2019年8月29日木曜日

3_181 北磁極の移動 2:探査と特徴と

 北とはいっても、地理上の北極点とは違った定義の北磁極もあります。北磁極がどの位置にあるのかは、探検家たちが探査しています。北磁極には、不思議な特徴があります。

 そもそも地図の北(真北)は、どのようにして決められているのでしょうか。地図の北は、地球の自転軸をもとにして決められています。自転軸の北の端は「北極点」となります。経線が集まっている北の点です。北になればなるほど経線が集まっていくため、地図では同じ数値の緯度と経度で囲まれた部分であっても、経度が異なると面積が変わってきます。
 磁石が示す北(磁北)から決まる北極(北磁極)もあります。北極点と北磁極とがずれていることは、前回紹介しました。日本での真北と磁北のずれは、せいぜい数度から10度ほどの違いですが、北磁極に近づくにつれて、その変化は場所により大きくなります。もし、北極点と北磁極の間にいたとすると、磁北は、地図の南側を向いてしまうことになります。
 北磁極がどこにあるかは、コンパスを持って調べればわかりますが、地理的に正確な位置を知る必要があります。磁北の場所を探すのは、探検家たちの仕事でした。最初の探検は、ジェイムズ・ロスたちの探検隊(叔父のジョン・ロスの探検隊の一部)でした。1831年6月1日に、北磁極に到達しました。次は、探検家のロアルド・アムンゼンが、1903年に北磁極に到達しました。南磁極も探検家たちが探査し、1907年、イギリスの南極探検隊のダグラス・モーソンたちのチームが到達しています。
 北磁極は、現在、カナダの北方、クィーンエリザベス諸島のエルズミーア島の西の北極海にあります。現在は北極海にありますが、1900年頃には、カナダ本土のすぐ北のキングウィリアムス島にありました。ということは、北磁極が移動していることになります。南磁極は、南極大陸のウィルクスランド沖インド洋にあり、やはり移動しています。
 北磁極と南磁極を結ぶ線は、地球の中心を通っていません。これは、少々不思議なことに思えます。なぜなら、方位磁針のともとなる磁石には、N極とS極は正反対にあります。地球の磁極も大きな磁石なっているので、地球上の正反対の位置(対蹠地 たいしょち)にあるべきなので、それがないということになります。
 それはなぜでしょうか。次回以降としましょう。

・野外調査・
8月26日から9月2日まで野外調査に出ています。
予約送信しています。
ことしは例年より1、2週間早めの調査です。
少々暑さが気になります。
また腰痛にも注意しなければなりません。
また、9月上旬に京都への帰省と
学生の実習指導も入っていますので
この時期になりました。
いろいろな日程調整もあって、
このまだ残暑の時期になりました。

・アムンゼン・
ロアルド・アムンゼンは、ノルウェーの探検家です。
アメリカの北を回って大西洋から太平洋へ
航海(北西航路横断航海)に、はじめて成功しました。
次に北極点をめざしましたが、
ロバート・ピアリーに先をこされました。
その後、南極点に目標を定め、
ロバート・スコットと南極点への到達を競い
初めて南極点への到達しました。
その後、飛行船で北極点へ到達して、
初めて両極点への到達を果たしことになりました。

2019年8月22日木曜日

3_180 北磁極の移動 1:ノースアップ

 地図は上が北になっていることは、学校で習いました。上が北は地図の基本です。この規則は必ずしも全てに適用されているわけではありません。スマホやカーナビでは、自分の向かう方向が、上になっています。

