2021年5月27日木曜日

6_184 地球外生命 2:メディオクリティの仮定

 遠く存在で、その実態を知りたい時、身近なものを手本にして、類推していく方法があります。その類推は、正しさが保証されるものではありません。しかし、現状では知り得ないものを探る便利な方法です。


 ありふれたもの、特別なものがなにもないものの原理や規則性、特徴を、不明のものに適用していく方法を、「メディオクリティの仮定」といいます。前回紹介した生命誕生や生命進化の条件として、ハビタブルゾーンやゴルディロックスゾーンは、地球や太陽系を当たり前として、メディオクリティの仮定を適用していたことになります。

 メディオクリティの仮定を適用することには、科学的根拠はありません。なにも手がかりがない時、デタラメに探したり、総当たりで検討するよりは、見つけやすくなります。そんな研究があります。

 現在知られている、太陽系に最も近い恒星のプロキシマ・ケンタウリがあります。太陽系から約4.2光年の距離にあります。私たちの太陽系は主系列星と呼ばれるごくありふれた恒星でが、このプロキシマ・ケンタウリは、太陽の10%ほどの質量しかありません。太陽の表面温度は約6000度ほどですが、プロキシマ・ケンタウリは2800度しかありません。赤色矮星と呼ばれています。

 この恒星には、惑星プロキシマb(プロキシマ・ケンタウリbとも呼ばれることもあります)が見つかっています。地球よりやや大きいのですが、恒星のかなり近くを一周11日で公転しています。恒星の近くを公転している天体は、恒星との潮汐力によって、公転と自転が一致していく、「潮汐ロック」という現象が起こっていると考えられます。その結果、プロキシマbは、恒星に常に同じ面を向けていると考えられます。私たちの太陽や地球とは非常に異なった条件の恒星系になります。

 さらに、プロキシマ・ケンタウリは、強いフレアが度々発生していることがわかっています。恒星の近くでは、強力な紫外線が照射されることになりそうです。そんな恒星や惑星に、メディオクリティの仮定など適用できるのでしょうか。

 どんな恒星系であっても、その条件が明らかになれば、ハビタブルゾーンが設定できます。そこに惑星があれば、初期的な条件を満たすことになります。プロキシマbは、そのハビタブルゾーンにあります。ただし、通常のハビタブルゾーンではありません。潮汐ロックされた惑星では、常に夕方の地域、明け方の地域ができます。潮汐ロックのおかげで、安定したゴルディロックスゾーンが出現するかもしれません。

 それを確かめるために、地球の気候モデルをメディオクリティの仮定をつかって、プロキシマbに適応するという検討がされています。その内容は、次回にしましょう。


・潮汐ロック・

2つの天体がお互いの周りを回っている時、

天体の最も近い面と最も遠い面が、

引力で引っ張られて、膨らみ変形します。

地球では、月によって潮の満ち引きが起こり、

固体の地殻も変形しています。

これのようは変形を起こす力を、潮汐力といいます。

この潮汐力が働き続けていると、

質量の小さい天体の自転と公転が

一致するという現象がおこります。

月が常に地球に同じ面を向けているのも

潮汐ロックによるものです。

多くの天体の関係で潮汐ロックは起こっています。


・人間の考え方の癖・

このエッセイでは、メディオクリティの仮定と呼びましたが、

似た考え方はいろいろなところにあります。

統計学では、ベイズ統計があります。

科学では、斉一説もこの考え方を利用しています。

さらに進めれば、科学では、すべて仮説を立てて、

それを検証ていくという「仮説演繹法」を用いています。

仮説演繹法もメディオクリティの仮説も

共通した考え方を用いています。

多くの科学では、似たような考え方を用いています。

これは、人間の考え方の癖かもしれませんね。

2021年5月13日木曜日

1_194 カーニアン多雨事象 6:ランゲリア洪水玄武岩

 層状チャートの研究から、多雨が起こり、それが生物の大絶滅、種の誕生、海洋無酸素事件などの連鎖が見えてきました。さらに、同時代のパンサラッサでのLIPsを通じて、連鎖は続いていきます。


 北アメリカの西部に分布しているランゲリア洪水玄武岩について紹介していきます。

 ランゲリア洪水玄武岩の「洪水」と「玄武岩」という言葉は、水と岩石なので液体と固体ですから、関連づきにくい言葉です。この両者が結びきが、ランゲリア洪水玄武岩の意味することがわかってきます。

 玄武岩は火山岩ですから、マグマからできたものです。玄武岩マグマは、マグマの中でも、もっとも粘性が小さいので、「さらさら」と流れます。「さらさら」といいましたが、水よりは粘性が大きのですが、水のように流れる性質を持っています。

 「さらさら」のマグマが大量に噴出すると、マグマが洪水のように流れていきます。マグマは冷えれば岩石になるので、噴出孔の周辺に大量に、そして広大な地域で玄武岩が広がっていくことになります。マグマの量が多ければ、広い高原状となっていき、台地玄武岩とも呼ばれます。

 インドのデカン高原は、デカントラップと呼ばれる洪水玄武岩が、アメリカのワシントン州やオレゴン州に広がるコロンビア洪水玄武岩などが有名です。「洪水玄武岩」と名称がつけられるようなマグマの活動は、前回紹介したLIPsによるものが多く、その時代の地球環境に影響を与えることもありえます。ランゲリア洪水玄武岩の影響が、今回のカーニアン多雨事象を引き起こしたと考えられています。

