2025年6月5日木曜日

1_234 スノーボールアースの開始 7:衝突が契機の可能性

 全球凍結への契機には、大陸配置は重要でした。しかし、それだけでは充分んではなさそうです。他にも2つの契機の可能性が指摘されてきました。最新の研究成果を紹介してきましょう。


 全球凍結へは、ロディニア超大陸の存在とその分布位置、そして分裂の開始という地質学的条件がそろったためだと前回紹介しました。温かい地域でのひとつの超大陸と、赤道から極地までつながって広がっているひとつの海となっている状態が、全球凍結に向かう必要条件でした。しかし、それだけで全球凍結には至らないようです。十分条件として、なんらかの契機が必要になりそうです。
 前回は、超大陸の分裂によって、多数の河川の形成や、海岸線の増加によって、大気中の二酸化炭素が消費されるという十分条件を示しました。しかし、それが本当に全球凍結の契機だったのでしょうか。その根拠は、必ずしも明瞭ではありませんでした。
 契機の可能性を新たに指摘する論文が、2024年に相次いで報告されました。2024年2月のScience Advance誌に、フー(Fu)さんたちの共同研究による
Impact-induced initiation of Snowball Earth: A model study
(スノーボールアースの衝突誘導による開始:モデルによる研究)
そして、2024年2月のGeology誌にドゥトキェヴィチ(Dutkiewicz)さんたちの共同研究による
Duration of Sturtian “Snowball Earth” glaciation linked to exceptionally low mid-ocean ridge outgassing
(例外的に低い中央海嶺のガス放出と関連したスターティアン「スノーボールアース」氷河期の期間)
という論文が報告されました。
 いずれも、全球凍結への契機として、これまでにない、隕石の衝突と中央海嶺のガス放出の低下という可能性を考えたものでした。
 まずは、フーさんたちの「衝突誘導」とは、シミュレーションによる研究で、天体の衝突を契機に、全球凍結がはじまったという説を紹介しましょう。
 白亜紀の大絶滅を起こした小天体の衝突で、「衝突の冬」と呼ばれる一時的に寒冷化が起こり、その結果、大絶滅が起こりました。もし白亜期末のような天体衝突が原生代末期に起こったとしたら、どうなるのかをシミュレーションした研究です。
 衝突により、成層圏に硫酸塩エアロゾルが舞い上がるという条件で、その濃度をいろいろと変えてシミュレーションをしていきました。その結果、衝突時が、暖かい時期であれば全球凍結には至りませんが、寒冷化がおこっていたら、衝突を契機に全球凍結になることを示しました。
 ただし、これは可能性の指摘にすぎず、衝突の痕跡は、まだ見つかっていません。それも2度も続けておこったという証拠もありません。ですから、可能性としての説に過ぎません。
 ドゥトキェヴィチさんの説は次回としましょう。

・可能性・
可能性を指摘することは、重要です。
もしシミュレーションの結果、
可能性がないのであれば、
その条件では全球凍結は
起こっていないということになります。
ただし、一般に、可能性がないという結果を
論文として報告することはないでしょう。
ですから、今回は起こる可能性がでてきたので
論文となったのです。
しかし、根拠が示せないのは残念ですね。

・遠隔授業・
今回、長期に不在にしていました。
その間の講義は、遠隔授業としました。
コロナ禍による遠隔授業の経験が活きています。
以前なら不在のため休講としていた場合でも
遠隔授業として講義を実施することができます。
今回の講義に関しては、課題を提示して
それを提出することで
評価に加えていくことにしました。