2020年12月31日木曜日

6_179 今年はCOVID-19の年


 今年の話題は、なんといっても新型コロナウイルス(COVID-19)が一番でしょう。今年、最後のエッセイとして、少々長くなりますが、COVID-19で考えたことを紹介します。


 今年も、今日で終わります。今年は新型コロナウイルス(COVID-19)ではじまり、COVID-19で終わりました。今年だけでなく、来年もCOVID-19の危機が継続していくことでしょう。この事態が治まるためには、ワクチンの完成と接種、あるいは対処薬の完成などにより、市内感染がなくなることです。一部の国では、先行してワクチン接種がはじまっています。それらの結果から、ワクチンの効果の有効性がわかってくるでしょう。日本の接種はいつごろになるのでしょうか。

 COVID-19の感染拡大への対策と経済の対策は、相反する方向をもっています。また、科学と政治の方針が一致しないことも多々あります。科学は論理や証拠にもどついて判断しますが、政治は国民の利益を「総合的、俯瞰的」に判断することになります。その判断が間違っていると、国民全体が不利益を被ります。ですから、政治家の資質が、国民の生活、財産や生命すらを左右することになります。特に緊急時はその資質が重要になります。

 アメリカ合衆国では、複雑な制度を介しますが直接選挙で大統領を選びます。そのため大統領には強権を与えています。しかし、大統領の認識不足や対策不足でパンデミックが継続中です。現在も多くの感染者と死者を出しています。強権の授与も良し悪しです。中華人民共和国は、実質上共産党の一党独裁で、主席の習近平が強権を発揮した結果、COVID-19の発生地でありながら、いち早くCOVID-19が終息させたようです。しかし、同じ強権が、香港やウイグルで人権を蹂躙しています。

 いずれの国の方法論も手本にしたくないものです。COVID-19で手本にすべき国は、台湾です。専門家の方針にしたがって、いち早く政策を決めて、対策を実施してきました。その結果、水際でCOVID-19の侵入を抑え、いち早く通常の生活や経済活動が戻りました。

 日本では、もはや台湾の手法をとれない状態になっています。感染者数は他国と比べると少ないとはいえ、COVID-19のパンデミックが、繰り返し起こってきました。その度に医療や保健所の専門家の献身的な努力を続けてきましたが、医療崩壊を起こしつつあります。政治家が、医療より経済を優先した判断ミスの結果だといえます。

 そんな政治家の失策を責める世論やメディアが多くあります。しかし、政府発表のみを報道したり、世論調査を繰り返して、欲しい意見のみを切り取った報道が目に付きます。世論を煽っているメディアやコメンテーターが多すぐるように見えます。自社の主張や調査報道にもづいた主義主張が少なすぎます。安倍政権の成立以降、この傾向が少なくなってきたと思います。

 無責任、無能な政治家を直接選挙で選び、そのようなメディアを許している私たち国民にも、大きな責任があると思います。自身の責任を意識することなく、国や政府、メディアの不甲斐なさを批判するだけなのは、いかがなものでしょうか。

 現在の政治の不手際を生み出したのは、メディアのせいではなく、個々の国民に責任があるのではないでしょうか。国民は政治家の振る舞いをしっかりと記憶しておき、次の選挙のとき、それを考慮に入れるべきでしょう。メディアはそんな政治家の公約とその実現、政治行動などを評価して選挙へ情報提供すべきではないでしょうか。

 疫学や医学の科学的判断は、確度のある方針を出せるはずです。その専門家の判断を、政治家が「総合的、俯瞰的」に考えて実行していくことになります。当たり前のことを、当たり前にやればいいだけです。医学的判断に従って政策を実施した時の経済的ダメージと、経済復興の対策を優先した時起こる医学的ダメージとその後の経済的ダメージを、それぞれの予測を比較すれば答えが出せるはずです。予測は、それぞれの専門家が連携してすれば可能なはずです。その結果を、政治家が的確に実施すればいいのです。台湾のように。

 当然、対処がうまくいかずに、パンデミックが起こる事態もあるでしょう。そんな時は、科学的根拠に従って、ロックダウンを速やかに行っていけばいいのです。中国のように。

 ただ日本人の国民性は、公衆衛生の観点(マスクの着用、消毒手洗い、三密の回避など)も、十分行き渡っていきます。そんな国民性があれば、海外のように厳しいロックダウンをしなくても、政府や自治体が強く自粛を呼びかければ、十分ロックダウンの効果ありました。これの我が国の国民がもっている利点でもあります。これを利用すれば、政治の方針さえ的確なら、COVID-19の終息が見えるように思えます。

 よく考えて節度をもって行動するという国民性が、政治家を選ぶ時にも働けば、政治と科学との連携もうまくいくのではないでしょうか。

 さて、ここまで読んできた方々、一人では何も変わらないと思っている人、その考えが今の日本の状態を生み出しました。よく考えてください。ここの意見を読み流した人、あなたはよく考えて日々の行動しているでしょうか。よく考えてください。ここの文章に反対や賛成の意見を持った人、よく考えてください。最後に、この文章は鵜呑みにしないでください。よく考えて下さい。


・それでも責務を果たす・

政府主催の専門家会議は何ためにおこなうのでしょうか。

政府の言い逃れにために利用されていると

思えるときも多々ありました。

科学に携わるものとして、忸怩たる思いががありました。

当事者たる科学者はもっと強い無力感をもったことでしょう。

それでも、一部の科学者は投げ出すことなく、

淡々と責務を果たしています。

科学に対して真摯な姿勢と責務に忠実な態度は

素晴らしいものだと思います。

科学者の姿勢を国民はよく覚えておく必要があるでしょう。

科学を蔑ろにした政治家をよく覚えておきましょう。


・よいお年を・

今年はCOVID-19の年でした。

すべての国民が痛みを味わい、

苦渋に満ちた生活を強いられました。

ずるずると方針の定まらない政治のために

いつまで我慢すればいいのかわからない生活。

一方で、人が政府のゆるさに乗じて

自粛せず通常の生活に戻っている人も多くなりました。

長期に及ぶ自粛で多くの人の心に緩みが出てきています。

いろいろな原因があるでしょうが、

パンデミックが起こっています。

その責は自身にあることを心しておきましょう。

2020年12月17日木曜日

5_174 DCO 4:カンラン岩と炭酸塩

 オフィオライトと呼ばれる海洋地殻の断片も、DCOの研究対象になっていました。オフィオライトのカンラン岩や玄武岩は、二酸化炭素の循環とどのような関係があるのでしょうか。


 DCOの成果には、表層の炭素循環として、オフィオライトを用いた研究もありました。オフィオライトは私も研究対象にしていたものです。オフィオライトは、昔の海洋地殻の断片が、プレートテクトニクスの作用で陸地に持ち上げられたものです。いろいろな時代のオフィオライトがあるので、過去の海洋地殻を探るに有効な素材となります。

 海洋地殻は海洋プレートの最上部にあり、大陸の岩石より密度が大きいので、プレートテクトニクスでは、マントルに沈み込んでしまうはずのものです。それが陸地に海洋地殻が、陸側に取り込まれていくメカニズムとして付加作用があります。プレートのぶつかりによる圧縮のために、海洋底堆積物とともに海洋地殻の断片も取り込まれることがあります。また、海嶺が沈み込み時には、海嶺の地形的高まりや高温のマントルなどにより、陸側に激しい付加作用が起こり海洋地殻の上部(マントルのカンラン岩まで)も陸側に取り込まれることにあります。

 オマーンにある「サマイル・オフィオライト」と呼ばれるものがあります。このオフィオライトの岩体は、幅80km、長さ500kmもある世界最大のオフィオライトです。白亜紀末にユーラシア大陸とアフリカ大陸が衝突する前に、間になったテチス海の海洋プレートが持ち上げられたもので、マントルの岩石まで取り込まれています。

 ただし、オフィオライトでは、変成作用や、変質作用、変形作用などを受けているので、もともとの火成岩とはかなり変化していますので注意が必要です。ところが、この変質作用が、二酸化炭素の循環に関係していました。

 サマイル・オフィオライトのカンラン岩で、風化作用と岩石中の微生物によって、空気中の二酸化炭素を取り込んでいることが明らかにされました。また、DCOのプロジェクト「CarbFix」では、玄武岩を用いて、炭素を含んだ流体を注入する実験がなされました。すると、固体の炭酸塩鉱物が短時間で形成されることがわかりました。オフィオライトだけでなく、玄武岩までそのような炭素の固化作用が起こっているとすると、その量はかなりのものになると推定されています。

 この炭素の岩石への吸着作用を利用することで、増加する二酸化炭素の吸収には有効ではないかと考えられています。でも、それは少々、夢物語すぎる気がします。


・ロジンジャイト・

オフィオライト中のカンラン岩は、

水があると蛇紋岩になりやすく、

蛇紋岩として分布していることが多くなります。

蛇紋岩には、ロジンジャイト(Rodingite ロジン岩)と呼ばれる

白っぽい岩石に変わっていることがあります。

ロジンジャイトはカルシウムを多く含む岩石ですが、

炭酸塩鉱物も多く含んでいます。

水に溶けたカルシウムが、カンラン岩や蛇紋岩と反応して

ロジンジャイトができ、炭酸塩鉱物もできます。


・オフィオライト・

サマイル・オフィオライトだけでなく、

世界各地の多くのオフィオライトがあります。

もちろん日本にもあります。

日本では、造山帯の中の大きな構造帯には、

カンラン岩や蛇紋岩が各地に分布していました。

私は北海道と中国から近畿地方のものを研究対象にしていました。

蛇紋岩の一部ではロジンジャイトになっているものもありましたが、

その量は多くなりように思えます。

DCOで注目されてきたのなら、

もしかすると研究が進むかもしれませんが、

でも工業的に二酸化炭素の吸収剤にするには

まだ難しく時間がかかると思います。

それより木を植えたほうが手っ取り早と思います。

2020年12月10日木曜日

5_173 DCO 3:マントルの時間スケール

 前回は、プレートテクトニクスとともに起こっている、大気中の二酸化炭素と海洋や岩石との炭素循環を考えました。もっと大きな時間のオーダーで、マントルでの炭素循環をみていきましょう。


 大気と生物の炭素循環は、長寿な樹木の成長を考えても、100年から1000年のオーダー(単位)となります。人間活動による循環の乱れも、やはり100年から1000年のオーダーでの変動となります。このような生物や人間活動の炭素の循環は、1000年のオーダーですが、時間オーダーの異なった循環もあります。

 海洋プレートを構成する岩石中に含まれる炭素の量は、他の成分と比べて、非常に少ないものです。そして、プレート運動も、年間10cmから数cmの非常に小さな移動速度です。プレートテクトニクスにおける炭素の移動量は、部分でみると微々たるものです。しかし、海溝の総延長は長大で、プレート運動も地球史の億年オーダーでの移動を考えていかなければなりません。それらの長い距離や時間で積分していくと、移動する炭素の量は莫大なものになるはずです。

 炭素だけでなく、地球規模の成分のサイクルは、数百万年から数億年のオーダーで考えなければなりません。

 もともと地球は、金星や火星のように、二酸化炭素を主成分とする大気であったと考えられています。現在では、ほとんど二酸化炭素がない状態にまで減少しています。大気から海洋、そして海洋プレートを経由して、少しずつですが、大気中の大気から二酸化炭素が取り除かれていったと考えられます。海洋プレート中に少量しかなく、少しの移動速度しかしなくても、長距離、長時間の蓄積で、大量にマントルに戻っている可能性があります。

 プレートテクトニクスによって、表層の炭素が、マントル深部に持ち込まれている証拠が見つかっています。マントル内の深部の温度圧力条件では、炭素が濃集しているところがあれば、ダイヤモンドに変わります。ダイヤモンドの形成条件は、マントル遷移層付近の410kmから660kmの深度になります。地表にもたらされたダイヤモンドの研究から、中に生物由来の炭素があることがわかりました。その量は微量ですが、表層にあった炭素が、地下深部に入り込んでいた証拠になりました。

 炭素は、数億年のオーダーで、表層からマントル深部まで循環が起こっていることになります。マントル深部の炭素は、マントルのどこに、どのような形態で、どれくらいの量があり、どれくらいの期間とどまっているのでしょうか。これらは、まだ解き明かされていない謎です。DCOが明らかにした地球深部の炭素循環を、もっと探求していく必要があるでしょう。


・師走・

12月は師走なので、本来ならクリスマスは年末や年始の準備で

世間はにぎやかになるはずなのですが、

今年はどうなるでしょうか。

ついついそんなことを考えてしまう時期です。

我が家は、子どもたちが、コロナで移動できません。

そのため、夫婦ふたりだけの年越しになります。

また、義母が今春なくなったので、

喪中でもあり、年始のお祝いはなしです。

淡々とした年末から年始になりそうです。

まあ、これは例年とあまり変わらないのですが。


・自粛期間・

北海道はコロナ感染拡大のため

自粛期間が今週の11日までとされていました。

ところが、12月になってもコロナの感染の拡大は

増加はおさまっているようですが、

今までにない大きな感染ピークが継続しています。

大学では今年一杯は、遠隔授業と決定しています。

来年のことはわかりませんが、

まだまだ予断を許さない状況になっています。

2020年12月3日木曜日

5_172 DCO 2:表層部の循環

 大気や生物には多くの炭素が含まれています。表層部の炭素が、どのように循環しているのでしょうか。いろいろなところがで、いろいろな形で循環しています。複雑な循環ですが、概要を見てきましょう。


 私たち生物が身近に接している炭素は、体を構成している有機物としての炭素、そして大気中の二酸化炭素でしょう。植物の体を形成している炭素化合物は、生物の生態系を考えるときには、重要な役割を果たしています。

 これら表層部の炭素の循環は、観測して移動量を測定すれば、循環の詳細は解明できそうです。自然状態なら、生物の炭素は、どのような形態(化合物)、どのような生物に、どの程度の量か、それらが移動や変化があったとしても、炭素の総量は変わりません。このような炭素の循環は、生態系から解明することができます。

 ところが、人間が関与してくると、炭素の循環は乱れます。例えば、森の木を切り、耕作地にすると、その地域にあった炭素量は明らかに減ります。また、化石燃料を燃やせば、生物間を循環していない炭素を大気中に放出することになります。これまでの生態系による炭素の循環のバランスを崩していきます。これが地球温暖化の原因だとも考えられます。

 気づきにくいですが、プレートテクトニクスによる炭素の循環もあります。地球深部から上昇してきたマントルが、海嶺でマグマ活動を起こし、新しい海洋プレートが形成されます。海洋プレートは、海嶺から海底を移動して、海溝で沈み込みます。マントル物質がマグマを経て、火成岩に形態を変えて移動(対流)しているだけのようにみえます。

 しかし、海底では生物由来の深海堆積物や海洋地殻中に炭素を含む鉱物が形成されます。炭素が形を変えて海洋プレートとして海溝から沈み込んでいきます。海洋プレート中の炭素は、大気中の二酸化炭素が海水中に溶けて、沈殿や生物の殻として海洋底堆積物になったもの(石灰岩)です。また、海嶺のマグマの活動に伴って、変質・変成作用によって炭酸塩鉱物ができて加わっていきます。一方、マグマの活動で、マントル中に含まれたいた炭素が、火山ガスとして海水中に出ていくものもあります。

 海洋プレート最上部の堆積物は、沈み込みによって、陸側に削り取られて付け加わる(付加作用といいます)ことがあります。付加作用により、石灰岩が陸に持ち上げられることになります。このような石灰岩は、大気中の二酸化炭素が、海洋とプレートテクトニクスと通じて、固化したものと見なせます。陸地には大量の石灰岩があるので、大気中の二酸化炭素が、取り除かれた結果となります。

 沈み込みによって、絞り出された水分が陸側のマントルに供給されます。その水分が、マントルの岩石を溶かし、マグマを形成します。それが日本列島のような島弧で火山活動が起こします。その時、海洋プレートに由来する炭素が、火山ガスの中に含まれていることがわかっています。島弧の火山活動で、大気から海水、そして深海底にいった炭素が、再び、大気中に戻されことになります。

 炭素はさまざまなメカニズムで、大気や表層部から、地下深部へとを行き来しているようです。大気、海洋、プレートテクトニクスが連動して、炭素循環が起こっているます。見えたり、観測できる場での活動なので、実態を調べて正確に定量化していく必要があり、検討されています。炭素の地球深部と表層の循環も、地球環境の変化を考える上で、重要なテーマとなります。それがDCOの目的もでありました。


・寒さとコロナと・

いよいよ12月です。

大学の研究室は、例年になく冷え込んでいます。

それは、コロナ対策として、廊下の窓を

朝から、何箇所か、開けているためです。

研究室は、窓を締めているのですが、

廊下から暖気が抜けていくようで、

研究室がなかなか温まらないのようです。

しかたがない対処です。

今年の冬はコロナだけでなく、

寒さとの戦いも加わりそうです。


・ケイ素系生物・

炭素は、地球生物を特徴づける元素です。

炭素は、宇宙では普遍的な元素なので、

地球生命と似た炭素系の生物が

他の天体にいてもいいはずです。

他の元素としては、周期律表で炭素の下にある

ケイ素が候補になります。

しかし、ケイ素は、液体として反応するためには

マグマの海のような条件が

維持されていなければなりません。

1000℃前後の高温でなければなりません。

惑星の条件としては、なかなか困難でしょうね。

2020年11月19日木曜日

6_178 ノーベル物理学賞 2:理論と観測

 物理学において、理論は重要なのですが、理論とはいっても、実証、証明されない限りは仮説です。ノーベル物理学賞は、理論の業績は古いものに対して与えられることになります。


 今回のノーベル物理学賞では、ペンローズがブラックホールの形成を理論的に示しました。その成果は、1965年に発表された55年も前の業績に対してでした。特異点定理や事象の地平面など、一般相対性理論による課題を数学的に解いたものです。重要な成果です。理論の業績に関しては、証明、実証されない限り、ノーベル賞が与えられることはありません。なぜなら、将来、実証できないで否定されることもありうるからです。今回、他の2名の受賞者の観測を契機に、ブラックホールの存在が明らかになりました。その結果、ペンローズが受賞することになりました。

 2019年4月10日にブラックホールの姿を撮影した画像が公開され、大きな話題になりました。これがノーベル物理学賞になってもいいくらいなのですが、今回は別の観測が受賞しました。いろいろな観測によって、ブラックホールの存在が確実になってきました。

 その中でも、ゲズ(Ghez)の論文とゲンツェル(Genzel)の業績が評価されました。ゲズとゲンツェルは、可視光では見ることができない銀河の中心部を、赤外線で観測することで見ることができ、撮影することに成功しました。中心部ある「いて座A*」と呼ばれる恒星の軌道をたどることで、ブラックホールの存在を明らかにしました。その質量は、太陽の410万倍もある巨大ブラックホールであることがわかりました。

 似たものが他の銀河の中心部にもあることがわかり、銀河中心には巨大ブラックホールがあることになりました。それが銀河の形成と、ブラックホールの銀河形成過程で果たす役割などを考えるきっかけとなりました。

 ゲズは、女性でノーベル物理学賞では4人目として話題になりました。最初の女性受賞者は1903年のマリー・キュリー、次が1963年のマリア・ゲッパート・メイヤー、そして2018年のドナ・ストリックランドでした。最近は女性が相次いで受賞しているようですが、まだまだ少ないです。女性であることが話題にならないこと日が、本来の姿のはずなのですが。

 ノーベル賞の賞金(100万クローナ、1億2000万円)のうち、半分がペンローズに残りを2人で分配するとのことです。ペンローズの貢献、評価の大きさがわかります。しかし、理論は実証されるまでは仮説にすぎません。ですから、実証により仮説から理論になるまで、長い時間がかかってしまいます。時にはホーキングのように、受賞より前に亡くなってしまう優れら業績もあります。しかし、彼らはノーベル賞のために研究をしているのではないでしょうがね。


・遠隔授業・

北海道の新型コロナウイルスの感染者数は

多いまま推移しています。

大学でも、対面授業を最小限にして

遠隔授業を増やすことで対処をはじめている

ことろも出てきました。

我が大学も、いつそのような状況に入るかは不明です。

対面授業から遠隔授業に、急遽変わると、

対処に困ることが、いろいろでてきそうです。


・旅気分なし・

先日、校務で函館にでかけました。

1泊での出張なので、ホテルに泊まりました。

大きなホテルだったのですが、

やはり宿泊客は少なく、浴場も食堂も、

隙間を開けながら、三密に対処していました。

また、館内もマスク着用を義務付けられていました。

しかたのない対処なのでしょう。

旅気分を味わうことができませんでした。

まあ、校務なのでしかたがないでしょうね。

2020年11月12日木曜日

6_177 ノーベル物理学賞 1:ペンローズ

 イギリスの物理学者のペンローズに、ノーベル物理学賞が決まりました。1931年生まれの89歳での受賞でした。高齢だったのですが、受賞が決まってよかったです。


 毎年10月初旬に、ノーベル賞の受賞者が発表されます。日本のメディアは、受賞候補者を予想して、日本人が受賞するかしないかに、一喜一憂します。日本国籍でなくでも、日本人扱いすることもあります。そして、日本人がいないとなると、ノーベル賞の話題も一気に下火になります。授賞式は、例年、スウェーデンで12月に行われていますが、今年は新型コロナウイルスの蔓延のため、集まることはないので、ますますニュースバリューは下がりそうです。

 ノーベル賞だけでなく多くの賞は、そもそも顕著な功績を残した人物に対して贈られるものであって、国に贈られるものではありません。オリンピックのメダルも、個人や団体の栄誉を讃えたものなのですが、なぜか日本では国がとったメダルの数を気にしています。国の権威を示すことに利用しているようで、どうもいただけませんね。

 さて、今年の物理学賞は、イギリスのロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)、ドイツのラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)、アメリカ合衆国のアンドレア・ゲズ(Andrea Ghez)の3名が、同時受賞しました。

 今回のノーベル物理学賞には、個人的に気になることがありました。それは、ペンローズが生きていて受賞できたことです。ホーキングは、2018年に76歳で亡くなっています。生きていれば、ペンローズとの一緒に受賞ができたかもしれません。

 ペンローズは一般向けの書籍をいくつか書いていたので、「心は量子で語れるか 21世紀物理の進む道をさぐる」と「ペンローズの“量子脳”理論―心と意識の科学的基礎をもとめて」は、以前、読んでいました。それで面白いと思いました。ユニークな視点での著書「皇帝の新しい心―コンピュータ・心・物理法則」や「心の影」1と2、「宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか」などの一般向け書籍は入手していたのですが、積ん読状態になっています。それは、天才ぶりが遺憾なく発揮された内容で、なかなか手強く、簡単には手が出せないものです。

 ペンローズは、不可能図形や平面充填の問題でも有名です。不可能図形として、ペンローズの三角形やペンローズの階段などを考案し、平面充填問題ではペンローズ・タイルと呼ばれ、2種類のタイルをある規則で並べて平面が埋めつくすものです。タイルの不思議な点は、並びに周期性がないという点です。

