2024年9月19日木曜日

3_218 最外核の水素富化層 1:E"層

 前回のシリーズはD"層についてでした。今回のシリーズは外核のE"層についてのシリーズです。E"層とは、現在あまり使われていない名称ですが、外核のもっとも外側の部分のことです。E"層の様子を探る研究が報告されました。


 前回のシリーズでD"層についての実態解明が、なされつつあることを紹介してきまた。核とマントルの境界付近には、まだよくわかっていないE"層と呼ばれる層があります。ところが、E"層は、あまり使わわれていない名称です。
 E"層の名称の由来を紹介しておきましょう。かつて、地震波による地球の内部を、地表からA層(地殻)、B層(上部マントル)、C層(マントル遷移層)、D層(下部マントル)、E層(外核)、F層(外核と内核の境界)、G層(内核)の7層に区分されてきました。外核がE層となり、E層のもっとも外側をE"層として区分され呼ばれています。
 今回紹介するのは、E"層の実態を明らかにしようとして研究がされました。アリゾナ州立大学のキム(T. Kim)さんたちの研究グループが、2023年11月13日発行のNature Geoscience誌に、
A hydrogen-enriched layer in the topmost outer core sourced from deeply subducted water
(深くに沈み込んだ水から供給された最外核の水素に富んだ層)
という論文を報告しました。
 この論文内で、E"層という名称が使われています。D"層同様に、最外核でも地震波が遅くなる領域があります。数十~数百kmの幅を持っているため、E"層と名付けられています。
 外核は、地球の深部で溶けている金属鉄を主成分とし、マントルはケイ酸塩からなるため、化学的特徴が非常に異なっています。そのため、この境界部は非常に特別なものです。マントル側はD"層として研究されてきているのですが、E"層はあまり研究がされていませんでした。高温高圧の条件であることもさることながら、化学的特徴が異なるため、実験も難しくなっています。
 今回の論文では、その境界の実験を進めています。どのようは工夫をしているのでしょうか。詳細は次回としましょう。

・シリーズが3つ連続・
いくつかの重要だと思える核に関する
論文がたまってきています。
それを順番に紹介していくことにしました。
前回も今回も含めて、
核やマントルの境界に関する論文3つを
連続のシリーズとして紹介していくつもりです。
核はその存在は古くから知られていたのですが
研究方法がなかなか開発できず、
最近になって研究が進むようになってきました。

・野外調査中・
現在、野外調査中なので、
このメールマガジンは予約配信しています。
来週からは、後期がはじまるので、
野外調査が集中して進められるのは9月だけです。
そのため、9月が忙しくなります。
さらに今年度で退職なので
校務としての野外調査も最後になります。
噛み締めながら、野外調査を進めています。

2024年9月12日木曜日

3_217 外核とマントル最下部 3:D"の広がり

 この研究で、南半球のD"の様子を観測がされました。これまでの知見を塗り替えるようなものが、見つかってきました。問題は、なぜそうなっているのかです。ここから科学がはじまりそうです。


 ハンセンたちの研究チームは、手薄な南半球の地震波を計測するとにしました。しかし南半球は海が多いため、南極大陸に15箇所の観測点を設置しました。そして、3年にわたってデータを収集していきました。
 その結果、南半球のマントルの底には、広範囲にD"(超低速度帯ULVZと論文では呼ばれています)が発見されました。D"は、これまで考えられていたよりも、ずっと広範囲に広がっていることがわかっていました。
 さらに、D"の厚さは濃度はさまざまですが、マントル下部全体に広がっている可能性もでてきました。これまでD"はないとされていたところも、薄いものがあるかもしれません。
 D"の由来は、沈み込んだメガリスがあります。これは低温のD"となります。ところが、南半球には、海が多いのですが、海洋プレートがマントルに大量にもたらすような沈み込み帯が、多くはありません。では、この南半球の広範囲のD"、あるいは全地球のマントルの底に広がるD"は、いったいどこから由来したのでしょうか。
 沈み込んだメガリスが、マントルに底を流動しているかもしれません。そのようなことが起こりうるでしょうか。シミュレーションや岩石の高温高圧での物性に関する研究が、さらに必要でしょう。
 一方、D"には温かいものもあります。これは、古いメガリスが温まったものという考えがありますが、別の可能性も指摘されてきました。外核は液体の鉄で活発な対流をしています。その対流とともに、液体の鉄に含まれている成分で、岩石に取り込まれやすい成分(親石元素)や揮発成分(水素、酸素など)が、マントルの岩石に反応して取り込まれたという考えもあります。そのような成分を含んだマントル物質も温まり地震波が低速度になっていくと考えられています。
 またマントルの岩石が、外核に対流の熱によって、少し溶融しているとも考えられます。少し溶融してていても、地震波速度は小さくなります。
 D"の実体が少し鮮明なってきました。しかし、まだまだわからないことがいろいろあります。ここから、新しい科学がはじまっていくことになりそうな予感がします。

