2022年6月30日木曜日

5_194 小惑星の有機物 2:イトカワの岩石

 小惑星のスペクトル分析と隕石との対比から生まれた、不一致という問題がありました。イトカワのサンプルリターンから解決されました。小惑星からの実物試料の重要性が示されました。


 日本では、小惑星のイトカワとリュウグウからサンプルリターンをしています。両者の天体は、恒星岩石の種類が異なっていました。それは、事前にわかっていました。小天体の表層部分の成分は、スペクトル分析によって知ることができるからです。
 スペクトル分析とは、直接処理できない物質を、光を詳しく調べること知る方法です。未知の物質が発する光の波長(あるいは周波数)と波長ごとの強度(エネルギー)を測定します。その測定値と、既知の成分(元素)ごとの波長と強度を比べることで、未知の物質の成分を推定する方法です。
 天文学では、光を発する恒星では放射光によるスペクトル分析をしますが、光を発しない天体では、恒星からの光を反射した光(反射スペクトル)の分析をしていくことになります。いずれでも、スペクトル分析が可能です。入手できる隕石のスペクトル分析と比較することで、天体の構成物を推定することができます。
 多数の小惑星の反射スペクトル分析がされており、そこから天体の区分ができています。S型に区分されるタイプが最も数が多く、小惑星帯の内側(太陽に近い側)に多く分布していることもわかってきました。
 一方、隕石でもっとも多いタイプは、普通コンドライトと呼ばれるものです。隕石が小惑星帯から飛んでくるとすると、S型が普通コンドライトに一致すれるはずです。
 ところが、S型の小惑星と普通コンドライトのスペクトは一致しませんでした。普通コンドライトよりは、石鉄隕石に似ていることがわかってきました。これは、大きな謎でした。スペクトルが一致していませんので、もしかすると未知の隕石からなる小天体や、別の原因があるのかもしれませんでした。
 スペクトルの不一致に対して、いくつかの仮説が提示されていました。
 小惑星帯から地球に落下する隕石は偏った軌道でそこには普通コンドライトが多いという説、地球から観測できないほどの小さいサイズの天体は普通コンドライトが多いという説などがありました。いずれも、S型と普通コンドライトは異なっているという考えの説でした。
 一方、小惑星の表面は宇宙風化(太陽風や宇宙塵の衝突など)を受けるという説がありました。もともとは普通コンドライトだったものが、宇宙風化でスペクトル型が変化したという説です。
 イトカワはS型と呼ばれるスペクトル区分で、実際に入手された試料から、普通コンドライト隕石であることがわかりました。また、はやぶさが接近して観測しているので、宇宙風化の様子も確認されました。以上のことから、これまで謎であった、S型小惑星が普通コンドライトで、スペクトル型が異なっているのは宇宙風化のためであることがわかってきました。
 イトカワの試料が入手でき、分析することで、これまでの謎が解決できました。実物試料があれば、さらに詳しい分析ができます。
 普通コンドライトは、鉄の量で区分されているのですが、鉄の量からEコンドライト、Lコンドライト、そして鉄も金属も少ないタイプがLLコンドライトに区分されています。イトカワは、LLコンドライトで、さらにLL4からLL6に分類される試料が多いこともわかってきました。
 このように実際の試料をもとに調べていくことで、多くの情報をえることができます。リュウグウについては、次回としましょう。

・野外調査へ・
今週後半から、野外調査にでます。
前期では最後の調査になります。
大雪から道北を周っていきます。
何度も訪れているところですが、
調べる内容が違うので、
記載内容も少々異なってきます。
最近は道内各地を調査しているので、
主だった道路はたいてい走っています。
ですから、通いなれたところになります。
でも、自然や景観は毎回異なっているので、
気持ちが癒やされ、リフレッシュされます。

・面接練習・
前期の野外調査が7月以降できなくなるのは、
7月から8月までは校務が細切れにつまってくるためです。
6月下旬に教員採用の1次試験がありました。
次は面接が中心の2次試験になります。
7月以降、4年生の面接練習をしていきます。
毎日にように個別面接の練習をしていきます。
数日単位で大学をあけることができなくなります。
8月上旬の2次試験が終わるまでは
野外調査ができなくなります。
毎年のことなので、致し方がありません。

