2020年8月27日木曜日

1_183 チクシュルブの衝突 4:シミュレーション

 K-Pg境界の隕石衝突でできたクレータを、シミュレーションで再現したら、衝突の様子が復元できました。わかっていたことですが、シミュレーションで検証でき、新しい可能性もでてきました。

 これまで、K-Pg境界の大絶滅の原因について、20年以上に渡って論争され隕石衝突であることが決着をみました。その結論は、2010年には集大成されました。かといって、衝突現象のすべてがわかっていたわけはなく、詳細がわからないことも色々ありました。
 そのひとつとして、隕石の衝突した軌道については、よくわかっていませんでした。そこで、いよいよ論文の内容の紹介となります。コリンズ(Collins)たちの共同研究で、2020年5月のサイエンス誌の公開されました。そのタイトルは、
A steeply-inclined trajectory for the Chicxulub impact
(チクシュルブ衝突の急角度の軌跡)
というものでした。
 チクシュルブの衝突でできたクレータの地下構造からわかっていることを整理してきます。衝突当時のチクシュルブは、海に面し、そこには石灰層が堆積しているような浅海でした。衝突により、直径約200km、深さ15から25kmの巨大なクレータがユカタン半島と海底にできていることがわかってきました。衝突による放出物は、対称な形で飛び散っているのですが、クレータの構造は非対称になっています。このことから、隕石が、北東方向から斜めに突入した衝突であったことがわかります。
 コリンズたちは、この斜め衝突を3次元でのシミュレーションで再現していきました。隕石の直径を17km、衝突速度を12km/秒という初期条件を設定しました。衝突の角度を地表に対して90度、60度、45度、30度で変化させてシミュレーションしました。クレータの形状と放出物の分布を、衝突のシミュレーションで再現できるか確かめました。
 その結果、90度と30度では合わず、45度~60度の角度で衝突したとすれば、クレータの構造をうまく説明できることがわかりました。この衝突の角度ならば、放出物が対称に散らばることも説明できました。さらに、ガス放出量も最も多いこともわかりました。この結果は、K-Pg境界で起こった現象を考えるときに重要な情報、あるいは束縛条件になるはずです。
 結論としては、当たり前のことになりましたが、いろいろな手法での検証は必要でしょう。今回のエッセイでは紹介をはぶきましたが、カリブ海からメキシコ湾沿岸には、高さ300mもの巨大な津波による堆積物も確認されています。また、世界各地でイリジウム以外にも衝突の痕跡がみつかっています。衝突から、全地球に及ぶ現象のシナリオを、考えることが課題となりそうです。多分さまざまな現象の連鎖になっているはずです。海でも、陸でも大絶滅が起こっているのですから。

・出張・
先週、校務で久しぶりに市外に出張することになりました。
2日間、別のところにいきました。
1日目は、自家用車で近隣の街へでかけました。
車の運転も久しぶりになりました。
2日目は、大学の公用バスで旭川へとでかけました。
長距離移動も久しぶりで、なんとなくワクワクしました。
今週は計画有給をとることになっていますので
一日、家内と山へドライブに出かける予定です。

・PC更新・
8月になって、メインで使用しているデスクトップパソコンが
突然、立ち上がらなくなりました。
3年間しか使っていません。
その時も破損によって更新しました。
どうも最近パソコンの破損が繰り返されます。
そのため、新しいパソコンが、急遽、必要になりました。
研究費を工面して、とりあえず購入することにしました。
5月に自宅のパソコン環境を5年ぶりに新しくしたところで、
再度、多くのソフト、データのセットアップが必要になります。
できれば、前のパソコンで使用していた
SSDとHD、メモリを増設したいのですが、
小さすぎて入れるスロットがありませんでした。
グラフィックカードはいれましたが、残念です。

2020年8月20日木曜日

1_182 チクシュルブの衝突 3:衝突説へ

 K-Pg境界の事件が、隕石衝突説として決着するまで、多数の反論がでてきました。その多くは地質学者からのものでした。しかし、隕石衝突説を支持する証拠も、地質学者が提示しています。