 学校で習ったように、地図では上が北に描かれています。しかし、街の案内図などでは、上が北でない地図もよく見かけます。紙の地図を持ち歩きながら、野外調査をしてきたものにとっては、北が上ではない地図には、違和感をもってしまいます。最近は、スマートフォーンでの道案内の地図や、カーナビの地図でも、デフォルトでは進行方向が上(ヘッディングアップといいます)になっています。もちろん、設定を変えれば上を北にする(ノースアップ)ことができますが。
 カーナビをノースアップにしても、すぐにヘッディングアップもどってしまいます。目的地をカーナビの地図で探すときにはノースアップにしますが、ナビになると自動でヘッディングアップに戻ります。確かに、南に向かったり、複雑な分かれ道などを進むときには、ヘッディングアップはわかりやすく便利です。
 ヘッディングアップのいい点は、コース取り、ルートがわかりやすい点でしょう。しかし、全体としてどのようなルールをたどってきたのかや、地点の位置関係や土地勘が作りにくくなる、という欠点もあるように思います。ノースアップにこだわっている人は、今でも見かけます。そんな人は多分、昔ながらの地図を用いていた習慣が今でもあったり、土地勘を重視している人ではないでしょうか。
 地質調査をしているとき、地層面の方位を正確に測定しておく必要があります。そのための道具として、方位磁針と目盛り(度数線)の入ったリング(ベゼル)もしくは文字盤があるコンパス(地質調査ではクリノメーターを使用)を用いていました。コンパスがあれば、方位磁針の指す北の方向と度数線から、地層面の方位が数値として読み取れます。
 コンパスから読み取った方位は、磁石の北(磁北)からのズレを数値にしたものです。一方、地図も北極(真北)を北にして作成されています。地図の北極と、磁石が示す磁北が、一致していれば問題はありませんが、少々ずれています。
 地図にコンパスから読み取った値を示すときには、注意が必要になります。国土地理院の2015年のデータでは、北海道では西に9度から10度ずれています(西偏といいます)。本州にいくにしたがって値は小さくなり、沖縄では4度から5度になります。コンパスで読み取った方位データを地図に示すとき、磁北のデータなので、西偏分を考慮して示す必要があります。
 では、そもそも地図の北極は、どのように決められたのでしょう。また、磁石の北極とは、なぜ、ずれているのでしょうか。次回にしましょう。

・クリノメーター・
地質調査ではクリノメーターを使用します。
クリノメーターにはコンパスも内蔵されています。
クリノメーターの度数線は、読み取り数値が
そのまま欲しい数値にするため、
南北で線対象の表記になっています。
そのため、コンパスとして用いるときは注意が必要になります。
クリノとは「傾き」という意味ですから
クリノメーターは傾斜計という意味です。
地層の方位と傾きの両方を調べるためのものです。
コンパスとその軸に自由に動く針がついています。
コンパスを傾斜面に立てると
その針で傾きを読み取ることができました。

・道具の変遷・
クリノメーターも進化しています。
私が地質調査を始めたときは、
木の台の中にコンパスと傾斜計が
内蔵されているシンプルなものでした。
その後、金属製のものが普及しました。
私の恩師は、もっとコンパス部が3軸で自由に動く
複雑な構造で高級なユニバーサルコンパスを使っていました。
ある時、もう自分は調査をしないからと、私に譲ってくれました。
それは、今でも手元に持っています。
デジタルクリノメーターというものがあり、
測定値がGPSでの位置とメモリーに記録できます。
一度利用してそのための調査したのですが、
その成果を報告することなく終わってしまいました。
今では、GeoClinoというスマホ用のソフがあります。

2019年8月15日木曜日

1_175 日本最古の岩石 7:小さな露頭の大きな意義

 今回見つかった最古の岩石は、小さな露頭からだったのですが、その意義は大きいです。原日本が、いつ、どこにあったのかを探る証拠になります。しかし、その解釈は今後も議論を続けていく必要があるでしょう。

 舞鶴帯は、西南日本内帯にありますが、最も大陸側ではありません。前に説明したように、造山帯はナップやクリッペという構造をもっているので、形成時期のより古いものが、海側や上盤側に存在しても、おかしくありません。古い岩石が、もともとどのような造山帯に属していたのかを、慎重に判別する必要があります。
 今回の見つかった岩石が、舞鶴帯に属すると判明したのは、共著者の一人である早坂さんの一連の調査研究に基づいています。岩石が見つかったところは、島根県津和野地域です。早坂さんは、これまで、岡山県北部の津山市久留米地域で4億9000万~3億年前の花崗岩を含む岩体を発見し、それが舞鶴帯(舞鶴帯北帯)に属することを示してきました。似た花崗岩類は、それより西(広島県福山市の北部や吉和地域)でも見つかったのですが、それら夜久野オフィオライトに属すると年代から判断されました。これまで岡山県北部の以西からはら夜久野オフィオライトの岩石だったのですが、津和野の位置は、広島県福山市よりさらに西になります。今回の岩石の年代は、夜久野オフィオライトより古いので、舞鶴帯北帯に属すると判断されました。つまり舞鶴帯北帯はとぎれとぎれですが、もっと西にまで分布していたことになります。
 西南日本の飛騨-隠岐帯の隠岐変成岩の中には、18.5億年前の花崗質の変成岩が見つかっています。今回見つかった岩石は、同じような変成年代でしたが、もっと古い火成年代をもっていました。また、広い大陸に由来する堆積岩もあることもわかっています。その結果、岩石があった場の岩石構成や形成環境がわかるようになりました。
 一般に、原日本の岩石は、南中国地塊と縫合帯(北と南中国地塊の間)にあったものから構成されていたと考えられています。日本最古の岩石(岩体)を発見したという論文では、年代から北中国の地塊に所属していたと報告されています。しかし、北中国地塊や南中国地塊の年代データがまだそろっていないので、今後の研究が必要になります。
 今回見つかった岩石は、小さな露頭だったのですが、実物の証拠をもって古い時代のことが推定できたのは、重要な成果となります。もし、その所属が明らかになれば、断片化していない大陸の地塊を調べることで、より詳しい原日本の様子を知ることができます。もしこれが北中国地塊であれば、大陸の岩石を詳しく調べ比較することで、検証できるかもしれませんね。