2022年6月23日木曜日

5_193 小惑星の有機物 1:サンプルリターン

 2022年6月6日、リュウグウから有機物が見つかったというニュースをご覧になられた方もいるかと思います。今回からシリーズで、小惑星における有機物についての話題をいくつか紹介します。


 月以外の天体の試料は、日本のはやぶさによるイトカワと、はやぶさ2によるリュウグウの、2つからしかえられていません。これらからえられるデータや知見は、非常に重要となります。
 リュウグウとは、はやぶさ2が訪れた小惑星です。リュウグウは、地球近傍小惑星と呼ばれるグループに分類されています。地球近傍小惑星とは、地球に接近する軌道をもったものです。交差すれば、衝突する可能性もあります。
 その小惑星でも、いくつかに区分され、アポロ群またはアポロ型小惑星と呼ばれるグループがあり、イトカワもリュウグウも、これに属します。アポロ群とは、火星より内側の軌道で、地球軌道の中に入ったり、外にでたりする楕円の軌道をもっています。
 このような小惑星には、地球周辺の軌道に近づくので、太陽からの軌道を大きく変化させる必要がありません。そのため、燃料をあまり使わずに行き来できるというメリットがあります。試料を地球に回収を目指すには、好都合の天体となります。
 はやぶさ2は、リュウグウに2回着陸をしてサンプルを採取しました。そして、試料の入ったカプセルを切り離し、地球に届けました。はやぶさ2の本体は、現在も別の小惑星に向けて、新たな探査ミッションに入っています。
 はやぶさも、小惑星イトカワから試料を採取しています。直径が0.01mm以下、最大でも直径が0.2~0.3mmの、微小な試料が多数採取されました。しかし、1μgにも満たないほどのとても小さいもので、いずれも小さいので質量は測定されていません。約1500個がイトカワの由来と確認され、研究者に配布され、分析されてきました。
 一方、リュウグウの試料は、5.4gが回収されています。イトカワと比べると、非常い多くの試料が持ち帰られたことになます。由来のはっきりとした天体の試料は、月とイトカワについで3番目となります。
 ニュースは、このリュウグウの試料を用いて分析した結果となります。詳細は次回としましょう。

・予約送信・
このエッセイは、予約送信しています。
前回の調査のときは、
ひとつ目のメールマガジンを送信に続いて
ふたつ目の送信をすべきところを忘れていました。
日曜日、気づいて慌てて送信することになりました。
このところ2週間に一度、調査にでているので、
スケジュールが混み合っているため、混乱しています。
今回は忘れないように送信しました。

・4回の野外調査を・
5月から7月初旬まで、
4回の野外調査を予定しています。
7月になると、4年生の採用試験の対応で
時間がなかなか取れなくなるためです。
例年より多くなっています。
それは道外の長期調査が
できるかどうかわからなかったので
道内調査を何度もすることにしました。
秋になったらまた何度かでかけたいのですが、
講義と校務が重なってくるとので
予定を立てるのが難しくなります。
いつでも日程が合えば出かけられるのはいいですね。
以前は、当たり前のことでしたが。

2022年6月16日木曜日

4_168 火星研究への旅 13:トゥーティング・クレータ

 シャーゴッタイトと呼ばれる火星起源隕石は、トゥーティング・クレータから飛んできたのではないかと、推定されました。その推定には、どのような方法が、用いられたのでしょうか。


