2008年1月31日木曜日

2_63 オスとメス4:接合という戦略

 オスとメスについてみていますが、その起源を化石に直接に当たる前に、もう少し、生殖の戦略を見てきましょう。

 動物のオスとメスを中心に有性生殖を見てきましたが、詳しく見ると2つの戦略があります。
 今まで述べてきたのは、人間のようにオスとメスがはっきりしていて、メスの体内で受精をしていくものを意識していました。これを、体内受精と呼びます。体内受精をする生物には、哺乳類だけでなく、鳥類もいます。哺乳類や鳥類は、受精した卵を体内もしく親が育てますから、かなり確実で受精卵を孵化させ、子供を成長させることができます。子孫を残すためには、効率の良い方法です。
 爬虫類や両生類にも、体内受精をするものがいます。そして、多くの昆虫などの節足動物も、体内受精をしています。しかし、その多くは、卵を産み落としたままですので、子供は自力で成長しなければなりません。周りには多くの捕食者がいるので、大人になって子孫を残せるものは少なく、多数の卵を産むことで対処しなければなりません。
 有性生殖のもう一つの戦略は、メスが産み落とす多数の卵子に、何匹ものオスが精子をかけ受精していくという方法です。これは体外受精と呼ばれますが、魚類がその典型となります。受精には不確実さが伴います。また、受精したとしても、卵が成長して孵るまでに、捕食者に食べられるかもしれません。そして、孵化した卵は自力で成長していかなければなりません。体外受精も多くの受精卵を残すことで、生存の可能性を高めるしかありません。
 生物には、無性生殖と有性生殖の間に置かれるべき生殖方法もあります。それは、同型配偶子接合と呼ばれるものです。
 接合には広い意味があります。二つの細胞が互いに融合して、核の融合をおこなうことです。有性生殖も接合になります。オスとメスの区別のある生物の接合は、配偶子が違うので、異形配偶子接合と呼ばれます。
 異形配偶子接合に対して、オスとメスの区別のない同じ個体同士が核を融合していくものがあります。これを同型配偶子接合と呼んでいます。単細胞生物では、この同型配偶子接合が良く見られます。
 もともと無性生殖で増えることのできる生物でも、環境が悪くなり、絶滅しそうになったとき、近くの別の個体にDNAを入れて、新しい個体を作ることがあります。アオミドロや大腸菌などで、よく見られます。
 分類基準は少々違いますが、これらを生物の子孫を残す戦略としてみると、体内受精、体外受精、同型配偶子接合の順で、確実な受精をして子孫を残す率が高くなるように思えます。しかし、成体を育てるまでの効率という点で見ると、逆になります。
 それぞれの生殖方法には、多様性や競争を生むためのメカニズムがどこかに組み込まれています。体内受精は一匹のオスが交尾相手になりますが、多数の精子を用いることで、多様性を生み、弱い精子が受精できないような仕組みがあります。体外受精では多数のオスの競争し、受精卵の時も孵化後も捕食者によって淘汰を受けていきます。幸運で、なおかつ強いものが生き残ります。同型配偶子接合では、危機の時に、多様性を生み出すべく働く戦略です。あるいは一つの個体の死をもって多様性を生むことになります。
 今まで見てきたように、生物の生き残りの戦略には、様々なものがあります。その複雑さからみて、無性生殖、同型配偶子接合、体外受精、体内受精の順に進化してきたのではないかと考えられます。しかし、そのような証拠は本当にあるのでしょうか。それは次回としましょう。

・落ち着かない季節・
1月も、とうとう終わりです。
北海道は、この前後が一番寒い時期なります。
そして、その一番寒い時期に、札幌の雪祭りがはじまります。
我が大学では、現在1週間におよぶ定期試験の真っ最中です。
幸いここ数日は暖かく、降雪のないので、
交通機関に遅延もありませんので、順調に進んでいます。
2月になると、いよいよ大学の一般入試がはじまります。
なにかと落ち着かない季節になりました。

・麻疹・
昨年の5月につづき、また大学で麻疹(はしか)がはやりだした。
札幌の別の大学が、今日から10日間の校内立ち入り禁止となりました。
我が大学でも、いつそうなるかわかりません。
我が大学の一般入試は、7、8日にあります。
もしそうなったら、多くの計画が変更を余儀なくされるでしょう。
よりにもよってこの時期にという気持ちがあります。
しかし、こんな時こそ、冷静なる対象が必要となるのでしょう。

