2020年1月30日木曜日

6_173 宇宙の元素 5:新たなモデルの必要性

 宇宙の初期に重い元素ができ、銀河全体に広がっていることがわかりました。この現象は、これまでのモデルでは説明できないものでした。そのためには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。それは今後の課題ですね。

 宇宙が創生されて8億年で、ヘリウムより重い元素である炭素ガスが、銀河全体に広がっていることが今回の論文の重要な点でした。複数の銀河(18個)の銀河で同じようなことが確認されているので、藤本さんたちはこれを宇宙の環境汚染と呼びました。ここでは、炭素の拡散と呼びましょう。
 前回紹介したように、短時間で重い元素が広がるには、いくつかの条件をクリアする必要があります。
 重い元素は、恒星の内部や超新星を起こしたとき(星が死ぬ時)に形成されます。恒星の形成から死(超新星爆発)までの一生を8億年以内で終わらせる必要があります。これは今までにない短い時間です。また、できた元素が超新星爆発で、銀河全体に広がってかなければなりません。ひとつの星からの元素では、銀河全体に広がる必要があります。
 銀河が、いつ、どのようにできたのかは、まだ詳しくわかっていません。できたての銀河の中で、至るところで巨大な星が、短時間で一生を終え重い元素をばらまき、その元素が銀河全体に行き渡らさせなければなりません。このような条件をクリアなければなりません。
 さらに、多くの銀河で同じような時期に、同様の炭素の拡散が見つかっていることから、同じメカニズムが、宇宙誕生時、さらに銀河誕生時に起こったことになります。
 このような条件は、宇宙のはじまりや、銀河の誕生について、今まで考えられていないことでした。今後、重い元素の急速な形成、拡散のために新たなモデルを考えなければならなくなりました。
 共同研究者のメンバーで欧州南天天文台のアイビソン(Ivison)さんは、インタビューで、次のようなアイディアを出されています。
 その巨大ブラックホールが、重い元素の拡散に重要な役割を果たしたのではないかというアイディアを述べています。銀河の中心部に超巨大なブラックホールがあることは知られています。銀河中心の巨大なブラックホールのできたての頃、高速のガスや強力な光が吹き出し、その影響が銀河全体に及んだためではないかと考えました。ブラックホールの強力なガスや光が、各地で起こった超新星爆発でできた元素を、銀河全体に広く吹き飛ばしたのはないかということです。
 しかし、ここで示したのでは、まだアイディアの段階です。正式なモデルにする必要があります。モデルを提示するためには、証拠や検証が必要となります。新しいモデルでは、当たり前のことですが、今回の現象を説明するだけでなく、これまであったデータや証拠も説明できるものでなければなりません。それは、今後の課題ですので、期待していきましょう。

・定期試験・
大学はいよいよ後期の定期試験に突入しました。
私の担当の科目と補助監督もあたっています。
試験になると、授業が終わり一段落ですが、
これから、成績評価と大学入試関係の業務がはじまります。
細切れですが、いろいろな忙しさもでてきます。
しかし、授業が終わったので、一息つけます。

・排雪作業・
今年の北海道は非常に積雪が少ないです。
雪が多いときは、各家庭の除雪が
家の周りにいっぱいに積み上がります。
それは市の予算と自治会費で
1年に一回、排雪費用が計上されています。
雪が多いときは、多くの家庭が助かっています。
しかし、雪が少ないときも、
市の予算計上されているものは執行されています。
今年も、雪が少ないのです排雪作業がはじまりました。
次年度に回すことができれば、
積雪が大きときは、2度排雪することにできればいいのですが。
お役所の予算はそうもいかないのでしょうね。

2020年1月23日木曜日

6_172 宇宙の元素 4:炭素ガス形成

 宇宙形成の最初期に、炭素ガスが銀河全体に広がっていたことが、明らかになりました。検証の結果、正しいことがわかってきました。しかし、そこにはいろいろな問題がありました。

