2019年5月10日金曜日

1_168 グランドキャニオンの不整合 5:クレーター

 グランドキャニオンの不整合には、クレーターに関する謎を解決するヒントも隠されていました。不整合とクレーターが、どう結びついているのでしょうか。そこには、スノーボールアースが関わっていました。

 カンブリア紀の少し前の時代に、グランドキャニオンなどに見られる大きな時代ギャップをもった不整合は、スノーボールアースの氷河による激しい侵食ためだという報告があることを紹介してきました。陸地の岩石が侵食を受けて、その堆積物が地殻深部に入り込みmマグマをつくる起源物質として再利用されていることになったと考えられています。ジルコンという鉱物の化学組成を用いて検証していました
 論文では不整合の存在の他に、スノーボールアースの氷河の影響を、クレーターの問題についても言及しています。クレーターは、隕石の衝突によってできます。隕石は惑星の材料ですので、惑星形成期には多数の隕石が衝突合体していました。ある程度原始の惑星(地球も含みます)が成長すると、惑星の軌道付近の隕石は、すべて衝突合体してしまいます。
 現在でも、隕石は落下しています。隕石の衝突は偶発的なものですが、大きさを問わなければ、多数の隕石が、今でも地球には落ちてきています。小さな隕石ほど多く、大きな隕石は少なくなっています。しかし、地球創成期は別にすれば、その衝突では大きいものが少なく、小さいものが多いという比率は一定であると考えられます。大気や海洋のない月で、クレーターのサイズと時代ごとの落下頻度の関係が調べれています。
 稀ではあっても、長い時間で考えれば、大きな隕石の衝突も一定の比率で起こったと考えられます。大きなクレーターは、新しいものから古いものまであるはずです。もちろん、クレーターは見つけられるのは、見えるところが主なので、大陸域にものが主となります。海洋地域では、海洋プレートが沈み込んでしまうので、古いものは表面から消えてしまいます。陸地では浸食作用が働くので、古いクレーターは、消されていきます。ですから同じ比率でクレーターが形成されていたとしても、古いものは少なく、新しいものは多くなるはずです。その傾向はカンブリア紀以降のクレーターで検討できます。
 論文では、25億年前まで遡ってクレーターの形成年代を調べています。カンブリア紀以前には、巨大なクレーター(直径100km以上)のものが2個見つかるだけでした。現在からカンブリア紀までの統計的推定からは、カンブリア紀以前にももっと見つかっていていいはずなのですが、見つからないということになります。つまり、約6億年前以前に形成されていたクレーターがなくなっていることになります。この問題も、陸地の巨大氷河がクレーターを削り取ってしまえば、答えとなります。
 しかし、スノーボールアースの考えにも問題があります。それは、スノーボールアースの氷河期の終わり(約6億3500万年前)とカンブリア紀始まり(5億4100万年前)までの間に、1億年近い時間差があることです。カンブリア紀の生物が爆発的増える現象(カンブリアの大爆発)は、生物の進化なので時間が必要でしょうが、堆積物はそれだけの時間があれば、大量に形成されているはずで、その期間の堆積物が少ないのが問題となっています。著者たちもいっているのように、今後の課題でしょう。

・スケーリング則・
隕石の落下の頻度は、小さいものが多く、
大きいものが少ない、といいました。
同じような傾向は、
多くの自然現象で見られるものです。
地震のマグニチュードとその発生頻度、
雪や雨の降雨量とその頻度、
自然災害の規模とその頻度
などがあります。
社会現象にも似たものが見られます。
株価の変動幅の大きさとその頻度、
事故の規模の大きさとその頻度など
いろいろなもので、小さくものは多く
大きものは少ない、という現象が挙げられます。
このような現象で、関係が明らかにされたものは
スケーリング則と呼ばれ、現象の解明のヒントなります。

