2020年9月24日木曜日

1_186 初期重爆撃期 3:アパタイト

 論文では、隕石中の微小な鉱物で年代測定をしています。その鉱物は、丈夫な鉱物ではあるのですが、ある程度の温度で変成を受けてしまいます。その特徴を逆手にとって、温度と年代を利用しようというアイディアです。



 年代測定には、アパタイト(燐灰石)という鉱物が利用されました。アパタイトは、リン酸カルシウムという鉱物で、その化学組成は、Ca5(PO4)3F(一部ハロゲン元素を含むことがあります)となっています。いったん結晶が形成されると、変成や変質でも壊れにくい、かなり丈夫な鉱物です。ですから、変成作用などを受けた古い時代にできた岩石でも、もとの化学組成や年代を残しています。

 アパタイトは、もっと丈夫な鉱物と比べると、変成作用などによる温度の影響を受けやすくはなっていますが、もっと弱い鉱物よりは高温まで情報を保持しています。論文では、このような中間的な温度条件で影響を受けるアパタイトの特徴を利用して、変成温度に着目した年代測定がなされ、その温度と年代の意味を考えています。

 アパタイトの成分の一部(Caの部分)が、ウラン(U)に置き換えられることがあります。ウランには放射性をもった成分(核種といいます)が含まれており、その放射性核種を用いることで年代測定ができます。ウランの年代値から、アパタイトが形成された年代と、変成をうけた年代が読み取れることになります。

 この論文では、変成作用でウランが固定される温度(閉鎖温度といいます)に着目しています。アパタイトの閉鎖温度は、かなり高温(約450℃、論文では「中程度に高温」と表現されます)になっています。高温(900℃)で閉鎖するジルコンの年代測定(U-Pb法)や、低温(300℃)の斜長石の年代測定(K-Ar法)と比べて、アパタイトの450℃という温度は、中間的な温度の重要な手がかりとなります。

 ただし、隕石の中のアパタイトは非常に小さい結晶しかないので、年代測定も困難です。それを分析するためには、小池さんたちは、二次イオン質量分析計(SIM)というものでも、微小部分の分析ができるナノスケール二次イオン質量分析計(NanoSIM)という特別な装置を用いて分析されています。10μm程度の部分があれば年代測定が可能です。アパタイトの閉鎖温度と年代から、隕石が経てきた履歴を読み取ることができます。

 その年代値については、次回としましょう。


・秋の訪れ・

全国的でしょうが、一気に秋めいてきました。

北海道も、涼しくなり、朝夕は厚手の上着が欲しくなります。

気の早い家庭では、もうストーブを

たいているところもあるようです。

我が家はまだですが。

寒い夜に冬物の半纏を着ましたが、

ちょうどいいくらいでした。

今年は、暑さ寒さの変動が激しいようです。


・後期授業・

大学の後期の授業では、やっと一部ですが、

対面授業が戻ってきました。

対面授業の中で、落ち葉を用いるものがあるのですが、

あと2週で、紅葉が進み、落ち葉ができるが心配です。

毎年の心配していることですが

今年は、対面授業ができる喜びの方が大きです。

ただ、多くは遠隔授業の方が多いので、

その準備に、これから毎日、追われることになりますが。

2020年9月17日木曜日

1_185 初期重爆撃期 2:HED隕石

 石質隕石のうち、分化したHEDと呼ばれるグループは、小惑星ベスタから飛んできたのではないかと考えられています。HEDのなかでも玄武岩質ユークライトを調べることで、ベスタの地殻の情報が読み取られます。

