2023年9月28日木曜日

5_207 タンデムモデル 7:新しい提案

 タンデムモデルは、後発の仮説なので、これまでの標準モデルの課題を克服しているます。もっと重要なことは、これまで説明されることのなかった事実を取り込んで、より詳細なモデルを提案している点です。


 タンデムモデルは、太陽系惑星や系外惑星の形成モデルとして、これまでの課題を克服した。しかし、他にも、いろいろとメリットもありました。それを紹介していきましょう。
 タンデムモデルでは、岩石惑星と氷ガス惑星の違いを、すっきりと説明できました。このような違いは、他のモデルでも達成できていました。タンデムモデルでは、より精度の高い提案がなされています。
 小惑星帯では、太陽からの距離と固体物質の違いがありました。水の量の変化と酸化還元の変化です。小惑星帯の分布で、この傾向がわかっていました。
 ただし、この傾向を地球まで広げていく必要があります。拡大した視点で見ていくと、H2Oは、太陽に近づくと、氷から水、水蒸気となります。惑星の材料で考えるには、固体物質に取り込まれている必要があります。氷ならそのまま惑星の材料になります。水なら含水鉱物として含まれています。それより太陽に近づくと含水鉱物が分解されて、無水鉱物になっていきます。その位置は、地球より外側になります。したがって地球の位置は、無水鉱物だけからできている条件になります。
 地球は、無水の還元的な材料からできたと推定されます。太陽に近くなと、珪酸塩鉱物(酸化物)も還元されていくと推定されています。そのような隕石も稀ですがあります。エンスタタイトコンドライトと呼ばれる隕石です。エンスタタイトコンドライトの特徴は、還元的な条件であることもわかっています。
 地球は、大気も海洋もなく(裸でドライな地球と呼ばれています)、還元的な条件という、今とは全く異なった状態、姿からスタートしたことになります。原始地球の表面は、マグマオーシャンが固化した斜長岩の地殻からできています。そこにカンラン岩質の溶岩(コマチアイト溶岩)や鉄が多い玄武岩溶岩(KREEP 玄武岩)などもありました。現在の月を構成している岩石に似ています。
 このような地球からは、海や大気、さらには生命の起源が説明できなくなります。これは大きな問題となります。ところが、別の条件があることもわかっています。
 月のクレータや岩石の年代研究から、43.7億年前から42億年前までの2億年ほどの間に、隕石が大量に落下したことがわかっています。このような現象を、後期隕石重爆撃と呼んでいます。月で起こった後期隕石重爆撃は、同じ公転軌道にある地球にも、起こったはずです。
 後期重爆撃が起こった原因は、ガス惑星で軌道不安定が起こることにより、周辺の小惑星(隕石)の軌道が乱されます。その結果、この時期に後期重爆撃が起こったと考えられています。
 氷ガス惑星の形成場付近の小惑星なので、氷や揮発性成分(炭素質コンドライト)を含んだものになります。それらの小惑星が、内惑星の領域にも入り込み、後期重爆撃を起こします。
 その結果、地球には大気や海洋の成分が加わるとともに、還元的鉱物と水との激しい反応が起こります。その時、初期生命に必要な反応が進んだと考えられています。
 海や大気、生命の起源も、材料から重要な束縛条件を示していくことができるようになってきました。
 今では、後期重爆撃で揮発成分がもたらされせるモデルが主流になってきました。主のモデルには、レイトベニア説(Late Veneer)説やABEL(Advent of bio-elements 生命構成元素の降臨)爆撃説などがあります。これは、また別の機会にしましょう。

・現在進行中・
このエッセイが、サバティカル期間に配信する
最後のものとなります。
書いている論文で注目していたモデルとして
このタンデムモデルがありました。
タンデムモデルを、サバティカル期間に
最後まで紹介することができてよかったです。
一般に、研究は、データが積み上がってくると
これまでにない新しい知見も見つかってきます。
それをうまく取り入れたモデルがあれば
より有効性の大きなものになってきます。
今回のタンデムモデルも、そのようなものになります。
ただし、新しく提案されたモデルでは
修正、検証が必要な部分も多々あるはずです。
それが、現在進行中で進められています。

・感謝・
今回のサバティカルでは、
いろいろな目標を立てていました。
目標や計画は、
どうしても盛りだくさんなになっていきます。
想定外の事態も起こり、
予定通りに進まないこともありました。
目標をすべては
達成することはできませんでした。
予定通りにいかないことは、
もちろん想定内でしたが。
半年という期間ですが、
1年分に匹敵するほど、
実りの多いものになりました。
受け入れてくださった関係者や
地域の方々のおかげだと思います。
半年間ありがとうございました。

2023年9月21日木曜日

5_206 タンデムモデル 6:境界領域

 このシリーズの5回目にして、やっとタンデムモデルの紹介になります。比較的新しく提唱されたモデルですので、まだまだシミュレーションで検討の余地がありそうです。条件を変更すると、いろいろな変化が現れます。


