2021年10月28日木曜日

3_197 核の水 5:マグマオーシャンの水

 マグマオーシャンと核の水素の分配係数が、実験的に決定されました。地球の水素は、核の軽元素の候補だけでなく、表層では酸素と結びついて海となります。分配係数から地球初期の水の量が見積もられます。



 マグマオーシャンを再現した高温高圧実験でのその場観察から、水素が液体鉄には含まれていることが判明しました。しかし固体の鉄になると、水素は抜けていきました。
 珪酸塩の液体のマグマにも、固体の岩石になっても、水素は残っていることはわかっていました。しかし、固体の岩石であっても、水素の量を測定するのが難しいため、水素の挙動を定量的に考えることができませんでした。今回の報告で、SIMSを改良した同位体顕微鏡システムで、岩石中の水素の測定することができました。
 ダイヤモンドアンビルとレーザーで高温高圧状態を発生し、SPring-8でその場観察で液体金属中の水素の量を求め、それと平衡であったマグマの水素の量を岩石中の量とみなすことで、液体金属とマグマ間での水素の分配係数を求めることができました。
 水素の金属/マグマの分配係数は、29以上となることがわかりました。つまり、水素は液体の金属鉄があると、珪酸塩より30倍もの鉄に分配されやすいことになります。つまり、水素は、親鉄(液相)元素として振る舞うことになります。
 ここからさらに推定が進められていきます。マグマオーシャンでは、とんどの水素は液体金属にはいり、核にもっていかれました。しかし、少量はマグマに残り、マントルになったはずです。現在のマントル中の水の量は、マントル由来のマグマの実測から、その量は、海水と同程度だと見積もられています。つまり、現在のマントル中に海水と同じ量の水があったことになります。
 マグマオーシャンの中には、もともと現在の海水の2倍の水の量があったことになります。もしそうであれば、マグマ中の含有量は約700ppmと見積もることができます。そこから、実験で求めたマグマオーシャンと金属鉄の分配係数から、溶けた金属鉄には3000~6000ppmの水素があったと推定できます。地球初期には、現在の海水の約30~70倍ほどの水が必要になってきます。その水のほとんどが核に取り込まれたことになります。
 この量を核の密度に換算していくと、「核の密度欠損」のうち、3~6割が水素で説明できることになります。つまり、欠損の主たる成分を水素といえることになります。
 地球初期では、マグマオーシャンに取り込まれた水は、現在の海水と固体のマントル中に残されている水の合計になります。なぜなら地球初期のマグマオーシャンがあったころは、表層も熱く、海洋などができる条件ではなかったはずです。
 地球を形成した素材には、それなりの水が含まれていたはずですが、そのほとんどが金属鉄に取り込まれ、ほんの一部がマグマオーシャンに残り、その半分が、現在の海となったのです。
 まあ、後半は仮説に仮説を重ねていますので、検証が必要ですが、いずれにしても、核には多くの水素が存在し、その水素はマグマオーシャンの時代に溶けた鉄とともに核に落ちていくというシナリオが考えられます。核の実態が明らかにされつつあるようです。

・冬タイヤ・
北海道では、各地で初冠雪の情報が届きました。
わが町では、まだ降雪は確認していません。
霜は何度も下りて、見えている近く山並みには
何度が冠雪がありました。
里の雪も、もうすぐそこまで迫ってきています。
車は冬タイヤにしました。
この冬タイヤも、だいぶ使っているため、
そろそろ交換時期だと車屋さんにいわれています。
今シーズンの野外調査を終えて、来月になったら、
新しい冬タイヤに交換したいと考えています。

・最後の調査・
今週末、今シーズン最後の野外調査にでかけます。
講義の隙間をぬっての調査です。
2週前にも、調査にでかけたのですが、
雪とミゾレにあい、非常に寒い思いをしました。
雪が降ると、地質調査はできません。
今年も、コロナの緊急事態で出かけられなかったため
雪が降る前に、少しでも補っておこうと考えています。
今回は、雪の影響を避けるために、道南地域にしました。
なんとか雪にならないことを願っています。