 専門的論文をみていくのに、まず、隕石の紹介からはじめていきましょう。
 この論文では、隕石でも少々特異な種類に注目され分析されています。隕石の種類には、石質隕石、鉄隕石、両者が混在した石鉄隕石の3つに区分されています。一番多いのは石質隕石ですが、それぞれの隕石はさらに細分されています。
 隕石は、それを供給した天体(母天体と呼ばれています)があると考えられています。その天体が成長していき、ある時破壊され、その破片が地球に落ちてきたのが隕石となります。隕石の中で似たものは、同じ母天体から由来したと推定されています。
 成長していった母天体では、鉄が溶融しが落下、中心部に集積していき、核にが形成されていきます。核の部分が砕けると、鉄隕石の起源となります。石鉄隕石は、核とマントルの境界や鉄の集積途中にあたる部分から由来していることになります。
 石質隕石には、球状の粒子(コンドルール)が集まったコンドライトと呼ばれるものと、粒子がないエイコンドライトに区分されます。隕石の大半はコンドライトです。コンドライトは、太陽系の最初に形成された固体物質の集合体で、惑星や衛星などの材料になったものと見なされています。最初の固体が集まった組織が残っているので、母天体があっても、変成や溶融が起こることなく、成長していない小さい天体から由来したことになります。
 一方、エイコンドライトは稀なタイプです。エイコンドライトは、溶融した特徴をもっており、成長した母天体から由来したことになります。エイコンドライトにもいくつかの種類があり、その中で半分近くを占めるのが、HED隕石(ホワルダイト、ユークライト、ダイオジェナイトの頭文字をとったグループ)です。このHED隕石のグループの母天体は、小惑星ベスタの地殻に由来したと考えられています。
 HED隕石の研究すれば、小惑星ベスタの実態が明らかにあります。年代から、ベスタが激しい火成作用で結晶化した時期が、約44.3億年前から45.5億年前と推定されています。溶融し分化した隕石なので、当然、惑星として内部に層構造(核、マントル、地殻)ができていたり、地殻には火山岩である玄武岩もありました。かつては、火山活動をしていた可能性があることもわかってきました。
 今回の論文で分析されたのは、ベスタを母天体とするユークライトでも玄武岩質ものでした。これらを知らべることは、ベスタの惑星表層の地殻を探ることになります。論文では、5つの玄武岩質ユークライトと調べられています。その3つ(Juvinas、Camel Donga、Stannern)は角礫状で、他の2つ(AgoultとIbitira)は角礫化していないものです。

・隕石は人を選ぶ・
小さな隕石でも、珍しい種類もあり、
そこから読み取れる情報は、貴重なものになります。
素材は小さいですが、読み取った情報は
惑星形成や太陽系の創世期の重要な証拠となります。
小さいですが、貴重な試料です。
隕石から情報を読みとるためには、
施設や機材を備え、それを扱える研究者でなければなりません。
そしてなにより、アイディアが必要になります。
隕石の研究は、人を選びます。

・博物館にて・
博物館に在籍しているときは、
業務として多様な隕石を集めていました。
その結果、いろいろな隕石を肌で感じることができました。
しかし、隕石からの情報は、
高度な分析装置を用いてしか読み取ることができません。
博物館では、専門家の研究のために
試料を提供することもありました。
しかし貴重な展示用資料でもあるので、
誰にでもというわけにはいきませんでした。
日本では、極地研究所があり、
南極で採取した大量の隕石を収蔵しています。
目的をもった研究者には無料で提供されます。
また、研究設備も整っています。
今の研究者は恵まれた条件が提供されています。

2020年9月10日木曜日

1_184 初期重爆撃期 1:専門誌の論文

 専門誌に紹介された論文で、興味深いものが掲載されました。専門論文は、限られたコミュニティ内でのものなので、前途となる知識がそれなりにないと意味が理解できません。今回はそんな論文を紹介します。

 地球、あるいは太陽系惑星の形成過程に再考を迫る重要な論文が報告されました。地球・惑星科学の専門誌である"Earth and Planetary Science Letters"の9月号(電子版には2020年8月26日公開)に掲載されたものです。
 Evidence for early asteroidal collisions prior to 4.15 Ga from basaltic eucrite phosphates U-Pb chronology
 (玄武岩質ユークライトのリン酸塩のU-Pb年代測定から41億5000万年前より以前の初期重爆撃期の証拠)
というタイトルの論文でした。広島大学大学院の小池みずほ助教らの研究グループによる成果です。専門誌なので専門家のための論文になり、タイトルだけでは、一般の人にはその意義がなかなか理解できないものになっています。まあ、これが専門誌の役割でもあります。
 まず、この論文のタイトルを理解するためには、玄武岩質ユークライトとリン酸塩の年代測定、41億5000万年前より以前という年代、重爆撃期というものを理解していないとなりません。
 少し詳しくいうと、玄武岩質ユークライトという隕石の種類があるのですが、論文内では、角礫化していないものと、しているものでの年代測定をして比較しています。また、年代測定に利用されたのは、リン酸塩なのですが、アパタイトと呼ばれる微小な鉱物でした。そもそもアパタイトとはどのような鉱物で、なぜ年代測定に用いるのでしょうか。年代測定には、SIMという装置(この論文ではNanoSIM)という特別な装置を用いて、微小なアパタイトが分析されています。年代として、41億5000万年前というものと、それ以前の意味するところ、また重爆撃期には初期と後期があるので、年代とどう関係がるのでしょうか。これらのいろいろなことを理解していないと、次の段階へ進めません。
 この論文は、ある種の隕石から得られた年代から、今までの惑星形成の一般的なシナリオに対して修正を迫る内容となっています。次回からは、上の専門的な内容を紹介ながら、論文の意義も示していきましょう。

