2016年2月18日木曜日

6_132 重力波の観測 1:時空間のゆがみ

 重力波の観測がなされた、というニュースが流れました。このニュースは、他のいろいろな科学ニュースと同列に考えられる方も多いと思いますが、実は今後の天文学の進展に、革命的な影響を与える可能性をもっているものでした。

 先日(2016年2月11日カリフォルニア時間)、世界中に大きなニュースが流れました。重力波を観測したというニュースでした。あちこちでニュースが流れたのですが、その重要性をメディアは、必ずしも十分紹介していなかったように思えます。ここでは、そのあたりを紹介していきましょう。
 そもそも重力とは、質量をもった物質同士が起こす相互作用でした。高校の物理でも、力学で中心的な役割を果たすのは、質量や重力でした。その規則性はニュートンが解明しています。重力は距離の自乗に反比例します。あらゆる物質を通りぬけることができます。通り抜けても、影響をうけることも、減衰することもありません。そんな不思議な性質をもった重力は、どのようにして伝わのでしょうか。
 重力を伝えるものは、波だと考えられていました。それは、今からちょうど100年前に、アインシュタインが予測していたものでした。アインシュタインは、1915年11月に一般相対性理論を発表しました。その後、1916年に、その一般相対性理論から重力波の存在することを予測しました。それからちょうど100年目の記念すべき年に、重力波の存在が証明されたことになりました。
 さて、そもそも重力波とは、なんでしょうか。重力とは物質から発生する力です。アインシュタインは、質量をもった物質があれば、その周辺に質量に応じた時空間にゆがみが生じることを示しました。そのゆがみに変動が起これば、時空間を伝わることになります。時空間のゆがみが、波として伝わります。それが重力波です。重力が伝わる速度は光速です。時空間のゆがみなので、どんな物質の影響を受けることなく伝わることになります。
 その重力波をなんとか捉えたいと、科学者たちが努力してきました。
 重力波は、間接的に捉える方法で、すでに見つけられています。お互いの周りを回る連星は、時空間をゆがませ続けています。そこからは変動する重力波が連続的に発生しているはずです。重力波を発生している分、エネルギーを失っていることになります。そのエネルギーのロスは、連星の回転周期に反映されているはずです。その周期の減速分を計算しました。その計算を証明するために、実際の観測をして、予想通りに結果を得て、証明しました。これにより、重力波の存在が、間接的ですが、証明したことになりました。
 さて、今回の発見は、直接観測でした。その詳細は、次回以降としましょう。

・好奇心・
連星の観測は、アメリカの天体物理学者の
テイラー(Joseph H. Taylor)とハルス(Russell A. Hulse)によって、
1974年におこなわれました。
彼らは、重力波の間接的存在を証明した功績で
1993年にノーベル賞を受賞しました。
今回の観測も、ノーベル賞の呼び声が高いですが、
どうなることでしょうか。
賞や名声を求めて研究している人は、
少ないのではないでしょうか。
一番の動機は、好奇心だと思います。
ただし、研究の規模が大きくなり、
巨額の予算を使うようになります。
そうなると、成果を出さなければならないという
責任感、義務感も強くなってきます。
それに追われる以上に、好奇心が優っていることを願っています。

・合否判定・
大学は一般入試が終わり、
現在、合否判定が進んでおり、
その発表がおこなわる時期になりました。
受験生は、その結果に悲喜こもごもでしょう。
最近は、AO入試や推薦入試で
すでに大学を決定している学生も
多くなっているようです。
最近は、高等学校の卒業生の多数が
大学にいくようになってきています。
しかし、18歳人口が年々減っているため、
大学はなかなか厳しい時代になっているのですが。

2016年2月11日木曜日

2_137 最古のヒト属化石 2:アフリカにて

 古いヒトの化石の出る場所はアフリカが多くなっています。そもそもヒトはアフリカで生まれ、そこから世界各地に広がっていきました。ヒトは、未知の地に向かい、探検する性癖をもっていたのでしょうか。