2021年10月21日木曜日

3_196 核の水 4:同位体顕微鏡

 岩石中の軽い元素の分析は、なかなか困難です。SIMSでも特別仕様の同位体顕微鏡という装置をもちいることで、水素の濃度を調べることができます。SPring-8と同位体顕微鏡で、これまでにない結果がえられました。



 核の金属鉄中の水素の挙動をその場観測をし、岩石(珪酸塩)中の水素の量を調べる必要がありました。それがなされたのですが、まずはその場観測をみていましょう。
 SPring-8で金属鉄中の水素は、定量的な測定はできないのですが、定性的に存在は確認できます。
 タイヤモンドアンビルでレーザーを当てて高温高圧状態にして、溶けた金属鉄とマグマの状態を出現させます。その状態をX線回折装置で調べると、水素と鉄の化合物(FeHx111と呼ばれるピーク)が見つかりました。つまり、高温高圧状態の溶けた状態の核では、水素と鉄の化合物が存在し、それが核の軽元素成分としての有力な根拠を示したことになります。
 さらに実験を続けSPring-8で温度だけを下げると、水素がなくなり固体の鉄だけのX線回折になっていることも、定性的ですがわかりました。つまり、液体金属の鉄には水素が含まれているが、固化すると水素が抜けていくことも検証されました。
 地球初期のマグマオーシャンで溶けた鉄のまま核へ落ちていくことで、水素が抜けることなく、核へ持ち込まれるというプロセスが推定できることになります。
 次は、岩石中の水素の量です。この水素の測定に同位体顕微鏡システムを用いました。この装置は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry 二次イオン質量分析計)を改良したものです。セシウムイオン(一次イオン)を分析したい試料表面に当てると、そこから分子や原子が飛び出してきます(スパッタリング)。目的のイオン(原子核だけになったもの、二次イオン)の質量数だけを分析する質量分析をします。次に、それで一つの分析点として、これを二次元的に繰り返すことで、試料を面として同位体組成を測定していきます。
 この装置は、共同研究者の北海道大学の圦本さんの研究室だけが持っている技術です。この装置では、同位体組成(質量数が異なる元素の比率)を求めることができ、水素も測定可能です。実験した最終の試料を、半分にした断面で分析すると、中心の金属鉄(固体)とその周りの岩石の同位体組成を面として見えるようにできます。
 その結果は次回としましょう。

・冬到来・
北海道は寒波の到来で寒くなりました。
大学でも暖房が入っています。
自宅でも朝夕には
ストーブを当たり前に焚くようになりました。
札幌でも山並みに冠雪が見えました。
いよいよ冬が到来です。
衣類もだんだん防寒仕様にしていきます。

・道北調査・
調査で道北にでかけました。
ちょうど寒波の襲来の時期で、
週末には、ミゾレに見舞われました。
帰路の峠越えでは、雪になりました。
着るものも冬仕様で、車も冬タイヤにしていたので
調査や移動には問題はなかったのですが、
ミゾレとアラレの間のようなものだったので、
外で調査をしていると
寒さと濡れるので、落ち着いて
露頭を見ることができませんでした。
しかし、予定通りのルートを進みました。

2021年10月14日木曜日

3_195 核の水 3:核の水素

 シミュレーションで実物試料を用いて実験をし、できた実物を分析するいう方法は、客観的検証ができます。タイヤモンドアンビル、SPring-8、その場観測、岩石中の水素分析、いろいろな技術を駆使して、探求されています。


