2024年6月27日木曜日

6_212 人新世 3:否決

 人新世という時代を、新たに設定するかどうかについて長い間議論されました。紆余曲折があったのですが、審議の結果、否決されました。どのような経緯で審議されたのでしょうか。


 そもそも地質時代の区分は、どこで、どのような手続きを経て、決められているのでしょうか。地質学の時代区分なので、国際地質科学連合(IUGS、Commission for the Management and Application of Geoscience Information)という国際的な学会組織があり、そこで決めます。ただし、専門的な議論は、いくつかの下部組織を経て検討されていきます。
 まず、新たな時代に関しては、2009年に「人新世作業部会」を設置して、議論を進められていきました。「人新世作業部会」で議論した後、作業部会が属する「第四紀層序小委員会」で投票して、新しい時代にするかどうかを判断します。「第四紀層序小委員会」で60%以上の賛成があれば、次のステップに進みます。地質時代の全体を統括する「国際層序委員会」で投票していきます。そこで60%以上の賛成があれば、最終のステップに進みます。「国際地質科学連合」で審議して承認となります。
 人新世については、いろいろ複雑な経緯がありました。当初、2019年に、第四紀層序小委員会で人新世を正式な地質年代とし、20世紀後半に時代境界がおくことが、賛成多数で可決されました。
 この決定には、いろいろと問題があったようで、投票前に委員の少なくとも1人が辞任していました。また、投票も内部規定に違反していたようでした。また、正式発表される前に、メディアで報道されたこともあり、組織内の揉め事を反映していたようです。
 投票が無効であるという申し立てがあり、再度、議論されることになりました。そして、2024年2月1日から6週間かけて、「第四紀層序小委員会」での議論が進められて、投票がおこなわれました。18人の委員のうち4人が賛成、12人が反対、2人は棄権となり、否決されました。最初の小委員会の段階で否定されました。
 その後、否決に対する異議申し立てはありませんでしたので、次のステップには進むことも、再審議もありませんでした。
 これで、「人新世」という時代を新たにつくることはできなくなりました。でも、ここまで議論されたことは、無駄だったのでしょうか。次回としましょう。

・野外調査へ・
今週末から、前期最後の野外調査にでます。
大雪山の山岳地帯を通り日高山脈沿いに進みます。
移動距離も長くなります。
5日間の予定しています。
気候もいい時期ですから、
野外調査でも快適な時期です。
なんといって北海道は花の盛の時期です。
目にも楽しい時期です。

・2編の論文・
現在、論文を書いています。
7月締め切りの論文は書き終わり、
11月締め切りの論文の下書きをしています。
6月中に2編目の粗稿まで完成できればと考えています。
これは、9月に出版する予定の本の
一部にもなっています。
本でその内容を使用するつもりなので、
先行して書いています。
本の粗稿もほぼできているのですが
論文の内容を反映していくつもりです。

2024年6月20日木曜日

6_211 人新世 2:人類の特異な記録

 「人新世」という時代区分が提唱されてきました。その理由は、人類の行為が過去の特異な記録として残されてきたこと、後の時代にその記録が検出できることがわかってきたからです。