 前回紹介したように、藤本さんたちは、宇宙誕生から8億年しかたってないような複数の銀河を、炭素ガスが広く覆っていることを観測しました。この炭素ガスが、実はいろいろな問題があります。
 ビックバンでできる元素のほとんどが、水素とヘリウムで、それらより重い元素は、ほとんど形成されません。宇宙形成直後8億年で、ヘリウムより重い元素ができているのは、非常に不思議です。ヘリウムより重い元素は、恒星の内部での核融合、あるいは恒星の一生の終わりに起こる超新星爆発などで形成されるものです。
 重い元素ができるには、8億年の間に、星の誕生、核融合、死という一生を、急ぎ足で終えなければなりません。恒星の寿命は、星の質量が大きければ大きいほど短くなり、小さければ長くなります。恒星の死が短時間で終わることは、とてつも大きな星ができたことになります。宇宙誕生直後に、超巨大な恒星ができれば、短命で終わってもいいでしょう。ですが、8億年という期間で、本当に星が一生を過ごせるのでしょうか。これは1つ目の疑問です。
 さらに大きな問題があります。それは、ひとつやふたつの恒星の死で、銀河全体を炭素ガスで満たすことができると考えられません。銀河全体で、一気に星ができて、一気に燃え尽きてしまい、炭素ガスを撒き散らす必要があります。これは、宇宙誕生のメカニズムとして、銀河内で巨大な星が一斉にでき、一斉に超新星爆発をする、というようなプロセスを持っていなければなりません。本当でしょうか。
 このような問題を解決する一番簡単な答えは、観測ミスです。藤本さんたちも、最初に、自身らの観測ミスを考えました。観測精度が充分であれば、ミスかどうかを確認できます。アロマ望遠鏡の観測能力は他の望遠鏡の数倍以上の能力があるので、限られた時間の観測であっても、精度の高い結果がえられました。さらに、似た時期の複数のデータ(18個の銀河)を重ね合わせることで、その結果が正しいことも明らかになりました。
 これまでにも、古い銀河に炭素や酸素などの重い元素があるのことは知られていましたが、その広がりは不明でした。しかし、今回の精度の高い観測で、銀河全体に炭素ガスが広がっていることが明らかになりました。
 観測した同時期の銀河には、共通した特徴として、炭素ガスが広がっていることが明らかになりました。藤本さんたちは、これを宇宙の環境汚染と呼びました。

・センター試験・
センター試験が先週末に終わりました。
現在の形式での試験は、今回が最後になります。
来年度からは新しい形式の
大学共通テストになります。
しかし、試験内容は二転三転しています。
英語の業者試験が中止、
数学、国語の記述式試験は中止。
来年の受験生は気が気でないでしょう。
非常に残念ですが、
政治が国民の方を見ていない気がします。

・環境汚染・
今回紹介した論文は、プレス発表で
「環境汚染」という言葉を使っていました。
「環境汚染」はあまりいい言葉ではないと思います。
なぜなら、環境も汚染も、
どこかに人間の存在を感じさせる用語になっています。
宇宙の初期には人間は関与していません。
ですから、「環境汚染」という言葉は
アイキャッチとして用いられたのでしょう。
学術的内容にそぐわなく感じました。

2020年1月16日木曜日

6_171 宇宙の元素 3:モデルから

 宇宙の年齢を、モデルから求める方法があります。それはかなり精度が上がっており、現状ではもっとも信頼性のある方法になっているようです。現状の138億年前という値が、かなり高精度で、あまり変動はなさそうです。

 このシリーズの前半は、宇宙の年齢について見ています。今回は、宇宙誕生のモデルからの推定です。宇宙の晴れ上がりの時のゆらぎは、観測されます。ゆらぎは、当時の物質がどのように分布していたのかを反映しています。観測値のゆらぎを再現できるようなモデルを考えていきます。
 現在、モデルの中でもっとも多くの人が用いているものは、ΛCDMモデルと呼ばれています。そのモデルから、宇宙の年齢を推定することができます。
 2009年に打ち上げられたプランク衛星は、さらに高精度の観測をおこないました。その結果、宇宙は平坦で膨張は永遠に続きそうなこと、宇宙の質量のうち見える物質は4%、ダークマターは23%、不明の真空エネルギーは73%、最初の恒星が2億年後、などが明らかになりました。そして、2016年現在、ハッブル定数は、73.24±1.74km/s/Mpcとなり、宇宙の年齢は137.98±0.037億年となりました。
 今後、ハッブル定数は、その精度が上がっていくことと思います。しかし、今後の研究目的は、宇宙の年齢の精度を上げることが主になることはないでしょう。ΛCDMモデルのより精度の高い検証と修正、あるいはΛCDMよりすぐれたモデルの導出ということになるのだろうと思います。
 その付加的成果として、宇宙の年齢の精度が上がっていくことはあるのでしょう。しかし、これまでの年代値の変動をみていると、宇宙の年齢の138億年が、139億年や136億年に変わることはなさそうです。
 さてここまでがこのシリーズの前半となります。いよいよ本題となる宇宙の元素についてです。
 2019年12月に、東京大学の藤本征史さん(現在コペンハーゲン大学)たちの研究グループが、、古い銀河の観測をしました。チリのアタカマ砂漠にある「アルマ望遠鏡」を使ってのことです。銀河の年代は、130億年前のものでした。宇宙誕生の初期に形成された銀河です。
 最も古い銀河は、2015年に報告されたEGS-zs8-1で、131億年前ものでした。ハワイのケックI望遠鏡を用いて発見されました。ですから、今回観測された銀河は、最古のものではありません。しかし、宇宙ができて8億年くらいしかたっていませんが、同時期の銀河を複数観測したとことろ、共通する不思議な特徴を見出しました。これらの銀河の半径3万光年ほどの領域で、炭素のガスが分布していることが明らかになりました。銀河を覆ってって炭素ガスがありました。
 初期の銀河を覆う炭素ガスの意味するところはなんでしょうか。次回にしましょう。