 地球の核は、地震波と隕鉄(鉄隕石とも呼ばれています)から推定されています。隕鉄は、昔あった微惑星の核の破片だと考えられています。金属鉄とニッケルからできているので、地球の核も似た組成だと考えられます。鉄(密度は7.874)にニッケルが加わると、ニッケル(8.902)の方が密度が大きいた、その化合物の密度も大きくなります。ところが、地震波から推定される核の密度は、隕鉄や鉄より小さくなっていました。鉄と比べると、1割近く小さくなっています。核になんらかの軽い元素や成分を含んでいなければなりません。これは「核の密度欠損問題」と呼ばれています。その軽い元素が何かが未だに不明です。ケイ素(Si)やイオウ(S)などいろいろな候補がありましたが、最近では水素(H)が有力視されてきました。
 ここまで紹介してきたことは、実は次の新しい研究成果を紹介するための前提となるものでした。いよいよ、最新報告を紹介しましょう。
 イギリスの科学雑誌「Nature Communication」に、2021年5月11日に報告されました。東工大学地球生命研究所の田川翔さんと圦本さんらの共同研究者によるもので
 Experimental evidence for hydrogen incorporation into Earth's core
 (地球核への水素の取り込みの実験的証拠)
というタイトルでした。「実験的証拠」というのが、ダイヤモンドアンビルとSPring-8を用いた高温高圧実験での、その場観察によるもので、その結果から考察したものです。
 核とマントルを想定したもので、核に水素がどの程度取り込まれるかを調べたものです。ただし、実験では、金属鉄を溶かし、マントルもマグマの状態にしています。現在の地球とは異なった条件ですが、地球初期の条件を想定しためです。
 地球形成の初期には、大量の微惑星が衝突していたため、地表ではマグマの海、マグマオーシャンができたと考えられています。マグマオーシャンの内部では、溶けた金属鉄と岩石が溶融したマグマが、分離して混在していたという条件を考えています。溶けた鉄はマグマオーシャンの底にたまり、一定の量を越えると、固体のマントル物質の中を中心部に向かって落ちていきます。やがて中心で核になります。
 さて、マグマオーシャンの底には、溶けた金属鉄がたまります。マグマオーシャンの底は、温度が2800~4300℃、圧力が30~60万気圧の条件を想定しています。そこでの金属鉄とマグマとの間での水素のやり取り(分配といいます)を調べ、その比率(分配係数といいます)を実験で求めています。
 金属鉄とマグマの間で水素の分配係数を決めればいいのですが、金属鉄を常温常圧にすると、大半の水素が抜けていきます。マグマでは常温常圧の岩石にしても、水素は残っているのですが、水素の定量するのが非常に困難です。タイヤモンドアンビルで高温高圧にできるのは、非常に小さい試料(直径10μm程度)です。そのような微小部分での困難な分析が必要になります。このような困難さから、核の軽い成分が水素だと推定されていましたが、定量的に検証することができませんでした。
 マグマ中の水素の定量的測定で分配係数を求めことは、非常に困難です。それを克服するに、新たな装置「同位体顕微鏡システム」が用いられました。それは次回としましょう。

・野外調査・
今週末に調査にでかけます。
道北なので、雪が心配ですが、
秋まで調査にいけなかったので、
その分を取りもどすように、
雪が降るまでにでかけようと考えています。
できれば、もう一度でかけたいのですが、
11月になると、いつ雪が降ってもおかしくありません。
できれば、近いうちにもう一度、
今度は道南に出かけようと考えていますが、
どうなるでしょうか。

・技術の進歩・
高圧を発生するには
面積を小さくしていくことになります。
その分、できる試料は小さいものになります。
大きな試料をえるためには、
装置を大型化することや
アンビルを硬いものにすることで対処されてきました。
アンビルの物性でかけられる圧力にも上限があります。
今の所、地球の核にまで達しました。
大きな試料をえるのはなかなか克服できな課題です。
試料が小さくでも、分析技術を向上することで、
小さい部分の分析の精度を上げる。
高温高圧実験でも、いろいろ工夫されてきました。

2021年10月7日木曜日

3_194 核の水 2:高温高圧実験

 高温高圧実験は、いろいろな装置を用います。ダイヤモンドアンビル装置は、光や電磁波を通すという特徴があります。その利点を活かして、高温高圧状態での物質を、その場で観測します。日本ではSPring-8が利用できます。


