2021年3月25日木曜日

5_178 周期的大量絶滅 3:絶滅の連鎖

 陸上生物の大絶滅の周期性が、海洋生物の大絶滅と連動していました。海洋とともに陸上でも異変があったことになります。それは、どのようなものだったのでしょうか。推測していきましょう。


 この報告は、陸上生物の大絶滅も対象にして解析した結果でした。以前にも海洋生物での周期性が見つかっていたことも紹介していましたが、今回、陸上生物でも、大絶滅に周期性が見つかったことになります。海洋生物と陸上生物との大絶滅とは、どのような関係になるでしょうか。

 陸上生物の大絶滅は、地球表層での現象となります。海洋生物の大絶滅であれば、海洋全体の異変に起因します。海洋生物を大絶滅させる方が、大きな異変が必要になるはずです。なぜなら、陸上域より海洋域の方が、安定した環境(変化しづらい条件)になっているためです。もし、大気中で大きな異変が起これば、地球の表層全体に影響が及びます。その影響は海面付近にも及び、海面付近で暮らしている海洋生物にはダメージを与えるでしょう。

 海水は液体の水の粘性が大きいので移動がゆるやかで、深度もあるので、循環したとしても海洋全体への影響は遅くなります。特に深海底での海水循環は数千年の周期になっています。そのため、かなり大きな異変で、なおかつ長期間続くものでないと、深海生物まで巻き込むような大絶滅は起こりません。

 海洋循環に比べて、大気循環は速く起こります。例えば、巨大火山の噴火や隕石の衝突で、大気の上空に大量のチリが舞い上がり、太陽光が遮られたら、光合成生物は大きな打撃を受けます。この光合成生物への打撃は、数十年、あるいは数年間継続することで、生態系は破壊されてしまいます。

 このような異変は、海洋で光合成をする生物にも及びます。ところが、大気中の異変が、深海に及ぶには時間がかかります。深海にも底生生物がいます。深海の生物の中には、独自の生態系をもっているものがいます。光には依存しない生き方をしているものです。光合成生物ではなく、湧水や熱水噴出孔のエネルギーや栄養を利用する、独自の代謝機能をもった生物を基礎にした生態系があります。

 そのよう特異な生態系にまで影響を及ぼすためには、深海底に及ぶ大きな異変でなければなりません。長期間影響を継続するような異変か、短期間であっても、非常に大きな異変で深海にまで及ぶもの(海水を多くを一旦なくす、大規模にかき混ぜるなど)でなければなりません。

 さて、この報告では、10回の陸上生物の大絶滅のうち、8回は海洋生物の大絶滅と同時に起こっていることを指摘しています。さらに、その時期には、いずれもLIPs(巨大火成岩区)が起こっています。巨大火山活動と、なんらかの因果関係がありそうです。つまり、大絶滅の多くは、海洋と陸上の両方に影響を及ぼしているものになります。

 そして、そこに周期性が見つかったのです。絶滅の周期性の意味するものは何でしょうか。次回としましょう。


・学位記授与式・

先週、大学で学位記授与式がおこなわれました。

ただし、コロナ禍なので、対策をとった上で行われました。

大人数を集めることができないので、

学長の挨拶もビデオでした。

授与式は、学科ごとに、少人数で大きな教室での挙行でした。

保護者の方も出席できない状態でした。

4年生とは、遠隔授業でパソコン越しでの

対話しかしていませんで、

久しぶりの対面となりました。

学位記授与式での対面が、最後のものになりました。

昨年と比べれば少しはましですが、残念ですね。


・新キャンパス・

我が大学は、都市部に、新キャンパスができ、4月から動きだします。

春から再編、新設された学部が、

次の年にはもう一つ学部が移転します。

現在、在学生への対応が始まっています。

準備は整いつつあります。

一度見に行ってきました。

新しい施設の1、2階のフロアーは

4月から市民に開放されます。

2021年3月18日木曜日

5_177 周期的大量絶滅 2:周期性の検出

 絶滅に周期性が見つかるという説は、以前からありました。数学的手法を使えば、周期性は導き出せます。その信頼度はさまざまなので注意が必要です。それより周期性の原因究明が重要です。


 前回までは、大絶滅の概要を見てきました。K-Pg境界(白亜紀末と新生代古第三紀の境界)で起こった大絶滅は、隕石の衝突が原因でしたが、それ以外のものは隕石の衝突が原因になっていませんでした。大絶滅の時期に対応するクレーターが見つかっていても、十分な証拠にはなっていませんでした。

 最近、大絶滅に周期性が見つかったという報告がありました。ランピーノたち(Rampino、CaldeiraとZhu)の共同研究で、2020年12月に報告されました。そのタイトルは、

 A 27.5-My underlying periodicity detected in extinction episodes of non-marine tetrapods

というものでした。訳すと「非海洋性テトラポッドの絶滅事件において検出された2750万年の潜在的な周期性」となります。この中で、「周期性」はわかると思いますが、「非海洋性」という不思議な言葉を使っていますが、陸上という意味です。また、「テトラポッド」とは海に置かれるテトラポットの意味もあるのですが、ここでは陸上生物の両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類の4つの分類群を表すための比喩として用いられています。つまり、大絶滅の周期性が陸上生物群でも見つかったという報告になります。

