2020年4月30日木曜日

6_174 月の地質図 1:白と黒の違い

 月の地質図が新たに作成され、公開されました。月は地球とは全く異なった進化をしています。地質図もかなり異なったものになるはずです。月の地質図を紹介してきましょう。

 2020年4月20日に米国地質調査所(United States Geological Survey)は、月の地質図を作成して公表しました。その地図は以下からダウンロードできます。
 この地質図は500万分1の縮尺ですが、大きなサイズの画像もあり、詳細に地質が描かれています。この地質図は、北半球と南半球に分けたもの(丸いかたち)と、メルカトール図法の平面図(横長の四角)で表示がされています。また、地質時代も細かく分けられています。
 ご存知だと思いますが、月は常に地球に同じ面を見せています。これは、月の公転が地球に共鳴しているため、やや重い側を地球に向けるようになっています。地球に向けている側を慣例として表側と呼びましょう。月の裏側の様子は、地球から見ることはできません。ですから、月にいって、裏側に回り込まないと、裏面を見ることができません。
 月の探査機は、米ソの冷戦時代をきっかけ活発になされ、Apollo計画で有人探査がなさました。有人探査も表側での調査でした。しかし、裏側も見ることができました。その後も月の探査は、とぎれとぎれですが、継続しています。
 月の裏側は、表側とは全く異なったものになっていることがわかってきました。表側は、黒っぽいものと白っぽいもので模様ができています。白っぽいところにはクレータが多く、黒っぽいところは少なくなっていました。裏側は白っぽく、多数のクレータがありました。
 Apollo計画で試料が持ち帰られたので、岩石の特徴や形成年代もわかりました。月の表明はすべて火成岩からできており、白っぽいところは形成年代が古く、花崗岩の仲間(長石の多い岩石、アノーソサイトと呼ばれています)でています。また、黒っぽいところは、新しい時代の玄武岩からできていました。新しいとはいっても、35億から30億年ほど前で、白っぽいところは45億年前から数億年ほどでできています。その後は、月のマグマの活動はありません。
 月の表面には砂のようなもの(レゴリスと呼ばれています)で覆われています。これらは地球では堆積物に相当するのですが、月では地球のようなでき方とは異なっています。月には大気も海洋もないので、地球のような風や水による堆積物はできません。
 では、月でどのようにしてレゴリスはできたのでしょうか。次回としましょう。

・WEB講義・
大学でのWEB講義が来週からはじまりますが、
ゼミナールのような講義は、事前にスタートしています。
私は、今週からWEBでテレビ会議システムを使って、
いくつかのゼミナールをはじめることにしています。
このメールマガジンは、テレビ会議システムを
はじめる前に送信しています。
テレビ会議システムでは有名なZoomも試して、
それなり使いやすかったのですが、
大学では別のシステムを、
使うことになっていますので、
私はそれを使うことにしました。
うまくいのでしょうか、少々不安です。
まずは、やってみることでしょう。

・指導者・
新型コロナウイルスの緊急事態宣言は
連休明けに終わるのでしょうか。
感染者の増加率を見ていると、難しそうです。
多分今までの対策のことごとくが、
中途半端だったようです。
やるときは対処に一気に徹底的に進めるべきでしょう。
孫氏の兵法にもそうあります。
緊急事態、非常時に弱い指導者は
問題をより大きくしてしまいますね。

2020年4月23日木曜日

2_182 真核生物の誕生 7:進化モデル

 古細菌から真核生物への進化の鍵を、ロキアーキオータが握っているようです。ロキアーキオータの培養が成功した結果、実態が明らかになってきました。古細菌から真核生物への進化の道筋が見えてきました。