 今回、報告されたヒトの化石は、属という分類の階層で最古となるものでした。属とは、種の上位のグループになります。ヒトを、人類の進化として扱うときは、ヒト属という分類でもちいることが多く、ここでもヒト属で考えていきます。なお、生物の分類は、種からはじまり、大きな階層に向かって、属、科、目、綱、門、界、ドメインとなっています。
 現在の私たち人類は、ヒト属(ホモ属とも呼ばれています)のホモ・サピエンスという種に区分され、現生人類と呼ばれることがあります。現生人類を分類名でいうと、真核生物ドメイン、動物界、脊索動物門、哺乳綱、サル目、ヒト科、ヒト属、サピエンス種となります。
 ヒト属は、230万年~240万前ころのアフリカで、アウストラロピテクス属と分かれて現在にいたります。同じ属の中には、有名なネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス、2万数千年前に絶滅)のように、さまざまな種を経て、現在のサピエンスという種に至ります。それが、今から40万から25万年前ことです。現在ヒト属に分類されている種は、私たちホモ・サピエンスの一種だけ、他のすべての種がすでに絶滅しています。つまり私たちの祖先につながる種は化石でしか探すことができないのです。
 ヒト属の中で、いろいろな化石が発掘され、それを元にヒトの進化が考えられています。ヒトの化石は、産出はまれです。それは、陸上の大型動物全般にいえるものです。化石の多くは、体の一部、それも破片の場合が多く、一部分から進化を考えるのは、なかなか難しいことです。今回見つかった化石(標本番号LD 350-1)は、エチオピアのアファール州(Ledi-Geraru調査区域)で見つかりました。下顎の左下の骨で、5本の歯がついていました。どのような種であったかはまだ確定していませんが、280万年前のものでヒト属ので最も古いものとされています。
 この年代は、現在見つかっている最古のものより40万年ほど古い時代のものでした。ヒト属のもっとも初期にいた種となります。この時代の化石の発見はあまり多くなり、進化の道筋がよくわかっていない部分でした。ヒト属がどのようにして進化してきたかを考える上で、この化石は、重要な情報を提供することになりそうです。

・氷点下・
先日、帯広に出張にいきました。
冬の帯広は、はじめての経験でした。
雪の痕跡はあるのですが、
道路も乾いていて、車も走りやすそうでした。
幸い天気には恵まれたのですが、
帯広は内陸にあるので、
真冬日で氷点下になっていました。
強い寒波の来た時期にあたっていました。
タクシーの運転手は、
「今日の気温は、16度や20度だ」
などといっています。
帯広の冬は、氷点下が当たり前なので
マイナスをつけることなく温度を表現するとのことです。
ところが変われば、温度の表現方法も変わるのですね。

・文化の記録・
ネアンデルタールの時代以降の人類は
埋葬の習慣がでてきます。
これにより、ヒトの化石は多くなり、
生物としての特徴が明確になります。
また、石器や土器などの製作もするようになり、
多数産出するようになります。
それを手がかりに、文化や時代の細分化が可能になります。
詳細な変遷の記録がつくられることになります。
しかし、そちらは考古学の世界になるのですね。

・2月の大学は・
2月になり、大学の入試が真っ盛りになりました。
北海道の私立大学は早い日程で進みます。
また、大学は後期の成績評価の時期も重なっています。
さらに来年度の講義のシラバスの準備もする必要があります。
講義は終わったのですが、
なにかと慌ただしい時期もであります。

2016年2月4日木曜日

2_136 最古のヒト化石 1:ヒトの源流

 ヒトの化石が稀ではありますが、時々発見されます。新しい化石が見つかり、時に今までない情報が加えられると、ヒトの進化のシナリオに変化が加わることがあります。今回の発見はどのような影響を与えるでしょうか。