・野外調査・
9月の新学期がはじまります。
野外調査を連続的に進めています。
その傍ら、本の執筆の最終段階を進めています。
9月は研究を進めることがいろいろあるります。
その他に後期の校務も9月から
本格的にスタートしました。
忙しくて、あっという間に
9月は過ぎていきそうです。

・9月は忙しい・
8月上旬に購入していた、
新しいPCのセットアップを
9月に入って進めています。
このPCは、退職後に使うためのもので用意しました。
小型のコンパクトなものです。
小さいですが、新しいシステムになります。
するとそこでは動かない
アプリケーションがいくつもあります。
工夫でなんとなるのか、
それとも、諦めて代替のものを探すのか。
その判断もしていかなければなりません。
9月は忙しいです。

2024年9月5日木曜日

4_187 フォルンフェルスの付加体

 道南瀬棚の海岸には、花崗岩と付加体の堆積岩が接しているところがあります。その露頭は、新しくできた道路の入口にあります。なかなかの見ごたえがある露頭なので、何度が訪れています。


 北海道の南部、瀬棚町には、海岸を辿る道道740号線があります。この地域には、何度も出かけていいます。以前は、いくつかのトンネルはできていたのですが、一部開通していないところがあり、不通の道路で通り抜けることができませんでした。この間、陸側に国道229号線があるので、日常生活には不自由はなかったのかと思います。
 開通前は、南側が太田神社にあるトンネルの入口まで、北側が鵜泊(うどまり)漁港までで、それぞれバリケードがあり、通行止めになっていました。両地は、バリケード付近まで、昔から生活の場がありました。
 大田神社の本殿は、海を遥か上から望む崖の上にあります。そこにたどり着くためには、急傾斜の石段があり、その踏み面も狭く、足を横にしないと登れないほどです。安全のために何本かのロープがあり、それを掴んで登っていくことになります。この大田神社の本殿周辺はジュラ紀の付加体が分布していますが、海岸にある拝殿の周辺は、白亜紀の花崗岩が分布しています。ちょうと付加体と花崗岩の境界にトンネルがあります。
 興味深いのは、北の鵜泊の方でした。こちら側には、漁港に海岸にジュラ紀の付加体が分布しています。激しく褶曲したタービダイト層が、海岸沿いに分布しています。ここの地層は、すぐ南に広がっている白亜紀の花崗岩類の熱によって接触変成作用を受けています。見かけは堆積岩のままなのですが、固くなったホルンフェルスと呼ばれる接触変成岩になっています。
 付加体のよく見える海岸に出るには、漁港の水産物処理場の裏にでなければなりません。許可をもらって見にいくことになります。残念なことに、こんな見事な、地層がでているのですが、海岸には処理場の廃液が流されているために、ひどく汚く臭う状態になっています。しかし、写真には臭いは映りませんので、画像をたくさん撮影しました。
 海岸沿いは、硬い花崗岩が分布する地域で、海岸まで切り立った崖となっています。大田神社と鵜泊の間は、硬い岩石を掘り進めなければならないので、多数のトンネルが掘削しなければなりません。そのため、工事が遅れていました。
 工事中の区間は、2013年に開通しました。開通後、しばらく瀬棚の方には出かけていなかったのですが、コロナ終了後、瀬棚方面から海岸沿いを訪れました。そのとき、やっと開通区間を通ることができました。ただ、当日は吹雪いていたため、調査はできずに、通り抜けるだけでした。日本海からの季節風がひどかったのですが、トンネルが多かったので、安心して通行することができました。
 その後、2度ほどこのルートを通りました。今年の春にも調査をしました。漁港の海岸にあるフォルンフェルスへも再訪しました。この9月中旬にも通る予定です。トンネルが多くて露頭を見れるところは少ないですが、それでも海岸沿いを進めるのはいいですね。

・予約配信・
本エッセイは、予約配信をしています。
月の初めのエッセイは、
地球地学紀行をテーマとしています。
今年で退職ですので、
北海道を中心に野外調査を進めています。
7、8月は暑いので調査は休んでいました。
9月早々に再開をしました。
5泊6日で道東に調査にでています。
移動距離が長いので、
調査の日程が長めのほうが有効です。
以前、道外に長期の調査にでていたのですが、
最近は北海道中心に進めています。

・いろいろと調整を・
長期の調査にですためには、
出かける前には、不在時の時の分も
研究や校務を計画的に進めて
いかなければなりません。
会議や打合せも調整しておきます。
今年度で退職なので
こんな苦労も最後になりそうです。