 ルイスらは、K-Pg境界にある薄い層だけにイリジウムが濃集している、という測定結果から、推測を進めていきました。
 K-Pg境界の事件は、生物の大絶滅を起こしていますから、隕石衝突の影響は地球全体に広がっていたと考えられます。その前提から、イタリアのグッビオのK-Pg境界の地層の濃度から、イリジウムが全地球に分布するために必要なイリジュウムの全量が推定していきます。隕石のイリジウムの平均的な濃度から、全地球にイリジウムを衝突でばらまくには、どれくらいの量が必要か推定できます。その結果、直径10kmとなりました。
 K-Pg境界の地層が、グッビオ一箇所だけでは、説得力がありません。デンマークのスティーブン・クリント(Stevns Klint)海岸の崖にも、K-Pg境界の地層が分布していました。そこからも試料を入手して、放射化分析しました。すると、やはりイリジウムの濃集が見つかりました。その濃度を用いて隕石の大きさを推定したら、直径が約6kmとなりました。
 このような証拠と推定からの結論を、1980年に論文にして報告しました。その論文は、大きな反対にあいました。なぜなら、隕石衝突による大絶滅は、このシリーズの最初に書いた、激変説の再来だったからです。
 反対論者も、イリジウムの濃集という現象を説滅する必要があります。その由来を地球内の現象に求めました。候補として、その時代に活動した巨大な火山として、インドのデカン高原の火山噴火(デカン・トラップと呼ばれている)が上がりました。そこでもイリジウムの濃集は見つかっています。火山活動は、K-Pg境界の時代より100万年前から始まり、その後も100万年間続いています。地球全体で大絶滅を起こすには、十分な規模と期間でした。
 ところが、その火山活動中も、恐竜が生き延びていたこと(恐竜の卵化石の発見)が、後にわかってきました。ですから、かなり巨大の火山噴火でも生物種を絶滅させることは難しいことになります。また、デカン・トラップの火山では、他の元素(クロムやニッケル)の濃集もありました。ところが、他のK-Pg境界では、そのような元素の濃集はありませんでした。大絶滅の原因として火山説には、不都合な証拠が見つかってきました。
 隕石衝突説の論理は明快で、他地域でもK-Pg境界があれば、さまざまな検証作業ができます。激変説に賛同した人(あるいは反対した人も)は、隕石衝突のさまざまな証拠(反対論者は隕石ではない証拠)を探していきました。その結果、スス(大火災の証拠)、衝突石英(激しい衝撃を受けた石英に現れる構造)、巨大津波の堆積物(海での衝突で発生)など、いろいろと衝突の証拠が、世界中のK-Pg境界で見つかってきました。そしてとうとう、隕石の衝突現場も、メキシコのユカタン半島付近のチクシュルブであることが、突き止めされました。
 そして、2010年には、各分野の研究者40数名の共著論文が、アメリカの科学雑誌サイエンス誌に掲載され、隕石衝突がK-Pg境界の大絶滅を起こした、と結論づけられました。この論文をもって、K-Pg境界の大絶滅は隕石衝突で一応の決着をみたことになります。
 さて、いよいよ次回からは、衝突クレーター、チクシュルブの実態についての最新の話題へと入ってきましょう。

・チョーク・
デンマークのスティーブン・クリントは訪れたことがあります。
地元の人には、なんの変哲もない海岸なのでしょうが、
日本から来たものにとっては、興味深い海岸でした。
海岸の崖は、白亜からできていました。
白亜とは「チョーク」のことです。
もともとチョークは海のプラントンの遺骸の集積で
殻は炭酸カルシウムからできています。
この地には、駐車場がありましたが、
小さなレストランと小さな博物館があるだけでした。
一応、観光地だったようですが、
多分観光のメインは海水浴場のようでした。
とことが大きな石ころだらけで
日本の海水浴場の海岸とはかなり違っていました。