 報告は少し前なのですが、人類の最古の化石が発見されたという話題を紹介します。なおこのエッセイでは、生物学的な種として人類を扱うので、「ヒト」という用語を用いることにします。
 過去の生物を調べるとき、化石が非常に重要な素材になります。化石の年代が決まれば、その時代にその生物種が存在していた確かな証拠になります。ただし、生物がいつ出現し、いつ絶滅したかを正確に決めるには、生存を期間を通じで化石が残っている必要があります。
 大量に出る種(例えば、海棲のプランクトンの仲間、貝、葉など)の化石を含む地層もあるので、その生物種がどれくらいの期間継続していたのは、かなり正確に示すことができます。しかし、化石があまりでない種(陸棲の大型動物など)だと、存続期間を決めるのは、なかなか難しい問題となります。
 ヒトの化石は、一部の例外の除いて、産出が非常に少ないので、種の存続期間を決めることは困難です。古いものになるほど、数少ない化石、それも不完全な化石から、その実態や進化の道筋を解き明かすことになります。時間の流れの中で、一つの化石を点として考えると、数少ない不確かで、まばらな点の情報から、ヒトの進化という連続性を考えていかなくてはなりません。
 化石が発見することは、昔ながらの発掘調査になります。現地にいってときには過酷な環境で、長時間の労力をかけて見つけなければなりません。貴重な化石からいろいろな情報を読み取られます。年代を測定する技術、化石の内部を破壊することなく透視したり、3次元的に詳細に計測したりできます。非常に小さな化石の破片からでも、定量的なデータを読みっていくことができます。
 報告されたのは2015年3月ですが、化石は2013年に発見されていました。ですから、報告まで、2年近く時間をかけて調べられてきました。また、発見にどれくらいの労力が払われたのかはわかりませんが、苦労して発掘されたとそうぞうできます。
 産出の少ないヒトの化石では、新しい種の化石がみつかると、ヒトの進化の流れを知る重要な情報になります。その化石が、流れの源流に近いものであれば、その重要性が増していきます。
 今回紹介するヒトの化石は、生物の分類でいうと「属」という体系で見た時、もっとも古いところに位置するというものでした。ヒトの「属」で最古の化石となります。ただし、私たち現世人類の源流に近いのですが、直系の祖先ではないようですが。

・大発見・
外から見た時、ひつとひとつの変化の度合いが小さくて
ほとんと変わっていないようにみえるものが、
積み重なっていくうちに、ある時気づいたら、
かなり変わっていたということあります。
まあ、これはどの研究分野でも同じことがいえるのでしょう。
一方、ひとつの大きな発見によって、
誰もが大きな変化が起こるだろうと思えることもあります。
いわゆる大発見です。
ただし、研究者は、自分の業績を重要だというために
大発見として伝えがちです。
外の人は、そのあたりを冷静に見る必要があります。
ヒトの進化については、化石が少ない割に、
非常に複雑で、いろいろな考えもあります。
ですから、新しい発見があると
進化も大きく道筋も変わることもあります。
今回の発見は、どうでしょうかね。

・気分転換・
このエッセイの発行時には、
大学の入試で出張しています。
少々寒いところへいくことになるので、
天候なので交通機関が遅れることが心配です。
ところで、校務いくのですが、
別の場所に出かけると、それは大いに気分転換になります。
帰ってからまた元気に、仕事に戻れることを願っています。

2016年1月28日木曜日

5_134 113番目の元素 4:命名権

 113番目の元素発見の最後の話題は、元素の命名権についてです。実は命名権争い、あるいは第一発見者の争いがおこなわれていたのです。ライバルは米ソの合同チームでした。理研のチームは、熾烈な競争を勝ち抜きました。

 新しい元素の発見は、日本の研究者だけが取り組んでいる研究だけではありませんでした。他の研究機関でも行われています。最大のライバルは、アメリカ・ロシアの共同研究をしているグループでした。アメリカとロシアの研究グループは、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所、オークリッジ国立研究所、そしてロシアのフレロフ核反応研究所でした。
 彼らの方法は、カルシウム(Ca、原子番号20、質量数48)のビームを用いて、アメリシウム(Am、原子番号95、質量数243)、バークリウム(Bk、原子番号97、質量数249)、カリホルニウム(Cf、原子番号98、質量数249)に照射するというものでした。その結果、115番、117番、118番目の元素を合成ができました。それらの元素が崩壊していく過程で、113番目の元素も見つけたと主張しています。
 米ロ研究グループの合成件数は多いのですが、崩壊過程が、これまで知られている元素になっていません。そのため113番目の元素が、本物かどうかの確証が得られないという問題点がありました。
 一方、日本の理研は、元素の合成件数は少ないのですが、6回のアルファ崩壊と4回のアルファ崩壊と自然崩壊までのすべての手順を確認していることから、確実性はありました。それをもって、理研の研究者たちは、2004年からこれまでに3度合成した「113番元素」を新発見の元素であると主張しました。その結果昨年末に、113番目の元素に対しての命名権が理研に与えられました。
 今まで、元素の発見に関する研究は、すべて欧米のものでしたが、今回はじめて日本が命名権を獲得しました。アジアで初めてのことだそうです。
 命名権を与えられると、元素名とともに、元素記号も提案することになります。今のところ、どちらもまだ決まっていなようですが、野次馬はジャポニウム、リケニウム、ワコニウム、ヤマトニウム、ニシナニウムなどが候補だと囁やいていますが、どうなるでしょうか。
 忍耐を伴った、多大な努力された発見者が、研究の最後のまとめとして、命名をされるので、素晴らしい名称が付けられることと信じます。承認までに、1年ほどかかるそうですが、承認されれば、それが正式に教科書や周期律表に掲載されることになります。その日を期待したいと思います。