 2億6000万年前以降をみると、生物の分類群の属や科のレベルで海洋生物での大絶滅は、2670万から2730万年の周期(もっとも最適な値2750万年)があるという報告があります。ただし、これは海洋生物であり、陸上生物では明瞭ではありませんでした。その点を、この論文では、陸上生物で周期性が見えてきたというものです。

 周期性の発見は、まず10個の陸上生物の絶滅事件を取り上げ、そこから周期性を検出する数学的手法として、フーリエ解析をしています。フーリエ解析とは、周期性がありそうな現象に対して、周期関数(三角関数)を近似させていく方法です。三角関数の項には、それぞれに周期性とその強度という離散的な値に変換できます。

 その周期の値を、もとの時系列データとどの程度一致しているかを、統計的に検討した結果、明瞭な(99%の信頼度)2750万年の周期性があることがわかりました。

 10個の陸上生物の絶滅の時代のうち、8個で海洋生物の絶滅事件も同時に起こしています。この8つには、LIPsも起こっており、それが大絶滅を引き起こしている原因になりそうです。

 ところが、8つのうち3つの大絶滅は、直径100km以上の衝突クレーターを形成するような事件と対応しています。つまり衝突事件の3つは、2億6000万年前以降の大絶滅事件と対応しているということです。

 大絶滅と対応したクレーターの存在と、それらが大絶滅の周期性の解析からえられた2750万年周期と関係していることから、大絶滅にも周期性があったと推定します。では、その周期性が何を意味しているのでしょうか。次回としましょう。


・学位授与式・

今週末に、大学で学位授与式(卒業式)が

1年ぶりに開催されます。

ただし、短時間で三密をさけての開催となります。

保護者は出席できず、リモートで見学するだけです。

最後に学生との歓談は、短時間ですが取られるようです。

開催できるありがたさがの方が先に立ってますね。


・フーリエ解析・

周期性があれば、グラフにすれば目で見えます。

ただし、スケールのとり方で、

周期性が見えやすくなったり、見えにくくなったりします。

その点、フーリエ解析は便利で、

データさえあれば、周期性を定量値として計算できます。

その値を、現実のデータに当てはめれば検証できるはずです。

フーリエ解析の問題は、解析の手段なので

現実に周期性のない現象でも、

計算上、周期性が算出されてしまいます。

でも、闇雲な適用には要注意ですね。


2021年3月11日木曜日

5_176 周期的な大絶滅 1:べき乗則

 大絶滅の多くは、地球内部に原因がある考えられています。大絶滅に周期性があるという考えは、以前からありましたが、あまり注目されていませんでした。最近、周期性を主張する報告があり、再び注目されてきました。


 天文現象が生物の大絶滅を起こすということは、今や、多くの人が知っています。中生代の末、恐竜が大絶滅した事件が、科学番組や映画などで紹介されたことで、知れ渡っているためでしょう。

 恐竜の大絶滅は、直径10kmほどの隕石がユカタン半島に落下したことで起こったと考えられています。その衝突で、すべての生物が一気に絶滅したのではなく、衝突を契機にして、さまざまな現象が連鎖して起こったためだと考えられています。衝突に関連する現象は、いろいろ見つかっていますが、時系列に沿った現象で、それぞれの連鎖の状況や、因果関係の解明など、まだ不明な点も多々あります。

 衝突は、隕石のサイズを考えなければ、多数起こっています。落下する隕石のサイズは、大きいものほど頻度は少なく、小さいものほど多くなっています。このような規則性は、「べき乗則」と呼ばれるもので、多くの自然現象で見つかっています。

 隕石の衝突が、べき乗則にそって起こっているのであれば、10kmサイズの衝突は、地球史上、中生代末だけの出来事だったとは考えにくいものになります。他の時代の大絶滅が起こった時期にも、隕石の衝突が起こっていたのではないでしょうか。その証拠を探すとどうなるでしょうか。

 大絶滅の原因を隕石衝突と考え、その時代対応した巨大なクレーター(直径100km以上)を挙げている研究もあります。しかし、多くの大絶滅では、隕石の衝突の痕跡は、必ずしも見つかっておらず、地球内で起こる現象が原因だとされいます。

 例えば、古生代と中生代の境界で起こった大絶滅は、生物史上最大ものだったと考えられています。その大絶滅の原因は、巨大な大陸(超大陸と呼ばれる)が、分裂していくときに起こった大規模な火山活動(巨大火成岩区、Large igneous provinces、LIPsと略されています)が原因であったと考えられています。

 LIPsとは、マントルから上昇してきた温かい物質が起こしていると考えられています。マントルプルームと呼ばれるもので、マントル対流の現れたものです。そのため長期に渡って火成活動が起こっている。現在では、南太平洋とアフリカ大陸に上昇してきています。

 マントル対流が定常的に起こっているはずなので、何度もLIPsの活動が起こっていることになります。現在活動しているLIPsだけでなく、過去に活動したものもわかっています。そのため、大絶滅に関係したLIPsが対応させられており、それを原因とするのが現在の考え方となっています。ただし、その火山現象からどのような連鎖が起こったかは、まだよく変わっていませんが。