 いよいよタンデムモデルを紹介していきましょう。タンデムとは、席が2つ並んでいるものをいいます。自転車や車などでツーシートの場合にタンデムと呼ばれています。太陽系形成で、惑星の形成場が二箇所できるというモデルになることから、タンデムと名付けられました。
 タンデムモデルは、標準モデルで課題となっていた、原始星の磁気回転の不安定性の影響を考慮しています。それらを重視してシミュレーションをしていくと、円盤内に乱流ができるところと静穏になるところができました。乱流が二箇所でき、乱流域と静穏域の境界があります。この境界が重要で、そこに形成時に物質が移動して集中してくる特別な場になることがわかりました。
 外側(5~30AU)の境界では、空隙の多い多孔質の氷粒子が多く集まる場ができます。内側(0.3~1AU)の境界では、岩石粒子だけが集まり岩石惑星ができていきます。惑星の形成の場は、二箇所での2種類の惑星(岩石惑星と氷惑星)が形成されることになります。
 そこでは、暴走的な成長が起こり、100万年以内に地球サイズになります。できた惑星は、ある程度の大きさに成長すると、内側に移動します。そして、次の惑星ができていきます。
 太陽系に見られる岩石惑星と氷とガス惑星の2種類の形成過程の違いを、このモデルでは説明できました。
 タンデムモデルで、標準モデルの課題を解決しようと、10年ほどの前に提唱された比較的新しいモデルです。シミュレーションにおいて磁気の強度の程度を変えていくと、系外惑星で見られた多様やタイプの惑星が、このモデルでかなり説明できそうなことがわかってきました。
 今後も、改善されていくでしょうが、今のところ有力なモデルとなっていきそうです。

・予約送信・
このエッセイが発行日は
サバティカルで最後の帰省の最中です。
そのためエッセイは予約送信しています。
家族が一同に会することが
今回が最後になりそうです。
長男が今年で就職します。
遠くに住むことになります。
次男の就職はもう一年先ですが、
東京での就職先を探しています。
そうなると、あとは来年の正月くらいが
家族全員が集まれる機会となりそうです。
さてさてどんな宴席になるか楽しみです。

・新しいアイディア・
現在書いている論文で必要なため、
タンデムモデルを調べていきました。
ここ10年ほどに、地球初期、生命起源などの研究に
大きな進展がありました。
当然新しいモデルでは、
これからも課題や修正も必要でしょう。
新しいモデルは、いくつか重要な事実がわかり
それらを説明する必要に迫られています。
そこには新しいアイディアが盛り込まれています。
今回のタンデムモデルでも
重要な事実をいくつか説明して、
そこから新しいアイディアが生まれています。
次回で少し紹介できま

2023年9月14日木曜日

5_205 タンデムモデル 5:Grand Tack モデル

 惑星形成の標準モデルは、いくつか課題もありました。その課題を解決するために、新しいモデルが提唱されてきました。そのうちのひとつとして、グランドタックモデルが、有力なものとして知られています。


 惑星形成の標準モデルは、固体の粒子が円盤の中心面に落下しながら、小石サイズへと成長していきます。中心面の円盤では、小石が重力不安定性を起こして微惑星へと成長していきます。お互いに衝突することで、成長してていき、惑星になっていきます。
 しかし、課題もいくつかありました。例えば、ガス円盤内に乱流はないと磁気回転不安定が生じました。固体成分の密度が足らずに、重力的に不安定になります。固体は中心円盤内では移動がないと考えられていたのですが、固体粒子は移動することがわかってきました。微惑星の衝突による成長の速度が遅すぎました。
 これらの課題を解決するモデルはいくつかあったのですが、グランドタック(grand tack)モデルが有力でした。それを紹介していきましょう。
 このモデルは、太陽から離れH2Oが氷となる位置(3.5AU、AUは地球と太陽の距離を1とする天文単位)でできた木星が、内側(1.5AU付近)まで移動してきます。土星も内側に移動していきます。移動した先で、木星と土星が共鳴することにより、木星は外に向きを変えて移動し現在の位置(5.2AU)で停止します。土星も外に移動してきいます。
 木星が、内側から外側へと移動方向が反転することになります。舟のセーリングで風上に方向転換をすることを「タッキング」と呼びます。このモデルでは木星が移動方向を転換することから、この名称になりました。
 火星のサイズが小さいことと組成が異なっていることや、小惑星帯の軌道が歪(離心率と傾斜角が大きい)ことと全体の質量の小さいことなども、グランドタックモデルで、説明できました。
 ただし、グランドタックモデルをうまく機能させるためには、いくつかの条件が必要になります。
 木星と土星が移動しているときは、物質の合体や追加は無視しています。また、外に移動していくためには、軌道にはガスが存在する必要あります。しかし、ガスがあるので、質量の追加が起こらないというのは、矛盾しています。
 共鳴の状態によっては、タックが起こらないこともありました。時には、太陽に落下していくことになります。
 木星が、1AUまでの粒子を集めてしまうこともあり、地球などの岩石惑星の形成が進まなくなります。1から10AU間には、現在、種類の異なった物質が並んでいます。このような物質の勾配が、木星と土星の移動で消されてしまいます。
 このような問題が存在しているのですが、いろいろとシミュレーションの条件を調整することによって、解決が目指されてします。しかし、多様な系外惑星をグラントタックモデルでは、説明できないものもあるようです。