 ペンローズ・タイルは、理論上のものだと考えられていました。ところが、化学者のシュヒトマンが、周期性を持たない合金を発見し、それまでの結晶の常識を覆えしました。これが、後に「準結晶」と呼ばれるもので、シュヒトマンは2011年にノーベル化学賞はを受賞しました。その時、ペンローズは、非周期的な構造を持つ結晶も存在すると主張したことで援護しました。

 なんといってもペンローズの本業は物理学です。本業での受賞となります。その内容の紹介は次回にしましょう。


・警戒ステージ3・

全国とともに北海道も、コロナの発症者の数が増えています。

北海道では、10月28日に警戒ステージ2に上がりました。

大学でも対応が考えられました。

対面授業では三密を避ける配慮は施されていますが、

さらに学生の席位置を記録していくことになりました。

もし、感染者が確認されたとき、

濃厚接触者の限定ができるような対処です。

感染者数や感染経路不明者、クラスターの増加など、

道が決めた指標によって、

11月7日には警戒ステージ3に上がりました。

札幌の歓楽街の営業時間の短縮要請がでました。

道民への完全な自粛が求められているわけでありませんが、

コロナ対策を十分とる必要がありそうです。

心配ですが、ルールに従って対処するしかありません。


・アメリカ大統領選挙・

混迷を極めたアメリカ大統領選挙も

民主党のバイデン氏に軍配が上がりました。

アメリカ大統領の決定は、

選挙という基本的な仕組みに基づいています。

複雑な仕組みを組み込んでいることや

州毎に独自性があるため、

単純には決着がつかないようです。

泥仕合のようで見苦しくみえますが、

巨大な力をもっている指導者を選ぶのですから

しかたがないのでしょうかね。

次期大統領の次なる政策や方針がどうなるか、

気になるところでもあります。

2020年11月5日木曜日

3_192 地磁気逆転 4:影響

 今回のシリーズの最後に、もし現在、地磁気の逆転が起こった場合を考えていきましょう。地磁気の変動からその危険はあるようです。地表では、生物には、人類には、大きな影響がでてくるようです。


 ここまで、チバニアンに起こったもっと最近の地磁気の逆転を見てきました。数万年に一度の現象なので、「現在を調べる科学」(地球物理学や地球化学など)では、過去のことを調べることができません。また、「人類が残した記録を通じで調べる科学」(考古学や人文歴史学など)でも、78.1万年前の現象は記録されていません。これまで、地磁気の逆転を人類が経験をしたことも、科学で観測されたことももないので、過去の現象を調べるしかありません。そのような学問としては、地質学を活用するしかありません。

 ここまでのエッセイで述べてきたように、チバニアンで起こった松山-ブルン地磁気逆転が、もっとも近い時代に起こった事件となります。その時代の地層を詳しく調べてわかったことは、前回まで紹介したように、2万年間、双極子磁場の強度が弱い状態が続き、非双極子ができては消えるという、不安定な状態になります。このような状態のとき、地球はどのような環境になるのでしょうか。

 地磁気全体が弱まるので、磁気圏のバリアの効果が薄れます。そのため、太陽風や銀河風などの強いプラズマや電磁波が大気圏内に入ってきます。低緯度でも頻繁にオーロラが発生するかもしれません。地表まで達すると、陸上生物、海面付近で暮らす生物に、影響を与える可能性があります。強烈な宇宙線を浴びることになり、DNAの鎖を切れてしまうことで、癌化する細胞が多くなるでしょう。宇宙線や電磁波の強度によりますが。人類にも、少なからぬ影響を与えるはずです。

 現在、人類の科学技術の多くは、電子機器に依存しています。先端の電子技術を用いた、つまりほぼすべての産業や文明は、壊滅的な被害を受けることになります。電磁波からの影響から守るためには、多大なコストがかかるでしょう。

 当面、使用可能なのは、昔ながら電気を用いないアナログな道具や機械になることでしょう。一次産業でも、昔ながらのガソリン・エンジンや蒸気機関、人力や牛馬を用いたものは、影響はないでしょう。そんな状態は、19世紀のような時代に逆戻りすることになります。現在、文明になれた人類に耐えられるのでしょうか。まるで、SFのような話しかと思っている方も多いでしょう。

 「3_180 北磁極の移動 1」(2019.08.22)から「3_184 北磁極の移動 5」(2019.09.19)のエッセイで、最近、磁極の移動速度が、5倍以上も速くなっていることを紹介しました。その時、今後地磁気の逆転が起こる予兆かもしれないという話しをしました。この現象が、もし逆転の予兆なら、どれくらいの猶予があるのでしょうか。今後の課題です。

 チバニアンの地層が、未来の危機に対して、重要な情報をもたらすことでしょう。チバニアンの認定は終わりました。今後は、地質時代としての重要性に着目した研究での貢献が期待されます。


・太陽嵐・

地磁気の逆転による被害は、予想もつきません。

太陽面での爆発であるフレアの巨大なものは太陽風と呼ばれ、

地表でも影響を受けることが知られています。

10年に一度ほどこのような現象がおこっています。

太陽嵐は、2013年には電波障害や停電が起こっており、

2015年には北海道の名寄でオーロラが観測されています。

ハッブル宇宙望遠鏡も太陽にもっと船体の厚い部分を向け

宇宙ステーションでは影響を受けにくい

位置に乗組員は避難する体勢を取ります。

CCDなども、宇宙空間に長く置いていると

宇宙線によって画素がかなりダメージを受けるそうです。


・晩秋から冬へ・

北海道は、各地の峠などで初雪のニュースが聞かれます。

私の町では、まだ初雪はありません。

でもストーブはかなり頻繁にたくようになりました。

厳冬期ほどの一日中、つけることはありませんが、

朝夕には毎日つけるようになりました。

いよいよ秋も終わりに近づいています。

2020年10月29日木曜日

3_191 地磁気逆転 3:非双極子磁場

 連続露頭から、連続的な地磁気の逆転の様子が読み取られてきました。地磁気の逆転は、どのように起こったのでしょうか。そこでは、別の磁気の変動の姿も明らかになってきました。


 チバニアンの4万年間の連続した地層で、古地磁気の測定がおこなわれました。そこの中から、地磁気が逆転していく様子も、連続的にとらえられるようになってきました。チバニアンの古地磁気の逆転は、2万年間のいう時間で起こっています。2万年は、人類にとっては長い期間ですが、地球史ではあっという間に起こっていました。

 連続データだったので、磁気の逆転の様子は、少々変な動きがあってことがわかってきました。それは、磁極が南北を、何度もいったり来たりしながら変化しているようなデータに見えました。しかし、この変動は、磁気の成分が混在してるためだったと考えられています。

 その説明する前に、双極子磁場と非双極子磁場について説明しておく必要があります。双極とは、棒磁石のN極とS極の2つ極があることです。双極子磁場とは、磁場がN極とS極がある状態をいいます。地球も双極子磁場の状態で、ほぼ南極と北極、にNとSの磁極があります。このような双極子磁場は、地球の液体金属の流動しているコア(核)が起源だと考えられています。

 一方、非双極子磁場とは、対にはなっていない磁場のことです。現在の地球でも何箇所かで、弱いですが不規則に発生していることが知られています。南米大陸の東側の海に、南大西洋異常域(South Atlantic Anomaly, SAA)と呼ばれる非双極子磁場があります。これは、地磁気軸と地球の自転の軸がズレてしていること(11度)が原因だとされています。そのズレで磁場が弱くなり、上空のバンアレン帯が、南大西洋上にまで落ち込んでいるため、非双極子磁場が発生していると考えれています。

 さてチバニアンの古地磁気ですが、逆転は、2万年間かけて起こっていたのですが、その間に双極子磁場が弱くなっています。そのため、非双極子磁場の方が強くなっていきます。非双極子磁場は不安定なので、繰り返し出現しては消えています。。非双極子磁場の成分のため、地球全体の磁場の位置が、変動して見えていることになります。

 では、松山-ブリュンヌ逆転の現象は、そもそも何が原因で起こるのでしょうか。そして今回の逆転の現象でわかってきた結果は、私たちに何を教えてくれるでしょうか。次回としましょう。


・函館へ・

今週は校務での出張が入るので、

このエッセイは、先週末に、予約送信しています。

函館への出張なので、久しぶりの遠出となります。

校務は、2時間ほどで済むのですが、

車で、高速道路を使っても、

片道が4、5時間かかることになります。

訪問の時間帯によっては

日帰りをすることになります。

今回は、朝早めの訪問だったので、

前泊が可能になったので

体力的には助かりました。

あとは天候しだいです。


・野外調査・

これまで、野外調査には、道内や道外へ

年に何度も出ていましたが、

今年は、校務以外では出ていません。

地質学者の多くが似た状況になっているのでしょうか。

それとも野外調査だから、通常に戻っているのでしょうか。

海外調査は、現状は不可能でしょう。

まったく研究が進められなく

なっているのではないでしょうか。

私の採択されている研究費は、

国内の野外調査が主たる項目のものでした。

コロナ禍への対処で、幸い項目の変更ができ、

自由な項目で支出できるようになました。

おかげで、野外調査以外の目的で

いろいろな研究を進めることができました。

2020年10月22日木曜日

3_190 地磁気逆転 2:連続露頭

 地磁気の逆転は、人類が経験したことのない異変です。もし現在起こったらどんな事態になるのでしょう。チバニアンはもっとも最近に起こった地磁気の逆転です。その様子がわかれば、対処も考えられるかもしれません。


 今回、チバニアンの地層の研究で成果報告がありました。国立極地研究所の羽田裕貴たちの研究グループが、ドイツの科学雑誌「Progress in Earth and Planetary Science」に報告しました。そのタイトルは、

 A full sequence of the Matuyama-Brunhes geomagnetic reversal in the Chiba composite section, Central Japan

 (中央日本の千葉複合セクションでの松山-ブリュンヌ逆転の全層序)

というものでした。千葉複合セクションとは、4箇所の露頭(養老川セクション、養老田淵セクション、柳川セクション、浦白セクション、小草畑セクション)を合わせたものを一連の地層とみなしているということです。これらの複合セクションは、チバニアンの採択に用いられた重要な露頭群となります。

 もともとこの地では、「松山-ブリュンヌ逆転」を記録した地層が連続して分布していることが、認定の理由になっていました。羽田さんたちは、千葉複合セクションのひとつの養老田淵セクションと養老川セクション上位にあたる地層で掘削して、新たに古地磁気の測定をしています。

 新たに掘削した地層は、逆転の境界の位置が一致しているため、連続した地層と見なせるとのことです。これらの地層に、すでの報告されているデータも加えることで、4万年分の連絡した古地磁気のデータを得られたとこになりました。

 連続した地層のデータが手に入ると、磁気の逆転の様子を、時間経過とともに連続的に読み取れる素材となります。地層ごとに正確に位置(時代)を記録しながら、地層に残された磁性を測定していきます。古地磁気の測定では、単に磁気の逆転の位置だけを調べるわけではなく、古地磁気の方位と強度なども測定しています。

 連続したデータなので、磁気の逆転から現在の状態になるための、磁気の逆転の異変が、磁気強度や方位の変動などとして読み取ることができると考えられています。そこから磁気の逆転という、これまで文明を持った人類が一度も経験したこともない事件を、詳しく探ることができるようになります。そして、新しい事実もわかってきました。

 その様子は、次回としましょう。


・晩秋・

北海道は、足早に秋が深まってきて、

紅葉が一気に進んでいます。

その紅葉も大量に落ちるようになりってきました。

秋風が吹くたびに、落葉が舞い

雨が降るたびに、葉が落ちていきます。

今年の秋は、足早に進むようです。

朝夕にはストーブを焚くようになりました。

先週末に冬布団が打ち直しから戻ってきました。

今週は冷え込んだので、冬物の掛け布団にしました。

それでちょうどいいようになりました。

秋もそろそろ終わりかけています。


・倫理資料集・

現在、執筆のために、文献を読んでいます。

これまで興味をもっていたのですが、

手つかずていた分野、哲学史、地質学史です。

文献も書籍も集めていていくつかの読んでいたのですが、

今回、一気に読んでまとめていく作業をしています。

やりだせば、きりがないですが、

地質学史はほぼ目処がたっていますが、

哲学史がどこまでやればいいのかが不明です。

そこでみつけたのが、高校の倫理の資料集です。

これでは、かなり詳しく、原典資料もあり、

非常に便利であることがわかりました。

この資料手がかりに進めていこうと考えています。

2020年10月15日木曜日

3_189 地磁気逆転 1:チバニアン

 チバニアンは、日本の地層ではじめて国際的な標準地に選ばれて、時代名称になったものです。最近、チバニアンで新しい研究が報告されました。その研究には、どのような経緯があるかをみていきましょう。


 2020年1月17日、国際地質科学連合によって、地質時代の名称に日本を模式地とした「チバニアン」が認定されました。認定される前にも何度もニュースになり、このエッセイでも紹介したことがありました。そのためご存知の方も多いのではないでしょうか。

 チバニアンに関して、なぜ日本で認定されたのか、あるいはそもそもその時代名称にどのような意味があるのか、についてみていきましょう。今回紹介する論文は、この意味に関連しています。

 時代名称を決めるにあたって、その時代の前後の境界が重要になります。時代境界にははじまりと終わりの両側が必要になります。もしどちらか一方が決まっていれば、もう一方を決めればいいわけです。チバニアンの場合は、前の時代との境界を決定することになります。

 チバニアンより前の時代は「カラブリアン」です。この時代境界の決定に関しては、千葉の他にも2箇所、イタリアに候補地があって、3箇所で争っていました。カラブリアンとチバニアンの境界を、根拠をもって正確に決められたことが、チバニアンに決定される重要な根拠になっています。

 新生代第四紀更新世は、4つに区分されているうちの、チバニアンは古い方から3番目に当たります。その期間は、78.1万年前から12.6万年前までとなります。カラブリアンとチバニアンとの境界では、地磁気の逆転が起こったことが、地質学的に重要な事件とされています。

 地磁気の逆転は、地球史上何度も起こっているのがわかっているのですが、もっとも新しい地磁気の事件がチバニアンに関係しています。その事件は、現在の磁場と比べると磁気が逆転していることになるので、その事件の名称も「松山-ブリュンヌ逆転(258万~77万年前)」と呼ばれています。200万年近くの間、現在の磁極とは逆転していました。そして現在の78.1万年前に現在の磁極に変わった事件を、この時代境界にしようと考えられました。

 松山-ブリュンヌ逆転とは、二人の発見者の名称から名付けられています。松山は、日本の地球物理学者である松山基範(まつやま もとのり)さんに由来しています。松山さんは、兵庫県の玄武洞や東アジア各地で古地磁気を調べた結果、地球の磁場が、現在のものとは反転していることに初めて気づき報告しました。

 日本の研究者が日本で地磁気の逆転を発見し、その事件が、時代の境界に当たるわけです。古地磁気で逆転を発見した人も、発見された場所も、千葉とは関係はないのですが、心情的には、そのような由来の時代に、日本が関係する名称になって欲しと思ってしまいます。その結果として、千葉のチバニアンに決定され、大きなニュースになりました。

 その地を舞台に、新たな報告がありました。その内容は次回としましょう。


・冬布団・

北海道は寒くなってきました。

時々ストーブをつけるようになってきました。

長くつけていくと暖かくなりすぎることが多いので、

そんなときは停めてしまいますが、

ストーブが恋しい季節になりました。

現在、冬物の布団を打ち直しに出しています。

夜寝る時、少々寒く感じるようになってきました。

夏過ぎに出したのでどうなっているか気になってきました。

1月以上かかるとは聞いていたのですが、

現在、進行状況を問い合わせ中です。


・季節の巡り・

毎年、この時期、授業で落葉拾いをするのですが、

9月下旬は落葉が少なかったのですが、

10月に入ると、一気に紅葉が進み

落葉もたくさん落ちはじめました。

ところが、紅葉は木の上や端の方から

まだらに進んでいっています。

紅葉のはじまり工合が不順です。

今年は、天気のいい日に雪虫が

少し飛んでいるのをみたのですが、

まだ数が少ししか見かけません。

これからでてくるのかもしれませんが、

季節の移り変わりがいつもとは違うようです。

2020年10月8日木曜日

1_188 初期重爆撃期 5:隕石から地球へ

 HED隕石の母天体ベスタは小惑星帯にあります。HED隕石からベスタの記録が、そこから太陽系の形成初期の環境が復元できます。その記録は、地球形成初期の環境とも関連してくることがわかってきました。


 今回紹介している報告では、5つの隕石以外に、同じ隕石内の別の鉱物での年代値、あるいはベスタ由来の別の隕石の年代値も利用して議論しています。隕石の状態や鉱物の種類によって、これらの年代値の持つ意味が異なってくることは紹介しましたがそこから母天体である小惑星ベスタの形成初期の履歴が復元されていきます。

 もっとも古いのは、角礫化していない隕石や角礫化したものでも頑丈な鉱物(ジルコンなど)から得れた45億年前より以前のもの(44.9から45.5億年前)で、これは母天体で最初にあったマグマの活動になります。玄武岩ユークリットは火成作用でできたことも前に紹介しました。他の論文によって、角礫化されていない他の隕石(NWA 6594)のアパタイトからも、45.03億万年前の年代がえられています。火成作用の条件として、最大圧力は50~60GPaで、温度は1160~1200℃と推定する報告もあります。

 角礫化した隕石からは、44~41.5億万年前の範囲の年代があり、最初のマグマの活動より新しい時期です。この報告の隕石の値は、41.5億万年前より新しい時代のものと、それより明らかに古い年代もあります。これらの隕石でも、後の衝突事件をAr年代を調べると、40億前年より新しい時代(37.5億年前)がえられています。この時代に、ベスタに大量の隕石が衝突したことが分かりました。しかし、このような新しい時代の記録は、これまでの報告を調べても、非常に少なくなっています。

 このような年代値は、角礫化した隕石ブレシア(アパタイトとメリライト)からも42~41億年前の年代が、ベレバ(アパタイト)でも42億年前のものが見つかっています。この時期が、小惑星での後期爆撃のはじまりと解釈されています。ところが、今回の報告も含めて、40億年前よりより古い年代(44~41.5億年前)が多数えられたことになります。

 これまで太陽系では隕石の衝突事件(爆撃、あるいは重爆撃と呼ばれています)で、後期爆撃のピーク年代は39億年前頃だと推測されていました。約39億年前より以前にも、隕石が月や小惑星に衝突した「初期爆撃」があったという仮説がありました。

 42億年前(41億5000万年前)より古い年代は、ベスタではこれまで知られていない年代でしたが、今回の報告で、「初期爆撃期」の年代があったことが明らかになりました。後期重爆撃に相当する年代は、リン酸塩ではえられていません。

 これまで、太陽系の惑星内では、後期爆撃期の影響を激しく受けたと考えらていました。ところが、少なくともベスタでは、後期爆撃期の衝突より前期爆撃期のほうが激しかったことになります。

 では、このベスタからわかってきたこと(初期爆撃が激しかったが、後期爆撃はそうでもなった)は、太陽系全体で起こっていたと考えられます。地球において、約39億年前という時代は、海洋が形成され、その直後には生命が誕生していたかもしれません。その後、生命は進化を続けています。つまり、地球の表層環境は、後期爆撃の影響はあまり受けず、穏やかで安定していたと推定でき、ベスタの事実は地球の初期進化において重要な意味を持っています。

 今回の報告は、太陽系において、初期爆撃期が重大な事件となり、後期爆撃期の影響はあまりなかったということがいえそうです。地球の歴史から推定された太陽系惑星空間の環境が、地球外の隕石からも支持されたことになります。これが、論文の重要な結論ではないでしょうか。


・隕石の所有・

隕石は、だれでもが目にしたことがあるでしょう。

主には博物館などの展示でしょうか。

隕石を所有することもできます。

博物館のショップや鉱物や化石を売っている店では

隕石も販売していることがあります。

博物館も隕石を扱っている業者から購入しています。

もちろん、ありふれた隕石は安価で

珍しいものは高価になります。

でも、太陽系の初期や地球外でできた石を

だれでも簡単に手にすることができます。

私も研究のためでなく、3種類の隕石を購入して、

机の引き出しに入れています。

当然、隕石の種類を代表するものです。


・ストーブ・

10月になり、北海道は涼しくなってきました。

大学の研究室では、9月の下旬にはまだ窓を開けて

空気を入れ替えていたのですが、

最近では、窓を開けることなく、

足元に置く電気ストーブを出して使いはじめました。

少しつけると暖かくなるのですぐに切りますが。

夏と冬の切り替わりの季節になりました。

2020年10月1日木曜日

1_187 初期重爆撃期 4:それぞれの年代値

 母天体のわかっている隕石で、アパタイトの年代が測定されました。5つの隕石のアパライトから、いろいろな年代値がえられました。そこから、何が読み取られるのでしょうか。


 前回、アパタイトを年代測定に利用する意味を紹介しました。記録されている年代が、450℃という中間的な温度で書き換わることが、アパタイトの特徴でした。その温度での出来事は、母天体、そして地球や太陽系の天体の歴史への重要な手がかりとなっていました。

 この報告で用いられたのは、玄武岩質ユークライトという隕石、5種ですが、そのうち3つは角礫状で、他の2つは角礫化していないものでした。

 ひとつの隕石で何個もアパタイトがえられ、いくつもの年代がえられます。同一隕石内の複数の鉱物を測定することで、年代を示す線(アイソクロンと呼ばれます)から年代値を求める方法もあります。アイソクロン法では、同じ隕石内のアパタイトは同じ履歴を記録していると仮定して求めることになります。これはよく使われる手法ですが、もしかすると課題あるかもしれませんが、今回はそれには言及しません。

 それぞれの隕石からえられたいくつかの年代をみていきましょう。

 角礫状玄武岩ユークリットから見てきましょう。ジュビナ(Juvinas)は、アパタイトのアイソクロン年代は45.169億年前とメリライトという鉱物のアイソクロン年代は41.503億年前でした。キャメルドンガ(CamelDonga)は45.7~43.7億年前付近ですが値はばらつきますが、44.914億年前や、そこからはずれたものからは43.72億年前がえられました。スタナーン(Stannern)は、41.430億年前の年代がありますが、44~41.5億年前のいくつもの年代があり、もしかすると、この期間中に複数の熱変成イベントがあった記録かもしれません。

 角礫化していない玄武岩ユークリットでは、アグルト(Agoult)のアイソクロン年代は、45.248億年前と40.5248億年前の年代もえられました。イビティラ(Ibitira)は、45.52億年前でした。

 角礫化した隕石は、これまで天体形成の初期の衝突合体の時期に、激しい衝突(爆撃期)に変形して形成されたと考えられていました。年代はその痕跡を示している可能性があります。一方、角礫化していない隕石は、火成活動など母天体の形成や形成後の天体の大規模な活動の記録を残している可能性があります。