 人骨も、他の生物と同様に化石として残されています。人類学として研究対象なりますが、他の生物の化石と同じような役割になります。しかし、人類の生活や活動が、地層中の記録として、ある時期から残されていきます。考古学的遺跡などは、その典型となります。道具として使った石器、食べたあとの貝塚、食料保存や調理用の土器、農業や都市の遺構、あるいは資源として利用した鉱山やその残土、加工品など、考古学的記録として残されています。
 天然には存在しない精錬された鉄や加工品、近年ではプラスティックやビニールの合成物など、これらは少量であっても、人類の特徴的な記録として残っています。しかし、地球に対する記録量や影響は微々たるもので、他の生物の生活痕(足跡、巣穴など)などと似たものではないでしょうか。石炭や石油、天然ガス、サンゴの化石の集合の石灰岩などのほうが、地質学的記録としては物量が大きいのではないでしょう。
 文明や産業が進んでくると、農業・酪農や鉱業、都市開発なども大規模になり、地形の改変も著しくなっていきます。科学技術の進歩によって、他の生物にはなし得ない規模の地球への影響を与えるようになってきました。地形の改変では、巨大な火山噴火やプレートテクトニクスのほうが規模は大きくなりますが、人類の科学技術のほうが短時間での改変が激しくなるという特徴があります。
 また、自然界では生態系として多様な生物種が混在して生きているのですが、農業・酪農となると単一種(数種)が大量に広域に繁茂、繁殖していきます。このような選択的種の増加と多様性の欠如も、人類の特徴でしょう。
 人類の特徴的な営みによる記録としては、人類が出現した第四紀(258万年前から現在)や、第四紀を細分した完新世(1万1700年前から現在)として、すでに地質学区分が存在します。それ以外に新たな「人新世」の導入を考えられたのは、そのような人類の特徴的な営みだけでなく、異質で特異な影響として地球に与えているためです。
 分析技術が進んでいるので、いろいろな現象の記録が読み取られます。近年では二酸化炭素の増加が記録されてきていますが、地質時代にはもっと高かった時代もあります。ですから量については特異性は大きくありません。しかし、その増加が急激であることが問題となっています。
 特異性の記録として、米ソの冷戦において核爆弾の実験が多数なされたことに由来するものがあります。炭素同位体組成による年代測定は、大気中に一定の値を持っていた炭素同位体組成を基準にして進められてきました。ところが、大気中で多数の爆発実験がなされたことで、核爆弾由来の放射性核種が加わったことで、測定値に影響ができてきました。その変化のピークは1964年になります。実験が少なくなってきたので、影響は少なくなってきました。炭素同位体の年代で「〇〇年前」とは、1950年を基準にするようになりました。
 二酸化炭素の増加や同位体組成の変化は、他の生物や人類などの生物種には大きな影響はないでしょう。変化が、人類のためだけの科学技術の使用や、人を殺傷し社会や生活を破壊するための核爆弾という武器に由来することが問題ではないでしょうか。さらに、変化が、他の種が適応できないほどの短期間に起こることも問題です。
 オゾンホールの研究でノーベル賞を受賞したクルッツェン(Paul Jozef Crutzen)が、2000年に「人新世」という新しい時代区分を提案しました。人類の特異な行為への自覚を促すためもあったのでしょうが、それ以降、議論が進められてきました。その結果については、次回以降に。

・一気に夏・
北海道では、5月末には涼しい日があり
ストーブを焚くことがありました。
6月はじめまで涼しいが日が続きました。
ところが、先週から一転、
一気に暑くなってきました。
着るもの夏物、窓も全開する日が
突然、訪れました。
YOSAKOIも北海道神宮祭も終わり、
一気に夏めてきました。
前期の講義も3分の2が終わり終盤に入っていきます。
今年で退職なので、すべての講義が、
これで最後だと思いながら進めています。

・風邪で野外調査・
先々週末から先週頭までは
野外調査にでていたのですが
体調を崩していました。
風邪をひいた状態でしたが、
コロナやインフルエンザではなく
今はやっている風邪だそうで
医者で薬をいただき、呑んで調査していました。
咳が時々激しくでるのですが、
体調自体は大丈夫だったので
調査を継続しました。
現在も少し咳が残っていますが
体調は戻りました。

2024年6月13日木曜日

6_210 人新世 1:地質時代の区分

 以前、人新世という新しい地質年代が提案がなされました。長い時間かけて、それを地質時代として認定するかどうかが、議論されてきました。今年の3月に結論がでました。その意味について考えていきましょう。


 地質時代の新しい年代区分として、「人新世」が提唱されたのですが、それを認めるかどうか、15年もかけて議論されきました。
 人新世とは、英語のAnthropoceneの日本語名称となります。anthropoとは、ギリシア語で「人」を意味し、ceneとは、新生代の時代区分の名称に付けられる接尾語になります。それらを合わせて、Anthropocene 人新世という名称がつくられました。
 そもそも地質時代とは、どのようななものかを、概観しておきましょう。
 過去を、地層に記録された地質現象から区分していくことです。地層に残る地質現象としては、年代を記録するものとして、いろいろなものがありますが、化石がもっとも有力です。化石は生物の遺骸なので、生物種の絶滅や出現で、時代を区分することになります。
 ただし、化石が多数産する時代の顕生代(5億3880万年前から)では有効ですが、あまりで見つからない先カンブリア紀には使えません。そのため、先カンブリア紀は、冥王代、太古代、原生代に大きく区分されていますが、あまり細かい区分はできていません。
 顕生代は、古い方から、古生代(5億3880万年前から)、中生代(2億5190万2000年前から)、新生代(6600万年前から)の3つに区分されています。新生代は、古第三紀(6600万年前から)、新第三紀(2303万年前から)、第四紀(258万年前から)に区分され、第四紀はさらに更新世(1万1700年前まで)と完新世に区分されています。完新世は1万1700年前から現在までになります。
 今回の話題は、完新世をさらに2つに区分して、人新世という時代をもっとも新しい時代として加えようという提案です。このような提案は、人類が地質学的に記録に残るような影響を与える時代になってきたということを背景に提唱されてきました。
 長い時間をかけて議論されてきた人新世が、今年の3月に否決され、採用されないことになりました。では、人新世とはどのような意味や意図があり、なぜ否決されたのかを見てきましょう。