・LIPs・

現在のマントルプルームによって、

起こっているLIPsは、アフリカ大陸ものは、

アフリカの大地溝帯を形成した火成活動です。

南太平洋のものは、海洋の多数の火山や

ハワイの火山列を生んだ活動だと考えられています。

過去の海底でのLIPsは、1億年前までならば

海底に残っていることがあります。

それより古いものは、海溝に沈み込んでいいます。

大陸では、それらの痕跡が残っています。

ですから、全てを把握することはできませんが、

なんらかの手がかりは、残されています。


・面接授業・

今週は、面接授業で、教育実習の事前指導をおこなっています。

ひさしぶり対面での授業となります。

通学の混雑対策、換気対策、60分未満の授業時間など、

あれやこれやの三密対策をしていきます。

以前の授業より、たくさんの時間が費やさなけばなりませんが

Withコロナとして、対処していく必要があります。

大変ですが、大学で決めたルールですので従います。

それでも面接授業が戻ってきたので、楽しみです。

2021年3月4日木曜日

6_182 千葉の新鉱物 3:房総石

いよいよ房総石の紹介です。房総石は千葉石の中に混じっていました。この新鉱物の発見は、メンタンハイドレートやシリカクレスレートの研究だけでなく、天然ガスの起源や付加体の実態解明などの新しい展開を予感させます。


 「房総石」は、2011年の千葉石の研究の過程で見つかったそうです。千葉石を詳しく調べていくと、量は少ないですが、異なった結晶構造をもっている鉱物があることがわかってきました。それが新鉱物であることが明らかになり、2020年に「房総石」と名付けられて報告されました。

 前回紹介した千葉石は、メタンハイドレートに見つかっている3つの構造(I型、II型、H型)のうち、II型の構造をもっていました。調べていくと、II型の構造の中に、H型の結晶があることがわかりました。この構造をもったシリカクラスレートは、これまで見つかっていませんでしたので、新鉱物になります。

 房総石の「カゴ」のサイズは、千葉石よりもっと大きいものでした。「カゴ」が大きいと、より大きな分子が入ることになります。千葉石では入っていたのがメタンでしたが、房総石にはメタン(CH4)も入ることができます。より大きな分子として、エタン(C2H6)、プロパン(C3H8)などのガス分子がありますが、結晶構造の解析から、さらに大きな分子も入っている可能性もあることがわかっていました。

 一般に天然ガスでは、温度や圧力が上がってくると、分子が分解されてサイズが小さくなっていきます。千葉石の中から見つかってのですから、房総石は本来なら分解されてしまう、より高温高圧の条件に置かれていたはずです。しかし、分解を免れた状態の鉱物が残ったと考えられます。報告者は、房総石を天然ガスの「タイムカプセル」と呼んでいます。

 これまで、シリカのクラスレート鉱物として、I型の「メラノフロジャイト」が見つかっていました。そして、II型の千葉石が2011年に見つかりました。今回、H型の新鉱物「房総石」が見つかったことになります。これらの発見によって、シリカクラスレート鉱物も、メタンハイドレートの結晶構造と同様の多様性があることが明らかになりました。

 天然ガスは、本来地層の間にガスとして溜まっています。しかし、天然ガスが、海底に上昇してきたとき、冷たい海水に接触することで、メタンハイドレートができます。メタンハイドレートが、長く地層中で地下水にさらされていると、水の分子がシリカに置き換わっていきます。つまり、シリカクラスレート鉱物になっていく可能性があります。地層中の石英脈がよく見つかります。もしかすると、その石英脈の中に、千葉石や房総石が含まれているのではないと考えられます。

 今後そのような展開が起こると、多くのところで、千葉石や房総石が見つかってくるかもしれませんね。


・タイムカプセル・

天然ガスの「タイムカプセル」という意味は、

房総石のカゴ中に、天然ガスの成分が残されているためです。

房総石の量は少ないのですが、

「あった」という証拠を提示したことが重要になります。

存在の証明がされれば、

そこから推測される仮説の説得力もでてきます。

今回見つかった地層に似た環境、

つまり付加体中の過去の冷湧水の痕跡には

石英脈が多数があります。

その中には、今回報告されたようなシリカクラスレートが

形成されているのかもしれません。

問題は、鉱物の中のガスの種類を

それも微量のものを、どう検出していくかでしょうか。

これは、なかなか難しいでしょうね。


・アイディアが・

新しい発見があると、その応用が可能になります。

発見のための場所や方法などがわかったことになります。

さらに、これまで探査されなかったところかも

新たに見つかるかもしれません。

その方法論は、他の鉱物などの探査に

利用できるかもしれません。

あとは探索のための技術的な困難さでしょうか。

普及した装置であればいいのですが

特別な装置なら、それを利用できる人だけが

調べることができることになります。

しかし、重要なのは、どんなアイディアで

調査研究を進めていくでしょう。

その場で、なぜシリカクラスレートを探すのか

という点が重要でしょうね。