 これらの年代から、母天体である小惑星ベスタの形成初期の履歴が復元されていきます。論文では、これらの結果に加えて、同じ隕石の別の鉱物なので年代、母天体由来の隕石の年代値も利用して議論しています。その話は、少し複雑で長くなりますので、次回としましょう。


・後期の遠隔授業・

わが大学では先週の連休明けから

後期の授業がはじまりました。

半分以上の講義は、まだ遠隔授業となっています。

しかし、ゼミナールや資格課程の授業では

対面授業がおこなわれています。

私の担当の授業の半分以上が対面授業となっています。

遠隔授業もいくつかあるので、

その準備に手間取っています。

先日は音声が途中で切れているという

学生からのクレームもあり、慌てて録音し直しました。

原因は不明です。

これからも、何がおこるかわかりませんので、

緊張が強いられます。


・ストーブの季節・

北海道は9月になってから秋めいてきました。

それでも暖かい日もあったのですが、

先週末あたりからかなり涼しくなってきました。

我が家では、週末に、衣替えをしました。

日曜日の午前中は、日が差さないときは

自宅でも足元が冷たく感じてしまいました。

ストーブの調子をみるためにも一度たきました。

しばらく炊いていると、暖かくなりすぎたので消しましたが、

もうストーブの季節になってきました。

2020年9月24日木曜日

1_186 初期重爆撃期 3:アパタイト

 論文では、隕石中の微小な鉱物で年代測定をしています。その鉱物は、丈夫な鉱物ではあるのですが、ある程度の温度で変成を受けてしまいます。その特徴を逆手にとって、温度と年代を利用しようというアイディアです。



 年代測定には、アパタイト(燐灰石)という鉱物が利用されました。アパタイトは、リン酸カルシウムという鉱物で、その化学組成は、Ca5(PO4)3F(一部ハロゲン元素を含むことがあります)となっています。いったん結晶が形成されると、変成や変質でも壊れにくい、かなり丈夫な鉱物です。ですから、変成作用などを受けた古い時代にできた岩石でも、もとの化学組成や年代を残しています。

 アパタイトは、もっと丈夫な鉱物と比べると、変成作用などによる温度の影響を受けやすくはなっていますが、もっと弱い鉱物よりは高温まで情報を保持しています。論文では、このような中間的な温度条件で影響を受けるアパタイトの特徴を利用して、変成温度に着目した年代測定がなされ、その温度と年代の意味を考えています。

 アパタイトの成分の一部(Caの部分)が、ウラン(U)に置き換えられることがあります。ウランには放射性をもった成分(核種といいます)が含まれており、その放射性核種を用いることで年代測定ができます。ウランの年代値から、アパタイトが形成された年代と、変成をうけた年代が読み取れることになります。

 この論文では、変成作用でウランが固定される温度(閉鎖温度といいます)に着目しています。アパタイトの閉鎖温度は、かなり高温(約450℃、論文では「中程度に高温」と表現されます)になっています。高温(900℃)で閉鎖するジルコンの年代測定(U-Pb法)や、低温(300℃)の斜長石の年代測定(K-Ar法)と比べて、アパタイトの450℃という温度は、中間的な温度の重要な手がかりとなります。

 ただし、隕石の中のアパタイトは非常に小さい結晶しかないので、年代測定も困難です。それを分析するためには、小池さんたちは、二次イオン質量分析計(SIM)というものでも、微小部分の分析ができるナノスケール二次イオン質量分析計(NanoSIM)という特別な装置を用いて分析されています。10μm程度の部分があれば年代測定が可能です。アパタイトの閉鎖温度と年代から、隕石が経てきた履歴を読み取ることができます。

 その年代値については、次回としましょう。


・秋の訪れ・

全国的でしょうが、一気に秋めいてきました。

北海道も、涼しくなり、朝夕は厚手の上着が欲しくなります。

気の早い家庭では、もうストーブを

たいているところもあるようです。

我が家はまだですが。

寒い夜に冬物の半纏を着ましたが、

ちょうどいいくらいでした。

今年は、暑さ寒さの変動が激しいようです。


・後期授業・

大学の後期の授業では、やっと一部ですが、

対面授業が戻ってきました。

対面授業の中で、落ち葉を用いるものがあるのですが、

あと2週で、紅葉が進み、落ち葉ができるが心配です。

毎年の心配していることですが

今年は、対面授業ができる喜びの方が大きです。

ただ、多くは遠隔授業の方が多いので、

その準備に、これから毎日、追われることになりますが。

2020年9月17日木曜日

1_185 初期重爆撃期 2:HED隕石

 石質隕石のうち、分化したHEDと呼ばれるグループは、小惑星ベスタから飛んできたのではないかと考えられています。HEDのなかでも玄武岩質ユークライトを調べることで、ベスタの地殻の情報が読み取られます。

 専門的論文をみていくのに、まず、隕石の紹介からはじめていきましょう。
 この論文では、隕石でも少々特異な種類に注目され分析されています。隕石の種類には、石質隕石、鉄隕石、両者が混在した石鉄隕石の3つに区分されています。一番多いのは石質隕石ですが、それぞれの隕石はさらに細分されています。
 隕石は、それを供給した天体(母天体と呼ばれています)があると考えられています。その天体が成長していき、ある時破壊され、その破片が地球に落ちてきたのが隕石となります。隕石の中で似たものは、同じ母天体から由来したと推定されています。
 成長していった母天体では、鉄が溶融しが落下、中心部に集積していき、核にが形成されていきます。核の部分が砕けると、鉄隕石の起源となります。石鉄隕石は、核とマントルの境界や鉄の集積途中にあたる部分から由来していることになります。
 石質隕石には、球状の粒子(コンドルール)が集まったコンドライトと呼ばれるものと、粒子がないエイコンドライトに区分されます。隕石の大半はコンドライトです。コンドライトは、太陽系の最初に形成された固体物質の集合体で、惑星や衛星などの材料になったものと見なされています。最初の固体が集まった組織が残っているので、母天体があっても、変成や溶融が起こることなく、成長していない小さい天体から由来したことになります。
 一方、エイコンドライトは稀なタイプです。エイコンドライトは、溶融した特徴をもっており、成長した母天体から由来したことになります。エイコンドライトにもいくつかの種類があり、その中で半分近くを占めるのが、HED隕石(ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイトの頭文字をとったグループ)です。このHED隕石のグループの母天体は、小惑星ベスタの地殻に由来したと考えられています。
 HED隕石の研究すれば、小惑星ベスタの実態が明らかにあります。年代から、ベスタが激しい火成作用で結晶化した時期が、約44.3億年前から45.5億年前と推定されています。溶融し分化した隕石なので、当然、惑星として内部に層構造(核、マントル、地殻)ができていたり、地殻には火山岩である玄武岩もありました。かつては、火山活動をしていた可能性があることもわかってきました。
 今回の論文で分析されたのは、ベスタを母天体とするユークライトでも玄武岩質ものでした。これらを知らべることは、ベスタの惑星表層の地殻を探ることになります。論文では、5つの玄武岩質ユークライトと調べられています。その3つ(Juvinas、Camel Donga、Stannern)は角礫状で、他の2つ(AgoultとIbitira)は角礫化していないものです。

・隕石は人を選ぶ・
小さな隕石でも、珍しい種類もあり、
そこから読み取れる情報は、貴重なものになります。
素材は小さいですが、読み取った情報は
惑星形成や太陽系の創世期の重要な証拠となります。
小さいですが、貴重な試料です。
隕石から情報を読みとるためには、
施設や機材を備え、それを扱える研究者でなければなりません。
そしてなにより、アイディアが必要になります。
隕石の研究は、人を選びます。

・博物館にて・
博物館に在籍しているときは、
業務として多様な隕石を集めていました。
その結果、いろいろな隕石を肌で感じることができました。
しかし、隕石からの情報は、
高度な分析装置を用いてしか読み取ることができません。
博物館では、専門家の研究のために
試料を提供することもありました。
しかし貴重な展示用資料でもあるので、
誰にでもというわけにはいきませんでした。
日本では、極地研究所があり、
南極で採取した大量の隕石を収蔵しています。
目的をもった研究者には無料で提供されます。
また、研究設備も整っています。
今の研究者は恵まれた条件が提供されています。

2020年9月10日木曜日

1_184 初期重爆撃期 1:専門誌の論文

 専門誌に紹介された論文で、興味深いものが掲載されました。専門論文は、限られたコミュニティ内でのものなので、前途となる知識がそれなりにないと意味が理解できません。今回はそんな論文を紹介します。

 地球、あるいは太陽系惑星の形成過程に再考を迫る重要な論文が報告されました。地球・惑星科学の専門誌である"Earth and Planetary Science Letters"の9月号(電子版には2020年8月26日公開)に掲載されたものです。
 Evidence for early asteroidal collisions prior to 4.15 Ga from basaltic eucrite phosphates U-Pb chronology
 (玄武岩質ユークライトのリン酸塩のU-Pb年代測定から41億5000万年前より以前の初期重爆撃期の証拠)
というタイトルの論文でした。広島大学大学院の小池みずほ助教らの研究グループによる成果です。専門誌なので専門家のための論文になり、タイトルだけでは、一般の人にはその意義がなかなか理解できないものになっています。まあ、これが専門誌の役割でもあります。
 まず、この論文のタイトルを理解するためには、玄武岩質ユークライトとリン酸塩の年代測定、41億5000万年前より以前という年代、重爆撃期というものを理解していないとなりません。
 少し詳しくいうと、玄武岩質ユークライトという隕石の種類があるのですが、論文内では、角礫化していないものと、しているものでの年代測定をして比較しています。また、年代測定に利用されたのは、リン酸塩なのですが、アパタイトと呼ばれる微小な鉱物でした。そもそもアパタイトとはどのような鉱物で、なぜ年代測定に用いるのでしょうか。年代測定には、SIMという装置(この論文ではNanoSIM)という特別な装置を用いて、微小なアパタイトが分析されています。年代として、41億5000万年前というものと、それ以前の意味するところ、また重爆撃期には初期と後期があるので、年代とどう関係がるのでしょうか。これらのいろいろなことを理解していないと、次の段階へ進めません。
 この論文は、ある種の隕石から得られた年代から、今までの惑星形成の一般的なシナリオに対して修正を迫る内容となっています。次回からは、上の専門的な内容を紹介ながら、論文の意義も示していきましょう。

・専門誌・
専門誌に掲載される論文は、
専門家のコミュニティだけでの
成果報告とその評価の場に提供されるものです。
同じ専門誌に多数の掲載された論文でも
雑誌がカバーする分野が広ければ、
自身が興味を持っている分野以外は
なかなか理解が難しいこともあります。
今回の論文でいうと、隕石、年代測定、惑星形成過程など
それぞれに関する基礎知識がないと、
その意義は理解できません。
専門誌の論文は、読む人も選びます。

・自然災害・
大型の台風10号が沖縄から九州を襲いました。
大型であったので、早くから特別警報がだされ、
その後も各地で警報が続きました。
九州や四国、中国では、洪水や停電の被害もでたようです。
お見舞い申し上げます。
幸い北海道は大きな影響を受けまぜんでした。
夏の暑さから一転、台風の被害です。
自然災害がここ数年繰り返されています。
しかし、気象の観測技術が向上して予報が正確になっても
やはり最終的に個々の人の判断が重要になってきます。

2020年9月3日木曜日

4_154 支笏の森で昼食を

 新型コロナウイルスの猛威はとどまりません。北海道も下火ではありますが、まだ抑えられていません。大学では自粛が継続しているのですが、久しぶりに私的に市外へ出かけました。

 先週の平日、一日、休みをとって、人気のなさそうなところで、好きなコースを巡ることにしました。今年は、8月下旬に北海道では蒸し暑い日が続いたので、避暑として一日涼みにいくことにしました。恵庭の市街地から漁川を遡り、支笏湖を周って、千歳川を千歳の市街地へと下るコースです。このコースには、漁川沿いには、いくつもの滝があり、千歳川沿いには、きれいな川による景観が広がっています。気温に関係なく、清涼感があるところです。それに標高もかなりあるので、外界よりは涼しいはずです。2、3年に一度は、この気に入ったコースをドライブします。
 支笏湖周辺には温泉や旅館も多数あり、またキャンプ場もいくつもあるので、短時間でも宿泊でも、さまざまな時間で楽しむことできます。今回は、標高の高い支笏湖の涼しいところで、昼食を食べるという短時間のドライブを予定していました。
 まだコロナ禍なので、人出は少ないだろうなと考えていました。漁川沿いの道は、もともと人通りの少ないところですので、のんびりと川や滝を見学しながら、進みました。しかし驚いたことに、支笏湖のキャンプ場は三密といえるほどの混みようでした。自然の中でのキャンプなら、三密にならないだろうとのことで、多くの人が来ていたようです。札幌からも近いし、支笏湖なら涼しいしと、考えることは、皆同じですね。
 売店は人がいっぱいの様子なので、すぐに諦めて、Uターンをして、別のところを目指すことにしました。支笏湖の温泉街の駐車場は、車を多くなかったのですが、それなりに停まっていました。もともとそこは行く予定ではなかったので、地元の人だけが知っている公園にいきました。
 ところが、そこも駐車場が思ったより多く車が停まっていました。しかし、広い公園なので、視界に人はいません。湖を眺める展望台に時々人が見えたり、車の出入りが少しあります。多くは、湖を散策に行っているのでしょう。人気のない穴場となっていました。
 その湖畔の森は、暑いほどではなかったので、標高が高く、湖沿いの静かな森の中なので、昼食をとることにしました。持ってきたキャンプ用に椅子を担いで、気持ちのよさそうな木陰を見つけて、買ってきた食事を、家内とのんびりと摂りました。コロナを避けながら楽しめるドライブでしたが、久しぶりの外出で、半日の外出でしたが、リフレッシュしました。

・涼しい北海道・
北海道は先週末から涼しくなりました。
一気に10℃ほど下がってきました。
多分、これが例年の北海道の気候ではないでしょうか。
暑い日から、一気に涼しくなると、
一気に気持ちも体も、ホッとするような気がします。
涼し気温のままでいることはないのでしょうが、
もう真夏の暑さはこないでしょうね。
そう願いたいものです。

・野生との共存・
今年の北海道では、ヒグマの目撃ニュースが
各地から報道されています。
2年ほど前、わが町にもヒグマが徘徊していると
警戒されてたことがありました。
畑を荒らしたり、
設置さられたカメラに写ったりしていました。
被害を与えたり、人に危険にならない限り
駆除されることはありません。
人間側が警戒して近づかないという方針です。
そもそも、人間が野生の中へと侵略していったため
起こっている摩擦のはずです。
だから、人間側が遠慮すべきなのですが、
いつも遠慮させられるのは野生側ですね。
野生動物との共存はなかなか難しい問題です。

2020年8月27日木曜日

1_183 チクシュルブの衝突 4:シミュレーション

 K-Pg境界の隕石衝突でできたクレータを、シミュレーションで再現したら、衝突の様子が復元できました。わかっていたことですが、シミュレーションで検証でき、新しい可能性もでてきました。

 これまで、K-Pg境界の大絶滅の原因について、20年以上に渡って論争され隕石衝突であることが決着をみました。その結論は、2010年には集大成されました。かといって、衝突現象のすべてがわかっていたわけはなく、詳細がわからないことも色々ありました。
 そのひとつとして、隕石の衝突した軌道については、よくわかっていませんでした。そこで、いよいよ論文の内容の紹介となります。コリンズ(Collins)たちの共同研究で、2020年5月のサイエンス誌の公開されました。そのタイトルは、
A steeply-inclined trajectory for the Chicxulub impact
(チクシュルブ衝突の急角度の軌跡)
というものでした。
 チクシュルブの衝突でできたクレータの地下構造からわかっていることを整理してきます。衝突当時のチクシュルブは、海に面し、そこには石灰層が堆積しているような浅海でした。衝突により、直径約200km、深さ15から25kmの巨大なクレータがユカタン半島と海底にできていることがわかってきました。衝突による放出物は、対称な形で飛び散っているのですが、クレータの構造は非対称になっています。このことから、隕石が、北東方向から斜めに突入した衝突であったことがわかります。
 コリンズたちは、この斜め衝突を3次元でのシミュレーションで再現していきました。隕石の直径を17km、衝突速度を12km/秒という初期条件を設定しました。衝突の角度を地表に対して90度、60度、45度、30度で変化させてシミュレーションしました。クレータの形状と放出物の分布を、衝突のシミュレーションで再現できるか確かめました。
 その結果、90度と30度では合わず、45度~60度の角度で衝突したとすれば、クレータの構造をうまく説明できることがわかりました。この衝突の角度ならば、放出物が対称に散らばることも説明できました。さらに、ガス放出量も最も多いこともわかりました。この結果は、K-Pg境界で起こった現象を考えるときに重要な情報、あるいは束縛条件になるはずです。
 結論としては、当たり前のことになりましたが、いろいろな手法での検証は必要でしょう。今回のエッセイでは紹介をはぶきましたが、カリブ海からメキシコ湾沿岸には、高さ300mもの巨大な津波による堆積物も確認されています。また、世界各地でイリジウム以外にも衝突の痕跡がみつかっています。衝突から、全地球に及ぶ現象のシナリオを、考えることが課題となりそうです。多分さまざまな現象の連鎖になっているはずです。海でも、陸でも大絶滅が起こっているのですから。

・出張・
先週、校務で久しぶりに市外に出張することになりました。
2日間、別のところにいきました。
1日目は、自家用車で近隣の街へでかけました。
車の運転も久しぶりになりました。
2日目は、大学の公用バスで旭川へとでかけました。
長距離移動も久しぶりで、なんとなくワクワクしました。
今週は計画有給をとることになっていますので
一日、家内と山へドライブに出かける予定です。

・PC更新・
8月になって、メインで使用しているデスクトップパソコンが
突然、立ち上がらなくなりました。
3年間しか使っていません。
その時も破損によって更新しました。
どうも最近パソコンの破損が繰り返されます。
そのため、新しいパソコンが、急遽、必要になりました。
研究費を工面して、とりあえず購入することにしました。
5月に自宅のパソコン環境を5年ぶりに新しくしたところで、
再度、多くのソフト、データのセットアップが必要になります。
できれば、前のパソコンで使用していた
SSDとHD、メモリを増設したいのですが、
小さすぎて入れるスロットがありませんでした。
グラフィックカードはいれましたが、残念です。

2020年8月20日木曜日

1_182 チクシュルブの衝突 3:衝突説へ

 K-Pg境界の事件が、隕石衝突説として決着するまで、多数の反論がでてきました。その多くは地質学者からのものでした。しかし、隕石衝突説を支持する証拠も、地質学者が提示しています。

 ルイスらは、K-Pg境界にある薄い層だけにイリジウムが濃集している、という測定結果から、推測を進めていきました。
 K-Pg境界の事件は、生物の大絶滅を起こしていますから、隕石衝突の影響は地球全体に広がっていたと考えられます。その前提から、イタリアのグッビオのK-Pg境界の地層の濃度から、イリジウムが全地球に分布するために必要なイリジュウムの全量が推定していきます。隕石のイリジウムの平均的な濃度から、全地球にイリジウムを衝突でばらまくには、どれくらいの量が必要か推定できます。その結果、直径10kmとなりました。
 K-Pg境界の地層が、グッビオ一箇所だけでは、説得力がありません。デンマークのスティーブン・クリント(Stevns Klint)海岸の崖にも、K-Pg境界の地層が分布していました。そこからも試料を入手して、放射化分析しました。すると、やはりイリジウムの濃集が見つかりました。その濃度を用いて隕石の大きさを推定したら、直径が約6kmとなりました。
 このような証拠と推定からの結論を、1980年に論文にして報告しました。その論文は、大きな反対にあいました。なぜなら、隕石衝突による大絶滅は、このシリーズの最初に書いた、激変説の再来だったからです。
 反対論者も、イリジウムの濃集という現象を説滅する必要があります。その由来を地球内の現象に求めました。候補として、その時代に活動した巨大な火山として、インドのデカン高原の火山噴火(デカン・トラップと呼ばれている)が上がりました。そこでもイリジウムの濃集は見つかっています。火山活動は、K-Pg境界の時代より100万年前から始まり、その後も100万年間続いています。地球全体で大絶滅を起こすには、十分な規模と期間でした。
 ところが、その火山活動中も、恐竜が生き延びていたこと(恐竜の卵化石の発見)が、後にわかってきました。ですから、かなり巨大の火山噴火でも生物種を絶滅させることは難しいことになります。また、デカン・トラップの火山では、他の元素(クロムやニッケル)の濃集もありました。ところが、他のK-Pg境界では、そのような元素の濃集はありませんでした。大絶滅の原因として火山説には、不都合な証拠が見つかってきました。
 隕石衝突説の論理は明快で、他地域でもK-Pg境界があれば、さまざまな検証作業ができます。激変説に賛同した人(あるいは反対した人も)は、隕石衝突のさまざまな証拠(反対論者は隕石ではない証拠)を探していきました。その結果、スス(大火災の証拠)、衝突石英(激しい衝撃を受けた石英に現れる構造)、巨大津波の堆積物(海での衝突で発生)など、いろいろと衝突の証拠が、世界中のK-Pg境界で見つかってきました。そしてとうとう、隕石の衝突現場も、メキシコのユカタン半島付近のチクシュルブであることが、突き止めされました。
 そして、2010年には、各分野の研究者40数名の共著論文が、アメリカの科学雑誌サイエンス誌に掲載され、隕石衝突がK-Pg境界の大絶滅を起こした、と結論づけられました。この論文をもって、K-Pg境界の大絶滅は隕石衝突で一応の決着をみたことになります。
 さて、いよいよ次回からは、衝突クレーター、チクシュルブの実態についての最新の話題へと入ってきましょう。

・チョーク・
デンマークのスティーブン・クリントは訪れたことがあります。
地元の人には、なんの変哲もない海岸なのでしょうが、
日本から来たものにとっては、興味深い海岸でした。
海岸の崖は、白亜からできていました。
白亜とは「チョーク」のことです。
もともとチョークは海のプラントンの遺骸の集積で
殻は炭酸カルシウムからできています。
この地には、駐車場がありましたが、
小さなレストランと小さな博物館があるだけでした。
一応、観光地だったようですが、
多分観光のメインは海水浴場のようでした。
とことが大きな石ころだらけで
日本の海水浴場の海岸とはかなり違っていました。

・日本のK-Pg境界・
日本でもK-Pg境界の地層が見つかっています。
北海道の十勝郡浦幌町の川流布(かわるっぷ)川の支流の
河岸の小さな露頭に、
5から10cmほどの薄い粘土層としてあります。
いったことはないのですので、
写真で見る限り、よくこの地で見つかったな
と思えるような小さい露頭です。
変形して曲がっているので、
衝突を想像させる露頭ではなさそうです。
よく、K-Pg境界だと判定できなと思います。

