2020年5月28日木曜日

1_177 大陸地殻の新知見 2:クラトン下のマントル

 マントルは地殻より下にあります。マントルを直接調べるのは、限られた方法しかありません。キンバーライトという特異な火山岩から、今まで知れられていなかったクラトン下のマントルが見つかりました。

 3つの大陸地殻の新たな知見を発表順に見ていきます。
 まずは、The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)(北東カナダ、北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)というタイトルの論文から紹介していきましょう。
 この論文では、キンバーライトと呼ばれる岩石の捕獲岩からわかったことが報告されています。キンバーライトは、特異な火山岩です。非常に深部(150km以深)で特徴的なマグマと形成されます。その特徴は揮発成分に富むこと、そしてなんといってもダイアモンドを伴うため、古くから知らています。ダイアモンドの存在から、超高速(30~60km/時)で上昇してきたことがわかります。なぜなら、ダイアモンドは超高圧下でしか形成されず、地表では不安定な鉱物です。そのため、ダイナモンドが別の鉱物に変わる前に一気に圧力低下して準安定のまま地表に上昇したことになります。そしてキンバーライトは、古い大陸地殻にのみ見つかっています。
 キンバーライトには、経路にあった岩石も捕獲して上昇してきます。キンバーライトはダイアモンドだけでなく、地下深部の情報も一緒に持ってきます。そのような岩石を捕獲岩といいます。この報告では、チャドリカのキンバーライトの捕獲岩のうち、120個のカンラン岩と輝石岩から、この地域のクラトン下のマントルの様子を探っています。いずれも大陸下のマントルを構成していた岩石だと考えられています。
 チャドリカのマントルは、カンラン石(フォルスレライト成分に富むもの)が多いことが特徴です。他の地域でのクラトン下のマントルは、単斜輝石岩(単斜輝石に富むカンラン岩)のマントルからできています。チャドリカのマントルは、一般のものとは異なっています。似たものは、北大西洋クラトンと呼ばれるマントルに似ています。北大西洋クラトンは、現在のように大陸が分裂する以前に存在したクラトンです。北大西洋クラトンは分裂し、現在ではスコットランドやグリーンランド、カナダ東部のラブラドール地方などで見つかっています。今回の研究で、バフィン島下での存在が初めて明らかになりました。
 チャドリカのマントルは、典型的なクラトンのものより、かなりの程度溶融してマグマを出した(メルト成分が枯渇している)マントルになっていました。マグマを出したマントルは、カンラン石の比率が多くなり、このようなものを枯渇したマントルと呼んでいます。
 その後、珪酸ー炭酸塩の交代作用(metasomatism)が起こっています。この交代作用は、大陸が分裂する前の現象だとしています。交代作用は、ラブラドール海を挟んだ北大西洋クラトンが、ジュラ紀の240kmから古第三紀の65kmに接近してきた時、地殻の薄化が起こったことが重要な役割を果たしたと考えられています。
 論文の内容は、このように淡々とした記述になります。また、この論文は、もともと過去のクラトンについて調べようとしたものではなく、キンバーライトの捕獲岩を調べていたところわかったことです。まあ、予想外の成果となります。

・緊急事態宣言解除・
全国的に緊急事態宣言が解除されました。
感染者数は一時の数と比べると
だいぶ少なくなってきました。
しかしまだ、小さなピークが繰り返し起こりそうな様相です。
北海道で繰り返しピークがあります。
一気に日常に戻るのは危ないはずです。
少しずつ様子を見ながらでしょう。
しかし、感染していない人が多いのであれば、
いつでも大量感染が起こる危険性があります。
全員の抗体検査で感染状況を調べることと
ワクチンか治療薬の開発が
決定的な解決になると思います。

・学生支援・
大学は、前期は原則はWEB講義になっています。
ただし、大学から全学生に対し支援金が支給されます。
また、文部科学省からの学生支援緊急給付金もあります。
国の給付金は、一部の学生にしか支給されません。
条件がいろいろあり該当しない学生も多くなります。
支給されない学生には、
仕送りの低額化、アルバイトの中止(休業補償がない)で、
かなり厳しい生活を強いられています。
そのような学生の中には、
大学を継続できるかどうかの瀬戸際の学生もいます。
ケチらず、全学生を支援してもらいたいものです。