・予約配信・
このエッセイは、予約配信しています。
以下の内容もすべて一週間前のものです。
先週末に今シーズン3回目の野外調査にでました。
今回は、広域ですが、オホーツクの周辺を中心に
調査を進めていく予定です。
今回も以前から訪れているところを巡りますが
一部ははじめて訪れるところもあります。
北海道内を、あちこち見て回っているのですが、
まだ見ていない露頭もあります。
もちろん同じ露頭でも、見方を変えれば
新しいこともみえてくるはずです。
そんな繰り返しを今も続けています。

・YOSAKOI・
北海道は、いよいよYOSAKOIの季節になりました。
5日からはじまりまり、9日がファイナルになります。
YOSOKOIがたけなわの時期に出かけています。
北海道は今年は寒い日が多く
前回までの野外調査は、体調をくずしています。
やっと暖かくなってきて、動きやすくなりました。
出かける前なのに、少々風邪気味なので、
体調が心配ですが、予定通り調査にでます。
その不調がまだ残っていますが
なんとか目的のところを巡れればと思っています。

2024年6月6日木曜日

4_184 恵山:ツツジの咲く頃

 恵山は、春にはツツジの咲く山です。ツツジが満開の頃には、イベントも催され、函館から近いので、多くの人が訪れます。周辺には温泉もあります。有史以来何度も噴火をしており、現在も噴気を出している活火山です。


 5月下旬、道南の恵山にいきました。恵山は、渡島半島(亀田半島)の東端にある火山で、現在も噴気を出している活火山です。海に面して火山があるので、東海岸は険しい崖になっています。半島を巡る道は険しいため、途中で切れています。恵山側から北側(椴法華 とどほっけ)にいくには、恵山の西側を通る国道278号線を経由して迂回しなければなりません。
 恵山は、5万から4万年前から活動がはじまり、1万年前までには大きな火山体に成長していきました。8000年前には大規模な火砕流が発生し、溶岩ドームも形成されました。そして、2500年前の噴火で、溶岩ドームを壊す山体崩壊が起こりました。その後も何度も噴火が起こっています。
 恵山を車で登っていくと、登山口に駐車場があり、そこには賽ノ河原と呼ばれる火口原が広がっています。火口原から見ると、山に取り囲まれているように見えます。北から時計回りに、北外輪山、恵山、スカイ沢山、南外輪山、椴山(とどやま)、海向山と呼ばれる山並みがあります。これらは、外輪山となっていますが、恵山のその一部となっていますが、二重の構造をもった火山となっています。恵山は、溶岩円頂丘となっており、現在も火山活動の中心になっています。
 恵山はもっとも高く標高が618mあり、東側は海に囲まれています。海から高くそそり立った火山になっています。恵山の山腹では、現在も噴気を出しており、その噴気口周辺にはイオウの昇華が見えます。今回の目的は、恵山の火山現象や火山地形の観察でした。火口原にはツツジなどの低木の植生はありますが、中腹から上には植生がなく、荒涼とした火山地形となっています。
 たまたま訪れた翌日が、「恵山つつじまつり」の開催日でした。火口原にいく途中に、つつじまつりの会場の公園がありました。公園でツツジも見ていこう立ち寄りました。
 会場の駐車場に向かうと、交通整理のボランティアの方がいたのですが、話をすると「もう、ツツジは終わりだよ」と声をかけてくれました。多くの人が訪れていたのですが、今年は、3週間ほどの前に満開は終わっていたとのことです。しかし、せっかく訪れたので、公園内を見て回りました。すると、メインのツツジは終わっていたのですが、サラサドウダンという小さなピンクの花をつけたツツジの木もたくさんあり満開でした。
 つつじまつりの会場ではツツジは終わっていましたが、火口原でもサラサドウダンが満開でした。火口原では、サラサドウダンが主な植生なので、そこではツツジが賑やかに見えました。

・開花のきっかけ・
花は、花芽の状態で越冬し、
春につぼみが開くというメカニズムがあるようです。
ツツジの花芽は、前年の夏にできるそうです。
一日の昼の長さが、夏至より短くなってくると
花芽が形成されていくそうです。
春になる花芽が休眠からさめ、
一斉に開花していきます。
サクラは2月1日以降の平均気温の合計が
400℃を超えると開花するという「400℃の法則」があり
かなりこの法則に沿っているようです。
しかし、ツツジの開花のきっかけは
まだよくわかっていないようです。

・まつりの賑い・
函館から、恵山に向かう道は、国道なのですが、
普段は交通量は多くありません。
向かった日は、土曜日の午前中だったのですが、
対向車が多くなっていました。
不思議に思ってえました。
つつじまつりにいったのはいいのですが、
満開が過ぎていたので、
諦めてすぐに戻ってきた
人たちの車だったのかもしれません。
そんなことを想像して納得していました。