・5月病・
ゴールデンウィークも終わり、
私は半分の期間で、研究に専念できる時間があり
ありがたかったのですが、
授業がある日常に復帰するのに少々時間がかかりました。
少々5月病になってしまっていたようです。
学生たちも、連休から1周間経って、
やっと平常的な気分になってきたようです。
中には5月病に悩んでいる学生もいるでしょうが、
なんとか立ち直って欲しいものです。

2019年5月9日木曜日

1_167 グランドキャニオンの不整合 4:ジルコン

 花崗岩質のマグマが固まる時、ジルコンという鉱物ができます。ジルコンは丈夫な鉱物なので、風化や侵食を受けても残ります。ジルコンを調べることで、スノーボールアースの様子を復元しています。

 スノーボールアースのような氷河期があると、陸地が激しく侵食されと考えられます。現在の南極大陸は、氷河(氷床といいます)で覆われています。氷床が自重によって移動することによって、大陸地殻は激しく侵食を受けていきます。スノーボールアースの時代には、すべての大陸(赤道付近でも)に、氷床、氷河が形成されていました。そこでは、南極の氷床と同じように、地殻の侵食作用が大規模に起こったと考えられます。
 堆積物の形成年代を調べて、地球史の全時代でみていくと、カンブリア紀の始まり、つまり顕生代のはじまりを境にして、顕生代以降は大量になります。カンブリア紀以前は、堆積物はどの時代のものも少なく、その量は5分の1以下になっています。
 古いものは、侵食などで少なくなるのは、摂理で当然なのですが、それにしてもある時から急にその量に差があるのは、不思議な現象です。何らかの原因で、激しい侵食を受けているのではないかと考えられます。その原因が、スノーボールアースによる侵食だと考えられます。激しい侵食の結果、グランドキャニオンの不整合ができたというシナリオになります。
 スノーボールアースの氷河が、何度かにわたって形成されることで、残された堆積物の量からみると、大陸地殻(堆積物も含めて)の大半が侵食されたことになります。削られた堆積物は、海洋プレートの沈み込みで地殻深部にもたらされたと考えられます。ただし、地殻物質は堆積物になっても密度が小さいのマントルに沈み込むことはできません。
 その検証に、報告ではジルコンという鉱物を用いています。 ジルコンは火成作用の年代を調べることにも用いられているのですが、この報告では、同位体組成のデータを集めて検討しています。ジルコンという鉱物は、花崗岩質のマグマから結晶化してできたものです。そのため花崗岩質マグマの性質を反映していることになります。
 ジルコン中の酸素とハフニウム(Hf)の同位体組成を検討すると、スノーボールアース直後に両者ともに、激しい数値の変化が見られました。酸素同位体は、地表の低温の熱水の影響を受けたことを示していました。その熱水は、堆積物から由来している可能性があります。
 酸素とハフニウムの比をとると、花崗岩のマグマが形成される時に、地殻物質が取り込まれたときに、大きく変化することがわかっています。比が正の値になる時は地殻物質の取り込みが多くなり、負の時は少ないとされています。比は正の大きな値となっていました。
 以上のことから、グランドキャニオンの不整合の時代には、激しい侵食を受けて、その物質が地殻物質として再利用されることになったと考えられています。さらにもうひとつの証拠も見つかっています。それは、次回としましょう。

・人それぞれ・
今回のような長い休暇は人によって過ごし方が
いろいろあると思います。
正規雇用に人は、楽しく長い、休暇となるでしょう。
非正規雇用の人にとっては、
大幅な収入減になりかねません。
サービス業の人にとっては、
かきいれ時でもあり、
休めない人も多いかもしれません。
学生の多くは、アルバイトをしています。
業種も飲食はコンビニのサービス業が多いので
忙しそうに働いています。
生活費を自力にまかなっている学生にとっては、
長い休みにはしっかり稼げるのでいいかもしれません。
同じ非正規雇用の人にとっても、
ゴールデンウィークは、人それぞれで多様ですね。