・お盆・
お盆の里帰りをされているでしょか。
最近は、分散してお盆休みとして
夏休みをとることにしているところもあるようです。
うちの大学の職員もそのようにして休暇をとっているようです。
大学の建物も、お盆休みには閉鎖されています。
しかし、私はいつものように大学に来います。
名簿に記載すれば入館できます。
ですから、いつものように研究室で仕事をしています。

・北海道の涼しさ・
台風から温帯低気圧に変わったものが
北海道を通って以来、一気に涼しくなりました。
それまで10日ほど暑かったので
ぐったりと弱っていたのですが、
この涼しさでホッと一息つけました。
実家の母は、京都に在住なので、
毎日暑い暑いとぼやいています。
高齢ですから、エアコンや扇風機を使って
なんとから凌いでもらいたいものです。
私は本州の暑さが大変なので北海道に住んでいます。
子どもたちの暑い関西在住なので
暑さにへばっているのでしょうか。

2019年8月8日木曜日

1_174 日本最古の岩石 6:原日本

 古い年代を示した岩石の種類と、その起源をみていきます。日本列島を構成していた、古い時代の様子を推定することができます。原日本の姿を、今回の報告から、垣間見ることができそうです。

 今回見つかった最古の岩石は、25億年前にマグマが固まった花崗岩ができ、18.3億年前に変成作用を受けて花崗片麻岩になりました。花崗片麻岩は、25億年前にできた大陸地殻の存在を示しています。また、石英砂岩中の砕屑性ジルコンは、火成年代が24.8億年前より古いジルコンだけを含んでいました。花崗岩と似た年代を示した石英砂岩のジルコンには、別の地質学的意味もありました。
 石英砂岩とは、大陸内や大陸に由来する河川の河口にできる岩石です。大陸の花崗岩類やその変成岩が、長い時間かけて侵食されることで、石英以外の鉱物がなくなってしまい、最終的に残った石英だけが集まって固まった堆積岩です。このような堆積岩は、現在の広い大陸の内陸部や、大陸を流れる大河の河口などで形成されていることがわかっています。
 花崗片麻岩を含む広い大陸と、それが侵食されてできた石英砂岩が発見されました。25億年前には古い岩石からできた大きな大陸があったことが、明らかになりました。この大陸は、安定地塊(クラトン)と周辺の堆積岩を構成していたと推定できます。堆積岩中のジルコン粒子という一見間接的な情報ですが、そこから複雑な履歴が読み取れました。
 この時代は、日本列島や日本海ができるずっと前で、古い大陸地塊での物語となります。現在の日本列島の岩石になったと考えられるものは、「原日本」と呼ばれています。
 原日本には、大きく分けると、北中国(中朝とも)地塊と南中国地塊がありました。その間には、この2つの大陸が衝突してきた造山帯が形成されました。両大陸は古生代(2億3000万年前頃)に衝突しています。その衝突帯は、秦嶺-大別山ー蘇魯縫合帯と呼ばれています。
 北中国地塊は19億~20億年前の大陸地殻ですが、その構成物として38億年前の年代の岩石も見つかっています。
 南中国地塊は3つの地質体に区分されます。北部は21億~10億年前の揚子江(Yangtze)地塊で、南部は21億~10億年前のカタイシア(契丹)地塊です。間には、10億年前に両大陸が衝突してきた造山帯(シバオ造山帯)が形成されています。
 原日本の岩石は、縫合帯から南中国地塊にあったものだと考えられます。ただし、日本列島で年代測定によって見つかってきた古い岩体の詳しい所属については、まだ決着を見ていないものが多くあります。もっと年代が決まってくると、決着を見るかもしれませんね。