・年中行事・
あっという間に1月も終わりそうです。
今年度の後期の講義も終わり、
定期試験のシーズンとなりました。
2月には一般入試に突入します。
日常の仕事に忙殺されているのですが、
年中行事として、このような区切りになるものが
次々とあると、時間区切りが改めて確認できます。
そして、焦りを感じるのですが。

・積雪量・
今年は暖冬がいわれていますが、
先週の大雪で一気に平年を越えた地域もでてきました。
しかし、わが町は、今回の大荒れのゾーンからははずれたようで、
積雪量は例年より、かなり少なくなっています。
先週に少々雪がふったのですが、
それでも、例年よりはかなり少ない積雪となっています。
まあ、ここままの積雪で今年の冬が終わるとは思えませんが、
少ないのは北国の人にとっては助かることです。

2016年1月21日木曜日

5_133 113番目の元素 3:合成3個

 前回、113番目の元素の発見には、最強の装置や独創的な検出装置が必要だということを紹介しました。今回は、発見において、なによりも目標を達成するまでの、たゆまなき努力が必要だっということを紹介します。

 113番目の元素の合成は、2003年9月に、実験が開始されました。加速した亜鉛の粒子(ビーム)をビスマスにあてる(照射といいます)という実験です。1秒間に2.4兆個の亜鉛ビームを、79日間、ビスマスに照射されました。その結果、約50兆回の衝突が起こりました。
 そして、2004年7月23日に、やっと最初の一個ができ、それが113番目の元素であることが確認されました。ただし、その元素の寿命は約1000分の2秒と非常に短いものです。その元素一粒の性質を、調べなければならないのです。非常の困難な作業です。113番目の元素は、崩壊して他の元素に変わっていきます。その時に4回の連続したアルファ崩壊(へリュウムの原子核の放出)が起こります。それを観測していきます
 4回のアルファ崩壊が起こると残った原子核は、原子番号が8小さくなり、質量数が16小さくなります。それは、ドブニウム(Db、原子番号105、質量数262)という元素になります。この原子核も放射性元素なので、時間がたては崩壊します。その崩壊のしかたは、自発核分裂(原子核が分裂すること)か、アルファ崩壊することも知られています。その確率は、自発核分裂が1/3で、アルファ崩壊が2/3程度となっています。自発核分裂をせずに、連続した6回のアルファ崩壊を観測できれば、133番目の元素であるという決定的な証拠となります。
 1回目の発見では、自発核分裂が観測されました。これで、113番目の元素であることがわかりました。しかし、6回のアルファ崩壊ではなかったので、1つの観測では確実性がないので、さらに実験がなされる必要があります。1回目の合成が10ヶ月ほどでできたので、2回目以降の1年以内にみつかるでしょう。そして予想どおり、100日間の照射により、2005年4月2日に2個目がみつまりました。これも、4個のアルファ崩壊の後、ドブニウムの自発核分裂が観測されました。
 研究チームは、この2回の合成で新元素発見の報告をしたのですが、2回では回数が少ないなどの理由で、新元素とするには不十分であるとされました。そのため、3回目の実験が必要になりました。できれば、自発核分裂をせずに、連続した6回のアルファ崩壊を観測したいところです。
 三度目の合成への挑戦が、はじまりました。ところが、3回目の合成まで350日間の照射が必要となりました。最終的に2012年8月12日になって、やっと3個目の合成が起こりました。2回目の合成から6年間、合成ができませんでした。3個目の113番目の元素は、6回のアルファ崩壊が起こりました。これで確実な証拠がでたことになります。
 たった3個の証拠ですが、工夫をこらした大きな装置を用いながらも、大変な苦労の後にできた発見なのです。

・本来の反応・
先日、全国的に大荒れで、
北海道も大雪の予報でしたが
わが町の積雪はそれほどではなく、ホッとしました。
予報がはずれると、少々不満をもってします気持ち持ちます。
私もそうでした。
しかし、予報通りにならなくて安心することが
本来の反応となるべきでしょう。
なぜなら、警告をもらったが
それほどひどくなく過ごせたという結果になったのです。
結果としては、喜ぶべきことでしょう。
このような本来すべき反応とは、逆にものは、
人の本性にかかわっているのでしょう。
しかたがないことかもしれませんが、
本来の反応をするようにはどうすればいいのでしょうか。
教育でしょうかね。