・桜の花見・
ゴールデンウィークはいかが過ごしだったでしょうか。
私は、前半の5日間は、
家内と二人で北海道の地方に滞在していました。
静かな休日となりました。
桜が咲き始めていて、桜の多い近くの公園に、
満開の桜を毎日に見み通いました。
そんないい場所なのに、人はほんどいませんでした。
後半は、自宅で過ごしました。
毎日、午前中は大学に出て仕事をして、
午後にはのんびりとしました。
大学の桜並木も、ほとんど人のいなところで
満開を迎えたのを見ました。
天気のいい日には、夫婦で有名な公園に
花見にいきました。
幸いまだ桜が満開で、再度、花見ができました。

2019年5月2日木曜日

1_166 グランドキャニオンの不整合 3:スノーボールアース

 グランドキャニオンの大不整合は、どのような原因によるものでしょうか。それに関する新しい報告が出されました。その原因はスノーボールアースと呼ばれるものです。スノーボールアースとは、いったいなんなのでしょうか。

 グランドキャニオンの「大不整合」と似たような大規模な不整合は、世界中の地層で認められています。似たような時期に、大規模な不整合が形成されいます。その空白の期間は、グランドキャニオンでは5億年ほどになります。その間、いったい何があったのでしょうか。
 その間に起こった問題としては、氷河期の期間とその原因ではないでしょうか。期間とは、どれくらいの間、陸化していたのかということです。実は、これは「大不整合」だけでなく、すべての不整合で起こる問題です。不整合とは、古い堆積物を侵食していくので、10億年前の地層が不整合の下にあっても、実はそれが不整合の始まりではありません。不整合はもともとあった地層を侵食しますので、堆積していた時期も不明になってしまいます。侵食の結果、10億年前の地層で不整合面ができていることになります。
 もしかするとその間、何度か海になったり、陸になったりを繰り返して、最終的に10億年前の地層まで侵食されたのかもしれません。空白の期間である5億年は、山ができ海になるには十分すぎるほど長いものだからです。この問題は、なかなか難しいものとなります。
 もうひとつの原因については、不整合ごとの個別の話になります。ただし、グランドキャニオンのように大規模な「大不整合」は、全地球的な原因を考えなければなりません。
 米国科学アカデミー紀要(PNAS)の2019年1月号に、「大不整合」に対して新しい考え方が提示されました。バークレー地質年代学センターのブレンヒン・ケラーさんらは、
 Neoproterozoic glacial origin of the Great Unconformity
(大不整合の新原生代の氷河期起源)
という論文を出しました。このタイトルは、新原生代(10億~5億4100万年前)にあった氷河期によって「大不整合」ができたという意味です。ここでいう氷河期とは、多くの人が習ったことのある、第四紀に繰り返し起こったものではありません。「スノーボールアース」と呼ばれる氷河期は、全地球的な現象で、大規模なものです。
 スノーボールアースについては、エッセイでも何度か取り上げていますが、原生代に、全地球的に起こった大規模なものです。スノーボールアースとは、雪玉のことです。この時期の地球は、雪玉のように、真っ白な玉のようになっていたという意味です。海は氷、陸も氷河が覆い、すべて氷の世界になっているということです。雪ではなく氷なので、「アイスボール」になっていたのでしょうが、スノーボールアースと命名されています。
 スノーボールアースには、大きく2つの時期があったと考えられています。古原生代初期と新原生代末の2度です。古原生代初期のスノーボールアースは、ヒューロニアン氷河期(約24億5000万年前~約22億年前)と呼ばれています。そして、新原生代末のものは、少なくとも2度続けて起こったと考えられており、スターチアン氷河期(約7億3000万年前~約7億年前)と、マリノニアン氷河期(約6億5000万年前~約6億3500万年前)と呼ばれるものです。
 スノーボールアースでは、海は赤道域まで完全に凍ってしまい、陸著も氷床が発達していたと考えられています。海も1000mの深さまで凍ったとされるものです。最近の氷河期とは比べものにならないほどの規模です。
 このスノーボールアースが、新原生代末の「大不整合」に原因ではないかというのが論文の意味するところです。その詳細は次回としましょう。