2020年8月13日木曜日

1_181 チクシュルブの衝突 2:イリジウム

 K-Pg境界の大絶滅は、隕石の衝突であることがわかってきました。そこには、物理学者の父と地質学者の息子がかかわっていました。両者の専門が組み合わさることで、はじめて謎が解明されました。

 K-Pg境界(中生代と新生代の時代境界)で起こった大絶滅事件は、どのようにして提唱され、検証されたのか、概要をみていきましょう。
 大絶滅の原因解明には、アメリカの物理学者ルイス・アルバレス(Luis W. Alvarez)が、大きくかかわっています。ルイスは、素粒子の挙動を調べるために、水素泡箱と呼ばれる装置を利用して素粒子の研究をしたり、さまざま独創的な物理実験のための装置を開発しました。素粒子学への貢献によってノーベル物理学賞を受賞しています。
 このルイスが、恐竜絶滅とどういう関係があるのでしょうか。それは、放射化分析という装置と方法をルイスが使えたからです。原子炉や加速器などで、中性子や荷電粒子を試料に照射すると核反応によって、成分の元素(核種)が放射化(放射能を持つ状態になる)され、短い時間の放射線(ガンマー線)を放出して安定な元素(核種)に変わります。この時、ガンマー線のスペクトル解析をすると、その元素のガンマー線強度が測定できます。同時に放射化した濃度がわかっている試料(標準試料)と、強度を比較することで、濃度を測定することができます。この方法は、微量は成分の検出に非常に適しています。
 ではなぜ、K-Pg境界に適用しようとしたのでしょうか。それは、ルイスの息子のウォルター(Walter Alvarez)が地質学者であったことと関係しています。ウォルターは、イタリアの昔の地中海で堆積した地層で、古地磁気学の研究をしていました。磁気の反転の繰り返しから、古地磁気から年代を推定する方法を確立したことで、過去1億年間の年代の同定が可能になりました。調査地のイタリアのグッビオに、K-Pg境界の地層が連続して分布していまました。
 グッビオの境界をまたいで、ウォルターが連続的に試料を採取しました。その試料をルイスが放射化分析をしました。親子の関係だけでなく、両者の専門とする地質学と物理学(放射線分析学)が、この時結びつきました。
 分析の結果、K-Pg境界の薄い粘土層からだけ、イリジウム(Ir)という元素が、他の地層の20倍から160倍の高濃度になっていました。イリジウムは、白金(Pt)グループに属する元素で、地表の岩石にはほとんど含まれない元素です。
 地表で見つかったとしても、地下深部で形成された深成岩か特異な火山岩にしか見つからない成分です。グッビオの地層は、石灰岩なので堆積岩です。イリジウムの濃集は、堆積作用では考えられません。そのため、グッビオのイリジウムの由来は、隕石だと考えられました。
 そこから、ルイスの想像力が広がります。その内容は、次回としましょう。

・前期の最後に・
今週でわが大学は、遠隔授業が終わります。
日程的に定期試験ができませんので、
定期試験以外での評価法で
成績を判断していくことになります。
ゼミや少人数の講義では、
名前と顔が一致しているので
受講態度なども把握できます。
大人数の講義での評価は、悩ましいところです。
でも、していくしかありません。

・集中講義・
前期の講義が終わったらすぐに、
夏の集中講義がはじまります。
これも遠隔授業となります。
リモートでのライブ講義もできますで、
先週からその構成を考えているのですが、
どうすればいいのか、まだ悩んでいます。
以前は前期におこなっていた講義なのですが、
新しい講義が入ってきたので、
この講義を集中講義として
再構成しておこなう予定で組み替えていました。
そこに遠隔授業となりました。
再度、講義の組み換えとなります。
短い準備期間で、多大な労力を使わなくてはなりません。
かなり辛い作業となります。

2020年8月6日木曜日

1_180 チクシュルブの衝突 1:激変説

 白亜紀と古第三紀の時代境界で大絶滅がありました。その絶滅は、隕石の衝突によるものでした。その衝突に関する新しい成果が報告されました。その論文を紹介する前に、大絶滅に関する歴史的な説明からはじめましょう。

 白亜紀末に起こった恐竜の大絶滅が、隕石の衝突が原因であるという説は、かなり普及してきました。白亜紀末と古第三紀の時代境界なので、時代名の頭文字をとってK-Pg境界と呼ばれます。この大絶滅は、恐竜だけなく、多くの生物種が絶滅しています。
 大絶滅の原因が、当初は隕石衝突であることは、なかなか受け入れられませんでした。それは隕石衝突という現象が、天変地異という激変説に相当するためでした。認められるまで、激しい議論も起こりました。
 激しい議論が起こった背景のひとつには、西洋世界特有の宗教的理由もありました。かつて、西洋ではキリスト教が支配的な時代が長く続いていました。科学も、科学者も当然、宗教の影響を強く受けていました。そのため、聖書に描かれたノアの洪水のような激変によって、生物の絶滅が起こったと考えられていました。しかし、科学の発展によって、証拠や検証にもどつく論理体系が整ってきました。その結果、激変説は証拠の欠如によって否定されてきました。
 そのかわりに、斉一説が主流となりました。斉一説とは、現在起こっている現象は、過去にも同じように起こっていたという考えです。大絶滅も、現在起こっている現象や原因で、説明できるはずだと考えられていました。斉一説は、現在でも有力な考え方で、過去を探るためには、重要な考え方でもあります。
 西洋世界では、科学が宗教の呪縛を逃れるのに、長い時間と葛藤を要しました。そのため、西洋の科学者には、激変説へのアレルギーのようなものがあり、斉一説の重視の考え方があるのかもしれません。
 生物の絶滅は、大きな気候変動や生存競争など、現在でも起こりうる現象や原因によって起こるものだと考えられていました。現在にも見られる現象や原因を解明できれば、過去の地層や岩石でそのような現象を見つければ、斉一説に基づき、大絶滅の原因を解明できます。
 研究の進展により、大絶滅事件も何度かあったことが、化石の証拠からわかってきました。斉一説の積み重ねで、説明可能になります。K-Pg境界の恐竜絶滅も、他の大絶滅の原因のいずれかになっていました。
 そんなところに、隕石の衝突による大絶滅が復活して登場しきました。洪水ではありませんが、天変地異説の再来、激変説が再度登場してきことになります。西洋の科学者は、心穏やかではありませんでした。その上、その説を提唱したのが、地質学者ではなく、物理学者だったことも、反論が起こった原因でもありました。
 では、隕石衝突説は、どのような証拠をもとに、提唱されてきたのでしょうか。次回としましょう。

・前期の集中講義・
今年の我が大学の前期の講義は、
来週まで続きます。
祝日も関係なく授業がおこなわれます。
それでも、前期分の授業日数を確保するために
お盆も祝日も返上になります。
また、翌週の17日からは、
前期の集中講義がはじまります。
私も1つ担当があるので、
その準備もしなければなりません。
新たにリモート用の授業を、
つくらなければなりません。
15回分を一気に再構成していかなければなりませんので
なかなか大変です。

・蒸し暑い日・
今年の夏の北海道では、
涼しい日が続いています。
ただし、天候が不順で、
日照時間も雨も少ないようです。
農家が困っているのではないでしょうか。
ここ数日蒸し暑い日が少し続いています。
しかし、夜は涼しいので、
窓を閉めなければなりませんが。

2020年7月30日木曜日

3_188 地磁気とマグマの海 4:地球進化へ

 基底マグマオーシャンとは、地球創生時、マントルの底にあったものです。このマグマオーシャンが、地球磁場とどのように関係するでしょうか。シミュレーションが、過去の地球に適用できるのでしょうか。

 スティクスルードらの論文では、地球の初期の磁場の発生は、基底マグマオーシャン(basal magma ocean)が、その役割を果たしていたことを想定しています。
 その想定にいたる過程をみていきましょう。最近、10億年間ほどは、外核の金属鉄が対流することで生じていることは、確かです。現在は、内核が成長、つまり地球の冷却が進むことで、内核と外核の間で対流が起こり、熱が移動することで磁場が発生しています。ところが、10億年前以前は、内核の成長速度が、地球ダイナモとして、磁場を発生するには十分ではないという説があります。ところが、地球には少なくとも34億年前から磁場が存在していたという説には根拠があります。この矛盾を解決するために、スティクスルードらは、外核の金属鉄以外で地磁気の発生の可能性を探りました。どのようなものがあれば、磁場が発生するかをシミュレーションしました。
 地球創生時には、マグマオーシャンがあったことは、前回紹介したように証拠がありました。マグマオーシャンは珪酸塩の溶けたもので、固まったら岩石になります。高温高圧下でマグマが、どのような電気的な性質を持つかはわかっていませんでした。マントルの底に、「基底マグマオーシャン」があった時に、どのような電気的性質をもっていたかを、シミュレーションしました。
 天体表層のマグマオーシャンと比べ、マントルの底のような高温高圧の条件では、100倍以上の電気伝導度を持つことがわかりました。その値は、地球ダイナモを起こす値を、十分に超えていることがわかってきました。さらに、電気伝導度から計算された磁場の強度は、太古代で観測された古地磁気の値と同じになることがわかりました。これは、シミュレーション結果をサポートする証拠となります。
 以上の論理で、基底マグマオーシャンが地球創成期からの地磁気を発生していたという仮説が提唱されました。
 しかし、問題もありました。基底マグマオーシャンが存在できる期間は、10億年から20億年と考えられています。その後は磁場が働くなり、10億年前くらいから外核の地球ダイナモが働くことになります。都合よく、地磁気の発生源が切り替わるのかという問題です。その切り替わりの時期や空白期間があれb、古地磁気に変化が記録されているはずです。ところが、そのような事件は、古地磁気からは見つかっていません。
 今回の論文では、重要なことがあります。これまで、多くの地球物理学的観測や高温高圧での実験は、現在の地球を知るため、現状を解明するために、研究がおこなわれていました。しかし、今回のように、過去のある時代、状態を想定して、観測や実験をおこなっています。このような考え方で、地球の形成、進化の仮説を提唱したり、検証できることも可能であることがわかってきました。これは重要な視点です。

・不作と不策・
7月も終わりです。
7月は天候不順が目に付きました。
日本、特に西日本は、梅雨前線の活発化で
各地が大雨になりました。
北海道の7月は、天候不順の日々が続きました。
大雨や天候不順で農林水産業は、
大丈夫なのでしょうか。
特に農業の不作にならないかが気になります。
そんなさなかにおいて、
中国、北朝鮮の外交、防衛の動き
米中の関係悪化、
日本政府や東京都のコロナ対策への不策。
心配事が多すぎます。

・その時代の生き方・
新型コロナウイルスに押さえつけられながら
日本じゅうの人が生活を続けています。
こんな日常に慣れていくことでいいのでしょうか。
それとも「かつて」の生活を取り戻すために
手を打たなければならないのでしょうか。
以前のように、娯楽、観光、楽しみを
享受してはいけないのでしょうか。
私はバブルの頃を経験しています。
大学生から大学院生時代に
アルバイトでそのおこぼれで
研究生活を継続できました。
しかし、バブルはある時代のものです。
別の時代には、そのときに合った生き方、
暮らし方を確立していくしかないのでしょう。

2020年7月23日木曜日

3_187 地磁気とマグマの海 3:マグマオーシャン

 地磁気は、現在の生物にとってはバリアとなっています。昔は、地磁気が生物にどのような影響を与えていたのでしょうか。地磁気と生物の関係に対して、新しいアイディアが提案されました。

 地磁気のはじまりついてですが、実はいつから始まったのかは、はっきりとはわかっていません。34億年前からあったという説から最近できたという説まで、いろいろあります。外核の熱対流を大きく左右する固体核ができたのが10億年前だという説、あるいは地球ダイナモが働き出したのが10億年前からいう説まで、地磁気の原因に関する考えもさまざまです。古い磁気の強度の検出が難しいので、未解決のことも多いようです。
 現在の地球生物は、地磁気のバリアに守られているのですが、地磁気のバリアがない時、生物にはどのような影響を受けるのでしょうか。カンブリア紀以前、生物は海水中で暮らしていたので、有害な宇宙線は海中深くには入り込まず、問題はなかったと考えられます。水がバリアになっていました。
 地球の磁場は、海水中に暮らしていた生命には関係がなかったのでしょうか。2020年2月に発表された報告で、重要な役割を果たしていたのではないかという説がでてきました。スティクスルードと共同研究者が、「Nature Communications」という科学雑誌に報告した、
 A silicate dynamo in the early Earth
 (初期地球内での珪酸塩ダイナモ)
というシンプルなタイトルです。
 この報告では、地球初期からダイナモが働いて地磁気があったとしています。珪酸塩ダイナモが重要です。ここまで述べてきたように、地球のダイナモは、金属鉄の流動によるダイナモがその由来となっていました。金属鉄ではなく珪酸塩がダイナモ(発電)しているというのです。
 この報告によれば、地球形成から数10億年間の磁場を生み出していたのは、地球初期に形成されていたと考えられるマグマオーシャンだと主張しています。マグマオーションとはいっても、基底マグマオーシャン(basal magma ocean)と呼ばれる液体の層が磁場を生み出していたと考えています。
 そもそもマグマオーシャンとは、どんなものでしょうか。マグマオーシャンとは、月の観測から提唱され、そこから一般の天体へに適用されたものです。
 天体は、小天体が衝突合体しながら成長していくと考えられています。小天体が衝突すると膨大なエネルギーが放出されます。その時、気体成分も放出され、主な成分は二酸化炭素で、原始天体の大気となります。二酸化炭素の大気があると、温室効果も起こります。激しい衝突が続くと、天体表面は溶けてマグマの海ができたまま維持されます。この状態がマグマオーシャンと呼ばれています。月では、マグマオーシャンで形成されたと考えられる岩石が月の高地をつくっている岩石だと考えられています。月は惑星形成の初期の様子を残しています。
 やがて、公転軌道上の小天体は、一番大きな天体にすべて衝突合体されてしまうと、冷却がはじまります。それぞれの天体は、独自の進化がはじまっていきます。
 では、基底マグマオーシャンとは、どんなものなのでしょうか。次回としましょう。

・梅雨前線・
本州は、まだ梅雨前線が居座っているようで
今年の梅雨明けは遅れそうです。
北海道も、すっきりとしない天気が続いています。
晴れたり、曇ったり、雨が降ったり、蒸し暑い日など
一日で目まぐるしく変わります。
体調を壊してしまいそうです。
新型コロナウイルスの収まらない流行の中なので
感染にも注意しなければなりません。
心の重い日々が続きますが、
皆様も体調にはご注意ください。

・論文の完成・
7月は論文にかかりきりになっていました。
なんとか当初の目標を達成して
書き終わることができました。
文章量が、投稿規定の2倍以上になってしまいました。
一応投稿しますが、編集委員会がどう判断するでしょうか。
デジタル出版なので文章量の制限は不要だと思うのですが。
論文は、一連の内容となっているので、
分割するのは困難です。
まあ、投稿してからの判定を待ちましょう。

2020年7月16日木曜日

3_186 地磁気とマグマの海 2:外核の流動

 地球の磁気(地磁気)について紹介しています。地磁気は、現在生きている生物に対してのバリアの働きをしていことは前回紹介しまた。今回はその地磁気の由来について見ていきます。

 地球の磁気の起源について考えていきましょう。地球の内部には、岩石できた地殻の下に、やはり岩石からできたマントルが深くまであります。マントルより、さらに深部は鉄からできていることが、地震波の研究でわかっています。地震波の研究より、核の内部は、内側(内核と呼ばれる)に固体の鉄があり、外側(外核)には液体の鉄があることがわかっています。核は、同じ鉄できているのに、なぜ固体と液体がきれいにわかれているのでしょうか。
 一般の物質では、液体より固体の方が密度が大きくなります。そのため、液体中で結晶化がはじまると、できた結晶は固体として沈降していきます。これが、内側に固体鉄、外側に液体鉄が存在している理由です。(ただし、水だけが例外です)
 核で、鉄が液体から結晶化する時、潜熱の放出が起こります。外核内で熱の不均衡が生じ対流が起こります。また放出された熱は、マントルを温める役割も果たしています。これがマントル対流の駆動力となっています。
 熱による対流と地球の自転により、液体鉄が流動を続けます。金属鉄は電気の伝導体でもあり電磁誘導体でもあります。金属鉄が流動することで、電流が発生して、電流で磁場が生成されます。流動が続く限り、磁場形成が続くと考えられています。このような地球内部の金属鉄の流動による磁場の発生を、地球ダイナモ理論と呼んでいます。ダイナモとは発電機のことなので、地球が自家発電をしながら、磁場も維持していることになります。
 地球の磁場は、N極とS極が存在する磁気双極子となっています。一見安定しているように見えますが、地球が過ごす長い時間でみると、しょっちゅうN極とS極が入れ替わり、つまり地磁気の逆転が起こっています。一旦、磁場が逆転が起こると、しばらくは安定しています。今から77万年前は、逆転していました。その発見者である松山基範の名前をとって「松山逆磁極期」と呼んでいます。松山逆磁極期は258.1万年前まで続いていました。
 さて、この地磁気ですが、いつから始まったのでしょうか。それは次回以降としましょう。

・人とは対面で・
大学は、まだ静かです。
リモート講義が決定しているためです。
しかし、用事があれば学生も出入りできるので、
時々学生をみかけます。
また、生協も一部再開しているので、
昼食時になると、学生が出入りします。
先日、ゼミの学生が突然、書類を渡しにきました。
驚きましたが、久しぶりに生でゼミ生を見ました。
リモートでは顔はみていたのですが、
やはり、人とは対面で会ったほうが
お互いの存在感を感じますね。

・梅雨前線・
九州から本州にかけて、停滞した梅雨前線が
大きな洪水被害を出しています。
今年は、例年になく梅雨前線が
活発になっているようです。
北海道も、どんよりした天気が続いています。
雨も時々降りますが、晴れたり曇ったり、
雨だったりと変化が激しいです。
湿度も高いので、蒸し暑い日もあります。
しかし、夜は涼しいので、
窓を閉めて寝なければ風邪をひきそうです。
どうも今年は気象が例年とは異なっているようです。

2020年7月9日木曜日

3_185 地磁気とマグマの海 1:バリア

 地球の磁気は、目で見ることはできません。その力は弱いのですが、方位磁針などの磁石で知ることができます。磁気は、私たち人類にどのような影響を与えれているのでしょうか。思わぬ影響がありそうです。

 地球には磁場があります。日常生活をしていて、磁場を意識することはありません。では、磁場は不必要なものなのでしょうか。
 例えば、方位磁針は地磁気によって、北南を指すようになります。かつて、旅をしたり航海をしたりするとき、方位磁針は不可欠な道具でした。しかし、現在の人類には、GPSがあるので、方位磁針は使わなくなりました。スマートフォンでは、現在位置を地図上に表示し、目的地までどのように進めばいいか、ナビゲーションをしてくれます。
 GPSは地球の周回軌道上にある人工衛星で、かつてはアメリカ合衆国が軍用に使用していたのですが、民間が自由に使えるようになっています。日本は独自に日本上空を周回する衛生を打ち上げて、精度を上げるようにしています。
 現在では、GPSが普及したので、方位磁針は使わなくなりました。地質学学者など一部の専門家用の道具になってきました。では、地球磁場は方位を知るため以外に、日常生活では不要なのでしょうか。そうではありません。実は地球磁場は、重要な役割があります。
 磁場が地球を覆っているので、地表へのバリアになっています。磁場があると、電荷をもった粒子が外から来ると、磁場の影響を受けてまっすぐ進めなくなりました。太陽からは、電子と原子核がばらばらになった状態の粒子(プラズマといいます)が、大量に飛び出しています。このようなプラズマ流を太陽風と呼んでいます。太陽風は電荷をもっているので、地球磁場の影響を受けて、地球の大気圏には入ってこれません。大半の太陽風は磁場の影響で、地球を回り込んで、太陽と反対(地球の夜側)に吹き流しのように長く伸びた形になっています。太陽風の一部は、地球に入ってこようとします。その時、地磁気の磁力線に沿って南極や北極から入ってきます。南極や北極で大気圏に突入した時、大気の分子がプラズマと衝突して励起されて発光します。これが、オーロラとして光っています。
 軌道上では、大気圏のバリアがありません。ですから、長く軌道上に滞在すると、プラズマ粒子が電子機器に影響を与えます。太陽風が強くなると、人体にも影響を与えます。地表では、地球磁場と大気のおかげで、太陽風は地表には影響を与えません。そんな条件があったからこそ、地球で生命が誕生し、人類も進化できたのでしょう。そして、科学技術に支えられた文明も発展できたのでしょう。
 ではなぜ、地磁気は、そもそも地球にあるのでしょうか。それは、次回、紹介しましょう。

・天候不良・
北海道は7月になっても天候不順です。
晴れたり、雨が降ったりと
一日で目まぐるしく変化しています。
気温の低い、涼しい日々が続いていきます。
低温と日照時間の少なさは、
農業に影響がでなければいいのですが。
私は、暑いより、涼しいのが助かるのですが、
体調を崩しそうです。
新型コロナウイルスに加えて、天候不順ですので、
精神的にダメージが大きいのではないでしょうか。

・洪水被害・
先週、九州では、何度も大雨があり、
多くの地域で被害がています。
被災された方、お見舞い申し上げます。
コロナ禍の続く中での避難は
不安も、躊躇もあったでしょう。
生命を一番に考えなければならない事態は、
大きな心労のことと思います。
政府や行政の素早い、手厚い
救援、援助を願いたいものです。
こんな時にこそ、政治の力を示して欲しいものです。

2020年6月25日木曜日

2_184 清江化石群 2:カンブリアの大爆発

 清江化石群の時代は、カンブリア紀初期でした。生物の進化にとって、カンブリア紀初期は、非常に重要です。カンブリア紀初期の様子を探るためには、清江化石群のような保存いい化石の産地が重要になってきます。

