2024年8月29日木曜日

3_216 外核とマントル最下部 2:D"の由来

 プレートテクトニクスでは、海洋プレートが沈み込んで、マントル対流が起こると考えられています。その実体は複雑なものです。沈み込んだ海洋プレートの行方はマントルにとどまり、やがてマントルの底にたどり着きます。


 前回、核とマントルの境界(CMB)にある不思議な層について紹介しました。その層は、D"(Dダブルプライム)と呼ばれています。D"は、薄い領域(厚さ5~50kmほど)で、境界に連続した層となっているわけではありません。領域として、境界部の部分的に、その存在が分散していると考えられていました。
 D"は、地震波速度が異常に小さくなっている領域なので、超低速度帯(Ultra Low velocity zones ULVZと略されています)と呼ばれることがあります。実体としては、沈み込んだ海洋プレートだと考えられています。ただし、その履歴は複雑なものになっています。その履歴をみていきましょう。
 海溝で沈み込んだ海洋プレートは、マントルに入っていきますが、密度の釣り合うマントル遷移層に滞留します。海洋プレートがマントル内で滞留したものを、メガリスと呼んでいます。メガリスが、マントルにしばらく滞在していると、周辺のマントルの温度が高いため、温まってきます。温度変化のため、メガリス内の結晶が、より高密の構造に変わっていきます。その結果、メガリス全体の密度が、遷移層や下部マント物質より大きくなり、ある時バランスがくずれ、下部マントルの中を落下していきます。メガリスはやがてCMBに達します。
 このメガリス、つまり沈み込んだ海洋プレートが、D"だと考えられています。海洋プレートに由来しているため、上部マントル物質に海洋底堆積物や海洋地殻が混在した岩石となっています。高密度になっていたとしても、下部マントルとは、明らかに異なった物質となります。そして、地震波速度は、非常に小さい値をもつことで、超低速度帯として見分けられています。
 このD"が、CMBに長期間滞在することで、温まってくると、やがて周りより密度が小さくなってきます。そのため上昇しやすくなります。上昇するD"が、大きなマントルプルームとなります。
 現在、アフリカの大地溝帯をつくっているマントルプームと南太平洋のマントルプルームの2つができています。これが、プルームテクトニクスの重要な要素なっています。
 ただし、この上下するプルームは地震波で調べていくのですが、南半球のマントル最下部が、実は、まだ詳しく調べられていませんでした。なぜなら、南半球は陸地が少なく、地震波の測定が詳しくできていないためでした。
 アラバマ大学のハンセン(Samantha Hansen)とその共同研究者は、その地域を調べて、2023年4月「Science Advances」誌に報告しました。タイトルは、
Globally distributed subducted materials along the Earth's core-mantle boundary: Implications for ultralow velocity zones
(地球のコア-マントルの境界に沿った全地球的に分布する沈み込み物質:超低速帯との関連)
というものです。
 その詳細は次回としましょう。

・月末はバタバタと・
今週は、集中講義があったのですが
無事終わりました。
いくつかの校務があり、
査読論文の返却がありその締切があります。
本の最終修正も終えたいと考えています。
完成後、印刷屋さんと調整に入ります。
医者の検診も入っています。
9月上旬に野外調査を再開します。
1週間の長期になりますので、
その間の校務をすべて調整していき、
今週にすますべきことが多くあります。
少々バタバタしています。

・休みの日に・
週末には停電とネットワークの停止、
医者の診療などで、
土曜の午後から月曜日まで
2日半の間、不在となりました。
その間、自宅で日曜大工をする予定をしています。
壊れたブラインドをカーテンに交換して、
エアコンの室外機に木枠をつくり
その上にビニールシートをまいて
冬越としようと考えています。
さてうまくできるでしょうか。

2024年8月22日木曜日

3_215 外核とマントルの境界 1:異質な領域

 最近、核に関する報告がいくつかあったのですが、しばらく眠らせていました。そこで、今回3つの論文をまとめて、紹介していこうと考えています。まずは、外核とマントルに存在する不思議な層の話題です。


