2022年12月29日木曜日

3_209 下部マントルの鉱物 6:課題

 隕石から見つかったアルミニウムを含んだブリッジマナイトは、下部マグマオーシャンでできた可能性が指摘されました。しかし、いくつかの課題を解決する必要もありそうです。


 下部マグマオーシャンの鉱物を推定して、それに相当するものが、特別な条件をもった隕石の中から見つかりました。しかし、下部マグマオーシャンの鉱物と隕石の鉱物が同じとみなすには、いくつかの課題を解決しなければなりません。
 課題として、現在の下部マントルの化学組成、下部マグマオーシャンの条件、下部マントルと下部マグマオーシャンの関係、隕石の衝突溶融の場とマグマオーシャンの関係などを解決していく必要があります。
 下部マントルのブリッジマナイトにアルミニウムが多く含まれているという推定では、下部マントルを原始的なマントル(primitive mantle)を想定して合成実験をしているものが多くあります。原始的マントルでは化学的分化をしていない、アルミニウムが多いという前提条件をおいているため、アルミニウムが多いブリッジマナイトが合成されてきます。その前提を隕石の衝突場は満たしていました。しかし、もし下部マントルも化学的分化をしていたら、アルミニウムが多い下部マントルにはなっていないかもしれません。
 2つ目の下部マグマオーシャンの条件は、現在の下部マントルの条件まで溶けていたかどうかです。溶けていた範囲の見積もりには、数10kmから2000kmまであります。小さな見積もりであれば、現在の下部マントル(深度は660から2700km)に達していません。大きな見積もりならば、2000kmまでマグマになっていたと考えられますので、下部マントルまで達しています。下部マントルのブリッジマナイトが下部マグマオーシャン由来と考えるならば、下部マントルの大部分まで溶けていたということになります。どこまで融けていたのかが今後の課題です。
 もし下部マントルまでマグマオーシャンになっていたとしたら、液体状態なので、速い対流が起こっていたはずです。化学的分化が活発で表層では、アルミニウムがもっと濃集するような状態で、月の高地を形成している斜長岩の陸地が形成されていたかもしれません。そうなると、下部マグマオーシャンのアルミニウムが枯渇していくことになります。
 隕石の衝突による溶融場は、瞬間ですが高温高圧状態になります。報告された隕石は、普通コンドライトという未分化の母天体が変成作用を受けてできたものです。衝突で溶融したところを、下部マントルあるいは固化した下部マグマオーシャンと見立てています。核の成分が分化していたのでしょうか。普通コンドライトでは分化していません。もし鉄が分化していなければ、化学的条件が異なってきます。化学的条件をどう考えるのでしょうか。
 現在の地球と隕石と比べるためには、多くの前提条件を設けなければなりません。課題がまだまだありそうです。しかし、今回の発見は、研究の進展に大きな契機になります。課題をひとつひとつ解決していくことで、新たな展開が可能になるはずです。現在と過去の地球内部が、隕石と関連させて捉えられていくようなことも進んでいくはずです。

・COVID-19との1年・
コロナ禍での生活も3年近くなりました。
初期と比べると驚くほどの感染者数ですが、
聞き慣れて驚きもしない情報になりつつあります。
感染対策も当たり前で、自粛も慣れっこになってきました。
感染者も身近に多数でています。
COVID-19とともに暮らした1年となりました。
来年以降は、COVID-19もインフルエンザのように
当たり前の感染症になっていくのでしょうか。

・ご愛読に感謝・
今年最後のエッセイとなりました。
この1年間、愛読ありがとうございました。
2000年9月にこのエッセイを発行をはじめて
22年以上も毎週発行を継続できました。
発行当時はメールマガジンも新しい手段でしたが、
今で文字だけのシンプルな形式は
多数のインターネットの情報の中に
埋もれてしまっている媒体です。
そんな埋もれた情報から、
このメールマガジンを購読を
継続をされている皆様に感謝申し上げます。
読者がおられるので
毎週発行していくモチベーションになっています。
来年も引き続きよろしくお願い申しあげます。

2022年12月15日木曜日

3_207 下部マントルの鉱物 4:ブリッジマナイト

 隕石内の衝突の痕跡で、高温高圧状態の鉱物がみつかりました。以前に見つかっていた同じ鉱物とは、化学的特徴がかなり異なっていました。その違いは何を意味するのでしょうか。


