2022年8月25日木曜日

3_199 海と大気の起源 2:成分の枯渇

 地球の大気は、地球の材料と考えられる炭素質コンドライトから由来していると考えられています。両者には少々異なる点が見つかっています。その相違点を、どう解消していけばいいのでしょうか。


 炭素質コンドライトは、現在の小惑星帯にも似たタイプのものがあると考えられています。小惑星の太陽光の反射スペクトルを分析し、隕石の分析とを比べると、判定できます。炭素質コンドライトからできている小惑星は「C型」と呼ばれています。
 隕石にはいろいろな種類がありますが、コンドライトと呼ばれるタイプがもっとも多くみられます(80~90%の頻度)。炭素質コンドライトは、文字通りコンドライトに属していて、隕石全体で占める頻度は4~2%となっています。
 炭素質コンドライトに含まれているガスになる成分(揮発成分と呼ばれます)は、ばらつきはありますが、20~1重量%ほどになります。大気の主成分の窒素と、昔の大気の成分である二酸化炭素、また海洋の主成分となる水が、炭素質コンドライトには含まれています。炭素質コンドライトの隕石の中の頻度としては、少ないように思えますが、揮発成分として放出されると、十分な量となります。
 炭素質コンドライトの成分と、現在の地球の大気と海洋のものが、一致していることになります。成分はいずでも存在しているのですが、詳しく見ると、少々比率が異なっていることがわかっています。前回、紹介しましたが、困ったこととはこの比率です。
 炭素質コンドライトに比べて、地球の大気と海洋は、窒素、炭素(二酸化炭素ではなく炭素で比べています)、水素の順に、より欠乏しています。ここでいう欠乏とは、隕石と比べて、地球の成分比が小さくなっていることを意味しています。このような状態を枯渇と呼んでいます。これが難点です。
 地球初期の状態を、シミュレーションすることで、この難点を説明しようとする研究が報告されました。
 2021年、東京工業大学の櫻庭さんたちの共同研究でScientific Reports誌に
Numerous chondritic impactors and oxidized magma ocean set Earth's volatile depletion
(多数のコンドライトの衝突と酸化されたマグマオーシャンが地球の揮発成分の枯渇を起こした)
という報告をしました。この詳細は次回としましょう。

・集中講義・
今週は、大学の前期に区分される集中講義の時期です。
担当している講義があります。
今年は暑くなさそうなので助かります。
パソコンで資料を示すとき、暗くするため、
カーテンだけでなく窓も閉めなければなりません。
ここ数年で、大学には各教室にエアコンが入ったので
暑さへの対処は、考えなくてもよくなりました。

・バタバタ・
今週から慌ただしくなります。
集中講義のあと週末には、
校務で1泊の出張があります。
翌月曜日は、大学に出ますが、
午前中は整備のために、全学停電となっています。
通常の作業がなかなかできないので困ります。
火曜日からは、出張指導ため、1泊します。
その後、3泊の研究出張を連続していきます。
9月の最初の土曜日には戻ってきます。
次の週には、市内でまた出張指導があります。
8月下旬から9月初旬までバタバタしています。

2022年8月18日木曜日

3_198 海と大気の起源 1:炭素質コンドライト

 地球の大気と海洋は、地球固有のものです。海が表層にあるのは地球だけで、大気も、酸素が多い、固有のものになっています。このような表層環境は、どのようにしてできたのでしょうか。新たな報告が出されました。


 地球の表面には、海があります。これは、太陽系において地球には、海が存在できる特別な条件があるためです。
 液体のH2O、水が存在できる条件領域を、ハビタブルゾーンと呼びます。ハビタブルゾーンの外側、太陽より遠い側では、温度が低くなるため、水は氷になります。大気中の水蒸気も凍ってしまい、大気からなくなっていきます。もしH2Oの量が多ければ、表面はすべて氷で覆われ、白くなります。天体の反射条件をアルベドといいますが、白い氷の表面はアルベドが大きくなり、太陽光を反射して、表層を温めるエネルギーとして使われません。そうなると、もっとも寒い状態にまで行き着き、氷惑星となります。
 火星より外側では、このような条件になります。火星はハビタブルゾーンにあったのですが、天体のサイズも質量も小さかったので、時間経過ととも大気が薄くなり、温室効果が弱まっていきました。大気がありますが、海洋がない状態になっています。
 ハビタブルゾーンより太陽に近くなると、太陽からの放射エネルギーが多くなり、気温が高くなり、暑くなっていきます。水は水蒸気になります。水蒸気は温暖化効果ガスでもあるので、水蒸気が増えると温暖化が一気に進み「暴走温暖化」と呼ばれる状態になります。暴走温暖化は、天体表面の水がなくなるまで続きます。金星はこの状態になってしまいました。
 ハビタブルゾーンで、地球に現在も水が存在しているのは、説明できました。では、そもそも地球に、水が存在するのはなぜでしょうか。水がどこから由来したのでしょうか。
 その説明として、地球の材料に、水や大気の成分が含まれていたことを、このエッセイでも紹介してきました。隕石の一種に、水や炭素などを多く含むタイプとして、炭素質コンドライトがあります。それが材料としてあれば、大気や海洋の成分となります。
 しかし、炭素質コンドライトから、大気や海洋ができたとすると、少々困ることがありました。その説明は次回としましょう。