 地球深部は、直接岩石を入手して調べることができません。地震波を利用するころで、ある程度調べることができます。ただし、詳細に調べることは、なかなか難しいです。しかし地球の内部の概要は古くからわかってきており、地震波の詳細な解析で少しずつ、わかってきました。
 まず、地球の表層から、地殻、マントル、核という層構造を持っています。それぞれの構成物の密度や組成がかなり異なっているため、地震波速度の違いとして見分けることができます。
 それぞれの層は、さらに詳しく調べられて、区分されてきました。地殻は大陸地殻と海洋地殻に、マントルは遷移層を境界に上部と下部に、核は外核と内核に分けられています。
 大陸地殻は花崗岩(とその変成岩)、海洋地殻は玄武岩(斑レイ岩)からできています。マントルは、カンラン岩の仲間ですが、深くなると密度や温度が上がるために、より高密度の結晶に変わっていき、別の岩石になっていきます。そのような結晶の変化が起こるところが、遷移層となっています。下部マントルは高密度のカンラン岩(ペロブスカイトという鉱物が多い岩石)からでています。核は金属の鉄からできていますが、外核は液体の鉄、内核は固体の鉄となっています。
 観測技術が進んでくると、各層のそれぞれ違いも、地震波の詳細な解析から見分けられてきています。そのひとつに外核とマントル最下部の境界があります。かつてはグーテンベルク不連続面と呼ばれていましたが、現在ではCMB(core–mantle boundary)と略されることが多いようです。
 外核は液体の鉄でできており、マントルは固体の岩石からできています。この境界は、非常の大きな変化、違いがあるところになります。核が液体の金属の鉄からできているの対し、マントルは固体の酸化物の珪酸鉱物を中心としています。非常に異なった境界となっています。
 ところが、詳しくみていくと、両者の間に、異なった物質からできている領域があることがわかってきました。ただし、その領域は、明瞭は層となっていませんでした。
 その領域について、新しい報告が出されました。それは、次回としましょう。

・集中講義・
今週は集中講義を担当しています。
この講義も、今年が最後となります。
夏の暑い時期の講義になるので、
午前中は西向きの教室で
午後は東向きの教室で実施することにしています。
最近は教室にエアコンが入るようになったので
涼しい部屋で講義ができます。
それでも太陽が入らない教室がいいので
午前と午後で移動して実施します。

・復調・
だいぶ体調が戻ってきたので、
集中講義もなんとかこなせるかと思っています。
ただし、もともと集中講義は
4日間連続して実施するので、
体力的、精神的に疲れます。
声も枯れそうです。
連続した講義ならではの有利な点もあるので、
その良さを利用しています。

2024年8月15日木曜日

2_221 太陽系外生命の痕跡 3:パンスパーミア説

 惑星への小天体の衝突で、岩石が飛び出すことがあります。一部は、大きな惑星の影響で軌道をはずれ、恒星の引力も振り切って飛び出すこともあるようです。そんな微隕石が地球に届いているかもしれません。


