告は、生態系の回復についての報告となっています。

 K-Pg境界の大絶滅については、このエッセイもで、何度か紹介したことがありました。今回のエッセイは、その後の生態系の回復についての報告の紹介でした。
 生物の絶滅、それも大絶滅を起こすには、ある一定の期間、異変が継続する必要があるはずです。動物だけでなく、植物も大絶滅しています。植物は種子で少々の期間であれば環境異変をやりすごすことができます。すぐに異変が終わり、環境が復元すれば、種子が発芽できるので回復できてしまいます。ですから、多くの植物種までも大絶滅するには、種子も発芽できずに、死に絶えるような影響が、一定期間継続している必要があります。
 原因となる衝突は一瞬のできごとでしたから、そこから引き続き起こされた現象が、継続したり連鎖したりするような絶滅シシナリオが必要になります。多くのシナリオでは、そのような長期の影響を想定していました。
 さて、絶滅からの生態系の回復は、地域によって差が生じたと考えられていました。特にグランド・ゼロ周辺では、生態系の回復も遅れたと考えられています。なぜなら、激しい衝突で発生した熱によって、大規模な熱水活動も起こり、重金属などの有害成分が海洋中への大量に放出されました。それに、なんといっても、直接、生態系が完全に破壊されたため、回復が遅れたと考えられています。
 隕石衝突のグランド・ゼロでは、直径200kmほどのクレーターができました。生態系の完全な壊滅によって、クレーター内では特に生態系の回復が遅れたと考えられています。クレーター内でもとのような生態系が回復するには、30万年ほどの期間が必要だったとされています。
 今回の報告は、生態系の回復に新しい解釈を示したものでした。その対象とした地域がグランド・ゼロ地点でした。もし、グランド・ゼロでの回復期間が推定できれば、他の地域では、それよりもっと早く回復したと考えられます。
 今回の報告は、グランド・ゼロでの地質調査に基づくものです。衝突地点は、海なので、国際深海科学掘削計画(IODP)で海底のボーリングがなされました。メキシコのユカタン半島北部の沖あいで、800mのコアが掘られました。そこから、K-Pg境界をまたいで1mのコアを詳しく調べられました。コアのデータから、生物の回復を期間を探ろうというものでした。K-Pg境界の衝突の堆積物は、ほんの数mmでした。そしてそれより上の数日から数年分の堆積物から、海底環境の変化を探ることになりました。その詳細は、次回としましょう。

・厳冬期仕様・
北海道では、何度かの寒波の襲来がありました。
間に非常に暖かい時期もありましたが、
大雪が降って、真っ白な冬景色になりました。
何度か除雪も入りました。
私も完全な厳冬期仕様になっています。
今年は、少々、遅めの白銀の世界でしたが、
北海道らしい冬到来となりました。

・来年に向けて・
大学は来週でレギュラーの講義が終わり、
それ以降は補講の期間、そして冬休みとなります。
推薦入試も終わり
1月のセンター試験と一般入試に向けて
ちゃくちゃくと準備が進んでいます。
もちろん試験を実施する大学では
教職員ともども、その準備が行われていきます。
師走ですが、来年に向けて準備が進んでいます。

2018年12月6日木曜日

2_163 絶滅からの復活 1:グランド・ゼロ

 白亜紀末の恐竜の絶滅は、地球の歴史、生命の歴史において、大きな事件でした。事件のあったことは、多くの証拠から検証されています。しかし、絶滅に至るシナリオ、絶滅からの復活のシナリオは、まだ十分ではありません。

 白亜紀末、K-Pg境界と呼ばれる時代の恐竜絶滅の事件は、多くの人がよく知るものになっています。それは長年かかって、研究者たちが作り上げ、普及してきた結果でもあります。恐竜だけでなく、その時生きていた生物も同時にたくさん絶滅したこともご存知だと思います。生物の絶滅率は、約76%に達したと考えられています。絶滅率とは、個体数ではなく、生物種が76%と絶滅したいうものなので、非常に大変な絶滅になります。
 絶滅の直接の原因が、隕石の衝突によるものであることも、よく知られていることでしょう。衝突した隕石は、直径10kmほどで、メキシコのユカタン半島の北の海に落ちました。その衝突によって、激しい衝撃波、さまざまな放出物(高温高圧で変形したり、変成したり、溶けたりしたものも含みます)、想像を絶する大津波など、人類がこれまで経験したことのないスケールの現象が、いろいろと起こりました。もちろん、衝突とその時の激しい現象から派生したさまざまな異変、例えば大規模な森林火災(日本でもススの地層が見つかっています)や酸性雨、太陽光の遮蔽(長期の暗闇)など短期の異変から、長期におよぶ気候変動など、さまざまな時間スケールの異変があったと考えられています。
 絶滅は、陸だけでなく海でも、また他の大陸でも起こっているので、さまざまな場や環境へ、それも広域にダメージが及んでいます。絶滅の原因が隕石の衝突という瞬間的な事件なので、地球史的には短期間に激しい天変地異があったことが伺われます。非常に興味の湧くテーマですが、そのシナリオはまだ完成していません。
 さて、今回紹介するのは、絶滅のシナリオではなく、絶滅からの生物種の復活に関する新しい見解です。論文は、今年の5月に権威のある科学雑誌、Nature(オンライン版)に報告されました。論文のタイトルは、
Rapid recovery of life at ground zero of the end Cretaceous mass extinction
(白亜紀末のグランド・ゼロでの生命の急激に復活)
というものでした。
 グランド・ゼロという言葉は、2011年のアメリカ同時多発テロ事件、9.11で倒壊したワールド・トレード・センターの跡地をそう呼んだので有名になりました。しかし、もともとは英語で、爆心地を意味する言葉です。特に、核兵器(原子爆弾や水素爆弾)など、巨大な爆弾による爆心地をいうことが多いようです。広島と長崎の爆心地も、グランド・ゼロと呼ばれています。K^Pg境界の衝突の爆心地も、グランド・ゼロとなります。
 グランド・ゼロで、生物が急速に復活しているという報告でした。詳細は次回以降としましょう。

・K-Pg境界・
K-Pg境界は、もともとはK-T境界と呼ばれていました。
しかし、地質学の学界で、時代名称として
第三紀(Tertiary)が使わないという決定がでました。
第三紀が消え、古第三紀と新第三紀に区分されました。
そのため、K-T境界は、
白亜紀(Cretaceous)-古第三紀(Paleogene)となり、
現在では、K-Pg境界と専門家では呼ぶようになりました。
まだ普及していないかもしれませんが、
専門家はこの時代名称を使い続けていく必要があります。
根気強く使い続けていれば、隕石による恐竜絶滅のように
やかがては、市民に普及していくはずです。
本当は、恐竜絶滅の時にK-Pg境界を
使っていればよかったのですが・・・。

・冬への身構え・
今年の北海道は、冬の到来が遅かった分、
寒さへの体の対応も少々遅れ気味です。
初冠雪や里への初雪で、冬の到来を感じます。
ただし、体の方は、少々鈍感で、
寒波が来ると体にも冬の到来が伝わるようです。
ですが、何度か積雪、そして何度かの寒波がありました。
冬が到来したことを、体も理解したようです。
寒さに対して、心構えと身構えもできました。