・野外調査終了・
サバティカルの期間の野外調査が
先週で終了しました。
台風の影響で一時激しい雨に見舞われましたが、
一応、予定通りのコースで、調査を進めました。
もっと見たい地域もありました。
天候不順で十分に調査できない地域もありました。
しかし、野外調査は自然相手なので、
予定通りにすべてが進むことはありません。
そんな名残を残した調査が、次回に繋がります。
まあ、サバティカルは今月で終わります。
四国の野外調査は、
最後のチャンスになるはずだったのですが、
仕方がありません。

・帰省・
来週、京都に帰省します。
今回が2度目となります
本来ならもっと2度ほど帰省する予定でしたが、
親族が対応してくれたので、半分の帰省ですみました。
今回の帰省では、子どもたちの在京のスケジュールが調整でき
なんと一緒に食事をできることになりました。
今回が、家族が一同に会する
最後の機会になるかもしれません。
いつもと同じような宴席となりそうですが。

2023年9月7日木曜日

4_179 西予紀行 6:須崎海岸

 サバティカルのうちに訪れたいと思っていたところに須崎海岸があります。四国西予ジオパークを象徴する露頭がある海岸です。しかし、危険で立入禁止となっています。許可と準備を経てやっと立ち入ることができました。


 8月下旬の晴れた日、三瓶町の須崎海岸にいきました。暑い日でしたが、撮影に適した晴れでした。須崎海岸は四国西予ジオパークの目玉になるような露頭のある海岸です。須崎観音の駐車場から、長い階段を降りて、海岸沿いの歩道を歩けばたどり着けます。
 ところが、2020年7月の大雨による土砂崩れで、歩道が通れなくなりました。その後も、大雨が降ると崩れているため、現在、立入禁止となっています。
 ジオパークの許可をもらい、調査のために入りました。地すべりのところは海岸の磯に降りて迂回して、再度歩道に上がっていきました。地すべりのところ以外は、歩道もしっかりとしていたので、いい海岸の散策路になると思えました。
 この海岸の露頭は、黒瀬川構造帯の地層がでているところです。陸地で噴火した火山灰が海底に堆積したものです。火山角礫岩、酸性凝灰岩、貫入岩など陸地の火山活動が近くの起こっていました。凝灰岩が何層も連なっているのですが、級化構造があることから、海底に流れ込んだタービダイト流だと考えられています。また保存状態の良い放散虫化石もあることから、海で堆積したこともわかります。
 凝灰岩を不整合で覆う凝灰角礫岩の中から、4億年前のハチノスサンゴの化石が見つかっています。凝灰角礫岩層は不揃い(淘汰が悪いといいます)な礫からできているため、海底地すべりのような崩壊してできた堆積物だと考えられます。
 黒瀬川構造帯は、城川付近に典型的で広く分布している地層なのですが、西の延長がいったん途切れます。それが、この須崎海岸で再び出ています。しかし、その先は豊後海峡になって露頭は途切れます。
 須崎海岸の露頭は、直立した地層からできた切り立った崖は、迫力満点です。また、海岸に2本の塔のような露頭もあります。海岸沿いでアプローチもよく、風化が少なく、露頭の表面もきれいに見ることができるはずのところです。ジオサイトとにも指定されているのですが、なんとか見学できるようにできることを願っています。

・立ち入り禁止・
ジオパークの関係者に、
以前から須崎海岸の様子がどうなっているのか見たい、
露頭を撮影したいといっていました。
しかし、立ち入り禁止のところに、
入っていくことになるので、
公的に入っていることを示すために、
腕章やヘルメットをお願いしていました。
先日、腕章もヘルメットもできたので
借りてやっと入ることができました。
幸い天気に恵まれて、
黒瀬川構造帯の大露頭にたどり着くことができました。
地すべりしているところを見ると、
今後も大雨などがあると、
地すべりが発生してもおかしくないところのようです。
ジオパークでも定期的にドローン調査を依頼して、
状況確認をしています。
現状での通行は危険なので、
迂回路や網などの対策が不可欠です。
予算も調査も必要になるので、すぐには無理でも
そのうち対策されることを願っています。

・奇遇の連続・
海岸の歩道から284段の階段を大汗をかいて登って、
ヘトヘトになり駐車場につきました。
すると、業者の方がおられたので話をしました。
ジオパークの依頼を受けて、地すべりを、
ドローン調査をしていたのことです。
私も写っているかと思ったのですが、
階段を登っている頃のようで気づかかったそうです。
二人のインターシップに来てもらっている学生さんも一緒でした。
外国の学生さんがいたので話をしたら、
大学の友人のところに来ている学生さんでした。
思わぬ出会いに驚きました。
宇和にもどって昼食を摂ろうとしたら
そこでも合うことになりました。
奇遇の連続でした。