 中国の清江(クィンジャン)化石群は「ラーゲルシュテッテ」であることを、前回紹介しました。ラーゲルシュテッテは、保存状態のよい化石が多数見つかるため、過去の生物を調べるのに重要な産地のことでした。ラーゲルシュテッテは、世界各地にあり、生物の進化や過去の環境などを調べるために重要な役割を持っていました。
 古い時代、特にカンブリア紀のはじまりのラーゲルシュテッテは、生物の進化にとって重要になります。なぜなら、カンブリア紀の初期には、生物の多様性が一気に増えることが知られているからです。それは、「カンブリアの大爆発」と呼ばれています。清江化石群は、その様子を探るための新たなラーゲルシュテッテになると考えられています。
 「カンブリアの大爆発」とは、カンブリア紀直前の時代、原生代のエディアカラ紀(6億3500万から5億4100万年前)の終わりの頃から、化石が多数見つかりだし、カンブリア紀になると一気に多様性が増えだしたことがラーゲルシュテッテからわかりました。カンブリア紀になってすぐに、生物の多様性が増えたこと、つまり一気に進化が起こったことを、「カンブリアの大爆発」と呼んでいます。
 エディアカラ化石群は、オーストラリア、アデレードの北方にあるエディアカラの丘陵から見つかったラーゲルシュテッテです。同時代のラーゲルシュテッテは、中国の山沱累層(ドゥシャンツァオ累層 6億~5億5500万年前)、他にもロシアの白海沿岸、ニューファウンドランド、カナダ北西部、ノースカロライナなどからも見つかっています。現在では20箇所以上の産地が知られています。
 最初に「カンブリアの大爆発」がわかったのは、カナダのブリティシュコロンビア州のバージェス山というところで見つかったラーゲルシュテッテでした。ここの化石は、化石が出る露頭は狭いのですが、多数の保存のいい化石があり、軟体動物の形態が詳細にわかり、130種以上の多様な化石が見つかっています。
 同じ時代のラーゲルシュテッテとしては、中国の澄江(チェンジャン)にもあります。同時代ですが、異なった地域(地理的に離れた海岸)でラーゲルシュテッテがあると、両地域で比較することで、生物の地域的多様性や汎世界性を知ることができます。
 さて、バージェスは5億500万年前(カンブリア紀中期)の化石だったのですが、清江化石群の時代は、約5億1800万年前のカンブリア紀の最初の頃です。カンブリア紀初期は「カンブリアの大爆発」を解明するために重要です。清江化石群の詳細は、次回にしましょう。

・天候不順・
北海道は先週あたりから、
晴天で暑い日、肌寒い日、蒸し暑い日など
変化の激しい天候が続いています。
大学の学生の入構禁止は解けたのですが
授業はリモートのみで前期が進んでいきます。
でも、学生に会う機会はでてきそうです。
パソコンの画面ではなく
実物に会えるのがいいですね。

・レベル1・
全国的に県境を越えた移動が解禁されました。
北海道でも、札幌市や石狩管内を越えた
移動も解禁されたことになります。
かなり多くの人が移動をはじめたようです。
しかし、大学の行動指針も
レベル1へと下げられました。
ですが、学生は用事がない限り大学には来ません。
職員は時差出勤はしますが、
通常勤務にもどっていきました。
講義も教職員の会議もリモートが継続中です。
研究の在宅を勧めています。
前期の期間は、現状で推移しそうです。

2020年6月18日木曜日

2_183 清江化石群 1:ラーゲルシュテッテ

 中国で見つかった新しい化石群を紹介します。ニュースは見ていて、関連情報を記録していたのですが、最近まで放置していましたが、今回から、シリーズで紹介することにしましょう。

 新しい化石の産地の発見についての報告が、2019年3月のアメリカの科学雑誌「サイエンス」で掲載されました。論文のタイトルは、
The Qingjiang biota - A Burgess Shale - type fossil Lagerstatte from the early Cambrian of South China
(清江生物群 南中国の初期カンブリア紀のバージェス頁岩型化石のラーゲルシュテッテ)
というものでした。
 論文のタイトルの中には、いくつかわからない言葉があります。清江(Qingjiang クィンジャン)とバージェズ(Burgess)、そしてラーゲルシュテッテ(Lagerstatte)です。前者2つは、いずれも地名で、最後の言葉が地質学用語です。「清江」は中国の、「バージェス」はカナダの地域名です。清江は、今回発見された化石群が見つかった地域の名称です。
 ラーゲルシュテッテはドイツ語由来の言葉ですが、英語でもそのまま用いられていて、日本語では「ラーゲルシュテッテ」と表記されています。地質学でラーゲルシュテッテとは、化石の保存状態が非常によく、過去の生物を調べるのに重要な化石産地のことをいいます。ラーゲンシュタットには、多数の化石が見つかっているものと、化石の保存が非常にいいものとの、2つのタイプがあります。清江は、両方兼ね備えているようです。
 この発見で、「新しい化石の発見」ではなく、「新しい化石の産地の発見」としたのは、産出の状況がラーゲルシュテッテであったからです。化石の発見場所は、中国の湖北省宜昌市長陽トゥチャ族自治県です。武漢市の西に200kmほどに位置し、宜昌(ぎしょう)市という大きな街の郊外になります。巨大なダムがあり、そのダム湖上流で5箇所ほどの産地が示されています。周辺は、人が住んでいる地域で、開拓されて農地になっているようです。重要な化石の産地が新たに、人家の近くで見つかるとは驚きです。乱獲されずに残っていればいいのですが。
 ラーゲルシュテッテは、世界各地にいくつもありますが、中国には、他にも、雲南省の澄江(チェンジャン)、貴州省の凱里累層(カリ)や山沱累層(ドゥシャンツァオ)などがあります。しかし、その時代が重要です。なぜなら、時代が異なっているので、違う時代の生物群を比べることできます。
 時代については、次回にしましょう。

・Googleマップ・
論文では、化石産地の略図が示されていました。
それを頼りに、Googleマップの衛星画像で
正確な位置を確認することできました。
その結果、発見場所周辺の様子も知ることができました。
Googleマップを見ていると、
人家や車まで見ることができます。
マップの道路も投影されているのですが
その道が衛星画像では見えていません。
もしかすると巨大ダムができて
その上流では、村が水没したため、
道路が切り替えられたのだろうか
などと、いろいろ考えてしまいます。
そんことをしているうちに、
ついつい長時間衛星画像を見入ってしまいました。

・ストリートビュー・
中国の清江でも20mスケールでGoogleの衛星画像が見れます。
北京だと10mスケールでみることができます。
日本だと2mスケールの画像を見ることができます。
このスケールだと、人が歩いているのも
見分けることができます。
ストリートビューに入れば、
人の生活まで想像することができます。
ただし、個人情報は消されていますが。
さすがに中国では、ストリートビューを見ることは
できませんでしたが、香港ではどうでしょうか。
それは、各自で確かめてください。

2020年6月11日木曜日

1_179 大陸地殻の新知見 4:地殻下部

 アフリカのクラントン下の地殻について調べられました。キンバーライトの捕獲岩を用いています。捕獲岩は、大陸下部で変成作用を受けた岩石であることがわかり、原岩の化学的特徴から大陸の形成史の証拠もでてきました。

 大陸地殻に関する3つ目の論文は、3月17日に発表された
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
というものでした。この論文もひとつ目に紹介したのと同じく、キンバーライト(深部で形成されたマグマによる火山岩)から見つかった捕獲岩を調べたものです。調べた捕獲岩は、エクロジャイトとざくろ石輝石岩です。この2種の岩石の説明を少々しておきましょう。
 エクロジャイトとは、超高温高圧の条件でできる変成岩の一種です。主にザクロ石と輝石からできた岩石です。玄武岩組成の岩石が変成されてできるもので、造山帯ならば、沈み込んだ海洋地殻がその候補となります。また、ザクロ石輝石岩(輝岩ともいいます)も、超高温高圧の条件でできたことを示しています。アルミニウムの多い岩石では、珪酸アルミニウムの成分が温度圧力条件で変化していきます。浅いところでは、斜長石(この岩石では少ない)や輝石になっているのですが、高圧になるとザクロ石になっていきます。それより深くなるとスピネルになっています。ガーネットはキンバーライトの捕獲岩によく見られるもので、地殻下部からマントルの条件で形成されるものです。
 今回調べられた捕獲岩は、エクロジャイトはザクロ石と輝石(オンファス質輝石)を主として、ザクロ石輝石岩はザクロ石を含む斜方輝岩と輝岩(斜方輝石と単斜輝石を含むウエブステライトと呼ばれるもの)でした。いずれもカンラン石が少ないのが特徴の岩石となります。これはマントルを構成している岩石でないことを意味します。
 捕獲岩を分析した結果、エクロジャイトは、815~1000℃の温度、1.7GPaほどの圧力(50~55kmの深さ)の条件で変成されたもので、この地域の地殻下部の条件に相当するそうです。ザクロ石輝石岩の変成条件は、686~835℃となりやや低い温度ですが、変成圧力(深さ)は似ていました。
 両岩石の同位体組成(Nd、Sr同位体)を調べても、この地域の下部地殻に相当する値でした。いずれも似た原岩から由来したようで、オンファス質輝石が主とすることからナトリウム(Na)が乏しい、つまり斜長石が少ない岩石が起源となっていると推定されています。これらの2種類の捕獲岩の由来は、古い時代の玄武岩組成の岩石が変成を受けて、オンファス質輝石(Na成分が少ない)を主とする輝岩となり、さらに高温高圧条件での変成作用を受けてザクロ石輝岩やエクロジャイトになったと考えられます。
 その形成場としては、大陸が衝突してナマグア-ナトル帯となり、地殻の短縮と厚化とともに変成作用が起こりました。その衝突は、10億~12億年前にカープヴァール・クラトンが形成された時の出来事だと推定されました。その時、地殻下部にあった玄武岩質の岩石が、変成を受けたと考えられます。その後、マントルで形成されたキンバーライト・マグマが地殻を上昇してくる時、地殻下部にあった変成岩を、捕獲岩として取り込んだと考えられます。
 この論文では、地質学の基礎知識がない人にとっては、いろいろな複雑な論理構成をとっているため、非常に難解な内容となっています。ですが筋の通った説明となっていますので、信憑性はありそうです。
 地下の深い場所の様子が、地表に持ってこられた捕獲岩から探ることでできました。そこから、大陸の衝突の歴史、大陸形成史がわかってきました。

・リモート・
北海道は、まだ新規感染者が出ていますが、
徐々に緊急事態からの回復が進んでいます。
大学も、今週からレベルが一つ下がりました。
ただし、現在の状況では、
学生は大学への入構はまだできません。
授業も会議、校務のリモートでやることになっています。
レベルが好転したことは、気分的にいいことです。

・静な夏・
北海道は初夏の陽気になりました。
朝、歩いてく時カッコーの鳴き声、
昼間にはエゾハルゼミのうるさいほどの鳴く声もします。
夏の気配が濃くなってきました。
今年の夏は、いつもの夏にはなりそうもありません。
いつもこの時期には、YOSAKOIの音が
あちこちで聞こえてくるのですが
今年は、聞こえてきません。
静な夏を迎えそうです。

2020年6月4日木曜日

1_178 大陸地殻の新知見 3:初期は小さな大陸

 地球の創成期には大陸はありませんでした。時代とともに大陸が形成されてきました。これまで、大陸の形成のメカニズムは、大陸の岩石が用いられてきました。今回の報告では、海洋地殻から大陸の様子が探られました。

 2020年3月に報告されたジョンソンとウィング(Johnson, B. W. and Wing, B. A.)の論文は、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18酸素に富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
というものでした。
 この論文での調査は、西オーストラリアのピルバラ・クラトンのパノラマ地域でおこなわれたものです。岩石は約32億4千万年前の海洋地殻を構成したものですが、熱水変質を受けていました。著者らは、100個以上の岩石を採取し、酸素の同位体比の分析をして検討しています。
 一般に、海洋の化学的堆積物では、時代を経るとともに、酸素の同位体比(18O/16O)が増加していくことが知られています。酸素同位体比は、海水と岩石の2つの成分が、どの程度混合するかによって決まってきます。今回分析した岩石の酸素同位体比は、重い(18Oの比率が大きい)ことがわかりました。
 もし、海水成分の酸素同位比が現在ものと同じだとしたら、この時代の海水は非常に高かったことになります。あるいは、岩石と海水との相互作用が、現在のものとは異なっていたことになります。重い酸素同位体比は、いずれかの理由によることになります。
 著者らの仮説は、当時は大陸が非常に少なかったと推定しています。もし、大陸が存在したら、大陸表層に存在したはずの粘土鉱物が、重い酸素を吸収し、同位体比を下げる(軽くする)からです。そのような大陸が少ないという推定から想定される値に、今回のデータが相当していました。
 西オーストラリアのジャック・ヒルでは約44億年前の大陸できた鉱物が、カナダでは約40億年前の、グリーンランドで38億年前の大陸の岩石が見つかっています。ですから、古くから大陸が存在したことは確かです。
 これらの証拠と今回の報告との両者をうまく説明するには、大きな大陸はなくて、小さな陸地が存在した、というモデルになります。現在の伊豆マリアナ列島のような海洋島弧のようなものが、広い海洋のあちこちに多数あればいいものです。ただし、大陸地殻の岩石が形成されていなければなりません。幸い、島弧では大陸地殻の岩石が形成されます。
 今回の研究は、ひとつの地域のものですが、多数のデータからの推定なので、確かなものです。ただし、この地域の一連の岩石からだけなので、他の時代、他の地域との比較が必要になります。その結果、この仮説が支持されるかどうかが、検討できるでしょう。著者らは、より新しい時代の海洋地殻で検証を進めるようです。
 大陸地殻は時代ととともに成長したと考えられます。その成長の様子はまだ確たるモデモはありません。れまで、大陸地殻の形成過程は、大陸の岩石を用いて調べられてきました。今回、海洋の岩石から大陸の様子を調べる手段が見つかったことになります。これは、地球の大陸と海洋の進化を考える上で、重要な方法論を示したことになります。

・買い物・
新型コロナウイルスのため、日用品以外の買い物は、
これまでネット通販を使ってきました。
残念ながら、まだしばらくこの状態が続きそうです。
先週末、必要なものがあってホームセンターにいきました。
実際の店舗で商品を手にとって選ぶことは、
買い物の醍醐味でいいものでした。
私は、実店舗での買い物は2ヶ月以上行っていません。
日用品の買い物は、家内に任せています。
毎日、大学と自宅の往復だけだったので、
ついつい店で長居をしてしまいました。

・集団感染・
北海道では、まだ感染者の発生が継続しています。
北九州では、学校での集団感染もありました。
安心できない状態が続いています。
大学は、前期はまだWEB講義が継続中です。
会議もリモートでの開催す。だいぶ慣れてきました。
ただ、毎回の講義の作成には手間取っています。
今年からはじまる新しい講義もあるのですが
それを最初からリモート用につくると、
来年は再度、対面の講義用に変更が必要になります。
まあ、仕方がありませんね。

2020年5月28日木曜日

1_177 大陸地殻の新知見 2:クラトン下のマントル

 マントルは地殻より下にあります。マントルを直接調べるのは、限られた方法しかありません。キンバーライトという特異な火山岩から、今まで知れられていなかったクラトン下のマントルが見つかりました。

 3つの大陸地殻の新たな知見を発表順に見ていきます。
 まずは、The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)(北東カナダ、北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)というタイトルの論文から紹介していきましょう。
 この論文では、キンバーライトと呼ばれる岩石の捕獲岩からわかったことが報告されています。キンバーライトは、特異な火山岩です。非常に深部(150km以深)で特徴的なマグマと形成されます。その特徴は揮発成分に富むこと、そしてなんといってもダイアモンドを伴うため、古くから知らています。ダイアモンドの存在から、超高速(30~60km/時)で上昇してきたことがわかります。なぜなら、ダイアモンドは超高圧下でしか形成されず、地表では不安定な鉱物です。そのため、ダイナモンドが別の鉱物に変わる前に一気に圧力低下して準安定のまま地表に上昇したことになります。そしてキンバーライトは、古い大陸地殻にのみ見つかっています。
 キンバーライトには、経路にあった岩石も捕獲して上昇してきます。キンバーライトはダイアモンドだけでなく、地下深部の情報も一緒に持ってきます。そのような岩石を捕獲岩といいます。この報告では、チャドリカのキンバーライトの捕獲岩のうち、120個のカンラン岩と輝石岩から、この地域のクラトン下のマントルの様子を探っています。いずれも大陸下のマントルを構成していた岩石だと考えられています。
 チャドリカのマントルは、カンラン石(フォルスレライト成分に富むもの)が多いことが特徴です。他の地域でのクラトン下のマントルは、単斜輝石岩(単斜輝石に富むカンラン岩)のマントルからできています。チャドリカのマントルは、一般のものとは異なっています。似たものは、北大西洋クラトンと呼ばれるマントルに似ています。北大西洋クラトンは、現在のように大陸が分裂する以前に存在したクラトンです。北大西洋クラトンは分裂し、現在ではスコットランドやグリーンランド、カナダ東部のラブラドール地方などで見つかっています。今回の研究で、バフィン島下での存在が初めて明らかになりました。
 チャドリカのマントルは、典型的なクラトンのものより、かなりの程度溶融してマグマを出した(メルト成分が枯渇している)マントルになっていました。マグマを出したマントルは、カンラン石の比率が多くなり、このようなものを枯渇したマントルと呼んでいます。
 その後、珪酸ー炭酸塩の交代作用(metasomatism)が起こっています。この交代作用は、大陸が分裂する前の現象だとしています。交代作用は、ラブラドール海を挟んだ北大西洋クラトンが、ジュラ紀の240kmから古第三紀の65kmに接近してきた時、地殻の薄化が起こったことが重要な役割を果たしたと考えられています。
 論文の内容は、このように淡々とした記述になります。また、この論文は、もともと過去のクラトンについて調べようとしたものではなく、キンバーライトの捕獲岩を調べていたところわかったことです。まあ、予想外の成果となります。

・緊急事態宣言解除・
全国的に緊急事態宣言が解除されました。
感染者数は一時の数と比べると
だいぶ少なくなってきました。
しかしまだ、小さなピークが繰り返し起こりそうな様相です。
北海道で繰り返しピークがあります。
一気に日常に戻るのは危ないはずです。
少しずつ様子を見ながらでしょう。
しかし、感染していない人が多いのであれば、
いつでも大量感染が起こる危険性があります。
全員の抗体検査で感染状況を調べることと
ワクチンか治療薬の開発が
決定的な解決になると思います。

・学生支援・
大学は、前期は原則はWEB講義になっています。
ただし、大学から全学生に対し支援金が支給されます。
また、文部科学省からの学生支援緊急給付金もあります。
国の給付金は、一部の学生にしか支給されません。
条件がいろいろあり該当しない学生も多くなります。
支給されない学生には、
仕送りの低額化、アルバイトの中止(休業補償がない)で、
かなり厳しい生活を強いられています。
そのような学生の中には、
大学を継続できるかどうかの瀬戸際の学生もいます。
ケチらず、全学生を支援してもらいたいものです。

2020年5月21日木曜日

1_176 大陸地殻の新知見 1:3つの論文

 2020年になって、大陸地殻に関する論文が相次いで報告されました。いずれも大陸の形成や特徴に関するものです。今回のシリーズでは、それらをまとめて紹介していくことにします。

 まずは、発表順に論文タイトルを紹介していきましょう。2020年1月7日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」(岩石学の雑誌)に報告されたものは、
The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)
(北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)
でした。
 3月2日、イギリスの科学雑誌「Nature Geoscience」に報告されたのは、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18Oに富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
でした。(注)18Oとは酸素の同位体で質量数18のものの比率をいいます。
 3月17日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」に報告された、
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
でした。
 いずれも専門書の論文のタイトルなので、日本語訳を読んでもよくわらかないと思います。その内容は、次回以降、順次紹介していきます。
 最初の論文の調査地は、カナダ北東部のバフィン島の北大西洋クラトンで、2つ目の論文は、オーストラリア北西部のピルバラ・クラトン、3つ目は南アフリカのカープヴァール・クラトンです。いずれもクラトンという名称がついています。論文の紹介の前に、クラトンの説明からはじめていきましょう。
 クラトン(craton)とは、大陸地殻の中でも、非常に古いもの(先カンブリア紀)を意味しており、「安定地塊」、「楯状地」などとも呼ばれています。安定地塊とは、古くから存在している大陸地殻なので、それは安定していることを意味しているために呼ばれています。また、楯状地とは、古い時代に形成され侵食され、地形も平らでなだらかになって盾状になっているという意味です。
 地球にはクラトンと呼ばれてるものがいくつかあります。論文で出てきた以外にも、カナダ楯状地、バルト楯状地、シベリア卓状地、ブラジル楯状地、アラビア楯状地、シナ地塊(アジア大陸東部)など、大きさはそれほどではないですが、古い時代の大陸の様子や大陸形成についての研究では重要な地域となります。
 次回から、それぞれの論文を紹介してきましょう。

・緊急事態宣言・
全国の新型コロナウイルスの感染者数は
自粛を進めたため、だんだんと減ってきました。
ただし、いくつかの地域では、
緊急事態宣言はまだ継続中となっています。
北海道も緊急事態宣言は、まだ継続中です。
北海道でも、いくつかの地域で発生しています。
わが町では感染者は6人ですが、
市内での確認は8人となります。
少ないといえば少ないのですが、
札幌の隣の石狩管内なので、
札幌の同列に扱われています。
致し方がないのですが、少々長い自粛が続いています。

・どさくさ紛れ・
大学はWEB講義も3週目となりました。
なんとなくリズムがでてきたのですが、
大変さはが経るわけではありません。
新たに準備すべきことが、例年以上に多くなります。
そのため、未だにとまどっている人もいます。
また、大学の会議も遠隔になりました。
発言が少なくなるようで、
時間短縮になり、これはこれで効用もありそうです。
しかし、大事な議題も流されると困ります。
国会でも無法な法案を通そうしましたが、
検察庁法改正法案はだけは
国民の声で阻止できました。
今の政府は、こんなどさくさ紛れの所業が
いろいろと目に付きます。
困ったものです。

2020年5月4日月曜日

6_175 月の地質図 2:レゴリス

 月の表面は、レゴリスと呼ばれる堆積物に覆われています。レゴリスの形成過程から、いろいろ読みとれることがあります。月の歴史、そして地球や他の天体の歴史も、読み取ることも可能となります。

 月の表面は、砂のようなレゴリス(regolith)に覆われています。レゴリスは、聞き慣れない言葉です。アメリカの地質学のメリル(Merrill)が1897年に「風化や植生などでその場できた物質による被覆層」や「風、水、氷などで運ばれ分解された破片」に対してはじめて使いました。その後、惑星や月の探査で、天体表層を被覆する堆積物がたくさんあることから、レゴリスという用語がよく使われるようになりました。
 月には大気も水ないはずなのですが、岩石が砕かれて破片になっていることは、どういう意味があるのでしょうか。月では、破片をつくるような作用には、隕石の衝突しかありません。隕石の衝突は非常に稀な現象に思えますが、大気も水もないので、一度できたクレータは侵食を受けることがなく残り、レゴリスも次のものが飛び散って覆うまで残っています。
 クレータは、付近に別の隕石が落ちれば形が壊され、レゴリスに覆われていきます。稀な現象でありますが、確率的には、古いクレータほど、後の時代のクレータによって破壊されることになります。近接するクレータ同士では、破壊された形状やレゴリスの覆い方から、新旧の判別が可能になります。
 前回紹介した、黒っぽい岩石からできている地域はクレータが少なく、白っぽい地域はたくさんのクレータができます。これは、黒っぽい地域が新しい岩石(35億前から30億前)で、白っぽい地域が古い岩石(45億前から40億前まで)であるという、アポロの年代と一致します。このようなクレータを密度から、年代を見積もる「クレータ年代学」も考案されています。年代測定の試料の手に入らない天体であっても、クレータの数から密度が見積もれれば、その地域の年代を推定することが可能になります。
 クレータの形成率を時代ごとにみていくと、古い時代ほどクレータの形成率が高く、新しくなるにつれて減っていくという現象も見つかりました。これは、太陽系の形成の初期に、大量の隕石が落下したこと、つまり隕石が初期に一気に集積したことを意味しています。惑星の公転軌道にあった隕石が、惑星(例えば、地球)や衛星(例えば、月)となる大きな天体に、集っていったことになります。このような天体の形成は「暴走成長」モデルと呼ばれています。
 月の大きなクレータには、すべて名前がつけられています。クレータの中でも大きなものは、飛び散らさせた破片やレゴリスなども多くまります。そのような大きなクレータの衝突時期を、時代の区切りに利用し、クレータの名称が時代名にされています。
 月では、岩石の種類と時代が、ほぼ推定できるようになりました。そこから、全月の地質図が作成されました。