2008年1月24日木曜日

2_62 オスとメス3:有性生殖のメリット

(2008.01.24)
 「有性生殖のパラドックス」は、どのように解消されるのでしょうか。今回は、このパラドックスについて見ていきます。

 生物が増えていく方法として、2種類あることを紹介してきました。1つの個体が2つに分かれる無性生殖と、オスとメスが交配する有性生殖です。
 生物が増えるという点で見ると、無性生殖の方が効率がいいのに、有性生殖をする生物が多数います。このような不利な点があるのに、生物は進化の過程で、そのような戦略を獲得してきました。なぜ、このような戦略が選ばれたのでしょうか。これを「有性生殖のパラドックス」と呼んでいます。
 このパラドックを説明するのために、前回2つの仮説を紹介しましたが、どうもすっきした説ではありませんでした。少なくとも私は、納得できないものでした。
 今回紹介する仮説は、環境への適応あるいは進化のスピードが、有性生殖の方が有利だというものです。
 有性生殖のプロセスでは、オスとメスから遺伝子が半分になった生殖細胞がつくられ、それらが合体して子供が生まれます。この時、オスとメスそれぞれがもっている遺伝子が、交じり合います。必然的に、両親の遺伝子を半分ずつ受け継いだ、しかし、まったく別の個体が誕生します。この時、遺伝子の多様性が生まれることになります。
 確率的には、オスとメスから減数分裂で半分の遺伝子になる時、それぞれ2通り生殖細胞をつくることになります。その組み合わせは、4通りとなり、無性生殖の1通りより、4倍もの多様性が生まれることになります。
 遺伝子の優勢や劣勢などの条件を考えると、もっと多様性が生まれることになります。多様性をもった子供が生まれることが必然的に起こる仕組みが、有性生殖に組み込まれています。多様性を起こる仕組みをもっていれば、環境変化が起こっても、適応しやすくなります。
 一方、無性生殖では、基本的には同じ遺伝子をもった個体が誕生します。多様性が生じるのは、突然変異によってということになります。いつ、どこで、その程度の突然変異が起こるかは、予測不能です。無性生殖で環境変化に適応するには、個体数と増殖率で可能性を挙げるしかありません。緊急を要する対応のに、偶然に頼るのは、非常に効率が悪いことになります。適応する、あるいは進化するという点でみると、無性生殖は、効率が悪い戦略といえます。
 以上のようなことを考えると、有性生殖の環境への適応能力は、生殖と成長に時間がかかるというハンディを補っても余りあるメリットといえます。適応や進化という視点で見ると、有性生殖こそ有利な戦略だったのです。このような見方をすれば、「有性生殖のパラドックス」はパラドクスではなくなくなります。有性生殖が有利か不利という判定は固定しているのはなく、自然はその都度、選択するという方法で答えを出しているようです。その判断を人間が見極めようとしても、非常に難しいものなるようです。
 さて以上の説明で、納得できたでしょうか。私は、前回紹介した説よりは、納得できました。次に、いつ、このような有性生殖が始まったのでしょうか。それは、化石から探ることになりますが、これがなかなか難しいものなのです。それは、次回としましょう。

・センター試験・
センター試験が終わりました。
我が大学でも、教員が全員体制で臨むことになります。
私は、日曜日担当で試験監督をしました。
厳密に決められた手順で進行し、
一言一句指示通り読み上げていかなくてはなりません。
受験生は、ほんの些細なことも、気にかかりことはずです。
ですから、監督も慎重に、厳密に進めなければなりません。
ついついこれが学問するために、本当に必要なことなのか、
これが学問をする姿かなと思ってしまいます。
全国のすべての学生に平等にやるには、
このような方法しかないのでしょうかね。

・春に向かって・
北海道は、ここ2週間ほど例年以上に寒い日々が続きました。
雪も結構降りました。
これからも、まだまだ寒い日が続きますが、
12月下旬の冬至以降、確実に日は長くなってきています。
北海道は、東に位置していますので
もともと早く夜が空けるのですが、
今では、私が歩いて大学向かう頃に朝日が出始めます。
12月下旬は、大学につくころにやっと日が昇りはじめるのでした。
寒さはこれからですが、天体の動きは、
すでに春に向かって進んでいるのですね。

