2021年9月16日木曜日

1_197 地球内の月 3:LLSVP

 マントルには、周りより暖かところと、冷たいところがあることは、知られてました。マントル物質が沈んだり上昇したりする、マントルプルームというモデルに直結していました。それをサポートするシミュレーションもあります。


 地球内部のマントルは、カンラン岩からできていますが、内部を詳しく見ると、違いがあることがわかってきました。地球内部を地震波でみる方法があります。地震波にはいろいろな種類があり、その種類の特性に応じて地球内部の物性の違いを調べるのに利用されています。

 同じ種類の地震波では、伝わるときの速度の違いがみられます。

 地震波速度が速くなるところは、温度が低いか硬い部分かです。例えば、海洋プレートが沈み込んでいるところでは、速くなります。冷たい太平洋プレートが、日本列島の下へと沈むこんでいるところでは、速くなります。

 また、地震波速度が遅いところは、暖かい部分か柔らかいところになります。暖かくなっているところでは、岩石が溶けてマグマができるような場になります。火山噴火の予知などに利用されています。

 もっと広く大規模に地震波を観測すると、マントル内部の状況を読み取ることができます。日本列島から沈み込んだ海洋プレートが集まっているところが、ユーラシア大陸の下に見えています。さらにその下部のマントルと核の境界部には、昔沈み込んだ海洋プレートの塊が落ちていったように見える冷たいところがあります。また、巨大な暖かいマントル物質が、マントルの中(遷移層深度650kmのところにある上部マントルと下部マントルの境界部)を上昇してきているようにみえるところが、2箇所ありました。

 このようにして、マントル物質の温かい部分と冷たい部分とその位置から、マントル物質の上下運動として、プルームテクトニクスという考えで説明されました。プルームテクトニクスは、プレートテクトニクスよりもっと大規模な地球全体の運動となり、全地球の運動像と考えられてきました。

 暖かいマントル物質は、深部にあるのですが、それに由来するマグマが火山として地表に噴出しているます。火山岩を調べることで、間接的ですが、暖かいマントルの状態を知ることが可能です。

 冷たい部分は、大規模S波速度低速度領域(large low-shear-velocity provinces:LLSVP)と呼ばれています。太平洋の下とアフリカの下、3000kmにありました。マントルの底で外核に近いところです。厚さが1000kmで、幅が2000から3000kmほどある巨大のものです。海洋プレートが沈み込んだものだと考えられ、シミュレーションでも確認されました。例えばmジョーンズらの共同研究で2020年で報告されました。

 Subducted oceanic crust as the origin of seismically slow lower-mantle structures

(地震波低速度の下部マントルの構造の起源としての沈み込んだ海洋地殻)

というタイトルでした。

 この報告では、この部分の最下部100から200kmでは、海洋プレートの玄武岩があり、横や上部になるとカンラン岩の成分に変わっていくと考えると、よく説明できることが示されました。

 この報告で、LLSVPが海洋プレートであるという考えを支持していました。しかし、これはシミュレーションであり、可能性のひとつではありますが、検証されたものではありません。

 別の考えが示されました。それは、LLSVPがティアに由来するのではないかというものです。


・他の可能性も・

これまで、冷たいマントルと、暖かいマントルの役割は

プルームテクトニクスにおいて、

きっちりと位置づけられていました。

そのモデルに基づいて研究は進められてきてました。

今回紹介したのは、その一部です。

しかし、検証されていないことに関しては、

他の可能性も探る必要があるでしょう。

それが次回紹介する論文となります。

また今回のシリーズのテーマでもあります。


・校務出張・

9月はじめ、北海道は緊急事態宣言でした。

その時、今週の校務出張が入りました。

道東へいくこといなりました。

その続きに、大学の許可をとって、

道東の調査をすることも許可されました。

今回のエッセイは1周間前に配信予約したものです。

緊急事態宣言が終わっているはずですが、

注意しながら調査してこようと考えています。