・リフレッシ・
ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしょうか。
私は、昨日まで出かけていました。
北海道の田舎で、同じところに4泊して
夫婦でのんびりとしていました。
ただし、このエッセイは、予約送信をしていますので、
その感想は別の機会になります。
その地は、調査で何度も訪れているのですが、
自宅から4時間ほどでいけます。
4時間は、近くもなく遠くもなく、
北海道では日帰り出張可能なところなのですが、
所要があれば1泊する距離でしょう。
でかけているという気分になるところです。
その地は、都会的な便利さがありませんが、
必要なものはそろっています。
なんといっても、ここは自然がたっぷりと
満喫できるところです。
そんな自然に浸ってリフレッシできます。

・ネットワーク・
ゴールデンウィークの期間、
大学のネットワーク環境の更新するために、
短時間ですが接続ができなくなるとのことです。
メール確認もできないこともあるようです。
そのため、このエッセイは事前の予約送信しています。
大学に来てみないと、状況がどうなっているか
わからないので、予約送信にしました。
2日からは大学に通常通り来る予定をしているのですが
ネット環境がないと、いつもとは少々違ってくるかと思います。
まあ、実際にはそれほど不自由はないと思いますが。

2019年4月25日木曜日

1_165 グランドキャニオンの不整合 2:不整合の形成

 地層には多数の境界があります。不整合も境界です。しかし、地層の境界と不整合の形成は、まったくちがうものです。不整合はどのようなプロセスで形成されていくのでしょうか。

 地層とは、海底に土砂が繰り返し流れ込んで溜まったものです。多くの地層は、一気に短時間にたまります。地層の形成は、陸の近くで常に起こる大地の営みでなされます。不整合は、たまに見つかる珍しいもので、地層に見られる整合とは全く異なったでき方をしています。不整合には、侵食を受けた面があり、その面はでこぼこしたものになります。ここまで前回のエッセイで述べたのですが、今回は不整合の意味を考えていきます。
 不整合にはでこぼこの侵食面があります。それは、その地層が、堆積場から侵食場に変わったことを意味します。侵食が激しいのは陸地ですから、不整合ができるには、海から陸への転換が必要になります。陸地で侵食を受けた後、再び海になって、新たな堆積物が堆積していきます。このような複雑な過程を経た結果、地層の間に不整合ができます。不整合の形成のプロセスは、海と陸と巻き込んだ大地の激しい変動があったことを物語ります。
 通常の整合の地層境界の期間にも、堆積物は一気に形成されますが、それ以外の期間、堆積物はほとんどたまりません。それが地層境界にとなります。地層境界にも多くの時間がかかっているのですが、不整合の形成のための期間は、何桁も違った長い期間に及ぶ変動になるはずです。ただしその期間は詳しく調べなければわかりませんが。
 例えば、造山運動があれば山ができます。長い時間が経過すれば、やがて侵食されていきます。もし、近くで新たな造山運動が起これば、山が海になることもあります。あるいは、海洋プレートの沈み込むようなところでは、海の岩石が陸側に付加したり、陸側の岩石が侵食されたりします。そのような場では、海や山ができたり侵食しされたり、変動の激しい場となります。このような大地の変動場で、山になったり海になったりする作用が起これば、不整合が形成されます。
 では、もし不整合が、安定した大陸中の地層で見つかったら、その地層ができた時代に、非常に大きな変動があったことを意味します。その不整合が、他の同時代の地層でも見つかったとしたら、それは全地球的な地球史上でも大きな変動と結び付けられるのではないでしょうか。
 グランドキャニオンの「大不整合」と呼ばれるものがあります。先カンブリア紀、10億年前より古い時代の地層の上に、不整合でカンブリア紀(約5億4000万年前よりはじまる)の堆積岩が覆っています。その「大不整合」の意味について、新たな考えの報告が、今年の1月にありました。
 それは、次回としましょう。