 井町さんたちが培養に成功したロキアーキオータは、MK-D1株と呼ばれていました。では、MK-D1株とは、どんな生物なのでしょうか。培養に成功したために、DNAや形態の特徴などが詳しくわかってきました。
 MK-D1株は、酸素のない環境でしか培養できませんでした。ですから、嫌気性の生物となります。細胞を電子顕微鏡で観察をすると、直径550nmという非常に小さい球形でした。他の古細菌と同様に、単純な細胞であることもわかってきました。ただ、細胞の外に向かって、特異な触手のような長い突起を伸ばしたり、多くの小胞を放出することがあるのもわかりました。
 DNAの解析も進められました。MK-D1株には、真核生物に特有のゲノム(アクチンやユビキチンなどを作るための遺伝子)をいくつも持っていることがわかりました。分子系統樹からみると、原核生物としては、真核生物にもっとも近縁であることもわかってきました。
 MK-D1株と呼ばれるロキアーキオータは、無酸素の環境でしか生きられず、古細菌として単純な細胞内の構造しかもたない生物でありながら、真核生物に似た特徴もいくつも持っています。形態的にも不思議な特徴をもっていました。
 不思議な形態は、増殖が終わったときに現れます。長い触手のような突起を外に伸ばし、小胞を外に出すという、活動をします。これは、他の古細菌やバクテリアではみられない特徴です。では、なんのために、このような不思議な活動をするのでしょうか。
 MK-D1株は、形態の特徴や、古細菌でありながら真核生物のDNAに似ていることなどから、古細菌から真核生物への進化の道筋が推定されています。その進化の仮説は、前に紹介したE3モデル(Entangle-Engulf-Endogenize model)と呼ばれるものでした。その仮説をアニメーションにしたものが公開されています。この動画には、発見から培養の様子もまとめられています。興味ある方は、御覧ください。
https://www.youtube.com/watch?time_continue=18&v=p1Zr4t6Vmtg&feature=emb_logo
 このアニメーションでは、ロキアーキオータの祖先(MK-D1祖先と呼びましょう)は、次のような進化シナリオを紹介します。
 酸素のない時代から、酸素の多い時代になってくると、MK-D1祖先は酸素を利用できるミトコンドリアに触手を伸ばしていきます。MK-D1祖先は栄養をミトコンドリアに供給します。ミトコンドリアは酸素を利用して水素を排出します。硫黄還元菌はその水素を利用してアミノ酸を合成します。そのアミノ酸をMK-D1祖先が利用していきます。ばらばらであると効率が悪いので、MK-D1祖先が放出した小胞がミトコンドリアに付着して、からめてくっつきます(Entangle)。MK-D1祖先から細胞膜が広がり、飲み込み(Engulf)、やがて細胞内に融合していきます(Endogenize)。
 井町さんたちは、「単純な細胞構造を持つ無酸素環境下で生育するアーキア」から「複雑な細胞構造を持ち酸素で呼吸する我々真核生物」へとなっていくという新しい進化のE3モデルを提案しました。
 今後、MK-D1株のより詳しい研究が期待されます。

・緊急事態措置・
日本全土で緊急事態宣言がでました。
北海道も緊急事態措置の対象となりました。
大学でも、健康診断などの一部の行われる予定の行事も
すべて中止になりました。
職員もかなりの割合が在宅勤務となりました。
教員も可能な限り自宅待機となっています。
ただし、私は大学の研究室にこもっています。
会議は仕方がありませんが、
あとは極力、電話やメールですませています。

・学ぶチャンスに・
緊急事態で大学の講義が中止、延期
校務が最小限になっているため、
研究に専念しています。
いいことか悪いことかはわかりませんが、
研究が進みます。
この時期をチャンスに研究や教養、趣味など
今まで時間がなくて、できなかったことに
集中するのがいいのではないでしょうか。
私は研究に専念しながら数学の学び直しをしています。

2020年4月16日木曜日

2_181 真核生物の誕生 6:ロキアーキオータ

 古細菌の中でも深海底の広く分布していて、真核生物に近い種類があることがわかってきました。これまで困難だったその古細菌の培養を、やっと成功しました。その間、12年もかかって実験が試行錯誤されていました。