・静かな大学・
我が家は、夫婦二人なので
お盆でもいつもと変わらない生活をしていました。
毎日、大学に出ていました。
盆と正月が、一番静かな時期になります。
追試とその採点評価、4年生の卒業研究の添削など
大学でもいつもと変わらない状態でした。
お盆は、大学も出入りできなくなります。
しかし、守衛口で記名すれば、入構できます。
ただし、設備工事は進行中ですが。

・帰省ラッシュ・
台風の前後に、各地の大雨が降りました。
私の地域では、激しい雨は降りましたが、
被害がでるほどではありませんでした。
コロナによる規制がない状態でしたので
お盆で帰省ラッシュが、各地で報告されました。
帰省の人たちには、大雨の影響がでたのでしょうか。
このエッセイは、15日に投稿していますので
様子が把握できていませんが、無事を願っています。

2022年8月4日木曜日

5_199 小惑星の有機物 7:隕石の核酸

 次の話題は、「隕石」からの有機物の発見となります。素材は、隕石なので、由来もリュウグウとは違っています。見つかった成分は違うものですが、関連がありそうです。


 次の話題は、はやぶさ2が持って帰ったリュウグウの試料とは異なった材料を用いています。中村さんたちの報告(2022年6月10日)より少し前に発表された論文でした。2022年4月のNature Communications誌で公表されたもので、
 Identifying the wide diversity of extraterrestrial purine and pyrimidine nucleobases in carbonaceous meteorites
 (炭素質隕石中の地球外のプリン、ピリミジンの核酸塩基の大きな多様性の発見)
というタイトルで、北大低温研究所の大場康弘さんと共同研究者によるものです。
 この研究では、炭素質隕石として、マーチソン隕石(Murchison)、タギッシュレイク隕石(Tagish Lake)、マレー隕石(Murray)の3つを用いて分析しています。
 これらの隕石すべてから、18種の核酸塩基が検出されました。このうち、隕石からはじめて見つかったものが、10種類も含まれています。核酸塩基以外の窒素化合物も含めて、20種類が検出されています。
 非常に微量の成分を検出し同定する技術となっています。速液体クロマトグラフィー/電子スプレーイオン化/超高分解能質量分析法というものです。隕石1g当たり72ngという微量の分析をしています。
 さて、核酸塩基とは、生物のDNAやRNAの材料となっているもので、ウラシル、シトシン、チミン、アデニン、グアニンのうち4種類が使われています。シトシンとグアニンがペアに、またDNAではアデニンとチミンが、RNAではアデニンとウラシルがペアになり、二重らせんの構造をつくります。いずれも遺伝や生物の基本的設計となる成分です。
 これら5種の核酸塩基も検出されたものの中に含まれていました。これまで、核酸塩基のうち3種までは発見されたことがあります。5種が同時に発見されたことはなく、はじめてのことでした。
 論文のタイトルにあった、プリンとピリジンはいずれも核酸の構成成分となっているとともに、誘導体として核酸をつくりだすのに、重要な役割も果たしています。プリンはアデニンとグアニンの、ピリジンはシトシン、ウラシル、チミンの重要な誘導体とともに構成物となっています。これらの化合物が見つかったということは、核酸の形成が、その場で起こっていたことを意味しています。
 その詳細は次回とします。

・定期試験週間・
8月になりました。
わが大学では、これまで順次、
教室にエアコンが設置されてきました。
今週は、試験週間になっていますが、
暑ければエアコンをつけることができます。
コロナ感染対策で教室内では
常時マスク着用と換気が義務付けれています。
マスクでも、暑い時期でも、
集中して試験に望めようになっています。

・蒸し暑い日々・
北海道は7月末から暑くなってきました。
今年は、湿度も高くて蒸し暑いので
過ごしにくい日々になっています。
ただ、朝夕には涼しくなってくるので
自宅はエアコンがないのですが
なんとか耐えられています。
ただ、寝る部屋は風が通りにくいので
窓を開けていても、寝苦しい夜もあるので
寝不足になる日もあります。