・春の芽吹き・
今年は3月末から4月当初にも寒い日がありましたが、
暖かくなってきました。
里の雪も排雪場以外ではすべて融けました。
北海道の植物でも、春の進みが感じられます。
春先の草や花が芽吹きはじめています。
フキノトウやツクシなどが一気に咲き出しました。
桜はまだ少し浅いですが、春めいた日が続いています。

・ゴールデンウィーク・
大学では、今週で4月の講義は終わりで、
カレンダー通りに休日を設定していますので、
長いゴールデンウィークになります。
里帰りする学生も多くいるでしょう。
クラブやサークルのある学生は、
帰省することなく、大学で活動してきます。
教員である私は、今週も新しい講義の準備で四苦八苦しています。
ですから、ゴールデンウィークはしばし休憩したいのですが、
どうなることでしょうか。

2019年4月18日木曜日

1_164 グランドキャニオンの不整合 1:地層の境界

 今回のシリーズは、北米大陸の景勝地、グランドキャニオンの地層が話題となります。堆積岩の地層にある境界の意味をまずは考えてみましょう。さらに、不整合には、どんな意味があるかを考えていきましょう。

 地層とは層があるものをいうのですが、その層の境界面は、すべてほぼ平らで水平な面になっています。多くの境界は似たような面となっており、境界は繰り返しています。そのような地層を整合といいます。
 本来地層は、堆積岩だけでなく、いろいろな岩石を含むのですが、今回の話題は、堆積岩からできているものです。よく見かける「いわゆる地層」を想像してみてください。日本列島には、この地層が多いのですが、連続した堆積作用でできたものではありません。なぜなら、境界があるということは、違った岩石が接しているために、違いが見えていることになります。そこには少なくとも、物質的な不連続が生じています。
 ですから整合とはいっても、地層境界には不連続があることになります。先程思い浮かべた「いわゆる地層」は、タービダイト層と呼ばれるもので、日本列島では頻繁に見かけるものです。
 タービダイト層は、海岸や河口付近で溜まった土砂が、海底の土石流によって、より深い海底に流れ込んだものです。土石流が海底に堆積して一枚の地層となります。堆積物は一気に堆積していきますので、堆積物は短い期間の記録にすぎず、地層の境界に長い時間が詰まっていることになります。
 土石流が繰り返し発生すれば、タービダイト層ができていきます。タービダイト層は、土石流の流れた短時間の出来事を記録しているだけで、多くの時間は地層境界になり、ほとんど時間の記録はされていません。しかし、このような地層を整合と呼んで、連続してできたものと考えています。記録としては不連続なものですが、連続として扱っていることになります。これは注意が必要です。
 しかし、それはもっと不連続なものが地層には見つかるため、それと比較していくとそうなります。それは不整合と呼ばれるものです。不整合とは、地層の間に見られる境界の一種です。境界の特徴として、侵食を受けた面があり、その面はでこぼこしたものになります。時にはその面に、礫岩が堆積していることがあります。基底礫と呼ばれています。整合とは明らかに違ったもので、不整合は繰り返すことはあまりありません。
 この不整合は地質学的には大きな意味があります。それは次回としましょう。

・春へ・
北海道もようやく暖かくなってきました。
今年の春は、行ったり来たりで
なかなか深まりませんでした。
しかし、先週の週末前後から暖かくなり
今週の初めには温かい雨となりました。
このような温かい雨が降ると
一気に雪解けが進みます。
そんな繰り返しで春が深まっていました。