2020年5月21日木曜日

1_176 大陸地殻の新知見 1:3つの論文

 2020年になって、大陸地殻に関する論文が相次いで報告されました。いずれも大陸の形成や特徴に関するものです。今回のシリーズでは、それらをまとめて紹介していくことにします。

 まずは、発表順に論文タイトルを紹介していきましょう。2020年1月7日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」(岩石学の雑誌)に報告されたものは、
The metasomatized mantle beneath the North Atlantic Craton: Insights from peridotite xenoliths of the Chidliak kimberlite province (NE Canada)
(北大西洋クラトン下の汚染されたマントル:チャドリカ・キンバーライト地区のカンラン岩捕獲岩からの観点)
でした。
 3月2日、イギリスの科学雑誌「Nature Geoscience」に報告されたのは、
Limited Archaean continental emergence reflected in an early Archaean 18O-enriched ocean
(初期太古代の18Oに富んだ海洋を反映した限定された太古代の大陸出現)
でした。(注)18Oとは酸素の同位体で質量数18のものの比率をいいます。
 3月17日、イギリスの専門雑誌「Journal of Petrology」に報告された、
Eclogite and garnet pyroxenite xenoliths from kimberlites emplaced along the southern margin of the Kaapvaal craton, southern Africa: mantle or lower crustal fragments?
(南アフリカ、カープヴァール・クラトンの南縁に沿って定置したキンバーライトからのエクロジャイトとざくろ石輝石岩の捕獲岩:マントルもしくは下部地殻の断片か?)
でした。
 いずれも専門書の論文のタイトルなので、日本語訳を読んでもよくわらかないと思います。その内容は、次回以降、順次紹介していきます。
 最初の論文の調査地は、カナダ北東部のバフィン島の北大西洋クラトンで、2つ目の論文は、オーストラリア北西部のピルバラ・クラトン、3つ目は南アフリカのカープヴァール・クラトンです。いずれもクラトンという名称がついています。論文の紹介の前に、クラトンの説明からはじめていきましょう。
 クラトン(craton)とは、大陸地殻の中でも、非常に古いもの(先カンブリア紀)を意味しており、「安定地塊」、「楯状地」などとも呼ばれています。安定地塊とは、古くから存在している大陸地殻なので、それは安定していることを意味しているために呼ばれています。また、楯状地とは、古い時代に形成され侵食され、地形も平らでなだらかになって盾状になっているという意味です。
 地球にはクラトンと呼ばれてるものがいくつかあります。論文で出てきた以外にも、カナダ楯状地、バルト楯状地、シベリア卓状地、ブラジル楯状地、アラビア楯状地、シナ地塊(アジア大陸東部)など、大きさはそれほどではないですが、古い時代の大陸の様子や大陸形成についての研究では重要な地域となります。
 次回から、それぞれの論文を紹介してきましょう。

・緊急事態宣言・
全国の新型コロナウイルスの感染者数は
自粛を進めたため、だんだんと減ってきました。
ただし、いくつかの地域では、
緊急事態宣言はまだ継続中となっています。
北海道も緊急事態宣言は、まだ継続中です。
北海道でも、いくつかの地域で発生しています。
わが町では感染者は6人ですが、
市内での確認は8人となります。
少ないといえば少ないのですが、
札幌の隣の石狩管内なので、
札幌の同列に扱われています。
致し方がないのですが、少々長い自粛が続いています。

・どさくさ紛れ・
大学はWEB講義も3週目となりました。
なんとなくリズムがでてきたのですが、
大変さはが経るわけではありません。
新たに準備すべきことが、例年以上に多くなります。
そのため、未だにとまどっている人もいます。
また、大学の会議も遠隔になりました。
発言が少なくなるようで、
時間短縮になり、これはこれで効用もありそうです。
しかし、大事な議題も流されると困ります。
国会でも無法な法案を通そうしましたが、
検察庁法改正法案はだけは
国民の声で阻止できました。
今の政府は、こんなどさくさ紛れの所業が
いろいろと目に付きます。
困ったものです。