・試験・
センター試験が終わりました。
大学では後期の講義がもうすぐ終わり、
来週から定期試験がはじまります。
続いて2月になったら一般入試がスタートします。
他の私立大学も同じ時期に入試がはじまります。
大学は在学生と新入生のための試験が
並行して行われます。

2016年1月14日木曜日

5_132 113番目の元素 2:最強と独創

 人が達成していないことを新たに成し遂げるには、それなりの装置、時には強力なものが必要になります。ただし、そこには工夫や独創性が不可欠になります。そんな装置を用いて、元素の合成はなされました。

 113番目の元素の合成は、理化学研究所(理研と略されます)でなされました。理研にはいろいろな目的の施設が日本各地あるのですが、今回の発見は、埼玉県和光市にある仁科加加速器研究センターでおこなわれました。
 加速器とは、電荷をもった粒子(イオンの状態の原子核や素粒子など)を放出し、電場や磁場などを利用して、移動させ、加速して、目的の物質にぶつける装置です。粒子の加速には、丸形に加速するサイクロトロンや直線的に加速させる(線形加速器)タイプなどがあります。加速した粒子を、対象とする物質に当てて、反応を人工的に起こすことができます。
 仁科加加速器研究センターの重イオン加速器施設には、RIビームファクトリー(RIBF)と呼ばれるものがあります。RIBFには、何種類かの加速器があります。リング状に加速する装置(RC、IRC、SRC)と直線的に加速する装置(理研重イオン線形加速器RILAC)などがあります。リング状加速装置は、多段階に加速していく装置となっています。最終的な加速をするためのSRCは、世界で最初の装置で、総重量8300トンにもなる世界で最大、最強の装置となっているそうです。これらの装置を用いると、ウランまでのすべての元素で、最大の強度のビーム(加速された粒子)を発生させることができるます。大きな原子同士の粒子の衝突が起こせることになります。
 今回の実験は、113番目の元素をつくるために、原子番号30の亜鉛(Zn)と83番のビスマス(Bi)をぶつけてくっつけば、30+83=113となり、113番目の元素ができることになります。これは2種類の原子核が合体するので、核融合を起こす実験になります。亜鉛のビームをつくって、ビスマスに当てて核融合を起こして113番目の元素をつくるという方法がとられました。
 ところがその核融合の確率は、100兆分の1という小さいものです。ですから、長い時間、ビームを当て続けて核融合を起こし、核融合したものを逃すことなく捉え、元素の種類を調べるという一連の実験をしなければなりません。検出にも、いろいろな工夫が必要になります。
 ビスマスに当たる確率が低いため、大量の亜鉛がビスマスを通り抜けて飛び出してきます。そしてその中に113番目の元素も混じっています。113番目の元素だけを選び取れる装置が必要になります。それが気体充填型反跳分離器(GARIS)と呼ばれているものです。
 ビスマスを通り抜けてきた原子を、磁場で粒子を曲げて分けるのですが、質量と電荷によって曲がり方が決まります。ところが113番目の元素の質量は決まっているのですが、電荷が決まっていません。ですからこの装置だけでは、うまく分けることができません。
 電荷をもった粒子がヘリウムガスの中を進むと、原子の電荷がならされて平均的な値をとることが知られています。1113番目の元素は+11.9になります。GARIを用いて、質量(278)と+11.9の電化をもった粒子だけを取り出せば、目的の元素を分けることができます。
 このような最強の装置を用いて113番目の元素が作り出され、独創的な工夫された検出システムで測定されました。その様子は次回としましょう。

・センター試験・
いよいよ大学は入試の季節になりました。
今週末にセンター試験が行われます。
我が大学は、会場になっています。
教職員は総員体制で望むことになります。
大雪や荒天で試験の開始期が
遅れることがないように毎年、願っています。
しかし、こればかりは、人智を超えています。
ただ、何があっても準備を怠なきようにすること、
もし起こったら対処することです。
これしかありません。