2008年1月17日木曜日

2_61 オスとメス2:雌雄のパラドックス

 オスとメスによる生殖は、無駄が多く効率がよくありません。しかし、多くの生物は、オスとメスがいます。パラドクスです。このパラドクスは解けるのでしょうか。

 生物には、単細胞生物がよくおこなうような、一つの細胞が、まったく同じ二つの細胞に分かれる細胞分裂で増える方法(無性生殖)があります。また、同じで種でありながら、オスとメスという違う性質をもつ個体が交配して子孫を残す方法(有性生殖)をとるものがいます。
 有性生殖という生物の生存戦略は、オスとメスが出会い、受精し、卵や子供などの小さい個体を産み、それが成長して大人のオスとメスになっていくという過程をとります。この有性生殖という戦略は、本当に有効な方法なのでしょうか。
 オスとメスによる有性生殖では、まず、一つの個体がもともと持っていた染色体の数(ヒトでは46本)を半分になっていきます。数が半分になりますから、もとの染色体の数は、偶数でなければなりません。この半分になる過程を、減数分裂といいます。染色体が半分になった特別な細胞を、生殖細胞と呼びます。生殖細胞で栄養があり大きなものを卵細胞、小さくで動きやすいものを精細胞と区別されます。
 生殖細胞をもったオスとメスが出し合って、受精をしていきます。受精すると、二つの染色体が合わさって一つになります。この時、染色体の数は2倍になるので、もとの数にもどります。結果として、親と同じ数の染色体をもった子供が生まれることになります。
 さてこの有性生殖には、いくつもの問題があります。異性を探したり、交尾をしたりする繁殖のための行動には、時間もエネルギーを使わなければなりません。交尾中は無防備となり、捕食者に食べられる危険性もあります。また、卵や小さい個体が成熟するまで、時間がかかり、危険性が増大します。このように、有性生殖は、手間も時間もかかり、ロスが多い戦略といえます。
 オスは生殖には不可欠な存在ですが、子孫を増やすためには、子供を産まないオスは、繁殖の効率が悪くなります。もし、同じ数の無性生殖をする個体のグループと有性生殖をするする個体(オスとメスが半分ずついるとする)グループがいて、同じ条件で子孫を残していくとすると、無性生殖の方が倍のスピードで増えることになります。
 このような効率の観点から生殖を見たとき、有性生殖はロスが多いといえます。しかし、有性生殖とい戦略をとる生物が多数いて、繁栄もしています。これは、非常に矛盾したことになります。これを生物学では、「有性生殖のパラドックス」と呼んでいます。
 実は、このパラドックスは、まだ完全には解かれていません。説明のためのいくつかの仮説があります。
 例えば、無性生殖では有害な遺伝子が蓄積していき、やがては繁殖に支障をきたすという「マラーのラチェット」と呼ばれるものがあります。それと関連がありますが、「コンドラショフの効果」というものもあります。有害遺伝子が、ある一定数を超えると急に悪影響が出たり、生存不可能になる場合もあるが、有性生殖では、確率的に限界の一歩手前で留まるというものです。
 これらの仮説には、研究者も疑問を呈しています。それに、少々わかりづらい、つなり納得しづらい説だと思います。もう少し単純でわかりやすい説明がないでしょうか。それは、次回としましょう。

・自衛・
先週のエッセイでは、北海道では暖かい冬と書きましたが、
先週末あたりから、冷え込んできました。
今までの暖かかった分を取り返すかのように
冷え込んでいます。
雪はまだそれほど降っていませんが、
寒さは、例年なみになってきたようです。
寒さがひどくなると、省エネを大学全体でおこなっているため
研究室も、なかなか温まならくなりました。
手がかじかみながら、仕事をすることになります。
しかし、耐えられない寒さの直前という
微妙な調整がなされているようです。
重ね着などで、自衛するしかないかもしれません。