・センター試験・
大学は、いよいよセンター試験を週末に迎えます。
現在の形式でのセンター試験は今回が最後になります。
今年度の受験生は、大変です。
次年度の試験の形式がどうなるかがはっきしりないからです。
もし浪人でもすることになったら、
どうなるかがわかっていません。
国のレベルで、二転三転しているので
状況もよくわかっていません。
次年度の受験生、とくに高校2年生は、
非常に困惑していることでしょう。
保護者の方々も困惑しているはずです。
大学で実施する側も、どうなるか気になります。
なにもかも未確定の部分が多すぎますね。

・ハッピーマンデイ・
大学の講義が、いよいよ終盤を迎えています。
曜日によっては、今週で終わる講義もあります。
多くは来週が最終になりますが、
毎回ですが、月曜日の処理が困っています。
大学の講義は、曜日進行なので、
ハッピーマンデイの祝日で月曜日が休みになることが
4日増えることになります。
決してハッピーではないです。
同じような苦労している業界もあるのでしょうね。
私は、講義期間は、休みなく実施したらと思うのですが、
それでは、休日祝日の意味がないといわれます。

2020年1月9日木曜日

6_170 宇宙の元素 2:宇宙背景放射

 宇宙の年齢の求め方には、いくつかの方法があります。もしそれぞれの方法がまったく関係しない方法で求められ、それが一致すれば、その値の信頼性が上がります。もうひとつの年齢を求める方法を見ていきましょう。

 前回はハッブル定数から宇宙の年齢を求める方法を紹介しました。小松英一郎さんたちは、2008年に、当時、最も精度のいい観測データに基づいて計算したハッブル定数は 70.5±1.3 km/s/Mpcで、ハッブル時間は138.7 ± 2.6億年となると算出しました。これが、ハッブル定数から求めた宇宙の年齢でした。
 次は、宇宙の背景放射で求める方法についてみていきます。
 宇宙背景放射とは、アメリカのペンジャスとウィルソンが1965年に発見したものです。電波を観測するつもりでつくったアンテナが、宇宙のあらゆる方向から、背景のようにやってくるノイズ(マイクロ波の雑音)を捉えました。そのときのノイズのスペクトルのパターンが、絶対温度3℃(-270℃)のときの放射(黒体放射)に一致していました。
 この放射は、もともと宇宙が高密度高温の時、つまりビックバンの時の状態の時、もっていた熱が放射して、宇宙を満たしていました。宇宙が膨張すると、宇宙はその外はないので、外とのエネルギーのやり取りはありません。ですから、宇宙の膨張とともに、温度が下がっていきます。その結果、観測された温度まで下がったと考えられます。
 高温のときのスペクトルが、現在も宇宙を飛び交っていることになります。この状態の時を、「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。
 その後、この宇宙背景放射を正確に観測するために、1989年、宇宙背景放射観測衛星COBEを打ち上げました。その結果、宇宙背景放射に10万分1のゆらぎ、ムラがあることわかりました。
 2001年、さらに精度を上げるためにウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機WMAPが打ち上げられました。その結果、背景放射のムラを高精度で測定して、宇宙には100万分1のゆらぎはあるが、非常に平坦であること、宇宙のエネルギー構成が定まり、宇宙の年齢が137±2億年であることもわかりました。
 もうひとつ、宇宙の年齢を推定する方法があります。これは、宇宙の晴れ上がりの時のゆらぎとも関係しています。それは宇宙誕生のモデルから推定するものです。それは、次回としましょう。

・独立した方法・
ここで述べた宇宙の年齢の求め方でみてきたように、
まったく別の方法で求めることを
「独立した方法」といいます。
それらが一致すれば、それは有力な根拠となります。
ただし、それぞれの方法で求め方や観測方法、
根拠データが異なるため、精度も異なります。
それぞれの精度の比較はできませんが、
値の信頼については、高いものとなっていきます。
独立した方法で、38億年になるのは、
宇宙の年齢として、信頼性が高いものです。