 隕石から、再びブリッジマナイトが見つかったという報告がありました。2021年10月に、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に
Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
(カトールL6コンドライトから天然の鉄を含むアルミニウム・ブリッジマナイト)
という論文が掲載されました。カトール(Katol)という変成をうけた普通コンドライト(L6に分類されるよく見つかる隕石)から、高温高圧条件でできる鉱物であるブリッジマナイトを発見したという報告です。発見自体は、前回紹介したように、別の2種の隕石から見つかっており、鉱物となり、命名もされました。別の隕石ですが、再度、同じ鉱物を報告するということは、新知見があったからです。鉄を含み、アルミニウムに富むブリッジマナイトというべき特徴を持っていたことが、新しい発見となります。
 カトール隕石でブリッジマナイトが見つかったのは、衝突で岩石がいったん溶けて固まった部分でした。衝撃によって発生した高温高圧条件(約23〜25GPa)で、瞬間的ですが岩石(母天体と隕石)が融けてマグマができ、再度岩石として固まったという場が想定されます。
 最初に見つかったブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)の組成((Mg、Fe)SiO3という構造式)の鉱物が、高温高圧条件でペロブスカイト構造になったものです。
 今回見つかったのは、論文のタイトルのように鉄とアルミニウムを含んだブリッジマナイトでした。以前に見つかったものもマグネシウムも含んでいるのですが、カトール隕石のものは、鉄とマグネシウムの比率も違っています。
 ブリッジマナイトの他にも、メージャライト(majorite)と硫化鉄も一緒に形成されています。鉄(Fe3+)の比率(Fe3+/ΣFe = 0.69 ± 0.08)が共存するメージャライト(0.37 ± 0.10)とは違っているのですが、これは合成実験の結果と一致しています。
 なによりも、アルミニウムを含んでいることが、大きな違いとなっており、新知見となります。アルミニウムを含むことが、どのような意味をもつのでしょうか。次回としましょう。

・大雪・
北海道は先週はじめから、寒波の来襲しました。
各地でも大雪になってのですが、
わが町でも今シーズン、はじめての大雪となりました。
前日に激しい降雪でしたが、翌日は晴れました。
わが町で、はじめて除雪車が入りました。
いよいよ冬本番となりました。
私は完全に厳冬期仕様の装いとなっています。

・前泊・
このエッセイは前週末に予約配信しています。
月曜日に校務があり、
車で出張することになっていました。
先週同じ地域に出張された先生の話しによると
高速道路がアイスバーンになっており
50km/h制限となっていて、夏より1時間以上も、
時間がかかるとのことです。
朝から校務があるので、
急遽、前泊することにしました。
そのため、日曜日の午後からでかけます。
幸い宿も取れたので、時間を使ってしまいますが、
重要な校務を優先することにしました。
卒業研究も一段落したので、のんびりしてきます。

3_207 下部マントルの鉱物 4:ブリッジマナイト

 隕石内の衝突の痕跡で、高温高圧状態の鉱物がみつかりました。以前に見つかっていた同じ鉱物とは、化学的特徴がかなり異なっていました。その違いは何を意味するのでしょうか。


 隕石から、再びブリッジマナイトが見つかったという報告がありました。2021年10月に、PNAS(米国科学アカデミー紀要)に
Natural Fe-bearing Aluminous Bridgmanite in the Katol L6 chondrite
(カトールL6コンドライトから天然の鉄を含むアルミニウム・ブリッジマナイト)
という論文が掲載されました。カトール(Katol)という変成をうけた普通コンドライト(L6に分類されるよく見つかる隕石)から、高温高圧条件でできる鉱物であるブリッジマナイトを発見したという報告です。発見自体は、前回紹介したように、別の2種の隕石から見つかっており、鉱物となり、命名もされました。別の隕石ですが、再度、同じ鉱物を報告するということは、新知見があったからです。鉄を含み、アルミニウムに富むブリッジマナイトというべき特徴を持っていたことが、新しい発見となります。
 カトール隕石でブリッジマナイトが見つかったのは、衝突で岩石がいったん溶けて固まった部分でした。衝撃によって発生した高温高圧条件(約23〜25GPa)で、瞬間的ですが岩石(母天体と隕石)が融けてマグマができ、再度岩石として固まったという場が想定されます。
 最初に見つかったブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)の組成((Mg、Fe)SiO3という構造式)の鉱物が、高温高圧条件でペロブスカイト構造になったものです。
 今回見つかったのは、論文のタイトルのように鉄とアルミニウムを含んだブリッジマナイトでした。以前に見つかったものもマグネシウムも含んでいるのですが、カトール隕石のものは、鉄とマグネシウムの比率も違っています。
 ブリッジマナイトの他にも、メージャライト(majorite)と硫化鉄も一緒に形成されています。鉄(Fe3+)の比率(Fe3+/ΣFe = 0.69 ± 0.08)が共存するメージャライト(0.37 ± 0.10)とは違っているのですが、これは合成実験の結果と一致しています。
 なによりも、アルミニウムを含んでいることが、大きな違いとなっており、新知見となります。アルミニウムを含むことが、どのような意味をもつのでしょうか。次回としましょう。