・課題とコメント・
いろいろWEB講義が今週からはじまりました。
ゼミナールのメンバーに対しては、
すでにテレビ会議システムで
個別面談やゼミをスタートしています。
問題は、大人数の講義です。
いちおうWEB講義は作成していますが、
動画を使わないように、
資料と課題提出で講義を進めることになりそうです。
100名を超える授業が2つあるので、
課題に対して、すべてコメントをすることは不可能です。
どうしたものか考えあぐねています。

・高くつく教訓・
新型コロナウイルスは疫病ですから
だれのせいでもありません。
したがって、その渦中の国や地域は
その対処をしていくしかありません。
淡々と自粛を継続していくしかありません。
本来なら、完全が外出自粛を徹底すれば、
もっと早くおさまったかもしれません。
日本では、100年前のスペイン風邪以来の疫病なので、
準備不足と指導者の無能を露呈してしまいました。
自粛をもっと継続することになります。
高くついた教訓となりそうです。

2020年4月30日木曜日

6_174 月の地質図 1:白と黒の違い

 月の地質図が新たに作成され、公開されました。月は地球とは全く異なった進化をしています。地質図もかなり異なったものになるはずです。月の地質図を紹介してきましょう。

 2020年4月20日に米国地質調査所(United States Geological Survey)は、月の地質図を作成して公表しました。その地図は以下からダウンロードできます。
 この地質図は500万分1の縮尺ですが、大きなサイズの画像もあり、詳細に地質が描かれています。この地質図は、北半球と南半球に分けたもの(丸いかたち)と、メルカトール図法の平面図(横長の四角)で表示がされています。また、地質時代も細かく分けられています。
 ご存知だと思いますが、月は常に地球に同じ面を見せています。これは、月の公転が地球に共鳴しているため、やや重い側を地球に向けるようになっています。地球に向けている側を慣例として表側と呼びましょう。月の裏側の様子は、地球から見ることはできません。ですから、月にいって、裏側に回り込まないと、裏面を見ることができません。
 月の探査機は、米ソの冷戦時代をきっかけ活発になされ、Apollo計画で有人探査がなさました。有人探査も表側での調査でした。しかし、裏側も見ることができました。その後も月の探査は、とぎれとぎれですが、継続しています。
 月の裏側は、表側とは全く異なったものになっていることがわかってきました。表側は、黒っぽいものと白っぽいもので模様ができています。白っぽいところにはクレータが多く、黒っぽいところは少なくなっていました。裏側は白っぽく、多数のクレータがありました。
 Apollo計画で試料が持ち帰られたので、岩石の特徴や形成年代もわかりました。月の表明はすべて火成岩からできており、白っぽいところは形成年代が古く、花崗岩の仲間(長石の多い岩石、アノーソサイトと呼ばれています)でています。また、黒っぽいところは、新しい時代の玄武岩からできていました。新しいとはいっても、35億から30億年ほど前で、白っぽいところは45億年前から数億年ほどでできています。その後は、月のマグマの活動はありません。
 月の表面には砂のようなもの(レゴリスと呼ばれています)で覆われています。これらは地球では堆積物に相当するのですが、月では地球のようなでき方とは異なっています。月には大気も海洋もないので、地球のような風や水による堆積物はできません。
 では、月でどのようにしてレゴリスはできたのでしょうか。次回としましょう。

・WEB講義・
大学でのWEB講義が来週からはじまりますが、
ゼミナールのような講義は、事前にスタートしています。
私は、今週からWEBでテレビ会議システムを使って、
いくつかのゼミナールをはじめることにしています。
このメールマガジンは、テレビ会議システムを
はじめる前に送信しています。
テレビ会議システムでは有名なZoomも試して、
それなり使いやすかったのですが、
大学では別のシステムを、
使うことになっていますので、
私はそれを使うことにしました。
うまくいのでしょうか、少々不安です。
まずは、やってみることでしょう。

・指導者・
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は
連休明けに終わるのでしょうか。
感染者の増加率を見ていると、難しそうです。
多分今までの対策のことごとくが、
中途半端だったようです。
やるときは対処に一気に徹底的に進めるべきでしょう。
孫氏の兵法にもそうあります。
緊急事態、非常時に弱い指導者は
問題をより大きくしてしまいますね。

2020年4月23日木曜日

2_182 真核生物の誕生 7:進化モデル

 古細菌から真核生物への進化の鍵を、ロキアーキオータが握っているようです。ロキアーキオータの培養が成功した結果、実態が明らかになってきました。古細菌から真核生物への進化の道筋が見えてきました。

 井町さんたちが培養に成功したロキアーキオータは、MK-D1株と呼ばれていました。では、MK-D1株とは、どんな生物なのでしょうか。培養に成功したために、DNAや形態の特徴などが詳しくわかってきました。
 MK-D1株は、酸素のない環境でしか培養できませんでした。ですから、嫌気性の生物となります。細胞を電子顕微鏡で観察をすると、直径550nmという非常に小さい球形でした。他の古細菌と同様に、単純な細胞であることもわかってきました。ただ、細胞の外に向かって、特異な触手のような長い突起を伸ばしたり、多くの小胞を放出することがあるのもわかりました。
 DNAの解析も進められました。MK-D1株には、真核生物に特有のゲノム(アクチンやユビキチンなどを作るための遺伝子)をいくつも持っていることがわかりました。分子系統樹からみると、原核生物としては、真核生物にもっとも近縁であることもわかってきました。
 MK-D1株と呼ばれるロキアーキオータは、無酸素の環境でしか生きられず、古細菌として単純な細胞内の構造しかもたない生物でありながら、真核生物に似た特徴もいくつも持っています。形態的にも不思議な特徴をもっていました。
 不思議な形態は、増殖が終わったときに現れます。長い触手のような突起を外に伸ばし、小胞を外に出すという、活動をします。これは、他の古細菌やバクテリアではみられない特徴です。では、なんのために、このような不思議な活動をするのでしょうか。
 MK-D1株は、形態の特徴や、古細菌でありながら真核生物のDNAに似ていることなどから、古細菌から真核生物への進化の道筋が推定されています。その進化の仮説は、前に紹介したE3モデル(Entangle-Engulf-Endogenize model)と呼ばれるものでした。その仮説をアニメーションにしたものが公開されています。この動画には、発見から培養の様子もまとめられています。興味ある方は、御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=18&v=p1Zr4t6Vmtg&feature=emb_logo
 このアニメーションでは、ロキアーキオータの祖先(MK-D1祖先と呼びましょう)は、次のような進化シナリオを紹介します。
 酸素のない時代から、酸素の多い時代になってくると、MK-D1祖先は酸素を利用できるミトコンドリアに触手を伸ばしていきます。MK-D1祖先は栄養をミトコンドリアに供給します。ミトコンドリアは酸素を利用して水素を排出します。硫黄還元菌はその水素を利用してアミノ酸を合成します。そのアミノ酸をMK-D1祖先が利用していきます。ばらばらであると効率が悪いので、MK-D1祖先が放出した小胞がミトコンドリアに付着して、からめてくっつきます(Entangle)。MK-D1祖先から細胞膜が広がり、飲み込み(Engulf)、やがて細胞内に融合していきます(Endogenize)。
 井町さんたちは、「単純な細胞構造を持つ無酸素環境下で生育するアーキア」から「複雑な細胞構造を持ち酸素で呼吸する我々真核生物」へとなっていくという新しい進化のE3モデルを提案しました。
 今後、MK-D1株のより詳しい研究が期待されます。

・緊急事態措置・
日本全土で緊急事態宣言がでました。
北海道も緊急事態措置の対象となりました。
大学でも、健康診断などの一部の行われる予定の行事も
すべて中止になりました。
職員もかなりの割合が在宅勤務となりました。
教員も可能な限り自宅待機となっています。
ただし、私は大学の研究室にこもっています。
会議は仕方がありませんが、
あとは極力、電話やメールですませています。

・学ぶチャンスに・
緊急事態で大学の講義が中止、延期
校務が最小限になっているため、
研究に専念しています。
いいことか悪いことかはわかりませんが、
研究が進みます。
この時期をチャンスに研究や教養、趣味など
今まで時間がなくて、できなかったことに
集中するのがいいのではないでしょうか。
私は研究に専念しながら数学の学び直しをしています。

2020年4月16日木曜日

2_181 真核生物の誕生 6:ロキアーキオータ

 古細菌の中でも深海底の広く分布していて、真核生物に近い種類があることがわかってきました。これまで困難だったその古細菌の培養を、やっと成功しました。その間、12年もかかって実験が試行錯誤されていました。

 ロキアーキオータが、世界中の海底堆積物にかなり広く存在していることは、以前から知られていました。ところが、その実態は不明でした。その理由は、ロキアーキオータだけを取り出して調べることできなかったからです。井町さんは、それにチャレンジしていました。その方法と実態解明には長い年月がかかっています。
 2006年5月、「しんかい6500」で南海トラフのメタン湧出帯(水深2533 m)から採取した深海底堆積物を、実験室で同じ条件で、約2000日間、培養をおこないました。当たり前のことですが、堆積物中には、多様な微生物が混在していることが、確認されました。
 次に、微生物群からバクテリアを除いていって、残った生物群を培養していきました。1年後に、少数の古細菌のロキアーキオータとその他数種類の微生物だけの状態にできました。次に、培養の物質や条件を整えながら、ロキアーキオータのみを抽出するという実験を続けました。最終的に、ロキアーキオータと、もうひとつの古細菌の2種が共生している(共培養系と呼ばれています)状態にまで、分離することに成功しました。それは、2018年のことでした。深海生物採取から12年もかけて、やっと成功したのです。この古細菌は、Prometheoarchaeum syntrophicum MK-D1株と名付けれました。
 ロキアーキオータ培養が難しかったのは、増殖の速度が非常に遅いことと、細胞のがあまり密集していては増殖できないためでした。増殖の速度とは、細胞が倍になる時間で比べられるのですが、実験によく用いれる大腸菌と比べると1000分の1の速度(ロキアーキオータの倍加時間は14日から25日)しかありませんでした。また、細胞ができるだけ密集させて培養する方が効率がいいのですが、あまり密集すると増殖速度が遅くなることもあります。増殖するもっとも多い密度を「最大細胞密度」といいます。ロキアーキオータの最大細胞密度も、大腸菌と比べて1000分の1程度(~10万 個/ml)の遅いものでした。
 さらに、ロキアーキオータは、単独では生きられず、別の生物との共生によってしが生きることができない生物でした。共生していた生物は、メタン生成古細菌(Methanogenium属と呼ばれる仲間)でした。
 ロキアーキオータは、ゆっくりと、少しずつしか増えず、密集もしない、ある種とのみ共生しないと繁殖できないという、非常に特殊な生き方をしている生物でした。そのため、非常に培養が難しかったのです。この困難を克服して井町さん、ロキアーキオータの培養に成功したのです。
 では、ロキアーキオータとは、どんな生物だったのでしょうか。次回としましょう。

・札幌休校・
北海道と札幌市では
先週に新型コロナウイルスの感染者の急増で
再度、札幌市内の小・中・高校の休校が決まりました。
再度一月ほどの休校になります。
授業の遅れもさることながら、
児童たちの心のケアは大丈夫でしょうか。
特に、新入生や今年度卒業予定で受験がある
児童生徒は非常に不安だと思います。
大学も同様です。
新入生へのケアが十分できないので心配です。

・マスク不足・
マスクが不足しています。
幸い我が家はまだ数枚買い置きがあります。
それを予備に保存することにして、
古いものを洗っては使いまわししています。
不織布で丈夫なので、なんとからなっています。
でも、ガーゼや布マスクは本当に有効なのでしょうか。
配布するなら、その費用と
国を挙げての増産を願いたいものです。
布もいいのですが、効果からいえば、
不織布にしてほしかったですね。

2020年4月9日木曜日

2_180 真核生物の誕生 5:メタゲノム解析

 新型コロナウイルスで利用されているPCR装置は、生物の進化の探求でも活躍しています。PCR検査では、一つの種類にしてDNAを調べるのが理想なのですが、できない時でもメタゲノム解析として利用されています。

 古細菌のロキアーキオータは、2015年にスウェーデンの研究グループが、生物学的な重要性を示しました。研究グループは、深海堆積物に生息する古細菌群の存在をゲノム解析で見つけました。ただし、このゲノム解析は、通常のゲノム(遺伝子)解析ではなく、メタゲノム解析と呼ばれるものでした。
 通常のゲノム解析は、目的の生物だけを集めて、そこからDNAを取り出して分析して解析していきます。生物の数が少ないときは、集められるDNAの量も少ないのですが、一定の手順でDNAを増殖させてから検出します。新型コロナウイルスで話題になったPCR(polymerase chain reaction)装置が利用されています。PCRはポリメラーゼ連鎖反応のことで、DNAの特定の領域を増殖(100万から数10億倍)させていくことです。PCR装置では、自動で増殖して解析していく装置になります。
 ただし、PCR検査をするためには、目的の生物だけに分離してから、DNAを抽出していかなければなりません。つまり、目的の生物だけを一定量集めておかなければなりません。もし目的の生物だけを分離できないときは、DNA解析をしても、雑多な生物のDNAのを読み取ってしまいます。それがメタゲノム解析という方法です。
 メタゲノム解析は、生物が分離できない場合に利用される方法です。解析の結果から、ある生物に特有のDNAをが見つかれば、その生物がいることが特定できます。例えば、特定の代謝機能を担っているDNAを調べることで、そのような代謝をする生物がいるかどうかを、探すことができます。
 深海堆積物からロキアーキオータの仲間を集めて、メタゲノム解析をしました。ただし、このとき単一の生物種かどうかは不明のままでの分析だったので、メタゲノム解析です。ロキアーキオータ群から、真核生物に特有とされてきたゲノム(遺伝子)が多数見つかりました。他のロキアーキオータに類似している古細菌にも、似た性質をもっているものがあることがわかりました。これらの真核生物に似た古細菌類を、ひとつにまとめにして(上門という区分になる)、「アスガルド上門」に区分しました。さらに彼らの研究では、アスガルドの仲間がもっとも真核生物の起源に近い古細菌であることもわかってきました。ところが、細胞の様子、生活の状態、生存の環境・条件などの実態は、まだ全くわかっていませんでした。
 実態の解明には、アスガルド上門に属するいずれかの古細菌を、実験室でひとつに種として培養して、詳細に調べる必要がありました。この培養が、真核生物への進化において、重要な課題になると世界的に大きく期待されていました。
 そこで登場するのが、井町さんの研究成果です。次回としましょう。


・WEB授業・
大学は4月一杯は休校となり
5月もWEBでの授業になります。
教職員は混乱しています。
どのようにして授業をすればいいのか、
それは教員一人のスキルでできることなのか。
全学生が同等に受講できるか
などなど、いろいろな疑問もあります。
今週から講習会がありますので、
それに参加してから、どうするかを
考えていきたいと思っています。

・調査費・
学内の競争的資金が採択されたのですが、
申請内容は調査費がメインでした。
本州が2回、道内が数回という調査予定でした。
ゴールデンウィークと5月に調査予定を入れていました。
それが、今回、出張が禁止となりました。
野外調査を中止せざる得ませんでした。
そのため研究費の執行の内容を
変更しなければなりません。
それを関係者と相談していきたいと考えています。

2020年4月2日木曜日

2_179 真核生物の誕生 4:2つの偶然

 その古細菌の発見は、10年以上も前のことでした。その古細菌が、真核生物への進化を解明するために、重要であることがわかったのは、ほんの少し前でした。時間差を乗り越えて、やっと謎解きをはじめることできました。

 前回紹介したように、ドメイン同士の関係は、分子生物学的手法からわかってきました。古細菌は原核(DNAが細胞内に散らばっている)なのですが、細菌(原核生物)よりも、真核生物に似ていました。そこから、進化の過程として考えると、まず細菌と古細菌が生まれ、その後古細菌から真核生物が生まれたと推定されました。
 生物進化に関するこのような考え方を、”Entangle-Engulf-Endogenize  model”、Eが3つ並ぶので、E3モデルと略されて呼ばれています。"Entangle"は「巻き込む、からませる」という意味で、"Engulf"は「吸い込む、飲み込む、(巻き込む)」、"Endogenize"は「内生の、内部に生じる」という意味があります。つまり、他の生物を、いろいろな方法で、自身の細胞内部に取り込むことで進化してきたというモデルになります。
 問題は、現在生きている生物から、古細菌と真核生物と中間的な性質をもったいるものを見つかるかどうかです。
 そんな時、2つの偶然が重なり、実態が解明が一気に進みました。
 まず、今回紹介している論文の著者の井町さんが、先行してある特殊な古細菌を採取して研究をしていたこと、それからかなり遅れて別の国の研究グループがその古細菌のグループがもっとも真核生物に近いことを示したこと、です。
 その真核生物に近い古細菌のグループは、ロキアーキオータと呼ばれています。ロキアーキオータを調べていけば、古細菌から真核生物への進化の過程が明らかにできます。このロキアーキオータを調べるのが、非常に難しかったのです。
 今回の報告では、やっとその生物を調べることができて、謎の解明がはじまったという報告でした。なんと、その古生物を調べる条件を整えるに、井町さんは12年もかけました。大変な労力をかけられた研究でした。
 次回から、まずはロキアーキオータの生物学的位置づけにから、見ていきましょう。

・新年度・
新年度になりました。
大学も入構禁止がとけましたが、
まだ、慎重な対応をとっています。
入学式も中止、新入生や在学生へのガイダンスも
最小限しかしないことになっています。
本来なら、新入生は、楽しく期待に満ちた日が
はじるはずだったのですが。
静かな、新年度の幕開けとなりました。

・集中講義・
3月上旬におこなうべき集中講義を
3月末におこなうことになりました。
いろいろと注意をしながらの開催でした。
時間割も、ぎりぎりに詰めておこなっています。
この時期にしなければ、
新年度に間に合わせることがでてきません。
ぎりぎりの対応となりました。

2020年3月26日木曜日

2_178 真核生物の誕生 3:古細菌

 ドメインごとの関係を、古細菌からみていきます。そもそも古細菌とは、どんな生物で、他の生物とどのような関係をもっているのでしょうか。生物の進化における古細菌の位置を、探っていきましょう。

 古細菌の実態がわかってきたことで、ドメインが生まれてきたことは紹介しました。その理由は、古細菌が、他の生物(細菌と真核生物)とは、大きな違いがあったからです。もともと核をもたない原核生物に類似していると考えられていたのですが、分子生物学の発展で、原核生物とも大きく違っていることがわかってきました。
 まず、他の生物とは細胞膜が違っています。細胞膜の成分(脂質)の立体構造が、他の生物のものとは反転(対掌体と呼ばれています)していること、ある成分(脂肪酸残基)が古細菌には欠如していることで違っています。これらの特徴は、古細菌は異なっているのですが、他の生物(細菌と真核生物)では共通して持っているものです。
 古細菌は、細菌とも、細胞壁の成分やDNA複製に関わる成分が異なっています。また、真核生物とも、細胞内に小器官(細胞核やミトコンドリアなど)を持っていることなどで異なっています。
 つまり、原核(DNAが袋に入っていない)であることから、古細菌は細菌とも似ている点はあります。ところが、細菌と真核生物の両者が持っている共通の類似点を持っていないことは、大きな問題です。また、原核なのですが、細菌とは明らかに異なっていることなどがあり、同じ分類にすることができません。そのため、新たな分類体系として、ドメインが導入されたのです。
 分子生物学的な研究から、古細菌は原核ではあるのですが、細菌よりも真核生物に似ていることがわかってきました。となると、進化の順番として、細菌と古細菌がまず生まれたことになります。その後、古細菌から真核生物が生まれたことになります。
 もしこの考えが正しいのなら、真核生物ができるためには、核が真核になる必要があります。その後、各種の細胞内小器官ができることになります。
 核の形成は、現在の真核生物の核が二重の膜になっていることが知られています。そこから、細胞の膜が細胞内に入り込み、DNAを包み込むようになり、細胞膜から離れて核膜になったと考えられます。これは、細胞膜と核膜の共通性と2重構造を持つことから正しそうにみえます。このような真核化が、まずは起こったと考えられます。
 次は、小器官の形成になります。すべての真核生物がもっているミトコンドリアという小器官の誕生が重要になります。このミトコンドリアは、細胞内で酸素を用いてATPというエネルギー源となる物質を作ります。もともとそのような機能をもっていた細菌を、取り込んだと考えられます。このようなことを、共生と呼んでいます。
 その根拠は、ミトコンドリアを包んでいる細胞膜の外側の膜(外膜)は、もとの真核生物の内側の膜(内膜)と同じという特徴を持っていためです。この特徴は、外から細菌が入りこんだとき、真核生物の膜に包まれたまま、細胞内に入ればできるものです。そのまま、その細菌が消化されることなく、細胞内で生きていれば、共存が完成します。
 ミトコンドリアをもった真核生物が、菌類や動物などへと進化していきます。また、光合成をする細菌(シアノバクテリア)を取り込み共生し、やがて葉緑体となっていったもの植物へとなっていきます。
 このような何度かの共生が起こったということが、多様な分類区分を生み出すための、大雑把な進化の道筋だと考えられています。これを確かめるためには、古細菌で真核生物に近いものを探せばいいいのですが、なかなか難しいものでした。今回の論文では、それに成功したという報告でした。
 詳細は次回にしましょう。

・民主主義・
私達が選んだ政治家が決めたことに従うのは、
間接民主主義の基本的ルールです。
内閣という行政府が決めたことに従って
地方自治体がしたがっていくことは、
やはり民主主義に基づき、市民は従うべきでしょう。
たとえペナルティがなくても
皆で決めたことに従うことが民主主義でしょう。
そのため、政治家、それに指針や根拠を与える
専門家集団の答申や会議が重要になります。
専門家の情報をもとに、政治家が判断を下します。
予期しない事態のときには、
今までのルールにない判断も必要でしょう。
それが政治判断となります。
メディアは、その判断が正しいかどうかを見極め
それを批判的に公表していく義務があります。
これも民主主義の機構に組み込まれているはずです。
現在の日本では、政治家とメディアともに、
不安がありますね。