 シャーゴッタイトが由来したクレータ探しの報告の紹介しています。放射線の照射年代から、隕石が、宇宙空間にあった期間が110万年間であったことがわかってます。その頃に起こった衝突クレータを探せばいいことになります。ただし、シャーゴッタイトの岩石学的性質から、枯渇したマントルから形成された火山岩であることもわかっています。また、岩石ができた形成年代も、5億年前から1億8000万年前だとわかっています。そのような場所に起こった衝突によるクレータから由来しという束縛条件になります。
 まず、クレータができた時期を正確に調べる必要があります。クレータの形成年代は、クレータのその地域での衝突頻度とサイズの関係が、べき乗則に基づいていることから、年代を推定する方法があります。ただし、それでは誤差が大きな年代しかできず、新しいクレータを識別するのは困難なので、もっと詳細に調べていきます。
 幸い火星の表面の精密画像があるので、そこからより詳しく年代が推定できます。
 大きな衝突のときにできたクレータ(1次クレータと呼ばれています)から、周囲に破片が飛び散り、それらのうち大きなものが、再度小さなクレータ(2次クレータ)を形成します。火星には大気があるので、小さいクレータ(直径1km以下のもの)は、時間がたてば消えていきます。このような小さな2次クレータが残っているような、1次クレータは新しい時代の衝突になります。
 小さなクレータを識別し、その数やサイズを計測するのは、人手では困難になります。そこで、AIを導入して画像解析をしています。
 AIによる解析で、クレータが約9000万個も見つかりました。到底、人にはこなせない作業です。
 シャーゴッタイトは火山岩なので、これらのクレータのうち、火山平原であるものを探します。そのような場所から、19個が新しいクレータが、2次クレータに囲まれていることがわかりました。これら19個が、新しい時代のクレータとなります。そのうち、いくつかが110万年前ほどの新しいものだと推定されました。
 次はシャーゴッタイトの形成年代と火山岩のタイプを参考に、さらにクレータを絞っていきます。そのような場所にあるクレータは、「09-00015クレータ」と「トゥーティング・クレータ(Tooting crater)」の2つになってきました。いずれもタルシス高原にあり、そこはマントルプルームが上昇してできたところです。
 2つのクレータの形状をみていくと、違いがありました。後者は、氷や水があるところに斜めに衝突したと考えられています。そのような場で斜めに衝突すると、破片が宇宙空間に飛び出しやすいことがわかっているので、トゥーティング・クレータが有力な候補になると考えられています。
 今回は候補が2つまで絞られ、さらに有力候補も出すことができました。この2次クレータまでを利用してAIで画像解析する手法は、他のSNC隕石の由来にも適用可能で、また他の天体でも応用できそうです。将来性のある手法です。

・道東の調査・
今週末から来週にかけて、道東に調査でます。
やっと思い切って調査にでかけられます。
7月はじめにも調査にでる予定です。
ただし、7月から8月にかけては、いろいろ校務があり、
調査に出る日程が確保できなくなります。
次の野外調査は、9月になってからですかね。

・喉元すぎれば・
喉元すぎれば、という状況が
コロナ対応でもでてきたようです。
私も野外調査に通常通りでかるようになりました。
感染者数は変動がありますが
現在でも、まだ高止まり状態のままです。
感染しても症状がひどくなく、
後遺症も残らないのであれば、
インフルエンザと同じような対処でよいのかもしれません。
安全を期した対処が、取られているので
それに従うするのはいいことでしょう。

2022年6月9日木曜日

4_167 火星研究への旅 12:シャーゴッタイト

 火星起源隕石のひとつのタイプとしてシャーゴッタイトと呼ばれるものがあります。その隕石が、火星のどこからきたのかを、突き止めようとした研究が報告されました。


 火星から飛び出して、地球にまで来て隕石となるためには、いくつかの過程あります。火星が固まった大地があり、そこに大きな隕石の衝突が起こり、そのとき飛び出した破片の一部が、火星の引力圏から飛び出し、太陽の引力にひっぱられて、火星より内側の軌道に入りました。それらの破片のうち、地球と交差したものが、隕石として地球に落下することになります。
 前回、火星起源の隕石が何種類かあることを紹介しました。複数の種類があるのは、飛び出した時代や場所に違いがあったことになります。当然、地球に落ちてこないものもあるはずです。火星から飛び出すような衝突が、何度かあったことになります。
 隕石の情報を読み取ることで、飛び出した場に対して、束縛条件をつけることができます。今回の報告は、シャーゴッタイトに関するものでした。シャーゴッタイトは火山岩ですが、枯渇したマントルで形成されたマグマからできたものでした。枯渇したマントルとは、火星形成時のままのマントル(始原的、未分化とも呼ばれます)ではなく、溶けやすい成分が抜けたマントルから形成されたマグマとなったものです。地球では海洋地殻を形成するようなマグマに相当します。また、その形成年代も数億年前であること、また110万年前に衝突があったこともわかっています。
 火星では、プレートテクトニクスが働いていなかったので、マントルプルームという対流が起こっており、その対流の上昇が枯渇したマグマの活動場になりそうです。
 火星から飛び出したのであれば、隕石に相当する衝突クレータがあるはずです。隕石の情報をもとに、クレータ探しをしていくのですが、どのクレータからそれぞれの火星起源隕石が由来したかを特定するのは非常に難しいものでした。今回、それを特定したというのが、ラガイン(Lagain)さんらの論文になります。