・日本のK-Pg境界・
日本でもK-Pg境界の地層が見つかっています。
北海道の十勝郡浦幌町の川流布(かわるっぷ)川の支流の
河岸の小さな露頭に、
5から10cmほどの薄い粘土層としてあります。
いったことはないのですので、
写真で見る限り、よくこの地で見つかったな
と思えるような小さい露頭です。
変形して曲がっているので、
衝突を想像させる露頭ではなさそうです。
よく、K-Pg境界だと判定できなと思います。

2020年8月13日木曜日

1_181 チクシュルブの衝突 2:イリジウム

 K-Pg境界の大絶滅は、隕石の衝突であることがわかってきました。そこには、物理学者の父と地質学者の息子がかかわっていました。両者の専門が組み合わさることで、はじめて謎が解明されました。

 K-Pg境界(中生代と新生代の時代境界)で起こった大絶滅事件は、どのようにして提唱され、検証されたのか、概要をみていきましょう。
 大絶滅の原因解明には、アメリカの物理学者ルイス・アルバレス(Luis W. Alvarez)が、大きくかかわっています。ルイスは、素粒子の挙動を調べるために、水素泡箱と呼ばれる装置を利用して素粒子の研究をしたり、さまざま独創的な物理実験のための装置を開発しました。素粒子学への貢献によってノーベル物理学賞を受賞しています。
 このルイスが、恐竜絶滅とどういう関係があるのでしょうか。それは、放射化分析という装置と方法をルイスが使えたからです。原子炉や加速器などで、中性子や荷電粒子を試料に照射すると核反応によって、成分の元素(核種)が放射化(放射能を持つ状態になる)され、短い時間の放射線(ガンマー線)を放出して安定な元素(核種)に変わります。この時、ガンマー線のスペクトル解析をすると、その元素のガンマー線強度が測定できます。同時に放射化した濃度がわかっている試料(標準試料)と、強度を比較することで、濃度を測定することができます。この方法は、微量は成分の検出に非常に適しています。
 ではなぜ、K-Pg境界に適用しようとしたのでしょうか。それは、ルイスの息子のウォルター(Walter Alvarez)が地質学者であったことと関係しています。ウォルターは、イタリアの昔の地中海で堆積した地層で、古地磁気学の研究をしていました。磁気の反転の繰り返しから、古地磁気から年代を推定する方法を確立したことで、過去1億年間の年代の同定が可能になりました。調査地のイタリアのグッビオに、K-Pg境界の地層が連続して分布していまました。
 グッビオの境界をまたいで、ウォルターが連続的に試料を採取しました。その試料をルイスが放射化分析をしました。親子の関係だけでなく、両者の専門とする地質学と物理学(放射線分析学)が、この時結びつきました。
 分析の結果、K-Pg境界の薄い粘土層からだけ、イリジウム(Ir)という元素が、他の地層の20倍から160倍の高濃度になっていました。イリジウムは、白金(Pt)グループに属する元素で、地表の岩石にはほとんど含まれない元素です。
 地表で見つかったとしても、地下深部で形成された深成岩か特異な火山岩にしか見つからない成分です。グッビオの地層は、石灰岩なので堆積岩です。イリジウムの濃集は、堆積作用では考えられません。そのため、グッビオのイリジウムの由来は、隕石だと考えられました。
 そこから、ルイスの想像力が広がります。その内容は、次回としましょう。

・前期の最後に・
今週でわが大学は、遠隔授業が終わります。
日程的に定期試験ができませんので、
定期試験以外での評価法で
成績を判断していくことになります。
ゼミや少人数の講義では、
名前と顔が一致しているので
受講態度なども把握できます。
大人数の講義での評価は、悩ましいところです。
でも、していくしかありません。