 ロキアーキオータが、世界中の海底堆積物にかなり広く存在していることは、以前から知られていました。ところが、その実態は不明でした。その理由は、ロキアーキオータだけを取り出して調べることできなかったからです。井町さんは、それにチャレンジしていました。その方法と実態解明には長い年月がかかっています。
 2006年5月、「しんかい6500」で南海トラフのメタン湧出帯(水深2533 m)から採取した深海底堆積物を、実験室で同じ条件で、約2000日間、培養をおこないました。当たり前のことですが、堆積物中には、多様な微生物が混在していることが、確認されました。
 次に、微生物群からバクテリアを除いていって、残った生物群を培養していきました。1年後に、少数の古細菌のロキアーキオータとその他数種類の微生物だけの状態にできました。次に、培養の物質や条件を整えながら、ロキアーキオータのみを抽出するという実験を続けました。最終的に、ロキアーキオータと、もうひとつの古細菌の2種が共生している(共培養系と呼ばれています)状態にまで、分離することに成功しました。それは、2018年のことでした。深海生物採取から12年もかけて、やっと成功したのです。この古細菌は、Prometheoarchaeum syntrophicum MK-D1株と名付けれました。
 ロキアーキオータ培養が難しかったのは、増殖の速度が非常に遅いことと、細胞のがあまり密集していては増殖できないためでした。増殖の速度とは、細胞が倍になる時間で比べられるのですが、実験によく用いれる大腸菌と比べると1000分の1の速度(ロキアーキオータの倍加時間は14日から25日)しかありませんでした。また、細胞ができるだけ密集させて培養する方が効率がいいのですが、あまり密集すると増殖速度が遅くなることもあります。増殖するもっとも多い密度を「最大細胞密度」といいます。ロキアーキオータの最大細胞密度も、大腸菌と比べて1000分の1程度(~10万 個/ml)の遅いものでした。
 さらに、ロキアーキオータは、単独では生きられず、別の生物との共生によってしが生きることができない生物でした。共生していた生物は、メタン生成古細菌(Methanogenium属と呼ばれる仲間)でした。
 ロキアーキオータは、ゆっくりと、少しずつしか増えず、密集もしない、ある種とのみ共生しないと繁殖できないという、非常に特殊な生き方をしている生物でした。そのため、非常に培養が難しかったのです。この困難を克服して井町さん、ロキアーキオータの培養に成功したのです。
 では、ロキアーキオータとは、どんな生物だったのでしょうか。次回としましょう。

・札幌休校・
北海道と札幌市では
先週に新型コロナウイルスの感染者の急増で
再度、札幌市内の小・中・高校の休校が決まりました。
再度一月ほどの休校になります。
授業の遅れもさることながら、
児童たちの心のケアは大丈夫でしょうか。
特に、新入生や今年度卒業予定で受験がある
児童生徒は非常に不安だと思います。
大学も同様です。
新入生へのケアが十分できないので心配です。

・マスク不足・
マスクが不足しています。
幸い我が家はまだ数枚買い置きがあります。
それを予備に保存することにして、
古いものを洗っては使いまわししています。
不織布で丈夫なので、なんとからなっています。
でも、ガーゼや布マスクは本当に有効なのでしょうか。
配布するなら、その費用と
国を挙げての増産を願いたいものです。
布もいいのですが、効果からいえば、
不織布にしてほしかったですね。

2020年4月9日木曜日

2_180 真核生物の誕生 5:メタゲノム解析

 新型コロナウイルスで利用されているPCR装置は、生物の進化の探求でも活躍しています。PCR検査では、一つの種類にしてDNAを調べるのが理想なのですが、できない時でもメタゲノム解析として利用されています。

 古細菌のロキアーキオータは、2015年にスウェーデンの研究グループが、生物学的な重要性を示しました。研究グループは、深海堆積物に生息する古細菌群の存在をゲノム解析で見つけました。ただし、このゲノム解析は、通常のゲノム(遺伝子)解析ではなく、メタゲノム解析と呼ばれるものでした。
 通常のゲノム解析は、目的の生物だけを集めて、そこからDNAを取り出して分析して解析していきます。生物の数が少ないときは、集められるDNAの量も少ないのですが、一定の手順でDNAを増殖させてから検出します。新型コロナウイルスで話題になったPCR(polymerase chain reaction)装置が利用されています。PCRはポリメラーゼ連鎖反応のことで、DNAの特定の領域を増殖(100万から数10億倍)させていくことです。PCR装置では、自動で増殖して解析していく装置になります。
 ただし、PCR検査をするためには、目的の生物だけに分離してから、DNAを抽出していかなければなりません。つまり、目的の生物だけを一定量集めておかなければなりません。もし目的の生物だけを分離できないときは、DNA解析をしても、雑多な生物のDNAのを読み取ってしまいます。それがメタゲノム解析という方法です。
 メタゲノム解析は、生物が分離できない場合に利用される方法です。解析の結果から、ある生物に特有のDNAをが見つかれば、その生物がいることが特定できます。例えば、特定の代謝機能を担っているDNAを調べることで、そのような代謝をする生物がいるかどうかを、探すことができます。
 深海堆積物からロキアーキオータの仲間を集めて、メタゲノム解析をしました。ただし、このとき単一の生物種かどうかは不明のままでの分析だったので、メタゲノム解析です。ロキアーキオータ群から、真核生物に特有とされてきたゲノム(遺伝子)が多数見つかりました。他のロキアーキオータに類似している古細菌にも、似た性質をもっているものがあることがわかりました。これらの真核生物に似た古細菌類を、ひとつにまとめにして(上門という区分になる)、「アスガルド上門」に区分しました。さらに彼らの研究では、アスガルドの仲間がもっとも真核生物の起源に近い古細菌であることもわかってきました。ところが、細胞の様子、生活の状態、生存の環境・条件などの実態は、まだ全くわかっていませんでした。
 実態の解明には、アスガルド上門に属するいずれかの古細菌を、実験室でひとつに種として培養して、詳細に調べる必要がありました。この培養が、真核生物への進化において、重要な課題になると世界的に大きく期待されていました。
 そこで登場するのが、井町さんの研究成果です。次回としましょう。