・新たな付き合い・
新入生とのはじめての授業がありました。
1年生の前期の授業はひとつしか担当していないので、
週に一度しか会うことがありません。
それでも学科の学生ですから、
親しみを持って接することになります。
学科では担任制度をとっているので
日々重ねると付き合いも深まっていきます。
そんな新しい出会いが、今年もはじまりました。

2019年4月11日木曜日

2_170 単細胞から多細胞へ 4:捕食圧

 ミドリムシの多細胞化は、実験室では簡単に起こるようです。そんなに簡単に起こるという結果があると、そこから新たな疑問も湧いてきます。そんな結果と疑問の連鎖が、新しい科学の芽となるのでしょう。

 自然界でもミドリムシは、世代交代を繰り返しています。でも、多細胞化がそうそう起っているように見えません。同じミドリムシを用いた実験では、なぜ、多細胞化が起こったのでしょうか。それは、多細胞化を促したような条件を設定したからです。
 その条件とは、多数のミドリムシのいる状態に、一匹だけ、ミドリムシを捕食するヨツヒメゾウリムシ(Paramecium tetraurelia)が入れられていました。5つのグールプで実験したところ、2つのグループで多細胞化が起こったのです。つまり、ミドリムシに捕食という自然界でも当たり前に起こる生存のためのストレスを加えることことによって、多細胞化が簡単に起こったということです。
 この結果は、いくつか重要な内容と、そして疑問点も示しています。
 まず、多細胞化は、少なくとも捕食圧がかかった純粋培養の状態であれば、簡単に起こることは示されました。論文のタイトル
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
となっていますが、「捕食」が重要であることを述べています。そして、多細胞生物の細胞数もサイズも異なっているということでした。多細胞化は、捕食者に対して身を守る手段となりえると主張しています。捕食圧が単細胞から多細胞化には必然性がありそうです。
 論文では、50週(1年程度)の短期間に多細胞化が起こってしまうことも同時に示しています。すると、こんなに簡単に起こる多細胞化が、なぜ、自然界で起こっていないのだろうか、という疑問です。限定された条件とはいえ捕食圧がかかった環境など、広い地球であれば、なかりの頻度で多細胞化がおこっていいはずです。なぜ、自然界では起こらないのでしょうか。人工の環境だから、多細胞化しても保存されていくのでしょうか。もしそうなら、自然界では、何が多細胞化を阻害しているのでしょうか、あるいは捕食者も進化して、多細胞生物をも捕食できるようになり、多細胞生物の進化を阻止するのでしょうか。
 または、自然界でも多細胞化はしょっちゅう起こっているのだが、知られていないだけなのでしょうか。もしそうだとすると、今でも新しい多細胞生物が生まれていることを示しています。それは、単に新種生物として、やがては見つかるのでしょうか。
 多細胞化のような大きな進化でも、条件さえ整えば、短時間で起こってしまうのでしょうか。すると多細胞化に続く、「カンブリアの大爆発」も、それほと進化上、奇異なことにならないのかもしれません。すると、次なる疑問として、なぜカンブリア紀にだけ、爆発的なのでしょうか。
 多細胞化のためのストレスは、ヨツヒメゾウリムシの捕食圧だけでしょうか。他の種類の捕食者ではどうでしょうか。あるいは他のストレス、たとえは、温度、食料、化学成分、水圧、光など生存を脅かすようなストレスにはどう対応するのでしょうか。多細胞化以外の他の進化も生まれないでしょうか。いろいろ想像したくなります。
 ひとつの大きな発見があると、次々と疑問が湧いてきます。まあ、これが科学の面白さでもあるのですが。

・新学期・
大学の新学期が始まりました。
1年生の担任もしています。
今年の1年生のゼミナールは
今までのものとは、全く違ったものになります。
アクティブラーニングを全面的に進めていくゼミになります。
新しい試みをいろいろするつもりですが、
うまくいくかどうか、やってみるしかないでしょうね。
ただ、精一杯努力や準備をしていくしかないのでしょうね。