2020年5月4日月曜日

6_175 月の地質図 2:レゴリス

 月の表面は、レゴリスと呼ばれる堆積物に覆われています。レゴリスの形成過程から、いろいろ読みとれることがあります。月の歴史、そして地球や他の天体の歴史も、読み取ることも可能となります。

 月の表面は、砂のようなレゴリス(regolith)に覆われています。レゴリスは、聞き慣れない言葉です。アメリカの地質学のメリル(Merrill)が1897年に「風化や植生などでその場できた物質による被覆層」や「風、水、氷などで運ばれ分解された破片」に対してはじめて使いました。その後、惑星や月の探査で、天体表層を被覆する堆積物がたくさんあることから、レゴリスという用語がよく使われるようになりました。
 月には大気も水ないはずなのですが、岩石が砕かれて破片になっていることは、どういう意味があるのでしょうか。月では、破片をつくるような作用には、隕石の衝突しかありません。隕石の衝突は非常に稀な現象に思えますが、大気も水もないので、一度できたクレータは侵食を受けることがなく残り、レゴリスも次のものが飛び散って覆うまで残っています。
 クレータは、付近に別の隕石が落ちれば形が壊され、レゴリスに覆われていきます。稀な現象でありますが、確率的には、古いクレータほど、後の時代のクレータによって破壊されることになります。近接するクレータ同士では、破壊された形状やレゴリスの覆い方から、新旧の判別が可能になります。
 前回紹介した、黒っぽい岩石からできている地域はクレータが少なく、白っぽい地域はたくさんのクレータができます。これは、黒っぽい地域が新しい岩石(35億前から30億前)で、白っぽい地域が古い岩石(45億前から40億前まで)であるという、アポロの年代と一致します。このようなクレータを密度から、年代を見積もる「クレータ年代学」も考案されています。年代測定の試料の手に入らない天体であっても、クレータの数から密度が見積もれれば、その地域の年代を推定することが可能になります。
 クレータの形成率を時代ごとにみていくと、古い時代ほどクレータの形成率が高く、新しくなるにつれて減っていくという現象も見つかりました。これは、太陽系の形成の初期に、大量の隕石が落下したこと、つまり隕石が初期に一気に集積したことを意味しています。惑星の公転軌道にあった隕石が、惑星(例えば、地球)や衛星(例えば、月)となる大きな天体に、集っていったことになります。このような天体の形成は「暴走成長」モデルと呼ばれています。
 月の大きなクレータには、すべて名前がつけられています。クレータの中でも大きなものは、飛び散らさせた破片やレゴリスなども多くまります。そのような大きなクレータの衝突時期を、時代の区切りに利用し、クレータの名称が時代名にされています。
 月では、岩石の種類と時代が、ほぼ推定できるようになりました。そこから、全月の地質図が作成されました。

・課題とコメント・
いろいろWEB講義が今週からはじまりました。
ゼミナールのメンバーに対しては、
すでにテレビ会議システムで
個別面談やゼミをスタートしています。
問題は、大人数の講義です。
いちおうWEB講義は作成していますが、
動画を使わないように、
資料と課題提出で講義を進めることになりそうです。
100名を超える授業が2つあるので、
課題に対して、すべてコメントをすることは不可能です。
どうしたものか考えあぐねています。

・高くつく教訓・
新型コロナウイルスは疫病ですから
だれのせいでもありません。
したがって、その渦中の国や地域は
その対処をしていくしかありません。
淡々と自粛を継続していくしかありません。
本来なら、完全が外出自粛を徹底すれば、
もっと早くおさまったかもしれません。
日本では、100年前のスペイン風邪以来の疫病なので、
準備不足と指導者の無能を露呈してしまいました。
自粛をもっと継続することになります。
高くついた教訓となりそうです。