・教育の積み残し・
新型コロナウイルスのため、わが大学では、
再度入構禁止の期間が延長され、
今月一杯までとなりました。
4月からの大学行事も
いろいろな制限がされた上でのスタートとなります。
学校関係者は、一連の処置には
いろいろ戸惑いがあったと思います。
昨年度の卒業生や新年度の新入生は
区切りのイベントがおこなわれず、
非常に残念だったと思います。
また、学校では3学期の授業で
終わっていない部分があるかと思いますが、
それを学ばずに、次の学年や学校に進むことになります。
それが、義務教育なら大きな問題です。
なんとか補う必要があると思うのですが。

2020年3月19日木曜日

2_177 真核生物の誕生 2:分類と進化と

 生物進化に関する論文を紹介しているのですが、いくつか注意すべき点があります。生物を考える時、分類と進化を当たり前、前提として、話を進めていますが、そこには誤解が入り込むことがあります。整理しておきましょう。

 前回、5界分類よりもっと上位の分類体系として、ドメインというものが現在使われていることを紹介しました。ドメインの誕生には、古細菌という生物群が、5界の分類体系には収まらないことからできたことも紹介しました。
 次に、分類群の進化上の関係を考えていきましょう。どの生物がもとになり、次の分類体系がでてきたかという関係です。これを考えるにあたり、注意が必要なことがあります。それは、「分類」と「進化」の概念についてです。まずは、それら2つの概念を考えておきましょう。
 もともと「分類」とは、生物群間の特徴に関する相違点と共通点を考えてつくられてきたものであって、進化の過程を前提にしているわけではありません。
 現在の生物群には、分類上の2つの中間的なものもあります。例えば、いま食材として注目されているミドリムシがあります。ミドリムシは葉緑体を持っているので、現在の分類学的には植物になっています。しかし、「ムシ」と名称がついているように、細胞壁がなく鞭毛を使って動き回るので、動物の性質もっています。進化の過程の研究からから、ミドリムシは、原生動物が緑色藻類と共生してできた分類群だと考えられます。しかし、現在の分類上は植物に区分されています。
 「進化」という概念にも注意が必要です。進化とは、ある生物が他の生物に変化することです。もともとの生物も生き残っていることも多々あります。ですから、進化前の生物と進化後の生物があっても、進化の後先でどちらが「進んでいるか」や、どちらが「優れているか」を規定するものではありません。進んでいるや優れているかと考えると、「霊長類」などという分類名や優勢思想がでてきます。現在生きているすべての生物は、生存戦略的には、すべて成功者といえます。進化には祖先と子孫の関係、生物のメカニズムとしての単純と複雑の違いはありますが、そこに優劣はありません。
 さて、分類体系が厳密な進化を反映していない前提のもとに、5界分類では進化の変遷においてどんな関係になっているのか、ざっとみていきましょう。つまりどの分類体系から他の分類体系がでてきたかを考えてくことになります。
 まずは、核を持たないモネラがもっとも単純な生物の体制をもっていますので、もっとも最初に生まれた生物群だと考えてよさそうです。モネラから核をもつ原生生物が、後に「進化」してきたことになるでしょう。その後、多細胞生物である菌、動物、植物の3界が進化してきたと考えられます。これが5界の進化を大雑把にみた関係となります。
 そこに古細菌という分類群とともに、ドメインという分類体系が生まれました。古細菌とドメインから、どのような「進化」の関係が見えてくるでしょうか。それがこの論文の中心となりますが、次回としましょう。

・学位記授与式・
大学は、入構禁止が継続中です。
3月25日までは入構禁止です。
その後、すこしずつ行事が進行していきます。
かなり自粛しながらですが。
本来なら、今日は学位記授与式の日でした。
大学の卒業祝賀会、学科の卒業を祝う会もある予定ですが
中止となり、何もない日となっていしました。
学位記や資格証明証は、手渡しなので職員から行わます。
入学式もガイダンスなども中止か最低限、短時間になります。
致し方ないことでしょう。

・ルールには従うが・
新型コロナウイルスのような非常事態になると、
人の弱さ愚かさが、私にはありありと見えます。
科学、あるいは科学的考え方を重視しています。
科学に従事するものであれば、
生き方もそれに則っているべきだと考え
それを実践しています。
今回の新型コロナウイルスの騒動、各国、組織の対応が
科学的でない点が多々あり
気になってしかたがありません。
たとえ根本思想に反対でも、
民主主義の原理も受け入れていますので
組織が決めたルールには従いますが。

2020年3月12日木曜日

2_176 真核生物の誕生 1:古細菌

 前回の「グアダルピアン世末の絶滅」に続いて、「生命の歴史」のシリーズが続きます。今回は1月に報告されたものを紹介しましょう。生物のある分類群のできかたが、実験からわかってきたというものでした。

 2020年1月15日付けのイギリスの一流の科学雑誌「Nature」に海洋研究開発機構の井町寛之さん、Masaru K. Nobuさん、および共同研究者の人たちの論文が、掲載されました。その論文タイトルは、
 Isolation of an archaeon at the prokaryote-eukaryote interface
 (原核生物と真核生物の境界に位置するアーキアの分離)
というものでした。このタイトルだけでは、その意味するところがよくわかりません。今回のシリーズはこの内容を、紹介していきましょう。
 この論文は、生物進化の重要な手がかりを見つたという報告でした。少々複雑な内容なので、順を追って説明してきましょう。
 まずは、生物の大きな分類からはじめましょう。生物の一番大きな分類体系は、5つの界(モネラ界、原生生物界、菌界、動物界、植物界)に分けられていたのですが、現在では3つのドメイン(domain)に分けられています。生物の分類体系の大枠が、5界から3ドメインに変わったことから、紹介してきます。
 5界の分類の特徴を見てきましょう。モネラ界は、細胞内に核(DNAが集められて収まっている組織のこと)を持たない原核生物(DNAが細胞内に分散している)で、細菌類とシアノバクテリア類が入っています。原生生物界は、核を持つ(真核生物)、いろいろな単細胞生物のグループです。アメーバーやゾウリムシなどです。菌界は、真核生物で複数の細胞からできていて(多細胞生物)、光合成をおこなわない生物で植物と似た細胞壁を持っています。キノコ類などで、他の生物などを分解していきます(分解者)。植物界は、細胞壁を持ち、光合成をして自分で栄養がつくれ(独立栄養生物)、生産者となります。動物界は、細胞壁を持たず、光合成もしません。他の生物や栄養を摂取します(従属栄養生物)。
 この5界分類は、古細菌が見つかるまで利用されたものです。古細菌が見つかってからは、3つのドメイン(domain)の分類が使われるようになりました。つまり、古細菌の発見が、新たな分類体系を生み出す契機となりました。古細菌は、「細菌」という名称がついていますが、細菌とは系統的にまったく異なった分類になります。遺伝子的にも生態的にも異なっています。例えば、高塩分濃度や強酸性、強アルカリ性、高温、無酸素など、他の生物があまり住めない環境に住んでいます。遺伝子の系統の解析から、古細菌は、モネラと真核生物の間に位置することもわかってきました。
 このような古細菌の特徴がわかってきたため、分類体系が見直されることになりました。その結果、古細菌があまりに異質なために、モネラ、古細菌、真核生物に分ける方が適切で、それを界より上の「ドメイン」という体系に変更することになりました。
 古細菌は、英語でarchaea(アーキア)です。この論文に使われているアーキアとは、古細菌のことでした。古細菌が、原核生物と真核生物の間に位置しているという当たり前のこと述べていきます。ただし、そこに「アーキアの分離」という言葉がついています。これは、古細菌にかなり重要な特徴を持ったものが見つかったというのが、今回のタイトルの意味となります。詳しくは次回以降にしましょう。

・新型コロナウイルス・
メディアは新型コロナウイルスばかりです。
私はあまりテレビのニュースは見なくなっています。
ワイドショーは新型コロナウイルスの
ニュースばかりのようですね。
北海道では多くの発病者がいます。
新型コロナウイルスの流行により、
大学は、すべての行事がストップし、
3月25日まで部外者の入構禁止になりました。
学位記授与式(卒業式)も集中講義なども
中止延期となりました。
入学式もガイダンスなども中止になりそうです。
教職員は大学に来ています。
どうしても事務的に
処理しなければならないことがいろいろあるので、
会議は通常通り行われています。
本来なら集まらずに処理できればいいのですが。

・区切り・
大学4年生は、学位記授与式も中止、
卒業祝賀会なども中止となっています。
教員と学生が会う場もなくなりました。
非常に残念ですね。
でも、卒業生は4月から新しい職場に転身します。
学位授与式は4年間の総まとめであり、
社会にでるための最後の区切りとなるものです。
4年生自身が社会にでるための
切り替えの儀式でもあります。
しかし、4月の入社式や入学式も
中止になっていきそうなので
始まりの区切りもなさそうですね。

2020年3月5日木曜日

2_175 グアダルピアン世末の絶滅 5:峨眉山トラップ

 グアダルピアン世末の絶滅は、やはり巨大火山噴火が原因ではないかと、考えられています。別の場所ですが、連続して2つの巨大噴火が起こったことになります。この異変は生物にとっては、大きなダメージになりました。

 ペルム紀末の大量絶滅の事件は、そのわずか710万年前のペルム紀グアダルピアン世の終わりに起きた絶滅事件を見えにくくしていた。ところが、年代測定の技術が進んだことで、区分されて記述できるようになってきました。
 これまでペルム紀末に、海洋生物の96%が絶滅していたとされていたのですが、それはグアダルピアン世末に起こった絶滅分も加わっていました。そのため、多目に絶滅率が算出されていたかもしれないとされています。実際には、80%程度の絶滅であったのではないかと推定されています。
 グアダルピアン世末の大絶滅は、他の大絶滅に匹敵する規模であることがわかってきました。これまで、大絶滅を「ビッグ・ファイブ」と呼んでいたのですが、「ビッグ・シックス」にすべきだと主張する人もいます。
 グアダルピアン世末には、礁を形成していたサンゴやカイメンの仲間が大絶滅し、アンモナイト類(頭足類)も多くが絶滅しています。軟体動物も多種絶滅しました。
 グアダルピアン世末の大絶滅の原因は、ペルム紀末の巨大火山噴火とは別の火山活動ではないかとされています。その火山は、中国南西部に峨眉山(がびさん)トラップ(Emeishan Traps)と呼ばれるものです。峨眉山は中国四川省にある山で、その周辺に玄武岩溶岩が広がっています。2億6200万から2億6100万年前に主に活動し、火山活動は2億5900万年前には終わっています。
 この一連の噴火で、大量の溶岩(100万km2)を流しました。初期は水蒸気噴火も伴っているような海底火山での噴火であったと考えられています。噴火に伴って大量のメタンと二酸化炭素が放出され、気候変動を引き起こしたのではなかいと推定されています。それが絶滅を引き起こしたのではなかいということです。
 ペルム紀末の大絶滅はシベリアン・トラップという巨大噴火で、グアダルピアン世末の大絶滅は峨眉山トラップの噴火でした。両大絶滅には、700万年ほど間隔しかありません。生物が回復するには、必ずしも充分な期間とはいえません。ペルム紀末の大絶滅は、十分回復していない生態系への異変ですから、単独での異変より、ダメージが大きくなったはずです。ですから、グアダルピアン世末の大絶滅を起こした異変、峨眉山トラップの噴火の方が激しく、生態系には過酷な環境が出現したのかもしれません。
 いずれもパンゲア超大陸での巨大噴火です。大陸地殻の分裂のリフトに伴う、巨大な割れ目噴火でしょうか。それともまた別の噴火でしょうか。今後の課題でしょう。

・研究に専念・
3月になりました。
2月、3月は研究に集中できる時期なので、
専念しています。
私にとって研究に専念するとは、
計画通りにプロジェクトを進めることです。
現在ところ、計画は順調に進んでいます。
まだ2020年は始まったばかりです。
来月には、新学期もはじまりますので、
授業や校務にも専念しなければなりません。
でも、今だけは、研究に専念です。

・帰省中止・
このエッセイは一旦は予約送信していました。
それは、帰省のために横浜と京都に滞在する予定でした。
ところが、出かける直前に
北海道で緊急事態宣言が出されました。
大学もそれ受けて、入港禁止が
3/11から3/25まで延長されました。
そのため、急遽帰省を中止しました。

2020年2月27日木曜日

2_174 グアダルピアン世末の絶滅 4:パンゲア超大陸

 ペルム紀は、大陸が一箇所に集まるという特異な時期でした。気候も、寒冷から温暖へと変化していきました。多様な陸上生物や海ではアンモナイトや三葉虫なども多様化して栄えていました。そこに、2度の大絶滅が起こりました。

 ペルム紀ー三畳紀境界(2億5200万年前)の大絶滅は大きなもので、史上最大のものと位置づけられています。ここ30年間ほどで、グアダルピアン世末の調査で、ペルム紀末の大量絶滅とは別の絶滅であることがわかってきました。
 グアダルピアン世末の大絶滅を紹介する前に、ペルム紀の様子を概観しておきましょう。
 ペルム紀の初期に、ユーラメリカ大陸(赤道付近に存在)とゴンドワナ大陸(南半球)、シベリア大陸(北半球)に分かれていたのですが、ペルム紀の終わり頃(2億5000万年前頃)には、衝突合体して、パンゲアと呼ばれる超大陸ができました。
 このペルム紀初期には、極地にも大陸が分布していましたが、衝突により、超大陸パンゲアができた結果、大陸配置は、超大陸パンゲアと超海洋パンサラッサという状態が出現しました。パンゲアは主に熱帯から温帯にも広がっていました。そのような大陸配置が、生物の進化や絶滅に影響があったはずです。
 ペルム紀初期には、ゴンドワナ大陸が南極域にあり、氷床が発達していたため、気候は寒冷であったのですが、北上していくことで氷床が融けて、だんだん温暖化していきました。そして、ペルム紀末には温暖化が起こり、顕生代ではもっとも温暖な時期を迎えることになりました。
 温暖化は生物にとって繁栄できる環境となります。ただし、パンゲア内陸部は乾燥気候の大地が広がっていました。そのため、植物は、シダ類類から、イチョウ類、ソテツ類などの裸子植物が反映してきました。陸上では動物が繁栄していて、特に昆虫が多様化し、巨大な両生類や爬虫類もいました。哺乳類の祖先にあたる単弓類も繁栄しています。海では、フズリナ、三葉虫、腕足類(特にアンモナイト類)、貝類などが多様化していました。海陸とも生物が繁栄していた時代でした。
 ペルム紀は、3つの時代に区分されています。古い方からシスウラリアン世(Cisuralian)、グアダルピアン世(Guadalupian)、ローピンジアン世(Lopingian)に区分されています。グアダルピアン世の末(2億5910万年前)、710万年前のことです。
 その実態や原因は、次回としましょう。

・トラップ・
トラップ(Trap)という用語は、
大規模な溶岩噴出したところ地域で用いています。
トラップのある溶岩地帯は、
階段状の丘ができていることが特徴です。
地質学用語として使われています。
ところが、英語の辞書には
地質学で使われているような意味がありません。
調べてみると、トラップの語源は、
スウェーデン語のtrappaに由来しています。
trappaの意味は、「段」や「階段」となっています。
なるほどと、やっとトラップが納得できました。
調べて見るものですね。

・暖冬・
今シーズンの冬は雪が少ないといっていました。
ところが、2月になって、ドカ雪が何度も降り
例年並みに降雪量となりました。
ところが、やはり気温が高くて、
降った雪が融けて、
降雪量は例年より少ないようです。
やはり暖冬ですね。

2020年2月20日木曜日

2_173 グアダルピアン世末の絶滅 3:シベリア・トラップ

 生物史上最大のペルム紀ー三畳紀境界の大絶滅は、どのような原因で起こったのでしょうか。その当時に起こった、激しい火山活動が原因だと考えられています。陸でも海でも大絶滅を起こすには、連鎖的な影響が必要です。

 史上最大の絶滅は、ペルム紀ー三畳紀境界(2億5200万年前)に起こりました。短い期間に、海の生物でも陸の生物でも大絶滅が起こっています。生物種の回復にも多く時間(1000万年ほど)が必要でした。非常に激しい異変だといえます。
 では、大絶滅の原因はなんだったのでしょうか。激しい火山活動が原因だと考えられています。古生代の終わりに超大陸パンゲアがあり、分裂した時期にあたっています。ですから、巨大な大陸プレートが割れていくので、その時、激しい火山活動が起こったと考えられます。通常の火山と比べて、桁違いの規模の火山噴火になったはずです。
 そのような火山活動の痕跡として、「シベリア・トラップ(Siberian Traps)」と呼ばれる噴火があります。時期も一致ています。シベリア・トラップとは、現在のロシアでいうと、ウラル山脈の東から、中央シベリア高原のほとんどすべてに広がっている、ロシアの東側を半分を覆うほど超巨大な溶岩(300万km3)です。
 このクラスの巨大溶岩の噴出は時々起こっています。「洪水玄武岩」と呼ばれているもので、三畳紀のアフリカ、ドラケンスバーグ山脈に広がる「カルー玄武岩」、白亜紀のブラジルの「パラナ玄武岩」、白亜紀~暁新世のインド、デカン高原の「デカン・トラップ」、中新世のアメリカ合衆国の「コロンビア川台地」などがあります。頻繁ではないのですが、巨大な火山噴火が起こっています。
 大陸プレート上だけでなく海洋プレート上でも、このような火山活動が起こっていることが知られています。合わせて、巨大火成岩岩石区(Large igneous provinces, LIPs)と呼ばれています。白亜紀に活動した南太平洋の「オントンジャワ海台」などは、シベリア・トラップに次ぐ溶岩の噴出量となっています。巨大火山は、環境への影響も大きなものになります。
 シベリア・トラップの火山噴火では、二酸化炭素も大量に放出(14.5兆t)されます。それに加えて、石炭を含んだ地層とも相互作用しメタンなどのガスも発生させたと考えられています。二酸化炭素もメタンも温室効果ガスになりです。ガスが、一気にそして大量に大気中に放出されたため、強烈な温室効果(14~18℃上昇)が起こったと想定されています。その連鎖で、陸上風化の速度も大きくなり、風化によって大気中の酸素が消費され、濃度を下げました。このような急激な環境変化で陸上生物の大絶滅が起こったとされました。陸上の火山噴火ですが、陸上風化によって海洋の酸素濃度も下がり、海も激しい酸欠状態になり、海洋生物も絶滅した、というシナリオです。
 白亜紀ー古第三紀の境界の隕石衝突も絶滅の原因ですが、衝突だけで大絶滅は説明できず、複雑な連鎖がおこっていたはずです。
 この絶滅があまりに巨大だったので、少し前に起こっていた大絶滅が見えなくなっているという指摘があります。それが、今回のテーマのペルム紀グアダルピアン世の終わりの大絶滅です。

・ドカ雪・
2月中旬になって、道路の雪が大半溶けるような
温かい日があったと思ったら、
寒い日もあり、ドカ雪も何度か降りました。
ドカ雪はかなり湿っているので
重くなり除雪などが大変になります。
それでも、今年の冬は暖かさは
今年は、いつもより早く春にが来そうです。

・頭を使う作業・
国公立大学の入試はこれからですが、
私立大学は一段落しています。
ですから、今がもっとも研究に打ち込める時期です。
講義のある時期は、どうしても合間時間に
集中して作業をすることになります。
それでも仕事はできますが、
やはり落ち着いて頭を使う作業に
専念できる時間あるのは助かります。
今、そんな作業をしています。

2020年2月13日木曜日

2_172 グアダルピアン世末の絶滅 2:ビックファイブ

 大規模な絶滅は大きい順から判定していけます。大絶滅になるほどその事象は見つけやすくなります。その原因を特定することは、なかなか困難です。なぜなら、原因となる現象と絶滅との因果関係を示すことが難しいからです。

 前回、大絶滅ほどその信憑性が高くなることを紹介しました。では、顕生代で、大きな絶滅は、どれくらいあったかをみていきましょう。これまでの研究で、5つの大きな絶滅があったことがわかっています。5つの大絶滅は、エッセイでも何度か紹介してきましたが、「ビックファイブ」と呼ばれています。ビックファイブの概要をみていきましょう。
 最初の大絶滅は、オルドビス紀とシルル紀の時代境界(4億4400万年前)の大絶滅です。すべての種の85%が絶滅したと考えられています。サンゴ、三葉虫、腕足動物、コノドント(ヤツメウナギに似た生物)などの海洋生物が、大絶滅を起こしました。
 2番目は、デボン紀後期(3億8300万年から3億5900万年前)には、生物種の約75%が絶滅しました。絶滅は2500万年の長い期間にわたって、種の多様化も少なくなり、造礁性(礁をつくる)の層孔虫やコノドント、アンモナイトの仲間などが絶滅しています。
 3番目は、ペルム紀ー三畳紀絶滅(2億5200万年前)で、短期間(6万年ほど)で、海棲生物の種の96%が、陸棲生物の種の75%が絶滅しています。それまで存在していた森林も消滅しています。生物は1000万年間ほど回復しませんでした。史上最大の絶滅とされています。今回のシリーズで紹介するのは、この時代の絶滅です。
 4番目が三畳紀ージュラ紀の境界(2億100万年前)の大絶滅です。陸と海の全生物種の80%が絶滅しています。陸上生物では、鳥類、翼竜、主竜類などで、特にワニ類が多く絶滅しました。
 5番目は、白亜紀ー古第三紀の境界(6600万年前)、K-Pg境界と呼ばれるもので、恐竜の大絶滅として有名になっています。恐竜の大半の他にも、全生物種の約76%が絶滅しています。この大絶滅は、ユカタン半島沖に落下した径約12キロの隕石が原因だと特定されています。
 大絶滅は化石の出現が途絶えることでわかります。しかし、その原因を特定するのはなかなか難しいものです。絶滅の直前から期間に特徴的な現象が見つかっていることもあります。一番目のオルドビス紀ーシルル紀の大絶滅は急激な寒冷化、2番目デボン紀後期の絶滅は繰り返し起こった海洋無酸素事、4番目は三畳紀ージュラ紀の境界は、大気中の二酸化炭素濃度の上昇(4倍)と温暖化、海洋の酸性化、などが起こっています。これらの現象と絶滅との因果関係は不明です。
 多くの大絶滅が見つかっていますが、その原因はK-Pg境界以外のものでは、確定されていません。生物は、顕生代以降、地球の多くの環境に進出してきました。海洋(深海から浅海、海表付近から海底)から陸地(平地から高山、熱帯から寒冷地)まで、多様な環境に多様な生物種が広がってきました。それらの生物種を大量に絶滅させるのは、なかなか難しいことになります。隕石衝突のような天変地異のようなものがあれば、それを主原因にして考えればいいのですが、隕石の衝突が検証されているのは、K-Pg境界だけです。