・猛暑・
北海道も非常に暑い日々が続いています。
夜、窓を開けて寝ていますが、
あまりに蒸し暑くて十分に
睡眠が取れない状態が続いています。
朝、研究室に入っても暑くてたまりません。
風さえあれば、涼しい朝に空気が入って
なんと涼しくできるのですが、
風がない日は、暑いまま耐えるしかありません。
研究室は西向きなので午後には耐えられない暑さになります。
立秋には台風が来て涼しくなるという予想なのですが。
予想が当たることを願っています。

・締め切り・
大学は定期試験も終わり
教員採用の二次試験も終わりました。
ゼミの4年生は卒業研究の添削に入りました。
教員は採点や成績評価をすることになります。
今週中に終わらせることになります。
他にも論文の査読の修正の締め切りもあります。
暑さのため集中できない状態と
午後が仕事にならないので
だんだん仕事が遅れてきました。
そろそろ限界が近づいています。
午前中に一気に進めていくしかありません。

2019年8月1日木曜日

1_173 日本最古の岩石 5:構造侵食

 島弧では、大陸地殻を形成する作用があり、その作用の解明に注力されてきました。しかし、沈み込み帯では、火成作用が常に起こっているのですが、付加作用だけでなく構造侵食も起こっていることがわかってきました。

 これまで、島弧は大陸地殻が増えていくだけの作用をすると考えられていました。あるいは、減ることについては配慮されていませんでした。それは、島弧での大陸地殻の形成過程として、島弧火成活動のメカニズム解明や付加体の構造解析や年代決定など、興味深いテーマがあり、そこに多くの力が注がれていたためです。
 ところが、最近では、造山帯は成長するだけでなく、別の時期には構造的に侵食されていくことが、再度注目されるようになってきました。「再度」といったのは、地球の沈み込み帯を広く見ていくと、島弧の火成活動は必ず起こっているのですが、付加体が形成されているところと、されてないろところがあることがわかっていました。しかし付加体が形成されていないところより、形成されているところに注目され、研究が進んでいました。そのため、付加体が形成されていないところには、注目されていませんでした。
 現在の状況をみると、付加体より構造侵食が起こっている沈み込み帯のほうが圧倒的に多いことがわかります。沈み込み帯は、構造侵食作用が起こる場と考えたほうがいいようです。
 2010年前後に、ジルコンを用いた年代測定ができるようになり、その分析システムが整ってきて、造山帯の岩石にも適用されるようになってきました。すると、造山帯は沈み込み帯で形成されたものも多いため、古い造山帯の岩石で過去の沈み込み帯の様子が復元されるようになってきました。その結果、激しい構造作用による侵食、「構造侵食」と呼ばれる作用が起こっている明らかになってきました。ひとつの造山帯がすべてなくなるような構造侵食が受けるようなことがあることもわかってきました。構造侵食作用は、非常に激しく、しかも定常的に起こっていることになります。
 日本列島にように、繰り返し造山作用が起こっているようなところは、古い造山帯の岩石が残っていることは、非常に稀になります。まして、その岩石の所属している造山帯まで明らかになるのは、なかなか難しいことになります。特に古い造山帯のより古い大陸地殻の岩石での所属は難しくなります。
 今回の古い岩石の発見は、単に年代が決まったというだけでなく、その岩石の構造帯での所属までわかったということに大きな意義があります。それについては、次回にしましょう。

・蒸し暑さ・
先週までは、涼しい、冷夏などといっていました。
ところが一転、蒸し暑い日が先週末から続いています。
気温が高いだけでなく、湿度も高いので
夜も寝苦しくて、睡眠不足でバテてしまいます。
我が家はエアコンがありません。
そのため、扇風機を回すか、団扇を使うしかありません。
昼間は大学にいるのですが、
研究室は西向きで、午後には西日が当たるので
耐え難い蒸し暑さになります。
そんなときは、用事がないときには
そうそうに帰ることにしています。
自宅に帰る頃には夕方になっているので、
少しは過ごしやすくなります。
そんな日々を過ごしています。

・教室の冷房・
大学は、定期試験の週に入りましました。
一番暑い時に定期試験とは、
いかがなものかと思ってしまいます。
もう少し工夫はできないのでしょうか。
夏に新学期の始まりにすれば、
このような暑さ対策は考えなくていいのでしょうが。
そんなに単純ではないでしょうが。
遅ればせながら、我が大学も暑さ対策として
教室に冷房が入りました。
研究室にはないのですが。