2021年8月5日木曜日

2_196 LUCA 5:渾身のMK-D1

 今回紹介するのは、CPRの培養に成功した研究です。その研究には12年という長い歳月がかかりました。ドメインの誕生という生物進化に重要な情報が得られました。


 CPRは、世界各地の極限環境からも発見されています。例えば、アメリカ合衆国カリフォルニア州のpH11以上もある強アルカリの水からも、CPRが発見されました。もちろん、ありふれた場所からも見つかっています。

 現段階でわかっているCPRの特徴として、生物として必要最小限と考えられる遺伝子の数(1000個)よりかなり少ない(400個)、いくつかの重要なタンパク質や脂肪などをつくるための遺伝子がない、核酸を合成する能力もたない、などがあります。栄養源もまだよくわかっていないのですが、子孫を残せることは確かです。そのため、他の生物に依存した生き方(寄生や共生)をしているようです。

 CPRが謎となっているのは、種類が多いのですが、遺伝子解読ができないためでした。それは培養が難しいためDNAを集めることができなかったからです。しかし、MK-D1と呼ばれるCPRの培養に成功しました。

 MK-D1は、紀伊半島のコアの中から2006年に発見されました。CPRは培養が難しのですが、MK-D1は増殖のスピードが大腸菌などと比べる1000分の1ほどしかなく、大きさも0.55μmしかなく、嫌気性の生物でした。しかしアミノ酸をエネルギーとして利用していますが、他の微生物に依存しているため、その微生物を見つけて一緒に培養しなければなりません。

 このような特性から、培養は非常の困難だったのです。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の井町寛之さんたちが、12年の試行錯誤の結果、やっと培養に成功しました。そして、MK-D1の全ゲノムの解読ができました。

 MK-D1のゲノムには、真核生物に特徴的な遺伝子(アクチンやユビキチンなど)があることがわかりました。培養によって、生態もわかってきました。MK-D1は単純な構造なのですが、成長していくと触手のようなものもを多数伸ばし、小さな粒(小胞と呼ばれます)を多数放出していていました。

 MK-D1の遺伝子解析と生態から、真核生物の誕生について、新しい進化説(Entangle-Engulf-Endogenize model)が提案されました。巻き込み(entangle)、飲み込み(engulf)、内部に発達させる(endogenize)という3つのEが特徴なので、E3 modelと呼ばれています。

 真核生物は酸素を利用できるのですが、それはミトコンドリアの祖先となるバクテリアを細胞内に取り込み、共生する過程が起こったためだと考えられています。MK-D1では、E3 modelで、この取り込み、共生が起こることがわかってきました。非常に重要な発見でした。これは2020年1月に科学雑誌「Nature」で報告されました。タイトルは、

 Isolation of an archaeon at the prokaryote-eukaryote interface

 (原核生物と真核生物の境界に位置するアーキアの分離)

というものでした。

 MK-D1は真核生物の誕生の謎に迫りましたが、CPRは他にもいろいろな種類があります。身近な日本の温泉にもいます。そのCPRが生命の誕生につながるのではないと考えられています。それは、次回にしましょう。


・渾身・

今回紹介した研究成果は、

12年という長い研究期間が必要でした。

そこから生まれた成果は、非常に意義深いものでした。

ひとつの成果ではなく、

いくつもの重要な内容をもったものになっている。

それを一つの論文として報告されました。

研究のこれまで成果を集大成した内容でした。

まさに渾身の論文だったのでしょうね。


・ワクチン接種・

札幌で実施されているオリンピックの最中ですが、

札幌ではまん延防止等重点措置が

8月2日から31日まで適用されることが決まりました。

あまりに何度も繰り返される重点措置や緊急事態に

市民はもうすっかり疲れてきました。

市民は政府のいうことに従う気が

失せているのではないでしょうか。

感染症には、ワクチン接種が重要な対策ですが、

日本では国民全員の接種には、

まだだいぶ時間がかかりそうです。

政府の対策はすべて後手に回っているように見えます。