・集中講義・
前期の講義が終わったらすぐに、
夏の集中講義がはじまります。
これも遠隔授業となります。
リモートでのライブ講義もできますで、
先週からその構成を考えているのですが、
どうすればいいのか、まだ悩んでいます。
以前は前期におこなっていた講義なのですが、
新しい講義が入ってきたので、
この講義を集中講義として
再構成しておこなう予定で組み替えていました。
そこに遠隔授業となりました。
再度、講義の組み換えとなります。
短い準備期間で、多大な労力を使わなくてはなりません。
かなり辛い作業となります。

2020年8月6日木曜日

1_180 チクシュルブの衝突 1:激変説

 白亜紀と古第三紀の時代境界で大絶滅がありました。その絶滅は、隕石の衝突によるものでした。その衝突に関する新しい成果が報告されました。その論文を紹介する前に、大絶滅に関する歴史的な説明からはじめましょう。

 白亜紀末に起こった恐竜の大絶滅が、隕石の衝突が原因であるという説は、かなり普及してきました。白亜紀末と古第三紀の時代境界なので、時代名の頭文字をとってK-Pg境界と呼ばれます。この大絶滅は、恐竜だけなく、多くの生物種が絶滅しています。
 大絶滅の原因が、当初は隕石衝突であることは、なかなか受け入れられませんでした。それは隕石衝突という現象が、天変地異という激変説に相当するためでした。認められるまで、激しい議論も起こりました。
 激しい議論が起こった背景のひとつには、西洋世界特有の宗教的理由もありました。かつて、西洋ではキリスト教が支配的な時代が長く続いていました。科学も、科学者も当然、宗教の影響を強く受けていました。そのため、聖書に描かれたノアの洪水のような激変によって、生物の絶滅が起こったと考えられていました。しかし、科学の発展によって、証拠や検証にもどつく論理体系が整ってきました。その結果、激変説は証拠の欠如によって否定されてきました。
 そのかわりに、斉一説が主流となりました。斉一説とは、現在起こっている現象は、過去にも同じように起こっていたという考えです。大絶滅も、現在起こっている現象や原因で、説明できるはずだと考えられていました。斉一説は、現在でも有力な考え方で、過去を探るためには、重要な考え方でもあります。
 西洋世界では、科学が宗教の呪縛を逃れるのに、長い時間と葛藤を要しました。そのため、西洋の科学者には、激変説へのアレルギーのようなものがあり、斉一説の重視の考え方があるのかもしれません。
 生物の絶滅は、大きな気候変動や生存競争など、現在でも起こりうる現象や原因によって起こるものだと考えられていました。現在にも見られる現象や原因を解明できれば、過去の地層や岩石でそのような現象を見つければ、斉一説に基づき、大絶滅の原因を解明できます。
 研究の進展により、大絶滅事件も何度かあったことが、化石の証拠からわかってきました。斉一説の積み重ねで、説明可能になります。K-Pg境界の恐竜絶滅も、他の大絶滅の原因のいずれかになっていました。
 そんなところに、隕石の衝突による大絶滅が復活して登場しきました。洪水ではありませんが、天変地異説の再来、激変説が再度登場してきことになります。西洋の科学者は、心穏やかではありませんでした。その上、その説を提唱したのが、地質学者ではなく、物理学者だったことも、反論が起こった原因でもありました。
 では、隕石衝突説は、どのような証拠をもとに、提唱されてきたのでしょうか。次回としましょう。

・前期の集中講義・
今年の我が大学の前期の講義は、
来週まで続きます。
祝日も関係なく授業がおこなわれます。
それでも、前期分の授業日数を確保するために
お盆も祝日も返上になります。
また、翌週の17日からは、
前期の集中講義がはじまります。
私も1つ担当があるので、
その準備もしなければなりません。
新たにリモート用の授業を、
つくらなければなりません。
15回分を一気に再構成していかなければなりませんので
なかなか大変です。

・蒸し暑い日・
今年の夏の北海道では、
涼しい日が続いています。
ただし、天候が不順で、
日照時間も雨も少ないようです。
農家が困っているのではないでしょうか。
ここ数日蒸し暑い日が少し続いています。
しかし、夜は涼しいので、
窓を閉めなければなりませんが。