・知床・
今年の野外調査の地は、昨年に続いて
北海道に半分の労力をかける予定です。
北海道に戻ってきて18年目ですので、各地を巡っているのですが、
実はまだ、いっていないところが、あちこちあります。
いつでも行けると思っていたり、
じっくり時間かけて見て周りたいなどと思っていると
となかなか行けないものです。
その一つが知床です。
雪が深くでなかなか峠道が開通しないのですが、
今年、行く予定を立てています。
まだ、時期は正確には決めていないのですが、
初夏に行く予定です。

2019年4月4日木曜日

2_169 単細胞から多細胞へ 3:ミドリムシ

 ミドリムシは動物と植物の両方の性質もっています。多細胞化のための実験は、ミドリムシを用いておこなわれました。実験の結果、進化は、かなり短い期間で、起こっていることがわかりました。

 多細胞化への進化は、動物ではひとつの系統で、植物ではいくつかの系統で起こっていました。多細胞化は動物では難しい進化だったようですが、植物には比較的起こりやすそうでした。でも、多細胞化は生物の生存競争には有利だったようで、その後は大きく繁栄しています。
 では、体細胞化への期間はどれくらいでしょうか。そんな疑問に対する研究結果がだされました。イギリスのNatureのScience Reportに2019年2月20日で報告されました。
De novo origins of multicellularity in response to predation
(捕食に反応した多細胞化の”新たな”起源)
というタイトルです。この報告によると、50週で多細胞化が起こったことが、実験で確かめられました。あまりの速さに、かなり驚かされました。
 この研究では、多細胞化の様子を動画として撮影されていて、進化の瞬間をみることができます。実験に使われたのは、コナミドリムシ(Chlamydomonas reinhardtii)という鞭毛虫の仲間で、単細胞生物です。ミドリムシは、不思議な生物です。鞭毛で運動する動物の性質をもっていますが、葉緑素をもって光合成もしています。動物と植物の両方の性質をもっています。鞭毛虫は襟鞭毛虫にも近く、多細胞化が起こりやすい性質をもっているようです。
 実験は5つのグループでおこなわれました。そのうち2つのグループで、多細胞化を起こしました。ですから多細胞化は偶然の現象ではなく、ある程度必然性がありそうです。
 多細胞化は、50週で1年に満たない短い間で起こりました。生物の進化の歴史からすると、非常に速いものとなります。このような短期間で進化できたのは、その間に750回ほどの多数の世代交代をしているためでしょう。コナミドリムシのような単細胞生物では、細胞分裂で世代交代が起こり、その期間が短いので、試行錯誤自体は、750回繰り返されていたことになります。
 しかし、考えたらミドリムシの世代交代は、長い歴史の中で、いつでも、どこでも繰り返し起こってきました。いくら実験で条件を整えたとしても、突然、多細胞化が起こるのは、なかなか難しいことに思えます。実はこの実験では、ある工夫がなされていました。それが多細胞化を促したようです。この報告もその原因を探ることが目的でした。詳細は、次回にしましょう。

・De novo・
論文のタイトルのDe novoは、
ラテン語で「新たに」「再び」を意味する言葉です。
英語のラテン語が混在するのは少々違和感があります。
De novoは、生化学においては、
反応名や経路名などに用いられているので
違和感はないようです。

・新年号・
新年度がスタートしました。
大学は授業時間の確保のために、
4月も2週目から講義がスタートします。
最初の1週間で、大学では新入生の対応でバタバタしています。
そこに在学生の行事も加わります。
非常に忙しくなります。
ですから、このエッセイは3月末に発行しています。
4月になれば新年号で大騒ぎとなっていることでしょう。
みんな公文書で年号の変化はわずらしいので
西暦で統一して欲しいと思っているでしょうが、
バタバタが起こっています。
まあ、年号が変わっても、
このエッセイには変化はありませんが。