・遅ればせながら・
調査にでていたので、てっきり、その前に
本メールマガジンを予約配信しているものだと思っていました。
ところが、週末に次のメールマガジンを書こうとしたら
発行していないことに気づきました。
今まで毎週かかさず発行してきたのですが、
ついに発行忘れをしてしまいました。
用意していたので、残念です。
遅ればせながら発行します。

・野外調査再開・
先週末から月曜日にかけて
道南へ野外調査にでかけました。
その様子は別の機会に紹介しましょう。
今回「地球地学紀行」として火星研究の旅を
シリーズで続けているのは、
なかなか調査にでかけられないためでした。
しかし、今季から野外調査には
出かけられるようになってきましたので
そろそろ紹介できるものもでてきそうです。

2022年6月2日木曜日

4_166 火星研究への旅 11:SNC隕石

 火星の岩石はいまだに持ち帰ることはできていません。しかし、火星起源隕石があるので、それを用いて岩石学的研究ができます。火星のどこに由来するのがわかっていなかったのですが、最近特定されてきました。


 アポロ計画で月から岩石を持ち帰っています。実物資料があるので、詳しく調べることができて、他の天体の岩石は、イトカワとリュウグウから無人探査機が試料を持ち帰りました。小惑星だったので、重力が小さいため、タッチダウンの後、簡単に離脱することができました。また、無人探査機だったので、生命体が乗っていないため、そのためのシステムが不要で、長い時間を要しても問題はありませんでした。
 火星には多数の探査機が訪れていますが、火星の岩石はいまだに地球には持ち帰られてはいません。火星は大きな天体なので、重力も大きく離脱するために、多くの燃料が必要になります。また、遠くなので、地球に戻るためにも燃料が必要になります。そのため、岩石を入手するのが難しくなります。
 しかし、幸いなことに、火星から飛び出して地球に落ちた岩石が見つかっています。火星起源の隕石です。
 火星起源とされている隕石が何種類があります。SNC(Shergottite シャーゴッタイト、Nakhlite ナクライト、Chassignite シャシナイト)と呼ばれるものに区分されています。斜方輝石岩(Orthopyroxinite)も火星起源です。隕石のデータベースで検索すると、火星起源と考えられているものが334個もでてきます。また、斜方輝石岩のAllan Hills 84001からは、化石のようなもの見つかって話題になったことがあります。
 そもそも火星起源を決定づけたのには、いくつかの根拠がありました。通常の隕石は45億年前の年代を示すのですが、火星起源の隕石は、若い形成年代(shergottiteは6億5000万~1億6500万年前、nakhlaとchassigniteは13億年前)を示しました。マグマから結晶ができて火成岩ができるのですが、火成岩の組織として、重力のあるところ(大きい天体)で形成されたものになっていること、高圧下(大きい天体)でのマグマが形成されたことを示す鉱物組成をもつこと、酸化度の高い鉱物と含水鉱物をもつこと、火星の表面の岩石の化学組成にも似ていることなど、さまざまな証拠があるため、火星起源と考えられています。
 2021年11月のNature Communications誌に、ラガイン(Lagain)さんらの共同研究で
The Tharsis mantle source of depleted shergottites revealed by 90 million impact craters
(9000万個の衝突クレータから明らかにした枯渇したシャーゴッタイトのタルシスのマントルが起源)
というタイトルでした。シャーゴッタイトという火星起源の隕石が、タルシスのマントルから由来したことを特定したというものです。
 隕石の火星由来はいろいろな証拠があったのですが、飛び出したクレータの場所が特定されたということになります。その方法は次回としましょう。

・野外調査・
今週末に、調査にでます。
今回は道南方面です。
コースとしては何度も通っているところですが、
目的が違っているので、
見るところや見方が変わってきます。
今回は、通常の火山とカルデラを伴う火山
そして、古い付加体中の地層と地層を見ることです。
野外調査がやっと自由にでききるようになって助かっています。

・涼しい週末・
本州では暑い日なっていたようですが、
先週末は、北海道では風雨が激しく、
気温も低目になっていて肌寒く感じました。
さすがにストーブをつけることはありませんでしたが、
冬の室内着を出して着ていました。
布団も夏の肌掛けだけでは寒いので、
毛布をかけてちょうどいいくらいでした。
変わりやすい天気です。