・大雪・
北海道は先週はじめから、寒波の来襲しました。
各地でも大雪になってのですが、
わが町でも今シーズン、はじめての大雪となりました。
前日に激しい降雪でしたが、翌日は晴れました。
わが町で、はじめて除雪車が入りました。
いよいよ冬本番となりました。
私は完全に厳冬期仕様の装いとなっています。

・前泊・
このエッセイは前週末に予約配信しています。
月曜日に校務があり、
車で出張することになっていました。
先週同じ地域に出張された先生の話しによると
高速道路がアイスバーンになっており
50km/h制限となっていて、夏より1時間以上も、
時間がかかるとのことです。
朝から校務があるので、
急遽、前泊することにしました。
そのため、日曜日の午後からでかけます。
幸い宿も取れたので、時間を使ってしまいますが、
重要な校務を優先することにしました。
卒業研究も一段落したので、のんびりしてきます。

2022年12月8日木曜日

3_206 下部マントルの鉱物 3:隕石内の高温高圧

 合成された結晶は、人工物です。天然物のみが鉱物になります。地下深部の条件の高温高圧で結晶を合成しても、自然界で発見されなければ鉱物とはなりません。そんな高温高圧条件が隕石で発生しています。


 結晶とは、原子が規則的に配列したもので、人工でも天然のものでもすべてを含んでいます。鉱物とは、天然に存在しているものだけをいいます。地球深部の高温高圧条件での合成実験で結晶ができたとしても、天然に存在していることが示されなければなりません。そんな高温高圧実験でしかない結晶も合成されています。そのため、自然界で見つけようという努力はなされています。
 自然界で高圧高温が発生する場として、クレータがあります。火山によるクレータもありますが、ここでは隕石の衝突によってできるクレータのことです。隕石の落下で、一瞬ですが高温高圧が発生します。衝撃による高温高圧の発生は、実験室の合成でも用いられている手法ですが、クレータは大規模に起こったものです。衝突クレータを探すことで、高温高圧でできる結晶が発見され、鉱物と認定されてきたことも何度かありました。
 隕石は、どこから由来するのでしょうか。隕石は、もともとどこかの天体(母天体と呼ばれます)を構成していた岩石が、小天体の衝突によって飛び出したものです。飛び出した岩石のうち、地球の交差する軌道をもったものが、隕石として地球に落下したものです。
 小天体の衝突の規模が大きければ、高温高圧状態が出現するはずです。隕石には、高温高圧の変成作用や衝撃による変形作用が記録されているものも見つかっています。高温高圧条件の履歴を持った隕石を調べれば、天然の高温高圧結晶が見つかるかもしれません。
 マントルの深部の条件での合成実験で、1970年代にはペロブスカイト構造をもった結晶だとわかってきました。その後、1990年代にテンハム隕石とAcfer 040隕石から、結晶が見つかりました。結晶は「ブリッジマナイト」という鉱物名が与えられました。
 ブリッジマナイトは、頑火輝石(エンスタタイト)という鉱物が高圧になってできたものです。頑火輝石は、マントルのカンラン岩の構成鉱物ですが、隕石(普通コンドライトと呼ばれるタイプ)を構成している鉱物でもあります。ですから、変成作用や変形作用を受けた隕石を探せば、見つかる可能性があったのです。
 最近、別の隕石からもブリッジマナイトが見つかったのですが、その鉱物は、以前見つかったものとは少し異なった性質を持っていました。その詳細は次回としましょ。