・削除の決断・
メインで使っているパソコンのハードディスの容量が
残り少なくなってきました。
もともとあったハードディスクの容量は、
150GBですが、現在、5GBしか残っていません。
少々不安な状態です。
なぜなら、進行中の仕事関係のファイルや
ホームページなど毎日使っているものは、
ハードディスクにおいておきたいのです。
しかし、それらは、毎日確実に増えていきます。
それに備えて、余裕がないといけません。
それに大きなファイルを操作するためにも、
ハードディスクに余裕がないと
動作が遅くなります。
今までも、いろいろ削って減らしてきたのですが、
通常の整理では、ムリになってきました。
今まで残してきたもので、使わないものは、
この際、思い切って削除するしかないようです。
もちろん幾重にもバックアップはとります。
さて、いよいよ削除の決断しましょうか。

2008年1月10日木曜日

2_60 オスとメス1:雌雄の戦略

 生物の多くは、オスとメス、雌雄があります。なぜ、生物はこのような雌雄を持つようになったのでしょうか。その答えは、生物の歴史ともいうべき化石からみつかるのでしょうか。

 動物にはオスとメスがあります。人間でいうと男と女です。オスのメスとは、同種でありながら、体型や装飾、行動などが違っていることもあります。雌雄がある種では、オスもメスも両方がいなければ子孫を残すことができません。しかし、カタツムリやミミズのように、一つの個体に、卵と精子を形成する器官を持つ雌雄同体となっているものもいます。
 植物でもオスとメスがあります。植物体がオスとメスに分かれている場合(雌雄異株といいます)と、オスとメスが一つに同居している場合(雌雄同株)があります。たとえば、イチョウは雌雄が別々の木になっていますが、桜やひまわりなどは、一つの花におしべとめしべがあります。
 交配のとき、オスとメスの遺伝子、つまり卵と精子やめしべと花粉(配偶子と呼ばれています)が合わさって(接合といいます)、両方の遺伝情報をもった新しい個体が誕生します。これを受精といいます。
 配偶子は、もともとその生物がもっている染色体の数を半分してできます。このような分裂を行うことを、減数分裂と呼んでいます。そのときに、一つの生物が持っている遺伝情報が、半減されてしまいます。でも、他の配偶子と出会うことで、元の数に戻ることができます。
 このようなオスとメスによる子孫を残すメカニズムは、多くのステップを踏んだり、他方の性を持つ個体が必要となったりと、いろいろ面倒なことがあります。
 単細胞生物では、ひとつの個体が分かれて、自分と同じものが2つになります。このような方式のほうが、より多くの子孫を残すことができます。この方法であれば、たった一つの個体でも、どこか生きていける環境に紛れ込んだら、そこで子孫を残し、増えることができます。非常にすぐれた生き残り戦術です。
 しかし、生物は、進化の過程で、オスとメスを持つ道を選びました。進化の過程でその方法を選んだということは、重要な意味があります。なぜなら、その方法は、さまざまな地球の環境への適応、他の種との生存競争をくぐりぬけてきたものだからです。地球の歴史の選別を受けて、有効な方法だと判定されたものなのです。
 オスとメスには、上で述べたような大きなハンディがありながら、なぜ選ばれたのでしょうか。それは、次回としましょう。

・暖冬・
冬至も過ぎ、天文学的には、昼が長くなり始めます。
そして、季節はより寒い、冬真っ盛りとなります。
しかし、その先には春が待っています。
今年の北海道は、どうも例年より雪が少なく、
寒さもそれほどひどくありません。
まだ、1月から2月にかけての寒い季節が残っていますが、
この時期には、珍しく、幹線道路が乾いています。
除雪もまだ、2、3度しか入っていません。
今のところ、暖かい冬です。
昨年の暑い夏に続いて、暖かい冬になるのでしょうか。

・ハンディ・
学校は冬休みも終わり、3学期が始まっています。
しかし、北海道の小中高校は、長い冬休みが今も続いています。
我が家の子供たちは、1月22日が3学期の始業式です。
その分、夏休みが短いのですが、どちらがいいのでしょうか。
全国何もかも画一化した制度にする必要はないと思います。
その地域の特性に合わせた、対応をすればいいと思います。
子供たちにハンディがなく、
結果として同じよう教育を受けれればいいと思います。
すべてを画一化すると、
地域ごとにハンディが生じることの方が問題だと思います。
でも、これほど文明が進むと、
季節の変化を、技術で対応しているような気がします。
除雪も機械化され、夏の暑さもエアコンで解消しています。
生活面が画一化されているのに、
学校制度だけが昔のまま残っているのでしょうか。
なかなか難しい問題です。