 前回紹介した戸谷さん論文を紹介しました。大量の微隕石の中には、稀ですが、太陽系外から由来するものが含まれている可能性があると推定されました。さらに稀でしょうが、生物の痕跡が発見できるのではないかと考えました。
 これは生命起源にも関係します。地球外のどこかの天体で誕生した生命が、微隕石とともに地球に飛来して、それが地球生命の起源になったいうパンスパーミア説に通じるものです。
 太陽系内であれば、例えば火星から、小天体の衝突で飛び出した岩石は、惑星軌道を一定期間(100万から1000万年ほど)回り、やがてその天体に落下していきます。しかし、巨大惑星(木星や土星)の影響があると、岩石の軌道が乱され、太陽系を飛び出すものもあるとされています。
 しかし、パンスパーミア説として、他天体まで生きたまま移動させるためには、生命の生存期間(10万から1000万年以内)や生命体を守れる岩石の大きさ(10kg以上)にも制限がかかります。
 ところが、生きていなくても、生命の痕跡であれば、期間や大きさの制限はほどんなくなります。化石などの生物の痕跡、バイオマーカーと呼ばれる化学分子や同位体組成、あるいは生物がつくった鉱物(バイオミネラル)などであれば、1μm以上あれば、検出できそうです。
 このシリーズの最初に紹介した地表で見つかる大量の微隕石は、非常に有効な素材となります。数が多ければ、太陽系外の微隕石も含まれているはずです。中には、太陽系外の生物の痕跡もあるかもしれません。そのような目で再度探してみることは、手軽ですが、重要なテーマとなりそうです。
 太陽系外からの由来をどのように検証していくかが、問題となります。いくつかの同位体組成で太陽系固有の値があることが知られているので、そのような成分を利用するといいかもしれません。
 ただし、微隕石は、長年地球の表層にあったので、地球の物質や地球生物の汚染を受けているはずです。汚染の少ない氷床の中の微隕石を探すなどの工夫が必要でしょう。その中から、太陽系外の成分やが検出できるでしょうか。地球生物の汚染がないのであれば、地球外生物の化石の痕跡やバイオミネラルも、検出可能かもしれません。必要であれば、地球外の惑星空間で、微隕石を収集するはいいかもしれません。
 天文学的観測による系外惑星の地球型惑星の探査とは、異なったアプローチになります。このような試みで、見つかれば、はじめて地球外生命、太陽系外生命の発見となります。いくつも見つかってくれば、銀河系にどの程、生命が分布しているのかがわかるはずです。だれかチャレンジしませんかね。

・帰省・
お盆の只中です。
皆様も、里帰りされているのでしょうか。
我が家では、長男が帰省しています。
少々長く滞在します。
あちこち出かけたいとのことですが、
日程もあまり決まっていないようです。
その日程によって親の日程も変わってきます。
それでも家族の久しぶりの帰省はいいものです。

・復調・
体調は戻ってきています。
ただし、長時間じっと
同じ姿勢をしているのが少々つらいので、
うろうろ歩たり、研究室内で動きながら
研究を少しずつ進めています。
まあ、とりあえず一番ひどい状態から
脱したのでホッとしています。
お盆中も無理せず
じっとしていようと思っています。

2024年8月8日木曜日

2_220 太陽系外生命の痕跡 2:太陽系外からの微隕石

 微隕石は、地球外でありますが、太陽系内から由来しています。その中に、太陽系外から由来しているかもしれません。そんな太陽系外微隕石が見つけられたら、重要な情報も持たしてくれるかもしれません。



 前回、微隕石を紹介しましたが、今回は話題は転換して、地球外生命の探査についてです。
 系外惑星の探査では、地球型惑星の発見、その中でもハビタブルゾーンにあるものが、注目されています。しかし、系外惑星は遠くて、天文学的観測では実態の解明は難しく、まして生命の存在の有無や、その存在比率などを調べるのは困難です。
 その観点で、微隕石の存在に注目されています。微隕石という実物があれば、それらを用いて、化学的に検出できる可能性があります。微小ですが、多種、大量にあるので、そこからこれまで知られていないタイプのものが発見できるかもしれません。
 太陽系外の生命の痕跡を、地球で実際に検出したというわけではありませんが、その可能性が検討されました。2023年3月に、東大の戸谷友則教授が国際天文学雑誌(International Journal of Astrobiology)に報告されました。そのタイトルは、
Solid grains ejected from terrestrial exoplanets as a probe of the abundance of life in the Milky Way
(銀河系内の生命存在度の探針として地球型系外惑星から飛び出した固体粒子)
というものでした。
 地球型惑星から飛び出し、銀河を移動し、地球にたどり着くために、1μm程度が最適なサイズと考えられました。また、1μm程度あれば、微生物の化石が判別可能な形で残る可能性があるとしました。
 論文では、1μm程度の微隕石が、太陽系外から、地球にどの程度届くかを見積もっています。銀河系の恒星にある地球型惑星から、微粒子が脱出し、星間空間での移動し、様々なプロセスで損失しながら、最終的に太陽系地球にどの程度到達するかを見積もっています。その結果、地球にたどり着く粒子の数が、年間約10万個となりました。
 10万個という、その数が多いようみ見えますが、すべて合わせても1グラムにも満たない量です。そして、年間数万トンの微隕石が地球に降ってきているとされていることから、系外微隕石は非常に稀な存在となります。しかし、存在する可能性があります。
 戸谷さんは、そこに期待しています。しかし、論文のねらいは、他にあります。それは、次回としましょう。

