2002年6月20日木曜日

2_18 2億4500万年前の大絶滅(その2)

 2億4500万年前のP-T境界と呼ばれる古生代と中生代の境界では、無脊椎動物の種の数で、最大で96パーセントが絶滅したと考えられる事件が起こりました。なにか、とんでもない事件がおこったようです。それがどのような事件だったのか、みていきましょう。ここでは、東京大学の磯崎行雄さんたちのグループの研究成果を参考に見ていきます。
 まず、古生代と中生代の境界を調べるには、その時代の地層が必要です。日本でも、数ヶ所で見つかっています。一つはチャートとよばれる陸から遠い海洋でたまった地層です。もう一つは、石灰岩とよばれる岩石です。チャートと同じ陸から遠い海の火山(海山とよばれます)の頂上付近で溜まった現在のサンゴ礁をつくるような岩石です。
 今回は、チャートのみを取り上げましょう。チャートには、どんなことが記録されていたのでしょうか。
 現在のところ、愛知県と岐阜県の県境の犬山地域に分布するチャートに、P-T境界のものが見つかっています。このような地層から、どのようなことがわかるのでしょうか。チャートは、深海にたまったものですから、深海にまでおよぶような事件があれば、記録されているはずです。
 犬山のチャートの大部分は、赤色(正確にはレンガ色)をしています。しかし、P-T境界の地層は、チャートというより、チャート質あるいは珪質泥岩というべきような岩石で、チャートと泥岩の中間的なものです。さらに、、P-T境界部の岩石は、まっ黒の有機物に富む泥岩があり、その周りのものは灰色の珪質泥岩となってあり、さらに離れると、暗黒色から灰色のチャートになり、やがて、赤色のチャートへと連続的に変化しています。その境界部の厚さは、約30mです。
 大部分のチャートの色である赤は、鉄の酸化物の色です。赤鉄鉱(Fe2O3)という鉱物による色です。赤鉄鉱は、酸化的な環境でできる鉱物ですから、当時のチャートの溜まった環境、つまり深海底は、酸素がたくさんあり、鉄を3価まで、酸化させるほどであったことになります。
 ところが、P-T境界の黒色部の地層には、チャートはなく、有機物に富む泥岩になっています。このような岩石は、深海底が還元的な条件になっていたと考えられます。酸化的条件では、有機物は細菌によって分解され、地層に入ることはありません。しかし、還元的環境では、有機物が分解されなかったと考えられます。また、P-T境界付近の黒っぽいチャートには、赤鉄鉱がまったく含まれないで、黄鉄鉱(FeS)という鉄を含む鉱物になっています。
 鉱物の種類や堆積物の性質から、このような岩石は、還元的(酸素の乏しい)環境でできたと考えられます。つまり、犬山地域のチャートができた環境は、赤鉄鉱がたまるような酸素の多い環境であったのに、P-T境界の時期だけ、非常に還元的、つまり酸欠状態になったことを示しています。そして、それは、一時的な現象で、ふたたび酸素の多い、もとの環境にもどっています。
 このような事件は、海洋貧酸素事件とよばれ、過去に似たような事件は何度も起こっています。その継続期間は、100万年を越えることはありません。ところが、P-T境界の事件は、化石の研究から、約2000万年に及んでいて、いちばんの酸欠事件(有機物に富む泥岩)は、1000万年に及んだことがわかりました。磯崎さんは、この酸素欠乏の事件を、超酸素欠乏事件(superanoxia)とよびました。
 P-T境界の時代は、ほとんどの大陸が、パンゲアとよばれる一つ超大陸になっていました。そして、海は一つのパンサラサと呼ばれる一つの超海洋だけでした。有機物に富む泥岩は、その超海洋パンサラサの深海でたまったものです。そんな深海にまで及んだ超酸素欠乏事件は、結果です。なぜそのような事件が起こったのでしょうか。つまり、原因はなんだったんでしょう。謎は深まります。続きは、次回です。