 ランゲリア洪水玄武岩は、北アメリカ大陸の西部に分布しています。パンサラッサの海洋プレートが、アメリカ大陸に沈み込んだことで、形成された付加体の中に大量に見つかっている玄武岩類になります。同時期のカーニアン期の火成活動で似た産状をもった玄武岩が、今回調査された層状チャートが属している秩父累帯の南帯(三宝山帯)の玄武岩類にあたります。この帯の玄武岩は、海洋プレートの沈み込みによって形成された日本列島の付加体になります。

 同時代に似た機構で大陸に付加した玄武岩は、秩父帯だけでなく北上帯から北海道の渡島帯、そして極東ロシアのタウハ帯にまで断続的に連続していきます。これらすべては、パンサラッサの海洋プレートの沈み込みで付加体として形成されたものだと考えられています。3000 kmにわたって分布している長大な玄武岩帯になります。

 これらの極東地域の玄武岩帯と北アメリカ大陸のランゲリア洪水玄武岩は、分かれて分布していますが、プレート活動によって分裂してしまったためだとされています。もともとはパンサラッサ海でひとつのLIPsから形成されたと考えています。さらに著者らは、日本からロシアにかけて連続する玄武岩類と、北アメリカ大陸のランゲリア洪水玄武岩も、超海洋パンサラサ海の同一のLIPsの活動で、カーニアン多雨事象を起こしたのではないかと推定しています。

 日本の小さな露頭のチャートの中のコノドントや化学成分から、大胆な推定が生まれてきました。もちろん、今後も議論も必要ですが、足元の石ころから、過去の地球のダイナミズムが垣間見えます。


・デカントラップ・

デカントラップのトラップとは

スウェーデン語の階段を意味するそうです。

この地域観が階段状の丘から名付けられたそうです。

デカン高原を生み出したマグマです。

デカントラップのLIPsは白亜紀末に活動しているため、

恐竜の大絶滅でも重要な役割を果たしていました。

一見関係にない現象や岩石が、

関連しあっていくのも不思議ですが、

それを解明していくことが科学の醍醐味ですね。


・のんびりと・

ゴールデンウィークの1週間は、

北海道のひっそりとした田舎町で

夫婦でのんびりと過ごしました。

2年前にもいったところでしたが、

昨年もその地域に行く予定をしていたのですが、

COVID19のために中止をしました。

今回は、なんとかでかけることができました。

何もないところですが、私には快適なところです。

午前中にブラブラして、午後には温泉に入って

買い物をして、宿泊所でのんびりとしました。

道内には、しばらく滞在したくなるような

私好みの地域がいくつかあります。

しかし、希望の季節に長期滞在でき

自炊できるような手頃なところとなると

そうそうは見つかりません。

その数少ない地域で過ごしました。

2021年5月6日木曜日

1_193 カーニアン多雨事象 5:年代の一致

 今回の報告では、カーニアン多雨事象の時代を正確に決めるために、層状チャート以外で、コノドントと有機炭素同位体層序を用いていました。それはどのような方法でしょうか。


 カーニアン多雨事象の仮説で重要なのは、事象と火山活動の年代が一致するかどうかでした。それをいくつかの方法で決定しています。その方法としては、コノドントと有機炭素同位体層序でした。その概要を紹介しましょう。

 コノドントとは、リン酸塩鉱物からできた1mm程度の歯の形をした化石で、海で堆積した地層からたくさん見つかっていました。最初のころはどんな生物かは不明でしたが、最近では原始的な脊椎動物の化石であることがわかっています。カンブリア紀から三畳紀末まで見つかっていますが、突然姿を消します。

 リン酸塩鉱物は丈夫なので、化石として残りやすくなります。また、コノドントは、時代ごとの形態の変化が大きいことから、示準化石として年代決定に使えました。どんな生物かわからなくても、利用されていました。今でも、その方法は有効です。坂祝のチャート中のコノドントから求めた年代も、カーニアン多雨事象の時期と一致しました。

 もうひとつの有機炭素同位体層序は、聞き慣れない言葉です。有機炭素とは、生物が作り出した有機物を構成している炭素のことです。炭素の同位体組成とは、同位体比(12C/13C)のことです。最後の層序という言葉は、連続した地層のことです。

 層序ごとの同位体比の変化が、世界各地で調べられており、時代ごとに同じパターンを示すことが知られています。そのパターンを年代測定に利用するという方法です。この方法は、化石のない堆積物の年代を決定するために用いられています。坂祝のチャート中の有機炭素同位体層序でも、時期が一致することがわかりました。

 層状チャートのオスニウム同位体組成から海洋にまで及ぶ火山活動があったこと、カーニアン多雨事象の年代が、層状チャートのいくつかの方法での年代が一致したことがわかってきました。以上のことから、大陸の巨大な火山活動が、カーニアン多雨事象の時期に起こったことになります。カーニアン多雨事象の原因は、巨大火山活動による可能性が高くなってきました。

 火成活動の時期に、パンサラッサやテチス海など全地球の海洋へ及ぶ海洋無酸素事変、生物大絶滅、重要な生物種の誕生とも一致していました。


・LIPs・

今回で、このシリースを終わる予定をしていたのですが、

ランゲリア洪水玄武岩について

詳しく紹介していないかったことに気づきました。

ランゲリア洪水玄武岩は、

巨大火成岩岩石区と呼ばれるもので、

英語のLarge igneous provincesを略して

LIPsと表記されことが多いようです。

次回は、このランゲリア洪水玄武岩の意味することを

考えていくことにしましょう。


・予約配信・

ゴールデンウィーク中は不在につき

このメールマガジンは、予約配信しています。

なぜ不在かは、前回のメールで紹介しています。

このメールを読まれている頃には

私は、もう日常生活に戻っていると思います。

調査の内容については、機会があれば紹介します。