・WEB授業・
大学は4月一杯は休校となり
5月もWEBでの授業になります。
教職員は混乱しています。
どのようにして授業をすればいいのか、
それは教員一人のスキルでできることなのか。
全学生が同等に受講できるか
などなど、いろいろな疑問もあります。
今週から講習会がありますので、
それに参加してから、どうするかを
考えていきたいと思っています。

・調査費・
学内の競争的資金が採択されたのですが、
申請内容は調査費がメインでした。
本州が2回、道内が数回という調査予定でした。
ゴールデンウィークと5月に調査予定を入れていました。
それが、今回、出張が禁止となりました。
野外調査を中止せざる得ませんでした。
そのため研究費の執行の内容を
変更しなければなりません。
それを関係者と相談していきたいと考えています。

2020年4月2日木曜日

2_179 真核生物の誕生 4:2つの偶然

 その古細菌の発見は、10年以上も前のことでした。その古細菌が、真核生物への進化を解明するために、重要であることがわかったのは、ほんの少し前でした。時間差を乗り越えて、やっと謎解きをはじめることできました。

 前回紹介したように、ドメイン同士の関係は、分子生物学的手法からわかってきました。古細菌は原核(DNAが細胞内に散らばっている)なのですが、細菌(原核生物)よりも、真核生物に似ていました。そこから、進化の過程として考えると、まず細菌と古細菌が生まれ、その後古細菌から真核生物が生まれたと推定されました。
 生物進化に関するこのような考え方を、”Entangle-Engulf-Endogenize  model”、Eが3つ並ぶので、E3モデルと略されて呼ばれています。"Entangle"は「巻き込む、からませる」という意味で、"Engulf"は「吸い込む、飲み込む、(巻き込む)」、"Endogenize"は「内生の、内部に生じる」という意味があります。つまり、他の生物を、いろいろな方法で、自身の細胞内部に取り込むことで進化してきたというモデルになります。
 問題は、現在生きている生物から、古細菌と真核生物と中間的な性質をもったいるものを見つかるかどうかです。
 そんな時、2つの偶然が重なり、実態が解明が一気に進みました。
 まず、今回紹介している論文の著者の井町さんが、先行してある特殊な古細菌を採取して研究をしていたこと、それからかなり遅れて別の国の研究グループがその古細菌のグループがもっとも真核生物に近いことを示したこと、です。
 その真核生物に近い古細菌のグループは、ロキアーキオータと呼ばれています。ロキアーキオータを調べていけば、古細菌から真核生物への進化の過程が明らかにできます。このロキアーキオータを調べるのが、非常に難しかったのです。
 今回の報告では、やっとその生物を調べることができて、謎の解明がはじまったという報告でした。なんと、その古生物を調べる条件を整えるに、井町さんは12年もかけました。大変な労力をかけられた研究でした。
 次回から、まずはロキアーキオータの生物学的位置づけにから、見ていきましょう。

・新年度・
新年度になりました。
大学も入構禁止がとけましたが、
まだ、慎重な対応をとっています。
入学式も中止、新入生や在学生へのガイダンスも
最小限しかしないことになっています。
本来なら、新入生は、楽しく期待に満ちた日が
はじるはずだったのですが。
静かな、新年度の幕開けとなりました。

・集中講義・
3月上旬におこなうべき集中講義を
3月末におこなうことになりました。
いろいろと注意をしながらの開催でした。
時間割も、ぎりぎりに詰めておこなっています。
この時期にしなければ、
新年度に間に合わせることがでてきません。
ぎりぎりの対応となりました。