・涼しい日々・
北海道は、暑いですが、
まだ、朝夕は涼しくなるので
寝るときも窓を閉めてちょうどなので
過ごしやすくて助かっています。
今年からは、エアコンをつけたので
昼間暑くてもエアコンがあるので
なんとかなります。
ただし、最近はあまり出番がありません。

・体調不良・
体調不良は、一月ほど続きそうです。
その間、薬を飲むことになります。
その後、検査を受けます。
問題は、9月に2度予定している野外調査です。
校務として、これが最後の野外調査となるので、
なんとしても出かけたいのですが、
どうなることでしょう。
こればかりは、予想できません。

2024年8月1日木曜日

4_186 大雪:一期一会と無知の知

 北海道の春から初夏は、色鮮やかな季節になります。北海道でも遅く春が訪れる大雪山も、7月には緑と花の季節になります。そんな大雪山の山頂と裾野で2つの教訓をえました。


 7月はじめ、初夏の大雪山周辺を巡りました。山頂付近には少し雪が残っていますが、5合目の散策コースは、一面緑に覆われた初夏の山の景色になっていました。
 大雪山は、その雄大さはいつ訪れても変わりませんが、季節ごとで景観には大きな変化があります。黒岳のロープウェイの5合目付近も、よく訪れるのですが、春や晩秋には残雪や積雪のため、散策できないことがあります。しかし、初夏には快適な散策ができます。同じ季節でもその年により、景観は異なっています。まさに一期一会です。どんな時であっても、その時を楽しみ、味わうことが必要だと教えられました。
 大雪山は、多くの火山の集合なので、いろいろな火山地形をもった山頂や火口があります。中でも御鉢平の火口は雄大で見応えがあります。また、山体周辺は河川による解析も激しく、溶結凝灰岩の柱状節理のよる深い谷や、火山岩類のむき出した渓谷も多数周辺に広がり、観光名所となっています。
 このような荒々しい景観だけでなく、大きな山体の周辺にはなだらかな斜面もあり、そこでは雄大な景観が広がっています。もちろん温泉も各地にあります。今回は、山頂や渓谷だけでなく、これまでいったことのない、愛別岳の北側斜面を、いろいろ巡ってみました。
 山麓の多くは森林地帯になっているのですが、上川の石狩川の左岸に近いところだけに、畑が広がっています。畑越しにみる石狩川や、その東にそびえるニセイカウシュッペは、これまで見たことにない景色でした。
 大雪山には毎年のように、何度も訪れているのですが、まだまだ見残しているところがあることを知りました。これこそ自然が、私の無知の知を教えてくれたのかと思えます。

・体調不良・
講義が終わった直後に、
体調不良になりましました。
講義の空き時間に2日間にわたって
4年生との多数の予約があったのですが、
それがすべてキャンセルとなりました。
一応、定期試験直前には
なんとか復帰する予定なのですが、
また体調は戻っていません。
教員としてひとりでこなしていることが多数あります。
そのため、いろいろなところに
迷惑をかけることになります。

・一人「授業」主・
このエッセイは、発行の前日に書いています。
2つのエッセイを書かなくてはなりません。
自宅でもメールで処理できることは
最低限していたのですが、
校務もたまってきたことから
少々無理して復帰しています。
大学教員とは、一人事業主のように、
「一人授業主」たる存在なのです。
本人しかできない仕事を
いくつも請け負っているので
体調不良になる恐ろしさを味わいました。
しかし、今は、回復することが一番です。