・真冬日・
北海道は1月になってから、
何度も真冬日が訪れています。
真冬日とは、昼間も氷点下のままのことです。
エルニーニョのせいで暖冬だといわれています。
確かに現在のところ、積雪量は例年より少ないです。
大きな道は除雪が行き届い、交通量も多いので、
雪は溶けて走りやすくなっています。
もちろん、暖かい日もあります。
暖かい日のあとに、冷え込みがあると
脇道には雪が残っているので
雪が降らないとアイスバーンになります。
しかし、きっと雪はまだまだ降るのでしょう。
時には大雪も降るのでしょう。
それも受け入れるしかありません。

2016年1月7日木曜日

5_131 113番目の元素 1:人工元素

 明けましておめでとうございます。2105年12月31日に、日本の研究者が発見した元素が、新元素として認定されたという、めでたいニュースが流れました。今年は、この話題からスタートしましょう。新しい元素とは、どのようなもので、どのように発見され、そしてどのように新元素と認定されるのでしょうか。

 すべての元素は、周期律表に示されています。この世を構成している物質すべてが、この周期律表にのっているのです。100個弱の構成物が、この世を作り上げているというのは、単純といえば単純です。
 さて、「水兵リーベ、僕の舟・・・」などという語呂合わせで周期律表を覚えていった記憶を、多くの人はお持ちでしょう。でも、周期律表の下の方になるとあやふやになっていくのではないでしょうか。
 私も、岩石に含まれている元素で、1列から3列あたりから、4列目の亜鉛(Zn)あたりまで分析することあるので覚えています。しかし、それより重い方の元素では、Rb、Sr、Sm、Nd、Pb、U、Thなど、年代測定で分析していた元素の周辺は覚えていますが、それ以外の元素は、はっきりと覚えていません。
 現役の化学の関係者はさておき、かつて元素分析していたものですら、この程度ですから、一般の方は、きっとほとんど記憶から消えていることでしょう。そんな重い元素での日本の科学者が大きな成果をあげました。
 それは113番目の元素の発見です。新しい元素の発見とはいっても、天然には存在しないものです。人工的に合成して新元素であることを確認したということになります。
 天然に存在するもっとも重い元素は、U(ウラン)で原子番号は92番です。61番目のプロメチウム(Pm)とウランより大きな元素は、天然には存在しないことがわかっています。112番目までの元素はすでに合成実験により発見されていました。さらに、原子番号114番目のフレロビウム(Fl)と116番目のリバモリウム(Lv)も発見されていました。ですから、113番目と115番目を飛ばした114個の元素が、これまで確認されていました。
 そして今回、113番目の元素が確認され、そして認定されました。この認定が重要になります。

・不特定一人のあなたへ・
昨年はエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。
本年も引き続きよろしくお願いします。
ただし、このエッセイは、購読を強要するものではなく、
読む人の好奇心に任せています。
宇宙のこと、自然のこと、地球のこと、地質のことなどに
興味を持っていただけたらと思ってお送りしています。
興味がなくなれば、購読を中止して頂いて結構です。
興味を覚えたら登録しただけばいいと思っています。
一人でも、どれかのエッセイに興味を持ってもられる方がおられたら
このエッセイを書き、お送りすることに意義があると思っています。
多数の読者を期待して書くのではなく
「不特定一人」の「あなた」へのエッセイとして
書き続ける気持ちは、今も変わっていません。
よろしければ、本年もお読みいただければと思います。

・こころを認めたい・
今回の重い元素を見つけるために
多大な労力をかけ、エネルギーも資金も投じられています。
大きな成果があると、
すぐに「その研究にどんな意味があるの」などという
質問がよくされのを耳にします。
「意味」のところが、「価値」や「人の役に立つ」などに
変わることもありますが、
たとえノーベル賞受賞者にも同じ質問がなされます。
質問者が求めているのは、
すべて社会や自分たちへの見返りを聞きたいのでしょう。
成果が、直接の自分への見返りがなくても、
見返りがあるという答えを聞くことで安心したいのでしょうか。
確かに多くの研究は、国費を使用しています。
研究は、本当に役にたたねばならないのでしょうか。
私は、役に立たなくても、変な理由をこじつけなくても
単に心の赴くまま、好奇心にしたがって科学してもいいと思います。
芸術も人文科学も社会科学も、営利や打算がない
止むに止まれぬ気持ちでなされているものが
いっぱいあると思います。
そのようなものに、社会への貢献を無理やりひねり出させるのは
純粋な心を汚しているようで、どうも好きなれません。
いつから日本人は、そんな打算的な成果を
「こころ」が生み出される成果に
求めるようになったのでしょうか。
少々残念です。