2021年8月12日木曜日

2_197 LUCA 6:OD1

  LUCAの候補として、最近発見されたCPRというグループが有力であることがわかってきました。CPRは種類も多く、中でもOD1というグルークが、LUCAに近いことがわかってきました。


 CPRを調べて分類する試みがなされています。ただし、CPRは、種の培養が困難なので、充分なゲノム解析ができません。一部ですが、シングルセルゲノム解析といって、単一の細胞、あるいはごく少数の細胞から、ゲノム解析する方法も開発されてきました。しかし、多くはまだゲノム解析はできず、メタゲノムミックスでの解析(ゲノムビニング、メタゲノム分別などとも呼ばれている)の状態です。

 Yellowstoneのある池ので、CPRのメタゲノムミックスのデータから、系統解析がなされました。12の系統群(candidate division)に区分され、それらはOP1~OP12と命名され、OP11はさらに5つに細分されました。OP11のうちのひとつ、OP11-Derived 1(OP11から由来した1番目ものをOD1と呼ぶ)のゲノム解析がなされました。OD1は、Parcubacteria(つましいバクテリア)と命名されました。

 OOD1の特徴を、佐藤ほか(2019)の報告にもどついて、まとめておきます。多くは、CPR全体にも通じる特徴でもあります。

 まず、ゲノムサイズが小さいことです。CPRはもともと小さい(100万塩基対,のですが、44.5万塩基対しかありません。塩基対の英語が、base pairなので、塩基対の数をbpを単位として表します。44.5万塩基対は445 kbpとなります。

 次の特徴は、膜や自己複製のための遺伝子はあるのですが、代謝の遺伝子はもちません。これは、共生を前提とし生きていることになります。ただし、この試料では、微生物の集合(叢 そう といいます)のうち、70%以上をODが占めていたので、単純な共生関係では数のバランスがとれません。

 3つ目は、高アルカリや超還元などの過酷な極限環境になるほど、OD1の割合が大きくなります。

 4つ目は、真正細菌と古細菌の両方の特徴をもっています。つまり、両者の共通祖先に近いのではないかと考えられます。

 これらの特徴のうち、上の2つは、他のCPRにも共通していますが、下の2つはOD1固有のものです。特に最後の特徴は、生物の誕生、LUCAの追求には重要な生物群であることを示しています。

 また、OD1 の生息に必要な条件として、無酸素の超還元の環境で、栄養塩の供給をどうしているのか、物質循環の駆動力は何なのかなどを解明していく必要があります。

 さて、なぜ、ここでOD1を取り上げ詳しく紹介したかというと、日本でもOD1が見つかっており、その重要性が報告されています。それは佐藤ほか(2019)の報告にあるのですが、次回としましょう。


・放散・

CPRの中のradiationは、このシリーズでも紹介してきたように

「放射線」という意味があります。

しかしCPRでは、「放散」という意味で使われています。

今回のOD1の報告からCPRの名称を見つけたので、

radiationを放射線という意味で捉えていました。

それでは意味が通じないので、

放散という意味だと判断しました。

ところが、このCPRは、次回から紹介していきますが、

放射線(radiation)と関係がでてきます。

不思議なめぐり合わせですね。


・ラテン語・

生物の分類名にはラテン語が用いられます。

ラテン語は、現在は使われてはいない言語なのですが、

ヨーロッパでは学術的な記載は

ラテン語でなされていた時代ありました。

その名残が生物分類には残っています。

生物の分類をおこなう研究者はラテン語が必要になります。

さて、Parcubacteriaのparcuは

ラテン語のparcusで

「質素な、つつつましい、節約した」

などの意味があります。

この名の由来は、遺伝子の数が非常に少ないため

つけられたのでしょうね。