・新型ウイルス・
札幌の雪まつりを終わりました。
雪まつりがニュースでも取り上げられることが
少なかったようでした。
新型コロナウイルスのニュースが
主流となっているせいでしょうか。
中国では多くの人が死亡しているようで、
SARSの死者数を越えたようです。
今回のウイルスは、感染力が高いこととと
潜伏期間が長いのが特徴のようです。
その特徴が今回の流行と封じ込めを
難しくしているようです。
3月には夫婦で横浜と京都に出かける予定なので
今後の動向が心配です。

・研究を進める・
大学の後期の成績評価も終わり、
入試の第一陣も終わり、あとは判定作業となります。
2年生、3年生は実習の準備がはじまり、
4年生は卒業の準備です。
実習を担当しているので、落ち着かないところもあります。
時間が一番ある時期でもあるので、
研究を進めていきたいと思っています。

2020年2月6日木曜日

2_171 グアダルピアン世末の絶滅 1:不在の証明

 生物の進化は化石で探るしかありません。しかし、化石から、進化が起こったことを検証するのは、難しいものです。化石の不在からわかることがあります。それは種の絶滅です。絶滅は大きいほど、その確かさが増していきます。

 過去から現在までの生物の進化は、化石の変化をみることで調べていきます。当然、化石が少ない、あるいはない時代では、進化をとらえるのが難しくなります。進化がよくわかるのは、化石が「たくさん」残されてくるカンブリア紀以降、いわゆる「顕生代」になってからです。
 では、「たくさん」残された化石から、生物の進化をどのように探るのでしょうか。そこには科学的な信頼性はあるのでしょうか。まずは、生物の種に注目して、考えていきましょう。
 連続した地層があり、そこからはアンモナイトの多様な種の化石が多産するとします。ある化石種Aに注目しましょう。そのAは、ある地層 H1 より上(新しい時代)の地層からは、見つからなくなったとしましょう。その地層 H1 の直上の地層 H2 から、その種に似ていますが、少し異なった化石Bが見つかり出したとしましょう。
 これらの情報から、化石種Aは、H1 の時代には見つからないということですから、多分、絶滅したと考えられます。ただし、正確にその時代かどうかはわかりませんが、その以降見つからないということは、その地層が形成された時代頃に絶滅したと考えていいでしょう。
 種Bは、絶滅した種Aに似ていることから、Aから新たに生まれた新種として誕生し、Aに取って代わる、種の交代が起こったと考えます。もちろん、古生物学者は、その「似ている」ことを客観的に示すために、いろいろな特徴を観察、計測し、統計処理をしながら、客観性を高めていくことになります。このような化石から得られた情報から、個々の種に関して生物進化を考えていくわけです。
 しかし、論理的には、種Aが別の種Bに変化したかどうかは、検証できません。なぜなら、過去の事象を起こった時代に遡って(出向いて)調べることができません。また、実際に進化という現象を見ることも難しいでしょう。したがって、可能性の大きなものとして、AからBへの進化と考えるのが妥当とだということになります。このような個々の妥当性の事例を多数集めることで、アンモナイトの大きなグループの進化、そして頭足類、動物、生物などの進化を推定していくことになります。しかし、それはあくまでも可能性を高めるだけであって、検証できるわけではありません。
 ここまでの話で確かなことがあります。A種の H2 以降の層準での欠如は、その時代以降での種数の激減、あるいは絶滅を意味している点です。不在の証明はなかなか難しいですが、その層準で多数の種が欠如、あるいは化石の激減していれば、多数の種の絶滅、異変があったことがわかります。絶滅が大きければ大きいほど、大きな異変となります。
 皮肉なことですが、生物にとっての大惨事ほど、信憑性が高まります。大絶滅の認定は、かなり確からしくなります。ただし、何が起こったかは、別の問題ですが。

・大学入試・
大学入試がはじまりました。
大学の講義も終わり、定期試験、成績評価も一段落です。
大学は、卒業生や進級という区切りが進行し
新入生を迎えるための準備も平行して進む時期です。
教員は、授業はないので時間に余裕ができますが、
校務がいろいろ入り、ばたばたする時期でもあります。
校務の合間の時間で、研究を進めていきたいと思っています。

・コロナウイルス・
新型コロナウイルスに関する情報は
日々刻々変化しています。
このエッセイを書いている時点で
内閣府(厚生労働省)の発表(1/31現在)によると、
世界中で感染者合計は9800人で、
内、死亡者は212人となっています。
致死率は2%程度で、高くなさそうです。
ですが、潜伏期間が長いこと、
感染力が強いことが心配です。
札幌では、雪まつりの真っ最中です。
自衛としては、不要不急の人混みへは、
極力出かけないことでしょうか。

2020年1月30日木曜日

6_173 宇宙の元素 5:新たなモデルの必要性

 宇宙の初期に重い元素ができ、銀河全体に広がっていることがわかりました。この現象は、これまでのモデルでは説明できないものでした。そのためには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。それは今後の課題ですね。

 宇宙が創生されて8億年で、ヘリウムより重い元素である炭素ガスが、銀河全体に広がっていることが今回の論文の重要な点でした。複数の銀河(18個)の銀河で同じようなことが確認されているので、藤本さんたちはこれを宇宙の環境汚染と呼びました。ここでは、炭素の拡散と呼びましょう。
 前回紹介したように、短時間で重い元素が広がるには、いくつかの条件をクリアする必要があります。
 重い元素は、恒星の内部や超新星を起こしたとき(星が死ぬ時)に形成されます。恒星の形成から死(超新星爆発)までの一生を8億年以内で終わらせる必要があります。これは今までにない短い時間です。また、できた元素が超新星爆発で、銀河全体に広がってかなければなりません。ひとつの星からの元素では、銀河全体に広がる必要があります。
 銀河が、いつ、どのようにできたのかは、まだ詳しくわかっていません。できたての銀河の中で、至るところで巨大な星が、短時間で一生を終え重い元素をばらまき、その元素が銀河全体に行き渡らさせなければなりません。このような条件をクリアなければなりません。
 さらに、多くの銀河で同じような時期に、同様の炭素の拡散が見つかっていることから、同じメカニズムが、宇宙誕生時、さらに銀河誕生時に起こったことになります。
 このような条件は、宇宙のはじまりや、銀河の誕生について、今まで考えられていないことでした。今後、重い元素の急速な形成、拡散のために新たなモデルを考えなければならなくなりました。
 共同研究者のメンバーで欧州南天天文台のアイビソン(Ivison)さんは、インタビューで、次のようなアイディアを出されています。
 その巨大ブラックホールが、重い元素の拡散に重要な役割を果たしたのではないかというアイディアを述べています。銀河の中心部に超巨大なブラックホールがあることは知られています。銀河中心の巨大なブラックホールのできたての頃、高速のガスや強力な光が吹き出し、その影響が銀河全体に及んだためではないかと考えました。ブラックホールの強力なガスや光が、各地で起こった超新星爆発でできた元素を、銀河全体に広く吹き飛ばしたのはないかということです。
 しかし、ここで示したのでは、まだアイディアの段階です。正式なモデルにする必要があります。モデルを提示するためには、証拠や検証が必要となります。新しいモデルでは、当たり前のことですが、今回の現象を説明するだけでなく、これまであったデータや証拠も説明できるものでなければなりません。それは、今後の課題ですので、期待していきましょう。

・定期試験・
大学はいよいよ後期の定期試験に突入しました。
私の担当の科目と補助監督もあたっています。
試験になると、授業が終わり一段落ですが、
これから、成績評価と大学入試関係の業務がはじまります。
細切れですが、いろいろな忙しさもでてきます。
しかし、授業が終わったので、一息つけます。

・排雪作業・
今年の北海道は非常に積雪が少ないです。
雪が多いときは、各家庭の除雪が
家の周りにいっぱいに積み上がります。
それは市の予算と自治会費で
1年に一回、排雪費用が計上されています。
雪が多いときは、多くの家庭が助かっています。
しかし、雪が少ないときも、
市の予算計上されているものは執行されています。
今年も、雪が少ないのです排雪作業がはじまりました。
次年度に回すことができれば、
積雪が大きときは、2度排雪することにできればいいのですが。
お役所の予算はそうもいかないのでしょうね。

2020年1月23日木曜日

6_172 宇宙の元素 4:炭素ガス形成

 宇宙形成の最初期に、炭素ガスが銀河全体に広がっていたことが、明らかになりました。検証の結果、正しいことがわかってきました。しかし、そこにはいろいろな問題がありました。

 前回紹介したように、藤本さんたちは、宇宙誕生から8億年しかたってないような複数の銀河を、炭素ガスが広く覆っていることを観測しました。この炭素ガスが、実はいろいろな問題があります。
 ビックバンでできる元素のほとんどが、水素とヘリウムで、それらより重い元素は、ほとんど形成されません。宇宙形成直後8億年で、ヘリウムより重い元素ができているのは、非常に不思議です。ヘリウムより重い元素は、恒星の内部での核融合、あるいは恒星の一生の終わりに起こる超新星爆発などで形成されるものです。
 重い元素ができるには、8億年の間に、星の誕生、核融合、死という一生を、急ぎ足で終えなければなりません。恒星の寿命は、星の質量が大きければ大きいほど短くなり、小さければ長くなります。恒星の死が短時間で終わることは、とてつも大きな星ができたことになります。宇宙誕生直後に、超巨大な恒星ができれば、短命で終わってもいいでしょう。ですが、8億年という期間で、本当に星が一生を過ごせるのでしょうか。これは1つ目の疑問です。
 さらに大きな問題があります。それは、ひとつやふたつの恒星の死で、銀河全体を炭素ガスで満たすことができると考えられません。銀河全体で、一気に星ができて、一気に燃え尽きてしまい、炭素ガスを撒き散らす必要があります。これは、宇宙誕生のメカニズムとして、銀河内で巨大な星が一斉にでき、一斉に超新星爆発をする、というようなプロセスを持っていなければなりません。本当でしょうか。
 このような問題を解決する一番簡単な答えは、観測ミスです。藤本さんたちも、最初に、自身らの観測ミスを考えました。観測精度が充分であれば、ミスかどうかを確認できます。アロマ望遠鏡の観測能力は他の望遠鏡の数倍以上の能力があるので、限られた時間の観測であっても、精度の高い結果がえられました。さらに、似た時期の複数のデータ(18個の銀河)を重ね合わせることで、その結果が正しいことも明らかになりました。
 これまでにも、古い銀河に炭素や酸素などの重い元素があるのことは知られていましたが、その広がりは不明でした。しかし、今回の精度の高い観測で、銀河全体に炭素ガスが広がっていることが明らかになりました。
 観測した同時期の銀河には、共通した特徴として、炭素ガスが広がっていることが明らかになりました。藤本さんたちは、これを宇宙の環境汚染と呼びました。

・センター試験・
センター試験が先週末に終わりました。
現在の形式での試験は、今回が最後になります。
来年度からは新しい形式の
大学共通テストになります。
しかし、試験内容は二転三転しています。
英語の業者試験が中止、
数学、国語の記述式試験は中止。
来年の受験生は気が気でないでしょう。
非常に残念ですが、
政治が国民の方を見ていない気がします。

・環境汚染・
今回紹介した論文は、プレス発表で
「環境汚染」という言葉を使っていました。
「環境汚染」はあまりいい言葉ではないと思います。
なぜなら、環境も汚染も、
どこかに人間の存在を感じさせる用語になっています。
宇宙の初期には人間は関与していません。
ですから、「環境汚染」という言葉は
アイキャッチとして用いられたのでしょう。
学術的内容にそぐわなく感じました。

2020年1月16日木曜日

6_171 宇宙の元素 3:モデルから

 宇宙の年齢を、モデルから求める方法があります。それはかなり精度が上がっており、現状ではもっとも信頼性のある方法になっているようです。現状の138億年前という値が、かなり高精度で、あまり変動はなさそうです。

 このシリーズの前半は、宇宙の年齢について見ています。今回は、宇宙誕生のモデルからの推定です。宇宙の晴れ上がりの時のゆらぎは、観測されます。ゆらぎは、当時の物質がどのように分布していたのかを反映しています。観測値のゆらぎを再現できるようなモデルを考えていきます。
 現在、モデルの中でもっとも多くの人が用いているものは、ΛCDMモデルと呼ばれています。そのモデルから、宇宙の年齢を推定することができます。
 2009年に打ち上げられたプランク衛星は、さらに高精度の観測をおこないました。その結果、宇宙は平坦で膨張は永遠に続きそうなこと、宇宙の質量のうち見える物質は4%、ダークマターは23%、不明の真空エネルギーは73%、最初の恒星が2億年後、などが明らかになりました。そして、2016年現在、ハッブル定数は、73.24±1.74km/s/Mpcとなり、宇宙の年齢は137.98±0.037億年となりました。
 今後、ハッブル定数は、その精度が上がっていくことと思います。しかし、今後の研究目的は、宇宙の年齢の精度を上げることが主になることはないでしょう。ΛCDMモデルのより精度の高い検証と修正、あるいはΛCDMよりすぐれたモデルの導出ということになるのだろうと思います。
 その付加的成果として、宇宙の年齢の精度が上がっていくことはあるのでしょう。しかし、これまでの年代値の変動をみていると、宇宙の年齢の138億年が、139億年や136億年に変わることはなさそうです。
 さてここまでがこのシリーズの前半となります。いよいよ本題となる宇宙の元素についてです。
 2019年12月に、東京大学の藤本征史さん(現在コペンハーゲン大学)たちの研究グループが、、古い銀河の観測をしました。チリのアタカマ砂漠にある「アルマ望遠鏡」を使ってのことです。銀河の年代は、130億年前のものでした。宇宙誕生の初期に形成された銀河です。
 最も古い銀河は、2015年に報告されたEGS-zs8-1で、131億年前ものでした。ハワイのケックI望遠鏡を用いて発見されました。ですから、今回観測された銀河は、最古のものではありません。しかし、宇宙ができて8億年くらいしかたっていませんが、同時期の銀河を複数観測したとことろ、共通する不思議な特徴を見出しました。これらの銀河の半径3万光年ほどの領域で、炭素のガスが分布していることが明らかになりました。銀河を覆ってって炭素ガスがありました。
 初期の銀河を覆う炭素ガスの意味するところはなんでしょうか。次回にしましょう。

・センター試験・
大学は、いよいよセンター試験を週末に迎えます。
現在の形式でのセンター試験は今回が最後になります。
今年度の受験生は、大変です。
次年度の試験の形式がどうなるかがはっきしりないからです。
もし浪人でもすることになったら、
どうなるかがわかっていません。
国のレベルで、二転三転しているので
状況もよくわかっていません。
次年度の受験生、とくに高校2年生は、
非常に困惑していることでしょう。
保護者の方々も困惑しているはずです。
大学で実施する側も、どうなるか気になります。
なにもかも未確定の部分が多すぎますね。

・ハッピーマンデイ・
大学の講義が、いよいよ終盤を迎えています。
曜日によっては、今週で終わる講義もあります。
多くは来週が最終になりますが、
毎回ですが、月曜日の処理が困っています。
大学の講義は、曜日進行なので、
ハッピーマンデイの祝日で月曜日が休みになることが
4日増えることになります。
決してハッピーではないです。
同じような苦労している業界もあるのでしょうね。
私は、講義期間は、休みなく実施したらと思うのですが、
それでは、休日祝日の意味がないといわれます。

2020年1月9日木曜日

6_170 宇宙の元素 2:宇宙背景放射

 宇宙の年齢の求め方には、いくつかの方法があります。もしそれぞれの方法がまったく関係しない方法で求められ、それが一致すれば、その値の信頼性が上がります。もうひとつの年齢を求める方法を見ていきましょう。

 前回はハッブル定数から宇宙の年齢を求める方法を紹介しました。小松英一郎さんたちは、2008年に、当時、最も精度のいい観測データに基づいて計算したハッブル定数は 70.5±1.3 km/s/Mpcで、ハッブル時間は138.7 ± 2.6億年となると算出しました。これが、ハッブル定数から求めた宇宙の年齢でした。
 次は、宇宙の背景放射で求める方法についてみていきます。
 宇宙背景放射とは、アメリカのペンジャスとウィルソンが1965年に発見したものです。電波を観測するつもりでつくったアンテナが、宇宙のあらゆる方向から、背景のようにやってくるノイズ(マイクロ波の雑音)を捉えました。そのときのノイズのスペクトルのパターンが、絶対温度3℃(-270℃)のときの放射(黒体放射)に一致していました。
 この放射は、もともと宇宙が高密度高温の時、つまりビックバンの時の状態の時、もっていた熱が放射して、宇宙を満たしていました。宇宙が膨張すると、宇宙はその外はないので、外とのエネルギーのやり取りはありません。ですから、宇宙の膨張とともに、温度が下がっていきます。その結果、観測された温度まで下がったと考えられます。
 高温のときのスペクトルが、現在も宇宙を飛び交っていることになります。この状態の時を、「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。
 その後、この宇宙背景放射を正確に観測するために、1989年、宇宙背景放射観測衛星COBEを打ち上げました。その結果、宇宙背景放射に10万分1のゆらぎ、ムラがあることわかりました。
 2001年、さらに精度を上げるためにウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機WMAPが打ち上げられました。その結果、背景放射のムラを高精度で測定して、宇宙には100万分1のゆらぎはあるが、非常に平坦であること、宇宙のエネルギー構成が定まり、宇宙の年齢が137±2億年であることもわかりました。
 もうひとつ、宇宙の年齢を推定する方法があります。これは、宇宙の晴れ上がりの時のゆらぎとも関係しています。それは宇宙誕生のモデルから推定するものです。それは、次回としましょう。

・独立した方法・
ここで述べた宇宙の年齢の求め方でみてきたように、
まったく別の方法で求めることを
「独立した方法」といいます。
それらが一致すれば、それは有力な根拠となります。
ただし、それぞれの方法で求め方や観測方法、
根拠データが異なるため、精度も異なります。
それぞれの精度の比較はできませんが、
値の信頼については、高いものとなっていきます。
独立した方法で、38億年になるのは、
宇宙の年齢として、信頼性が高いものです。

・筋肉痛が・
北海道の正月は、穏やかにはじまりました。
私は、31日まで研究室にいき、
3日から通常通りに仕事をはじめました。
学生には「大学に住んでいるのですか」、
と聞かれませんした。
住んでいるわけではないのですが、
「まあ半分住んでいるようなものだ」と答えました。
大学は6日まで全館休館で、暖房も最小になっているので
研究室が寒くて仕方がありません。
そのためでしょうか、4日には腰痛に似た筋肉痛がでてきました。
まあ、無理はしないようにして、
寒さは避けて、6日は自宅で少し仕事をして療養しました。

・のんびりと・
今年は、子どもたちがいないので、
のんびりとした正月になりました。
お雑煮も2日間だけのあっさりしたものでした。
夫婦だけなので、最小限にしました。
元旦は、私が福袋で買い物を、家内はスイートを。
2日は温泉にいきました。
3日はもう通常通りになりました。
これからもこんな正月になるでしょうね。

2020年1月2日木曜日

6_169 宇宙の元素 1:宇宙の年齢

 今年最初のエッセイは、宇宙のはじまりの話をしましょう。宇宙は、いつ、どのように誕生したのでしょうか。最近、宇宙のはじまりの様子がわかってきました。まずは、宇宙の年齢を求める方法から見ていきましょう。

 昔は年齢を「かぞえ」で数え、歳のはじめに皆がひとつ歳をとりました。今は、誕生日をもって歳をとる「満年齢」を用いています。しかし、地球の古いことや宇宙の古いことは、かぞえも、満も、誤差範囲なります。
 そもそも誕生日は誕生の様子は、だれも記録、記憶していないので、現在えられる観測をもとに調べていくことになります。宇宙の歳の話しからはじめましょう。
 宇宙の年齢は、どのようにして求められるのでしょうか。いくつかの方法があります。ひとつはハッブル定数から求める方法です。
 ハッブル定数とは、宇宙が膨張していることがわかったときに、その由来はさかのぼります。アメリカの天文学者ハッブルが、1929年に、地球(私たちの太陽系)からの距離を横軸に、地球からその天体が遠ざかる速度を縦軸にしたグラフに、遠くの銀河の観測データを記入していくと、右肩上がりの分布になることを示しました。このグラフが宇宙が膨張していることの根拠となりました。
 データの分布を直線に回帰し、その傾きを求めたものが、発見者にちなみ「ハッブル定数」と呼ばれました。その傾きの次元(単位)は、1/(時間)となり、(時間)の逆数です。したがって、ハッブル定数の逆数の次元は、(時間)となります。この値は、「ハッブル時間」と呼ばれ、宇宙の年齢を示すと考えられます。
 しかし、「ハッブル時間」は、宇宙の膨張が一定であるという前提に立っていますが、そこには根拠がありません。グラフで直線とみなしたのは、宇宙の物質の量を考慮していないという問題がありました。宇宙には多くの物質があります。その物質間に働く引力で、膨張を抑える力が働きます。引力は距離の二乗に逆比例します。ビックバンのときは、引力が強かったので、ビックバンのときは引力を振り切るために、膨張の速度は速く、だんだん減速していることになります。減速も実測されてきました。
 この物質の量と分布は非常に難しい問題となっています。精度の上げるためには、別の方法が必要です。その方法として、宇宙の背景放射を用いるものがあります。それは、次回としましょう。

・年始の挨拶は電話で・
明けましておめでとうございます。
今年から、我が家は夫婦ふたりでの正月になります。
子どもたちが家を離れているのですが、
母の実家の近く住んでいます。
母は独居ですが、親族のために多くの餅をつきます。
機械でつくのですが、手伝いに親族も来るので、
子どもたちも訪れ参加しました。
母には週に何度も電話をしているのですが、
年に2、3度しか会うことがありません。
考えたら、母にも子どもたち会うのは、それくらいの頻度です。
今年は、家族全員の年始の挨拶は電話になります。

・暮は餅つき・
我が家でも、機械で餅つきをします。
もち米を前日に水につけておき、機械に入れれば、
自動でつき上げてくれので非常に楽です。
正月用の餅も重要なのですが、
つきたての餅を食べるのも楽しみです。
我が家の定番は、大根おろしや納豆もいいのですが、
シンプルに磯辺巻きが一番ですね。

・お雑煮・
正月のお雑煮は各地、各家庭で異なるでしょう。
我が家、昨年までは、京都の母のものと同じで、
白味噌仕立てで丸餅、小芋、大根を入れるのシンプルなものでした。
他に、いろいろとお重に入れるようなお節もつまみます。
雑煮は朝食だけで、昼も夜も別のメニューにしています。
今年は、市販の味噌出しを用いて、
丸餅は入れるのですが、鍋風にすることにしました。
餅を入れて雑煮代わりに食べることにしました。
夫婦ふたりなのはじめての試みです。