・サバティカル・
来年4月から半年間、サバティカルで愛媛県に滞在します。
その決定自体は2年前に出ていました。
いよいよその説明会もはじまります。
それに伴って申請書類も
いくつか提出する必要もでてきました。
チケットや引っ越しなども考えなければなりません。
今回は半年で家内も一緒です。
前回は1年で単身でした。
短期間で2名などのなにかと慌ただしくなります。

・寒波・
寒波の訪れで、連日雪となり、
あたり一面、雪になりました。
今まで雪のない冬枯れだったのですが、
一気に白い冬の景色になりました。
連日の寒さで、研究室が冷えています。
服装も靴も厳冬期対応のものにしました。
考えればもう師走ですから、
今年の雪は遅かったことになります。

2022年12月1日木曜日

3_205 下部マントルの鉱物 2:高温高圧実験

 地震波で推定した地球内部の条件を実験装置で作り出すことができます。マントルの岩石を高温高圧状態にすることで、間接的ですが、深部を探る研究が進められています。


 地球内部で浅いマントルを構成する岩石は、造山帯などでカンラン岩が見つかっています。もともとマントルにあった岩石を、直接調べることができます。しかし、マントルの浅いところの岩石しか地上にはありません。マントルはカンラン岩からできていることはわかってきました。
 間接的に調べる方法として、前回紹介したように、地震波を用いると、地球の中心まで探ることができます。その探査から、地球内部の密度や温度分布がわかってきました。マントルの岩石を地球内部の条件にすることで、深部の岩石の状態を再現することができます。このような方法は高温高圧実験と呼びます。
 高温高圧実験には、いくつかの手法があります。隅に切り込みを入れた超硬金属を組み合わせて、隙間に試料を入れて、大きな加圧装置で試料に力がかかるようにして、電熱線で加熱をする技術があります。これは非常の大掛かりな装置となります。2個のダイアモンドの狭い先端を平らにして試料を置き、両側から押すことで加圧し、結晶内をレーザーを通して加熱する技術もあります。これは、コンパクトな装置となります。また、高速で物質を発射した衝撃、あるいは爆発の衝撃波で、瞬間的ですが、高温高圧状態を発生する方法などもあります。いずれも実験室で実施される方法ですが、それぞれ長所短所があります。
 このような高温高圧実験で、地球深部の条件でカンラン岩がどのように結晶に変わっていくかを調べられています。カンラン岩を構成している鉱物は、カンラン石と輝石が主なものですが、高温高圧になるとペロブスカイト構造になることがわかってきました。ペロブスカイト構造とは、灰チタン石(CaTiO3)という鉱物がもつ結晶構造です。非常にコンパクトな構造で、密度が大きくなり、高圧条件で安定な結晶となります。カンラン石や輝石も、高温高圧ではその構造をもつことがわかってきました。
 高温高圧実験で合成された鉱物は、天然に存在するかどうかは不明です。そのため、天然の鉱物が見つかったときに、はじめて正式名称がつけられることになっています。通常の岩石では見つかりそうもありません。どんなところで見つかるでしょうか。次回としましょう。

・師走・
いよいよ師走に入りました。
里にも何度か降雪がありましたが、
積雪にはなかなか至りません。
日毎に暖かい日や寒い日が繰り返されていますが、
少しずつ寒さは募っていきます。
北海道の冬は、雪があるのが、当たり前です。
ですから、一面が白くならないと
冬という実感がなかなかわきません。
本当は一面が白くなると
面倒なこともいろいろ起こってくるのですが。

・卒業研究・
12月上旬が、わが大学では卒業研究の締め切りになっています。
ゼミの学生は、必死になって取り組んでいます。
提出後の1月には発表会があるので
提出が終わっても、気を緩めることなく、
発表準備に入らなくてはなりません。
ゼミでは、年末に発表の予行演習をすることしています。
とりあえず作成しておくことと、
他の人の発表を見ておくことで
修正のための方針が立つはずです。
ラフな発表原稿と方針があれば、
安心して正月が過ごせるでしょう。
そんな親心ですが、伝わるでしょうか。