・専門誌・
専門誌に掲載される論文は、
専門家のコミュニティだけでの
成果報告とその評価の場に提供されるものです。
同じ専門誌に多数の掲載された論文でも
雑誌がカバーする分野が広ければ、
自身が興味を持っている分野以外は
なかなか理解が難しいこともあります。
今回の論文でいうと、隕石、年代測定、惑星形成過程など
それぞれに関する基礎知識がないと、
その意義は理解できません。
専門誌の論文は、読む人も選びます。

・自然災害・
大型の台風10号が沖縄から九州を襲いました。
大型であったので、早くから特別警報がだされ、
その後も各地で警報が続きました。
九州や四国、中国では、洪水や停電の被害もでたようです。
お見舞い申し上げます。
幸い北海道は大きな影響を受けまぜんでした。
夏の暑さから一転、台風の被害です。
自然災害がここ数年繰り返されています。
しかし、気象の観測技術が向上して予報が正確になっても
やはり最終的に個々の人の判断が重要になってきます。

2020年9月3日木曜日

4_154 支笏の森で昼食を

 新型コロナウイルスの猛威はとどまりません。北海道も下火ではありますが、まだ抑えられていません。大学では自粛が継続しているのですが、久しぶりに私的に市外へ出かけました。

 先週の平日、一日、休みをとって、人気のなさそうなところで、好きなコースを巡ることにしました。今年は、8月下旬に北海道では蒸し暑い日が続いたので、避暑として一日涼みにいくことにしました。恵庭の市街地から漁川を遡り、支笏湖を周って、千歳川を千歳の市街地へと下るコースです。このコースには、漁川沿いには、いくつもの滝があり、千歳川沿いには、きれいな川による景観が広がっています。気温に関係なく、清涼感があるところです。それに標高もかなりあるので、外界よりは涼しいはずです。2、3年に一度は、この気に入ったコースをドライブします。
 支笏湖周辺には温泉や旅館も多数あり、またキャンプ場もいくつもあるので、短時間でも宿泊でも、さまざまな時間で楽しむことできます。今回は、標高の高い支笏湖の涼しいところで、昼食を食べるという短時間のドライブを予定していました。
 まだコロナ禍なので、人出は少ないだろうなと考えていました。漁川沿いの道は、もともと人通りの少ないところですので、のんびりと川や滝を見学しながら、進みました。しかし驚いたことに、支笏湖のキャンプ場は三密といえるほどの混みようでした。自然の中でのキャンプなら、三密にならないだろうとのことで、多くの人が来ていたようです。札幌からも近いし、支笏湖なら涼しいしと、考えることは、皆同じですね。
 売店は人がいっぱいの様子なので、すぐに諦めて、Uターンをして、別のところを目指すことにしました。支笏湖の温泉街の駐車場は、車を多くなかったのですが、それなりに停まっていました。もともとそこは行く予定ではなかったので、地元の人だけが知っている公園にいきました。
 ところが、そこも駐車場が思ったより多く車が停まっていました。しかし、広い公園なので、視界に人はいません。湖を眺める展望台に時々人が見えたり、車の出入りが少しあります。多くは、湖を散策に行っているのでしょう。人気のない穴場となっていました。
 その湖畔の森は、暑いほどではなかったので、標高が高く、湖沿いの静かな森の中なので、昼食をとることにしました。持ってきたキャンプ用に椅子を担いで、気持ちのよさそうな木陰を見つけて、買ってきた食事を、家内とのんびりと摂りました。コロナを避けながら楽しめるドライブでしたが、久しぶりの外出で、半日の外出でしたが、リフレッシュしました。

・涼しい北海道・
北海道は先週末から涼しくなりました。
一気に10℃ほど下がってきました。
多分、これが例年の北海道の気候ではないでしょうか。
暑い日から、一気に涼しくなると、
一気に気持ちも体も、ホッとするような気がします。
涼し気温のままでいることはないのでしょうが、
もう真夏の暑さはこないでしょうね。
そう願いたいものです。

・野生との共存・
今年の北海道では、ヒグマの目撃ニュースが
各地から報道されています。
2年ほど前、わが町にもヒグマが徘徊していると
警戒されてたことがありました。
畑を荒らしたり、
設置さられたカメラに写ったりしていました。
被害を与えたり、人に危険にならない限り
駆除されることはありません。
人間側が警戒して近づかないという方針です。
そもそも、人間が野生の中へと侵略していったため
起こっている摩擦のはずです。
だから、人間側が遠慮すべきなのですが、
いつも遠慮させられるのは野生側ですね。
野生動物との共存はなかなか難しい問題です。