 地球深部を探る方法として、高温高圧実験があります。シミュレーションの一種ですが、知りたいところの地球内部の物質を用意して、そこの温度圧力条件においたとき、どのような状態になるかを調べるものです。
 実験では、一定時間、高温高圧条件に物質をおいて、一気に常温常圧にもどして(急冷、quenchといいます)、鉱物を入手し、それを調べていきます。一定時間といいましたが、安定的(平衡状態)に鉱物が形成される間となりますが、それは経験的に求められるものです。また、急冷することで、高温高圧状態の鉱物が残ることもありますが、残らないことも多々あります。残らないとしても、残存した鉱物の形態や急冷でできた鉱物から、高温高圧状態の鉱物を推定することは可能です。このような方法で高温高圧実験が進められてきました。
 現在、兵庫県には世界に誇る大型放射光施設SPring-8があります。SPring-8は兵庫県にある、円周1400kmや140mの直線状の加速器など、多様で強力な電磁波が発生できる装置です。その電磁波を、高温高圧状態の物質に当てることで、その場で物質の状態を観測することができます。
 この実験は、ダイヤモンドを用いて実験をします。宝石のダイヤモンドのようにカットして研磨したものを用います。ただし、底を平らにしたものを2個用意して、底同士をあわせて、その間に試料をセットして、ネジを用いて締めることで、圧力をかけます。
 パンプスのヒールの面積が狭く、尖っているほど、踏まれると痛くなります。これは、同じ圧力(体重)でも力のかかる面積が狭いほど、単位面積あたりの圧力が強くなる原理です。ダイヤモンドの底の面積が狭いほど圧力が上がります。このような高温高圧装置はタイヤモンドアンビルと呼ばれています。ダイヤモンド自体が高価なので、失敗して破損すると大きな痛手となります。
 なぜそんな高価なダイヤモンドを用いるかというと、圧力かけても耐えられる硬さも重要なの条件なのですが、温度を上げるために、レーザー光を用いています。レーザー光を高圧状態にして物質に当てることで高温を発生します。ために、光を透過する物質でなければなりません。また、観測するために必要な電磁波を通すことも重要になります。そのような理由で、ダイヤモンドが用いられています。
 タイヤモンドアンビルの技術は日本が先進的で、地球中心部の条件も発生できます。SPring-8が加わることで、地球深部の研究でも、日本がリードできます。
 現実のマントルや核は調べることはできませんが、地球深部の条件で存在する物質の状態を、直接調べることができます。シミュレーションの一種ですが、条件や物質には不確かさがありますが、実物の試料を観測することで検証するという強みがあります。高温高圧実験のその場観測によって、間接的ではありますが、より実態に近い状態で地球深部を調べることができます。
 タイヤモンドアンビルとSPring-8を用いた高温高圧実験による、地球の核に関する研究成果を、次回からは、紹介していきましょう。

・高温高圧発生装置・
高温高圧発生装置は、大きなものでは、
広い実験室を占めるほどのものもあります。
タングステンカーバイトという
超硬度の合金をアンビルを用いるもの、
加圧を二段階や、油を用いるものなど
いろいろなタイプがありますが、
それぞれの長所短所がありますが、
高温圧実験に関しては、
日本が成果をリードしていました。
私が以前いた研究所にも
巨大な高温高圧発生装置がありました。
私自身は使う実験はしていませんでしたが、
よく出入りしていました。
懐かしく思います。

・職域接種・
北海道も緊急事態宣言が解除され、
店や仕事は徐々に条件がゆるくなっていきます。
大学も危機管理レベルが1になり、
対面授業が一部ですが、もどってきました。
職域接種で二回目のワクチン接種もはじまりました。
自粛生活を続けていますが、
緊急事態宣言の解除で、
精神的にはかなり楽になってきました。
感染対策はしていくことになるでしょうが。