・筋肉痛が・
北海道の正月は、穏やかにはじまりました。
私は、31日まで研究室にいき、
3日から通常通りに仕事をはじめました。
学生には「大学に住んでいるのですか」、
と聞かれませんした。
住んでいるわけではないのですが、
「まあ半分住んでいるようなものだ」と答えました。
大学は6日まで全館休館で、暖房も最小になっているので
研究室が寒くて仕方がありません。
そのためでしょうか、4日には腰痛に似た筋肉痛がでてきました。
まあ、無理はしないようにして、
寒さは避けて、6日は自宅で少し仕事をして療養しました。

・のんびりと・
今年は、子どもたちがいないので、
のんびりとした正月になりました。
お雑煮も2日間だけのあっさりしたものでした。
夫婦だけなので、最小限にしました。
元旦は、私が福袋で買い物を、家内はスイートを。
2日は温泉にいきました。
3日はもう通常通りになりました。
これからもこんな正月になるでしょうね。

2020年1月2日木曜日

6_169 宇宙の元素 1:宇宙の年齢

 今年最初のエッセイは、宇宙のはじまりの話をしましょう。宇宙は、いつ、どのように誕生したのでしょうか。最近、宇宙のはじまりの様子がわかってきました。まずは、宇宙の年齢を求める方法から見ていきましょう。

 昔は年齢を「かぞえ」で数え、歳のはじめに皆がひとつ歳をとりました。今は、誕生日をもって歳をとる「満年齢」を用いています。しかし、地球の古いことや宇宙の古いことは、かぞえも、満も、誤差範囲なります。
 そもそも誕生日は誕生の様子は、だれも記録、記憶していないので、現在えられる観測をもとに調べていくことになります。宇宙の歳の話しからはじめましょう。
 宇宙の年齢は、どのようにして求められるのでしょうか。いくつかの方法があります。ひとつはハッブル定数から求める方法です。
 ハッブル定数とは、宇宙が膨張していることがわかったときに、その由来はさかのぼります。アメリカの天文学者ハッブルが、1929年に、地球(私たちの太陽系)からの距離を横軸に、地球からその天体が遠ざかる速度を縦軸にしたグラフに、遠くの銀河の観測データを記入していくと、右肩上がりの分布になることを示しました。このグラフが宇宙が膨張していることの根拠となりました。
 データの分布を直線に回帰し、その傾きを求めたものが、発見者にちなみ「ハッブル定数」と呼ばれました。その傾きの次元(単位)は、1/(時間)となり、(時間)の逆数です。したがって、ハッブル定数の逆数の次元は、(時間)となります。この値は、「ハッブル時間」と呼ばれ、宇宙の年齢を示すと考えられます。
 しかし、「ハッブル時間」は、宇宙の膨張が一定であるという前提に立っていますが、そこには根拠がありません。グラフで直線とみなしたのは、宇宙の物質の量を考慮していないという問題がありました。宇宙には多くの物質があります。その物質間に働く引力で、膨張を抑える力が働きます。引力は距離の二乗に逆比例します。ビックバンのときは、引力が強かったので、ビックバンのときは引力を振り切るために、膨張の速度は速く、だんだん減速していることになります。減速も実測されてきました。
 この物質の量と分布は非常に難しい問題となっています。精度の上げるためには、別の方法が必要です。その方法として、宇宙の背景放射を用いるものがあります。それは、次回としましょう。

・年始の挨拶は電話で・
明けましておめでとうございます。
今年から、我が家は夫婦ふたりでの正月になります。
子どもたちが家を離れているのですが、
母の実家の近く住んでいます。
母は独居ですが、親族のために多くの餅をつきます。
機械でつくのですが、手伝いに親族も来るので、
子どもたちも訪れ参加しました。
母には週に何度も電話をしているのですが、
年に2、3度しか会うことがありません。
考えたら、母にも子どもたち会うのは、それくらいの頻度です。
今年は、家族全員の年始の挨拶は電話になります。

・暮は餅つき・
我が家でも、機械で餅つきをします。
もち米を前日に水につけておき、機械に入れれば、
自動でつき上げてくれので非常に楽です。
正月用の餅も重要なのですが、
つきたての餅を食べるのも楽しみです。
我が家の定番は、大根おろしや納豆もいいのですが、
シンプルに磯辺巻きが一番ですね。

・お雑煮・
正月のお雑煮は各地、各家庭で異なるでしょう。
我が家、昨年までは、京都の母のものと同じで、
白味噌仕立てで丸餅、小芋、大根を入れるのシンプルなものでした。
他に、いろいろとお重に入れるようなお節もつまみます。
雑煮は朝食だけで、昼も夜も別のメニューにしています。
今年は、市販の味噌出しを用いて、
丸餅は入れるのですが、鍋風にすることにしました。
餅を入れて雑煮代わりに食べることにしました。
夫婦ふたりなのはじめての試みです。