2008年1月3日木曜日

6_68 石に立つ矢:諺・慣用句6

 明けまして、おめでとうございます。本年もよろしくお願いします。年頭のエッセイとして、一つの故事をとり挙げましょう。石に立つ矢という故事です。

 「石に立つ矢」という故事があります。この話は、前漢初期に韓嬰(かんえい)が古い文献から集めて書いた『韓詩外伝 六』にあります。この文献では、楚(そ)の熊渠子(ゆうきょし)の話として出てきます。また、司馬遷が書いた『史記』の中では「李広伝」にあります。史記では、漢の李広の話として出ています。
 「石に立つ矢」とは、一心にものごとを行っていけば、不可能なことはないというたとえとして用いられています。ここでは、李広の話として紹介しましょう。
 漢の文帝の時代、李広という弓の名手がいました。李広が生まれた隴西は、北にオルドス砂漠があり、匈奴がすぐそばまでせまっている国境の町でした。李広は、先祖代々武人の家に生まれ、武術の訓練を受けて育ちました。李広は、成長と共に、武術や戦術を身につけていきました。中でも、騎馬戦術と弓には秀でた才能を示しました。
 文帝時代に、匈奴の大軍が攻めてきました。その時、関所には、李広を守備隊長として、わずかな兵しかいませんでした。わずかな手勢しかない守備兵を率いて李広は、匈奴に負けない騎馬戦術と弓で、匈奴軍に応戦しました。
 その噂をききつけた文帝は、今まで匈奴からは何度も痛い目にあっていたのですが、やっと匈奴に一矢を報いたとして、大いに喜びました。李広を、侍従の武官に任命し、都に呼びました。李広は武人として出世の道を歩みだしました。
 ところか李広はそうは思っていませんでした。李広が文帝のお供で狩をしている時、虎が襲ってきました。それを李広は、素手でやっつけました。命拾いをした文帝は、李広の活躍できる戦乱の時代であれば、もっと出世して大国の大名になれたはずなのにと、その武勇の才を惜しみました。しかし、李広は、国境の守備隊長が自分の望みだといいました。李広の本当の望みを聞いた文帝は、それを叶えることにしました。こうして李広は、望みどおり辺境の地の守備隊長となりました。
 ある時、李広は、草原の中にいた虎を矢で撃ちました。よくよく見ると、矢が射たのは、虎ではなく石だったのです。矢は、やじりが隠れるほど深く刺さっていました。それを見た李広は、もう一度その石を矢で射ようとしたのですが、二度と刺さることはなかったという逸話です。これが、「石に立つ矢」とよばれる話の故事のもととなりました。
 前漢末の劉向は、この故事の意味を、「誠意を持って立ち向かえば、金石さえも貫くことができる。ましてや人を射ることなどたやすい。人を説得できないのは、自分の中に不完全な点があるからだ」と説いています。「石に立つ矢」は、「一念巖をも通す」という言葉にもなっています。
 なかなか含蓄のある言葉です。一年のはじまりとして、私から読者への「石に立つ矢」という言葉をお送りします。あなたの「石」は何ですか。その「石」に「矢」を射ていますか。「石」を射抜く努力をしていますか。私も、この言葉を今年の銘として、努力していこうと思います。

・今年の銘・
いよいよ新しい年2008年が始まりました。
2007年はどんな年だったでしょうか。
2008年はどんな年にしたいですか。
これら一年のことに思いをめぐらすのも正月ならではです。
そんな気持ちを私も持っています。
今回は、この故事を自分自身の今年の銘として
皆さんにも紹介しました。
今年一年が皆さんに良い年であることをお祈りしています。

・コントラスト・
年末のあわただしさから一夜明けると、
そこにはのんびりとした正月がまっています。
年末から正月にかけて母が我が家に来ています。
我が家ではそのせいもあって、暮れと正月のあわただしさが際立つのでしょう。
不思議な気分ですが、でも、考えて見ると、毎年同じことを行っています。
正月は毎年来ますし、母も毎年この時期に我が家へ来ます。
ですから、あわただしさとのんびりさは、恒例となっているはずです。
年末と正月という日本では、1年でもっとも特異な区切りだから、
不思議なことに感じてしまうのかもしれません。
これも、日本人として生まれたからには、いたし方ないことなのでしょう。
実は、私は年末のあわただしさと
正月ののんびりさのコントラストは好きなのです。